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テーマ : 芸能・音楽・舞台

きっさこ【喫茶去】 今日は“いいお茶”を 石井萠水【SPAC俳優 言葉をひらいて⑦】 

 喫茶去[きっさこ]という言葉をご存じでしょうか? 禅語で「お茶でもどうぞ」「茶を飲んで去れ」という意味があります。この言葉に関するエピソードはぜひググって(検索して)いただけたらと思いますが、実は私たちSPACは「喫茶去」のお話を演劇として上演したことがあるのです。

きっさこ【喫茶去】
きっさこ【喫茶去】

 主役となるのは高名なお坊さんで、私はその弟子である子坊主の役をつとめ、坊主頭のカツラを被り元気な声で和尚様に絡むという演技で観客の方々に笑っていただきましたが、あれから数年たった今、このコラムを書くにあたって思い至ったことがあります。
 自分の周りの人が良くない状態に陥っていると思ったとき「まあ、お茶でもどうぞ」と声をかけることが私にはできるだろうか? その余裕と信頼を持って人に接しているだろうか?と。
 誰しも勘違いをしてしまったり、悪気無く人を傷つけてしまうようなことはあるもの。しかしそういった事態に直面したとき、相手の間違いを指摘することに躍起になってしまいがちなのは、私だけではないはず。
 また、自分が勘違いをしてしまったときはどうでしょうか? 相手から注意や叱責[しっせき]を受けるのと、お茶を薦められ自己を振り返る機会が与えられるのとでは、どちらが自分の考えを本当に改めることにつながるでしょうか。もちろん前者も大切なことですし、是非は場合にもよります。しかしこのお話の教えには「物事を良い方向へ向かわせる手段のひとつには、人へお茶を薦めるように抽象的な表現で、相手を寛容に受け入れる方法もある」ということが含まれていたのかもと思ったのです。
 私は何か問題が起こったときに、相手にお茶を薦めたことも、薦めてもらったこともありません。なので今日は誰かにお茶を薦める日にしてみようと思います。
 こんな風に時間をかけて人の心に効いてくるのが演劇や芸術の魅力です。みなさん、まあ演劇でもどうぞ!

 いしい・もえみ 浜松市中区出身。2009年よりSPACに参加。俳優のほか、アイドルと演劇のコラボなどイベントのプロデュースも行う。

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