音楽家・詩人 巻上公一さん(熱海市) まばたきごとに世界は変わる【表現者たち】
音楽家で詩人の巻上公一さん(67)=熱海市=が第2詩集「濃厚な虹を跨ぐ」を出した。1978年結成の5人組「ヒカシュー」の歌詞を中心にした72編。ロック、ジャズ、テクノ、現代音楽などジャンルの壁を越えたバンドの音楽性と響き合う言葉の数々が、時に面妖に、時に明快にこだまする。
第1回大岡信賞を得た第1詩集「至高の妄想」(2019年)で、現代詩の作り手としての評価を確固たるものにした。「最初からそういうつもりで(歌詞を)書いている。現代詩との親和性を意識していた」
「濃厚な―」に収録された初期作品を読むと、当時から言葉一つ音節一つでイメージを伸縮しようと試みていたことが理解できる。擬音語、擬態語といったオノマトペの強調は、現在の作風にも通じる。
のっそり ぎっしり 水びたし
運びこんだの
スイカの行進
うっとり ぴくぴく うごきだす
忍び込んだの
スイカの行進
(「スイカの行進」<1980年のアルバム「夏」収録>から)
寺山修司さんをとば口に本格的な詩作を始め、谷川俊太郎さんらに影響を受けた。創作は常に音楽と表裏一体だ。バンドの演奏に合わせて詩を紡ぐ。
「頭をなるべく真っ白にし、出てきた言葉を基に作っていく。即興演奏と一緒。口にした言葉から、次々に言葉が浮かぶ」
音符や「意味」に拘泥することなく、音声で世界を広げる。第2詩集の表題詩も、楽曲は歌詞がない即興ソング。詩集収録にあたり、意味が聞き取れない「声」を、ひらがなを方形に並べた「図形詩」として活字化した。「詩人は独自の反射神経で意味と意味と意味を反復横飛びする」が持論だ。
昨年夏、新潟県の広域アート祭「越後妻有 大地の芸術祭」で、現代美術家イリヤ&エミリア・カバコフの作品をヒントにした「歌」をライブ演奏した。十日町市にあるカバコフの代表作「棚田」を背にした、複合的なアートパフォーマンス。ヒカシュー名義で今年7月にCDの発売を予定する。
「日常っていうのは連続していない。まばたきするたびに世界は変わっていく。いつもそれを表現しようと思っている」