教育文化部 橋爪充
はしづめ・みつる 1969年、カナダ生まれ。都内IT系出版社を経て2008年入社。ノイズ音楽から梅酒づくりまで、「文化」と名のつくものは全て取材対象。ヒップホップ、フットサル、曽宮一念さん、ヒカシュー、しずおか連詩の会、ラブライブ!サンシャイン!!、コーエン兄弟を好みます。クラフトビール愛好歴18年。ブラジリアン柔術青帯。
-
人口4300人 徳島・神山町の地域おこし紹介 藤枝で11日イベント
人口約4300人の山村であるにもかかわらず、ユニークな地方創生プロジェクトを次々打ち出して全国から注目を集める徳島県神山町の取り組みを、ドキュメンタリー映画と地域おこしの当事者のトークで紹介するイベントが11日午後1時半から、藤枝市本郷の藤の瀬会館で開かれる。 同町は芸術家を招いた1999年のアーティスト・イン・レジデンスを端緒に、農業の未来を作るフードハブプロジェクト、地元高校で実施する「神山創造学」など独創的な活動を続けている。 イベントでは同町の暮らしを描いた「ある日森で」を上映し、「神山つなぐ公社」に在籍する田中泰子さんが講演する。映画の川口泰吾監督(沼津市出身)、藤枝市地域おこ
-
舞台と客席 “共振”の会話劇/劇作家・演出家 山田裕幸さん(藤枝市)【表現者たち】
「それでね、駅前の居酒屋に寄ったんですよ」。5月中旬、藤枝市の「白子ノ劇場」で上演された劇団「ユニークポイント」の「4fish」は、装飾が何もないせりふで始まった。テーブルを囲んで、高校教師が4人。それぞれが顧問を務める演劇部の作品について、生徒の感想を交えて議論する。 県大会の出場1校を決める話し合い。時間の経過に伴い変化する互いの同意、反目、共感、違和感がありありと浮かぶ。作・演出で同劇団を主宰する山田裕幸さん(51)=同市=の会話劇は、「揺れ動くその場の空気」を、正確に客席へ届ける。どう演出しているのか。 「会話のリズムが重要。テンポが悪いと思ったら、現場で一部のせりふをカットする
-
作家の“命題”菊池寛に共感 門井慶喜さん「文豪、社長になる」
日本の郵便制度を設計した前島密を描く静岡新聞本紙連載小説「ゆうびんの父」を執筆中の直木賞作家門井慶喜さんが、駿府博物館(静岡市駿河区)で個展を開催中の画家山田ケンジさんとの対談企画で本社を訪れた。インタビューに応じた門井さんが、出版社「文芸春秋」の創設者で作家の菊池寛を題材にした新刊「文豪、社長になる」の背景を語った。 伊藤博文が主人公の「シュンスケ!」(2013年)を皮切りに、宮沢賢治の父政次郎にスポットを当てた直木賞受賞作「銀河鉄道の父」(18年)をはじめ、歴史小説を次々発表している。「文豪―」は、外部の要請を受けた人選。初めての試みだったという。 「文芸春秋から、100周年に合わせ
-
静岡醸造(静岡市駿河区) 魅力的な地に根を下ろす ラガーの奥深さを追求【クラフトビール群雄割拠 静岡/山梨/長野/新潟⑨】
静岡、山梨、長野、新潟4県の県紙がリレー形式で地元のクラフトビールを紹介する連載企画「クラフトビール群雄割拠」の第9回。3巡目の第1弾は、昨年6月に静岡市内に開業した「静岡醸造」を静岡新聞が取り上げる。 県外出身者が静岡のクラフトビールの魅力に触れ、静岡に根を下ろしてビール醸造を志す―。県内ではこうした事例が相次いでいる。2022年6月に醸造を開始した「静岡醸造」の福山康大代表(33)もその一人。青森県から移り住み、「ラガー」と「IPA」に特化した醸造所を実現させた。 県立大国際関係学部入学後、ベルギーやアイルランドの輸入ビールを入り口に、その多様性に触れた。1年間のスペイン留学で欧州の
-
優美なデザインの防火建築帯 「沼津アーケード名店街」編③【アートのほそ道】
1953年12月に西側が、54年11月に東側が完成した「沼津アーケード名店街」(沼津市町方町)の、2階以上が歩道に突出する「有階アーケード」は、全国でも類のない建築方式だった。沼津市誌(61年)には「沼津の一名所となり、四季を通じて各地から視察に来る特異建築となった」と記されている。 設計は当時建設工学研究会に所属していた建築家の池辺陽(20~79年)、今泉善一(11~85年)だった。設計段階での沼津との縁は不明。池辺は以後、沼津での仕事を請け負っており沼津産業会館(53年)、沼津公会堂(55年)の設計者としても名を残す。後に東京大鹿児島宇宙空間観測所施設など大規模建築も手がける池辺だが、
-
日常の共通性作品の枠に 静岡県とタイの共同演劇、御殿場で7月
静岡県とタイの劇作家による共同演劇プロジェクト「パラレル・ノーマリティーズ」の作品が7月、タイ・バンコクの北約500キロに位置するダーンサーイ市のアート祭で上演される。2000年から続く同プロジェクトの作品が近くお披露目されるのを前に、日タイの制作関係者が御殿場市でトークイベントを開いた。 作品は劇作家石神夏希さん(静岡市葵区)が17年に京都府舞鶴市で制作した「青に会う」を基盤とする。「青」という名の女性が、同市のあちこちを実際に訪ねて人々と交流する14日連続の演劇で、写真家鈴木竜一朗さん(御殿場市)が本人役で出演した。7月の上演は、舞台をダーンサーイ市に移し、タイの劇作家ナッタモン・プレ
-
“家康ビール”完成 久能山東照宮などゆかりの地から酵母 産学官連携「静岡の代表格に」
静岡大の文理融合研究組織「発酵とサステナブルな地域社会研究所」(所長・大原志麻人文社会科学部教授)と、静岡市や静岡商工会議所などでつくる大河ドラマ「どうする家康」の活用推進協議会が開発を進めていた、徳川家康にちなんだクラフトビールがこのほど完成した。 市内で醸造したビール3種は、アオイブリューイング(葵区)のゴールデンエール、静岡醸造(駿河区)のユズラガー、ホースヘッドラブズ(清水区)のペールエール。駿府城公園や久能山東照宮など家康ゆかりの地に生える植物から酵母を取り出し、発酵能力が高いものを選んで使用した。 大河ドラマを契機に観光消費に資する商材を官民一体で創出しようと、昨年秋に始まっ
-
ろうそくが彩る舞台に感慨 中納良恵さん 熱い景色バトンつなぐ【音楽に包まれて 頂-ITADAKI-名場面㊦】
2日間で20組以上が出演する野外音楽フェスティバル「頂」には、1日1組しか使わない特別な舞台がある。数百本のろうそくが彩る「キャンドルステージ」だ。バンド「エゴ・ラッピン」のボーカリスト中納良恵さんは2019年の出演を「特別に美しい景色だった」と振り返る。 ギタリストの森雅樹さんと2人だけのアコースティックセット。夜のとばりが下りる中、ヒット曲をしっとりと歌い上げた。 「ステージの前に小さな池があって、水面に光が映っている。神々しさすら感じました。炎の熱も記憶しています。素晴らしい空間で歌わせてもらいました」 08年開始の「頂」にはソロ名義も含めて過去7回出演している。同フェスの前身と
-
静フィル、リハーサルに熱 6月3日静岡・葵区で定演
1977年の創設後、静岡市民を中心に活動を続ける静岡フィルハーモニー管弦楽団(静フィル)が6月3日、同市葵区の静岡市民文化会館で第46回定期演奏会を開く。本番を前にした5月23日夜、同区の静岡音楽館AOI講堂で約80人が熱を込めてリハーサルを行った。 指揮に佐々木新平さん(ヤマハ吹奏楽団常任指揮者)、ソリストに鈴木舞さん(バイオリン)を迎え、チャイコフスキー作曲「バイオリン協奏曲ニ長調」のテンポや音の強弱など細部を確認した。 佐々木さんは同曲について「バイオリニストの技術を余すところなく表現できる」と解説。その一方、オーケストラについても「ソリストに寄り添うだけでなく、自ら発信することが
-
自分史を脚本化、演技で表現 中高生の実体験を音楽劇に 静岡市葵区のカンパニー・ナイン 27、28日初公演
静岡県内在住の中学・高校生を演じ手に据え、それぞれの実体験や思考を脚本や音楽に入れ込む演劇プロジェクト「カンパニー・ナイン」(静岡市葵区)が27、28の両日、同区の「MIRAIEリアン」で第1回公演を行う。21日夜、公演会場での稽古を行い、幕開けに向けて出演者と制作陣が気持ちを高め合った。 初演目はオリジナルミュージカルで「STAGE!」と題した群像劇。演出家田中奏さん(36)=同区=が、公募で集まった中高生10人が語る自分史から印象的なエピソードをすくい上げ、脚本化した。家族、夢、友達、生死、喜び、悲しみ―。さまざまな逸話が1本の作品に結実した。田中さんの盟友で、劇団四季でも活躍したア
-
交通事故の後遺症から復帰 GOMAさん 演奏活動再出発の場所【音楽に包まれて 頂ーITADAKIー名場面㊤】
6月3、4両日に吉田町で開かれる野外音楽フェスティバル「頂―ITADAKI―」(静岡新聞社・静岡放送など共催)は、2008年初開催。新型コロナウイルス禍で中止した20、21年を除き、毎夏開催が定着している。主催者や制作陣の多くが地元在住の「ローカルフェス」として、国内屈指の歴史がある。出演常連の音楽家に、過去のステージで体感した「名場面」を語ってもらった。 ◇ オーストラリア先住民の木管楽器「ディジュリドゥ」の奏者GOMA[ゴマ]さんは、初開催からほぼ毎年出演する。「2回目の音楽人生が始まった場所」と語るのが11年の「頂」だ。 09年11月の交通事故で外傷性脳損傷と診断され、記
-
音楽家・詩人 巻上公一さん(熱海市) まばたきごとに世界は変わる【表現者たち】
音楽家で詩人の巻上公一さん(67)=熱海市=が第2詩集「濃厚な虹を跨ぐ」を出した。1978年結成の5人組「ヒカシュー」の歌詞を中心にした72編。ロック、ジャズ、テクノ、現代音楽などジャンルの壁を越えたバンドの音楽性と響き合う言葉の数々が、時に面妖に、時に明快にこだまする。 第1回大岡信賞を得た第1詩集「至高の妄想」(2019年)で、現代詩の作り手としての評価を確固たるものにした。「最初からそういうつもりで(歌詞を)書いている。現代詩との親和性を意識していた」 「濃厚な―」に収録された初期作品を読むと、当時から言葉一つ音節一つでイメージを伸縮しようと試みていたことが理解できる。擬音語、擬態
-
鍵盤楽器奏者、ADAM at 「DJ」名義で初アルバム “六者六様”リミックス
SBSラジオ「ADAM[アダム] at[アット]の詞がないラジオ」のパーソナリティーを務める鍵盤楽器奏者ADAM at(磐田市)が、サイドプロジェクト「DJ ADAM at」名義の初アルバム「百物語」を発表した。 2017年から続く同プロジェクトは、バンド形式で演奏している楽曲を電子音楽として再構築し、DJ機器を使ってノンストップで聴かせるライブ形式。「ADAM atはジャズに分類されることが多いけれど、DJ ADAM atはクラブミュージックに近い感覚。(低音打楽器の)“四つ打ち”で同じ展開を繰り返し、音の抜き差しを考えます。お酒を飲んで踊るのにいいと思って」
-
演劇、ダンス…舞台は街 「ストレンジシード静岡」開幕 6日まで
静岡市の中心市街地で繰り広げるパフォーミングアーツの祭典「ストレンジシード静岡」が4日、同市葵区の駿府城公園などで開幕した。6日まで、海外からの参加を含む計12組が同公園内外の8カ所で演劇やダンスを披露する。 フェスティバルディレクターのウォーリー木下さん作・演出による「χορός/コロス」では、公募に応じた約70人による群舞。人間と、人間が形成する集団の心理や行動をダイナミックに演じた。18台のベッドを同公園中央の広場に持ち込み、海を行く船や地震発生の装置としても用いた。 京都が拠点の劇団「安住の地」は仏教絵画の「九相図[くそうず]」をテー
-
「うさぎのみみっく!!」 ボカロPと初アルバム 井出ちよの(富士出身)所属
富士市出身のアイドル井出ちよの(21)が所属する4人組「うさぎのみみっく!!」が初アルバム「ムーンライトストリート」を発表した。音声合成ソフトを使って楽曲を発表する「ボカロP」のInagi[いなぎ]が、多様な音楽スタイルを駆使したポップな10曲を提供。軽やかさと深さが同居する作品に仕上がった。 富士山のご当地アイドルプロジェクト「3776[みななろ]」のメンバーとしても活動する井出。「うさぎの―」には2018年に加わった。メンバー変更を乗り越えて、ようやく初アルバム発表にたどり着いた。 「『うさぎの―』は、かわいさにパラメーターを振っている。3776とはコンセプト、楽曲が全然違っていて、
-
柱なし「片持ち梁」構造 「沼津アーケード名店街」編②【アートのほそ道】
「沼津アーケード名店街」(沼津市町方町)の「有階アーケード」を歩くと、歩道の上の居住スペースを支える柱が少ないことに気づく。 工期前半の1953年12月に完成した南西部分の「第1ブロック」は、特に分かりやすい。全長約70メートルに1872年創業の「水口園茶店」をはじめ13店舗分のスペースが連なるが、車道側には柱が一本もない。非常に大胆な建築デザインだ。 県ヘリテージセンター長で1級建築士の塩見寛さん(70)=同市=は「カンチレバーで造られている」と解説する。片持ち梁[ばり]と和訳される構造で、梁の一方が固定され、反対側は固定されない。開放的な歩道を造るために採用したとみられる。 有階ア
-
名人戦の大盤解説 男女棋士 丁々発止 静岡・浮月楼
静岡市葵区の料亭「浮月楼」で開かれた将棋の第81期名人戦7番勝負第2局の関連企画として、同市の実行委員会が27日、同じ会場で大盤解説会を開いた。男女棋士5人が、渡辺明名人、藤井聡太六冠の指し手の意図や形勢を説明した。 木村一基九段(49)、佐々木勇気八段(28)、飯塚祐紀七段(54)、貞升南女流二段(37)、脇田菜々子女流初段(26)が二人一組で次々登壇し、丁々発止のやりとりを見せた。過去の名人戦の逸話、タイトル戦に臨む棋士の心理状態にも触れ、会場を沸かせた。 約140人が集った。最前列で約5時間半耳を傾けた戸塚貴美江さん(58)=同市葵区=は「2020年から将棋を観戦している。今日はゆ
-
渡辺名人と藤井六冠 名人戦へ決意表明 静岡の浮月楼で前夜祭
将棋の第81期名人戦7番勝負第2局(日本将棋連盟など主催、静岡市など共催)の前夜祭が26日、静岡市葵区の料亭「浮月楼」で開かれた。渡辺明名人(39)と、名人初挑戦の藤井聡太六冠(20)=竜王・王位・叡王・棋王・王将・棋聖=が、27、28の両日の対局に向けて決意を述べた。 渡辺名人は東京都文京区で5、6の両日行われた第1局について「負けはしたが密度の濃い、充実した時間を過ごせた」と振り返り、「あしたからも自分自身が満足できる将棋を指したい」と意気込みを示した。 藤井六冠は「第1局は、名人戦の舞台に立てる喜びを強く感じた」と笑顔を見せた。「(第2局も)同じ気持ちを持って、盤上に集中したい」
-
浜田省吾の“伝説”映像作品に 浜松で先行上映 関係者登壇
シンガー・ソングライター浜田省吾が1988年8月20日に浜松市の「渚園」で行った野外ライブ「A PLACE IN THE SUN」の映像作品が、5月5日から27日まで各地の劇場で上映される。全国公開を前に、浜松市中区の「TOHOシネマズ浜松」で先行上映会が開かれ、同ライブに関わった音楽評論家田家秀樹、岩熊信彦プロデューサーが会場で目にした風景を語った。 ライブには5万5千人が集まった。田家は「日本の野外コンサートのエポックメイキング。70年代はオムニバスが主流で、これだけ大きなソロ公演は初めてだった」と説明。「空が美しい、海がきれいと感じていたが、映画になる日が来るとは夢にも思わなかった」
-
FUJI&SUN’23 ASIAN KUNG-FU GENERATION 後藤正文 地元、温かな気持ちで
富士山の麓でキャンプしながら音楽を楽しむ野外フェスティバル「FUJI&SUN‘23」が5月13、14の両日、富士市の「富士山こどもの国」で開かれる。2日目の最後に演奏する4人組バンド「ASIAN KUNG―FU GENERATION」(アジアン・カンフー・ジェネレーション、以下アジカン)のボーカリストでギタリストの後藤正文(島田市出身)に、自身の“フェス観”、地元フェス出演への思いを語ってもらった。 アジカンの結成は1996年で、国内の野外フェスの草分けとされる「フジロックフェスティバル」の初開催は97年。メジャーデビューした2003年に同フェスに初出
-
上層階 突き出し「屋根」に 「沼津アーケード名店街」編①【アートのほそ道】
JR沼津駅と沼津港の間に位置する「沼津アーケード名店街」。日本の建築史にその名を残す長さ約250メートルの商店街は2022年に再開発が決まり、24年には解体が始まる。 2階以上が突き出して1階部分の屋根の役目を果たす、全国でも珍しい「有階アーケード」、角に丸みを持たせた優美な壁面、水平のラインを強調したガラスサッシのファサード―。まもなく姿を消す昭和20年代の名建築を惜しみ、静岡県内外から建築愛好家らが訪れている。 1953(昭和28)年12月に商店街西側、翌54(昭和29)年11月に東側が完成。戦後復興の中で鉄筋コンクリートの「防火建築帯」としてつくられた。都市の不燃化運動の先駆けと
-
旧工場 飛び交う新思考 アートスペース「DHARMA沼津」
旧印刷工場をアートスペースとして再生した沼津市市場町のDHARMA[ダルマ]沼津で、公募型作品展「市場町アートフェス2023」が開かれている。同所を拠点とするアーティスト集団「EN」のメンバーらが参加。自由な発想による約30点が、既成概念からの飛翔[ひしょう]を競う。 2階会場には井口貴夫さん(伊勢原市)の「水面[みなも]」シリーズ3点が並ぶ。赤や黄の鮮やかな、少しにじんだ背景と、黒やオレンジの舞うような曲線のコントラスト。絵の具をしたたらせるドリッピング技法に見えるが「ケチャップの容器に絵の具を入れてストロークした」という。小さな正方形に、ピントが定まらない世界と、輪郭がはっきりした線を
-
アウトドアブームの火付け役 アニメ作品「ゆるキャン△」 原作者のあfろさん(浜松市出身)インタビュー【しずおかアウトドアファン】
静岡県や山梨県を舞台に、キャンプが好きな女子高校生5人の日常を描いたアニメ作品「ゆるキャン△」は、アウトドアブームの火付け役の一つとされる。漫画原作者のあfろさん(浜松市出身)に、創作の端緒や描写の工夫を聞いた。 漫画の連載開始は2015年。現在のようなアウトドア人気の高まりはなかったが、自身の興味関心を出発点に「女子高校生とキャンプ」というテーマにたどり着いた。 「前に連載していた2作はSFだったので、編集担当との打ち合わせで次は日常の話をやろうということになりました。たまたまキャンプが趣味だったので題材にしたんです。夏ではなく冬を舞台にしたのは、落ち着いた話が描きたかったから。虫が
-
詩人・水沢なおさん(長泉出身) 初の小説集「うみみたい」 言葉に導かれ 見つめる「生殖」
中原中也賞詩人の水沢なおさん(長泉町出身)が、初の小説集「うみみたい」を発表した。雑誌「文芸」2022年冬季号掲載の表題作を含めた全4編は、生き物の「生殖」に対する崇敬、畏怖、葛藤がテーマ。デビュー時から研ぎ澄ませてきた代名詞的モチーフだ。 表題作は美術大を卒業し、同居してそれぞれ創作に励む女性2人、「うみ」と「みみ」が主人公。昆虫や両生類の繁殖施設「孵化[ふか]コーポ」でアルバイトするうみは、生き物の増殖に美を感じるが、自分の恋愛には及び腰。「異性と性行為をすることでふえていく自分のことを思うと、目の前が真っ暗になる」。一方のみみは「ひとがひとをうむってことが、人間のすることのなかで一番
-
5月13、14日「FUJI&SUN’23」 音楽もキャンプも全部楽しむ DJ・TOPDOCAさんインタビュー
富士山の麓でキャンプと音楽、各種野外活動を楽しむフェスティバル「FUJI&SUN’23」が5月13、14の両日、富士市の「富士山こどもの国」で開かれる。2019年の初開催以降毎回出演しているDJのTOP DOCA(トップ・ドカ)さん(46)=富士市=に、同フェスの特徴を語ってもらった。 いろんなフェスに行きますが、こんなにアットホームな雰囲気の会場は珍しいです。「フェス慣れ」していない子連れの方もかなりいらっしゃる。音楽とがっつり向き合う、というよりキャンプや遊び、ロケーションを全部楽しもう、というお客さんが多いのではないでしょうか。 会場では、メインステージの背後にドンと
-
即興英語討論、高校生が激論 団体戦に静岡県5校参加 都内で全国大会
