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テーマ : 芸能・音楽・舞台

日本文化の粋 最高の結末 「君たちはどう生きるか」 アカデミー賞 「ゴジラ-1.0」 国際化でアニメ、特撮も評価

 宮崎駿監督の「最後の長編」を支えたい-。そんな思いから第一線のクリエーターが集結した「君たちはどう生きるか」が、米アカデミー賞長編アニメーション賞に輝いた。一方、特撮に憧れて映画の道へ進んだ山崎貴監督の「ゴジラ-1・0」も視覚効果賞を受賞。日本の技術の粋を集めた作品が評価された背景には、国際色が強まるアカデミー賞の変化も。国境を超えチャンスが広がる。

映画「君たちはどう生きるか」より
映画「君たちはどう生きるか」より
映画「ゴジラ―1・0」より
映画「ゴジラ―1・0」より
第96回米アカデミー賞の主な受賞作、受賞者
第96回米アカデミー賞の主な受賞作、受賞者
作品賞などを受賞した「オッペンハイマー」のクリストファー・ノーラン監督(右)=10日、米ハリウッド(ロイター=共同)
作品賞などを受賞した「オッペンハイマー」のクリストファー・ノーラン監督(右)=10日、米ハリウッド(ロイター=共同)
映画「君たちはどう生きるか」より
映画「ゴジラ―1・0」より
第96回米アカデミー賞の主な受賞作、受賞者
作品賞などを受賞した「オッペンハイマー」のクリストファー・ノーラン監督(右)=10日、米ハリウッド(ロイター=共同)


 「僕には、もう時間がないんです」。公式資料集によると、宮崎監督は2016年秋、「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」の総作画監督として知られるアニメーターの本田雄さんに新作への参加を懇願した。本田さんは「シン・エヴァンゲリオン劇場版」への参加が決まっていたが取りやめ、「君たちは-」の作画監督に専念すると決めた。

 ▽凄腕がずらり 
 プロデューサーの鈴木敏夫さんは「徹底的に時間とお金をかけて作るべきだと考えた」。本田さんは、意中のアニメーターが別作品にメインスタッフとして関わっていて通常は依頼を諦めるような場合でも、仕事を引き受けてもらうため待つことができたと振り返る。
 原画には、スタジオジブリ出身の米林宏昌さん(「思い出のマーニー」など監督)、安藤雅司さん(「君の名は。」作画監督)ら著名アニメーターがずらり。「作画協力」には、細田守監督の作品で知られる「スタジオ地図」など12社が名を連ねる。「AKIRA」にも携わった原画の井上俊之さんは「これが長編最後の作品と思わなかったら、僕も関わらなかったかもしれない」。

 ▽低予算を称賛 
 「ゴジラ-」の山崎監督は、視覚効果(VFX)の技術者から監督になった異色の経歴を持つ。映像制作会社「白組」でキャリアをスタートさせ、伊丹十三監督作品で映像合成などを担当。2000年に「ジュブナイル」で監督デビューした。
 東宝によると、米アカデミー賞視覚効果賞を監督本人が受賞したのは、1969年にスタンリー・キューブリック監督が「2001年宇宙の旅」で受賞して以来2人目。
 山崎監督は製作費について、正確な数字を明かさないものの「日本では多い方。でもハリウッド大作の10分の1とか」。“コストパフォーマンス”の高さの秘密は、円谷英二監督らの時代から脈々と受け継がれる特撮の手法と、最新のデジタル技術の組み合わせだ。
 米映画誌「ハリウッド・リポーター」は昨年12月の「ゴジラ-」の米公開直後、低予算でゴジラが暴れ回るシーンを「見事」と持ち上げ、ハリウッドのスタジオは「すぐに日本に行って学ぶべきだ」とユーモアを交えて称賛していた。
 米ロサンゼルス在住の映画ジャーナリスト、猿渡由紀さんは「君たちは-」への授賞には、偉大な芸術家として尊敬される宮崎監督が引退を撤回し、集大成的な作品を生み出してくれたことへの感謝が込められていると指摘。「ゴジラ-」には「小規模にもかかわらず、多くの人々を感動させる作品に斬新さを感じたのだと思う」と語る。
 両作の受賞の背景には、アカデミー会員の国際化が進んでいることがあるとみる。「昔より視野が広がり、日本の作り手も得意分野で活躍したらチャンスがある。今回の結果は、そういう希望を与えた」
 (ロサンゼルス、東京共同)

ゴジラ 山崎監督「We did it」(私たちはやった)  【ロサンゼルス共同】「ゴジラ-1.0」。10日(日本時間11日)米アカデミー賞の授賞式で視覚効果賞の受賞作が発表されると、客席から大きな歓声が上がった。
 山崎貴監督ら4人は、金色のゴジラのフィギュアを手に、ゴジラのテーマ曲が流れる中、登壇。山崎監督は「ウィー・ディド・イット(私たちはやった)」と英語で喜びを表した。
 ノミネート時の気持ちをボクシング映画「ロッキー」の主人公に例えて「強大なライバルたちの前でリングに立てたことは既に奇跡」と表現。頂点に立ったことには「ハリウッドが君たちにも挑戦権があることを証明してくれた」と、世界中の視覚効果の作り手らに語りかけた。

ウクライナ激戦地 描いた作品も受賞 「マリウポリの20日間」  【ロサンゼルス共同】10日の米アカデミー賞では、ロシアのウクライナ侵攻で激戦地となった南東部マリウポリを描いた「マリウポリの20日間」が長編ドキュメンタリー賞を受賞した。
 今回の受賞作の監督を務めたAP通信のウクライナ人ビデオジャーナリスト、ムスチスラフ・チェルノフ氏によると、ウクライナ作品のアカデミー賞受賞は初めて。チェルノフ氏は壇上で「この作品を作ることがなければよかったのに。ロシアがウクライナを侵攻しないことと(この映画を)引き換えにできればと望む」と、今も戦渦に巻き込まれている祖国を憂えた。
 ロシアは2022年2月のウクライナ侵攻後間もなく、マリウポリを包囲し、同5月に完全制圧を宣言した。侵攻当初から20日間、現地で取材したチェルノフ氏は「歴史を変えることはできない。だが真実を広め、マリウポリの人々が忘れられないようにすることはできる」と述べた。
 昨年の長編ドキュメンタリー賞受賞作は、ナワリヌイ氏の毒殺未遂事件を追った「ナワリヌイ」。今年の授賞式では、「悪が勝つのは、ひとえに善人が何もしないからだ」というナワリヌイ氏の言葉が紹介された。

「オッペンハイマー」7冠 作品賞、監督賞、主演男優賞…  「オッペンハイマー」が最多7部門に輝いた。原爆開発者の半生を描き、専門用語を用いた難解な場面もあるが、迫力ある映像表現で観客を引き付けた。昨夏の公開以降、全世界の興行収入は10億ドル(約1460億円)に迫る勢いだ。
 「メメント」や「インターステラー」など独創的な映画で話題を呼んできたクリストファー・ノーラン監督の最新作。米国の物理学者オッペンハイマーが第2次世界大戦中、ナチス・ドイツに先駆けて原爆を製造するため、ニューメキシコ州ロスアラモスに有能な科学者たちを集めて研究拠点を作り、開発にまい進する姿を描いた。
 並行して戦後の赤狩りの時代に水爆開発に反対したオッペンハイマーが聴聞会にかけられる様子などを挿入。カラーとモノクロの映像を使い分けて各時代を絡ませ、そこに爆発などの抽象的なイメージを差し挟んだ。一方、原爆の直接的な被害の描写は避けている。
 (ロサンゼルス、東京共同)

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