オピニオン・コラムの記事一覧
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大自在(7月27日)パリ五輪開幕
フランスの高速列車TGVの路線が、放火など複数の破壊行為を受けた。パリ五輪開幕を狙った妨害行為の可能性がある。ダイヤは大きく乱れ、現地を取材に訪れている本社記者も巻き込まれた。路線の被害の詳細は明らかになっていないが、駅の混乱に「テロが起きたのか」と思ったという。 TGVが営業運転を開始したのは1981年。日本の新幹線を抜くスピードで注目を集めた。試験走行では鉄輪式最速の574・8キロを記録した。2021年の40周年記念式典ではマクロン大統領が「フランス人の才能と情熱の歴史だ」とスピーチした。 フランス国民の誇る高速鉄道で、当局も重点的に警戒していたはずだ。26日付朝刊の本社記者のル
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社説(7月27日)知事パワハラ疑惑 公益通報の制度見直せ
兵庫県の元西播磨県民局長の男性職員が告発して明るみに出た斎藤元彦知事のパワハラ疑惑は、同県トップとしての適格性や責任の問題にとどまらず、公益通報制度の在り方を問う事態に発展している。元局長は告発を巡って懲戒処分を受けた後に死亡した。自殺とみられていて、公益通報者保護の観点から、県の対応に疑問の声や批判が相次いでいる。 疑惑について県議会は地方自治法100条に基づき、強い調査権限を持つ調査特別委員会(百条委)を設置して調査を始めた。パワハラなどの事実解明はもちろんだが、元局長の告発に対する知事や県の対応、処分が妥当だったのかなども厳しく検証しなければならない。結果を踏まえ、現行制度の改善につ
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コラム窓辺 楽しく生きる(土井彩子/土井酒造場取締役)
私の両親は60代。祖母も1人健在で、これまで身近な人の死はあまり経験がありませんでした。それが今年は上半期で4人。40代から90代と年代も死因も異なりますが、親しくしていた人の度重なる死は精神的ショックが大きいです。 子供が小さく闘病していた親友の死、先月一緒に楽しくお酒を飲んで彼女の海外出張記を見ていた中での突然の訃報、この2人の死は特に考えさせられることが多かったです。 彼女たちが健診を怠ったわけではないのですが、私たちは特に母親になると、日々の忙しさで自分のことを後回しにしがちです。病院へ行くこともそうですが、子供や家庭を優先させて自分のやりたいことを諦めたり、その感情自体に見て見
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大自在(7月26日)パリ五輪開幕
きのうの朝は未明からテレビに、くぎ付けとなった方も多いのではないのか。フランス・パリ五輪で7会場を使うサッカー男子は、日本戦がパリでの開会式より一足早く行われた。日本はパラグアイに5―0で快勝し、幸先の良いスタートを切った。 パリでの五輪開催は、1924年の第8回大会以来となる。100年前の「花の都」の大会には、それまでで最高の44カ国3089人が参加した。日本はレスリングのフリースタイル・フェザー級で内藤克俊が大会唯一の銅メダルをもたらした(清水ひろし著「16歳から知る オリンピックの軌跡」彩流社)。 日本ではレスリングを知る人が、まだほとんどいない時代。講道館柔道2段の内藤は、米国・
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社説(7月26日)地方議会改革 危機感持ち積極議論を
有権者の政治離れが進み、地方選挙の投票率が低下の一途をたどる中、都道府県や市町村の議会には積極的な情報発信を通じて存在意義を訴える努力が求められている。だが、議会側の危機感は薄く、自らを見つめ直し議会改革を実践する姿勢は見られない。 静岡県議会は昨年度、議会運営等改善検討委員会で、通年会期導入▽常任委の質問時間見直し、インターネット中継導入▽大学機関などとの連携強化▽議会基本条例制定▽政務活動費の見直し-の5項目を検討した。しかし、最大会派の自民改革会議は5項目とも「現状通り」とし、ネット中継の導入などを訴える他会派と意見が一致せずに物別れに終わった。 静岡市議会は2012年度に市議会基
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コラム窓辺 修善寺への定期ラブレター(後藤幹生/静岡県感染症管理センター長 小児科医)
外科医になる夢をかなえる方法を私が考え始めたのは、中学生の頃だった。 父は名古屋の舞扇職人の家の出で、母の実家は養蚕から酪農に転じた木曽の農家。親族に医者はおらず、医学部に入る必要があることぐらいしかわからなかった。 そのためにはとにかく勉強を頑張ればよいのではと思った。当時、緊張時に最初の一音が出にくいという吃音[きつおん]があった私は、あてられたときにうまく読めるように国語の教科書を家でよく音読した。何度か読むと、音読後にそのページがコピーしたように自分の頭の中に入っていることに気がついた。 この特殊な能力のおかげで、脳内に教科書の試験範囲をイメージファイル化して格納し、定期試験
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大自在(7月25日)1933年の40・8度
発達した高気圧がふたをして熱い空気が地上にこもるヒートドーム現象が米国で深刻化しているという。日本でも連日、熱気で満たされたドームの中にいるような暑さが続く。静岡市駿河区では今月、40・0度を観測した。 40度台と聞いた時の驚きは最近薄れつつあるが、1933年のきょう山形市で観測した40・8度という気温は当時想像を絶する数字だったに違いない。74年もの間、歴代最高として知られた。不動の記録が塗り替えられたのは2007年。気象庁が最高気温35度以上の日を猛暑日と決めたのもこの年だ。 現在の歴代1位タイは20年8月17日に浜松市中央区で観測した41・1度。産業技術総合研究所によると、フェーン
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社説(7月25日)新幹線保守車事故 安全で安定した輸送を
東海道新幹線・豊橋―三河安城間の上り線で、22日未明に起きた保守用車両同士の衝突脱線事故は、同日夜遅くまで復旧作業が続き、浜松―名古屋間の上下線で終日運転見合わせとなった。 上下線計328本が運休し約25万人に影響が出た。駅に長蛇の列ができ、猛暑もあって疲弊する人たちの報道映像を見ると、改めて新幹線輸送への依存度の大きさとそのもろさを痛感する。JR東海は信頼と責任を重く受け止めて原因究明と再発防止に取り組み、安全で安定した鉄道輸送を行ってもらいたい。 駅に詰めかけた人たちへの説明や誘導をはじめ、代替輸送手段や宿泊場所の手配など混乱を避ける手立てを備える必要もある。駅によっては新幹線車両を
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コラム窓辺 3・11(内田美紀子/女性活躍推進「るるキャリア」創業者)
能登半島地震から半年たちましたが、復興までに時間がかかっている状況に胸が痛みます。思い出すのが2011年3月11日。就職支援財団の事務局長として静岡駅近くのビル14階で一人で仕事をしていました。振り子のように大きくビルが揺れパニックに。非常階段で避難し、守衛室で東日本大震災が起きたことを知りました。 友人が福島第1原発で働いていたため、テレビで繰り返し流れる津波と黒煙の映像を見るのが怖かった日々。何か役に立てることがないかと思い、気仙沼へボランティアに行きました。 私の係は、体育館での支援物資の配給と、がれきの撤去作業で見つかった大量の写真を洗浄・修復した後のデータ化。写真に写る手掛かり
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大自在(7月24日)聖火
パリ五輪がいよいよ開幕する。26日の開会式を前に、きょうからサッカーなどの競技が始まる。2カ月以上にわたり、約1万人のランナーがフランス全土を巡ってきた聖火リレーも最終盤。 1936年のベルリン五輪で初めて行われた聖火リレー。国際オリンピック委員会(IOC)の公式サイトに「聖火ランナーは、その旅路で平和のメッセージを運ぶ」と説明がある。古代オリンピックでギリシャ各地に戦争の一時停止を伝えた使者「スポンドフォロイ(休戦運び人)」に倣ったとされる。 古代オリンピックは紀元前9世紀頃のギリシャで始まった宗教行事が起源といわれる。当時のギリシャは都市国家間の争いが絶えなかった。オリンピアに集う選
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記者コラム「清流」 大学進学率の男女格差
各地域の男女平等度を示す「都道府県版ジェンダー・ギャップ指数」で、静岡県は教育分野の順位が37位と低迷している。四年制大学の進学率が男性54.9%、女性46.6%と差が大きいことが要因の一つだ。 ある高校の進路指導担当者は「指導の中で男女に差をつけることはない」と言う。学校や家庭の日常的な場面ではどうか。例えば「手に職をつけた方がいい」「そんなに無理しなくても」「実家に近い場所にしたら」…。そんな言葉がじわじわと効き、女子生徒の進路選択の幅を狭めている可能性はないか。 大学進学はあくまでも選択肢の一つでしかない。ただ、男女差があるのには何か理由があるはず。まずは格差がある実
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記者コラム「清流」 夏の始まり
伊東市の伊東温泉に夏の訪れを告げるイベントとして毎年、各地から多くの出場者が集う「松川タライ乗り競走」が今夏も開かれた。今年は約250人の参加者がタライに乗って川を下るレースに出場。あえなく転覆し、水流に翻弄(ほんろう)される場面が見物客の笑いを誘った。 催しは今年が第69回。記者が取材するのは3回目だったが、やはり7月初旬のこの行事を通して「伊東に夏が来た」と感じる。当日はうだるような暑さだったが、足を水に漬けてカメラのシャッターを切っていると、気分が落ち着いた。 温泉旅館で大きなタライを洗濯に使っていたことから始まったとされるイベントは、コロナ禍での一時中断もあった。今は温泉街に多く
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社説(7月24日)沼津よしもと10年 「お笑い」をにぎわいへ
吉本興業による静岡県内唯一の常設型劇場「沼津ラクーンよしもと劇場」(沼津市)が今月、開場から10年を迎えた。JR沼津駅至近の中心市街地にあり、公演日には多くのお笑いファンが県内外から訪れる。地元商店が出演芸人を応援したり、頻繁に公演する芸人が飲食店の常連客になったりと、活性化が求められる中心市街地に一定のにぎわいをもたらす存在となっている。官民が新たな「顔」として地元の売りに成長させることができれば、地域経済の起爆剤になるはずだ。 各番組に引っ張りだこの人気芸人や、実力派が競う「M―1グランプリ」の優勝者らが約150の客席を前に芸やコントを披露している。にぎわい創出の効果は出ているものの、
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【時評】日本の医師不足と病床数 安心・安全な医療へ変革を(毛利博/静岡県病院協会長・藤枝市病院事業管理者)
日本は世界が経験したことのない人口減少社会に突入した。人口減少は先進国が抱える大きな問題であり、日本がどのように対処するのか注目されている。日本は1990年ごろまでは経済も活性化し、人口構成もピラミッド型で働き手も多く、高齢者を支える社会がうまく機能していた。しかし、2008年を頂点に人口減少の局面に入り、次第に少子高齢化が深刻化した。この先、40年になると、団塊ジュニア世代も65歳以上になり、人口の大幅減とともに高齢者人口はピークに達する。労働力不足や経済成長の鈍化も相まって社会保障制度が逼迫[ひっぱく]する恐れもある。 医療はこれまで、必要な時にいつでも安価に診療が受けられ、安心でき
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記者コラム「清流」 見極めたい熱中症対策
茶どころ菊川市の小学生が地元茶業史を学ぶ体験学習で、講師が水筒の中身を尋ねた。挙手の状況を数えると、麦茶派が優勢。緑茶派は3割程度と見受けられたが、思った以上に支持されている印象だ。同席した医師は「緑茶は健康に良い。風邪をひきにくい体になる」と太鼓判を押した。 支局管外の別の小学校で、熱中症対策に緑茶は不向きとするポスターを見たことがある。カフェインによる利尿作用を理由に挙げていたが、飲み慣れた飲料をこまめに口にする習慣の方が大事に思える。画一的な指導に違和感を覚えた。 茶には健康を支える多くの効能があるし、冷茶がもたらす清涼感は格別。カフェイン抽出を抑える入れ方もある。激しい運動時には
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大自在(7月23日)バイデン氏撤退
やはり無理だったか。11月の米大統領選で再選を目指していたバイデン大統領が撤退を表明した。高齢不安から求心力を急速に失う中で決断を迫られていた。「民主党や米国にとって最善だと考えた」と説明し、同党の大統領候補としてハリス副大統領を支持すると明らかにした。 バイデン氏では共和党のトランプ前大統領に勝てないとの懸念は以前から民主党内にくすぶっていたが、先月のテレビ討論会を機に一気に噴出。選挙戦の行方を左右するテレビ対決でバイデン氏は全く精彩を欠いた。さらに、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議の閉幕を受けた会見や先立つ会合で「言い間違え」を連発したことが拍車を掛けた。 トランプ氏が自身の暗殺
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【時評】静岡県茶業存続 消費拡大が鍵 多様性と機能性生かして(小泊重洋/地紅茶学会顧問)
今年の一番茶は記録的な安値であった。二番茶はどうなるのか、息苦しい中にいつの間にか終了した。これから本県茶業はどうなるのだろうか。 今年の荒茶価格低迷の理由として、直接的には品質の低下によると説明されているが、あくまでも需給バランスの崩壊による。もともと買い手市場のところに、一層の消費減退ムードが流れ、値崩れが生じた。それを受けた二番茶では、意識的、無意識的に生産調整がなされたため、ある程度のところで底を打った。 農作物は、豊作の年には安くなり、不作の時には高くなる。結果として生産者の手取りは、ほぼ均衡したものになっていた。ときには、トラクターでキャベツをつぶしたり、牛乳を廃棄したりして
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社説(7月23日)混迷の米大統領選 日本外交の軸見失うな
11月の米大統領選を巡り、民主党のバイデン大統領が再選を断念して選挙戦から撤退すると表明した。6月末に行われたテレビ討論で精彩を欠き、党内から撤退を求める圧力が強まっていた。後継としてハリス副大統領への支持を明らかにした。 返り咲きを狙うトランプ前大統領は、暗殺未遂事件で共和党の結束が強まり勢いを増している。対照的にバイデン氏は身内に外堀を埋められて選挙戦からの退場に追い込まれた格好だ。後継指名によりハリス氏とトランプ氏の対決になる可能性が高まっているが、暗殺未遂、現職の撤退など混迷する選挙戦にさらなる波乱があってもおかしくない。米社会の分断は深刻で、現時点で選挙結果を予測するのは困難だ。
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記者コラム「清流」 上から見る花火
吉田町の写真家植田めぐみさんは、夏季に富士山頂の浅間大社奥宮に住み込みで働き、神社関係者の食事を作っている。昨夏、山頂から同町の花火大会の様子を写真に収め、町に寄贈した。 「吉田町から富士山が見えるのであれば、富士山からも吉田町が見えるはず」との思いから植田さんはここ数年、撮影を試みていて昨年初めて成功した。当日、知人から「今日は花火大会だよ」と連絡が届いた。植田さんも「こっちからも見えているよ」と写真を送ったという。富士山から吉田町までは約80キロ離れているが、「家族や友人のことを思い出して、距離を感じさせないくらい癒やされた」と笑顔を見せた。 2カ月にわたる山頂での過酷な暮らし。古里
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記者コラム「清流」 麦茶に砂糖
麦茶に砂糖ですか? ちょっと詳しく聞かせてください。浜松出身の自分にとっては大変な文化に出くわした思い。富士市内の取材先で頂いた一杯をきっかけに、行く先々で話題に挙げてみた。詳しく説明できる人はいなかったが、個人的なエピソードは幾つか集まった。 富士のレストラン店主によると、子どもの頃に皆がジュース感覚で飲んでいたという。三島の友人は東北から嫁いだ祖母の習慣だったそうだ。岩手県出身の支局の同僚に話を向けると「入れますよ。でも納豆にも入れるから、麦茶に特段の意味はないかも」との注釈付きで返ってきた。 昔懐かしい味と感じる人から心当たりなしという人までいる砂糖入り麦茶。記録的な暑さを思い出に
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記者コラム「清流」 前向きに、しなやかに
「最近だと『転スラ』が面白かったですよ」。視覚障害がある浜松市の武藤千重子さん(75)は、音声ソフトを用いた読書を趣味にする。無料サイト「小説家になろう」で、若者らの人気を集めた「転生したらスライムだった件」を読んだ感想を教えてくれた。 ラジオ中継を取り入れたサッカー観戦をしたり、盲導犬を伴って近所の歩道橋で運動したり。話を聞くたび、前向きに、等身大に日々を過ごす武藤さんのしなやかな強さを感じた。 半世紀近く前、旧優生保護法下での不妊手術を強いられた。岸田文雄首相は国の責任を認め、全国の被害者に謝罪。面会に参加した武藤さんも「自分の裁判も終わるはず。一区切り」とほほえんだ。夫と都道府県巡
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大自在(7月22日)猛暑とウナギ
梅雨入りが遅かった分、短かった梅雨が18日に明け、翌日は土用の入りだった。猛暑が続いている。 〈かささぎの渡せる橋におく霜の白きを見れば夜ぞ更けにける〉。百人一首にある歌の冬の情景を想像してもちっとも涼しくならない。カササギは織り姫がひこ星に会いに行く七夕の夜、群れで翼を広げ天の川に橋をつくるという伝説があるので、引用はまったく季節外れとは言えないとご容赦を。 作者は大伴家持[おおとものやかもち]。「万葉集」編さんの中心人物とされる。万葉集所収の約4500首の1割強が家持の作。繊細で感傷的な作風とされるが、こんなトーンの歌も。〈石麻呂にわれ物申[ものまを]す夏痩[やせ]に良しといふ物そ鰻
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社説(7月22日)防衛費の使い残し 予算増の必要性検証を
政府が2023年度予算に計上した防衛費6兆8219億円のうち、1300億円程度を使い残したことが分かった。政府は安全保障環境の悪化を理由に防衛予算を大幅に拡大しているが、増額した予算に一部業務が追いつかず、執行手続きが間に合わなかったとみられている。防衛省発足後の07年度以降では、東日本大震災の影響で不用額(予算を執行し切れずに使い残した額)が約1800億円に上った11年度に次ぐ、過去2番目の規模になる見込みだ。 日本の歴代政権は防衛費をおおむね国内総生産(GDP)比1%以内に抑えてきたが、岸田文雄政権は「防衛力の抜本的強化を進める」として22年末に、防衛費を27年度にGDPの2%まで増や
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コラム窓辺 オリンピックのレガシー(中野祐介/浜松市長)
パリ2024オリンピック・パラリンピックの開幕が、いよいよ目前に迫りました。今回も日本選手、とりわけ静岡県ゆかりの選手には、素晴らしい成果を残してもらいたいものです。 それにしても、前回の東京2020大会から、あっという間の気がします。私は当時、北海道庁に勤務していたのですが、急きょ、マラソンと競歩の札幌開催が決まり、受け入れ準備に追われたことがついこの前のように思い出されます。 札幌会場では、マラソンが道庁敷地内を通過するにあたり、コースを示す緑色のラインが引かれることになったのですが、周囲の反対を抑えて、大会終了後も消えずに残るようなペイントにしてもらいました。まだ残っているとすれば
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社説(7月21日)24年度版通商白書 透明強靱な供給網必要