小中高校の英語の新学習指導要領では、これまで「4技能」の一つとされていた「話す」が「発表」「やり取り」の2領域に分かれた。英語によるディベート(討論)のニーズが高まる中、高校年代では2012年から、即興で論を戦わせる「パーラメンタリー・ディベート」の全国大会(日本高校生パーラメンタリーディベート連盟など主催)が開催されている。3月末、本県代表も出場した第12回大会の会場をのぞいた。(学年は当時) 各校3人でチームを構成する団体戦。東京・オリンピック記念青少年総合センターに21都府県の47校が集った。静岡県からは藤枝明誠、三島北、浜松開誠館、浜松江之島、清水東が参加した。 1日4試合の初日
-
静岡人インタビュー「この人」 帰国後10周年公演を終えたフルート奏者 青島由佳さん(静岡市駿河区)
欧州留学から帰国して10周年を記念したコンサートを、故郷の静岡市で開いた。17~18世紀の欧州で聴かれた「バロック音楽」の魅力を伝える活動に心血を注ぐ。県内では希少な、古楽器「バロック・フルート」の使い手としても知られる。静岡東高出。40歳。 -本年は「バロック・ダンス」をテーマにして各種活動を展開。最終公演を終えての心境は。 「(フルート奏者の)前田りり子さんを講師に招いたワークショップ(WS)を年間3回行い、2月のコンサートはその集大成だった。イベントを立て続けに実施した1年の締めくくり。温かい雰囲気の中、充実した演奏ができた」 -舞踏を主題にした理由は。 「当時の音楽とは切り離
-
静岡新聞連載小説「家康」8巻刊行 新しい戦国史観 構築 作家・安部龍太郎さん
作家安部龍太郎さんが徳川家康の生涯を描いた本紙連載小説「家康」の単行本第8巻「家康(八)明国征服計画」が出た。ライフワークを自認する作品はこれが「折り返し地点」。前期の「完」とした。天下統一を果たした豊臣秀吉に臣従する家康は熟慮を重ね、苦悩を深める。「新しい家康像」構築に心血を注ぐ安部さんに創作の背景を聞いた。 最新刊は秀吉の招きに応じた後陽成天皇の聚楽第行幸(1588年)から朝鮮出兵(92年~)までの時代を描く。 「北条家を討った小田原征伐をへて江戸城に入場した家康は、進軍する豊臣軍の東北地方征討の大将格に任じられる。大きな転機となった」 そうした中、秀吉の明国征服計画が持ち上がる
-
高まるクラフトビール熱 醸造所続々オープン 三島・沼津
沼津市のクラフトビール醸造所「リパブリュー」が3月、三島市で缶ビール製造を主体にした新工場を稼働させた。同市では同じ3月に「fete(フェット)三島醸造所」が醸造を開始。近隣の沼津市でも起業が相次いでおり、首都圏以外では異例の「クラフトビール集積地」が出現した形だ。互いに切磋琢磨(せっさたくま)し、品質向上と県東部の交流人口増を目指す。 品質向上へ切磋琢磨・交流人口増に期待 リパブリューの新工場「ナチュラル・ルーツ・スタジオ」は同社の新しい缶ビールブランドを展開するための拠点。米国発祥の人気スタイル「ヘイジーIPA」など4種の製造を始めている。 地下77メートルからくみ上げた水を使い、
-
青春のかけら きらり輝く 宮島未奈さん(富士出身)デビュー 「成瀬は天下を取りにいく」発刊
富士市出身の作家宮島未奈さんがデビュー作「成瀬は天下を取りにいく」(新潮社)を発刊した。過去に窪美澄さん、町田そのこさんらを輩出した同社主催「女による女のためのR-18文学賞」で大賞ほか全3冠を得た「ありがとう西武大津店」など6編からなる短編集。奇想天外な発案と揺るぎない行動力で周囲をあぜんとさせる女の子、成瀬あかりを中心に据えた連作は、地方都市の何げない日常にきらりと輝く「青春のかけら」を巧みにすくい上げる。 「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」。受賞作は「閉店が決まった百貨店に夏休みの間、毎日通う」という中学生成瀬の奇矯な宣言で始まる。幼稚園時代から運動、勉学、芸術に秀でなが
-
良質、身近な音楽届けて40年 静岡、浜松の「友の会」が節目
親子で楽しめる本格的なクラシックコンサートを提供したい-。1983年に静岡、浜松両市で当時の市民グループが創設した二つの音楽団体が2023年度、ともに40周年を迎える。両市の音楽文化の担い手としての自負を胸に、さらなる活動充実を期す。 「必要に迫られて、生み出した」。静岡市で年4、5回の「四季のコンサート」を開催する「静岡音楽友の会」の三城苑子代表(76)は、子育てしながらピアノを指導していた40年前を振り返る。当時は子連れで入れる演奏会がなく、自ら母親仲間約10人と託児サービス付きの演奏会シリーズを始めた。 年会費4千円で4回の演奏会が聴ける低廉な価格設定。初年度は千人超が集まった。
-
災害時 歴史資料どう守る 静岡市歴史博物館で講座
静岡県博物館協会(事務局・県立美術館)と静岡市歴史博物館は、災害時の歴史資料や文化財の救出を学ぶ講座を、同市葵区の同館で開いた。阪神大震災を契機に発足した歴史資料ネットワークの奥村弘代表委員(神戸大副学長)が、同ネットの活動事例を交えて語った。 全国約30組織と緩やかに連携する同ネットの保全対象について「被災した歴史資料だけでなく、被災の状況や生活の復興過程を示す災害資料も重要」とした。 災害発生から資料救出、修復までのプロセスも解説した。文化財保護活動を行う人と、文化財の所在地や所有者との関係について「災害の前から相互に知り合っていることが大事。地域全体でそのエリアにある遺産を把握し、
-
音、言葉 聴き手に委ねる 音楽家・鈴木惣一朗(浜松出身)が新アルバム
浜松市出身の音楽家鈴木惣一朗のソロプロジェクト「ワールドスタンダード」が、14作目のアルバム「ポエジア…刻印された時間」を発表した。2020年の前々作「色彩音楽」以降のビジュアルを担当するイラストレーター横山雄の作品からインスピレーションを受け、弦楽器や管楽器を交えた「歌のある環境音楽」を作り上げた。 自身初のボーカルアルバム「色彩音楽」、21年の前作「エデン」と3部作をなす新作はLPレコードとしてリリース。アコースティックギターを基調に、ピアノやチェロ、フルート、クラリネットの音が静かに柔らかく響く。もの悲しさや寂寥[せきりょう]感が漂う歌の中に、ほんのり明るさも漂わせる。
-
おまちに「高札場」復元 静岡・葵区 新観光スポット除幕
静岡市の市街地活性化を図る団体「I Love しずおか協議会」は25日、同市葵区の繁華街で復元を進めていた江戸時代の法令掲示施設「高札場(こうさつば)」の除幕式を開いた。 同協議会の創設10周年記念事業。沼田千晴会長、設置場所を提供した百貨店「静岡伊勢丹」の秋野孝三社長、田辺信宏静岡市長、本紙連載小説「家康」シリーズの作者で直木賞作家の安部龍太郎さんが除幕し、集まった市民約50人とともに新しい観光スポットの完成を祝った。 沼田会長はあいさつで江戸時代から残る地名「札の辻」に触れ、「高札場の向こうに巨大な駿府城、傍らに富士山が見える。家康はそんな形で町をつくったのではないか」と思いをはせた
-
浜田省吾の「渚園」(浜松市西区)ライブ映像公開へ
シンガー・ソングライター浜田省吾が1988年8月20日に「渚園」(浜松市西区)で行った野外ライブの映像作品「A PLACE IN THE SUN at 渚園 Summer of 1988」が5月5日、全国で公開される。 これに先駆け4月17日午後6時半から、同市中区の「TOHOシネマズ浜松」でプレミア先行上映会を行う。上映前には音楽評論家田家秀樹とプロデューサー岩熊信彦の対談もある。 入場料3千円。申し込みは3月31日から4月4日まで。詳細は公式サイト<https://www.sh-nagisaen1988.jp/>参照。
-
記者コラム「清流」 訃報に代えて
静岡ゆかりのオペラ歌手三浦環(1884~1946年)の研究で知られる田辺久之さんが18日、92歳で亡くなった。ご遺族とうまく連絡が取れず、直後の訃報を出せなかった。痛恨の極みだ。 常葉学園大で教え、図書館情報学の権威として学校図書館への司書配置促進に尽力した。お住まいが筆者の近所だったので、行き来があった。 2020年、半世紀の研究をまとめた「新版考証三浦環」発刊を機に、長時間の取材に応じてくれた。環の欧米各国の足跡を追った約410ページ。100ページに及ぶ年譜を目にし、人の情熱はこんな高みにまで達するのかと感嘆した。 気象に関する著作もあった。わが家の庭先では、そのデータ取得に用いた
-
音と音楽 境界行き来 浜松で緩衝材使うワークショップ【とんがりエンタ】
宅配便でおなじみの緩衝材で、自由に音を出してみよう-。音響作家のウエヤマトモコさん(名古屋市)が、浜松市鴨江アートセンター(同市中区)でワークショップ(WS)を開いた。 会場には「プチプチ」とも言われる空気入りのシートや、小さな白い個体、ウレタン製の直方体など約20種の緩衝材が勢ぞろい。ウエヤマさんは「お気に入りの音を探そう」と呼びかけ、素材を転がしたり、破いたり、落としたりして音の広がりを実践した。 当初は面食らっていた親子ら11人の参加者だったが、配られたトレーやベニヤ板、輪ゴムも使い、独自の音を探り当てる作業に没頭。「パチン」「ギシギシ」「ポンッ」といったユニークな音を響かせた。後
-
アイドルの皮かぶって 静岡発2人組アーティスト「もにゅそで」 インタビュー
静岡市駿河区用宗、焼津市を拠点に楽曲や動画を制作する女性2人組「もにゅそで」。メンバーのもにゅこ、ミナミムラソデコはそれぞれ、所属レーベル「LushMusic(ラッシュ・ミュージック)」を運営する会社の代表取締役社長、取締役でもある。2022年末にはJR焼津駅前に直営のライブハウスも開いた。活動の目的に「地方創生」を掲げる2人に、結成から2年3カ月を振り返ってもらった。 意識を韻に置き換えた時 塗り替えられた君の心とtalking 少年に希望を老年に後光を 韻は愛そうだろう?nomorewar (才能と叡知よ命じよ) 韻踏みますそしてrebirth (時代と歴史の定義を)
-
フルート奏者・青島由佳 宮殿の舞踏会“再現” 帰国10周年で演奏会
フルート奏者の青島由佳(静岡市葵区)が、欧州からの帰国10周年を記念した演奏会を同区で開いた。「舞踏」をテーマに活動した2022年度の締めくくりとして、フランス・ベルサイユ宮殿の舞踏会の演奏曲を中心に選曲。古楽器の合奏で、中心市街地のホールにフランス・バロックの優雅な世界を現出させた。 古楽器アンサンブル「バッハ・コレギウム・ジャパン」のバロック・フルート奏者前田りり子らを招いた。プログラムには17~18世紀を生きたフランスの作曲家の名が並んだ。 マレ(1656~1728年)の「トリオ作品集より 組曲第1番ハ長調」では九つの楽章それぞれに、明瞭で動きのある旋律が聴かれた。青島と前田は、薄
-
文化活動担い手 つなぐ“見本市” 支援組織「ACしずおか」、静岡で12日に大規模イベント
静岡県民の文化活動を支援する県文化財団内の組織「アーツカウンシル(AC)しずおか」は12日、2年間の活動や助成対象団体、支援アーティストを紹介する、初の大規模主催イベントを開催する。会場は静岡市駿河区のグランシップ。「創造的な地域づくりへの貢献」を掲げた事業の成果を、エンターテインメントを交えて披露する。 コンセプトは「しずおかアートプロジェクト見本市」。ACしずおかによる、県内各地の団体への助成▽関係人口創出の取り組み「マイクロ・アート・ワーケーション(MAW)」▽企業とアートの連携プロジェクト-を通じてつながりが生まれた表現者が集う。 2021年度は助成団体を集めた「活動報告会」を実
-
トップ棋士10人対局へ抱負 将棋A級順位戦最終局 静岡・浮月楼で2日開幕
将棋のトッププロ10人が渡辺明名人への挑戦権をかけて総当たりする第81期A級順位戦の最終局(日本将棋連盟など主催、静岡市など共催、静岡新聞社・静岡放送後援)が2日、静岡市葵区の料亭「浮月楼」で行われる。対局を控えた1日、同所で開会式が開かれた。 全9局のリーグ戦方式で行う今期のA級順位戦は昨年6月開幕。8局を終えて藤井聡太五冠と広瀬章人八段が6勝2敗で並んでいる。永瀬拓矢王座ら4人が5勝3敗で続く。 開会式には棋士10人が登壇し、将棋ファンら約100人の前で一人一人、翌日の対局への抱負を述べた。同順位戦に初めて挑んでいる藤井五冠は「いろいろなことを意識しすぎては良くない。これまで通り、集
-
“頭蓋骨”を通り抜けて 美術家・中村昌司さん(掛川市)個展
美術家中村昌司さん(69)=掛川市=は、静岡県内外各所で繰り広げる空間芸術(インスタレーション)で知られる。災害で失われた命への鎮魂を込めた赤いささ舟を展示するプロジェクトを、浜松城公園(浜松市中区)などで展開。大井川鉄道沿線で行うアート祭「UNMANNED 無人駅の芸術祭/大井川」では、赤や緑の布で区切られた“部屋”に大井川の水をしたたらせた。 出発点は、東京芸術大で油絵を学んでいたころ。「平面の中で塗ったり削ったりする造形活動に意味を感じられなくなった」。美大生としての葛藤を抱え、石油危機後の社会をにらみながら、表現方法を模索した。 「大勢のホームレスがいる上
-
朝霧JAM 20回目開催決定 富士宮市で10月21、22日
富士宮市で2001年から開かれている静岡県内最大級の野外音楽フェスティバル「朝霧JAM(ジャム)」の実行委員会は23日、今年の開催を10月21、22の両日とすることを発表した。開催は20回目。例年どおり朝霧アリーナ、キャンプ場「ふもとっぱら」などを会場とする。 同フェスは地元住民らと企画制作会社スマッシュ(東京)による実行委が運営する。国内外の多彩な音楽家と1万人超の観客が集う。19年の台風接近による中止、20、21年の新型コロナウイルス感染拡大による中止をへて、22年10月、4年ぶりの開催が実現した。
-
新種カメムシ 学名は「キシモトイ」小笠原で発見 初の採集者は岸本教授(地球環境史ミュージアム)に由来
東京農大院生の嶋本習介さんらの研究チームが、小笠原諸島で発見した新種のカメムシを「オガサワラシロヒラタカメムシ」と命名し、学名を最初の採集者であるふじのくに地球環境史ミュージアムの岸本年郎教授にちなみ「ネソプロキシウス キシモトイ」とした。7日付の国際学術誌「Zookeys」電子版に掲載された。 岸本教授が1999年3月に同諸島・父島で採集し正体不明のまま標本化したシロヒラタカメムシ属の一種。嶋本さんらによる2021~22年の同諸島の野外調査でも採集され、詳細な個体観察の結果新種と判明した。 シロヒラタカメムシ属はこれまで9種が確認されているが、日本での発見は初。9種目の発見からは40年
-
幕府が法令掲げた「高札場」おまちに復元 家康がつくった街体感 静岡の官民団体
静岡市の市街地活性化を図る官民協働の団体「I Love しずおか協議会」は、創設10周年の記念事業として、江戸時代に幕府が法令を掲げた高札場(こうさつば)を、当時の設置場所付近に復元する。3月のお披露目に向けて準備が進み、〝おまち〟の新しい観光スポットとして地元関係者の期待が高まっている。 2012年5月設立の同協議会では昨夏以降、10周年記念事業の議論を深め、市民が街の歴史に触れられるモニュメントの制作を決めた。討議の末、江戸時代に幕府や諸藩が法令を掲げた高札場を復元することにした。 沼田千晴会長(55)=政豊社長=は、中心街の呉服町通りと七間町通りの交差点や付近の碑を挙げ「かつて高札
-
「東海道の美」屏風や絵画で 日比野氏(掛川市二の丸美術館館長)が記念講演 静岡市美術館企画展
江戸時代の東海道を描いた屏風(びょうぶ)や名家に残された人気絵師の作品を集めた企画展「東海道の美 駿河への旅」(静岡新聞社・静岡放送など主催)が11日、静岡市葵区の市美術館で始まった。開幕を記念して掛川市二の丸美術館の日比野秀男館長が講演し、東海道の行き来を描いた作品群を見比べ、名所や宿場をはじめとしたモチーフの傾向を探った。 3月7日からの後期に展示する奈良県立美術館蔵「東海道往来図屏風」は「人々の生活と山水・風景が一緒に描かれている。人物が一人一人全部異なっているところに(技術の)難しさを感じる」と見どころを紹介した。静岡市蔵「東海道図屏風(マッケンジー本)」については朝鮮通信使の一行
-
服飾から演出読み解く 映画「イニシェリン島の精霊」 野沢さんがトーク【とんがりエンタ】
第95回米アカデミー賞の主要8部門にノミネートされている映画「イニシェリン島の精霊」を上映中の静岡シネ・ギャラリー(静岡市葵区)は、作品の舞台アイルランドの服飾文化を語るトークイベントを同館で開いた。洋品店「ジャックノザワヤ」(同区)の店主野沢弥一郎さん(65)が、登場人物の服装から演出の意図を読み解いた。 野沢さんは網目模様が特徴のアイルランドの伝統的なセーター「アランセーター」の輸入販売を長く手がけ、約30回、現地を訪れている。 トークではまず、主演コリン・ファレルが着た襟付きの赤いセーターに言及した。「設定は1923年のアイルランドの離島だが、当時も今も男性が赤色を着ることはない。
-
物体版画、沼津で実験 山口源「能役者」 モンミュゼ沼津【美と快と-収蔵品物語(52)】
約9カ月の休館を経て、新しい運営態勢で今年1月に再出発を果たしたモンミュゼ沼津(沼津市庄司美術館)は、世界的に評価の高い版画家山口源(1896~1976年)の作品約350点を収蔵する。現在の富士市で生を受け、40代後半から亡くなるまで沼津市江浦で創作に励んだ山口の「能役者」は、58年にスイスのルガノ国際版画ビエンナーレ展で日本人初となるグランプリに選ばれた。板や葉といった身近な素材をそのまま刷り出す「物体版画」の大きな成果として知られる。 「能役者」 1958年作 86.0センチ×46.5センチ(東部総局・山川侑哉) 多色刷りの画面にぽっかりと浮かぶ、木目が鮮やかな
-
「生」と「もろさ」ガラスで表現 静岡市美術館で松藤さん個展
ガラスを使って自然と人間の関係を描き出すアーティスト松藤孝一さん(富山市)の個展「世界は生きている」が、静岡市葵区の市美術館エントランスホールで開かれている。暗がりで鮮やかな蛍光緑の光を放つウランガラスのインスタレーション「世界の終わりの始まり」は、物質の「生」と命あるものの「もろさ」という相反する要素を強烈に視覚化した。 表現の素材としてガラスを選び取ったのは大学時代。溶鉱炉で溶け、形を変えるガラスの姿に魅せられた。生命が存在できない炎の世界から取り出されたガラスが、冷えるにつれて徐々に透明な光と美しい表情を獲得していく。「物質の生」を感じた瞬間だった。 「千度を超える熱で溶けたガラス
-
年刊歌集を発刊 静岡県歌人協会 1096首を収録
静岡県歌人協会(柴田典昭会長)が「年刊歌集」第32集を発刊した。2021~22年に会員137人が詠んだ1096首を収録。県内各地で活動する26団体の活動や同協会の20~21年度の歩みも伝える。価格は2500円。 問い合わせは県歌人協会の年刊歌集編集委員会事務局<電053(576)0303>へ。
-
「詩の心」感動が生む 静岡県詩人会例会 佐相憲一さん講演
静岡県詩人会(中久喜輝夫会長)は、年始恒例の「ポエム・イン・静岡」を静岡市駿河区の県男女共同参画センターあざれあで開いた。詩人で編集者、ライターの佐相憲一さんが「詩という事件」と題して講演した。自作詩の朗読と解説を交え、詩の送り手と受け手との関係性を論じた。 昨年発刊した「サスペンス」に収録した「うすくれないの帰り道」「電子体温計」「漁村」などを読み上げ、「詩の心」のありかを探った。「散文的意識の積み重ねの中で魂を揺さぶられる瞬間。大切な何かを他者と共有した瞬間。世界そのものが自分の中で声を上げる瞬間。それが詩の心だと思う」と考察した。 詩を芸術の「ジャンル」として固定的に捉えることに疑
-
ベアードブルーイング(伊豆市) キャンプ場に「乾杯」の声 年間40種 出来たて提供【クラフトビール群雄割拠 静岡/山梨/長野/新潟⑤】
静岡、山梨、長野、新潟4県の県紙がリレー形式で地元のクラフトビールを紹介する連載企画「クラフトビール群雄割拠」の第5回。2巡目の第1弾は、醸造所併設のキャンプ場が人気の「ベアードブルーイング」を静岡新聞が取り上げる。 狩野川のほとり、広葉樹に囲まれた4階建て相当の醸造所の周辺に大小のテントが並ぶ。2018年6月開業の「キャンプベアード」(伊豆市)は、日本におけるアメリカンエール人気の火付け役の一つ「ベアードブルーイング」(同)が運営する。全国でも珍しいビールメーカー直営のキャンプ場だ。 最大の特徴は出来たてのビールが飲めること。同社はラガー、IPA、スタウトなど定番12種をはじめ、ミカン
-
御殿場高原ビール(御殿場市) 地元の米が薫る一杯 知名度向上にも貢献【クラフトビール群雄割拠 静岡/山梨/長野/新潟①】
