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テーマ : 芸能・音楽・舞台

新作映画「BAD LANDS」への思い熱く 沼津出身/原田真人監督、静岡県内ロケにも意欲【インタビュー】

 特殊詐欺をなりわいにする異父姉弟が、悪のはびこる世界からどう逃げ出すかー。原田真人監督(沼津市出身)の最新作「BAD LANDS バッド・ランズ」は、大阪を舞台にした犯罪サスペンスだ。直木賞作家黒川博行の小説「勁草(けいそう)」を原作に、映画化まで6年をかけた原田監督の情熱や俳優、作品への思いを聞いた。

作品への思いを語る原田真人監督。「水窪の奥まったダイナミックな様子を今後の映画に使えたら」と、静岡県内のロケにも意欲を見せる=沼津市内
作品への思いを語る原田真人監督。「水窪の奥まったダイナミックな様子を今後の映画に使えたら」と、静岡県内のロケにも意欲を見せる=沼津市内

 ー原作の刊行は2015年。映画公開までに時間がかかりました。
 「ずっと撮ってみたかった『大阪弁フィルムノワール』として格好の題材でした。主人公2人の関係性と犯罪組織の人間たち。現代の日本社会の縮図のような人間関係をうまく描けたらいいなと思っていました。でも、その時は映画化権を逃してしまった。(映画化が)実現できるかどうか分からなかったけれど、とにかく湧き出た気持ちを、表現者として日記に書いて記録しておくような感覚で脚本を仕上げました。映画化権が手に入ると聞いた時は、やっとまわってきたか、という気持ち。『クライマーズ・ハイ』(08年)の時も(小説発表の)数年後に回り回って(映画化権が)やってきた。そんな経験があったから、『バッド・ランズ』も辛抱強く待っていました」
 ー詐欺グループのリーダーを務める姉の橋岡ネリ(安藤サクラ)と弟の矢代ジョー(山田涼介)が大金を手に、組織のメンバーやヤクザたちの追跡をかわすストーリーです。原作では男性だった橋岡の設定を女性に変更しました。
 「橋岡と矢代の二人を色濃い関係にしたかった。詐欺グループの名簿屋である高木(生瀬勝久)と橋岡の関係性ももっと面白くしたい。貧困ビジネスにおいて、持たざる者としての同胞愛を橋岡に持たせたかったんです。映画化が決まった時に作者の黒川さんにプロデューサーを通して断りを入れたら、黒川さん自身も一時期、橋岡を女性にしようと考えていたと。自由にやってほしいと言ってもらえました」
 ー橋岡役の安藤サクラさん。「原田組」は初出演でした。
 「キャスティングの最後のピースがネリだった。大阪弁ネーティブの俳優さんを探していたがなかなか決まらなかったんです。そんな時、東映側から安藤サクラの提案があって。スクリーン越しの彼女に対しての印象は『うまい女優さん』。自分の好みとは違うかなと思っていた。ところが実際に会ってみたら、ものすごい魅力的な人。目の輝きや表情の微妙な揺らぎが素晴らしかった。ネリはこの人じゃなきゃダメだって思いました。それがクランクインの1カ月前。後から聞いた話ですが、サクラは初見の脚本を1日かけて読んでくれたとのこと。その入れ込み方が彼女の気迫に表れていた。サクラには4歳の娘さんがいて、一緒に過ごす時間を確保したいという母としての葛藤もあったらしいですけど、家族の後押しがあって出演を決めてくれたそうです」
 ー山田涼介さんは「燃えよ剣」(21年)に続く2度目の起用となりました。
 「『燃えよ剣』の撮影を始めたころには、すでに『バッド・ランズ』の脚本を書き終えていました。撮影中、沖田総司を涼介が演じるのを見ながら、現代に沖田総司が生まれ変わったら矢代ジョーになるんじゃないかというイメージを抱きました。彼には撮影後に、『関西弁を学んでおいてね』とささやいておきました。彼は天才的なものを持っている。現場で細かいことはほとんど聞いてこないけれど、こちらの望む雰囲気を感覚的につかむのがうまい。現場で『それ違うよ、涼介』と言ったことは一言もなかったですね。今作の持ち味はテンポの速い関西弁。方言指導を付けて一言ずつチェックして、サクラも涼介も、関西人が聞いてもナチュラルな関西弁に仕上げてくれました」
 ー宇崎竜童さん、天童よしみさんら重鎮が脇を固めています。特に女性の俳優が個性的でした。
 「女性陣が社会を牛耳っているんだというところをこの映画で見せたかったんです。これぞ関西の顔、と一番はじめに思い浮かんだのは天童よしみさん。その対極のところで誰も見たことがない、僕も知らない俳優さんを探したら、関西の劇団の脚本を手がけるサリngROCKが見つかった。映像には興味ないと初めは断られたけど、賭博場の胴元である林田を女性役にして、彼女に脚本を送ったら興味を持ってもらえました。お客さんに彼女を発見してもらいたいというキャスティングでした」
 ー作品の舞台は大阪・西成区。撮影は滋賀県彦根市にセットを設けました。
 「(本物の)西成は独特の雰囲気が整理され、ギトギトした感じがなくなっていた。だから自分たちがコントロールできる空間を作って、西成の人にエキストラとして出てもらっ雰囲気をつくり上げました。建物の位置関係を間違えないように、地図を作ってスタッフと共有しました」
 ー「わが母の記」(12年)では沼津市、「検察側の罪人」(18年)は長泉町と、原田監督は県内でもロケを行っています。「バッド・ランズ」の地方ロケの手応えは。
 「大阪は今回の顔ですよね。彦根も含めて関西の味を存分に捉えられたなと思います。静岡でも西部の方はあまり撮影していないけれど、『魍魎の匣(もうりょうのはこ)』(07年)では島田市で撮りました。静岡はまだまだ面白いところはいっぱいあるんですよね。時代劇の撮影は京都がベースなので静岡まで来て撮ることはなかなかない。でも古刹(こさつ)を使って時代劇をやりたいし、現代劇にも使えそうなロケ場所がたくさんあるので、これからも静岡にもっと目を向けていきたいです。今興味があるのは(浜松市天竜区の)水窪。佐久間ダムからの奥まった感じがダイナミックで、今後の作品で使えないかなって考えています」

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