斎藤健経済産業相は2024年度版の通商白書を報告した。白書は中国などを念頭に、特定国からの過度な調達依存によるリスクが顕在化していると指摘。関税を引き上げたり、為替を切り下げたりする保護主義の台頭に対する懸念を示している。 日本は自動車輸出額が多い他の国々の中でも、次世代自動車のモーターに使うレアメタル(希少金属)をはじめとする重要物資などで、特定国への依存度が特に高い。輸入元の分散化とともに、ルールに基づく透明で強靱[きょうじん]な供給網の構築を急ぐ必要がある。 白書ではインドやインドネシア、トルコ、南アフリカといったグローバルサウス(新興・途上国)と呼ばれる国々が高成長を維持し、日本
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大自在(7月21日)花火大会
昨夜は静岡市で安倍川花火大会が開かれ、光と音のスペクタクルが繰り広げられた。花火大会のシーズンを迎えた。丸く広がり夜空に大輪を咲かせる日本の花火「割物[わりもの]」は、世界で最も華やかで美しいとたたえられているそうだ。 今年上半期の訪日客が過去最多となった。これから旅行先で花火大会を楽しむ外国人も多かろう。花火師の高い技や花火大会に込められた鎮魂や厄よけの祈りも含め日本の理解を深めてくれるといいのだが。 27日には東京で隅田川花火大会が予定されている。起源は「両国の川開き」。前年の大飢饉[ききん]と疫病流行を重く見た徳川8代将軍吉宗が享保18(1733)年5月28日に隅田川で行った水神祭
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時論(7月21日)自然保護と利用 妥協点どこに
日本を代表する優れた自然の風景地を保護し、その利用を増進して国民の保健に役立てるとともに生物多様性の確保に寄与する―。そうした目的で自然公園法が制定されたのは1957年のこと。7月21日はこれを記念した「自然公園の日」とされている。毎年この日から一定期間、国民が自然に親しむための行事が各地で行われているようだ。 同法に基づき国立公園、国定公園、都道府県立自然公園に分類される自然公園が指定されている。環境相指定の国立公園は現在、全国に35カ所。本県にも、共に隣県にまたがる富士箱根伊豆と南アルプスがあり親しまれている。 政府がその国立公園の全てに高級リゾートホテルを誘致する方針だという。コロ
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大自在(7月20日)月面宙返り
1969年のきょう、アポロ11号が月面に着陸し、人類が初めて月に降り立った。アームストロング船長は「この一歩は小さいが人類にとっては大きな飛躍である」と有名なメッセージを地球に届けた。以来50年余り。月の起源や構造はいまだ謎に包まれているが、解明に向けた人類の歩みは格段に進んでいる。 月面着陸の3年後、72年に開催されたミュンヘン五輪。体操団体の鉄棒で塚原光男さんが「後方2回宙返り1回ひねり」を世界で初めて成功させ、日本は五輪4大会連続の金メダルを獲得した。 国際大会で初披露し、成功した技には演技者の名前が付けられる。塚原さん自身、跳馬で「ツカハラ」という新技を編み出していた。だが、今度
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社説(7月20日)ウナギ人工種苗 実用化へ確かな道筋を
実証中のニホンウナギ「完全養殖」のコストが大幅に低減したと水産庁が発表した。 現在、流通しているのはほぼ全て養殖ウナギで、波打ち際や河口で採捕した天然の稚魚「シラスウナギ」を育てている。稚魚の好不漁に左右されない人工種苗の実用化は悲願と言って過言でない。 10年ほど前には1匹4万円以上していた人工種苗が量産化により1800円程度まで下がったという。ただ、天然種苗は不漁続きで高騰した近年でも1匹500円前後で取引されている。まだ高い。 政府は2050年までに人工種苗割合を100%にする目標を設定。ニホンウナギ資源の持続的利用と養鰻[ようまん]業の経営安定のため、さらなるコスト減を進めて実
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記者コラム「清流」 地域の目が最大の福祉
能登半島地震から約半年がたった6月下旬、被災地に再び訪れた。石川県珠洲市の仮設住宅で高齢女性(85)に話を聞いていると、部屋には次々と来客があった。知的障害のある長男(62)と2人暮らしだった女性は長男を市外の施設に預けざるを得なくなり、1人で仮設に入居した。 体調を気遣う隣の住民や花を届ける友人―。「気に掛けてくれる人がいる」。当初に比べて寂しさは紛れてきたと女性は笑顔を浮かべた。 輪島市では6月に仮設住宅で1人暮らしをする女性が孤立死したばかり。広域避難や仮設住宅への入居で、集落がばらばらになった。新たな介護ニーズも増えているが、福祉サービスの提供体制は十分ではない。孤立や災害関連死
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記者コラム「清流」 署名と責任
本紙は掲載場所や内容により記者の署名が記載される。署名が本格的に始まったのが8年前。本来の主役は取材対象という考えが念頭にあり、いまだに本音では遠慮したい。署名の1行分で、内容をさらに詳しく書きたいとの思いもある。 30代も中盤になると、なかなか立ち止まる余裕がなくなってくるのだが、先日すてきな出会いに恵まれた。「あなたが伊藤さんですか。いつも記事を楽しみにしています」。五輪の自転車競技関連の取材で訪れた三島市で、上品なご婦人から声をかけられた。 冒頭のようなことを書いておきながら、うれしいのは職業柄か。襟を正したい気持ちと同時に、最近はなかった“応援”に胸が温か
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記者コラム「清流」 地元の話題 丁寧に発信
先日、磐田市福田地区の郷土食「かつおのみそたたき」について取材した。カツオの身を包丁でたたいた後、ショウガやネギなどの薬味とみそで絡めてつくるナメロウに似た料理。酒好きにはたまらない逸品だ。 食べられ始めた時期や由来ははっきりしなかった。一方、地元住民からは「88歳の祖父が子どもの頃にはすでにあった」「昔は船の上で漁師がサクッと食べていた」「食中毒対策のためでは」といった多様な意見が寄せられ、先人たちの知恵や情熱に想像を巡らせながら楽しんで執筆できた。 実は取材前、みそたたきと聞いて表面をあぶる「土佐造り」のようなものを想像していた。支局に着任し約2年だがまだまだ知らないことがある。管内
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コラム窓辺 蔵元の海外出張(土井彩子/土井酒造場取締役)
日本酒の国内消費量は年々減少していますが、海外での認知度や需要は年々拡大し、輸出量も増加しています。弊社は現在26カ国に輸出、売上高の3割が海外です。コロナ禍が明けて海外でのイベントも復活し、海外出張も徐々に増えています。 今年の弊社の海外出張は、アメリカ2回、カナダ2回、韓国、シンガポール、台湾、フィリピンの6カ国8回ですが、蔵元の中では特別多い方ではありません。蔵元の海外出張内容としては、展示会スタイルの試飲イベント、飲食店でのペアリングディナーの会、飲食店や酒販店の営業回りやセミナー実施、現地視察などです。 日本酒は日本の伝統的な文化であるため、大使館や大使公邸に招かれてのお酒のイ
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大自在(7月19日)アウンサン将軍
トランプ前米大統領の暗殺は未遂に終わり、開催中の共和党大会で党の大統領候補に正式に指名された。最終日に本人が指名受諾演説を行い、11月の大統領選に向け勢いを増しそうだ。 右耳を負傷したトランプ氏は一命をとりとめたが、志半ばで凶弾に倒れた政治指導者は枚挙にいとまがない。「ビルマ(現ミャンマー)建国の父」とされるアウンサン将軍もその一人。1947年のきょう7月19日、ヤンゴンで政敵によって暗殺された。32歳だった。 第2次世界大戦の終結後も植民地支配を続けていた英国を相手に独立交渉を進め、47年1月に1年以内の完全独立を約束する協定を結んでいた。しかし、ビルマが実際に独立を果たしたのは翌48
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社説(7月19日)沼津駅周辺再開発 南北一体化の構想示せ
JR沼津駅を軸とする中心市街地の再生に向け、複数の再開発計画が進行している沼津市の駅南地区。都市計画決定するなど具体化している2カ所のほか、再開発準備組合を発足させたり、事業者を公募したりと数カ所で事業化へ動き出している。建物更新と新たな誘客という地権者や商店主らの構想と、地元経済活性化を図る市の考えが連動した形だ。 鉄道高架化に伴うまちの再生を見据え、地元企業も先行投資として駅南地区の不動産取得を加速させているのをはじめ、大手デベロッパーが事業に参画していて、まちづくりの行方に官民の関心は高まっている。 一方で、現時点の建設計画は低層階に店舗と上層階にマンションを配置する高層建築で、い
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【時評】子育て家庭の孤立防ぐには 地域が陰に陽に支えよう(高橋恭文/ITサービス事業家)
児童福祉法改正により本年度から、出産前から子育て期まで切れ目なく支援を行う「こども家庭センター」の設置が市区町村に求められている。こども家庭庁によると、全国の設置率(5月時点)は半数を超え、県内も48.6%となった。 これまで妊娠から子育て期の相談を受けてきた「子育て世代包括支援センター」と、子育て家庭の相談に対応してきた「子ども家庭総合支援拠点」の業務の重複を解消し、統括支援員を中心に一体的な組織として子育て家庭を支援することが新たなこども家庭センター設置の目的だ。 設置の背景には、核家族化や地域社会の変容などにより、子育てに困難を抱える世帯がこれまで以上に顕在化してきていることがある
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記者コラム「清流」 赦しは心の遺産
札幌で親子3人が殺人容疑などで逮捕された事件。いびつな家族の関係が裁判で明らかになっている。 親は子どもをどう導けるのか。上智学院理事長サリ・アガスティン氏の講演を聞いた。サリ氏は「人は赦(ゆる)すことができる」と教えることが親から受け継ぐ心の遺産だと強調した上で、ある種の“ごまかし”である赦しが人間を大きくすると説いた。 親や担任のような直接的関わりではなくワンクッション置く存在を、社会人類学では「冗談関係」と表現する。適度な距離で温かく見守り、赦してくれる存在。その関係性が希薄になっていると警鐘を鳴らす。 自他を「こうあるべき」と型にはめ、役割の遂行を求めす
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記者コラム「清流」 カレンダーにみる功績
河合楽器製作所で会長兼社長を務め、2月23日に76歳で死去した河合弘隆さんのお別れの会がこのほど、浜松市内で開かれた。会場には、弘隆さんが撮影した海外の風景写真などを活用した同社カレンダーの一覧が展示されていた。トップ自ら世界中を駆け回り、同社を世界有数のピアノメーカーに押し上げた功績を示しているかのようだった。 1989年の社長就任会見で「企業は人なりと申しますが、河合ほど人でなる会社は数少ないだろう」と話した弘隆さん。取引先やピアニストにも、そんな態度で接してきたのだろう。 お別れの会には国内外から約600人が出席した。「X JAPAN」のYOSHIKIさんの「コンサートの後に河合さ
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記者コラム「清流」 ぐっとくる声援
「ビバ熱海!ビバビバ熱海!!」。6日のあしたか球場第2試合で、特別措置を活用し、単独名出場を果たした熱海への声援が球場に響いた。部員は試合に出場している5人のみ。誰が応援をしているのかとスタンドへ行くと、胸にぐっと込み上げるものがあった。 熱海は沼津商から1年生部員4人の力を借りての出場だった。猛暑の中、応援したのは第1試合で敗れた沼津商の正規メンバー。悔し涙を流している姿を目の当たりにした直後だった。 きっとまだ気持ちの整理はつかないだろう。しかし、話をした3年生はみな「熱海のために力になってほしい」と口をそろえた。 熱海は沼津商の悔しさを晴らすかのように、試合をひっくり返して勝利を
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コラム窓辺 太ももの感触で医者を志す(後藤幹生/静岡県感染症管理センター長 小児科医)
私が育った大阪府岸和田市の町は、丘を切り開いてできた新興住宅地で、森に囲まれ空き地も多かった。田畑とため池を縫って半時間かけて小学校に通った。山野でさまざまな虫を取り、池や水路でザリガニ、カエル、カメを捕まえ、飼うことに熱中した。合間の学校の授業では図画工作が一番好きで、作品の細かさと手先の器用さは先生にほめられた。 小学5年生の時、早朝に鈍く重い腹痛と吐き気で目が覚めた。かかりつけ医院のU先生は、お腹[なか]を触っただけで虫垂炎と診断を下した。病院に初めて入院して手術となった。 落ち着きのない当時の私を小児科医になった私がもし担当したら、外科医に全身麻酔を強くおススメしたと思うが、なぜ
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大自在(7月18日)オールスター戦
朝から爽快な気分になった人も多かろう。日本時間のきのう行われた米大リーグのオールスター戦でドジャースの大谷翔平選手が豪快な本塁打を放った。カブスの今永昇太投手も好投した。 舞台はテキサス州アーリントンにあるレンジャーズの本拠地グローブライフ・フィールド。近くには2019年まで使用したチョクトー・スタジアムがある。ザ・ボールパーク・イン・アーリントンの名前だった1995年のオールスター戦では、当時ドジャースの野茂英雄さんが先発した。 第1回の球宴は33年。「野球の神様」ベーブ・ルースさんの本塁打でアメリカン・リーグが勝利した。ルースさんと言えば、長打率とOPS(出塁率と長打率を合算した貢献
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社説(7月18日)年金財政検証 信頼できる制度を望む
公的年金の健全性を5年に1度点検する財政検証結果が厚生労働省から公表された。 過去30年と同程度の経済状況が続く標準的なケースにおいて、現役世代の収入と比べた年金額の給付水準(所得代替率)は、2024年度の61・2%から、33年後の57年度には50・4%と2割程度低下する。とはいえ、政府が約束している50%以上はなんとか維持する形となった。 それでも前回の19年検証と比べれば改善した形だ。前回検証では実質経済成長率を0・0~0・2%とした場合、機械的に給付水準を調整すると50年代の所得代替率は40%台半ばだった。世界的な株高を受けて年金積立金の運用が好調だった上、高齢者を中心に就業者が増
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【時評】自然災害の基本的性質 山は崩れ、川はあふれる(牛山素行/静岡大防災総合センター教授・副センター長)
「この辺りの山は頑丈な岩石で崩れない」といった話を聞くことがある。あくまでも相対的な話としては、比較的崩れやすい、という所がないわけではない。しかし、残念ながら「絶対に崩れない山」というものは存在しない。 川についても同様だ。周囲より低い土地、川幅が狭くなった箇所の上流側など、相対的に川から水があふれやすい場所はある。しかし、「絶対にあふれない川」というものも存在しない。 山を構成する岩石は空気や水に触れて「風化」し、割れ目ができたり、地表付近では細かい土砂などの粒子に変わったりしていく。火山付近では火山から噴出した砂などが地表に堆積していることもある。大雨が降ると地中に水が浸透し、割れ
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記者コラム「清流」 「内部検証」の役立て方
「内部検証」とはあまり聞き慣れない言葉。熱海市で2021年に発生し、開発規制の在り方が問題となった土石流災害で、行政対応の検証不足を指摘した県議会が県に求めた内容だ。 検証と言えば外部の人が行うのが普通だが、内部検証の組織は規制に関係した部署の県庁の課長が構成員。身内同士で甘くなり無意味だろうと当初考えていた。しかし、ある弁護士から「(検証の)中身は当てにならないが、分かりやすい」という話を聞いた。何が分かりやすいのか問うと、県にとって都合の悪い箇所が検証されず、対応に問題があった点が逆にあぶり出されるのだという。 県議会は内部検証会合の議事録の公表も求めている。検証結果発表から4カ月た
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記者コラム「清流」 花のリレーは続く
梅雨空の下、ひそやかに花を咲かせたスイレンやハス。「浜名湖花博2024」の閉幕から約1カ月。会場となった浜松市のはままつフラワーパークと浜名湖ガーデンパークの両園は通常営業を再開し、静かに来園者を迎えている。 86日間続いた美しい花のリレー。「もう1カ月か」とにぎわいを思い出しながら再開後の園内を歩いていると、変わらずに花壇の整備に汗を流すスタッフと観賞を楽しむ人たちの姿があった。花博のために新設されたガーデンにも新たな花が咲き、“リレーの続き”を見せてくれていて、豊かな気持ちになった。 花博を通じ、花を見て季節の変化を感じる習慣が身についた気がする。訪れた100
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記者コラム「清流」 初島に“命の水”届け
静岡県内唯一の有人離島、熱海市初島に水を供給する「海底送配水管」の敷設替え工事。特殊台船を使って初島側から施工していた新設管が本土側の網代地区に到達した。市は防波工事や通水試験を経て、来年3月に供用を開始するそうだ。 新設管の総延長は6.7キロ。「連結作業が大変そうですね」と工事担当者に声をかけると、「実は『1本もの』なんですよ」と返ってきた。特殊台船に搭載した巨大なリールから新設管を少しずつ海底に垂らし、敷設していく工法だと教わり、目を丸くした。 およそ40年ぶりの更新となる海底送配水管。初島で暮らす約200人の市民生活を支えるだけでなく、多くの来訪者を受け入れる宿泊観光施設にも恩恵を
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コラム窓辺 オリンピックの感動とスポーツの意義(田崎博道/日本陸連専務理事=沼津市出身)
私の職場は日本オリンピックミュージアムと同じビルです。五輪マークやクーベルタン像、嘉納治五郎像、そして1964年東京、1972年札幌、1998年長野の3大会の聖火台など、オリンピックゆかりのモニュメントが出迎えてくれます。緑あふれ時折の花が咲きこぼれるMONUMENT AREAを通って、オリンピックの世界観を映像や展示で感じるWELCOME AREAに進みます。 そして2階のEXHIBITION AREAでは、オリンピックの起源から今日に至るまで、歴史背景を踏まえながらオリンピックが社会とどのようにかかわってきたのかをさまざまな視点で学びつつ、オリンピアンの躍動や大会の感動を臨場感あふれる
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コラム窓辺 パチンコ屋に見た女性(内田美紀子氏/女性活躍推進「るるキャリア」創業者)
20代後半で転職した求人情報誌のアルバイトタイムスは当時、人材派遣事業も展開していました。35歳で支店長に任命された横浜支店は、静岡県外初の出店、見込み客ゼロからのスタート。派遣の受注はあるものの人材をマッチングできず、3カ月売り上げのない状態が続きました。 ある日、当時社長だった満井義政さんが来訪、私は売り上げが伸びない要因(言い訳)と自信がない解決策を聞いてもらいました。満井さんからは「まあ、内田くんが元気でやっていればいいから」の一言だけ。欲しかったのは業績を上げる助言だったのに。 数日後、横浜駅から事務所に戻る途中のパチンコ屋に、うなだれた女性の姿を見ました。二度見すると、その姿
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大自在(7月17日)97歳の女性棋士
勝負の世界に生きる熱海市出身者といえば、開催中の大相撲名古屋場所で新三役を狙う熱海富士を思い浮かべる人が多いであろう。囲碁の愛好者は杉内寿子八段の名を挙げるかもしれない。21歳の熱海富士が幕内最年少なら、97歳の杉内八段は現役最年長の棋士である。 4月に行われたタイトル戦の天元戦予選で森田道博九段(53)と97歳1カ月5日で対戦し、公式戦対局の最年長記録を更新した。従来の記録は夫の故杉内雅男九段が保持していた97歳0カ月13日。背筋を伸ばして碁盤に向かう凜[りん]とした姿は本紙にも掲載された。感動すら覚えた。 函南町で生まれ、伊東市、熱海市で育った杉内八段は「熱海の天才少女」と騒がれた。