静岡、山梨、長野、新潟の4県は1990年代後半の第1次「地ビールブーム」の時代から、国内のクラフトビール業界をけん引し続けてきた。現在も個性豊かな醸造所が相次いで誕生し、地域振興を担う存在として期待されている。4県の県紙が、地元のビールと地域の関わりをひもとく新連載。初回は静岡新聞が「御殿場高原ビール」を取り上げる。 富士山を間近に望む御殿場市。御殿場高原ビールの醸造所には、容量2千リットルの仕込み釜が二つ並ぶ。7月下旬、作業を終えた5代目工場長の村石充博さん(48)は、室内に掲げたカウンターボードの数字を入れ替えた。「創業から6267回目の仕込みですね」。四半世紀超の歴史を刻む木製のボー
-
水滴音交えて“合奏” 装置開発の加藤さん 28日浜松でライブ【とんがりエンタ】
水がしたたる音を利用した音楽装置「Potarhythm(ポタリズム)」を開発し、「水滴音楽家」として活動する加藤泰生さん(26)=浜松市浜北区=が28日、同市中区のライブバー「TEHOM(テホム)」で実演ライブを行う。 「心地よい雨音の発生装置」とも言うべきポタリズムと、打楽器やギター、ベース、コーラスによる前代未聞のセッションを繰り広げる。装置上部の水槽から下部水槽に水滴を落とした「ポチャン、ポチャン」という音を、アンサンブルに取り込む。リズムだけでなく旋律も制御して“演奏”する。 装置開発は2019年から。首都大学東京(現東京都立大)システムデザイン学部在籍時
-
現代美術家集団「幻触」と鈴木慶則さんを語る 本阿弥さん(静岡)、峯村さんが対論
1960年代末から70年代初頭にかけて活動し、全国から注目を集めた静岡市などの現代美術家の集団「グループ幻触」と、その中心的存在だった鈴木慶則さん(1936~2010年)を語るトークイベントが、東京都中央区銀座のギャラリーQで開かれた。同ギャラリーの40周年記念展「鈴木慶則-石子順造と歩んだ世界」の関連企画。 グループ幻触を研究する美術評論家本阿弥清さん(静岡市清水区)と、多摩美術大名誉教授の峯村敏明さんが対論した。同ギャラリーのディレクター上田雄三さん(旧清水市=現静岡市清水区=出身)が司会を務めた。 本阿弥さんと峯村さんは幻触のメンバーの主な作品をたどりながら、旧清水市を拠点に彼らと
-
フィボナッチ数列 オルゴールに結実 川根本町の造形作家日詰さん
造形作家日詰明男さん(川根本町)が不思議な数字の並び「フィボナッチ数列」をベースにした手動オルゴールを完成させた。「構想から27年。やっと形になった」と感慨を語った。 同数列は「1、1、2、3、5、8、13、21、34、55…」と、ある数字と次の数字の和が、その次の数字になるように並んでいる。ひまわりの種の並び方など自然界のさまざまな場面でこの数列が見られるという。 日詰さんは1995年から、同数列を活用した立体作品や音楽を発表してきた。オルゴールは究極形という。 歯車6枚を同時に回す構造。それぞれの歯車には同数列に従って5、8、13、21、34、55個の歯が刻まれる。レ
-
輞川図巻 鮮やか理想郷 中国・明代の絵巻 静岡県立美術館で全巻初公開
静岡県立美術館は9日まで、2018年に県民から寄贈を受け、3年間かけて静岡市内の工房で修理した中国・明(1368~1644年)代の絵巻「輞川(もうせん)図巻」を公開している。全巻公開は初。 「輞川図」は唐代の詩人で画家の王維が自らの別荘「輞川荘」を描いたという故事に基づく、長く中国や日本で愛されてきた画題。同館収蔵作品のように石の版から刷った墨1色の絵を基に着色した事例は珍しい。同館によると、米国のシアトル美術館の蔵本や長崎県の聖福寺の旧蔵本が知られているが、数は少ないという。 県立美術館の作品は、険しい山、整然と並んだ木々、それらに囲まれた居宅や庵(いおり)などが描かれる。緑や青
-
ヴァンジ美術館 「現状形態で存続を」8割 長泉町、アンケート結果公表
新型コロナウイルス禍による経営難を踏まえ、静岡県に施設の譲渡を提案したヴァンジ彫刻庭園美術館(長泉町)はこのほど、同館の在り方について利用者らに聞いたウェブアンケートの結果をまとめた。全国から回答した9659人の約8割が「これまでどおりの形態での存続」を望んだ。 全体の98%が「存続を望む」とし、その内の81%が「これまでどおり」の運営形態を希望した。現在行っている美術館の活動で継続した方が良いものを聞いたところ「障害のある方も楽しめる美術館づくり」が64%でトップ。「触れることのできる作品の展示」が15%で続いた。 アンケートは9~25日に実施した。岡野妙子専務理事は「さまざまな立場の
-
時論(12月23日)美術館「ユニバーサル」の実績
生まれて初めて、目を閉じて映画を観賞した。ヴァンジ彫刻庭園美術館(長泉町)が開いた、視覚障害者の美術鑑賞が主題のドキュメンタリー「手でふれてみる世界」の上映会で、音声ガイドを利用した。「チューブに入った女の彫刻。見えるのは顔と足の裏」-。イヤホンから流れる声が、スクリーンの出来事をつぶさに伝える。 大手映画会社などでつくるNPO法人メディア・アクセス・サポートセンター(MASC[マスク])によると、2021年公開の邦画490本のうち、80本には音声ガイドが用意されていた。統計を開始した12年は554本中の6本だったというから、大幅な伸長である。 MASCは「すべての人が映像作品に何不自由
-
音楽レーベル「ラッシュ・ミュージック」 焼津に新ライブハウス
焼津市、静岡市駿河区用宗を拠点に活動する音楽レーベル「Lush Music(ラッシュ・ミュージック)」が12月、焼津市に新ライブハウスを開業する。 JR焼津駅南口から徒歩4分のビル2階にある「LIVE HOUSE LUSH」は66席。3階に別室を設け、ファンと出演者の交流の場とする。 看板アーティスト「もにゅそで」のライブで24日にこけら落とし。25日にはレーベル所属の音楽家らによるフェスティバルを開催する。年明けからは週末を中心に営業し、レーベル所属16組などのライブや配信を行う。 もにゅそでは動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」で絶大な人気を誇る女性2人による音楽、動画
-
記者コラム「清流」 鴻池展が生む衝動
静岡県立美術館の「みる誕生 鴻池朋子展」は「美術館が開催する作品展」という、人の脳みそに固定されたスタイルを木っ端みじんに打ち砕く。 驚くことに、最初の3部屋には鴻池さんの作品がほとんどない。県立美術館の収蔵品から川村清雄、田中敦子らの名作が出ているが、選択に鴻池さんは関わっていない。 本人作品のエリアに入る。紙、粘土、アニメ、毛皮、ビニール、セミの声-。素材が非常に幅広い。館外の森には巨大なトンビが木につるされている。これは一体何だ-。 タイトルや説明文がない展示物ばかり。ふと気が付いた。作品を全部、自分で「解釈」できるではないか。五感を全部使って解釈すれば、何を言っても不正解はない
-
無人駅の芸術祭 創作拠点を一新 島田「ヌクリハウス」お披露目
大井川鉄道の駅を活用した広域アートイベント「UNMANNED(アンマンド)無人駅の芸術祭/大井川」を主催するNPO法人クロスメディアしまだ(島田市)は17日、芸術祭の参加アーティストの制作拠点を一新した同市川根町抜里の「アトリエ&ゲストハウス ヌクリハウス」のお披露目イベントを開いた。 開設を祝して近隣住民や県内外のアート関係者が集まった。イベントでは「マンガライブペインター」の内田慎之介さん(島田市出身)によるふすまを使った公開漫画制作や、新潟県で開かれる国際アートイベント「大地の芸術祭」の運営に携わった関口正洋さんらのトークを実施した。 地元住民の住まいをリノベーションした同施設は1
-
ヴァンジ美術館「触察」実践例を映画化 視覚障害者ら手で触れて彫刻鑑賞 岡野副館長が監督
ヴァンジ彫刻庭園美術館(長泉町)の岡野晃子副館長がこのほど、視覚障害者らが手で触れて彫刻を鑑賞する「触察(しょくさつ)」を主題にしたドキュメンタリー映画を完成させた。全国の博物館関係者から、実践例を映像化した作品として注目を集める。 映画「手でふれてみる世界」は、イタリア中部のアンコーナ市にある国立オメロ触覚美術館の活動を追う約60分の作品。同館は1993年に「視覚障害者の文化的融合と成長を助けること」などを目的に全盲の夫妻アルド・グラッシーニ氏、ダニエラ・ボッテゴニ氏が開館し、99年に国立館となった。西洋美術史に重要な位置を占める作品の樹脂や石こうによるレプリカなど、所蔵する300点以上
-
流麗な音「復活」 右半身まひ乗り越え、6年ぶり本格ライブ 電子楽器「テルミン」竹内正実
電子楽器「テルミン」の演奏家、研究家の竹内正実(55)=浜松市西区=が、2016年の脳出血に起因する右半身まひを乗り越え、東京、大阪で6年ぶりに本格的なライブを行った。再起を祝して集まった旧知の音楽家たちとのアンサンブルで、流麗なテルミンの音を響かせた。 ステージ上で発症し、演奏続行が不可能になったライブから約6年。6日の東京・目黒での公演は、4人のピアニストとそれぞれ合奏する前半と、マトリョーシカ形テルミンを交えた6人編成のバンドを従えた後半の2部構成で進んだ。 ラフマニノフやサンサーンスのクラシック曲、「ムーンリバー」など映画主題歌、日本のバンド「アリス」のメドレーなど、多彩な選曲。
-
色と形 偶発に身を委ね 松井正之さん(静岡市清水区)
画家松井正之さん(76)=静岡市清水区=といえば、抑えた色調で動物や魚の側面を描いた油彩画が知られているが、近年はコラージュの可能性を追究している。 「油彩画での自分の殻を軽々と打ち破ってくれる」。筆やローラーを使って水彩絵の具で気ままに彩色した画用紙に、鳥や動物、魚などをかたどって穴を開けた別の紙を当てる。“窓”から見えた部分を切り抜き、台紙に貼る。筆のかすれ、重ねた色彩の妙が、目も鼻も口もない生き物に表情を与える。 「遊びのつもりで始めたら夢中になった。油彩画ではやりたくてもできないことができる」。絵の具を塗り、「形」を切り出す。切り離された二つの作業に、二つ
-
時論(12月6日)生徒が開く新しい読書の扉 文化生活部長兼論説委員/橋爪充
静岡県内の書店員と図書館員約600人が選ぶ静岡書店大賞が、今日発表される。今年で10回目。昨年の小説部門で大賞に輝いた一穂ミチさん著「スモールワールズ」はその後、本屋大賞の候補にも名を連ねた。潮流を的確に見定めた選考に、全国から注目が集まる。 本との出合いは「誰が薦めているか」が重要だ。個人的な感覚だが、通販サイトの「おすすめ」をそのまま買う気にはならない。耳を傾けるのは信頼できる友人、愛読している書評サイトや書評家、なじみの書店主あたりか。読書は新しい世界を開くと言われるが、ならばこそ扉の番人はよくよく吟味したい。 掛川市で先日開かれた「高校生が選ぶ掛川文学賞」は、工夫が凝らされていた
-
「草に憩う女」大正初期/竹久夢二作 静岡市美術館【美と快と-収蔵品物語㊻】
明治時代末期から大正時代にかけて、新感覚の女性像を描き続けた画家竹久夢二(1884~1934年)。旧蒲原町(現静岡市清水区)で生まれ育った郷土史家志田喜代江さん(1924~2017年)は叙情的な夢二の作品を熱烈に愛し、肉筆画をはじめ約300点を集めた。全国でも珍しい女性コレクターによる夢二の作品群は今、静岡市美術館が収蔵する。小さな町でこつこつと築かれたコレクションは、彼の画業のありようを明解に伝えている。 「夢二式」女性像凝縮 赤の着物に身を包んだ女性が穏やかにほほ笑む。草地の斜面に腰かけているのだろうか。黒い瞳と長いまつげが愛らしさを振りまく。純白の顔に比して手足は幾分大きいよう
-
高校演劇 斬新な発想評価 最優秀賞の浜松開誠館、関東大会へ 優秀賞・三島南も
2023年夏の全国高校総合文化祭演劇部門出場を目指す第46回静岡県高校演劇研究大会(県高校文化連盟演劇専門部など主催)が19、20の両日、三島市で開かれ、ブロック大会を勝ち抜いた12校から浜松開誠館が最優秀賞に輝いた。優秀賞4校から選出された三島南とともに、2023年1月の関東大会に出場する。 22年ぶり2回目の関東大会出場を勝ち取った浜松開誠館は、福岡大吾顧問のオリジナル脚本による「ぼく、今だけ女の子」を上演。便意を催した男子生徒がやむにやまれず飛び込んだ校内女子トイレを舞台に展開するコメディーで、個室や洗面所を詳細に再現したセットや、個室の軀体[くたい]だけを舞台上手[かみて]に設置す
-
ビールの沼津へ 5カ所目醸造所「マスターズブリューイング」誕生 併設飲食店開業
JR沼津駅前に沼津市5カ所目のクラフトビール醸造所「マスターズブリューイング」が誕生した。15日に併設の飲食店を開業する。人口20万人規模の地方都市に醸造所が五つ共存するのは、国内では異例。市内の同業他社や関係者は“クラフトビールシティー沼津”の知名度向上に期待を寄せる。 「マスターズブリューイング」は13日、定番ビール3種の試飲会を開いた。代表で醸造責任者の益谷尚豪さん(56)は沼津市内で2007年から飲食店「さえ丸おじさんの店」を営業する。新醸造所には容量500リットルの発酵タンク4基を備え、缶飲料の通販にも力を注ぐという。 益谷さんは20代の頃から国内外のビ
-
重要文化財・松城家住宅(沼津)公開 修復完了 漁師踊りで祝う
国の重要文化財に指定されている明治時代の擬洋風建築「松城家住宅」(沼津市戸田)が、2016年から続いた保存修理工事を終え、3日に一般公開が始まった。 同住宅前でオープニングセレモニーが開かれ、同住宅を所管する市教委の関係者や戸田地区の小中学生らがテープカットで新装公開を祝った。地元住民が漁師踊りと漁師唄を披露し、式典に花を添えた。頼重秀一市長は約150年前に建てられた同住宅の由来に触れ「歴史的建造物を情報発信拠点として活用し、戸田の発展に結び付けたい」と話した。 今回の工事は建物を半解体し、鉄骨などで補強。しっくいの壁、バルコニーやかまど、便所などを復元した。しっくい鏝絵(こてえ)の達人
-
喉歌ホーメイ♪ 熱海で共鳴 ロシア・トゥバから4人組来日
ロシア連邦トゥバ共和国で1996年に結成された、伝統の喉歌「ホーメイ」を駆使した音楽を奏でる4人組「チルギルチン」が初来日を果たし、静岡、熱海の両市を含む全国8公演を行った。リーダーのコシュケンデイ・イーガリさん(44)は「伝統や文化の違いを乗り越えて日本人と共鳴できた」と話した。 来日ツアーは、自らもホーメイの使い手として知られる日本トゥバホーメイ協会会長でバンド「ヒカシュー」のリーダー巻上公一さん(66)=熱海市=の招きで実現した。 チルギルチンは、欧米のツアーも多数行う、トゥバを代表する楽団。ロシアによるウクライナ侵攻後の航空路線の混乱を受け、来日は困難を極めた。メンバーはモスクワ
-
視野広く知識深く 読書の秋 楽しむ一冊【NEXTラボ】
「読書の秋」到来。静岡県内各所で広域的な読書推進イベント「ブックフェスタしずおか」が31日まで開かれ、27日には読書週間が始まる。書店や出版事業を巡る環境はここ数年で大きく変化したが、読書の愉悦は不変だ。県内のさまざまな立場の人に、読書の楽しさを語ってもらった。 「あひる図書館」館長 中島あきこさんに聞く 子育て支援サイトを運営する一般社団法人「ママとね」の代表理事で、60人以上のオーナーが自分の棚に好きな本を並べて貸し出す「あひる図書館」(三島市)の館長を務める中島あきこさんに、自身と読書のこれまでとこれからを聞いた。併せて、自分が愛してやまない3冊を選んでもらった。
-
敬意と創意、バランス良く♪ 佐藤竹善 カバーアルバム第8作
人気バンド「シング・ライク・トーキング」のメンバーで、SBSラジオ「レコード部屋」のパーソナリティーを務めるシンガー佐藤竹善が、カバーアルバムシリーズ「Cornerstones(コーナーストーンズ)」の第8作「radioJAOR~Cornerstones8~」をリリースした。「シング-」の“育ての親”である音楽プロデューサーの故武藤敏史氏を思って選んだシティ・ポップの名曲9曲(LP版。CD版は8曲)を、オリジナルへの敬意と自らの創意をバランス良く詰め込んで再構築した。 旧ファンハウスの敏腕プロデューサーとして知られ、コンテストの審査委員長として「シング-」を見いだし
-
加山雄三さん万感 最後の音楽フェス 富士宮・朝霧JAMに出演
年内で演奏活動を終了する歌手で俳優の加山雄三さん(85)が9日、富士宮市で開かれた「朝霧JAM(ジャム)」で、最後の音楽フェスティバル出演を果たした。 5人編成のバンドと登場した加山さんは、「君といつまでも」を皮切りに全10曲を終始笑顔で歌い上げた。「お嫁においで」「夕陽は赤く」など代表曲を次々披露。朗々とした歌声が、富士山麓に響いた。エルビス・プレスリーに面会したエピソードを語った後に「ラブ・ミー・テンダー」を演奏するなど、洋楽曲も取り上げた。 観覧エリアに手を振ったり親指を立てたりするなど、観客との交歓も楽しんだ。自身の年齢に触れ「生きていて良かった。支えてくれたみんなのおかげで今の
-
朝霧JAMが開幕 4年ぶり、静岡県内最大規模の野外フェス
静岡県内最大規模の野外フェスティバル「朝霧JAM(ジャム)」(実行委員会主催)が8日、富士宮市の朝霧アリーナとその周辺で開幕した。新型コロナウイルス禍などによる3年連続の中止を経た、4年ぶりの開催。県内外から集まった約1万人(主催者発表)が、国内外の演者によるさまざまなジャンルの音楽を楽しんだ。 大小の2ステージに、同市内で活動する和太鼓グループ「本門寺重須孝行太鼓保存会」、フランスのブルースロックデュオ「ジ・インスペクター・クルーゾ」、日本のシンガー・ソングライターのカネコアヤノなど13組が出演した。 開演に先立ち秋鹿博実行委員長(79)=同市=が大ステージであいさつし「2001年にこ
-
連詩創作、高校生が挑戦 詩人野村さんから手ほどき 浜北西高
静岡県文化財団は2日、詩人野村喜和夫さんを講師に招いた連詩のワークショップを、浜松市浜北区の浜北西高で開いた。同高と浜松学芸高の文芸部員計16人が連詩の方法論を学び、創作に挑戦した。 11月に静岡市駿河区のグランシップで実施する「しずおか連詩の会」(静岡新聞社・静岡放送共催)の関連企画。1999年から続く「しずおか-」の中で、生徒に本格的な連詩の手ほどきをするのは初めてという。 参加した高校生16人は4グループに分かれ、野村さんが作った3行詩に続ける形で、グループごとに4人のリレー形式で創作した。それぞれの価値観と美意識に基づいた3行詩が連なり、「空を見つめて」「物語」「時」「生きる」と
-
4年ぶり「野外フェス」 聖地での音楽祭へ一丸 朝霧JAMS’代表/堀内潤氏【本音インタビュー】
富士宮市を会場とする野外音楽フェスティバル「朝霧JAM(ジャム)」が10月、4年ぶりに開催される。1万人規模のイベントを支えるボランティアグループのリーダーに現在の心境、地方フェスの役割や課題について聞いた。 -2001年から毎秋開催が定着していたフェスが19年は台風、20、21年は新型コロナウイルス禍で中止となった。どんな思いだったか。 「秋開催が当然のように感じていたので、ここ3年は残念な10月だった。朝霧JAMS’(ジャムズ)は地元のコアメンバー約30人に加え、開催期間に全国から集まる約150人で構成されている。メンバーの士気を維持するために、電話やメール、LINE(
-
熱海未来音楽祭プレイベント 音楽家・巻上公一さん×演劇批評家・鴻英良さん 起雲閣でアートの深淵語る
音楽家巻上公一さん(熱海市)がプロデュースする即興音楽やパフォーミングアーツの祭典「第4回熱海未来音楽祭」のプレイベントが、同市の起雲閣で開かれた。23日の開幕を前に、巻上さんと演劇批評家鴻英良さん(旧舞阪町=現浜松市=出身)が、米国の劇作家リチャード・フォアマン、旧ソ連(現ウクライナ)生まれの現代美術家イリヤ・カバコフを題材に、アートの深淵[しんえん]をのぞくトークを繰り広げた。 1990年代前半に米ニューヨークで上演されたフォアマンの演劇「マインドキング」について、感想を述べ合った。鴻さんは教会の狭い部屋を劇場にした同作品について「演者のささやくようなせりふが部屋のあちこちから聞こえて
-
書店と図書館 異例の連携 10月、静岡県内各地で「フェスタ」
