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テーマ : 芸能・音楽・舞台

「私のモットーは常に『最新が最高』なんです」 弾き語りトラックメイカーアイドル眉村ちあき 唯一無二の音楽、源泉は?

 作詞・作曲、編曲、歌唱、ステージパフォーマンスの全てを高水準でこなす「弾き語りトラックメイカーアイドル」眉村ちあきが30日、浜松市中区のライブハウス「浜松窓枠」でライブを行う。5月に発表した新作アルバム「SAI」のツアー「一切合SAI」の一環。唯一無二の音楽活動の源泉を聞いた。
「自分が目指すアイドルになるためにはアーティスティックな部分をもっと高めないと」と語る眉村ちあき=8月下旬、静岡市駿河区(写真部・二神亨)
 ー「SAI」のツアーは5月から続いています。手応えはどうでしょうか?
 「私のモットーは常に、『最新が最高』なんです。だから、毎回のライブも『めちゃくちゃ更新しているな』という感じがあります。最新のライブが、今までで一番いいライブ。でも、主観と客観が違うのも分かっているから、各地のおいしい物を食べに行きつつ、スタッフさんに『外から見てどうだった』と聞いて、次に生かすようにもしています」
 ースタッフからは、どういう言葉が返ってくるんですか?
 「例えば『5、6曲目の間がもうちょっとあった方がいいかもしれない』とか。細かい意見がもらえるんです。『むっちゃ良かった』って言ってもらえる日もあるし」
 ー今回のツアーでつかんだものって何かありますか?
 「音の中を泳ぐ感覚になることが何回かあって。これは今までにない感覚なんです。一皮むけたのではないかと思いますね。この感覚を毎回出せるアーティストになりたい。ツアーが終わった暁には、すごいバタフライをしていると思います」
 ー今回のツアーは一人だけのステージですか? 自分で作ったトラックに、上物としてギターと声をのせるというのが基本フォーマットでしょうか?
 「ギターだけでなく、キーボードを弾いたり、ドラムをたたいたりもしています。(新作に)『十二支のアマゾン』っていう曲があって、12展開するこの楽曲の目まぐるしさを表すために挑戦してみようかと。ギターもアコギとエレキの持ち替えも。展開の多さをパフォーマンスでも表現できたらと。ライブでキーボードやドラムを演奏するのは初めての試みです」
 ―「十二支のアマゾン」を演奏するんですか! 組曲とも言える、とても複雑な楽曲ですよね。テンポの上げ下げもあるし、最終局面でオペラ的な歌唱になる。ヒップホップ的なパートもあって。ライブで表現するのがとても難しそうです。
 「でも、自分はあんまり難しいと思ったことがなくて。展開が多い曲だけど、それぞれが別々に聴こえないように作ってあるんです。切り替わるときにリズムとコードが全部一気に変わると、楽曲のトレ―ラー(予告)を聴いているような感じになっちゃいますよね。『別の曲が急に始まったけど、何?』みたいな。だから、そうならないように、一つの楽曲として成立させるために、いろいろとバランスを測りながら作りました。例えば(ある展開では)リズムの取り方がハーフになっただけだったりするんです。やっている側としては、皆さんが思っているほど切り替わりが激しいわけではないです。練習すればみんなできるんじゃないかな(笑)」
 ―そうは言っても、演奏の形態だけでなく、歌い方もさまざまな方法論を試していらっしゃる。ライブで歌う上でプレッシャーはないんですか?
 「全然ないですね。それこそ歌い方を切り替えていくのが楽しいというか。遊んでる、みたいな」
 ―活動全体を通じて、そういうニュアンスありますもんね。
 「そうですね。こんなに楽しく仕事していていいのだろうか、という。こういう取材も『やったー』という感じだし。楽しいです」
 ―「十二支のアマゾン」という楽曲そのものが、眉村さんの眉村さんたる何かを表現しているような気もしますね。
 「情緒不安定だし、喜怒哀楽も激しいので(笑)。ぴったりだなと思います」
 ―浜松窓枠は昨年4月にも演奏している会場ですね。ツアー途中で体調を悪化させて一時中断し、ここからスタート、というタイミングでした。
 「あの時は関西のライブを飛ばしてしまって申し訳なくて。もう生きている意味あるの、っていうぐらいまでいっちゃった。みんなが期待していたライブをやらないっていうのが、とてもひどいことに思えて。『どんな顔で(ファンの)みんなと会ったらいいんだろう』というのがすごくありましたね。でも、ステージに出たらみんなが『お帰り』とやってくれて、幸せでした」
 ー体調はいかがでしたか?
 「まだちょっとせきが出る状態だったんです。いっぱい息を吸ったらせきが出るけれど、いっぱい吸わないとでっかい声は出ないし、音が伸ばせない。だから『せきをしないことに集中しなきゃ』って。だけど、私はこれだけ集中力を高められるんだというのが分かって。なぜか今までより歌がうまくなったような感じでした。これまでよりもっともっと集中できるっていうことに気づきました」
 ―改めて、今回の浜松窓枠は、どんなライブになりそうですか。
 「前回はいろんな意味で心に残る浜松窓枠でした。前回のアルバム(『ima』)はコロナ禍に作った曲も多くて、お部屋の中で寄り添う曲もありましたが、『SAI』はライブ前提で作った曲もあるので、全く違う内容になるんじゃないでしょうか。『十二支のアマゾン』も必見です」