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社説(7月17日)静響「正会員」承認 県民の楽団へ地固めを
静岡県を拠点に活動する常設プロオーケストラ「富士山静岡交響楽団(静響)」が、公益社団法人日本オーケストラ連盟の正会員に承認された。正会員は27団体。NHK交響楽団、読売日本交響楽団など全国の著名オケが名を連ねる。静響にはさらなる演奏レベル向上とともに、事業規模拡大も求められる。地域に密着した「県民が支える楽団」としての地固めが必要だ。 静響は2008年に同連盟に加盟し、これまで「準会員」の立場だった。正会員の称号を得るには「法人格を有するプロオーケストラ」「固定給与を支給するメンバー」「定期会員制を採用し、年間10回以上の自主演奏会」といった5条件がある。静響はこれらの条件に照らして、活動
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記者コラム「清流」 思いこもったチョコ
子どもの頃からチョコレートに目がない。手軽におなかと心を満たしてくれる。最近食べた中で思わずうなった味は、島田商業高の生徒が手作りし、分けてくれたひとかけらだ。 3年生約20人が児童労働や原料となるカカオ豆の価格急騰など原産地が直面している問題を学びながら、商品開発など支援につなげようと取り組んでいる。きっかけはフェアトレードやエシカル消費を学ぶ生徒が、静岡市葵区のクラフトチョコレート専門店に直接連絡したこと。第一歩として、店主を講師に招き、フェアトレードのカカオ豆を使ったチョコレート作りが実現した。 「身近なお菓子の現状や現実を知り、自分たちが今できることを探したい」。出来たての手作り
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天浜線車両更新 沿線活性化 先進事例に【記者コラム 風紋】
第三セクターの天竜浜名湖鉄道(浜松市天竜区、天浜線)が全15車両の更新を決めた。出資する県や沿線6市町が負担を分け合う以上、収益安定と沿線活性化への一層の努力が求められる。人口減や生活様式の変化が進む中で観光需要を取り込み、車両刷新を成長への追い風としたい。 新車両は環境性能に優れた電気式気動車で、2025年度から段階的に切り替わる。現車両は古い物では導入から20年以上が経過している。消耗部品の交換費用や今後の安全性の観点から、更新の判断は妥当だろう。 車両1両の導入費用は約3億4千万円。県と6市町が同鉄道に拠出する24~28年度の支援金額は車両代金などで膨らみ、過去5年間と比べて10億
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記者コラム「清流」 高校生の活動、広まれ
NIE(教育に新聞を)に力を入れる浜松市浜名区の浜名高では、放送委員会の生徒が昼休みに気になった新聞記事を紹介する放送を行っている。取り上げる話題は自ら新聞紙面などから探し、感想などを伝える。その様子を取材した。 ジャンルは政治や防災などの硬めの話題から、地域の出来事など身近な話題まで。自身の考えを簡潔にまとめて伝える姿に感心した。「(活動を通じて)ニュースに興味を持って追いかけるようになった」とのコメントに新聞制作に関わる一人として、身が引き締まる思いがした。 ただ、活動は道半ばのようだ。校内での浸透具合を尋ねると、委員会の生徒は答えに窮した。担当の生徒は学業や部活の合間に興味を引く話
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記者コラム「清流」 選挙の熱気、静岡でも
東京がうらやましかった。遊ぶ場所の多さや華やかさではない。都知事選の熱気だ。中堅都市の街頭演説会場は、普段着姿の人や若者が聴衆の輪に加わっていた。その様子を高校生が「フェスみたい」と撮影していた。5月の静岡県知事選ではスーツや作業服姿の人が大半だった。 都知事選の投票率は前回選を5ポイント以上も上回り、平成以降で2番目の高さ。各陣営の戦い方や国政に及ぼす影響に注目が集まり、政策論争は低調だったとされる。掲示板の枠が販売されるなど選挙制度の在り方も問われたが、参加する人が増えたという意味で良い選挙だったと評価できる。 地元出身者の比率が低い東京で熱を帯びるのだから静岡はもっと盛り上がる。携
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【D自在】(7月16日)富士山にまつわる姉妹の物語
下田市街から富士山は見えない。幕末、通商開始に向け来日した初代米国日本総領事タウンゼント・ハリスが初めて富士山を見たのは着任から1年3カ月もたった1857(安政4)年の初冬。ようやく将軍面会が許されて江戸に向かう旅の2日目、天城山を越えた夕刻だった。 「凍った銀のよう」「ヒマラヤ山脈の有名なドヴァルギリよりも目ざましい」と日記に。通訳兼助手のヒュースケンは、冠雪を英王室の100カラット超のダイヤモンド「コイヌール」に例えるなど、大げさだがユーモアを交え、かつ詩的に感動を書き留めた。 全国各地に、似た山容のご当地富士があるように、伊豆急下田駅近くに「下田富士」と呼ばれる山がある。山頂には
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社説(7月15日)認知症行方不明 早期発見に手を尽くせ
2023年に全国の警察に届け出があった認知症の行方不明者は1万9039人で、警察庁が統計を取り始めた12年以降増え続けている。12年のほぼ2倍で、認知症高齢者の増加が背景にある。今後も行方不明者の増加は避けられないという前提で、施策を講じなければならない。 行方不明者のほとんどが届け出から3日以内に保護されている。ただ、毎年400~500人台が死亡した状態で見つかっている。昨年は502人の行方不明者が遺体で発見された。 早期発見のための取り組みは社会全体で進んでいる。対策に手を尽くせば、死者は減らすことができる。 認知症の人が尊厳と希望を持って生活できる社会の実現を目指す認知症基本法が
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コラム窓辺 勝利の女神のスパイラル(田崎博道/日本陸連専務理事=沼津市出身)
今、陸上界は、やり投げの北口選手、短距離のサニブラウン選手、走り幅跳びの橋岡選手をはじめ、多くのトップアスリートの活躍で大変盛り上がっています。私は役得で、直接お話しする機会があります。トップアスリートの皆さんは、一人一人がそれぞれに個性的で魅力的ですが、共通して、「目指すものを言葉にして、明確に発している」と感じます。 私が競技をしていた50年前は「内に秘めたる姿がかっこいい、結果が伴わなかったら恥ずかしい」というような心理がありました。私が接する皆さんは達成のプロセス、成功のシナリオを明確に作り上げている、実現した時の自分の姿を描き切っていると感じます。 ある時、私はトップアスリート
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大自在(7月15日)トランプ氏銃撃
自由民権運動の指導者で、後に第2次伊藤博文内閣などで内務大臣を務めた板垣退助(1837~1919年)らが、国会開設を求める建白書を当時の立法府左院に提出したのは1874年1月。ことしは150年の節目だ。 板垣は自由党総理だった82年4月、岐阜市での遊説中、暴漢に襲われて負傷したものの一命を取りとめた。板垣はその後も何度か暗殺されかけては難を逃れている。政治と暴力がいかに近いものだったかが分かる。 岐阜で襲撃された時に発したとされる「板垣死すとも自由は死せず」。胸から出血しながら、本当にそんな言葉が出てきたのかと疑念もわくが、当時の新聞報道や警察署の密偵による報告書の記述から、類する発言が
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時論(7月14日)全中から消えた「学校対抗」
日本中学校体育連盟(日本中体連)が、全国中学校体育大会(全中)の大幅な規模縮小に踏み切った。2027年度から、これまで実施していた19競技のうち水泳や体操など9競技を取りやめる。生徒、保護者、教員の約2万5千人に実施したアンケートの結果を踏まえ、原則的に部活動設置率2割未満の競技を削減した。 改革の背景にあるのは、急速に進む少子化。日本中体連によると、13~15歳の運動部加盟人数は14年度の約223万人から23年度は約181万人に減った。スポーツ庁の推計では、53年度には約124万人になるとしている。加盟校数の増減も考慮した競技別推計では、1校当たりの部員が14年度に約35人だった男子のサ
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社説(7月14日)スケボー禁止条例 根気強くルール説明を
浜松市は、繁華街にある公共スペースへのスケートボード利用を目的とした立ち入りを禁止する改正条例を17日、施行する。多くの人が集まるにぎわい空間を、誰もが安全に通行できるようにルールの周知と監視を徹底していかねばならない。 対象エリアのJR浜松駅前の全天候型歩行者用通路ギャラリーモールと新川モールで、スケボーを行う違反者に退去を求めることができるようにした。 以前からスケボーが禁止されているエリアだが、道路ではないため警察による取り締まりにはハードルがあり、管理者側と違反者とのいたちごっこが続いていた。 「ぶつかりそうで怖い」「歩行の邪魔」といった苦情は2016年ごろから急増。昨年は市が
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コラム窓辺 暑いまち・寒いまち(中野祐介/浜松市長)
今年は梅雨入りが随分と遅れましたが、梅雨が明ければ、いよいよ夏本番。長期予報では暑さ厳しい夏になりそうです。その夏の暑さ。かつて過ごした東京では、いかにも体に悪い気がしてなりませんでした。それに比べて浜松では、健康的な暑さを感じます。そう考えると、「暑さ」もまた、人を引き付ける魅力の一つになるのでしょう。 ところで、「日本一暑いまち」と言えば、どこを思い浮かべますか? 最近のニュースでは必ず埼玉県熊谷市が取り上げられます。日本の最高気温は、その熊谷市で2018年7月に記録した41・1度となっています。 実はこの気温、20年8月に浜松でも記録しており、現在、暑いまちトップに浜松も並んでいま
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大自在(7月14日)パリ祭
「スカーレット・ピンパーネル(紅はこべ)」は英国で活躍した小説家バロネス・オルツィ(1865~1947年)の代表作。後に米ブロードウェイのミュージカル作品になり、2008年には宝塚歌劇団が初上演した。 17年の星組公演を都内で鑑賞したことがある。舞台は18世紀末のフランス。革命政府統治下で貴族が次々に処刑される事態に反発し、無実の貴族たちを国外へ逃亡させる英国貴族の活躍を描いた。紅はこべはその主人公が使った紋章だ。 劇中の悪役マクシミリアン・ロベスピエールは、実在したフランスの革命家。弁護士出身で清廉な政治家として国民の人気が高かったが、実権を握ると恐怖政治を敷き、最後は失脚して仲間と共
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大自在(7月13日)“隠れ県勢”
日本オリンピック委員会(JOC)が発表したパリ五輪の日本選手団は410人。追加される可能性もあるが、海外開催の大会での史上最多は確定している。静岡県勢選手は30人ほどという。 県勢は本県の出身や居住、県内チーム・企業所属が基本。他にも県内に練習拠点があるとか、学生時代を過ごしたとか。判断が難しい場合もあるが、少なからず静岡にゆかりがあれば言ってもいいだろう。 県勢の活躍が楽しみと言えば大相撲だ。名古屋場所はあす、初日を迎える。幕内の熱海富士(熱海市出身)と翠富士(焼津市出身)の取組が気になるが、幕下上位のホープにも注目したい。西4枚目の吉井と西6枚目の聖[さとる]富士。2018年の全国中
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記者コラム「清流」 まるちゃんの七夕豪雨
七夕豪雨50年の取材の過程で、清水出身のさくらももこさんに関係する方々に何人か会った。さくらさんは現在の清水入江小3年時に体験した豪雨をモデルに漫画「ちびまる子ちゃん」に作品を残している。 同学年で、地元ですし店を営むあっちゃん(58)もその一人。「水の中に家が建っている感じだった」と話す光景は、さくらさんの漫画やエッセー集「あのころ」に通じる。「主人公のまるちゃんが3年生なのは、七夕豪雨のあった年ゆえに特別印象深かったからでは」と話す人もいた。 七夕豪雨の記憶が風化する中、さくらさんの作品は貴重だ。地元では子どもたちの防災教育にも活用されている。いつも見ているちびまる子ちゃんのまた違っ
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記者コラム「清流」 「窓辺」締め切りに人柄
市長ってどんな人? こんな質問をよく受ける。市長とは16年ぶりに浜松市の新たなかじ取り役を担い、昨年5月に就任した中野祐介市長。節目やインタビューの記事ではなるべく人柄が伝わるような内容を心がけたつもりだったが、筆力が足りず、反省している。 そんな中野市長が7月から、弊紙コラム「窓辺」の執筆者に名を連ね、9月末まで休刊日を除いて月曜日を担当する。人柄や思いが伝わる内容になっているのでぜひ読んでほしい。 多忙な中で執筆をお願いしたため、当初はアニメ「サザエさん」で小説家の伊佐坂先生に締め切り間際に原稿を迫るノリスケさんの心持ちでいたが、市長の原稿はするすると出てくる。伊佐坂先生タイプの記者
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社説(7月13日)富士山遭難相次ぐ 自然の厳しさ再認識を
山開きをした静岡県側の富士山登山道で遭難事故が相次ぎ、初日から2日目にかけて3人が亡くなった。県警の昨年夏期(7~8月)山岳遭難まとめによると、富士山の遭難者は64人で死者は1人だった。それを考えると異常事態といえよう。 年齢や体調もあるだろうが考えられる大きな理由は天候の急変だ。山開きした10日は青空も見える朝を迎えたが、午後から天候が急速に悪化し厳しい風雨に見舞われた。標高のある山ほど、荒天時の登山は晴天時とは比べものにならないほど困難になる。中でも独立峰の富士山は強風に見舞われやすい。 富士山の自然は厳しいということを改めて認識する必要がある。その上で登山者自らが自己管理を徹底し、
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記者コラム「清流」 富士登山 通年の対策を
7月1日の山開きを前に、富士山で登山者とみられる3人の遺体が見つかった。登山道が全面開通になり、山小屋が営業する開山期の夏山シーズンは例年7月上旬から約2カ月間。だが、閉山期間中の遭難事故は後を絶たない。 混雑を避け、閉山を待って訪れる登山者や、開山前に山スキーを楽しむ滑走者。夏の登山者急増と遭難事故多発につい目が向きがちだが、閉山期の遭難事故も長年の課題だ。夏山に限らない通年の対策が必要ではないだろうか。 自粛を呼びかけても、登山道のバリケードを突破する人は必ず出現する。結局は開山期前後の一定期間も、登山口のある5合目まで簡単にアクセスできるのが最大の要因だと思う。閉山期は接続道をすべ
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コラム窓辺 プロポーズは義父から!?(土井彩子/土井酒造場取締役)
私が主人の父と初めて会ったのは、主人と出会う1年以上前のお酒の会です。主人の父行きつけの銀座の日本料理店の店主さんが主人の父に「蔵元のお嫁さんにぴったりな子がいる。明日、土井さんが参加するイベントにその子も行くから見に行ってみたら」と言ったことがきっかけです。 当時、私は東京で働いていましたが、休みの日は親戚の蔵元のイベント手伝いをしていてそのお店へもよく連れて行ってもらっていました。主人の父はイベント当日、自分のブースを離れて私を見に3度来て「名前は? どんなお酒が好き?」とリサーチしてきました。しかし、それが直接主人との出会いにつながったわけではなく、主人とは別の蔵元の紹介で出会いまし
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大自在(7月12日)富士の笠雲
富士山に笠雲がかかると天気は下り坂―。昔からよく言われてきた。空で起こるさまざまな自然現象や動物の動きなどで天気を予想する「観天望気」の一つで経験則ともいえる。 水蒸気を含んだ風が富士山に吹き付けると斜面に沿って上昇気流が生じて雲がわく。風上側で生まれた雲は風下側で消える。絶えず発生と消滅を繰り返すので遠くから見ると静止しているように見えて富士山が笠をかぶった姿になる。 静岡県側の富士山登山道が山開きを迎えた一昨日も山頂付近に雲がかかっていた。当日は富士宮ルート五合目に着いた時から西寄りの風が強く標高を上げるにつれてあおられるような風も吹いた。息が苦しいので口を開けて呼吸していたら喉がお
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社説(7月12日)原発の高経年運転 論点示し議論を深めよ
原子力規制委員会が6月、関西電力大飯原発3、4号機(福井県)に対し、運転開始30年を超えて40年まで稼働させるために必要な「長期施設管理計画」を認可した。2023年5月成立のGX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法に基づき、60年を超えての運転が可能になる新制度導入に伴う全国初の認可となった。25年6月の新制度施行へ、他原発でも同様の動きが続くとみられる。 現行制度下でも全国で4基が既に40年超に入るなど、国内原発の高経年運転は常態化しつつある。ただ、前提となるはずの国民理解は得られていない。政府や事業者は、特に原子炉を中心とした重要設備・機器の健全性の確保策、新型炉へのリプレ
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記者コラム「清流」 子どもの本音に感心
藤枝市内の小学生が生活面で改善してほしい点などを意見交換する場面を取材した。「公園を広くしてほしい」「安く飲み物を買える自動販売機を設置してほしい」など子どもらしい意見が出た一方で、記者が子どもの頃にはなかった本音も聞けた。 「好きなことをやる時に一人でいられる場所がほしい。でも、困った時に助けてほしい存在の大人は必ずしも親でなくて良い」。特にこの発言が印象に残った。自分の空間と時間は確保したいとしつつも、もしもの時をしっかり想定した意見で、思わず感心した。 ただ、親以外の大人が子どもを守るためには地域が一体となって子どもを尊重し、成長を支える態勢づくりが不可欠だろう。記者である前に、子
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記者コラム「清流」 高校生の本音
円滑な人間関係の築き方を学ぶ授業で、ある高校を訪問したときのこと。相互理解を深めるレクリエーションで盛り上がる生徒に取材の後、尋ねてみた。新聞記者ってどんな印象? 「文章を書くのが上手」「頭の回転が速そう」。一方で「ちょっと偉そう」。そう指摘されて、耳が痛かった。民間で広報を担当する知人から報道対応で嫌な思いをした経験を聞いたことがあった。だからこそ、取材で会う機会が多い高校生にも聞いてみたかった。 授業で講師が伝えた話を聞くポイントは、笑顔▽相手の顔を見る▽うなずきながら相づちを打つ―の3点。相手が「上から目線」と感じたとしたら、取材する側の発言や態度に反省すべき点がある。話を聞かせて
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記者コラム「清流」 “ベテラン”
子供の頃、スポーツのベテラン選手が「中年の星」と呼ばれるのを見て、成績は突出しているものの、何が共感を呼んでいるのかイマイチ分からなかった。 三島市が拠点の自転車競技「チームブリヂストンサイクリング」。最年長35歳の窪木一茂選手はパリ五輪で中距離勢最多の個人団体3種目に挑む。後輩との年齢差を問うと、ロールプレーイングゲームになぞらえて「レベル20よりレベル35の方が強いでしょ。年齢が上がるとは、レベルアップなんです」。独特の表現で胸を張る姿がまぶしい。 同世代の選手が「ベテラン扱い」されるのを目にすると、記者と同学年の窪木選手の活躍はどうしても特別な感情で見てしまう。「次の世代の明かりを
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コラム窓辺 さみしい殿様とだんじり(後藤幹生/静岡県感染症管理センター長 小児科医)