「出版不況」と言われる中、静岡県内の書店、図書館が異例の連携態勢を構築し、本の価値、楽しさを再発見するイベントを10月、県内各地で初開催する。 イベントは、10月1~31日の「ブックフェスタしずおか」。県書店商業組合と県立中央図書館が協力する。10月22日には、本や図書館に詳しい県内外の論客が集まる「トークセッション」と本に関係するさまざまな出店がある「マルシェ」を、グランシップ(静岡市駿河区)で催す。 2020年3月開業の私設図書館「みんなの図書館さんかく」を運営する一般社団法人トリナス(焼津市)の土肥潤也代表(27)が主導する。「紙の本は他の人とシェアすることで新しい価値が付与される
-
加山雄三さん朝霧JAM出演へ 「最後のフェス」は富士宮
コンサート活動終了を宣言した歌手で俳優の加山雄三さん(85)が、最後の音楽フェスティバルでの演奏機会として、10月に富士宮市で開催する「朝霧JAM(ジャム)」に出演することが12日、関係者の話で分かった。近く正式発表する。 加山さんは9月9日に東京国際フォーラム(東京都千代田区)で最後の単独コンサートを終えたばかり。2013年から続く国内各地の野外フェスへの出演も10月8、9日の朝霧ジャムで打ち止めとなる。12月のクルーズ船イベントで正式に演奏活動から引退する。 朝霧ジャムは2001年から富士宮市で毎秋開かれている国内屈指の伝統を誇る野外フェス。19年は台風接近、20、21年は新型コロナ
-
琴線に触れたアート本は 浜松でトーク
浜松市中区の市鴨江アートセンターで、お気に入りのアートブックを語り合うトークイベントが開かれた。写真家小林久人さん(51)=浜松市東区=が主導し、参加者8人が写真集、画集など、自らの琴線に触れた本を紹介した。 米写真家ソール・ライターの作品集、荒木飛呂彦さんの人気漫画「ジョジョの奇妙な冒険」の特別編集本、コロンビアの美術家フェルナンド・ボテロの展覧会図録-。参加者は一人ずつ、アートの関心領域、持参した本との出合いを披露した。 英出版社のハードカバーのファッション本を持ち込んだ山口祐子さん(77)=同市中区=は「10年前に香港の空港で手に入れた。装丁が美しく、写真集、実用本の両方の要素を併
-
袋井「樂土舎」25年 アート拠点、創設からの歩み出版物に
1996年に袋井市の豊沢地区でスタートした「樂土[らくど]の森アートプロジェクト」を主宰するマツダ・イチロウさん(65)が、25周年を記念した出版物「ドキュメント樂土舎1996-2021 樂土の森アートプロジェクトの25年」を発刊する。「樂土舎」と名付けたアート拠点に、音楽、美術、ダンスなど表現の壁を超えてアーティストが集うようになった経緯を、写真や年表、関係者の寄稿などで紹介した。記念誌を手にしたマツダさんが、創設からの歩みを振り返った。 ドラム缶によるまき窯の設置が樂土舎の出発点。当時のマツダさんの胸の内には、1995年の阪神淡路大震災で壊滅的な損害を被った神戸の街並みと、春埜山大光寺
-
記者コラム「清流」 地方紙記者あるある
入社してまもなく、先輩がまとめた「地方紙記者あるある」を楽しく読んだ。ワープロ打ちしたA4の紙が、記者出勤表の横に置かれていた。 「支局の前に大量の大根が置かれる」「取材先で『うちの婿に』と誘われる」-。記者生活を続けるうちに、当初の「まさか、そんな」が次々現実化する。やがて、それは先達が築いた「地方紙記者への信頼」の表れだと気付く。 「恩師にインタビュー」は比較的起こりやすい「あるある」だろう。先日取材した、高校時代の音楽の先生は、当時の合唱部の活動を克明に記憶していて驚いた。乾いた音楽室のにおいがよみがえった。 「地方紙記者」は県民の記憶と共感の中に生きている。仕事をさせてもらって
-
秋野不矩さん親子よみがえった合作 長男・癸巨矢さん宅に原画 絶版絵本、半世紀ぶりに復刻
浜松市天竜区出身の日本画家秋野不矩さん(1908~2001年)と文筆家の長男秋野癸巨矢(きくし)さん(1933~2008年)が1969年に発刊した絵本「クリシュナのつるぎ」の原画が約半世紀ぶりに見つかり、絶版だった絵本がこのほど復刻に至った。 原画は神戸市内の癸巨矢さん宅の書斎で妻美樹さん(62)が発見した。「昨年11月に13回忌を終え、年明けに遺品の整理をしていたら、引き出しから出てきた。手にした時は、原画の迫力におののいた」。不矩さんの作品の著作権管理などを行う一般社団法人秋野不矩の会(京都市)を通じて神戸市の出版社「BL出版」での復刻が決まった。 インド神話に材を取った「クリシュナ
-
阿久先生に見守られ 歌手・増田惠子(静岡市出身) ソロ40周年記念盤、ピンク・レディー時代皮切りに新旧37の代表曲収録
歌手増田惠子(静岡市出身)がソロデビュー40周年を記念したアルバム「そして、ここから…」を発表した。ピンク・レディー時代のソロ曲を皮切りに、作詞家阿久悠(1937~2007年)の未発表作品を歌った2曲など、新旧の代表曲を詰め込んだ。 静岡市内の中学校で出会ったミー(現・未唯mie)とともに上京し、ピンク・レディーとして世に出たのが1976年。解散後の81年、中島みゆき作詞作曲の「すずめ」でソロデビューした。 全37曲を収録した2枚組CDは、2021年から続く「40周年プロジェクト」の最大のコンテンツだ。新録音の5曲、全てのソロシングル表題曲に加え、ピンク・レディー時代の
-
アートの魅力 伝え方学ぶ ACしずおかが初の文章講座
静岡県民の創造活動を支援する「アーツカウンシル(AC)しずおか」は21日、文化芸術の魅力を言葉で表現する人材を養成しようと、初の文章講座「かきかたきかく」を静岡市駿河区のグランシップで開いた。 本紙「文化・芸術」面にも寄稿する美術評論家の福住廉さんが講師を務めた。参加者約20人が事前に執筆したエッセーを素材に、読み手に伝わりやすい文章の組み立て方を指南。段落の構成の工夫、段落ごとの論点と具体例の示し方などを分かりやすく説明した。 アートを文章の題材にする際の要点も論じた。書き手の心情を伝える上で、「好き」「嫌い」という言葉を使うだけでなく、作品や情景を描写する際にどんな形容詞や副詞を選ぶ
-
匠宿「静岡醸造」初の瓶ビール 「ラガー」「ホワイト」2種セット
静岡市駿河区丸子の観光施設「駿府の工房 匠(たくみ)宿」内で今夏から醸造を始めたクラフトビールメーカー「静岡醸造」は21日、同醸造所初の瓶入りビールの販売を始める。 「TAKUMI CLASSIC(タクミ・クラシック)」と名付けたブランドの2本セットで、それぞれの瓶に匠宿のオリジナルラベルを貼付した。瓶詰めも醸造所内で行っている。 日本人になじみが深い「ラガー」と、ユズやコリアンダーを使用した爽やかな味と香りの「ホワイト」の2種。福山康大社長は「伝統工芸が体感できる匠宿で、食分野の職人による製品にも接してほしい」と願いを込める。 価格は特製ギフトボックス入り2本セットで2千円。匠宿内で
-
地域の魅力 アーティストが発信 ACしずおか招致、森町などに滞在 住民との交流も促進
静岡県民の創造活動を支援する「アーツカウンシル(AC)しずおか」が地域住民とアーティストの出会いを提供する事業「マイクロ・アート・ワーケーション(MAW)」が8月、始まった。全国から選ばれたアーティストたちが、まちづくりや移住促進などに取り組む県内団体の“地元”に滞在し、地域の魅力の発信や住民との交流を図る。事業は昨年度に続き2回目。 本年度第1弾として、森町のまちづくり団体「森と町づくりの会」が写真家秋野深さん(52)=千葉県=、画家鋤柄ふくみさん(39)=愛知県=を8日から受け入れている。9日は団体の岩瀬進哉代表(41)=同町役場移住コーディネーター=らが2人を
-
“生きるもの”慈愛表現 静岡の画家松井さんが個展
作家三木卓さんの静岡新聞連載「鎌倉だより」の挿絵を担当していた画家松井正之さん(76)=静岡市清水区=の16年ぶりの個展が11日、同市葵区の「しずぎんギャラリー四季」で始まった。 60~70代を通じて取り組んでいる、哺乳類や魚類、鳥などを落ち着いた色調で描いた大作約30点を出品した。全て油彩で、キャンバスを黒で下塗りし、少しずつ明度の高い色を重ねている。 日本平動物園(同市駿河区)や旅先のインドなどでスケッチした羊やカバ、カラスなどは、ほぼ全て側面から描かれている。縦横のラインを意識した巧妙なモチーフの配置、限られた色使いによる静的な画面構成も相まって、生きるものへの共感や慈しみを伝える
-
公立中学の部活動指導 文化系も休日は地域で 北山静岡大名誉教授ら有識者会議提言
文化庁の有識者会議は9日、吹奏楽や合唱、演劇など公立中学の文化系部活動の指導を、2025年度末までに休日は地域団体へ委ねるべきだとの提言をまとめた。運動部改革と足並みをそろえる。文化庁は自治体による指導者確保や会費補助の後押しをするため、来年度予算の概算要求に関連経費を盛り込む。 提言は、少子化で学校単位での運営が困難になることや、部活が教員の長時間労働の要因になっていると指摘。スポーツ庁の有識者会議が6月に公表した運動部の移行スケジュールと同じ23~25年度を「改革集中期間」に設定し、自治体に推進計画の策定を求めた。問題点を洗い出し、将来的に平日の部活も学校から切り離す検討を進める。
-
静岡市葵区に新拠点を開設 アニメ新旧技術を融合 制作会社「シャフト」社長/久保田光俊氏【本音インタビュー】
「魔法少女まどか☆マギカ」「3月のライオン」など多くの人気アニメーション作品を手掛ける制作会社シャフト(東京)が、静岡市葵区に「静岡スタジオAOI」を設立した。地方都市に設けた新拠点の狙いを聞いた。 -スタジオ開設のいきさつは。 「アニメ制作のデジタル化や技術の進歩、通信環境の向上で、オンラインのやりとりに不自由がなくなった。さらに、新型コロナウイルス禍を受けて約2年間、テレワークを進めた結果、東京の本社から離れた場所でも十分に仕事ができるという手応えを得た。静岡は都内から近く、住みやすく、働きやすい。本社から『隣のスタジオに行ってくれ』というぐらいの感覚で行き来できる」 -新拠点の
-
地域住民とアーティストの交流促進 12団体が38人受け入れ
静岡県民の創造活動を支援する組織「アーツカウンシル(AC)しずおか」は、地域住民とアーティストの出会いと交流を促進する取り組み「マイクロ・アート・ワーケーション(MAW)」に参加するアーティストと受け入れ団体を発表した。 MAWは2021年度に続く2回目。8月上旬から11月中旬まで県内外38人のアーティストが順次、県内に拠点を置く12団体の活動エリアに4~7日間滞在し、フィールドワークや地域住民との意見交換会を行う。 アーティストに各地域の魅力発信や新しいプロジェクトの創出を担ってもらい、地域の未来につなげるのが狙い。5月下旬から7月上旬までそれぞれ募集し、23都府県の121人、13団体
-
彫刻表現の成果を総覧 建築家・川口宗敏さん(静岡市)、写真集を発刊
静岡文化芸術大名誉教授の建築家川口宗敏さん(73)=静岡市清水区=が、過去40年間の自作の彫刻やモニュメントを集めた写真集「宗敏の芸術美」(静岡新聞社)を発刊した。建築設計や都市デザインを手がける中で高まった芸術への探究心、彫刻表現への興味関心を、自らの手による写真で総覧した。 約10年前から制作した、白大理石にさまざまな女性の表情を刻んだ「ミューズ」3部作の完成を機に発刊を決意した。2012年の建築集「川口の空間美」(同)の続編。「静岡県わかふじ国体炬火[きょか]台『炎輪』」(03年)、静岡市呉服町通りのベンチやアーチ(1995、96年)、「浜松モザイカルチャー世界博」に出品した「紅雲の
-
旧幕臣の歩み語る 小説家渡辺房男さん講演 静岡
現在の静岡市葵区にあった静岡学問所で教えた米国人教師エドワード・ウォレン・クラーク(1849~1907年)を顕彰する事業の実行委員会(委員長・今野喜和人静岡大名誉教授)は23日、歴史小説家渡辺房男さん(78)を招いた講演会を静岡市葵区のアイセル21で開いた。渡辺さんは、クラークと同時代を生きた旧幕臣たちの歩みを語った。 明治維新後に静岡に移った旧幕臣1万5千人のうち、窮乏した約300人が牧之原で茶畑の開墾を担った経過をたどった。旧幕臣の子孫の居宅でやりを見つけた自身の経験から「彼らは武士の魂を忘れずに生き抜いたのだろう」と推察した。 NHK職員時代の1980年にクラークが主題の番組を制作
-
人材派遣会社がビール醸造 激戦区・沼津で挑戦の”一滴”
沼津市の人材派遣会社がクラフトビール事業に乗り出した。JR沼津駅南口の沼津仲見世商店街に面した自社所有ビルで、3月から醸造を開始し、6月にはビアレストランも開業した。GKB(旧御殿場高原ビール)=御殿場市=の支援を受け、ビール激戦区の沼津でブランドの確立を目指す。 人材派遣会社は「イカイ」。新たに設立した会社、ビールのブランドを「ONE DROP(ワン・ドロップ)」と命名した。 2012年にイカイが取得した鉄筋コンクリート造り地上4階建てのビルの地階約600平方メートルに、醸造所と飲食店を設けた。コンサルタント契約を結ぶGKBの醸造家がビールのレシピを作成。容量500リットルの発酵タンク
-
客に“ささげる”即興詩 詩人・さとう三千魚さん 静岡で新感覚ライブ
現代詩のウェブサイト「浜風文庫」を主宰する詩人さとう三千魚[みちお]さん(静岡市駿河区)が3日、同市葵区の古書店「水曜文庫」で、来店客に詩を作るパフォーマンス「無一物野郎[むいちぶつやろう]の詩、乃至[ないし] 無詩[むし]!」を行った。 同店では5月に続く2回目。創作を希望する客に好きな花の名と詩のタイトルを尋ね、そこから想を得た詩をその場で編み出す。スマートフォンに文字を連ね、プリントアウトして目の前の客に渡す。新しい形の「現代詩ライブ」だ。 これまで、希望した12人に詩を書いた。報酬は投げ銭形式で受け取る。花の名をリョウブ、タイトルを「透明なアクリル板」とした会社員増田早希さん(掛
-
奇想天外「夫婦げんかもの」 富士宮市出身・横関大さんが新刊「忍者に結婚は難しい」
テレビドラマ化、映画化された「ルパンの娘」シリーズで知られる作家横関大さん(富士宮市出身)の新刊「忍者に結婚は難しい」(講談社)は、現代に生きる伊賀忍者と甲賀忍者の夫婦を主人公に据えた多面的なエンターテインメント作。表裏の顔を使い分けて社会生活を営む忍者たちの冒険活劇、禁断の組み合わせのカップルが巻き起こすコメディー、本格的な謎解きが潜むミステリーという三つの要素を巧みに操る手さばきが光る。 泥棒一家の娘と刑事のカップルが主人公の「ルパン-」をはじめ、「水と油」とも言える人物の顔合わせを説得力のある物語に昇華させるのはお手の物。「忍者に-」は「『夫婦げんかもの』を書きたかった」という思いが
-
栄光、絶望…半生を振り返る著書 サッカー元代表主将・森岡隆三
サッカー元日本代表主将の森岡隆三が、自らの半生を振り返る著書「すべての瞬間を生きる PLAY EVERY MOMENT」(徳間書店)を発刊した。夢中でボールを蹴った少年時代からプロ選手を経て指導者になった現在までを全11章にまとめた。サッカーを通じて味わった歓喜や栄光だけでなく、苦悩や絶望も包み隠さず記した。 シドニー五輪、アジア杯、日韓ワールドカップ(W杯)への出場。清水エスパルスでのタイトル獲得。華々しい選手キャリアと裏腹に、著書は2002年日韓W杯の初戦、左足の違和感で途中交代を余儀なくされたシーンで幕を開ける。 「本を書くことになって半生を振り返ってみると、思い出すのは苦い経験ば
-
富士宮出身作家 横関大さんサイン会 富士
テレビドラマ化、映画化された小説「ルパンの娘」シリーズなどで知られる作家横関大さん(47)=富士宮市出身=が3日、富士市の書店「谷島屋富士店」で自身初のサイン会を開き、地元ファンとの交流を楽しんだ。 新刊「忍者に結婚は難しい」(講談社)のキャンペーン活動の一環。店舗入り口付近に設けた特設コーナーで、さまざまな年代の来場者が差し出す書籍に次々サインした。 横関さんは富士高の卒業生。富士宮市役所勤務時代の2010年に「再会」で第56回江戸川乱歩賞を受賞した。なじみ深い地域での初サイン会に「作品を読んでくださっている方々と会えるのが楽しい」と述べ、担当編集者らを交えてファンと言葉を交わした。
-
ビール醸造所直営の宿泊施設内覧 静岡・用宗の魅力、発信拠点に
クラフトビールメーカー「ウエストコーストブルーイング(WCB)」(静岡市駿河区用宗)は29日、醸造所近隣に7月オープンする直営宿泊施設の内覧会を開いた。取引先関係者ら約120人が、タップルーム(パブ)とベッドルームが一体化した新施設の門出を祝った。 老舗レストランをリノベーションした2階建て宿泊施設「ザ・ヴィラ・アンド・バレル・ラウンジ」は全5室。各部屋に生ビールサーバーが付き、1階のタップルームでも同社の多彩なビールが楽しめる。ビール醸造所が宿泊施設を運営するのは珍しい。 2017年から用宗地区の観光開発に取り組むCSA不動産(同市葵区)の小島孝仁社長は「クラフトビール界屈指の人気ブラ
-
静岡市歴史博物館 建物設計の意図「SANAA」2氏に聞く
7月23日にプレオープンする静岡市歴史博物館(葵区)は、市の歴史や文化を学ぶ展示とともに、世界的に活躍する建築事務所「SANAA」(サナア)が担当した館のデザインも見どころだ。博物館の機能と「かたち」の美をどう両立させたのか-。SANAAの妹島和世さん、西沢立衛さんに、設計の意図を聞いた。 抑揚生む「雁行配置」 徳川家康や今川氏の歴史をはじめとした、静岡市の成り立ちを理解するための展示と資料を収める同館。市街地と、家康の居城だった駿府城公園を結ぶ地点に位置する。 SANAAの二人は設計にあたり、何度も直角に折れ曲がりながら城下を通り抜ける旧東海道に着目した。石垣を直角に曲がってたどり着
-
伊豆市資料館「埋甕」 縄文時代中-後期【美と快と-収蔵品物語㉛】
旧中伊豆町の町立施設として1987年に建てられた伊豆市資料館。館内に掲示された市内の主な遺跡の地図には誰もが目を見張る。その数、116カ所。うち縄文時代が約80カ所を占める。狩野川支流の大見川流域、天城連峰の懐に抱かれた肥沃[ひよく]な地は、はるか昔から人の営みとともにあった。同館が収蔵する国指定史跡「上白岩遺跡」の「埋甕[うめがめ]」などの出土品は、3000~4000年前にこの地に生きた人々の確かな証しである。 ■集落営み 今に伝える 上白岩遺跡は1976年の予備調査を踏まえ、77年に本格的な発掘調査が開始された。調査は2004年までに計12回行われている。旧中伊豆町立中伊豆歴史民俗
-
各部屋にサーバー ビール醸造所が宿泊施設 静岡、7月1日開業
クラフトビール醸造・販売のウエストコーストブルーイング(WCB)は7月1日、静岡市駿河区用宗の醸造所の向かい側に直営宿泊施設「The Villa&Barrel Lounge(ザ・ヴィラ・アンド・バレル・ラウンジ)」を開業する。小規模ビール醸造所は全国に580カ所超、本県に20カ所超あるが、本格的な宿泊施設を運営するのは珍しい。30~50代の国内ビールファンをターゲットに年間稼働率6割を目指し、宿泊客の周辺回遊を促すことで、用宗地区一帯で開発が進む観光関連ビジネスの活性化に寄与する。 「ブルワリーに泊まれる」をコンセプトにした全5室を提供する。各室とも生ビールサーバー付きで、宿泊者限定ビール
-
静岡人インタビュー「この人」 鈴木康広さん(東京都) 県文化奨励賞に選ばれた現代美術家
ありふれた日常に新しい切り口を与え、世界の捉え方を問い直す作品をつくり続ける。2021年に静岡市美術館の入り口ホールで開いた個展では、10年の同館開館時の展示作品「まばたきの葉」を同じ場所に“再生”。時空を超えた参加型アートとして話題を呼んだ。武蔵野美大教授。浜松南高出。43歳。 -受賞の感想を。 「たいへん光栄。活動機会をいただいたこと、それを文化・芸術として認めてもらえたことがうれしい。僕は生活の中で『大切だ』と思ったことを、研究機関や展覧会を企画する方々と具現化してきた。街の空間に新しい場所を見つけるのが自分の活動だと再認識できた」 -「楽しさ」を深く、広
-
アニメ制作スタジオ 静岡市に初進出 県内学生採用に意欲
東京都に本社を置くアニメ制作会社「シャフト」が6月、静岡市葵区に制作スタジオを新設した。アニメ制作会社が同市に進出するのは初めてで、アニメ業界への就職先として市内の専門学校からも歓迎の声が寄せられている。首都圏から移住した社員もいて、市は「若者の人口流出を防ぎ、地域活性化の起爆剤になれば」と期待を込める。 23日にはシャフトの久保田光俊社長(62)=菊川市出身=が静岡市役所を訪れ、田辺信宏市長に新設した「静岡スタジオAOI」の業務開始を報告した。久保田社長は「ここ数年の通信環境の向上やテレワークの定着で、首都圏以外でも制作できると考えた。静岡から世界に作品を発信するというロマンを追い掛けた
