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テーマ : 芸能・音楽・舞台

【追想メモリアル】庶民の心をそっと慰め 歌手/八代亜紀さん(2023年12月30日死去、73歳)

 夜明け前のトラックのラジオからハスキーな歌声が流れる。ハンドルを握る運転手の心を「舟唄」「雨の慕情」などのヒット曲がそっと慰めた。

2010年のデビュー40周年記念公演で歌う八代亜紀さん。「悲しい歌は(聴き手を)落ち込ませるのではなく励ましてくれるもの。幸せを教えてくれる歌なんです」と語っていた=東京都内
2010年のデビュー40周年記念公演で歌う八代亜紀さん。「悲しい歌は(聴き手を)落ち込ませるのではなく励ましてくれるもの。幸せを教えてくれる歌なんです」と語っていた=東京都内

 熊本県八代市生まれ。父は運送会社を経営。10代の頃、会社のトラックに潜り込んで発声練習をしたのが出発点だ。華やかなクラブ歌手に憧れ、中学卒業後に上京した。
 当時、東京・銀座のクラブで、三谷謙の芸名で弾き語りをしていた五木ひろしさんはある日、ママから彼女を紹介された。五木さんのギターに合わせて歌わせると思わず引き込まれた。「巻き舌風のちょっと不良っぽい歌い方。リズム的にはジャズのフィーリングもあって、心地よかった」
 後にレコード大賞などを争うことになる2人だが、その時は彼女を何とか世に送り出そうと、つてをたどって売り込んだ。自身も人気歌手を目指してもがいていた時期。「自分のことはともかく、そんな気持ちにさせる子でした」と懐かしむ。
 1977年、人気映画「トラック野郎」に出演。電飾や絵で飾った“デコトラ”との縁が生まれ、運転手たちから熱い支持が集まるように。デコトラ愛好家の全国組織会長、田島順市さんもその一人。「あの低い声がトラックの音に合ってた」。コンサートにも仲間とデコトラで応援に駆け付けた。「世間ではまだまだ避けられがちだったトラック運転手に普通に接してくれたのは、八代さんぐらい。俺たちも近しいものを感じていた」
 昨年9月、長野県で行われた生前最後の単独公演では、客席で見守る田島さんたちに舞台から感謝を伝えたという。「『ずっと応援してくれてるんだ』って。普段はそこまで話さないのに…。俺らにとっては仲間みたいな感じだったな」。最後まで庶民の心に寄り添った歌手人生だった。

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