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テーマ : 芸能・音楽・舞台

はな 咲く花と 魅せる華/桜内結う【SPAC俳優 言葉をひらいて㉖】

 花の季節が到来しました。冬の間寒さに耐えた枝にいきなり花を咲かせる梅や桜、コブシにモクレンなどなど。見上げるたびに花を増やして、満開時の圧倒的な美しさには心沸き立ちますよね。

はな
はな
桜内結うさん
桜内結うさん
はな
桜内結うさん

 さて、私は桜内結うと申します。桜の花の見頃は1週間ほどですが、私は舞台俳優として25年目を迎えました。今月からこのコラムを担当させていただきます。どうぞよろしくお願いします。
 私が楽しみにしている春の花は、野に咲く福寿草です。地中で冬を過ごし、まだ寒い日に地面からそっとつぼみを持ち上げて黄色い花を咲かせます。朝はつぼみなのに太陽の光を浴びながら徐々に花を咲かせ、夕方また閉じるという繰り返し。そのゆっくりとした1日の変化を目の当たりにしたくて、つい膝をついてじっと見入ってしまいます。しかも、日に日に茎が伸びて咲き終わりの頃には随分と姿が変わるんです。
 そうそう、「華のある人」という表現がありますが、俳優の華も春の花と似ています。登場と同時に空間全てを自分の色にしてしまう圧倒的な華を持ち合わせて魅せる俳優がいるかと思えば、捉えどころのない雰囲気が気になってのぞき込んでいるうちに魅了されてしまう俳優も。中には両方の華を持ち合わせていて演目や役柄によって切り替えることで、常に異彩を放つ強者も存在します。もちろんSPACにもそうした華を纏[まと]っている俳優がいます。さすがに圧倒タイプは一握りの限られた人ですが、異なる華に出会えるのも舞台の面白さです。
 ところで、長く稽古を重ねれば華を獲得できるのかというとそれはなかなか一筋縄ではいかないものです。それなりに年輪を重ねて「まだつぼみです」とはさすがに言えません。そんな私は「ひと花咲かせよう」という野心ではなく「舞台の上では生き生きと」という想[おも]いを毎回胸に抱いて、本番の舞台に踏み出しています。

 さくらうち・ゆう 愛知県岡崎市出身。2000年に宮城聰(SPAC芸術総監督)主宰の劇団「ク・ナウカ」に入団し、現在はSPACを中心に活動。昨年は「天守物語」「伊豆の踊子」「マハーバーラタ」に出演。

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