-
ドラムの楽しさ♪議論 浜松で気鋭2人が座談会
気鋭のドラマー2人が奏法を語り合う「ドラム・ザ・座談会」が、浜松市西区のカフェ「エスケリータ68」で開かれた。バンドサウンドを下支えする苦労や楽しさについて、お互いへの敬意を込めて議論した。 インストバンド「SAKEROCK」の創設メンバー伊藤大地さんと、ジャズやラテンなど幅広い音楽性のバンド経験がある滑川博生さん(三島市)が登場。2基のドラムセットに座り、それぞれが参加した近年の楽曲を聴きながら、ドラムパートの工夫を実演、説明した。 スティックさばきの練習や、バンド演奏時のテンポの修正方法など、寄せられた質問にも専門家の立場から答えた。高校時代はロックバンド「X JAPAN」に憧れてい
-
丸子のビール醸造開始 静岡の食に対応、ラガー中心 駿府匠宿内
静岡市駿河区丸子の観光施設「駿府の工房 匠(たくみ)宿」内に新設されたクラフトビール醸造所「静岡醸造」が21日、本格的に醸造を開始した。市内四つ目のビール醸造所が動きだした。 福山康大代表(33)=同区=、醸造担当の折山徹郎さん(32)=同区=が、醸造所の第1号となるホワイトビールを仕込んだ。コリアンダー、ユズの皮、米こうじを副原料に使い、ラガー酵母で発酵させるという。240リットルの発酵タンク5基が並ぶ醸造所内に甘い香りが漂う中、2人は麦汁の煮沸や糖化の作業にいそしんだ。 ホワイトビールは7月中旬に完成する見込みで、同時期に仕込むIPA、ラガーとともに醸造所に隣接する飲食施設で提供する
-
記者コラム「清流」 「こだわり」が多すぎる
昨今のコンビニには「こだわり」があふれている。「こだわりの○○ケーキ」「こだわり製法」「シェフこだわりの〇〇」-。いつからこんなに増えたのだろう。 新聞やテレビもしかり。「任期中の表明にこだわった」「こだわり抜いた職人技」。理解できるものも、違和感があるものも。先輩記者には「拘泥の『拘』。本来、肯定的な言葉ではない」と教わった。 新明解国語辞典には「どうでもいいと考えられることにとらわれて気にし続ける」とある。一方で「深い思い入れをする」とも。意味がプラスに転じた珍しい例らしい。 便利な表現なのかもしれないが、使用頻度が高すぎないか。安直さ、空虚さを感じ取るのは私だけか。自問自答を聞い
-
戦争の記憶にじませて 静岡の岩崎さん短編集「水の彼方」刊行
小説家岩崎芳生さん(静岡市葵区)の新刊「水の彼方 十四の短編」は、静岡に深く根を下ろし、市井の人々に材を求めた約40年間を俯瞰[ふかん]する自選集。岩崎さんは過去の14編と向き合い、ストーリーラインをくっきりと浮かび上がらせるべく、曖昧さのそぎ落としに没頭した。極限までシェイプさせた小説群は、読む者の胸の底に確かな刻印を残す。 1979年の「牛坂」から2021年の新作「川の中で」まで、人々の暮らしに潜むドラマを描く作品が続く。何度となく故郷を題材にした小川国夫(1927~2008年、藤枝市出身)の言葉が常に頭にあったという。「『何を書くかではなく、どう書くかだ』と言っていた。見えているもの
-
親子でハマる野外音楽フェス♪ 心と体に開放感【NEXTラボ】
開放的な空間で多彩なアーティストの演奏が楽しめる野外音楽フェスティバル(フェス)が、本格的なシーズンを迎えた。若者向けのイメージもあるイベントだが、近年は参加者の年齢幅が広がり、静岡県内会場でも家族連れの姿が増えている。新型コロナウイルス禍の中でも、主催者は世代を超えて愛されるフェスを目指し、子ども向け企画や過ごしやすさに配慮した運営に力を注ぐ。 増える家族連れ 過ごしやすく 5月中旬に富士市の「富士山こどもの国」で開催された「FUJI&SUN(フジ・アンド・サン)」は、子ども向けの広大な遊び場が会場。イベントとしての企画に加え、動物への餌やり体験や大型遊具の開放など、既存の設備を使った
-
三善(掛川市)川合利弘さん 食品スーパーの一角 “架空の醸造所”出現【しずおか クラフトビール新世代㉔・完】
食品スーパー「フードマーケットサンゼン葛川店」(掛川市)には、「醸造所」を名乗るスペースがある。「『サンゼン・ブリュワリー』。2021年2月の店舗改装に合わせて“架空の醸造所”を出現させた」と話すのは、運営会社「三善」の川合利弘社長(52)=同市出身=だ。国内外のクラフトビール約150種をずらりと並べ、オリジナルのグラスやTシャツも販売。市内生産者の豚肉を使ったソーセージなど、おつまみの提案にも余念がない。スーパーとしては異例の売り場をつくり出した。 創業から120年以上、食品スーパーとして半世紀以上の歴史がある三善の4代目である川合さんがクラフトビールにのめり込む
-
侵攻前の貧村「息吹」鮮明に ウクライナ出身写真家が来日個展
ウクライナ・マリウポリ生まれで現在はドイツ・ベルリンを拠点に活動する写真家ビクトリア・ソロチンスキーさんが、旧知のキュレーターで映画監督の渡辺真也さん(沼津市出身)の招きで来日。東京・渋谷でチャリティー展覧会「生命[いのち]を夢見て:ウクライナと共に」を開いている。首都キーウ近郊の貧村を捉えたシリーズは図らずも「失われた風景」の記録となってしまった。「ロシア軍の侵攻は、ウクライナの文化を破壊している」と訴える。 世界23カ国で展覧会を開いている。日本での個展は2017年に京都で開かれた「Anna&Eve」展以来。自身の内部を戯画的に映し出すポートレートでも知られるが、今回展ではドキュメンタ
-
ほぐせない関係性、平穏の背後に 宇佐見りんさん「くるまの娘」
芥川賞作家の宇佐見りんさん(沼津市出身)が、受賞後第1作の「くるまの娘」(河出書房新社)を発刊した。人間同士の解きほぐせない関係性と、その不均衡を包摂して紙一重で保たれている平穏。何げない日常に潜む危うさを、家族という共同体に託して物語化している。 高校生のかなこは、祖母危篤の報を受け、父母、弟、兄と父の実家に車で向かう。車中泊、祖母の死、集まる親戚たち、葬儀-。淡々と進む儀礼の合間に、家族の過去が差し挟まれる。 かなこと父、かなこと母、父と母、父と兄、かなこと弟。傷つけ、傷つけられしながら今に至る1対1の関係性が容赦なく描かれる。のんきな家族間の会話の背後に、暴力の気配が立ちこめていく
-
ウクライナの子ども支援へ写真展 沼津出身の映画監督、東京で開催
沼津市出身のキュレーターで映画監督の渡辺真也さん(42)が代表を務めるアートボランティア団体「アートエイド実行委員会」が、ロシアによるウクライナ侵攻で被害を受けた現地の子どもを支援しようと、世界的評価を受けるウクライナ出身の写真家ビクトリア・ソロチンスキーさん(42)を招いた個展を12日、東京・渋谷の「ギャラリーTOM」で始めた。 2009~18年に首都キーウ近郊の村に通い、古い民家に住む高齢者たちの生活を撮影したシリーズ「Lands of No-Return(帰らざる国)」など約30点を出品した。 ソロチンスキーさんはウクライナ南東部のマリウポリ生まれ。1990年に家族とともに当時のソ
-
多彩な魅力「カストリ雑誌」 静岡市でトークショー
遊郭研究の第一人者で遊郭専門出版社「カストリ出版」を経営する渡辺豪さん(45)=写真=が、太平洋戦争終結直後にGHQの検閲をかいくぐって出版された「カストリ雑誌」の成り立ちや魅力を紹介するトークショーを、静岡市葵区の登録有形文化財鈴木邸で開いた。 各種メディアでは、カストリ雑誌の数々を戦後の闇市を販路として広がった「エログロ雑誌」と定義する例が多い。渡辺さんはこれに異を唱えた。「1946(昭和21)年ごろから出始めたカストリ雑誌は、49(昭和24)年に大手取次がつぶれ中小出版社の在庫が露店に流れるまで、書店に並んでいた。情報不足でイメージが先行したのではないか」 低質で乱造された「かす取
-
中世ビール原料「ヤチヤナギ」 静大に植樹、株増やし醸造材料に
静岡大の学部横断組織「発酵とサステナブルな地域社会研究所」(所長・大原志麻人文社会科学部教授)は6日、産学官の垣根を越えて再現を試みる中世欧州のビールに必須の原料植物「ヤチヤナギ」を静岡市駿河区の同大学内に植樹した。生育の経過を観察しながら県内で株を増やし、3年後にビール醸造の材料として用いる計画。 式典では田島慶吾人文社会科学部長とプロジェクトに加わるふじのくに地球環境史ミュージアム(同区)の佐藤洋一郎館長が、ヤチヤナギの研究に取り組む北海道立総合研究機構森林研究本部林業試験場から提供された幼木を丁寧に植えた。 ヤチヤナギは中世の欧州の庶民が飲んだ「グルートビール」の主原料。ヤマモモ科
-
KIRINJI 生演奏で心地よい緩さ FUJI&SUN出演
富士山を間近に見ながら約30組のライブとキャンプを満喫するフェスティバル「FUJI&SUN(フジ&サン)’22」(静岡新聞社・静岡放送、WOWOWなど主催)が14、15の両日、富士市の「富士山こどもの国」で開催される。主要アーティストのKIRINJIは新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止になった2020年の同フェスに出演予定だった。メンバーの堀込高樹は仕切り直しとなった今回の出演を心待ちにする。 堀込高樹、堀込泰行の兄弟グループ「キリンジ」として1998年にメジャーデビュー。2013年に高樹が中心の6人組バンド「KIRINJI」として再編成し、21年からは高樹のソロプロジェク
-
館蔵品を蓄積、新サイト公開 作品情報の活用促進へ 静岡県立美術館長/木下直之氏【本音インタビュー】
静岡県立美術館は4月、新しいデジタルアーカイブを公開した。収蔵品検索のほか、動画や超高精細画像による作品・作家の紹介など新しいコンテンツも導入した。デジタル時代の美術館はどうあるべきか。役割の変容を聞いた。 -刷新の背景は。 「新型コロナウイルス禍で、展示室を閉めるという想定していなかった事態に陥った。県境を越える移動の制限で、県外在住者の来館を遠慮していただく時期もあった。公に対して開かれているべき美術館や博物館は、こうした場合にどういう形で開けばいいのかという問題に直面した。国がオンラインの展示活動について、奨励を始めたことも大きい。今回のアーカイブ拡充にも国費が出ている」 -約2
-
異形うごめく歌詞世界 逆柱さん「漏電銀座」 静岡でライブ
漫画家逆柱いみりさん(静岡市葵区)のバンド「漏電銀座」が、同区七間町に移転オープンしたライブハウス「騒弦」で演奏を行った。ぐしゃっとした音色のギターにのせて、異形の者どもがうごめく摩訶[まか]不思議な歌詞世界を描いた。 2007年に結成したバンドの第1弾CD「ぬばたまの世界」発表後、初の地元ライブ。ナースルックで現れた逆柱さんは、ニシガヤキウコさんのドラムと自身のギターで不穏かつポップなサウンドを構築。ぬめっとした生き物たちが跋扈[ばっこ]する地下世界を歌う「ねずみの国」を皮切りに、風変わりな単音のギターフレーズを繰り返しながら、しゃがれた声で客席に言葉を投げつけた。 1980年前後の英
-
ビアパブ12年礎築く 呉服町タップルーム(静岡市葵区)横田史剛さん【しずおかクラフトビール新世㉓】
JR静岡駅は、徒歩圏内にビアパブやビアバーが約20軒ある。「日本一のクラフトビールシティー」と評価する声も聞こえる。 クラフトビールが今ほど認知されていなかった2010年、17タップを並べたビアパブ「ビールのヨコタ」を市役所近隣に開き、クラフトビールシティーの礎を築いたのが横田史剛さん(41)=吉田町出身=だ。2年前に「呉服町タップルーム」と名を変えた店は4月4日、12回目の誕生日を迎えた。 「30年は続けるつもりで始めた。まだ12年しかたっていないのかと」。ひょうひょうとしたキャラクターだが、大人数の来店をご法度とするなど、確固たる哲学を持つ。12年間の営業を経て、一人客の居心地を優先
-
初登場の角銅真実 「偶然」に身委ねたい FUJI&SUN
雄大な富士山の懐で音楽ライブやキャンプ、野外活動のワークショップを楽しむフェスティバル「FUJI&SUN(フジ&サン)’22」(静岡新聞社・静岡放送、WOWOWなど主催)が5月14、15の両日、富士市の「富士山こどもの国」で開かれる。3回目の今年は約30組のアーティストが集う。初登場のシンガー・ソングライター角銅真実に、初夏の野外フェスを前にした心境を聞いた。 2020年、アルバム「oar」でメジャーデビューした。東京芸大音楽学部打楽器専攻卒。弦を中心に据えたアコースティック楽器の穏やかなアンサンブルに、静謐[せいひつ]さと力強さを兼ね備えた歌声をのせたサウンドで、音楽ファンを
-
静岡県立美術館 新デジタルアーカイブ 所蔵2700点を収録 池大雅作品、高精細画像で
静岡県立美術館が、所蔵品約2700点の作品を検索できる新しいデジタルアーカイブを公開した。これまでの検索サイトを一新し、作品解説など情報の充実を図ると同時に、動画や高精細画像を活用したコンテンツを加えた。スマートフォンでも見られる。 所蔵品検索のエリアでは、約8割の作品が画像付き。図書閲覧室に収めた図録などの情報も新たに加えた。 動画のエリアでは浜松市出身の美術家中村宏さんが1950年代から現在までの作品制作を語るインタビューや、木下直之館長と「批評とその愛人№1-7」が同館に所蔵されている美術家森村泰昌さんの対談などが見られる。 所蔵作品への新たなアプローチも。オーギュスト・ロダン作
-
美術館の機能可視化「大展示室展」開幕 静岡県立美術館再始動
静岡県立美術館(静岡市駿河区)で2日、展示室の機能や仕組みをテーマにした企画展「大展示室展」が開幕した。約7カ月の改修工事による休館を経て再始動した同館が、全国でもほぼ類例がない展覧会をスタートさせた。 来館者の快適さを確保するための展示室の構造、作品を安全に展示するための器具や照明について、備品と解説文で紹介。普段は『脇役』の移動壁、スポットライト、作品の梱包(こんぽう)用具などに焦点を当てた。空調や温湿度の管理、空気中の有害物質計測にも言及し、通常の作品展では目につかない工夫を可視化している。 「変わった預かり品」「はらはらさせる展示物」など、監視員が業務のこぼれ話を語るボードも随所
-
静岡県立美術館 7カ月ぶり展示再開 空調、照明、壁…設備に作品生かす工夫いろいろ
耐震工事などによる臨時休館を経て4月、県立美術館が約7カ月ぶりに展示を再開する。2日からの「大展示室展」は作品展示の工夫や美術館内の知られざる仕組みがメインテーマ。これを機に、地域の財産とも言うべき収蔵品のより良い見せ方や、美術館・博物館の意義を考えたい。県立美術館で収蔵品の保存管理を担う新田建史上席学芸員に、「大展示室展」の内容に沿って展示室の設備を解説してもらった。 ■移動壁 美術館の展示室は企画内容に応じて可動式の移動壁を設置します。壁は鉄骨の上に木板を貼りクロスで覆ったもの。当館の移動壁は高さ約4メートル、幅は2・6メートルから7メートル超までさまざまです。 展示室上方
-
読書体験、作品の糧に 小説プロジェクトが文科大臣賞 加藤学園暁秀高の小池さんと駒走さん
加藤学園暁秀高2年の小池りりいさん(沼津市)、駒走旬星[こまはしりじゅんせい]さん(同)による、地元を題材にした小説のプロジェクトがこのほど、国立青少年教育振興機構が主催する「地域探究プログラム」の文部科学大臣賞に選ばれた。幼少期から積極的に本に触れ、受賞作品の糧とした二人に、それぞれの読書体験を語ってもらった。 -最初に自分で選んで読んだ本は。 小池「小2の頃に書店で買った『ドギーマギー動物学校』(姫川明月/作・絵)です。犬が好きだったので、動物たちが描かれた表紙に引かれて手に取りました。イラストがかわいらしく、楽しく読んだ記憶があります」 駒走「自宅にあったグリム童話集。小2か小
-
193バレーブリューイング(島田市) 渡辺威夫さん 茶農家に縁、思い込め【しずおかクラフトビール新世㉒】
島田市の伊久美地区と縁を紡いで丸10年。193[イチキューサン]バレーブリューイング(同市)の渡辺威夫醸造長(30)は、2月に完成した、地元産茶葉を使ったビール2種を前に来し方を振り返った。「今までのつながりに、やっと答えが出た気がする」 伊久美に初めて来たのは、東京農大の学生だった2011年12月。環境保全や食に関わる課題解決を目指す学生のネットワーク「世界学生フォーラム」の活動の一環として、先輩に導かれた。 東京生まれで、島田市や静岡県に特別な思いはなかった。中山間地の少子高齢化、過疎化の対策を実地研修を交えながら考える上で適切。伊久美はそうした意味合いで選ばれた地域だった。茶の栽培
-
震災11年 福島の生活は 美術家・乾さん 浜松で報告会
東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の発生から11年目の3月11日、浜松市中区の鴨江アートセンターで、美術家の乾久子さん(同市西区)が、2021年に福島市で開いた個展と、同年に福島県内を旅した様子について報告するトークを行った。参加者との対話を交え、福島の生活や文化の過去と現在を浮かび上がらせた。 乾さんは同年3月から12月まで、計6回福島県を訪れた。震災があった11年、3月12日からの新聞1面を黒で塗りつぶす作品を毎日制作した経過があり、10年後に改めて五感で現地を体感したくなったという。 21年3月11日、福島入りした乾さんは常磐線車中で得がたい体験をした。地震が起こった午後2時4
-
アートの力を事業に生かそう 地域課題解決へ実証実験 アーツカウンシルしずおか、県内4社と
静岡県が県民の芸術活動支援のために設置した「アーツカウンシル(AC)しずおか」が、アートの力を使って企業活動や地域の活性化を図るプロジェクトに取り組んでいる。県内4社を選定し、それぞれの事業活動にアーティストやアートディレクターを関わらせることで、どんな“化学反応”が生まれるか検証する。事業者がアートの思考で市民と対話し、事業内容や街並みに目に見える変化を生み出すのが狙いだ。 空き家の利活用プロジェクト「アキヤアソビ」を手掛ける日の出企画(三島市)は選定4社の一つ。今月、市内の空き家、空きスペースで、それぞれアート作品展示や飲食を核に据えたイベントを企画する。ACし
-
静鉄車両で朗読劇 SPAC俳優 3月19、27日に上演
静岡鉄道の運行車両内を“舞台”として沿線の歴史や風物を題材にした朗読劇を展開する「きょうの演劇inしずてつ」(静岡市主催)が19、27の両日上演される。開催に先立ち6日、関係者向けに試演された。 SBSラジオで毎週土曜に放送中の「きょうの演劇」の発展演目。昨秋に放送した静岡鉄道にまつわる戯曲3本を、SPAC俳優宮城嶋遥加さんが新静岡駅から新清水駅までの約20分間に身体表現を交えて朗読した。 ギターとオーボエの即興演奏に乗せ、県産茶を運んだ鉄道の歴史、沿線各駅の由来や周辺環境、過去に存在した遊園地「狐ケ崎ヤングランド」(現在の静岡市清水区)の風景などを、乗客に語り掛
-
アオイブリューイング(静岡市葵区)星野賢人さん 倒産から1年で復活「恩返しを」【しずおかクラフトビール新世代㉑】
運営会社の倒産に伴う醸造停止から1年。22日、復活なったアオイブリューイング(静岡市葵区)のビール3銘柄が市内3店舗で飲めるようになった。 2014年から稼働したかつての「アオイ」の代表的ブランドであるゴールデンエール、IPA、アルトを同じレシピで再現。同区のビアスタンド「ザ・パイント・シャック」では、午前11時の開店を待ちかねたように注文するファンもいた。アオイの醸造長星野賢人さん(35)は「ファンの期待が大きくプレッシャーを感じていたが、第1弾が完成してほっとした。醸造を重ね、品質をさらに高めていきたい」と気を引き締めた。 星野さんがアオイに入ったのは20年10月。広島市でのビール醸
-
元祖ロードムービー 3月、静岡で特集上映 ベンダース監督の名作6本【とんがりエンタ】
ドイツ映画の巨匠ビム・ベンダース監督が自ら監修、修復した名作6本が3月、静岡市葵区の静岡シネ・ギャラリーで特集上映される。監督の代名詞である「ロードムービー」の初期3作をはじめ、多様な作品群をまとめて見られる。 ラインアップは4~10日が「都会のアリス」(1974年)「アメリカの友人」(77年)「パリ、テキサス」(84年)で、11~17日が「まわり道」(75年)「さすらい」(76年)「ベルリン・天使の詩」(87年)。同館の川口澄生副支配人はベンダース監督について「70年代のドイツ映画の新潮流『ニュー・ジャーマン・シネマ』の担い手の一人。主人公の旅を追うロードムービーという映画ジャンルを確立