 ―眉村さんはこれまで、新曲を作ってライブで披露して、というサイクルでキャリアを積み重ねていらっしゃいました。コロナ禍と言われたここ2、3年は不自由な活動を強いられたのではないですか。
 「確かに、今まではライブのことだけを考えて曲を作っていたんですね。盛り上がるかな、(聴き手が)うれしいかなという点を重視していました。でも、ここ3年はライブで演奏できるかどうかわからない曲を制作する必要が生まれた。ライブを視野に入れずに、音源として部屋の中で聴き手に寄り添える曲とか。作品作りの楽しみ方の幅が広がったと思います」
 ―「弾き語りトラックメーカーアイドル」を標榜(ひょうぼう)していらっしゃいますが、三つの役割のバランスも変わったのではないですか。
 「自分としては、最初からトラックメーカーの部分が大きいんです。ほかの人の曲を聴いても『このトラック、大変だっただろうな』とか『ここまで細かいことをやらなきゃいけないんだ』と思わせられることが多々あります。私の目指すアイドル像は『登場しただけで失神させる』っていうところなんですよ。でもまだ、私が登場しただけでは失神した人はいなくて。『生きているだけでありがたい』と思うのが、アイドルを『推す』気持ちだから、そのフェーズにまで行かなきゃいけない。でも、まだ行けていない。そういう意味で、アイドルになるためにはもっとアーティスティックな部分を高めないと、と思っているんです」
 ―楽曲のバリエーションが豊かな「SAI」ですが、特にもろヒップホップの「浜で聴くチューン」がとてもカッコいいですね。TACOS BEATS(タコスビーツ)さんがビートを作っていらっしゃいますが、どういう出会いだったのですか?
 「(東京)四谷のライブハウス『ハートメンスタジオ』に出た時に、音響をやっていたのがタコスビーツさんだったんですよ。そのライブハウス所属のアイドルグループの曲を作っていらっしゃった。こんなにカッコいいトラックを作る人がいるんだって思いました。憧れの人だったんですよ」
 ―今回の楽曲制作に至る経緯は?
 「ずっと手の届かない人だったんです。当時、(共演者の)『対バン』はオリジナル曲をやっている人が少なくて、(私の曲は)誰も聴いてくれないかもって心が折れそうになっていたんです。でも、タコスビーツさんは『このまま曲を作り続けていれば、きっと大きくなれる』ってずっと言ってくれていた。そうしたら、ちょっとずつお客さんがつくようになって、メジャーデビューもできて。そんなある日、タコスビーツさんが新しいスタジオを作ったからって遊びに行ったんです。その場のノリで一緒に曲を作りました。それがこれです」
 ―眉村さんの楽曲ではラップも多用されます。メロディーが付いているときと、言葉のあてはめ方は違いますか?
 「一緒ですね。もともと私は(トラックの)ループでいろんなメロディーを生み出すのが得意なんです。コードが変わらないとメロディーを変えられないという人がいるけれど、わたしは逆。ループが永遠に続いても、違うメロディーが出せる」
 ―ヒップホップの楽曲がありつつ、メロコアやパンクっぽい曲もある。今回の作品は、曲順や全体の構成は制作前から考えているんですか?
 「バーっと(曲を)作って、その後並べ替えるということをずっとやっていて、今回もそんな感じですね。子供の成長アルバムみたいな感じで。一番新しい眉村さんはこんな感じなんやなって見てもらえれば。でも、次からは(曲の)順番とか考えながら曲作りしてみたり、コンセプトアルバムを作ってみたりしようかな。『全部出しでーす』みたいなアルバムは、今回が最後かもしれません」

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