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テーマ : 芸能・音楽・舞台

くーる【Cool】 台詞憶える俳優の姿勢 阿部一徳【SPAC俳優 言葉をひらいて⑧】

 A (左手の中指で髪を耳にかきあげながら)そうね、よく聞かれるわ、そんなに長い台詞[せりふ]をどうやって憶[おぼ]えるんですかって。

(写真・日置真光)
(写真・日置真光)

 わたしの場合は散歩しながらね、台本を片手にブツブツ言いながら、1日に3~4時間が普通かな。このページのこのあたりっていう写真的な憶え方もするから、台本は変えないことも大事。でもね、結局は「量」。どれだけの時間、台詞と向き合ったかっていうこと。
 稽古が始まるとね、相手によって、空気によって、自由自在に台詞を繰り出さなきゃならないの、毎日毎日。それこそが演技の、稽古の楽しさね。そのためには、台詞を憶える時に、初めから言い方を決めちゃダメ。飴[あめ]玉を口の中で転がすようにね、台詞を唇の先で、口の中で、そして喉で転がすの延々。言葉の意味が無くなるまで。
 たいへんだけど、台詞を憶えるなんて誰も褒めてくれない作業。心の支えになるのは俳優のプライドね。
 B (両腕を広げ)気持ち、ではないんじゃよ。こういう気持ちでこの台詞を言いました、ではなく、こういう「カラダ」でこの台詞を言いました、なんじゃ。
 気持ちみたいな曖昧なものではね、何十ステージも本番を「繰り返す」ことは出来ないんじゃ、舞台は。
 芥川龍之介の「地獄変」でこんな台詞がある。「なんという荘厳、なんという歓喜でございましょう」…想像してみてくれ、この言葉が出てしまうカラダをさ。わしは、この台詞を言う度に涙がこぼれちまうんだ。これが芸術のすごみじゃよ。
 E (苦笑いして)直球の質問だな。人間はこういうものだ、人間はこうあるべきだって決めつけるんじゃなく、人間はこういうものじゃないかって考え続けるのが大切だと思うよ、俺はね。演劇は人間そのものを表現するものだからさ。知ってたかい、50歳から先が俳優として一番おもしろい時期なんだ。待ってるよいつでも、劇場でさ。

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