-
次郎長からっと明るく 町田康さん小説新シリーズ「男の愛」 静岡県のローカルヒーロー主人公に
熱海市に居を移して16年目。芥川賞作家の町田康さんは小説新シリーズ「男の愛」で、静岡県のローカルヒーロー清水次郎長を主人公に据えた。浪曲で知られるアウトローの一代記を、軽妙な会話と大立ち回りを織り交ぜながら喜劇として展開する。「さまざまなエンターテインメントの題材になっている次郎長の、新しい姿を示したい」 物資を満載した千石船、荷揚げ荷下ろしの人足、料理屋、宿屋、遊女屋-。2019年9月から続くウェブ連載をまとめたシリーズの単行本第1弾「たびだちの詩」(左右社)は、にぎわう清水湊[みなと]の描写で幕が開く。 次郎長は幼少期から親しみのあるキャラクターだ。「小学生の頃には映画や歌謡曲を通じ
-
縦横 強弱 端正な交錯 筆致多様に世界表現/ベルナール・ビュフェ 色彩と線㊦「線の変容」
第2次大戦後まもなく、19歳で本格的に画壇デビューしたフランス人画家ベルナール・ビュフェ(1928~99年)。当初は虚飾を排した独自の人物描写に注目が集まったが、そのモチーフは摩天楼、昆虫、水辺の風景など時代によって変遷した。ベルナール・ビュフェ美術館(長泉町)で開催中の所蔵品展「具象画家 ベルナール・ビュフェ-ビュフェが描いたもの-」に出品された代表作からは、画題の移り変わりが線の変容と一体であることが読み取れる。 ≪アトリエ≫は頭角を現し始めた10代後半の作品。黙々とキャンバスに向かう自身を描いた。物の輪郭線や背景の質感表現としての線が特徴的で、対象によって明確に違いが出ている。同美術
-
八雲作品の朗読・演奏 動画を公開 焼津、能楽師安田さんが演出
昨年10月に焼津市の旧服部家「帆や」で行われた、能楽師安田登さんが演出を担当した小泉八雲作品の朗読・演奏会の動画が、1月21日から毎週金曜に動画投稿サイト「ユーチューブ」で順次公開されている。明治時代に建てられ、昨年再生工事が完了した古民家を舞台にした迫力満点のライブ。焼津ゆかりの八雲の作品に新たな命を与えている。 演目は「耳なし芳一」と「漂流」。安田さんと俳優佐藤蕗子さんの朗読、琵琶奏者塩高和之さん(静岡市出身)の演奏を4台のカメラがドラマチックに捉えた。琵琶を手に平家物語の平家滅亡を語る芳一の姿、平家の亡霊と相対する芳一の恐怖の描写が聴きどころ。 緩急と抑揚を巧みに使い分けた二人の朗
-
紙素材を作品の“肌”に 現代美術家・楡木令子さん(藤枝市)
1990年代から紙を素材にした立体作品を発表する現代美術家楡木令子[にれきれいこ]さん(東伊豆町出身)。昨年、藤枝市の地域おこし協力隊の一員になり、中山間地域で子どものアート教室を実施している。 富士市で開催中の個展に設置したインスタレーションは、95年に初めて紙で創作した「人の抜け殻」7体が中心。ベルリン芸術大院在籍時に再生紙の卵パック約5千ケースを砕いて水に溶かし、粘性を高めて形を作った。高さ170センチほどの作品群はアーティストとしての“原点”だ。 「粘土を使ったこともあるが、完成までのプロセスが長すぎる。鮮明な像として結ばれたアイデアがだんだんぼやけて鈍く
-
伊豆の国ビール(伊豆の国市)渡辺仁さん なじみの水で仕込み「飲みやすさ高める」【しずおかクラフトビール新世代⑳】
自分が育った町で、飲み慣れた水を使ってビールをつくっている。「伊豆の国ビール」の醸造担当、渡辺仁さん(42)は醸造所が立地する旧大仁町(伊豆の国市)出身、在住。「大仁の水は昔からおいしいと言われていた」と胸を張る。 20代から30代半ばまで、ビールが全く飲めなかった。日本酒、焼酎、サワーなど酒類は何でも飲めたが、唯一の例外がビール。「ホップの苦みが苦手だった」という。 2015年、醸造所のレストラン担当として、毎朝のビールテイスティングを任された。「ピルスナーもヴァイツェンも苦さが控えめ。口当たりが柔らかく、のど越しが良かった」。人生で初めてビールを「うまい」と感じた。 同醸造所のルー
-
世界の“格言”題材に対話 静岡県詩人会、田中章義さん講演会
静岡県詩人会(中久喜輝夫会長)は、年始恒例のイベント「ポエム・イン・静岡」を静岡市駿河区の県男女共同参画センターあざれあで開いた。歌人の田中章義さん(同区)が約20年前から世界を旅して集めた「千年生きている言葉」を題材に、約20人の参加者と対話した。 「多く持っていない人が貧しいのではなく、多くほしがる人が貧しい」(スペイン)「友のいない人生は塩気のないピラフだ」(ウズベキスタン)「神さまは決して目をつぶらない」(ジャマイカ)-。田中さんは各国で長く伝えられている“格言”を一つ一つ紹介。一部の単語を隠した形で文を提示し、「詩人の方々には一人一人の正解がありそうだ。皆
-
ビール友達、夢を実現 三島に醸造所「ティールズ・ブリューイング」、今春本格稼働
三島市のクラフトビール醸造所「ティールズ・ブリューイング」が今春、本格的に醸造を始める。昨年12月18日、醸造所併設の飲食施設を先行開業した。同市でビール醸造所が創業するのは初めて。市内のビアパブで意気投合した二人が、約5年かけて夢を実現させる。 醸造担当で同社代表社員の秋田克彦さん(48)=新潟県出身=と店舗担当の川口聡さん(46)=三島市出身=は2016年、伊豆箱根鉄道三島広小路駅前にあった「ビアバール丸々」で出会った。「お互いの仕事など細かいことは何も知らなかった。楽しい飲み友達だった」(秋田さん) その後、秋田さんはビール醸造への、川口さんはビアパブ経営への情熱を募らせ、別々に
-
理学部・人文社会科学部100周年 静大同窓会が冊子 コロナや災害論考
静岡大理学部、人文社会科学部の同窓会が、両学部の前身である旧制静岡高創立から100年を迎える記念事業として新型コロナウイルス禍や自然災害に関係した研究結果や知見をまとめた冊子を発刊した。 「文理両面から迫る新型コロナウイルスと自然災害」と題し、両学部の教員14人が歴史学、心理学、化学、生物学など多様な視点で論考を寄せた。 人文社会科学部の鈴木実佳教授はダニエル・デフォーの著書「ペストの記憶」(1720年)を参照しながら、18世紀初頭の情報伝達のありようを論じた。理学部の徳元俊伸教授は新型コロナワクチンのメカニズムを、開発過程を交えて解説した。 A4判76ページの冊子は約5千部印刷し、県
-
中世ビール再現へ 静岡大プロジェクト、春にも原料を試験栽培
中世の欧州で飲んでいたビールを、静岡県産の原料で再現しよう-。静岡大に今冬設置された研究組織「発酵とサステナブルな地域社会研究所」(所長・大原志麻人文社会科学部教授)が、産学官や大学の学部の壁を超えたプロジェクトを始めた。中世のビールに欠かせない植物「ヤチヤナギ」を北海道から取り寄せ、2022年春から富士宮市の醸造所が試験栽培する。 大原教授のゼミ生が21年夏に取り組んだ、中世の欧州の庶民が飲んでいた「グルートビール」の再現実験を発展させる。スペイン史が専門の大原教授ら文系学部の教員のほか、同大の理系学部教員、富士宮市のクラフトビール醸造所「フジヤマハンターズビール」の深沢道男代表、ふじの
-
ZOO(静岡市葵区)伏見陽介さん 百人百様の味わい 飲み比べ楽しんで【しずおかクラフトビール新世代⑲】
自他共に認める、静岡のクラフトビールの「伝道師」だ。2021年春に自らの会社「ZOO」を立ち上げ、11月末に生ビールの有料試飲ができる酒販店「MUGI」をオープンした伏見陽介さん(27)=静岡市葵区=。「市内のどんな居酒屋にも県内の醸造所のビールが常時置かれている。そんな状況を目指す」と理想を掲げる。 17年に同市内のクラフトビール店を紹介した「静岡クラフトビアマップ」を発刊し、名をあげた。19年には全県版を12万部発行。18年からは清水区で秋に開かれる「静岡地ビールまつり」の企画も担当する。セミナーや講座の講師としてもおなじみだ。本県のクラフトビールファン増と、各醸造所のブランド向上への
-
ヒカシュー25作目 月例ライブで精製、心躍るメロディー
結成43年のバンド「ヒカシュー」が25作目のアルバム「虹から虹へ」を発表した。新型コロナウイルス禍の中で継続した月例ライブで生まれた、メロディーが際立つ楽曲が基軸。ボーカルとさまざまな楽器を担当するリーダー巻上公一(熱海市)に、サウンドの背景を聴いた。 エストニアで録音した即興演奏曲主体の24作目「なりやまず」からちょうど1年。昭和歌謡のムードを濃厚に漂わせる旋律や心躍る8ビートが前に出た、前作と対をなす作品に仕上がった。 「(東京のライブハウス)吉祥寺スターパインズカフェでのマンスリーライブを通じてできた楽曲がほとんど。メロディーがポップなのは、三田超人さん(ギター)や坂出雅海さん(ベ
-
苦悩 解放感 海と空 感じたままに塗る/ベルナール・ビュフェ 色彩と線㊤「色の変遷」
戦後の具象画シーンを引っ張ったフランス人画家ベルナール・ビュフェ(1928~99年)は、2020年秋から21年初頭にかけて東京で回顧展が開かれるなど、近年再び注目度が高まっている。ベルナール・ビュフェ美術館(長泉町)で開催中の所蔵品展「具象画家 ベルナール・ビュフェ-ビュフェが描いたもの-」で見られる代表作を上下2回の特集で紹介し、作品の背景や技法を読み解く。「上」のテーマは「色の変遷」。 初期のビュフェは栗色や灰色など、少ない色で画面を構成する。21歳のビュフェの自画像とも言われる≪肉屋の少年≫について同美術館の杉崎有拡学芸員は「第2次大戦直後のフランス社会、そして自分自身の苦悩や不安を
-
“現代の浮世絵”表現競う 静岡の牧野宗則さん風鈴丸さん、都内で二人展
静岡県内で制作を続ける、ともに版画家の牧野宗則さん、風鈴丸さん親子が17日から26日まで、東京都中央区の和光ホールで「二人展」を開く。伝統木版画という共通の技術を用いながら、それぞれに独自の作品世界を切り開いてきた。会場空間を共有する機会を心待ちにする。 2020年秋にフェルケール博物館(静岡市清水区)で二人展を開いているが、都内では初の“共演”。20年5月に開催予定だったが、新型コロナウイルス禍で延期されていた。両者で約100点を出品し、表現を競う。 牧野さんは18年に同会場で個展を開いた。開催直後に二人展の話が来た。「根底の技術は伝統に則しているが、全く違う表
-
浜松出身音楽家 鈴木惣一朗が新アルバム コロナ禍、歌の刻印残す
浜松市出身の音楽家鈴木惣一朗のソロプロジェクト「ワールドスタンダード」が13作目のアルバム「エデン」を発表した。2020年秋の前作「色彩音楽」と同様に自身の歌を中心に据え、女声と弦楽器を配して穏やかな音像を構築。イラストレーター横山雄の描き下ろしイラストと鈴木の全曲解説を掲載したCDブックのスタイルも前作を踏襲した。 「コロナ禍2年目の意味を、刻印として録音芸術に残す必要があった」と心境を語る。打楽器が入らない全8曲は、語り掛けるような歌声も相まって、淡いモノトーンの世界を印象づける。 「安直な希望、癒やしの歌を書くことはできない。状況が揺れているのであれば、自分の気持ちも揺れ動く。それ
-
自慢のコーヒー飲み比べ 浜松、地元店集まりフェス
浜松市中区の浜松城公園で、地元コーヒー店が味と香りを競う「浜松ローカルコーヒーフェス」が開かれた。13店が軒を連ねた。4店のコーヒーが試飲できる千円のチケットを買い、飲み比べできる。市内に散らばる個性的な店舗の自慢の1杯を楽しんだ。 西区の「香茶屋」は焙煎[ばいせん]の全国競技会で3位入賞した伊藤孝浩さん(52)の店。約20分待ちで手にできたエチオピアの豆を使ったコーヒーは、柔らかな酸味と上品な甘さが口の中でゆったりとほどけた。 光サイホンで提供していたのが粋庵(中区)。生田智日皇さん(64)が「この日のために用意した」という豆は、ブラジル産とコロンビア産をプレミックス(生豆で混合)し、
-
費用の確保支え、つなぐ 所有者代わり建造物を管理 静岡文化財保存活用機構理事/島村芳三氏【本音インタビュー】
文化的価値がある建造物を保存活用する目的で2020年に設立された一般社団法人の機構で、主導的役割を果たす。管理案件第1号である原田昇左右元建設相の生家「原田家住宅」(焼津市)の整備に尽力する。 -文化財保存活用機構の設立経緯は。 「18年の文化財保護法改正で、所有者に代わって民間団体が文化財を保存活用する仕組みが整った。建造物の維持管理は所有者の経済的な負担が大きく、文化的価値が高いのに修繕されずに老朽化している例が多い。こうした場合、維持管理の費用を自ら稼ぐ必要も生じる。機構は、そうした事業を支援する。20年11月には、登録有形文化財の原田家住宅の管理団体として文化庁から指定を受けた
-
静岡市美術館 11年ぶり「まばたきの葉」展示 開館時の空間再び
静岡市美術館(静岡市葵区)は2010年の開館時に展示した美術家鈴木康広さん(42)=浜松市出身=の作品「まばたきの葉」を、30日から再展示する。公開に先立つ29日、鈴木さんが展示作業に立ち会い、11年前の空間を再構築した。 エントランスホールでの鈴木さんの個展「まばたきの葉 未来の待ち合わせ場所」の一環。開館10周年の20年に予定したが、新型コロナウイルス禍を受けて延期した。 「まばたきの葉」は樹木を模した高さ5メートルほどの筒状の塔から、植物の葉を模した紙が大量に降ってくる作品。紙には片面に閉じた目、もう片面に開いた目が描かれ、降り落ちる際はまばたきしているように見える。周囲にいる人が
-
一騎醸造(三島市)阿久沢健志さん 麹への興味「扉」開く ソロ活動で探究の旅【しずおかクラフトビール新世代⑱】
醸造家としてのブランドネーム「一騎[いっき]醸造」を掲げ、さまざまな醸造所でビールをつくる阿久沢健志さん(34)=三島市=。その姿は「漂泊の醸造家」とも「ソロ・ブルワー」とも称される。 比類なきスタイルの原点には麹[こうじ]への強い興味があった。2012年に反射炉ビヤ(伊豆の国市)に入社し醸造を担当していたが、周辺に広がる水田からインスピレーションを得た。「日本の食文化にはみそ、しょうゆなど発酵食品が欠かせない。原料となる米や麦の麹をビールに使えないか」 天ぷらやオムライスなど、換骨奪胎も日本の食文化の美点。ビールにもその伝統を取り入れたい。麹は新しい扉を開く鍵になる-。そんな発想だった
-
4作家 創作の軌跡たどる 沼津で企画展トーク
静岡県東部の美術家グループ「EN[えん]」を主宰する長橋秀樹さん(57)=沼津市=が、自身が企画したグループ展「位置のエクササイズ」の出品作家3人と、会場の「DHARMA[ダルマ]沼津」でトークセッションを行った。 参加したのは菅沼稔さん(70)=同市出身=、松浦延年さん(71)=島田市(旧金谷町)出身=、相沢秀人さん(74)=神奈川県=。それぞれが、学生時代からの創作の軌跡をたどった。後半は「場所性」をテーマに議論した。 大型の油彩画を2点並べた菅沼さんは「大きさで空間を凌駕[りょうが]する。空間の中にどう入っていくかが大切」と意図を語った。 松浦さんは印刷会社の旧工場を活用した展示
-
学芸員、大学で講義 浜松市美術館・島口さん「作品と対話を」
浜松市美術館(浜松市中区)の島口直弥学芸員が、静岡大浜松キャンパス(同)で講義を行った。工学部、情報学部の学生約100人を前に同美術館のあらましや展覧会を楽しむこつ、地域の文化・芸術に親しむことの大切さを説いた。 ことし開館50周年の同美術館が所蔵する7000点以上の作品からガラス絵「青服を着た中国婦人像」、「刺繡[ししゅう]不動明王二童子像掛幅」、洋画家岸田劉生の「草と赤土の道」を紹介し、「コレクション、アーティスト、地域の作家と文化の研究を行うのが学芸員の役割」と語った。 展覧会の特質にも触れた。大別して2種あるとし「学芸員の研究発表の場でもある自主企画と、全国的に高い知名度がある展
-
研ぎ澄まされた音の幸福感 静大サークル源流のバンド「bjons(ビョーンズ)」 新アルバム発売
静岡大の音楽サークルを源流にしたバンド「bjons(ビョーンズ)」が3年ぶり2枚目のアルバム「CIRCLES」をリリースした。シティ・ポップや1970年代の日英米のロック、フォークの香りが漂うサウンドと、ひねりの利いたメロディーが特徴。聴いていると、日だまりの縁側でまろやかな茶をすすりながら青空を眺めているような幸福感を味わえる。 静岡で学生時代を過ごした今泉雄貴(ギター、ボーカル)、渡瀬賢吾(ギター)=浜松市出身=の2人に橋本大輔(ベース)を加えて2017年に東京で結成。現在はドラマー岡田梨沙、キーボード谷口雄がサポートメンバーとして活動をともにしている。 18年の初アルバム「SILL
-
昭和のラジオ 熱狂再確認 名物番組を新著で紹介
川野将一さん(放送作家 浜松出身) ラジオのヘビーリスナーを自負するテレビ放送作家の川野将一さん(浜松市出身)が、昭和時代の名物ラジオ番組とパーソナリティーの魅力を伝える著書「日本懐かしラジオ大全」(辰巳出版)を発刊した。「昭和のラジオの熱狂を確認する契機になった」と執筆を振り返る。 ニッポン放送「オールナイトニッポン」、文化放送「セイ!ヤング」、TBSラジオ「パック・イン・ミュージック」-。多くのリスナーを引き付け、時に物議を醸し、社会を揺さぶった昭和の番組のありようを、当時の放送の再現を交えて語る。徹底的な「リスナー目線」の筆致が、ラジオを愛する者の心をわしづかみにする。 全ては自
-
詩人5人が紡ぐ “千変万化の川” 12月しずおか連詩の会
1999年に始まった毎年恒例の「しずおか連詩の会」が、今年も12月に開かれる。詩人5人が3日間、時間と場所を共有して現代詩40編を紡ぐ。連歌、連句の伝統を継ぐ連詩の基礎知識を、2009年からさばき手(まとめ役)を務める詩人の野村喜和夫さんに教わった。 Q 連詩はいつ始まった? A 1960年代、同人誌「櫂[かい]」のメンバーだった詩人の大岡信さん(三島市出身)が、日本古来の連歌や連句を下敷きにして、同人の谷川俊太郎さん、川崎洋さんらと遊び半分で始めました。当初は全てが暗中模索でしたが、回を重ねるうちに形式やルールが定まっていきました。 大岡さんは70年代に入ると米国、ドイツ、オランダ
-
つま恋で音楽満喫 フェス「FRUE」開幕
「魂の震える音楽体験」を旗印に掲げるフェスティバル「FESTIVAL de FRUE(フェスティバル・デ・フルー)」が6日、掛川市のつま恋リゾート彩の郷で開幕した。屋内の大ステージとキャンプサイトステージに国内外のアーティストが出演し、観客を魅了した。 米国のシンガー・ソングライター、サム・アミドンや日本の人気バンドceroの中心人物、高城晶平のソロプロジェクトなど14組がロック、ジャズ、テクノなど多彩なスタイルの演奏を繰り広げた。家族連れや若者グループなど約1600人が集い、音楽に浸る1日を満喫した。 来場者には新型コロナウイルスのワクチン接種の証明書や、48時間以内のPCR検査の陰性
-
Track’s 静岡のパンクバンド 新ミニアルバム スピードとメロディー融合
大阪のレーベル「THE NINTH APOLLO」に所属する静岡市の人気パンクバンド「Track’s(トラックス)」が3枚目のミニアルバム「Where’s Summer?」を発表した。疾走するギターサウンドと、1回聴いただけで頭に刻まれるキャッチーなメロディーが高い次元で融合している。 トラックスは、ボーカルとギターの生田楊之介、ドラムスの大村隼太、ベースの内田優貴の3人組で、2014年に結成した。「メロコア」とも称される、メロディー重視の高速ロックサウンドでファンの支持を得ている。「ロック・イン・ジャパン・フェス」など多くの野外フェスへの出演を重ね、17年からは全国のライブハウスを巡るツア
-
マイン・シュロス(浜松市中区)杉本大樹さん 老舗の転換点を演出【しずおかクラフトビール新世代⑰】
マイン・シュロス(浜松市中区)の製造部主任杉本大樹さん(34)=旧天竜市出身=は2016年、“体育会系”からビール醸造の世界へ足を踏み入れた。 1994年の酒税法改正による「第1次地ビールブーム」まっただ中の97年に設立されたレストラン併設型の同醸造所は、静岡県内屈指の老舗。「開業したばかりの頃、家族で訪れた。振り返れば、クラフトビールとの初めての接点だった」 小中高校を通じてサッカーに没頭。名門国士舘大でもサッカー部に籍を置き、卒業後は故郷の遠州地域で仕事をしながら社会人プレーヤーとして活躍していた。 小学生時代のおぼろげな記憶しか残っていなかった場所が職場に
-