私は幼稚園の時に大阪府南部の岸和田市に引っ越した。近くの幼稚園はどこも満員で入れず、母からひらがなと足し算を習った。小学校にやっと上がると、どこもそうだと思うが、自分たちの岸和田市の地勢や歴史を学ぶ授業があった。海岸近くによい田んぼが多いことが地名の由来だそうだ。 岸和田はだんじり祭りの街だ。海辺の旧城下町地区と山の手地区に分けて9月と10月に祭りがあった。私の住む新興住宅地にはだんじりがなかったので隣町に見に行った。30年後に岸和田に戻って病院に勤務した時は、病院官舎のある町のだんじりを私の子どもたちは引いた。見ても引いても、とにかく元気が出る祭りだ。 当然、だんじり祭りが始まったわけ
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大自在(7月11日)六根清浄、どっこいしょ
葛飾北斎「富嶽[ふがく]三十六景」のうち、「諸人登山[しょじんとざん]」は異彩を放つ。富士山を信仰する「富士講」の人々が山頂火口を1周する「お鉢巡り」が描かれた。 金剛づえを使って懸命に登ろうとする人。疲れ果てて座り込んでいる人。狭い岩室で体を寄せ合う人々。富士登山の厳しさが伝わってくる。画面左の空の赤みは、御来光の時間帯なのかもしれない(日野原健司編「北斎 富嶽三十六景」岩波文庫)。 富士山の静岡側がきのう山開きした。今夏からは事前登録システムが導入され、登山日程、山小屋宿泊予約の有無などを入力し、ルールやマナーについて動画を視聴する。この山が信仰の対象であり、心して登るべきことは「諸
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記者コラム「清流」 癒えない痛み
28人の命が奪われた熱海市伊豆山の大規模土石流から3年が経過した3日、現地を訪ねた。発生当時から取材してきた遺族や住民に近況を尋ねると「ここ数日、食欲がない」「あの光景が夢に出てくる」と打ち明けてくれた。 つらい出来事から1カ月、1年などの節目を迎える時期に不安や恐怖、倦怠(けんたい)感などに襲われる感情の揺れを「アニバーサリー反応」というらしい。無理もない。不適切な盛り土により家族や友人が奪われた悲しみは、たった3年で癒えるはずがない。 「この気持ちは一生背負い続けるんだろう」と語った被災者の男性に、どんな言葉をかければいいか悩んだ。だが、男性はこう続けた「話を聞いてくれてありがとう」
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記者コラム「清流」 間近に野生の殺気
6月中旬、富士宮市の森の中、クマさんに出会った。シカのわなにかかったとの情報を受け駆けつけると、市道から10メートルほどのやぶに黒色の姿があった。まん丸な耳がかわいらしくて、近づこうとした瞬間、殺気のこもった視線に射抜かれ体がこわばった。 富士宮市では昨年から、生息域以外での目撃情報が多数寄せられている。近辺のナラ枯れによってクマの食糧が減ったとの見方もある。捕獲現場は民家から距離約200メートル。農作物への被害を防ぐための“最終防衛ライン”だった。クマが偶然わなを踏んだが、通り過ぎていれば被害が発生した可能性もある。 わなを振りほどこうと暴れる力は木をへし折るほ
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記者コラム「清流」 懐かしい「友人」の出世
古い友人の活躍を知ったときのような気持ちになった。改装工事で休館中の市民ミュージアム浜北(浜松市浜名区)にあった埴輪(はにわ)「見返りの鹿」が10月16日から、東京国立博物館の特別展に並ぶ。 市が先月、発表した。2017年から6年間勤務した旧浜北支局時代、自転車をこいで支局近くの市民ミュージアムを訪れた思い出が鮮明によみがえった。 見返りの鹿は浜名区の古墳で出土し、狩りの場面を物語る珍しい埴輪。ミュージアムで何度も関連の講座などを取材した。生まれたばかりだった息子(5)や日本史好きの妻も連れて話を聞いた。親しみを込め、ひそかに鹿くんと呼んだ。 「鹿くん、君は出世したんだね。ぼくも及ばず
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社説(7月11日)静岡県内信用金庫 利払い超える価値示せ
静岡県内9信用金庫の2024年3月期決算は、資金運用収益の増加などが寄与し、8信金で純利益が伸長した。前年に大幅な最終赤字を計上した島田掛川も黒字を確保した。期中平均の貸出金残高は、7信金が社会経済活動の回復で高まった資金需要を取り込み、前年水準を上回った。 日銀による大規模緩和の解除で金融システムが正常化へと向かう中、超低金利に長年苦しんできた金融業界では、追加利上げへの期待が強まっている。ただ返済利率の上昇に対し、地元の中小企業が抱く警戒感は強い。 各信金は利払い以上の価値をどれほど提供できるか、その実力が問われる。取引先企業に返済負担の増加分を上回る利益伸長や生産性向上をもたらす提
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時論(7月11日)近いか遠いか 人間とサル社会
ウガンダでシングルマザーを支援する社会起業家の半生を描いた「アフリカで、バッグの会社はじめました」(江口絵理著)は、読書感想文の課題図書に選ばれただけのことはある。仲本千津さん(静岡市出身)の「寄り道多め」の生き方に共感し、「急がば回れ」の大切さを教えられる。 文章が読みやすい。〈食べ物がいつでも十分にあれば「飢餓」はありませんが、生きていくのに必要なお金が得られず困っているのであれば、それは「貧困」です〉。こんな文章を私も書きたい。そこで、やはり主に10代向けに書かれた江口さんのノンフィクションを読んでみた。 「ボノボ 地球上で一番ヒトに近いサル」(2008年)と「高崎山のベンツ 最後
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コラム窓辺 クリスマスケーキと女性(内田美紀子氏/女性活躍推進「るるキャリア」創業者)
日本初の女性弁護士で、後に裁判官を務めた三淵嘉子さんをモデルとした朝ドラ「虎に翼」。女性を取り巻く理不尽なことの連続、男女だけでなく多様性の尊重を描いているところも面白く、毎朝楽しみにしています。 主人公寅子の母が「女性の一番の幸せは結婚」と言い切り、疑問を持つ寅子。100年前の話ですが、40年前の私とも重なります。「早く結婚しなさい。女性の営業職? そんな仕事よしなさい」と言う母、反発する私。 両親は共働きでしたが、父は典型的な昭和の男性で、家事育児は全て母。けんかも絶えず、女性の幸せが結婚とは思えず「仕事で幸せになるんだ」と思いました。営業職の仕事は面白かったのですが、先輩女性は次々
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大自在(7月10日)警視庁捜査2課ですが
「もしもし○○さんの携帯電話ですか。警視庁捜査2課のハットリですが、いくつかお尋ねしたい点があります」。いきなりそう切り出され、ドキリとした。若い男の声だった。一呼吸置き「どういったご用件ですか」と問い返すと電話は切れた。 着信表示を確かめると「+181」から始まる不可解な番号。反射的にかけ直そうと指が動いたが、こらえた。社会部に問い合わせると「北米からの国際電話と思われますが、詐欺電話でしょう」。国内の規制が及びにくい国際電話番号を悪用する手口で、一部のアプリを利用すれば実際に海外にいなくても任意の番号を取得することができるそうだ。 「警視庁捜査2課」からの電話となれば動転し、訳も分か
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記者コラム「清流」 釣りの楽しさ知る一歩
湖西市の浜名港の岸壁で5月に開かれた親子向けの釣り教室。県内外からの参加者がまき餌を使ったサビキ釣りに挑戦した。さお先に“当たり”を感じ取り、小アジや小サバを見事に釣り上げた子どもたちの笑顔が印象的だった。 コロナ禍で密を避けられるレジャーとして注目を集めた釣りだが、アウトドアブームが起こった1990年代に比べると釣り人口は減少傾向にあるという。今後も楽しむ人を増やしていくには、若い世代に海の生き物に親しみ、釣りの楽しさを知ってもらう機会が欠かせない。 まずはサビキ釣りのような入門編の釣り方から入り、投げや船、ルアーなど多彩な手法に挑戦していけば、出合える魚種は広
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記者コラム「清流」 #オマエザキライダー
ことわざ「灯台もと暗し」は、身近な事柄に案外気づきにくいことのたとえ。明かりをともす照明の下は、周囲よりも暗いことから生まれた言葉である。 最近、バイク愛好家の間で御前崎市が注目されている。観光関係者を中心にツーリング客を誘客するプロジェクト「#オマエザキライダー」が進行し、新しい観光商品が生まれるなど人気を集めている。 あるツーリング客によると、同市は御前埼灯台が目的地として選ばれやすい。景観が美しい海岸線を疾走でき、グルメも豊富で多くの魅力を感じるそうだ。 御前崎市民からは「この町には何もない」との声も聞かれる。だが、住んでいる地域の良さに気づいていないだけかもしれない。#オマエザ
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農業法人誘致 地の利生かし発展期待【記者コラム 湧水】
長泉町は本年度、新東名高速道長泉沼津インターチェンジ(IC)付近の3区域を独自の“農業特区”と位置づけ、農業法人の誘致に乗り出した。日当たりの良さや温度変化の少なさ、交通利便性など地の利を生かした町の農業発展を期待したい。 区域は元長窪と上長窪の大規模農地がある3区域で、いずれも10ヘクタール超。同IC付近には、JAふじ伊豆本店の移転計画も明らかになっている。町は関東と関西圏への出荷がしやすい上、南に開けた緩い傾斜面は日照も良く、農業生産への需要があると判断した。 町は3区域それぞれに野菜、花卉(かき)植物、観光農園関連の農業法人を誘致したい考え。まずは町内の農業
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記者コラム「清流」 計画を無事に運ぶ
小学校は東京、中学校は京都・奈良。本県公立校の修学旅行は大半が同じ方面を目指している。新型コロナ禍には近隣県や県内が脚光を浴びたが、周辺校を見れば定番に戻る傾向。行き先の希望は分かれても、仲間と旅先で感じ取ったことは思い出に残る。 富士市の中学校は全校が5月の後半で関西方面に集中していると、市議会の中で説明があった。年間の行事日程のバランスや受験期へのシフトを考えればうなずけるが、受け入れ側の忙しさも具体的に想像した。県内外のどの学校も状況は同じはずだ。 貸し切りバスの運転手不足や宿泊費用の高騰など、関係者の苦慮は旅行の成功を願えばこそ。周到に調整し、計画を無事に運んでくれる人たちに敬意
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【時評】選択的夫婦別姓を考える 多様な社会実現の一歩(宮下修一/中央大大学院法務研究科教授)
経団連は6月18日に「選択的夫婦別姓」制度の導入を求める提言書を取りまとめ、同28日に小泉龍司法相と上川陽子外相に提出した。具体的には、夫婦それぞれが「希望すれば、生まれ持った姓を戸籍上の姓として名乗り続けることができる制度の早期実現」を求めている。 選択的夫婦別姓とは、結婚(婚姻)する際に一方が他方の姓(氏[うじ])に変更するか、それぞれの姓を維持するか、夫婦が選択できるというものである。 提言を受けて、自民党が選択的夫婦別姓に関する議論を再開させるというニュースが流れた。一方、自民党内には、日本の伝統や家族の絆が失われるなどの懸念から夫婦同姓(同氏[どううじ])を維持し婚姻前の姓を通
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社説(7月10日)自衛隊の不祥事 国民の信頼を裏切るな
海上自衛隊の複数の護衛艦で特定秘密のずさんな取り扱いが明らかになり、海自トップの海上幕僚長が引責辞任の意向を示した。 海自では、潜水艦の修理事業を受注した川崎重工業が下請け企業との架空取引で簿外資金(裏金)を捻出し、潜水艦の乗組員に金品や物品を提供していた接待疑惑も浮上。ほかに潜水手当を不正受給した疑いも生じている。 警察予備隊として自衛隊が発足してから今月で70年を迎えた。防衛を担う実力組織に一体、何が起きているのか気がかりだ。底なしのように見える不祥事の連続は、災害出動などを通じて地道に積み上げてきた国民からの信頼を裏切ることになりかねない。 緊迫する国際情勢を背景に防衛力の強化に
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コラム窓辺 静岡新聞社とのご縁(田崎博道/日本陸連専務理事)
窓辺のお話をうかがった時、静岡新聞との不思議なご縁を感じました。実は1974年の「青春をかける」という静岡新聞のコラムに、私は登場しています。高校3年生の夏、惨敗したインターハイ200メートル直後の、気持ちの整理が全くつかない混乱の中、競技場のバックスタンドで、記者の方から取材を受けました。 「井の中の蛙[かわず]、逞[たくま]しさに欠ける」と評され、「ムダではない敗戦、悔しさは成長のカテに」という見出しの記事でした。このままでは終われないと、インターハイでやめるつもりでいた競技を国体まで続ける決意をし、静岡チームの先輩に支えられ優勝して雪辱を果たすことができました。 このことが大学での
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大自在(7月9日)安倍銃撃
参院選の応援演説中だった安倍晋三元首相が凶弾に倒れ、非業の死を遂げて2年。奈良市の銃撃現場ではきのう、多くの人が花を手向けて追悼した。 2006年に戦後最年少で首相の座に就き、わずか1年で退陣したものの、5年後に返り咲いた。経済政策「アベノミクス」や安保政策を巡って評価は分かれるが、在職期間は憲政史上最長を記録し、2度目の在職中に行われた6度の国政選挙すべてに勝利した。 そうした人物がこれほどあっけなく、先進国である日本で殺されてしまうのか―。あの日受けた衝撃は今も鮮明だ。安倍氏を撃った男は「ローンオフェンダー」と呼ばれる組織に属さない単独犯で、手製銃を使ったとされる。 さらに、男が「
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記者コラム「清流」 日本刀に触れて
日本刀を鑑賞する時は大抵ガラス越し。知識不足もあり、見るだけではその魅力を理解しきれない。 6月、藤枝市郷土博物館・文学館の講座で初めて鑑賞刀を持たせてもらった。講師の斉藤慎一さんが愛蔵する南北朝時代の刀は長さ約70センチ。両手で恐る恐る。美しい曲線と鋭利な切っ先に身が引き締まった。 江戸時代の武士は腰に二本差しして登城する。歩くだけで重そう。家に帰れば短刀に持ち替える。その鞘(さや)に、笄(こうがい)と呼ばれ箸にも耳かきにもなる刀装具が見事に収まっていた。斉藤さんは「常に身に付けるから無駄がない。まさに用の美」と話す。 作家藤沢周平の小説には、たびたび斬り合いが描かれる。息をのむ展開
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記者コラム「清流」 地域に住む記者として
11月末に静岡市で開かれる県市町対抗駅伝。6月下旬、伊東市チームの代表選手の選考に向けた強化練習が始まった。関係者は「少子化の影響で近年、走り手の選出に困難を抱える」と言う。厳しい地域事情だが、監督が掲げた2時間20分台の目標に向けて走力を高めていってほしい。 スポーツ関係は今夏、一段と熱い。高校野球では球児たちが白球を追い、パリでは五輪・パラリンピックの各種目が繰り広げられる。東京パラ大会のボッチャで個人金メダルを獲得した杉村英孝選手(伊東市)の躍進に期待がかかる。 伊東に身を置く記者としては出身地や母校のチームよりも、地元勢の動向にひときわ気持ちが向く。競技種目や時期を問わず、全ての
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記者コラム「清流」 被災時の訪問介護
石川県で最大震度7を観測した能登半島地震から半年が経過した。本社取材班として発災6日後に現地に入り、津波被害の大きかった珠洲市や大火に見舞われた輪島市の朝市などで見た光景が昨日のことのように思い出される。 被災地では、建物被害や職員の離職などにより、いまだ再開を見通せない福祉施設が多くある。老人福祉をテーマに大規模災害時の課題を探ろうと浜松市内の施設を取材すると、入所者に比べて訪問介護利用者の対応の優先度が低いという実態が浮かび上がった。 被災後のヘルパーの訪問は難しく、利用者は自宅では介護サービスを受けられない可能性が高い。避難所への移動に介助が必要な場合もある。利用者の家族は被災時の
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【時評】「虎に翼」に共感の涙 今なお残る男女差の証左(野村浩子/ジャーナリスト)
女子会を開くと大いに盛り上がる話題がある。NHK朝の連続テレビ小説「虎に翼」である。女性初の裁判官となる寅[とも]子の姿を見て「毎朝泣いている」という人の職種は幅広い。筆者が耳にしただけでも、秋田で働く事務職の女性、東京のテレビ番組制作会社の女性社長、音楽プロデューサーなど。 幅広く支持される理由は何か。女性の視聴者にとっては、なんといっても「共感」だろう。「あるある」「わかるわかる」から、「私も昔同じような思いをした」と滂沱[ぼうだ]の涙となる。「妊娠したときに、企画からおろされた」「女性事務職だけに制服を課せられた」。「虎に翼」を巡る会話では、自身の体験談が次々に飛び出す。 筆者自身
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社説(7月9日)旧優生保護法違憲 被害者の救済が急務だ
旧優生保護法下で不妊手術を強いられた障害のある人たちが、憲法違反だとして国に損害賠償を求めた5訴訟の上告審判決で、最高裁大法廷は旧法は違憲とし、損害賠償を認める統一判断を示した。判決は全員一致。最高裁の統一判断は同じ争点での下級審に強い影響力を持つ。 旧法は「不良な子孫の出生防止」などを目的に、1948年に制定された。障害などを理由に本人の同意なしでも不妊手術ができるという規定があり、96年の法改正で差別的規定が削除されるまで約2万5千人が手術を受けた。 「戦後最大の人権侵害」と呼ばれ、理不尽な手術を強制された被害者の救済にようやく道筋がついたといえる。裁判官が個別意見で補足しているよう
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コラム窓辺 花と緑のまち(中野祐介/浜松市長)
今年、令和6年の県西部地域のビッグイベントと言えば、春の「浜名湖花博2024」と、秋の「第12回浜松国際ピアノコンクール」でしょう。その浜名湖花博2024は、去る6月16日、大盛況のうちに閉幕しました。 3月23日からの86日間、遠州地域はもとより、県内各地、また全国から世界から、多くの皆さまにお越しいただき、最終日には100万人目となるお客さまをお迎えするという感動のフィナーレとなりました。会期中は、サクラに始まり、チューリップ、フジ、バラ、ハナショウブ、アジサイと、次々に花が咲き誇り、また、最新のデジタル技術を駆使した演出で、浜名湖の魅力である花と緑をお楽しみいただけたと思います。
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大自在(7月8日)アジサイ
連日の猛暑の影響もあるだろうか。数日前までは青が鮮やかだった近所のアジサイが、赤茶けていた。植物生態学者の多田多恵子さんの「したたかな植物たち」(筑摩書房)によれば、咲き終わりに近づくと細胞の老化に伴って赤みを帯びるそうだ。「(花粉を求める)虫に対して『もう閉店ですよ』の合図」という。 土壌のpH(水素イオン指数)がアジサイの色に影響することはよく知られる。「不思議な花でね。土壌の酸性度によって、色が変わるんだって。青いアジサイは酸性。ピンクはアルカリ性」。綾瀬はるかさんが演じた亜紀のセリフだ。SBSテレビでかつて放送されたドラマ「世界の中心で、愛をさけぶ」。 原作は300万部超のベスト
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社説(7月8日)食品ロス最少 新たな削減目標定めよ
政府は、まだ食べられるのに捨てられた2022年度の「食品ロス」が事業系、家庭系とも236万トンで、推計を開始した12年度以降で共に最少になったと発表した。事業系は00年度の547万トンを30年度までに半減させる目標を8年早く達成した。家庭系も00年度433万トンの半分に迫っている。社会全体で食品ロス削減に努めてきた成果といえるだろう。 とはいえ、食品ロスを生み出す需要を見誤った企業の生産や発注、過度に鮮度を求める消費者の嗜好[しこう]など改善の余地は多く、さらなる大幅な削減は十分可能だ。新たな目標を設定し、削減の流れを加速させたい。 15年の国連総会で採択されたSDGs(持続可能な開発目
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社説(7月7日)「七夕豪雨」50年 被災体験 防災に生かせ
