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テーマ : 芸能・音楽・舞台

「メガゾーン23」のココ 「現代」を相対的に見る目【アニメ脇役列伝 1980年代編⑬】

 1983年、オリジナルビデオアニメ(OVA)というジャンルが生まれた。これは映画ともテレビとも異なり、映像そのものをファンに直接販売するという新たなビジネスモデルだった。OVAの登場はアニメ産業に新たな可能性をもたらした。
 「メガゾーン23」はOVA初期の代表的作品。80年代半ば(つまり発売当時)の東京を舞台にしたロボットもので、主人公・矢作省吾たち夢を追う若者たちの姿が描かれた。ココは省吾たちのよき理解者である、45歳のバイク屋のオヤジだ。
 物語の中盤で、省吾たちが暮らす“東京”の真実が明かされる。世界の真実を知る軍人・BDはクーデターを起こし、“東京”を脅かす敵と戦うための体制を作り上げる。ラブソングを歌っていたアイドルも、戦時歌謡を歌うようになり、省吾のバイク仲間は「なんちゃって」とおどけながらも志願兵となる。あっという間に戦時色に染まる“東京”。
 それをニガニガしく見ているのがココだ。ココには、省吾のバイク仲間が時代に踊らされているようにしか見えない。これは当時の日本が、軽いノリがもてはやされる一方で、米ソ対立の高まりを背景に、新たな戦争への不安もまた高まっていた時代だったことが反映されたと思われる。そこにはココと年齢的に近い、監督・石黒昇(37年生まれ)と脚本・星山博之(44年生まれ)の思いが投影されていたはずだ。
 ココの存在によって、本作には現代社会を相対的にとらえる視線が加わり、作品に奥行きが生まれた。東京の風景など80年代半ばの時代風俗を写し取った本作が、単なる時代の記録にとどまらない批評性を得たのは、このココの存在によるところが大きい。
 (藤津亮太・アニメ評論家=藤枝市出身)
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 筆者はSBSラジオ「TOROアニメーション総研」(毎週月曜午後7時)出演中。SBS学苑パルシェ校で5月26日に講座「アニメ映画を読む」。テーマは「耳をすませば」。

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