駿府博物館「平和のための宴」 1967年、板谷房作 共存の世界、強く訴える【美と快と-収蔵品物語⑮】
清水市立第四中(現静岡市立清水第四中)で教えた後、1953年に単身フランスに渡り、現地で高い評価を勝ち取った洋画家板谷房(1923~71年)。若き才能を見抜き、彼を物心両面で支えたのは静岡新聞社・静岡放送を創設した大石光之助(1896~1971年)だった。68年の個展を飾った代表作「平和のための宴」も、大石が買い上げた。長く門外不出だったが、寄託先の駿府博物館が今年、約半世紀ぶりに公開している。 板谷は福岡県出身。東京美術学校卒業後、清水に赴いた。清水四中で教えたのは約9カ月。大石はこの短期間に、二科展入選しか実績がない板谷の後押しを決めた。 近代の日本美術に詳しく、自らの父親が板谷と縁
-
♪ハママツ・ジャズ・ウィーク最終日 エリック・ミヤシロさん、佐藤竹善さんら熱く
「第29回ハママツ・ジャズ・ウィーク」(浜松市、市文化振興財団、ヤマハ、静岡新聞社・静岡放送など主催)は24日、最終日のメインイベント「ヤマハジャズフェスティバル」を同市中区のアクトシティ浜松で開いた。編成の異なる3組が、ジャズの多面的な魅力を届けた。 最終の第3部では、トランペット奏者エリック・ミヤシロさんがリーダーと指揮を務めた17人編成の「ヤマハ・オールスタービッグバンド」が、重厚で緻密な管楽器のアンサンブルを披露した。シンガー・ソングライター佐藤竹善さんを迎え、ジャズのスタンダード曲やロックバンド「クイーン」のヒット曲など、幅広い選曲で楽しませた。 第1部ではピアニストRINA(
-
静岡に美術史 故飯田昭二さんの功績 藤枝・学芸員らトーク
1960年代後半から70年代初頭にかけて静岡を拠点に活動した現代美術家集団「グループ幻触」の主要メンバーだった飯田昭二さん(27~2019年)の業績や人柄を振り返るトーク企画が藤枝市のアートカゲヤマ画廊で開かれた。同所での遺作展の関連企画。 1986年の開館前から県立美術館に関わった元学芸員の立花義彰さん(静岡市葵区)=西蔵寺住職=は80年代初頭の飯田さんとの初顔合わせを「シャープできれっきれの方で、ちょっと怖いぐらいだった。話す時は緊張を強いられた」と振り返った。町工場が多かった地域で創作していたことを踏まえ「(職人的な)技術やノウハウが作品を支えている。膨大なトレーニングが下地にある」
-
木目生かし多様な版画 美術家鈴木さん個展 伊東
美術家鈴木安一郎さん(57)=御殿場市=の木口版画を集めた個展「みのへるねる ウッド・ブロック」が、伊東市八幡野のカフェ「壺中天の本と珈琲」で開かれている。 約4年前から取り組む木材の木目を生かした版画約50点を出品した。小山町の家具職人から入手したサクラ、クルミ、ヒノキなど多種多様で大きさもさまざまな端材に墨を塗ってスタンプし、表情豊かな画面構成を出現させている。鈴木さんは「一つ一つの作品は即興で出来上がる。計算や事前の計画をできる限り排除する」と創作の様子を語る。 約4年間、ほぼ毎日、スケッチブックで創作を繰り返したという。今回展では、蓄積した約1200点から多様性を意識して選んだ。
-
佐藤竹善「ポップスとの“接着剤”に」 ヤマハジャズフェス出演
浜松市で16~24日に開催される「第29回ハママツ・ジャズ・ウィーク」(浜松市、市文化振興財団、ヤマハ、静岡新聞社・静岡放送など主催)のメインステージ「ヤマハジャズフェスティバル」(24日)に、シンガー・ソングライターの佐藤竹善がトランペッターのエリック・ミヤシロ率いる17人編成のビッグバンドとともに出演する。ライブや音源を通じて何度となくジャズへの敬愛を表現してきた佐藤は「僕のボーカルが、ポップスのファンとジャズの“接着剤”になってくれたら」と願いを込める。 2019年に東京、大阪で演奏し、20年のライブCDも好評を博したビッグバンドプロジェクトの“続
-
古関裕而 幻の楽曲「静岡ファンタジー」をCD収録 今春静鉄で発見
1964年東京五輪の「オリンピック・マーチ」を作曲した古関裕而(09~89年)の「幻の楽曲」とされ、今春静岡市内で音源が発掘されたご当地ソング「静岡ファンタジー」が、古関楽曲を集めたCDに収録されることになった。 29日発売のCDは、古関が所属していたレコード会社日本コロムビア(東京)が編集した「古関裕而秘曲集」の「歌謡曲編」「社歌・企業ソング編」に続く第3弾「新民謡・ご当地ソング編」。古関が生涯に作った約5千曲から47曲を選んだ。 「静岡ファンタジー」は、レコード会社の「吹き込み台帳」に49年の録音が記録されているが、音源や楽譜のありかが不明で、研究者の間で「幻の楽曲」とされていた。古
-
1杯の「原型」に衝撃 外食業から醸造家へ GKB(御殿場市)加田雄一郎さん【しずおかクラフトビール新世代⑯】
東京、新宿御苑近くのビアパブで飲んだ1杯のビールが人生を変えた。GKB(旧御殿場高原ビール)=御殿場市=の副工場長、加田雄一郎さん(38)=熊本市出身=は5年前を振り返る。 「チェコのラガービール『ピルスナーウルケル』を飲んだ瞬間、衝撃を受けた。ホップの苦みをしっかり感じて、モルトの甘みも十分。バランスが自分の好みにどんぴしゃだった。『ビールをつくりたい』という強い気持ちが湧いた」 ピルスナーウルケルは国内大手の主力スタイル「ピルスナー」の原型とされる、19世紀半ばにチェコで生まれたビール。現地から空輸し、生で飲ませる店は希少だった。 都内の大学で欧州の文学、哲学を学び、大手外食会社に
-
静岡県高総文祭の総合開会式 ウェブで公開、17日から
静岡県高校文化連盟は17日、県内高校の優れた文化部活動を紹介する県高校総合文化祭「総合開会式」のウェブ公開を始める。新型コロナウイルス感染拡大を受けて中止を決めたロゼシアター(富士市)での「総合開会式」(17~19日)に代わる取り組み。2022年8月31日まで閲覧できる。 今夏に和歌山県で開かれた“文化部のインターハイ”全国高総文祭出場校の作品を中心に紹介する。静岡西の軽音楽演奏、浜松市立の器楽・管弦楽演奏などステージ部門の演目、美術・工芸や写真、書道などの優秀作品約70点が、部門別にインターネットを通じて鑑賞できる。 県高総文祭総合開会式のリアル開催が2年続けて
-
米国で人気の低カロリー酒製造 静岡県内醸造所 地場産品加え
静岡県内のクラフトビール醸造所が、米国で人気の炭酸入りアルコール飲料「ハードセルツァー」の製造・販売に力を入れている。夏から秋にかけて大手が新商品を投入する中、地域の産物を加えたローカル色豊かな製品を開発し、消費拡大を図る。 沼津市のリパブリューは2020年初頭に製造開始。畑翔麻代表は「国内で最も早く造り始めた」と胸を張る。19年秋の米国西海岸への研修で流行を目にし、現地の醸造所に製造法を教わった。 発酵過程で糖分を残さないため、低カロリーに仕上がるのが特徴。飲み口は酎ハイやサワーに近いが、酵母の香りや味も感じられる。20年12月に果実3種を加えた「トリプルベリーミックス」とかんきつ2種
-
江戸時代の富士山巡礼路、明らかに 静岡県世界遺産センター調査
静岡県富士山世界遺産センター(富士宮市)はこのほど、富士市、富士宮市と共同で富士山の大宮・村山口登山道を調査し、富士山本宮浅間大社、村山浅間神社を経て山頂に達する江戸時代の巡礼の経路をおおむね明らかにした。調査結果を報告書にまとめた。 調査は、巡礼路の位置・経路の全体像を描くよう求めたユネスコ(国連教育科学文化機関)世界遺産委員会の勧告に基づいて行った。学識者でつくる「富士山巡礼路調査委員会」の助言を受け、2017~20年度に実地調査した。中心的な役割を果たした同センターの大高康正教授は「(現在は使われていない)六合目から下のルートを明らかにしてほしいという地元要望も強かった」と振り返る。
-
静岡の醸造所「WCB」 ユナイテッドアローズと新ビール開発
静岡市駿河区用宗のクラフトビール醸造所「ウエストコーストブルーイング(WCB)」はこのほど、アパレル大手「ユナイテッドアローズ」(東京都渋谷区)との協働による新ビールを発売した。 「#refresh(リフレッシュ)」と名付けたビールは、爽やかな酸味が特徴のサワースタイル。醸造時にマンゴーとライムのピューレを使用し、ミントで香り付けした。 ユナイテッドアローズが8月から開始した、都内2店舗で厳選した酒類を販売するプロジェクト「ユナイテッドアローズ ボトルショップ」の一環。ビール醸造所と組むのは初という。同社のデザイナーが手掛けたTシャツやキャップなど、オリジナルグッズも開発した。WCBのキ
-
BCビアトレーディング(静岡市駿河区)草場達也さん カナダと日本橋渡し【しずおかクラフトビール新世代⑮】
カナダのクラフトビール輸入業者の先駆けとして知られる草場達也さん(32)。2016年に東京で輸入販売会社BCビアトレーディングを起こし、20年11月に静岡市駿河区用宗に本社を移した。「静岡の人は、地元の醸造所にすごく愛着を持っている。全国的に見てもクラフトビールの消費が多い街。ここへ来るのは必然だった」 同市清水区でのビールイベント出展をきっかけに19年、葵区駿府町にクラフトビール専門の酒販店「ビア・アウル」を開店。あっという間に市内のビールファンに浸透した。自社倉庫を市内に整え、商材の到着先も東京港から清水港に切り替えた。本社移転は自然な成り行きだった。 留学先のカナダ東部の都市トロン
-
新時代のまちづくりとは… 浜松「社会実験室踊り場」がトーク
浜松市内で人文・哲学系の文化事業を行う団体「社会実験室踊り場」が、同市中区鴨江の改装工事中の民家「竪穴の家」で、トーク企画「『まち』を巡る対話」を開いた。同団体主催の曽布川祐さん、同市出身の美術家中村菜月さん、空き家を再生する「ヤドカリプロジェクト」を推進する1級建築士の白坂隆之介さん(同市中区)が、新旧の価値を共存させる新時代のまちづくりについて語り合った。 中村さんの個展会場内で開かれたオンラインを交えたイベント。石粉粘土の羊約30頭や着色した木片などで構成される作品「旅のひつじ」を前に、それぞれが考える「まち」の在り方について意見を交わした。 中村さんは住宅街に作品を置く意義や波及
-
中世のビールどんな味? 静岡大教授とゼミ生、文理協働で再現
静岡大人文社会科学部の大原志麻教授(スペイン史、比較文化)とゼミ生はこのほど、中世欧州で愛飲されていた「グルートビール」を再現した。プロジェクトには農学部の教授らも加わり、文理協働で「中世の味」の復元に取り組んだ。 同ゼミの西ケ谷彩華さん(4年)の卒業論文のテーマが発端。大学や研究機関では初の試みとみられる。大原教授は「食文化史は上流階級を中心に語られがち。『庶民の飲料』を実際に口にし、当時の空気感を理解することが重要」と判断し、復元を決めた。 中世欧州のビールは香り付けとしてホップではなく、複数のハーブの集合体「グルート」を使うのが特徴。国内外の文献を基に検証し、主原料のヤチヤナギは北
-
句集「桜紅葉」発刊 「海坂」主宰の久留米脩二さん(掛川市)
月刊俳句誌「海坂[うなさか]」主宰で、「馬醉木」同人の久留米脩二さん(80)=掛川市=が2冊目の句集「桜紅葉」(文學の森刊)を発刊した。第1句集「満月」から16年後の第2集。2005~10年の300句を収めた。 鉄風鈴父との旅の一度きり 駐在の忌や村中に曼珠沙華 五感を研ぎ澄ませて季節のかたち、色、音、手触りを誠実に活写する。慈愛に満ちた家族へのまなざしは、生きる楽しさとそのための工夫を示唆しているようだ。 収録句の創作時期は、俳人水原秋桜子が残した「馬醉木」の東京例会に足しげく通った月日に重なる。「主宰の水原春郎先生が浜松市で行った全句講評がきっかけ。先生の誠実な人柄にも引か
-
ベルナール・ビュフェ美術館 「父と息子」 少年期 挑戦の成果【美と快と―収蔵品物語⑬】
第2次大戦後の具象絵画をけん引したフランスの画家ベルナール・ビュフェ(1928~1999年)の作品は、彼の名を冠したベルナール・ビュフェ美術館(長泉町)の存在によって、本県県民の心に深く刻まれる。約70年前、戦地から復員した銀行家岡野喜一郎をとりこにした詩情とエネルギーは、今も見る者を奮い立たせる。1996年には同館で自選展を開催。館内で選んだ作品群のうち、特に思い入れが強かったのは、10代半ばに描いた自画像だった。 親日家のビュフェは7回来日している。自選展はその最後の機会となった。「父と息子」は展示された重要作の一つだ。 作品は2日がかりで選んだ。2000年開幕の追悼展の図録に当時
-
静岡・匠宿にビール醸造所 福山さん「多様性表現」今冬にも稼働
静岡県内2カ所でビール醸造に携わった醸造家福山康大さん(32)=静岡市駿河区=が、同区丸子の観光施設「駿府の工房 匠宿」内に新しい醸造所を開くことがこのほど決まった。稼働すれば、市内4カ所目のビール醸造所となる。 かつての飲食施設の一角に240リットルの発酵タンク5基、原料の麦芽やホップの貯蔵庫などを設置し、多様なビールを提供する。米国から輸入するタンクなど資機材の到着、申請済みの酒類製造免許の取得を経て、今冬に醸造開始する予定。 青森県出身の福山さんは静岡市葵区のアオイブリューイング、富士宮市のフジヤマハンターズビールで醸造経験を積み、ことし静岡醸造株式会社(静岡市駿河区)を設立。知人
-
ラッパーAwich 9月に新作 葛藤と覚悟、曲に込める
9月に新EP「Queendom」を発表することが決まったラッパーのAwich(エイウィッチ)が8月1日、沼津市内でライブを行った。音源やライブで急速に評価を高める「ヒップホップクイーン」に、自身の表現の根源を聞いた。 リードトラックとして7月30日に「GILA GILA feat.JP THE WAVY, YZERR」をリリースした。「正しいとか間違いとか。良いとか悪いとか。全ての価値は絶対的ではなく相対的なもの。この曲には、それを伝える上での私の葛藤と覚悟を込めた」 川崎市出身の人気グループBADHOP(バッドホップ)のラッパーYZERR(ワイザー)が参加している。「ただ曲を作ろうとい
-
専門店フロアに劇場空間 沼津の松島さん、即興パフォーマンス
国内屈指の舞台芸術カンパニー「パパ・タラフマラ」(2012年解散)のメイン・パフォーマーを務めた美術家松島誠さん(57)=沼津市=が7、8の両日、同市のイシバシプラザでインスタレーション展示と即興のソロパフォーマンスを行った。専門店が並ぶフロアの一角に、劇場空間を現出させた。 施設2階の約100平方メートルの店舗跡にかつて舞台美術として使用したオブジェや、7月に掛川市のアート企画「原泉アートプロジェクト」で制作した作品を配置。沼津市の海岸の映像を流す中、約5分の舞いを披露した。 空中から何かをつかみ取るかのように手を上下させたり、緩急を付けてくるりくるりと体の軸を回したり。滑らかに波打つ
-
名画、間近でスケッチOK 池田20世紀美術館で夏の名物企画
伊東市の池田20世紀美術館で7月、毎夏恒例の絵画教室「世界の名画を描こう!」が開かれた。館内に子どもたちを招き入れ、展示作品を模写してもらう企画で、今年が21回目。国内では希少な取り組みに伊藤康伸館長は「幼少期に本物にじっくり向き合う機会は大切。かつての参加者が美大に進んだり、学芸員になったりする例もある」と意義を強調する。 今年は3日間に延べ35人が参加。新型コロナウイルス禍を受けて、昨年に続き人数を絞ったが、年によっては100人以上が館内で絵筆を動かす。 同館は1975年の開館以降、観覧者と作品の距離をできるだけ近くする方針を維持しており、作品はガラスケースなどに入れずに展示している
-
駿府城夏まつり「ナツゲキ」 ストリートカルチャー前面に 静岡で8月21日から計4日間
静岡市内で8月21日から計4日間開催される「駿府城夏まつり ナツゲキ」(実行委員会主催)の主要イベントが7月27日までに決まった。葵区の駿府城公園を主会場とする8月21、22の両日はヒップホップやストリートカルチャーを紹介する「HITOYADO JAM(ヒトヤドジャム)」を特別開催。音楽ライブやスケートボードの高度なデモンストレーションなどが、入場無料で楽しめる。 両日を使い、ラッパー32人によるトーナメント方式のラップバトルを展開する。同公園内にスケートボードの特大ランプを設置し、東京五輪日本代表の青木勇貴斗選手(静岡市清水区)や気鋭のスケートボーダーが妙技を披露する。 22日のメイン
-
富士山かぐや姫ミュージアム「富士参詣曼荼羅」 富士山と西国、縁の証し【美と快と―収蔵品物語⑪】
中世から江戸時代にかけて庶民に富士登山が広がる中で、登山道や寺社の習俗などを描いた「富士参詣曼荼羅[ふじさんけいまんだら]」は案内絵画として重宝された。富士山かぐや姫ミュージアム(富士市)が松栄寺(愛知県常滑市)から寄託された「富士参詣曼荼羅」もその一つ。約400年前の西国と富士山のつながりを伝える貴重な資料だ。寺の意向を受け、縁をつないで2016年、ミュージアムに移された。20年には修復が終了。神仙の世界と目されていた富士山と人々の信仰が生き生きと描かれている。 富士川の渡し船、湧玉池での水ごり、富士山興法寺(村山浅間神社)を経由して山頂に向かう白装束の人々。画面には参詣者75人に加え、
-
96歳、詩人の歩み1冊に 静岡・平林敏彦さん発刊
太平洋戦争中に詩作を始め、戦地から復員した直後に田村隆一や鮎川信夫らが参加した詩誌「新詩派」を創刊するなど、戦後の詩壇で長く存在感を発揮してきた詩人平林敏彦さん(96)=静岡市清水区=が、その半生を振り返る書籍「言葉たちに 戦後詩私史」を発刊した。 横浜市に生まれ、中学生で詩に目覚めた。陸軍に召集され、常軌を逸した軍隊生活の中でひたすら詩を渇望した。戦後は詩作に励み、1946年の「新詩派」を皮切りに、中島可一郎、柴田元男、飯島耕一らが参加した「詩行動」(51年)、大岡信、辻井喬、吉野弘、鶴見俊輔らが作品を寄せた「今日」(54年)などの詩誌を創刊した。 書籍では、こうした詩友との交流を当事
-
故事描いた日本画や版画 駿府博物館、24日から前期特別展
駿府博物館(静岡市駿河区)の開館50周年を記念し、所蔵する作品を三つのテーマに分けて3期で紹介する特別展「名品 天・人・地」(同館、静岡新聞社・静岡放送主催)が24日、開幕する。同館で19日、前期「天の巻・物語歴史画」(24日~9月20日)の展示作業が始まった。 下村観山(1873~1930年)が三国志にモチーフを求めた「草廬(そうろ)三顧」、現在の静岡市清水区に生まれた石原春秋(生没年不詳)による人物画「二仙人」など、故事来歴を下敷きにした日本画や版画など約40点を飾った。 会場の一角には、清水市立四中(現静岡市立清水四中)で教えた後に渡仏した洋画家板谷房(1923~71年)、官展を中
-
Art@東静岡始動 コンテナに空間芸術、静岡大講師と学生表現
静岡市葵区東静岡の東静岡アート&スポーツ/ヒロバで17日、アーティストと市民の交流を目指した新しい文化プロジェクト「Art@東静岡(アート・アット・ヒロバ)」(実行委員会主催)の第1回企画展が始まった。大小二つの貨物コンテナを使って2人が空間芸術作品を展示している。25日までの土日祝日に開催。 静岡大教育学部美術教育専修講師の占部史人さん(36)は、自身の作品を入れた大小の空き箱をコンテナ内に置いた「箱の生活“Life in the Boxes vol.2”」を出品。新型コロナウイルス禍で部屋にこもらざるを得なかった自らの生活や心情を作品に重ねた。 同大教育学部3
-
ヘッドホン通じライブ楽しむ 浜松で新機軸の音楽イベント
音楽バンドのライブ演奏をスピーカーではなく、ヘッドホンやイヤホンを介して楽しむ新機軸のイベント「昭和フェス2021」(実行委員会主催)が17日、浜松市西区の舘山寺門前広場で開かれた。 ローランド元社長の菊本忠男さん(79)=同市北区=が提唱し普及を進める「サイレントストリートミュージック」プロジェクトが支援する、初めての本格イベント。三つのステージに市内で活動する10組が出演した。 ギター、ベース、キーボード、ドラムなどの音を直接音響機器につなぎ、バランスを整えた上で、聴衆一人一人に配布したラジオに電波を介して届けた。ザ・ビートルズの楽曲を披露した5人組「The音楽部」のリーダー尾崎誠さ
-
記者コラム「清流」 死線から詩作へ