きょうは七夕。中国の神話に由来し、織り姫と彦星が年に一度だけ会える日とされている。子どものころに七夕飾りをした記憶もあろう。しかし、静岡県内に住む年配者の中には、「七夕豪雨」の被災体験を思い出す人も少なくないのではないか。 1974年7月7日夜、接近する台風8号の影響で梅雨前線が活発化し、8日未明にかけて県中部を中心に記録的な豪雨となった。激しい雨に見舞われた静岡市(駿河区)の24時間雨量は508ミリ。県内各所で河川氾濫や堤防決壊、土砂崩れが相次いだ。死者44人、床上浸水約2万6千棟、床下浸水約5万4千棟などと被害は甚大だった。 地球温暖化の影響で気象災害はますます頻発化・激甚化すると
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大自在(7月7日)七円の唄
黄ばんだはがきに、目が止まった。本紙読者から送られてきた土曜別刷り「Tottoco Shizuoka(とっとこ静岡)」のクイズ応募の1枚。 解答とともに、当欄への感想が書かれていた。読者からの言葉を心に刻む。記者としてまた初心に戻る。 そのはがきは、7円切手が印刷されていた。1966~72年の郵便料金である。大事にしまっていたのか、使いそびれたのか。どちらにしても50年以上前のものだ。「郵便の父」前島密の1円切手などを追加で貼って現行の63円にしてあった。郵便料金は値上げが決まり、はがきは10月から85円になる。 はがきが7円の時代に始まったラジオ番組が「永六輔の誰かとどこかで」である
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大自在(7月6日)月探査
月の裏側は見えない。天地創造の時、天使がいたずら書きをしてしまい、困った神が人間に見せないようにしたから、とか。 「ショートショートの神様」星新一が「自家製の神話」としてエッセーに書いている(「古い月、新しい月」)。1959年、旧ソ連の無人探査機が月の裏側を撮影。米ソの宇宙開発競争で「月に対して怪奇な幻想をひろげることができなくなった」と星はぼやいた。 地球の衛星である月は、地球の周りを1公転する間に1自転する。自転も公転も同じ約27日の周期のため、いつも同じ面しか見えない。宇宙航空研究開発機構(JAXA)のホームページを閲覧して分かったつもりになっても、やはり気になる。天使が落書きした
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記者コラム「清流」 やさしい日本語
弘前大社会言語学研究室が考案した「やさしい日本語」は、文を短く、構造を簡単にして文節を切る「分かち書き」が基本。複数の意味を持つ単語は、意味が明確になるように換える。 4月の県知事選で知的障害のある人が投票先を選べるよう、浜松市のヘルパーが各候補にやさしい日本語での政策紹介を依頼した。「産業振興で雇用安定を図る」は、「はたらけるばしょを ふやします」。確かに読みやすく、意味がはっきりする。ただ、どの候補も普段の表現と勝手が違って回答に苦心したそうだ。 思えば取材で触れる政治の言葉はやさしくない単語ばかり。「整備する」「検討する」など具体的に何をどうするか不明確な場合が多い。報じる側の記者
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記者コラム「清流」 大仁金山跡 活用期待
伊豆市瓜生野の複合観光施設「修善寺時之栖」の敷地の片隅に、部分的に高さ40メートルにも及ぶ巨大なコンクリートの遺構が残る。1973年まで稼働していた大仁金山の選鉱場の土台跡だという。普段は立ち入れないその場所に6月、許可を得て足を踏み入れた。 付近の茂みには同金山の坑道への入り口跡、金を運んでいたレール跡などが現存していた。高台からは狩野川流域の町並みを一望できた。聞けば金山の歴史は400年余、戦国の世までさかのぼるという。“ゴールドラッシュ”に沸いた時代を想像して、楽しい時間を過ごさせてもらった。 閉山から50年以上が経過し、当時を知る地元の人も少なくなった。時
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記者コラム「清流」 麦ストローの可能性
麦の茎をストローとして実際に使ったことはなかった。省力化機械設計・開発のファクトリーインプルーブメント(浜松市中央区)が、麦をストローに加工する製作機を開発した。加工品を使ってみると、表面はつるつるとしていて、ストローとして十分だった。 これまでにも手作業で作られてきたが、自動製作機の登場は国内初ではないかという。ファクトリー社の製作機はドリルがあり、内部がふさがっている茎の節ごと、ストローに加工する。さらに、ストローに穴が開いていないかを調べて不良品を取り除く。 加工された麦ストローは、節があることで風合いがあった。脱プラスチックが進む中、プラ製の代替として可能性を感じた。カフェやホテ
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時論(7月6日)都知事選 同じポスターずらり
新聞紙面やテレビなどから、そんな状況に陥っていることを知ってはいた。だが先週末に、所用で訪れたこの国の首都で目の当たりにして、あきれるほかはなかった。あす投開票される過去最多、56人もがたった一つの椅子を巡って立候補している東京都知事選の選挙ポスター掲示板のことだ。 JR東京駅から銀座方面に歩いて向かう途中、通り沿いに見つけた都知事選ポスター掲示板には、同じ女性の同じポーズ写真が、両脇2列と最下段に二十数枚ずらりと並んでいた。 別の掲示板で確かめてみると、この女性のポスターに隠されていた両脇2列のますには投票日や期日前投票の期間をはじめ、ポスター掲示に際しての注意書き、投票用紙への記載が
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社説(7月6日)参院選の合区 解消を先延ばしするな
次の参院選が1年後に迫ったが、最大の懸案といえる合区解消への道筋がついていない。隣接県を一つの選挙区にする合区は、最高裁が違憲状態と判断した参院選の「1票の格差」を是正するために2016年選挙から導入されている。対象となった「鳥取・島根」「徳島・高知」の4県からは早期解消を求める声が強まっている。 参院選挙制度改革に向けて与野党で話し合う専門委員会の報告書によると、合区は解消すべきとの声が大勢を占めている。しかし、都道府県単位を重視するか、ブロック制にするかで意見が分かれ、着地点は見いだせていない。 合区は、違憲状態を逃れるための緊急避難的な措置で、抜本的な選挙制度改革が求められているが
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コラム窓辺 掛川に魅了されて(土井彩子/土井酒造場取締役)
私の地元は島根県浜田市です。大学時代は京都で暮らし、その後東京で就職、結婚を機に掛川に移住して現在、掛川歴14年。掛川のことは何も知らずに越してきました。 掛川で暮らし始めて最初に感動したことは、お正月に晴れていること、少し車で走れば富士山が見えることです。静岡県で生まれ育った方には何を言っているんだと思われるかもしれませんが、私の地元は冬は曇りや雨の日が多く雪がちらつく日もあり、お正月に気持ちよく晴れている記憶はあまりありません。1年の始まりの元旦に雲一つない青空で富士山を拝める。それだけでとても良い1年が始まりそうな気分になります。 お正月だけでなく、冬の間は特に晴れている日が多い印
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大自在(7月5日)「百年の孤独」
コロンビアのノーベル賞作家ガルシア・マルケスの「百年の孤独」が文庫化され、先週から書店に平積みされている。ネット書店で一時売り切れるなど、ちょっとしたブームだ。 アルゼンチンの出版社から1967年に出た同作は、46言語に翻訳され、5千万部売れたという。文庫版解説の作家筒井康隆さんは「文学への姿勢を根底から揺るがされた」と書いている。 この作品名、酒好きには別の響きで伝わるのではないか。85年、宮崎県の焼酎蔵「黒木本店」が発売した麦焼酎。オーク樽[だる]で3年以上熟成させる、ウイスキーのような製法だ。酒ジャーナリストの山同敦子さんは命名について「樽の中で長い眠りにつく姿を文学作品になぞらえ
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記者コラム「清流」 工夫もって暑さを制す
「すごい汗かいてる!」。先日、島田市の小学校の体育館に茶もみ体験の取材で訪れた際、児童にかけられた言葉だ。梅雨入りし、ジメジメと暑い日だったが、指摘されると少し気恥ずかしい思いがした。 児童は暑さ対策のために3班に分かれ交代制で体験し、1班は空調の効いた部屋で待機していた。この暑さの中で、長く体育館にいることの危険性は自分の発汗量を見ても明らかで、学校の児童を守る工夫に感心した。 一方で、集会や部活動など休憩を取りづらい状況は多い。特に体育館は構造上熱がこもりやすいが、空調の導入は難しく熱中症の危険が伴う。これから本格化する暑さを前に、集会時のオンライン活用や部活動の短期間化など各校でで
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社説(7月5日)バス置き去り実刑 命預かる重さ忘れるな
牧之原市の認定こども園「川崎幼稚園」で2022年9月、園児の河本千奈ちゃん=当時(3)=が送迎バスに置き去りにされ、熱中症で死亡した事件で、静岡地裁はいずれも業務上過失致死罪に問われた前園長の増田立義被告(74)に禁錮1年4月(求刑禁錮2年6月)、元クラス担任(48)に禁錮1年、執行猶予3年(求刑禁錮1年)の判決を言い渡した。前園長に実刑判決が下ったことを、社会は重く受け止める必要がある。 幼い命が失われた結果は重大だ。しかし、両被告の責任だけに帰結させるのではなく、同様の事件が繰り返されることがないよう、保育の現場と環境整備に関わる行政は、事件の教訓と「命を預かっている」重さを胸に刻み続
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記者コラム「清流」 市民自ら行動する意識
6月28日、県西部などに線状降水帯が発生した。2022年台風15号、23年台風2号が磐田市にもたらした大きな被害が頭をよぎった。市は北部の2地区に「緊急安全確保」を発令。雨脚が落ち着き始めた昼前に現場に向かった。 2年連続で堤防が決壊した敷地川は氾濫に至らなかったが、上野部川沿いでは道路に泥がたまり、越水した痕跡が見られた。自宅が浸水した近くの住民に話を聞くと、事前に家財道具を高い場所に移していたという。過去2回の経験を備えに生かし、被害を最小限に食い止めていた。 気候変動に伴い、毎年のように襲いかかる豪雨災害。現状のハード対策だけで被害を防ぐのは難しくなった。危険が迫った時、市民が自ら
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記者コラム「清流」 本物を食べたい
「本当のおいしさを知ってほしいんです」。生産者にそう言って勧められた長泉町ブランド認定品のブルーベリー。かむとプチッと口の中ではじけて、実がぎっしり。今まで食べたものとは明らかに違うと素人でもわかった。 朝のヨーグルトに入れるためにスーパーで購入したり、ケーキに彩りで飾られたものを食べたりしたことはある。果物の中でもサブの印象があったブルーベリー。こんなにも違うのかと驚いた。 生産者は栽培の特徴やブルーベリーも品種によって味が異なることなどを力説してくれた。「旬で新鮮な“本物”を食べてもらいたい」と何度も口にした。 同じ食べ物でも、生産者のこだわりやプライドによ
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社説(7月4日)「骨太方針」決定 財政再建へ本気度示せ
政府の経済財政運営の指針となる今年の骨太方針が閣議決定された。日銀が金融政策の正常化に動き出し、金利の復活に向かう中で、国債の利払い費が増えて財政運営が一層難しくなると懸念されている。焦点といえる財政健全化の堅持は盛り込まれたが、目新しさはない。まずは本気度を見せることを求めたい。 骨太方針は基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)について、2025年度に黒字化する目標を改めて明記した。過去2年は骨太方針から消えていた。内閣府試算では赤字幅は縮小傾向にあって、骨太方針も歳出改革努力の継続を前提にすれば、25年度のPB黒字化が「視野に入る状況」とする。ただ、疑問視する声もあり、まずは実現
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大自在(7月4日)間違えたっていい
「安心して手をあげろ 安心してまちがえや」。絵本「教室はまちがうところだ」は、子どもたちが間違いを恐れずに自分の意見を発するよう、力強く、温かな言葉で呼びかける。静岡市の中学教諭、蒔田晋治さん(故人)の詩を子どもの未来社(東京)が書籍化し、今年で20年になった。 子どもの背中を押す言葉にあふれた本は、全国の学校現場や親たちの共感を呼び、読み継がれている。絵本はこれまでに38刷、計25万部を数え、韓国や中国でも版を重ねる。 詩が生まれたのは1967年。蒔田さんは「クラスの子に元気がないので、読んでもらおう」と学級新聞につづった。程なく同市内で開かれた作文教育に関する教諭らの全国大会で、同僚
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記者コラム「清流」 スポーツの土壌
清水エスパルスの担当になって5カ月。北は東北から南は九州まで、アウェー戦の取材に足を運ぶと日本の広さとともに、地域性や天候、文化の違いを実感する。試合の勝敗によって悲喜こもごもな感情で味わう郷土料理は、訪問地の土壌を知るきっかけの一つにもなっている。 スポーツにも土壌がある。情報はどこでも得られるが「始める」「続ける」「極める」にはその土地の環境が大きく影響する。その面で、本県は多くの人の尽力によってサッカー文化の土壌が形成された。 県内クラブのJ1定着、日本代表の輩出-。まさに今、本県が再び“名産地”としての地位を築けるか関係者の熱意が試されているように感じる。
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記者コラム「清流」 元気を与える自然と人
5月中旬、掛川市の山間部、西山地区の「夫婦滝」を訪れた。新緑に囲まれて聞いた水の音は涼しく、自然の豊かさを感じた。 連れて行ってくれたのは同地区を盛り上げようと活動する中山敏治さん(72)。中山さんは各所に桜を植えたり空き地を広場にしたりと精力的で、登山道の整備まで行っている。 山を案内してもらう中で驚いたのは中山さんの足取りの軽さだ。足袋の健脚で段差をすいすい登り下りしていく。スニーカーの平たい底を気にしながら息を切らす私は、自分の運動不足を反省した。 「次の日のエネルギーを与えられる場所にしたい」。私は自然の輝きだけでなく、中山さんの思いと快活な姿に勇気づけられた。疲れた時には元気
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記者コラム「清流」 撮影スポットの分散化
山梨県富士吉田市で日本富士山協会の総会を取材した際、隣席した現地記者に最近のトレンドを尋ねた。「ローソン河口湖駅前店の取材が大変」とのこと。コンビニの屋根に乗っているような富士山を撮影できると訪日客に人気を集めたが、マナー違反対策で黒幕を設置した話題の場所だ。 富士河口湖町の同店に足を運ぶと、黒幕の隙間から撮影を試みる訪日客で歩道が埋まり、明らかに日常生活に支障が生じていた。富士山に見慣れた身としては、ここにこだわる必然性がよくわからなかった。 おそらく訪日客が求めるのは「コンビニがある郊外の景観と、崇高な富士山が共存した風景」だが、彼らはこの店しか知らない。酷似したオススメの撮影場所を
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コラム窓辺 イエスさまのよいこ(後藤幹生/静岡県感染症管理センター長 小児科医)
この5月、御殿場市にある神山復生病院の創立135周年式典に出席した。日本最古のハンセン病療養所でもあるこの病院からヒスイ色の復生記念館へと続く緑の小径[こみち]は、永年の癒やしと祈りが感じられ、大好きな道だ。5年ぶりに歩くことができた。 式典は、病院の教会でカトリックのミサとして行われた。その冒頭で「父と子と精霊の御名[みな]によって、アーメン」と唱え十字を切った時、幼い頃の一つの記憶を久しぶりに思い出した。 幼稚園まで大阪府北部の箕面[みのお]市に住んでいた私は、広い園庭に大きな木のあるキリスト教の幼稚園に通っていた。お昼ご飯前のお祈りがこの「アーメン」で終われば食べて良いのだった。
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コラム窓辺 いまさら女性活躍?(内田美紀子/女性活躍推進「るるキャリア」創業者)
企業の女性活躍をサポートする会社を起業したのは2012年、アベノミクスの成長戦略の一環として「女性活躍」が注目される少し前でした。ある経営者から「男女平等の社会で、いまさら女性活躍をビジネスにする意味がわからない」と言われました。実は私も起業の数年前まで同じ考えでした。 バブル期に27歳で入社した会社は当時としては珍しく、男女比率は半々、性別も年齢も関係なく働けました。すぐに管理職となり、35歳で東京に転勤、「女性活躍」は普通のことでした。 43歳の時、ワーカホリック(仕事中毒)の生活を変えたく、退職し静岡に帰郷。キャリアの相談に来た女性の言葉が、私の認識を大きく変えました。「上司に業
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大自在(7月3日)熱海富士
年2回開催される1場所10日の相撲興行の土俵に上がれば食べていけたという江戸時代の力士は、「一年を二十日で暮らすいい男」と川柳に詠まれた。今の関取は年6場所、1場所15日で90日相撲を取る。本場所と本場所の間は地方巡業にも出かける。 ただ、1月場所と3月場所の間、5月場所と7月場所の間は巡業がない。腰を据えて稽古に打ち込める。 3場所連続で三役昇進を逃した熱海富士(熱海市出身)は悔しさを胸に人一倍精進を重ねているに違いない。幕内最年少の21歳が東前頭筆頭で臨んだ5月場所は7勝8敗。あと一つ白星が多ければ小結に上がり、本県出身では戦後初の三役力士が誕生していた。それでも、地力が付いてきてい
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「遺族感情」と「誤判の危険性」 自分事で考えたい死刑【記者コラム 黒潮】
毎週金曜日に掲載している「賛否万論」では現在、「日本の死刑制度の在り方」をテーマに有識者の見解や制度が抱える課題について紹介している。制度存廃を巡り、読者から寄せられる多くの意見が「被害者遺族の感情」と「誤判の危険性」に言及している。 「被害者遺族の感情」は死刑存置の主な理由の一つに挙げられる。自分や家族が凶悪な犯罪に巻き込まれ、被害者遺族になったことを考えると、犯人に対して強烈な処罰感情を持ち、極刑を望む気持ちが生じることに異論はない。こうした応報感情は、政府の世論調査で約8割が回答した「死刑制度やむなし」の論拠にもなっている。 一方、死刑廃止を訴える立場は、「誤判による冤罪(えんざい
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記者コラム「清流」 オストメイトの課題
がんなどの手術により、腹部に人工肛門や人工ぼうこう(ストーマ)を造設した「オストメイト」が、県内外の施設で入浴施設やプールの利用を断られた、という記事を書いた。 相談が寄せられていた日本オストミー協会県支部には掲載後、入浴施設から問い合わせがあり、ケア装具を送るなどしたという。近年、障害者の権利を守る法整備が進むが、県支部長は「順法というより、当事者を理解しようという気持ちの強さを感じ、励まされた」と喜んでいた。 会員は100人だが、当事者は県内に6000人以上いる。外見上の分かりにくさから事情を公にしない人も多く、課題がつかみにくい。どんな当事者も「日常に戻る」瞬間は尊く、守られるべき
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記者コラム「清流」 能動的な姿勢
とても効果のある取り組みだと感じた。浜松市中央区の高台中は、いじめが起きにくい環境づくりを考える全校参加のフォーラムを開催した。生徒たちが積極的に発言し、真剣な表情で意見に耳を傾ける姿が印象に残った。 生徒会役員や学年代表の生徒がパネル討論で意見を述べた後、学年混合の小グループで話し合った。テーマは、見て見ぬふりをする「傍観者」。いじめが発生した際に大多数の人が該当するとされる。傍観者が被害者に寄り添ったり、先生に報告したりする役割を担えれば、いじめは減少するといった意見が出た。 何より、このフォーラムが生徒からの提案で開催に至ったという経緯に驚いた。「大人に言われるのではなく、自分たち
