芸歴5年 温かな笑い届ける 77歳「おばあちゃん」
円熟味で観客を魅了するベテラン芸人は珍しくないが、71歳で吉本興業の養成所に入り、77歳の今、舞台で活躍する女性ピン芸人「おばあちゃん」は極めてユニークな存在だ。2月に喜寿記念公演を開き、3月には初の著作を刊行。追い風に乗ってもマイペースで、ゆったりした口調から温かみのある笑いを幅広い世代に提供している。
2018年、吉本の養成所「NSC東京校」に入学したのは「舞台の基礎を勉強するため」。NSCは入学時の年齢制限を設けておらず、担当者は「年齢で可能性は区切っていない。おばあちゃんの場合はチャレンジを尊重した」としている。
階段を上るときには荷物を持ってもらうなど、同期生の協力を得ながら無事卒業し、19年に芸人登録。オーディションを勝ち抜き、今や東京・神保町よしもと漫才劇場の所属メンバーだ。
同劇場での喜寿記念公演で、おばあちゃんは高齢者の病院通いをテーマに漫談を披露。一つの話題を紹介した後「ここで1句」と自作川柳を読み上げた。健康診断での1こまを詠んだのが「大丈夫 順調ですよ 老化です」。会場は沸き、川柳を書いた短冊を客席に示すと、拍手と一緒にじんわりと共感が広がっていく。ダンスや物まねのコーナーも、できる範囲で懸命に取り組んでいた。
会場全体で盛大に祝ってもらえたのは「おばあちゃんの人柄よ」と、共演したお笑いグループ「ぼる塾」のあんりさん。「(正月に楽屋で)ミカンやお菓子を頂くと、忙しくても実家に帰った気分になる。ありがとう」と声をかけると、おばあちゃんは「皆さん、スタッフのおかげ」と応じた。
後日、おばあちゃんへの取材の機会を得た。舞台同様のゆったりとした話し方の中に「心の強さ」がうかがえた。
戦後のベビーブーム世代。高校進学を希望したが生活は苦しく、親は「女の子は行くことない」と認めなかった。それでも「大学に行きたい」と思い、前を向いた。就職し家庭を築くと、服や美容院に使うお金を貯蓄へ。それが放送大学やNSCの学費になった。大学では、乳がんを患った経験から「乳がん手術後の発汗と下着について」との卒業論文をまとめた。
人のせい、年のせいにしない。若い人と接する際は、知らないことは素直に聞く。「考え方を変えていけば、人生すごく楽しいですよね」
ネタ作りで頼りにする構成作家の山田ナビスコさんは、おばあちゃんの著書「ひまができ 今日も楽しい 生きがいを」(ヨシモトブックス)に「世の中から待ち望まれていた人」と寄せた。今後も山田さんの助言を仰ぎながら「年を取ってできなくなり恥ずかしいと思うことを笑いに変えて開き直りたいんです」。