清水区で96歳の詩人に会った。新刊を出した平林敏彦さん。表現の根っこにあるのは戦中、死と隣り合わせの毎日だ。 千葉県の陸軍連隊に入った。私物検査で隠し持った詩集や創作ノートを没収され、それがもとで下士官にいじめられた。「詩を書く自由を自分で圧殺した」と振り返る。戦後に詩作を再開する際、戦争の狂気にあらがえなかった後ろめたさを主題にしようと思った。 行く手に待つ死者たちにおくる/いとおしい一度かぎりの言葉はあるか(2014年の「言葉たちに」から一部引用) 国民的高揚、失われた命、破滅-。今年も8月がやってくる。生還した詩人の問い掛けを心に焼き付け、戦争の本質を考えたい。同じ“言葉”を扱う者とし
-
擬音語、擬態語「オノマトペ」 魅力は…可能性は… 巻上公一さん/町田康さん 熱海で対談、ライブも
擬音語、擬態語を意味する言葉「オノマトペ」の魅力や可能性を音楽、文学、演劇などさまざまな表現スタイルで提示する「オノマトピアミーティングin熱海」が6月26、27の両日、熱海市の起雲閣で開かれた。40年以上活動するバンド「ヒカシュー」のリーダーで詩人の巻上公一さん(同市)が企画し、2日間に延べ8組が出演。オノマトペをキーワードにライブを繰り広げた。東京五輪・パラリンピックに合わせた県文化プログラムの一環。(文化生活部・橋爪充) オノマトペは文学や音楽にどう関わってきたのか-。表現の壁を超えた活動を続ける巻上さんと芥川賞作家で音楽家の町田康さん(熱海市)が、それぞれの作品に言及しながらオ
-
開催事例を蓄積共有、野外フェス文化つなぐ コンソーシアムを設立した「スマッシュ」取締役/石飛智紹氏【本音インタビュー】
スマッシュ(東京)は、2001年から毎秋富士宮市で開催する野外フェスティバル「朝霧JAM(ジャム)」を企画制作。持続可能なフェス文化形成を掲げて関連7社によって設立された「野外ミュージックフェスコンソーシアム」の発起人に名を連ねた。 -今春のコンソーシアム設立の経緯は。 「新型コロナウイルスの広がりを受け、(音楽プロモーターで組織する)コンサートプロモーターズ協会が感染予防対策のガイドラインを作った。ライブハウスのコミッションも続いた。こうした中で、全国に300以上あるフェスにも同様のものを作ろうという機運が高まり、関係7社がまず集まった。今後も参加社は増えるだろう」 -活動の状況は。
-
世界のアニメ特集 静岡シネ・ギャラリーで
静岡市葵区の静岡シネ・ギャラリーで、日米のメジャー作とは趣を異にするアニメ表現を紹介する「ワールド・アニメーション特集」が行われている。 6月に好評を博したロシアのSFコメディー「クー!キン・ザ・ザ」(2013年)に続き、7月16日からフランス・チェコスロバキア合作「ファンタスティック・プラネット」(1973年)を上映する。フランスのSF作家ステファン・ウル原作で、青い肌に赤い目の巨人族と彼らに虐げられる人類の戦いを描く。切り絵アニメーションの手法で画面を動かし、同年の第26回カンヌ映画祭ではアニメ作品として初めて審査員特別賞に選ばれた。 30日からの「ベルヴィル・ランデブー」は2002
-
雑談から社会課題探る 医療、福祉関係者ら参加 グリーフケアなど話題に ACしずおか「へそちゃ会」
静岡県民の文化芸術活動を支援する県文化財団内の組織「アーツカウンシル(AC)しずおか」(静岡市駿河区)は30日、同組織所属の専門家が主導するオンライン対話の場「へそちゃ会」を初開催した。雑談を通じて隠れた社会課題やニーズを探る取り組み。 県内外の11人がオンライン会議アプリ「Zoom(ズーム)」を使って参加し、ACしずおかの櫛野展正チーフ・プログラム・ディレクター、鈴木一郎太プログラム・ディレクターを交えて気軽な対話を楽しんだ。 参加した医療従事者や福祉関係者らの自己紹介を発展させる形で、親しい人を亡くした悲しみに寄り添う「グリーフケア」について意見交換した。県内の地域アート祭の現状、ア
-
静岡人インタビュー「この人」 野本人丸さん 静岡県高校文化連盟の会長に就任
4月の理事会、評議員会で選出された。新型コロナ禍で停滞を余儀なくされた高校文化部の活動の立て直しを図る。掛川工高校長などを経て2020年度から駿河総合高校長。59歳。 -就任の感想は。 「大役を仰せつかった。運動部経験の方が長いので多少気後れがあるが、コロナ禍を乗り切るために指名されたとも感じている。昨年度は中止になった総合文化祭をはじめ、発表の場を正常化させたい」 -本年度の力点は。 「22専門部会の催しや活動を支援し、9月に富士市で予定する総合文化祭を安全に実施することだ。ステージ部門は観覧者を絞らざるを得ないが、演目を撮影するなど、広く見てもらえる方策を考えたい」 -高校文化
-
ベアードブルーイング(伊豆市)大川英紀さん 日本酒業界から転身、醸造の楽しさを満喫【しずおかクラフトビール新世代⑭】
琉球大でコウモリの研究に没頭し、卒業後は関西の三つの酒蔵で日本酒づくりにいそしんだ大川英紀さん(38)は5年前の7月、狩野川沿いにあるベアードブルーイング(伊豆市)の門をたたいた。見知らぬ土地。知り合いはいない。ビールづくりへの情熱だけを携えてやってきた。 同社のオーナー、ブライアン・ベアードさん(54)=米国出身=は、沼津市で2001年に自家製ビールの提供を始め、同社を国内屈指のクラフトビールメーカーに押し上げた立志伝中の人。大川さんは「ビールを好きでたまらない人が、会社までつくってしまった。ビール、酒が心底好きな人が集まる場所で働けると思った」と語る。 転身前は京都市の老舗、玉乃光酒
-
静岡県出身ザ・ウェマー、KMC ジャンル超え熱量競う 静岡でライブ
2006年に静岡市で結成し、13年には米国ツアーを行った3人組ロックバンド「THE WEMMER(ザ・ウェマー)」と、都内を中心に活動する吉田町出身のラッパーKMCが、静岡市葵区のライブバー「フリーキーショウ」で共演した。新型コロナウイルス禍で活動がままならない中、ジャンルを超えた“ホーム”での再会ライブ。両者からは演奏の喜びがあふれた。 都内在住メンバーのPCR検査陰性を確認し、観客にはマスク着用と検温を義務付け、演奏時間も各30分ずつに縮減した“コロナ禍仕様”のライブだったが、熱量はすさまじかった。KMCは今年リリースした「BLACK R
-
画家大石勝広さんしのぶ 藤枝でK展 仲間6人 新作など17点
2011年に亡くなった画家大石勝広さん(藤枝市)をしのぶ、画家6人による「第4回K展」が、同市小石川町のアートカゲヤマ画廊で13日まで開かれている。 展覧会は、本紙連載「鎌倉だより」(三木卓さん執筆)の挿絵を担当する松井正之さん(74)=静岡市清水区=ら、生前の大石さんと親しかった画家グループが17年に始めた。新型コロナウイルス禍で中止した20年を除き、毎年油彩画や水彩画の新作を複数持ち寄って開催している。 第4回展には大石さんによる静物画やポートレート全3点を含め、全17点を展示した。心象風景を描いた3点を出した藤ケ森勉さん(72)=富士宮市=は「画家同士が切磋琢磨(せっさたくま)する大切
-
静岡県内の音楽事情語る DJ3人、フェスで対談
富士市で5月に開催された野外フェスティバル「FUJI&SUN'21」で、県内の主要なDJ3人が静岡のクラブや音楽の状況を語り合うトークイベント「静岡ローカルミュージック・シーンの現在」が行われた。司会はライターでエディターの大石始さん。 1980年代から活動するDJ KAZUYOSHIさんは、ディスコが盛況だったかつての静岡市内を振り返った。「70年代前半から増え始めて、一時期は面積当たりの店舗数日本一と言われるぐらい店があった。両替町に30軒ぐらいあったんじゃないかな」 現在はハウスやテクノ、ヒップホップとともに、サルサのパーティーを主催する。「サルサという音楽はクラブに来る人たちと、
-
ウエストコーストブルーイング(静岡市駿河区)小島直哉さん カナダでの宣言胸に “二足のわらじ”実現【しずおかクラフトビール新世代⑬】
飲食店経営者と醸造所の社員。小島直哉さん(33)は“二足のわらじ”でクラフトビールの世界を歩く。静岡市内の専門店「クラフトビアステーション」「cove」を運営する一方で、2020年3月、同市駿河区の醸造所「ウエストコーストブルーイング(WCB)」に入社した。 「約10年前から自分で醸造することを考えていた。日本トップクラスの醸造所でそれを学べるのは幸運」。タンクの洗い方、ホース類の殺菌方法、酵母の扱い方-。「手を動かさないと作業の意味が理解できない。全てが将来の役に立つ」 出発点はカナダだった。大学院を出て就職を決めた自動車部品メーカーには、内定者の海外研修制度が
-
古関裕而 幻の楽曲「静岡ファンタジー」どこに…【NEXT特捜隊】
作曲家古関裕而の幻の楽曲を探してくれないか-。2020年6月25日本紙夕刊の見開き特集「古関裕而楽曲 静岡県内にも」を見た古関の研究者から、紙面を作った静岡新聞社文化生活部に、依頼が届いた。曲名は「静岡ファンタジー」。研究者は楽曲を聴いたことがなく、古関の故郷にある福島市古関裕而記念館やレコード会社にも音源がないという。曲名を手掛かりに取材を進めると、思わぬ発見があった。 >>「静岡ファンタジー」 依頼者は日本大商学部の刑部[おさかべ]芳則准教授。古関研究の権威として知られ、古関をモデルにした20年放送のNHK連続テレビ小説「エール」の風俗考証も担当した。 古関は生涯で約5000曲
-
ガルシアブリューイング(静岡市清水区)フレディ・ガルシアさん 夢の場所まで10年超 ペルー雑穀で独自色【しずおかクラフトビール新世代⑫】
醸造機器は少しずつ買った。時には自分でつくった。ガルシアブリューイング(静岡市清水区)の工場は、長い時間をかけて整えられている。ペルー出身の醸造責任者フレディ・ガルシアさん(44)は「夢が実現するまで10年以上。でも、疑いはなかった。いつかかなうと信じていた」と振り返る。 一番古い240リットルのタンクは2013年に購入。もちろん、それだけでビールはつくれない。自動車工場、水産会社、大工-。仕事から得た給料を積み立て、一定の額がたまるごとに一つ一つ機器を購入した。「外国人だから金融機関の融資は望めない。最初は全部自己資金」。2019年に醸造免許を取得し、工場を稼働させるまでは、臥薪嘗胆[が
-
静岡県立美術館「(無題2)」 1997年ごろ、石田徹也作 共感の広がり、世界へ【美と快と―収蔵品物語⑦】
2005年に31歳の若さで亡くなった画家石田徹也(焼津市出身)。志半ばで世を去った石田の作品は、08年の県立美術館への収蔵以後、世界へ向けて大きく羽ばたいた。「(無題2)」をはじめとした多くの作品で描かれた、諦念や絶望がにじむ人物の表情は、先行き不透明な現代社会を生きる人々の共感を得て、世界中で受容されている。 作品の寄贈は、2007年に同館県民ギャラリーで開かれた追悼展が契機だった。石田の兄道明さん(55)=焼津市=は「東京のアパートから180点を持ち帰った。知り合いの倉庫に預けていたが、処分することも考えていた」と振り返る。 美術界での評価は定まっていなかったが、遺族からの申し出を検
-
宇佐美麦酒製造(伊東)小川大河さん 消費者の好みを熟知 売り手から醸造側へ【しずおかクラフトビール新世代⑪】
クラフトビールを売る側からつくる側へ-。宇佐美麦酒製造(伊東市)の小川大河さん(34)は、営業専従から醸造スタッフに転身した、県内ビール業界では数少ない人物だ。 2008年に「風の谷のビール」で知られる酪農王国(函南町)に入社。クラフトビール専門の営業マンとして、市場が拡大する様子を、販売の最前線で体感した。 県内外の酒販店や飲食店を巡り、時には飛び込み営業をかけて販路拡大を図った。小売店用の販促グッズを自作し、売り場の棚から付加価値の高さを訴えた。「消費者の手元に鮮度を落とさずに届ける。工場を出たところから店頭で買ってもらうまでが責任領域だと認識していた」。国内各所で行われる「ビアフェ
-
沼津市戸田造船郷土資料博物館「ヘダ号設計図」【美と快と―収蔵品物語⑥】
安政2年3月22日(1855年5月8日)、戸田港(現沼津市)から1隻の帆船がロシアに向けて出発した。田子の浦沖で沈没したロシア船「ディアナ号」の代船として約100日かけて同地で建造された「ヘダ号」。ディアナ号のプチャーチン艦長が戸田への感謝を込めて命名した。同市戸田造船郷土資料博物館の展示品は、日本で初めて造られたこの洋式帆船の意義を雄弁に物語る。 日ロ外交の端緒である「ヘダ号」の物語を伝える上で最も重要な資料が、同船の設計図だ。上から、横からなど四つの視点による図面3点と、帆柱の形を示した図面1点の計4点。写真が現存しないヘダ号の姿を知る、唯一の手掛かりである。 描き手は戸田の船大工石
-
酪農王国オラッチェ(函南町)木村岳司さん ドイツで醸造を習得 「職人」の気構え実践【しずおかクラフトビール新世代⑩】
ビールの本場ドイツのベルリン工科大で醸造を学び、公的資格「ブラウマイスター」を取得した酪農王国オラッチェ(函南町)のビール工房工場長木村岳司さん(45)は、「職人」という言葉に特別な思いを込める。「顧客の好み、与えられた条件に従ってベストの仕事をするのが職人。そのためにはビールづくりの全てを知っておかないと」 自分のつくりたいビールを追求するのも醸造家の在り方として認める。一方で、ドイツの伝統的なものづくりの考え方に共鳴する。「販路や会社の方針などに対して柔軟でありたい。ドイツで、そういう人間として育てられたから」 国内の大学では法律を学んだ。在学中にドイツ人留学
-
フジヤマハンターズビール(富士宮市)深沢道男さん 全ての原料を地元で 循環型ブルワリーへ【しずおかクラフトビール新世代⑨】
地域の産物でビールをつくり、地域で消費する。2018年に開業したフジヤマハンターズビール(富士宮市)の醸造責任者深沢道男さん(48)の考えは、まさしく「循環型ブルワリー」と言うべきものだ。「原料の100%自給を達成するには、まだまだ超えなくてはいけないハードルがある。でも、少しずつ実現しているのも事実」と自負を示す。猟師、農業従事者を兼ねる、全国でも珍しい醸造家だ。 「教科書通りのビールばかりじゃつまらない。つくりたいのは、例えるなら農産品直売所に置かれたゴツゴツのコンニャク。形は整っていないが、原料の良さが全て引き出されている」 芝川を見下ろす小さな醸造所の構想
-
柿田川ブリューイング(沼津市)片岡哲也さん 英国パブ文化に憧れ 飲み手の人生を彩る【しずおかクラフトビール新世代⑧】
17年前に英国で出合ったパブ文化、ビール文化の美点を日本にも広めたい-。柿田川ブリューイング(沼津市)のエンブレムに刻まれた「SLOW BEER SLOW LIFE」のスローガンには、社長片岡哲也さん(36)=秋田市出身=の願いが込められている。「ビールはコミュニケーションを豊かにするツール。英国のパブに通って、それを学んだ。おいしいビールを通じて、飲み手の人生を豊かに彩りたい」 語学留学で住んだブライトンは、ロンドンの南に位置する港町。現地に着いてすぐ、ホームステイ先の近所のパブに一人で行った。住宅街の真ん中にある約20席の小さな店は、近隣住民と常連ばかり。だが片言の英語でラ
-
時之栖富士(富士市)冨川宏一さん 醸造20年新たな挑戦 知見をレシピに凝縮【しずおかクラフトビール新世代⑦】
傘下に御殿場高原ビールや伊豆の国ビールを持つ時之栖(御殿場市)が、富士市の常葉大富士跡地に開業した複合型スポーツ施設内で醸造する「富嶽麦酒」。今夏完成した新ビールブランドは、工場長の冨川宏一さん(43)=御殿場市=が、約20年の醸造経験と欧州各国を訪問して得たビールの知見をレシピに凝縮した。 「1月に缶のデザインが決まり、キャッチコピーの『濃くて苦い』が刷り込まれていた。苦みを生かしたIPL(インディアペールラガー)というスタイルは決めていたが、缶に合わせる形でレシピを最終調整した」 新工場はビールだけでなく、ウイスキーやハイボールも製造する。冨川さんにとっては、
-
アオイビール(静岡市葵区)宮脇浩樹さん 鉄道マンから醸造士 「個の評価」求め転身【しずおかクラフトビール新世代⑥】
県中部初のクラフトビール醸造所、アオイビール(静岡市葵区)の醸造士宮脇浩樹さん(25)=沼津市出身=は、かつてJR東海道線や御殿場線で車掌を務めていた。社内研修を経て「運転士」に進むレールが敷かれていたが、「醸造士」への道を選んだ。「好きなことをやっていく。生活するためのお金はどうにでもなる」 従業員1万8千人超のJR東海を20代半ばで退職してビールを造る。約2年前にそう決めた。周囲は止めたが「何を言われてもぶれなかった。自分がつくったものへの評価を、顧客からダイレクトにもらう。そんな世界に身を投じたかった」。 クラフトビールとの出合いが、胸の奥底に眠った感情を呼
-
リパブリュー(沼津市)畑翔麻さん 多様なレシピを公開 市場拡大図る起業家【しずおかクラフトビール新世代⑤】
25歳で合同会社を設立し、JR沼津駅前に醸造所兼パブを開いたリパブリュー(沼津市)の畑翔麻さん(29)は、醸造家としてだけでなく起業家としても注目を集める。技術や成功事例を同業者と「シェア(共有)」し、クラフトビール市場全体の拡大を図る。 約240平方メートルの店には20本のタップ(ビールサーバーの注ぎ口)がある。最大で生ビール20種を提供可能だが、約1年前から全て自社銘柄とした。醸造所の発酵タンク約10本をフル回転させて多種多様なスタイルのビールを造り、来店客に出来たてを提供する。 「10年前に構想した姿」。16年にはクラフトビールの中心地の一つ、米国サンディエ
-
池田屋麦酒(牧之原市)月居麻水さん 老舗継承の「最適解」 酒屋に小さな醸造所【しずおかクラフトビール新世代④】
県内では希少な女性のビール醸造家、月居麻水(つきおりまみ)さん(46)。2019年秋に池田屋麦酒(牧之原市)を設立し、20年5月から醸造を始めた。 実家の酒販店「池田屋酒店」の一角を区切った工場は約20平方メートル。容量300リットルの発酵タンク4基、煮沸釜など必要最小限の機器を置いたマイクロブルワリー(極小醸造所)だ。机や椅子も設置し、来店客が出来たてのビールが飲める仕組みも整えた。 月居さんは約150年前から続く同店の7代目。「高齢の両親の後を継いで、この店をどう維持していくか。その最適解がビール造りだった」と明かす。 少し前までは自分がビールを
-
反射炉ビヤ(伊豆の国市)山田隼平さん ワイン製造技術応用 木のたるで発酵熟成【しずおかクラフトビール新世代③】
世界遺産構成資産の韮山反射炉の隣で醸造する反射炉ビヤ(伊豆の国市)。1994年の酒税法改正に端を発する第1次地ビールブームさなかの97年に開業した、県内有数の老舗ブルワリーだ。浮沈が激しいビール業界の中で生き残り、24年目の夏を迎えている。 醸造長の山田隼平さん(27)=東京都出身=は山梨大工学部の特別コースでワインを学んだ。酵母菌をはじめとした微生物の生態から、ブドウの栽培と収穫、仕込みの方法、味わいの表現まで、実地研修を交えてあらゆる知識と技術を習得した。 2015年、反射炉ビヤに入社。今度は一からビール造りを教え込まれた。工程の違いに改めて気付かされた。「ワ
-
マウントフジブリューイング(富士宮市)会森隆介さん “背水”で技術習得 切れの良さを追求【しずおかクラフトビール新世代②】
加和太建設(三島市)のビール醸造部門として2019年3月に産声を上げたマウントフジブリューイング(富士宮市)。醸造責任者の会森隆介さん(42)が醸造を学び始めたのは開業の1年前だった。異例の短期間で醸造法を習得し、今春のビール審査会「ジャパン・グレートビア・アワーズ」(日本地ビール協会主催)で3部門入賞を果たすなど急成長を遂げている。“背水の陣”で身に付けた技術を礎に、新しいビール造りを見通す。 「ビールについては知識ゼロだった」と3年前を振り返る。県内外の飲食店でソムリエやホール担当を経験し、17年に加和太建設入社。函南町のすし店を任されていたが、18
-
オクタゴンブリューイング(浜松市中区)千葉恭広さん 運命変えた一冊の本 醸造家志しドイツへ【しずおかクラフトビール新世代①】
小規模醸造所がつくるクラフトビールが人気を高めている。静岡県は20以上の醸造所がひしめく国内屈指のビール大国。近年醸造を始めたブリュワー(醸造家)を訪ね、それぞれの“ビール人生”をひもとく。 2018年1月に醸造を始めたオクタゴンブリューイング(浜松市中区)の醸造責任者千葉恭広さん(45)は、05年からドイツのミュンヘン工科大ビール醸造工学部で理論と実践を学んだ。 出発点は1990年代半ばに出合った一冊の本だった。英国人ビール評論家のマイケル・ジャクソンが著した「地ビールの世界」。ウィートエールやトラピスト系など、多種多様なベルギーのビール