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記者コラム「清流」 漁から観光資源に
伊豆市土肥地区で6月を中心に開かれる「トビウオすくい」が、今年も人気を集めた。同月上旬の取材時も多くの人でにぎわった。昔は漁の一種だったが今では重要な観光資源の一つとなっている。 参加者は午後8時前に港に集合し、船に乗って土肥の近海を回る。船の強力なライトに集まってきたトビウオに向かって網を入れて捕まえる。釣りよりも簡単で大人から子どもまで誰でも楽しめるところが人気を集める理由だった。参加者に話を聞くと、首都圏から親子で来る人が多く、「都会では体験できない貴重な遊び」と話した。 今まで気づかなかった田舎の風物詩や伝統、農業、漁などは見方を変えれば観光資源として集客効果もあるはず。「トビウ
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社説(7月3日)熱海土石流3年 県市一体で復興を急げ
熱海市伊豆山で28人が犠牲になった大規模土石流はきょう、発生から3年。被災地の復旧復興の根幹となる、静岡県の河川拡幅と両岸への市道整備は、用地取得などが計画通り進まず工程に遅れが出ている。県と市が一体となり、被災者と信頼関係を築きながら復旧復興を急ぐ必要がある。 県と市が逢初[あいぞめ]川中流域で進める河川と道路の工事は当初2024年度末に終える予定だった。しかし、用地取得が遅れ、買収率は県が58%、市が75%。工事区間に鉄道を有するJRとの協議にも時間を要しているため、完了予定は26年度末に変更された。被災住民からは「復旧復興にスピード感が足りない」との声も聞かれる。基盤整備が完了しない
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【時評】バイデン陣営の選挙戦略 “地上戦” 説得の力 重視(海野素央/明治大教授)
皆さんは相手を説得する際、どのようなコミュニケーションを取るだろうか。米大統領選におけるキャンペーンでは、有権者の説得が不可欠だ。そこで、バイデン陣営は中西部ミシガン州など激戦州を中心に、定期的にコミュニケーションのトレーニングを行っている。一方、トランプ陣営は筆者がチェックした限り、こうしたトレーニングを実施していない。「トランプ依存」が強い岩盤支持層をより強固にして、陣営に止めておくことに力点が置かれていると考えられる。 バイデン陣営は3月中旬から3回にわたってオンラインで、運動員育成のためのトレーニングを実施した。各テーマは、おおむね次のようなものである。初回は「(運動員の)私とジョ
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大自在(7月2日)斜め防災林
遠州灘海岸には昔から砂浜に沿う海岸林とは別に「斜め海岸林」がある。海岸線から斜め方向に内陸へと林が延びる。地上からでは分かりにくいが、グーグルマップ(航空写真)だとはっきり見える。 遠州特有の強い西風を防ぐために、100年以上をかけ地元住民が造り上げてきたという。斜め海岸林の後背地は強風や飛砂の影響を受けない。そこに作物を栽培してきた。明確に残る御前崎市から掛川市までは2010年度の県景観賞優秀賞を受けた。 内陸部に斜め海岸林を復活させようと袋井市で、静岡大の学生や地元住民らが実証研究を行っている。植栽するのは常緑広葉樹のウバメガシ。指導する同大の増沢武弘客員教授によると、海岸林の定番と
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記者コラム「清流」 93歳の「静岡人」
創刊50周年を迎えた東京都中野区の地方紙「週刊とうきょう」の主幹で現役の記者でもある涌井友子さん(93)=藤枝市出身=に会うため、涌井さんが取材予定の同区の工芸展の会場で待ち合わせた。しゃきっとカメラを構え、メモを取る姿を撮影させてもらうつもりが、涌井さんはカメラを自宅に忘れた。「抜けてるの、こういうとこ。静岡人でしょ」。返答に困った。 戦時中の大空襲で真っ赤に燃える静岡市街を高草山から見たこと、社会人になってからは仕事終わりに洋裁学校に通い、軽便鉄道の終電で帰宅したこと―。20代半ばまで過ごした静岡の思い出話は尽きなかった。 ご自宅では瀬戸谷地区(藤枝市)の静岡茶を愛飲していた。好物は
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記者コラム「清流」 少しでも前向きに
6月中旬、浜松市浜名区にひきこもり支援の施設「浜松市ひきこもり地域支援センター浜名サテライト(仮称)」が設置された。開所式で施設関係者は「当事者の孤立を防ぎ、支援の充実を図りたい」とあいさつした。市北部や中山間地域に暮らすひきこもりの当事者や家族が相談しやすい空間になってほしい。 特に中山間地域では当事者と親の高齢化が進んでいる。山の家にひきこもって中年になった子と年老いた親のケースなど、近所には言えないし、相談先も近くにない。 自分にも高校中退を機に自宅から出ない知人がいるがずっと連絡がとれない。当事者の社会復帰は難しい課題だが支援の手がひきこもり家庭に何らかの形で届き、少しでも当事者
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記者コラム「清流」 まち活性化 企業に注目
パート従業員の勤務日時決定は自由、工場のレイアウトやデザインは従業員が決定-。働きやすい環境づくりに力を入れる県東部の製造業を立て続けに取材した。現場で生き生きと働く従業員の姿が印象的だった。各方面で人手不足が叫ばれる中、ともに雇用確保は安定しているという。 「企業が町を変える」。経営者の一人は企業の取り組み次第で働き手を呼び込み、町の魅力を向上できると断言。人口減少や若者流出の対策を、行政やまちづくりの動きだけに頼る考え方を否定する。熊本県では半導体工場設立によって人や商店が増え、賃金が上昇傾向にあるという。企業が町を活性化する好例だ。 取材した社長によると、同じ考えを持つ経営者のネッ
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社説(7月2日)外国人「育成就労」 人材定着につなげたい
外国人の技能実習に代わる制度として「育成就労」を創設する改正入管難民法などが先の国会で成立し、2027年までに始まることになった。外国人労働者が安心して長く働ける環境をつくり、「人財」が定着して地域振興につながるよう、地方の企業と自治体、関係機関は連携して準備を進めなければならない。 技能実習は原則として職場を変えられない。長時間労働や暴行などに耐えかねて失踪する実習生が後を絶たず、「人権侵害」と批判を浴びた。 育成就労は同じ業務分野なら、本人の意向により職場を変える「転籍」が可能になる。しかし地方から賃金の高い都市部に人材が流出する懸念があり、雇用主側からの強い要望で最長2年間、転籍を
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【時評】「歩く肺炎」マイコプラズマ 通常軽症でも油断禁物(矢野邦夫/浜松医療センター感染症管理特別顧問兼浜松市感染症対策調整監)
新型コロナウイルスに対する感染対策が緩和されたことによって、3年間流行しなかったインフルエンザウイルスが再び流行した。同様に肺炎マイコプラズマも流行の兆しがあるので油断できない。 この病原体は成人や小児の上気道感染症(風邪症候群)、急性気管支炎、肺炎の最も多い原因菌の一つである。主に飛沫[ひまつ]を介して人から人に伝播[でんぱ]するので、家庭や学校などの密集した場所に住む人々の間で最も伝播しやすい。 肺炎マイコプラズマに感染しても無症状であることが多い。症状がみられる場合には上気道感染症、急性気管支炎、肺炎を呈している。上気道感染症ではせきが主な症状であり、咽頭痛、鼻水、耳痛がみられるこ
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コラム窓辺 陸上への恩返し(田崎博道/日本陸連専務理事)
今回から3カ月、火曜日を担当します公益財団法人日本陸上競技連盟の田崎です。私は大学に進学するまで沼津の地に育ちました。部活動の先生に恵まれ、仲間との出会いで、多感な少年期に陸上に没頭することができたことは、その後の人生に大きな力を与えてくれました。陸連専務理事をお引き受けする決断も、少しでも陸上への恩返しになるのであればという純粋な気持ちからです。 今年は7~8月にパリオリンピック、そして来年9月には東京で世界陸上を開催します。5月3日に静岡エコパスタジアムで、静岡国際陸上との併催のパリオリンピック最終選考会を兼ねた1万メートル日本選手権を開催しました。男女ともに、オリンピック参加標準記
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コラム窓辺 地方自治の現場で(中野祐介/浜松市長)
浜松市長に就任して、はや1年。今回から窓辺を執筆するにあたり、この1年、地方自治の現場で感じたことなどをつづっていきたいと思います。 市長になる前は、総務省(旧自治省)で働き、「個性豊かで活力に満ちた地域社会を実現し、国全体の力にする」ことを目指して、地方行政、地方税財政の仕組みの構築やその適切な運用に取り組んできました。 総務省では、東京・霞が関と地方自治体での勤務を交互に繰り返すのが一般的です。私も北海道や京都府など全国5カ所の自治体で勤務し、東京で自分がつくった仕組みを活用して、それぞれの地域づくりに取り組むという、いわば現場経験も踏んできました。 このように東京も含め、全国各地
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大自在(7月1日)能登地震半年
元日に石川県の能登半島で震度7を観測する地震が発生してから半年。犠牲者の総数は災害関連死を含め299人に上る見通しという。今もなお2千人以上が避難生活を余儀なくされている。 6月30日付本紙に掲載した現地中学生の日記には「ひさしぶりに勉強ができた」「お風呂に入れてよかった」などと記されていた。日常生活では当たり前のことが思うようにできない避難所の苦労が読み取れる。 本紙記者の現地ルポにも、倒壊した住宅の再建や寸断された道路網の復旧が進まない被災地の姿が描かれた。過疎や半島の地理的条件が支障になっているとはいえ、それを理由に現状に甘んじることは許されない。支援を強化して復興を加速させる必要
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社説(7月1日)能登半島地震半年 支援強化し関連死防げ
石川県で最大震度7を観測した能登半島地震からきょうで半年。災害関連死を含めた死者は299人の見込みで、行方不明者3人。死者数は熊本地震を上回り、平成以降では東日本大震災や阪神大震災に次ぐ地震災害になった。 避難生活で心労や持病の悪化、感染症などで命を失った関連死は、認定済みが52人、18人が認定見込みで、審査が進むと増える可能性がある。救える望みのある命だっただけに大変残念だ。被災地の生活環境整備や被災者への保健衛生支援の強化で、関連死を防がなくてはならない。 能登地震は過疎と高齢化が進み、道路交通インフラも脆弱[ぜいじゃく]な半島を襲った震災がいかに深刻かを見せつけた。応急対応期を過ぎ
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大自在(6月30日)バッドニュース・ファースト
ビジネスの世界では「バッドニュース・ファースト」は報告や連絡に関する鉄則らしい。悪いニュースこそ早く伝えよ。ミスやクレームの情報を早く共有すれば、その分、迅速に対処することができて損失を小さくできる。 だが、実践するのはそう簡単ではない。仕事上のマイナスを上司に報告したら「いきなり怒鳴られた」「いやな顔をされた」はありがちな話。徹底するには、経営者から末端社員まで組織全体に浸透させる必要がある。 上司と部下の間でも難しいのだから、組織と組織の間ではなおさらか。小林製薬(大阪市)の紅こうじサプリメント摂取による健康被害。摂取との因果関係が疑われる死者が76人いると新たに分かった。武見敬三厚
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時論(6月30日)茶施策も「巧遅より拙速」で
昨夏の高温被害や訪日客需要増で需給が逼迫[ひっぱく]し、コメの店頭価格が上昇した。一方、荒茶取引価格はさらに低迷し、「日常茶飯」とセットで語ることがはばかられる。 3月下旬、はしり新茶が鹿児島から静岡市の茶問屋街に届いて新茶シーズンが始まる。4月中旬にそのシンボルでもある静岡茶市場で初取引が行われ、日本一の茶どころは「八十八夜」の新茶商戦に突入する。一番茶を摘んで45~50日たつと二番茶の摘採期になる。 県内二茶生産がほぼ終了した。今年の茶期は知事選、新県政始動と重なった。一茶の記録的安値、二茶の生産調整による減産と、異例ずくめとなった。摘採適期の降雨にも、やきもきしただろう。15年ぶり
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社説(6月30日)国立大の授業料 公費増での対応考えよ
国立大の授業料値上げの動きに関心が高まっている。3月に中教審の特別部会で慶応義塾長が国立大の授業料を今の3倍の年150万円程度にしてほしいと発言し、東京大が値上げを検討していることも表面化した。国立大の大切な使命の一つは経済事情に左右されず高等教育の機会を提供することで、授業料の値上げは進学の障壁になりかねない。大学への公費支出増による対応を考えるべきだ。 文部科学省令は、国立大の授業料の標準額を年53万5800円とし、2割までの増額を認めている。一橋大や千葉大などが年10万円前後の値上げに踏み切っていて、東大も同程度を検討しているとみられる。併せて授業料全額免除の対象を拡大するなどの支援
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大自在(6月29日)「米大統領討論会」
討論会というより、「ののしり合い」とした方が適切に見えた。11月の米大統領選を前に、民主党のバイデン大統領(81)と共和党のトランプ前大統領(78)が臨んだテレビ討論会の中継。画面に現れた両者は握手を交わさなかった。視線も合わさず演壇に着くや、政策論争というより互いへの非難応酬を始めた。 大統領山荘で約1週間、準備を重ねたというバイデン氏はダークスーツに紺のネクタイ姿。トランプ前政権で米経済が「混乱に陥った」と批判した。 一方、おなじみの赤いネクタイを付けたトランプ氏は、現政権に対し「経済が上向いている実感がない」と指摘し、「史上最悪の政権だ」と反撃。 「(現政権で)米国は尊敬されなく
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記者コラム「清流」 福祉社会への一歩は
「敗残虚脱荒れし世にしあわせ築くは誰が任ぞ夢中で歩みし福祉の道もいつしか六十有余年…」 静岡県ボランティア協会前理事長の神田均相談役(94)が講演で自作の詩を読んだ。そこには戦争を経験し、県職員として七夕豪雨などの災害対応に加え、福祉政策に携わり、同協会の発展に尽くした60年超の福祉人生が詰まっていた。 「今や世界一の長寿国豊かな社会と言われるも命を軽く絆は弱く生きにくい世とは何故ぞ」 詩は自身が見た戦争の描写から、つながりが希薄な現代を憂う一節に続く。講演で人間関係をより良く築くことが福祉社会の土台となると道筋も示した。社会を変える一歩は自分を変えることだと感じた。
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記者コラム「清流」 ホタルへの情熱光る
闇夜を舞う幻想的な光。5月末、御前崎市門屋でホタルを観賞した。慌ただしい日々を忘れ、心和ませる光景に感動した。 このホタルは、豊かな自然を未来に残そうと地元の住民有志「門屋ほたるの会」が毎年、幼虫を養殖放流する。代表の沖二三男さん(79)は「ホタルが地元愛を育むきっかけになればうれしい」と語り、活動は24年目を迎えた。市外から観賞に訪れる人も多く、園児を招いた幼虫の放流体験も実施している。 こうした活動理念や実績が評価されて先日、同団体に「小さな親切運動」県本部から実行章が贈られた。ホタルの生息地が減る中、地域の財産になっている。 ホタルの光には地域を思う住民の情熱が込められていた。小さ
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記者コラム「清流」 強い縦割り意識
「道路管理課に聞いてください」「河川課が知っています」「これは資産税課です」「県の担当ですね」-。18日に沼津市を襲った大雨。被害概要を災害対策の“司令塔”であるはずの危機管理課に尋ねると、取材をたらい回しにされた。 災害対策に重要なのは、迅速で的確な情報収集。感じられる強い縦割り意識に情報共有ができているのか、不安が残った。以前担当した自治体では、白地図が描かれたホワイトボードに職員が被害場所と内容を書き込み、誰もが一目で分かるようにしていた。 市は本年度、災害情報共有システムを更新するという。しかし、染みついた縦割り意識がなくならなければ、何も変わらない。まず
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社説(6月29日)新紙幣発行 経済効果引き出したい
約20年ぶりとなる新紙幣が7月3日、発行される。円滑に新紙幣を使えるように自動販売機や券売機などの機器改修が急がれる。金融機関のATMや両替機などは問題なさそうだが、改修が間に合わない個人店舗や小規模チェーンなどが残っているとみられている。まずは混乱をできるだけ抑えることが重要だ。 言うまでもなくお金は経済社会の血液だ。隅々にまで行き渡ることで社会全体が活性化する。新紙幣の発行を機にお金が動く取り組みを盛んにしたい。自販機や券売機の改修関係者だけが特需で潤うだけでなく、社会全体への経済効果を引き出したい。 発行される新紙幣は1万円札、5千円札、千円札の3種類。描かれる肖像は、新1万円札は
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コラム窓辺 時が来たら…(久保田香里/静岡理工科大 法人本部広報部長)
私の女友達は、組織を離れて起業したり、家業を継いだり、フリーで仕事の幅を広げたりしている方が断然多いです。みな元気で行動力があり勉強家。「組織にいる時より大変だけれど自由」と語る場面に、うらやましさを感じながらも、自分は組織にいることを選び、その意義や役割を考えながら長年働いてきました。 昨年夏、定年を迎える教職員に次年度以降の希望調査がありました。静岡デザイン専門学校の実績も安定し、この三十数年で学生数も7倍になった今、持続可能な組織の未来について悩み抜いた結果、学生たちと離れるのはさみしいですが、静岡駅前新キャンパスへの移転を機に校長交代を希望する回答を出しました。決め手となったのは、
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大自在(6月28日・金曜日)“神”と自然と
今年の梅雨入りはまだかと、ちょうど気になりだした頃だった。県東部や伊豆半島を襲った先週の大雨。荒天の予報を承知の上で、同僚の車に乗り込み伊豆東部への出張を強行した。 仕事を終え、雨雲レーダーを確認しながら帰社の頃合いを待つこと1時間。じきに雨脚も弱まるだろうと見計らって出発したが、濁水が峠越えの道へと流れ出す場面に出くわすたび拙速を悔いた。 気象庁によると、この日の伊豆は熱海市網代で255・5ミリと観測史上最大の12時間雨量。伊豆市湯ケ島や南伊豆町など1時間や24時間の雨量が6月の観測史上最大値を超えた地点も複数あった。山中の道路を抜け伊豆の国市にたどり着くと、今度は冠水や雨量規制による
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記者コラム「清流」 父親の願いを記事に
大型トラックと衝突し、自転車の女子高校生が亡くなった―。2019年4月6日朝、静岡市葵区豊地の交差点で起きた事故。自宅に近く、危ない場所との認識もあって鮮明に覚えている。 ただ、「大人が守らないと同じ事故が起こる」と直後から旗振りを続けた父親の思いも、父親とあいさつを交わして安全意識を高める同学年の女子生徒が小紙に投稿した記事も、父親を取材した後輩の記事も、詳細を把握したのは恥ずかしながら最近。父親による中学校での講演を取材する機会に「出会えた」からだ。 「家族や友人は一生苦しみと悲しみを背負わされる」。まな娘の死と向き合いながら「命は尊い。大切に生きて」と訴える姿勢と行動力に感銘を受け
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記者コラム「清流」 天浜線の魅力描く
