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テーマ : 芸能・音楽・舞台

アカデミー賞7冠 「オッペンハイマー」 天才科学者 逆説と倫理の間で 

 先の米アカデミー賞で作品、監督、主演男優など7部門で栄冠に輝いた「オッペンハイマー」(クリストファー・ノーラン監督)は、「原爆の父」とされる米国の天才科学者の内面に迫る重厚な人間ドラマ。時間軸を交錯させる凝った演出で、一面では捉え切れない人間性を浮かび上がらせる。

抑制の効いた演技で作品を支えた主演のキリアン・マーフィー
抑制の効いた演技で作品を支えた主演のキリアン・マーフィー

 ピュリツァー賞を受賞した評伝を基に、ノーラン監督が脚本も執筆。英ケンブリッジ大学やドイツで物理学を学び、帰国後に原子爆弾開発の中心を担ったロバート・オッペンハイマー(キリアン・マーフィー)が戦後、贖罪[しょくざい]の念から水爆反対の立場に転じ、周囲から糾弾される姿を描く。
 ノーラン監督は、オッペンハイマーの若き日の恋愛遍歴や夫婦愛、原爆開発のプロセス、戦後、共産主義者と目され赤狩りの渦に巻き込まれるさまなどを巧みに組み合わせ、物語を多面的に構築。「とてつもなく破壊的な一連の出来事に巻き込まれたが、正しいと信じた理由のためにそれを成した人物」(ノーラン監督)の内にある「逆説と倫理的なジレンマ」(同)を浮き彫りにする。
 構成は複雑ながら、手際よくエピソードをつなげて、強いメッセージ性を併せ持つ良質の娯楽作に仕上げた手腕は見事。一方で、広島や長崎のリアルな惨状の描写を避けた姿勢には疑問も残る。
 オッペンハイマーの目の前に被爆者の幻影が白日夢のように現れるシーンはあるが、あくまでイメージにとどまり、彼の心に大きな変化をもたらす重大なポイントの描写としては弱い。ノーラン監督の意図が反核や反戦にあるのは明らかなだけに、オッペンハイマーの研究がもたらした悲惨な現実にはより強く踏み込んでほしかった。

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