天竜浜名湖鉄道の天竜二俣駅(浜松市天竜区)周辺を題材に水彩画を描く、60代男性と知り合った。明るめの色使いで、駅舎や集う人々を活写していく。「最近は遠方から訪れる人が増えたと感じる」と話す。 天浜線が老朽化する全15車両の更新を決めた。出資者の県や沿線6市町が、通勤通学の手段として更新費用を必要負担と判断した。 同社は今年、観光商品第1弾を発売したり、台湾で地下鉄などを運行する台北メトロと提携したりして国内外からの誘客を進めている。円安を追い風にインバウンド(訪日客)を呼び込むためには、鉄道路線の魅力向上が欠かせない。 車両は来年以降、順次更新される。鉄道の未来を前向きに考える男性は、
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社説(6月28日)自然エネルギー 導入へ地域の理解必須
政府は2023年度版のエネルギー白書を閣議決定した。白書は国内で消費されているエネルギーについて、大半を石油や天然ガスなど輸入化石燃料に依存している日本の現状を指摘し、こうした状況の脱却に向け、太陽光や風力による「地域と共生した脱炭素型エネルギー」への転換を求めている。 日本国内へのエネルギー供給は、不安定な中東情勢もあって、原油の価格高騰リスクや調達難にさらされている。原油をはじめとする天然資源に乏しく、核燃料の利用に対して反発が根強いわが国では、脱炭素エネルギーの導入を最大限、目指すべきだ。 エネルギー白書は今回、国際的なエネルギーの供給情勢を巡り、ロシアによるウクライナ侵攻や悪化し
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記者コラム「清流」 我慢はいつまで続くの
今月18日の大雨による沼津市内の水害は、「またか」の思いにとらわれた。低地が多い原、浮島、大平の各地区は冠水や床上・床下浸水に見舞われ、雨量が少しでも増すといつも水浸しになる魚町の狩野川沿いの市道は、大雨から数日経過しても流木が散乱。市内を南北につなぐ国道414号の「三つ目ガード」も水に漬かり、今や冠水の“定番スポット”となった。 今回の地区はいずれも幾度となく同様の被害に遭ってきた。市は排水機場や貯留池の築造、排水ポンプの増設などを急いでいるが、近年の深刻な被害状況と同じ地区で何度も起きていることを考えると、効果は限定的と言わざるを得ない。 「我慢はまだ続くのか
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コラム窓辺 矯正は慈愛!気合!間合い!(中田健児静岡少年鑑別所・法務少年支援センター静岡所長)
本稿が最後になりました。表題の言葉「矯正は慈愛!気合!間合い!」は数年前、ある少年院長から教えていただきました。当時、少年院長は職員育成の資料として、全国の刑務所・少年院に伝わる「◯◯少年院版 処遇の心得20か条」などの現場の知恵から生まれた格言集を収集・整理しており、いずれも刺激的な傑作ぞろいでしたが、本職には表題の言葉が強く心に残りました。 「慈愛」は言うまでもなく、対人援助職の基本です。一方、矯正の仕事は優しいだけでは生きていけず、事故や危険と隣り合わせの世界なので「気合」も必要です。 では、「間合い」とは何でしょう? 間合いは武道用語で相手との距離感、攻守のタイミングなどを意味し
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大自在(6月27日)ガマフヤー
洞窟(ガマ)を掘る人を、沖縄の言葉で「ガマフヤー」という。ガマなどに残る沖縄戦の遺骨を収集し、遺族に返そうと活動する那覇市のボランティア団体の名である。代表の具志堅隆松さん(70)は40年以上掘り続け、約400柱を探し出した。 太平洋戦争の沖縄戦では民間人推計約9万4千人を含む約20万人が死亡。沖縄本島南部を中心に、まだ2千柱超の遺骨が見つかっていないとされる。 宜野湾市の米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設を巡り、南部の土砂を埋め立てに使う計画が進む。具志堅さんらは先週、政府関係者と面会。「戦没者の遺骨が残っている地域を冒瀆[ぼうとく]しないで」と撤回を求めた。 声は届いたのか。岸田文
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記者コラム「清流」 高峰見詰め直す年に
静岡、山梨、長野の3県にまたがる南アルプスが6月、ユネスコエコパーク登録10周年を迎え、各地で記念イベントが行われた。 3000メートル級の高峰が連なり、生息する動植物は約5000種とされる。流域には大井川、安倍川、天竜川、富士川を含み、農、工、漁業などに多大な恩恵をもたらしてきた。近年は気候変動による植生変化やシカの食害、山麓集落の人口減や高齢化が深刻化している。 ただ、そびえる静岡市街地からも山体が見えにくく、登山道まで車で3時間以上というアクセスの難しさもあり、県内ではその価値も危機も十分に認知されているとは言いがたい。 エコパークは、生態系の保全と持続可能な利活用の調和を目指す
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記者コラム「清流」 静岡県民としての意識
高齢化率が高い自治体は総じて選挙の投票率も高い―。定説と思っていたが、今回の知事選の取材を通じて覆された。高齢化率が県内の市の中で最も高い熱海市。投票率は42.18%と県内35市町で最も低かった。 「地元東部の候補者がおらず盛り上がりに欠ける」「リニア問題は正直、関心がない」。選挙期間中、熱海の有権者から冷めた声を数多く聞いた。それでも、静岡県の新しい顔でもある知事を15年ぶりに決める選挙。もう少し投票行動に移してほしかった。 熱海では、東京、神奈川の話題が多く上がり、市民の興味関心は首都圏に向いている気がする。だが、熱海は紛れもなく静岡県の一都市だ。選挙の投票は身近の生活を変えるための
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記者コラム「清流」 言葉の尻に「思う」を
生後間もなくして国の指定難病「色素性乾皮症」を発症し、治療を続ける浜松市の新貝海陽ちゃん(3)の母親が市内中学校で講演を行った。治療法がないといわれる息子の病気を治そうと、講演や交流サイト(SNS)で発信を続けている。 講演で30代まで生きるのが難しい海陽ちゃんと生きる日々の中で感じる命の尊さを語ると同時に、言葉についても言及した。SNS上で心ない言葉を投げかけられたつらい経験から「その言葉を相手に向かって使っていいのか考え、言葉の尻には『(私は)思う』を添えてほしい」とゆっくりと優しく呼びかけた。 言葉は、人とつながるために大切に扱うべきものだと再認識した。日常で使う何げない言葉の選び
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社説(6月27日)機能性表示食品 事業者は責任の自覚を
小林製薬の「紅こうじ」サプリメントを巡る健康被害問題で、機能性表示食品の安全性について政府が再発防止策を打ち出した。 問題が生じた場合の事業者から行政への速やかな情報提供に加え、サプリ形状食品の製造と品質管理には「GMP(適正製造規範)」の導入を義務付けることが柱となっている。安全性向上に向け、健康被害問題の教訓が生かされたといえよう。 一方、事業者による届け出という機能性表示食品制度の根幹は変わっていない。広告や宣伝への規制もない。被害救済についても明確化されていない。こうしたことから健康食品全般を視野に入れた抜本改革を望む声もある。 再発防止策で健康被害の再発を防ぎ、消費者が安心し
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コラム窓辺 文化はどうなる?(宮澤敏夫/富士山静岡交響楽団 専務理事)
私が演奏家でいた時代、昭和40~50年代は高度成長期の真っただ中でした。思い起こすと、何といい時代に音楽をしていたものだと感謝しています。平成以降はだんだんと世の中がせちがらくなり、ぎすぎすしてきたように思われてなりません。 平成元年からの海部内閣時代には「メセナ」という言葉が世の中で高々とうたわれ、企業などからの出捐[しゅつえん]金100億円超に政府からの出資金を合わせた約600億円で基金をつくり、文化行政に活気を与えた時代がありました。その後金利が下がり、それと比例するように文化に対する機運も、しぼんできたように感じられます。 原因は娯楽のニーズが増えたことが大きいように思われます。
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大自在(6月26日)七並べ
友人宅でトランプの七並べをした。筆者が一番に上がり、小学生になる友人の娘さんを悔し泣きさせてしまった。このゲームはずる賢かったり性格が悪かったりする人が強いというが、順番をパスする権利まで大人げなく行使したわけではない。手札が良かっただけだとしておきたい。 鈴木康友知事の手札はどうだったのか。就任早々、リニア中央新幹線工事を巡る動きがにわかにスピードアップしたかに見える。国土交通大臣やJR東海社長と相次いで面会し、建設促進期成同盟会の総会で歓待を受け、山梨県側の工事を巡ってJR、山梨県と3者合意まで結んでしまった。 「新知事はいいタイミングで就任した」。あるJR関係者はこの間の急展開につ
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記者コラム「清流」 他人任せの毎日に
取材で多くの人に出会う中で、自分の在り方を省みる場面が多々ある。 スポーツ選手が小学校を訪れ、競技を通じて交流した授業。終了後、使用した道具はスタッフに任せるのではなく、選手自らが当たり前のように持ち、控室に戻っていた。また別の日のとある取材先では、朝から日が照りつける中、始業前に1人黙々と草を刈る管理職の姿を見かけた。 尊敬していた大学の部活の先輩をふと思い出す。大会終了後の撤去作業。本来免除のはずの主将も私たち控えの後輩に交じって参加していた。「だってそういうのはみんなでやらなだめでしょ?」と。 時間がない。疲れている。きっと誰かがやってくれる。つい自分のことで頭がいっぱいになりが
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浜名湖花博 目標上回る100万人 成功生かし地域発展を【記者コラム 風紋】
浜松市中央区で開催された「浜名湖花博2024」が16日、閉幕した。浜名湖エリアを舞台に86日間にわたって繰り広げられた“花と緑の祭典”は、会期中に累計100万人が来場し、目標の95万人を上回った。単なるイベントとしての成功で終わらせることなく、地域の活性化や市民の意識醸成につなげていくことが重要になる。 2004年のしずおか国際園芸博覧会(浜名湖花博)の20周年記念事業として開かれた。テーマは「人・自然・テクノロジーの架け橋~レイクハマナデジタル田園都市」。花博に合わせて著名なガーデンデザイナーが新たに庭園を手がけ、会場は季節ごとの花々が咲き誇る「花のリレー」で来場
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記者コラム「清流」 1人支局の“同僚”
1カ月に一度、順番が回ってくるコラム「清流」。恥ずかしながら毎回、何を書くか頭を悩ませている。5月はお茶をテーマにした清流を掲載したが、実は対話型人工知能(AI)「チャットGPT」の力を借りた。 保身の意味も込めて強調したいのは、決してAIに書かせたわけではない。そもそも、コラムを書く能力はまだAIにはなかった。「茶業界の課題に触れて」「もっと具体的に」「主観を交えて」などあれこれ指示を出してみたが、どこかのサイトをそのまま引用したような浅い情報を羅列するだけだった。 ただ、AIのコラムを改善しようと意見をぶつけ続けるうちに、だんだんとイメージが固まってきた。1人きりの支局勤務でなかなか
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記者コラム「清流」 どこまでも走る
東海道線なら熱海駅から浜名湖を渡るあたりまで。富士山麓で行われたトレイルランニングレース「Mt.FUJI100」は、延長167キロを45時間の制限で走る。2200人のランナーが起伏のある悪路や足腰の痛み、眠気、そして弱気と闘った。 富士市内でのスタートを取材した翌日、山梨県側のゴールでは完走者の朗らかな声が聞けた。一方で、出走前に連絡先を交わした選手からはリタイアの結果を後日に聞いた。山中の下り坂を急ぎ、木の根に滑って転倒。長いレースをあの状況で飛ばす必要があったのかと悔しそうだった。 思い切り走れる場面はこの先にもある。過信はしない。慎重に。次のレースをもう走り始めているような言葉が次
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社説(6月26日)憲法改正 期限を改め議論深めよ
岸田文雄首相が2021年秋の就任時から目標に掲げてきた今年9月までの自民党総裁任期中の憲法改正は、国会開会中の改憲条文案提出を断念したことで、現実的に不可能になった。 自民党は改憲のめどだけはつけたいと、他党に国会閉会中の審議への協力を呼びかけるが、いまだ条文案の起草にさえ至っていない。改憲に慎重な立憲民主党は条文案作りには応じる姿勢を示していない。まずは、こうした現実を直視しなければならない。 一方、岸田首相就任以降、衆参憲法審査会での改憲議論は本格化したのも事実だ。改憲を本気で前に進める気があるのなら、9月に決まる新総裁は新たな期限を示し、議論を深めるべきだ。期限をあいまいにしたまま
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【時評】社会的卵子凍結への助成 少子化対策と言えるか(白井千晶/静岡大人文社会科学部教授)
昨年度の東京都に続いて、山梨県も本年度「社会的卵子凍結(社会的適応による未受精卵凍結)」への助成を始めた。卵子凍結は、卵子を取り出して液体窒素下で凍結保管するもので、妊娠しようとする時には体外受精させて受精卵(胚)を作り、子宮に移植する。 がん治療など生殖能力に影響しうる治療を始める前に、「妊孕性[にんようせい]の温存(生殖の保存)」を目的に精子や卵子、胚を保存することが選択肢の一つとして整えられ、自治体による助成が行われている。社会的卵子凍結は、こうした医学的理由からではなく、加齢に伴う妊娠率の低下に備えて卵子を凍結しておくというものである。かねて一部医療機関が自費での実施に対応していた
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コラム窓辺 生涯現役を目指して(曽根原容子/Woman’sサポート理事長)
窓辺のお話をいただき、あっという間に本日が最終の寄稿となりました。何人かの懐かしい方から連絡をいただき、とてもうれしかったです。3カ月間、私の拙い文章にお付き合いをいただき、ありがとうございました。 この年になると、女友達との会話が、更年期の話といつまで仕事をするかという話になります。女性の一生は、女性ホルモンといかに上手に付き合っていくかで変わってきます。例えば自律神経のバランスが崩れるとか、太りやすくなるとかいろいろあります。ただ私が思うには、検査に異常がなければ、あまり体調の変化に敏感にならずに、おおらかな気持ちで日々を過ごし、予定を入れて忙しくしていると自然に気にならなくなったり
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大自在(6月25日)入場料金
世界遺産で国宝の姫路城を管理する姫路市の市長が外国人入場料を約4倍に引き上げる案を示したと報道された。18歳以上の入場料は現在、国籍を問わず千円だ。 市長は7ドルほどの入場料を外国人は30ドル、市民は5ドルぐらいにしたいと述べたという。市によると、2023年度の入場者数は約148万人、外国人は3割を占める約45万2千人で過去最多だった。 昨年11月、世界遺産登録30周年でにぎわう現地を訪れた。週末だったので混雑を予想して早めに出かけたが天守閣に上がる狭い階段は大渋滞。入場規制も行われた。確かに一目で外国人と分かる人たちも多かった。とはいえ、料金に格差をつけるとなると公平性が問題となる。
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記者コラム「清流」 空港のにぎわい
静岡空港が便数を思うように増やせない主な原因は人手不足と知り、“目からうろこ”だった。新型コロナウイルス禍の収束で「就航は増えるばかり」と信じ込んでいた。 需要はあるのに「先立つものがない」とはこのこと。空港運営の窮状は国があり方検討会を設けて議論するほど全国的に深刻という。静岡県は空港のにぎわいをまずはコロナ禍前水準に戻すとするが、回復具合は7割程度。幹部職員は「人材確保は一丁目一番地」と表現する。 静岡空港を巡っては、リニア建設促進期成同盟会がJR東海などに新幹線新駅構想を要望すると決めた。1日当たりの搭乗客数が1500人に満たない現状を知ってか、知らずか。い
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【時評】現代につながる海域世界史 駿河湾も重要な要素に(浜下武志/静岡県立大グローバル地域センター長)
伊豆半島南端の石廊崎は昔より航海の難所で、この沖の岩礁で座礁、難破する船も多くあったため、灯台の設置が求められていた。幕末の1868(慶応4)年に来日したスコットランドの技術者リチャード・ブライトンは、滞在した7年半の間に日本各地に26カ所の灯台のほか、2カ所の灯船などを建設した。これらの灯台は日本のみならず周辺の東アジア海域から太平洋にかけた海洋航路に関係し、多くの海域に跨[また]がる灯台体系を築いたことから「灯台の父」とも呼ばれている。彼は和歌山県に3基、静岡県に3基、神奈川県に2基の灯台(1基は灯船)を建設した。静岡県では、71年に現在の下田市の神子元島[みこもとじま]灯台と現在の賀茂
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社説(6月25日)静岡空港開港15年 路線増へ人材確保急務
静岡空港は今月、開港15周年を迎えた。新型コロナウイルス感染拡大によって国際線定期便の全便が運休・欠航するという事態を乗り越え、搭乗者数は再び上向いている。だが、複数の路線はいまだに回復しないままだ。 2038年度には搭乗者数135万人の目標を設定している。国際線を充実させて円安を追い風とする旺盛な訪日需要を取り込むとともに、県民の利用を増やすために魅力的な旅行商品の開発に知恵を絞る必要がある。 復便が遅れている一因には、航空機の誘導や空港カウンター対応などの地上スタッフの人手不足があるとされる。雇用企業によれば、コロナ禍の採用抑制や離職で従事者が2割程度減少したままで、復職も進んでいな
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記者コラム「清流」 分かりやすいは難しい
「腫れた部位を氷で冷やしてください」。医療関係者向けに三島市で開かれたやさしい日本語講座。「腫れ?」「冷やす?」。戸惑う患者役の外国人に対し、どんな言葉を使えばいいか参加者と頭を悩ませた。 外国人にも分かりやすく伝える「やさしい日本語」のコツを講師から聞き、はっとした。「漢語より和語を使う」「外来語は使わない」「一文を短くする」「言葉を言い換える」。記事を書く時の注意点に近かったからだ。 読者を想像し、より多くの人に伝わる記事を書くよう努力している。特に専門性の高い内容や使い慣れない言葉を扱う際は、分かりやすさを意識する。しかし、日頃から何げなく使う言葉に対してどれだけ気遣いができていた
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記者コラム「清流」 思い踏みにじる行為
罪を犯した人などの更生支援に尽力した県内の複数の保護司から話を聞いたことがある。意識してきたことを尋ねると、「同じ目線に立ち、自ら一歩を踏み出せるように寄り添う」といった答えが返ってきた。 あらゆる手を尽くしても更生に結び付かないケースもあると思われ、気苦労が絶えない仕事と感じる。一方、立ち直った人と街で会い、「元気でやっています」と感謝を伝えられた時に「大きなやりがいを感じた」との経験も聞いた。 保護観察中の男が担当の保護司を殺害する事件が大津市で起きた。保護司の思いはもちろん、懸命に立ち直りを目指す人たちの努力を踏みにじる行為だ。現場は面談場所の保護司の自宅とみられる。対象者との踏み
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コラム窓辺 宇宙への挑戦(能見公博/静岡大工学部教授=宇宙工学)
1957年に人類初の人工衛星、61年に有人飛行、69年に人類が月に降り立った。米ソが激しく宇宙競争をしていたのは、自分が生まれた頃のこと。学生の頃にはスペースシャトルが活躍、社会人になった頃に宇宙ステーションの建設が始まった。そして今、人工衛星は生活に欠かせないものとなり、月面活動へと踏み出している。宇宙旅行も現実味を帯びてきた。 さらに50年後には、月や火星で人類は当たり前に生活している未来が期待できる。さらに遠い太陽系惑星へ、そして太陽系外へと活動の場を広げていっているだろう。天文の距離は何光年の単位で気が遠くなるが、速度は相対的なものと考えると行けそうな気がする。 宇宙開発はまだ
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大自在(6月24日)サトウキビ畑
砂糖は身近にあり、ともすれば健康と美容の敵のような扱いを受ける。しかし昔は王や貴族など限られた人の口にしか入らない貴重品で、薬として珍重された。 15世紀末、新大陸に到達したコロンブスはジャガイモなどを持ち帰る一方、サトウキビをカリブの島々に持ち込んだ。そこにプランテーションが造られ、アフリカから奴隷が連れて来られた。 欧州の豊かさを支える植民地の重労働。カリブの政治家は「砂糖のあるところに、奴隷あり」と言った(川北稔著「砂糖の世界史」岩波ジュニア新書)。 日本のサトウキビ栽培の黎明[れいめい]は不明な点があるが、朝鮮の15世紀の古文書には、琉球がサトウキビを大量に栽培していたと記され
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社説(6月24日)保護司殺害事件 尊い活動に安全対策を
大津市で罪を犯した人などの立ち直りを支援する保護司の男性(60)が自宅で殺害され、男性が担当していた保護観察中の男が逮捕された事件は、更生保護に携わる人たちに衝撃を与えた。近年顕著になっている保護司の減少に拍車がかかるのではと影響を懸念する声が上がる。 法務省の有識者検討会が保護司を確保する施策を議論するさなかに事件は起きた。小泉龍司法相が全国の保護観察所に対して保護司と連絡を取り合ってトラブルの有無を聞き取るように指示した。秋までに保護司の安全対策を取りまとめる考えも示した。事件はまだ捜査段階で、今後明らかになる犯行の経緯や動機も踏まえて再発防止にできる限りの手を尽くしてほしい。 一方
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時論(6月24日)高校生と考える「国語は実技」
「大切なのは、自分のもっているものを活[い]かすこと。そう考えられるようになると可能性が広がっていく」と元プロ野球選手イチローさん。背中を押される気がしないか。 そのイチローさん、読書感想文が大嫌いだったと、SMBC日興証券のインタビュー動画で明かしている。原稿用紙を埋めるため「ずっと」を「ずーーーーーーーっと」と書いて叱られたという。 縁あって、職場近くの県立駿河総合高(静岡市駿河区、森谷幹子校長)で本紙1面コラム大自在を使う作文勉強会を試行する機会を得た。イチローさんの名言と作文嫌いの逸話はその中で引用した。 講師とは僭越[せんえつ]だが、生徒が作文の苦手意識を解消する端緒になるか
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社説(6月23日)静岡県内梅雨入り 大雨に備え行動計画を
静岡県を含む東海地方が梅雨入りしたとみられると気象庁が21日、発表した。平年と比べると15日遅れ。昨年よりも23日と大きく遅れた。 いよいよ本格的な出水期を迎えた。これから大雨とそれに伴う洪水や土砂災害に警戒する必要がある。近年、特に注目されるのが線状降水帯。発生すると大規模な気象災害をもたらすことが多い。 気象庁は今年から、12~6時間前に全国11のブロックごとに出してきた線状降水帯の発生予測を、都道府県単位で発表する運用を始めた。対象を細分化することで危機感を強め、早めの避難行動につながることを期待している。 このような防災情報を生かすためにも、日ごろから発表されたらどう行動するか
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大自在(6月23日)下田
平年より15日、昨年より23日遅く東海地方が一昨日梅雨入りした。高温多湿な日本の気候には幕末、下田に着任した米国初代日本総領事タウンゼント・ハリスも辟易[へきえき]したらしい。 「今まで経験した最も不快な天気が、六日間続いている。一週間にわたり、ずっと雨か曇天なのである」。梅雨入り前だろうが1857(安政4)年5月9日の日記はこう始まり、下田奉行から供給される食料や日用必需品の価格が特別に高いと不満が続く(「ハリス日本滞在記」岩波文庫)。条約交渉が進まないいら立ちがにじむ。 1年以上を経て日米修好通商条約は安政5年6月19日(1858年7月29日)締結。同年春、重態になったハリスの病状は
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時論(6月23日)学校に頼り過ぎていないか
私たちは学校に頼り過ぎていないだろうか。長時間労働などに伴う教育現場の疲弊ぶりを聞くにつけ、そう思わざるを得ない。「私たち」とは保護者や地域社会、教員の数や処遇などの大枠を決める国や自治体などの総体だ。 「改革」の名の下に「○○教育」が次々に現場に持ち込まれ、デジタル化にも対応しなければならない。子どもたちも多様化している。教員数の大幅な増員が図られないまま、新たな業務が積み上がっている。精神疾患を理由にした教員の休職や離職は深刻な状況だ。 中央教育審議会の特別部会が5月にまとめた教員の処遇改善と働き方改革の提言に対しては、「本丸」ともいえる教員定数の改善について「踏み込み不足だ」との声
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大自在(6月22日)5ツールプレーヤー
日本の野球では走攻守三拍子そろった野手を万能選手と言うのだろうが、米国はもう少し細かい。ミート力、長打力、走力、守備、そして肩の強さ。「5ツールプレーヤー」と表現されるそうだ 米大リーグ史上最高の万能選手と呼ばれたのが外野手のウィリー・メイズさん。1951年にジャイアンツでデビューし、歴代6位の660本塁打を放った。強打だけでなく、4度の盗塁王、守備では12年連続ゴールドグラブ賞。米野球情報サイトが2020年に発表した「偉大な野球人100選」では“神様”ベーブ・ルースさんを抑え1位に選ばれた 本塁打は714本のルースさんを超えられなかった。大リーグ評論家の故伊東一
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社説(6月22日)通常国会閉幕 信頼回復の端緒もない
自民党派閥の裏金事件で深まった国民の政治不信を払拭できるかが問われた通常国会は、23日までの会期を残して週末に入り、事実上閉幕した。終盤国会は再発防止に向けた政治資金規正法の改正が最大の焦点だったが、信頼回復には程遠い抜け道だらけの内容で成立させた。岸田文雄内閣や自民党の支持率は2012年の政権復帰以降の最低水準が続き、政権交代も現実味を帯びつつある。 岸田氏はなお、9月に予定されている党総裁選での再選を目指しているとされるが、党内では次の総裁候補を探る動きが表面化している。「看板のかけ替え」は自民の得意技とはいえ、総裁の交代で支持がどこまで回復するのか疑問だ。少なくとも次の国会を早期に召
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記者コラム「清流」 異例が続く「茶の都」
新茶期入り直後の小欄で静岡茶市場初取引に触れ、「県産一番茶の上場量は過去最少。異例の幕開け」と記した。あれから2カ月。今も現場で異例な出来事ばかりを目撃している。 一番茶は消費の伸び悩みを背景に、茶商の仕入れは慎重を極めた。各産地の摘採期が集中したのもあり、相場は急落。記録的な単価安となった。これを受け、二番茶では農家側が生産調整などの対策を講じた。相場は保たれている半面、大幅な減産となる見通しだ。 生産者からは「これでは生産を続けられない」という悲鳴を、茶商からは「お茶が売れない」という嘆きを何度聞いただろうか。 「茶の都」を支えるのは茶業者だけではない。新茶ののぼりが立つ、近所の専
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記者コラム「清流」 後悔は頑張りの証拠
各種目で熱戦が繰り広げられた県高校総体。この時期になると、陸上競技に打ち込んでいた大学時代の先輩の言葉を思い出す。 「どんなに頑張っても悔いは残るもの」。先輩が卒業時のスピーチで、後輩に向けて送った言葉。高校総体の成績に納得がいかず、大学で悔しさを晴らそうと競技を続けた自分には衝撃だった。自分も大学で競技を引退したが、最後にやはり悔いは残った。 「〇位以上」「〇秒以上」など選手にはそれぞれの目標があるはず。ただ、最終的に達成できるのは一握りではないだろうか。 「こうすれば良かった」と後悔が残るのは、競技に向き合い、愚直に取り組んだ証拠だ。結果に喜び、悲しんだ後は、自分自身を褒めてほしい
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記者コラム「清流」 鳥の巣で感じるエゴ
高枝切りばさみで自宅玄関先の木を剪定(せんてい)していると、枝や葉とは違う何かが落ちてきた。恐る恐るのぞいてみると、“何か”の正体は、手のひらサイズのかわいらしい鳥の巣。剪定をサボり、葉が生い茂ったわが家の木を、猛暑をしのぐためのすみかに選んだのだろうか。 上手に作られた巣をよく見ると、木の枝に糸やビニールひもなどが混じっている。人間が捨てたごみなどが鳥の巣の材料に使用されていた。鳥にとっては材料の確保に役立ったかもしれないが、自然や環境に配慮しない人間のエゴを感じざるを得なかった。 そう考えていると、近くを飛ぶ鳥の姿が。この鳥の巣だったのだろうか。鳴き声が切なく
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コラム窓辺 退職願(久保田香里/静岡理工科大 法人本部広報部長)
「あなたの言うことは経営の役に立つ」と、20代の私を面白がってくださった法人役員がいました。後の副理事長、故寺田實先生です。他法人から吸収合併した小規模の静岡文化専門学校へ異動した際には、「人さまにいただいた学校だからつぶすじゃないぞ」とおっしゃいました。やれることは全てがむしゃらにやり、学生はじわじわ増えていきましたが、30歳手前、悩み抜いた末、もうこれ以上は限界と、退職願を出しました。 まもなく寺田先生から呼び出しがありました。叱られると思って出向いた役員室で、正面に座った寺田先生は、ずっと窓の外を眺めながら、どんな学園にしたいのか、これからのお話をされました。そして、最後に私へ視線を
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大自在(6月21日)主体的な学び
バレーボール女子日本代表の6大会連続14度目の五輪出場が決まった。パリへの切符を獲得したのは今月のネーションズリーグ福岡大会。カナダに敗れ、決定持ち越しかと思われた翌日、一転して吉報が届いた。 異例の事態となった要因は、世界ランキングの新システムの複雑さ。試合ごとにポイントが増減する仕組みで、試合当日は全てのケースを想定した計算ができていなかったという。選手もファンも喜びを静かにかみしめる結果となった。 バレーボールが五輪の正式種目になったのは1961年のきょう。女子は3年後の東京五輪で金メダルを獲得した。「東洋の魔女」と呼ばれた選手たちの奮闘に日本中が熱狂した。 率いたのは「鬼の大松
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記者コラム「清流」 ベテランの姿に勇気
女子プロゴルフのステップアップツアー、ユピテル・静岡新聞SBSレディースが16日まで御前崎市で行われ、36歳のベテラン若林舞衣子選手が優勝した。安定感のあるスコアメークは豊富な経験がなせる技。重圧のかかる場面でも冷静なプレーで貫禄を示した。 優勝スピーチでは感極まる場面があった。レギュラーツアー4度優勝の実績がありながら何が心を揺さぶったのか。質問すると「最近はうまくいかずゴルフが面白くなかった。自信を失っていたので、こうして勝てたことがうれしかった」と理由を説明してくれた。 トップアスリートこそ人知れず悩みと戦っている。それをさらけ出してくれたことに勇気づけられた。誰もが葛藤を抱えてい
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記者コラム「清流」 「梶原悠未ロード」期待
「金メダルを取ったら『梶原悠未ロード』を作ってほしいです」。7月に開催されるパリ五輪の自転車競技・トラック種目代表に内定した梶原悠未選手(27)=伊豆の国市=が、6月上旬に同市役所を訪れた。山下正行市長に大会本番に向けた抱負を語るとともに、そんな言葉を照れながら投げかけた。山下市長も即決で「作りましょう」と快諾した。 その後の壮行会では市民からのエールに感極まって涙を流した梶原選手。「感動した。この思いをパリに持って行きたい」と力を込めていた。 伊豆の山々で1日100キロ以上走っているという。狩野川沿いには長嶋茂雄ランニングロードもある。金メダルの獲得と、スポーツ選手にまつわる同市二つ目
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記者コラム「清流」 なるか浜松勢の連覇
全国高校野球選手権静岡大会が30日に開幕する。昨年は浜松開誠館が初優勝し、浜松勢として実に21年ぶりの甲子園出場を果たした。自由な髪形、週休2日、メジャーリーグのようなユニホームなど、高校野球に新しい風を吹き込み、全国でも注目を集めた。 同校は今年も秋季県大会準優勝、春季県大会3位と上位に進出した。1月には昨季まで中日ドラゴンズ2軍打撃コーチだった中村紀洋氏がコーチとして復帰。今春は副部長だった浜野洋さんが監督に就任し、試合後のコメント力なども含め新生開誠館に期待したい。 同市のチームが2年連続で夏の甲子園に出場すれば1980年浜松商、81年浜松西以来43年ぶり。秋県4位の聖隷クリストフ
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社説(6月21日)都知事選告示 「一極集中」をどうする
東京都知事選が告示され、選挙戦に突入した。現職の小池百合子氏や立憲民主党を離党した前参院議員蓮舫氏をはじめ、過去最多の56人が争う混戦だ。7月7日の投開票に向け論戦が本格化する。自民党派閥の裏金事件で岸田文雄内閣の支持率低迷が続く中、衆院解散・総選挙や政権交代の動向に大きく影響する選挙としても注目が集まる。 都の予算は2024年度当初の一般会計が8兆4千億円超、特別会計などを加えれば16兆5千億円超とスウェーデンの国家予算に匹敵する規模だ。その巨額予算を差配する知事の政治姿勢は、都内だけでなく国政や国民生活にも影響を及ぼす。だからこそ、この選挙を通じて地方から問いたい。東京への「一極集中」
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コラム窓辺 少年鑑別所の地域援助(法教育編)(中田健児/静岡少年鑑別所・法務少年支援センター静岡所長)
前回は、少年鑑別所の地域援助のうち、「子育て相談」を紹介しました。本稿では学校などで生徒や保護者の集団向けに行う「法教育(出前授業)」について紹介します。 法教育は、青少年も含めて広く市民に法や司法の基本的な考え方を知ってもらい、自由で公正な社会を支える人材の育成を目指そうとするものです。近年、①裁判員が18歳から②選挙権年齢が18歳から③婚姻年齢が男女とも18歳から④少年法では20歳成人を維持するものの18歳以上の者への処罰は厳罰化が進む―など重要な法改正が続いたことから、青少年への法教育の必要性が注目されるようになっています。 当所では、県内の中学、高校、特別支援学校などからの依頼に
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大自在(6月20日)知事所信表明
「気を付けているつもりでも、ついカタカナ用語を使ってしまう。後ろのカッコ内に意味を付したり日本語に置き換えようとしたりするが、うまくいかないこともある」。 きのう開会した県議会本会議での鈴木康友新知事の所信表明を聞いて、かなり前にこんな書き出しを本欄で使ったことを思い出した。新知事は県政運営にあたってスピードの重要性を示した上でこう述べた。「最近の経営用語で申し上げれば『アジャイル』です」と。 カタカナ言葉に耳慣れぬ方のために用語解説を引くと、アジャイルとは、小さな単位で動くソフトウエアをつくっていく考え方。ビジネスシーンでは、「素早い」「機敏な」「頭の回転が速い」といった意味でも使われ
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記者コラム「清流」 時は戻せない
焼津市鰯ケ島の岸壁で20歳の男性が一緒に遊んでいた仲間に海に投げ入れられ、死亡した事件から1カ月がたった。発生直後から現場には数多くの花などが手向けられていたが、今は釣り人が連なる事件前の風景に戻っている。 事件は若者たちが集まってふざけ合う中で起こった。周囲に明かりはなく、夜は真っ暗だ。水深のある海に衣服や靴を着用したまま入ったら、どんな危険があるのか。誰か一人でも想像を巡らせ、とどまらせることができなかったのだろうかと思えてならない。 事件後、関係者の聴取が行われていた警察署に、保護者に付き添われてむせび泣く若い男性がいた。どれだけ後悔しても、時は戻せない。せめて、この出来事を深く深
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記者コラム「清流」 「時計の針」進めよう
裾野市が「不適切な保育」の再発防止事業を始めた。園長ら施設管理者を対象にした講習会で、外部講師は不適切な保育を取り上げた昭和の新聞記事のコピーを配り、同じような事件が最近も県外の施設で起きたと紹介した。 2022年に同市で発生した園児虐待事件では関連取材を通し、ベテラン保育士から「昔はこんな事例があった」という体験談をたびたび耳にした。事件を機に不適切な保育に対する注目が一気に高まったが、決して一施設の特別な出来事ではなかったのだろう。 学校でのいじめ、部活動やクラブ活動の過剰指導、少数者への偏見、ハラスメント―。社会の制度や常識が大きく変わる中、残念なことに令和のいまも、前時代的な不条
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記者コラム「清流」 詐欺対策は社会の役目
多様な手口で現金やカードをだまし取る特殊詐欺や交流サイト(SNS)を悪用したSNS型投資詐欺、ロマンス詐欺などが全国で相次いでいる。掛川署管内でも同様。発生が続く中で先日、詐欺グループの受け子とみられる男が詐欺未遂容疑で逮捕された。 端緒は地元郵便局職員の機転だった。激しい雨が降る日で、高齢男性が窓口を訪れたのは営業終了が迫った夕方。多額の出金を求めた男性は、うその電話を信じ込んでいる様子だったという。不自然な状況を不審に思った職員が通報した。 行政や警察は注意喚起を強めているが、詐欺被害はなくならない。冷静さを失った被害者を救うのは社会の役目だと思う。投資詐欺広告に画像を使われた著名人
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社説(6月20日)鈴木知事所信表明 幸福実感できる県政を
静岡県議会6月定例会で、5月の知事選を制した鈴木康友知事が就任後初めて所信を表明した。これからの県政運営には明確な「経営」の方針が求められると強調するとともに「県全体の均衡ある発展に向け、オール静岡で幸福度日本一の静岡県を実現する」と述べた。演説に派手なアピールや印象的なスローガンはなかったが、幅広い県政の課題に言及。知事選で対決した自民党が多数を占める県議会や、自身の得票が自民推薦候補を下回った県中・東部に配慮を示し、まずは無難なスタートを切ったと言えよう。 ただ、幸福度をどう上げるのか、その道筋を示す具体的な内容は乏しかった。そもそも「幸福度」は個人差があり抽象的で、測るのも難しい。重
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コラム窓辺 愛すべきキャラクター(宮澤敏夫/富士山静岡交響楽団 専務理事)
山田一雄(1912~91年)という日本中のオーケストラから愛された名(迷)指揮者がおられました。私はこのユニークな先生が大好きでした。この先生の数多くあるエピソードから、いくつかをご紹介しましょう。 先生は演奏中に舞台から落ちて、指揮をしながら這[は]い上がってきたというお話があります。ご本人は若い時に柔道をやっていたので、サッと跳び上がり指揮をしたとおっしゃいますが、150センチ程の小さい方でしたから「這い上がった」のが正しいかと思います。 そんな訳で、人より高い指揮台をお使いでした。袖から舞台へ小走りに登場され、ヒョイと飛び乗られるのが常でしたが、勢い余って指揮台を飛び越えられること
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大自在(6月19日)ムジナ
自民党派閥の裏金事件が発覚した後、「同じ穴のムジナ」ということわざを何度も耳にした。一見違うように見えても、実は同類であることの例え。良い意味では使われない。 昨年12月、連立政権を組む公明党の山口那津男代表が「同じ穴のムジナと見られたくない」と自民党を批判したのが発端となった。自民党提出の政治資金規正法改正案を巡り、公明党がわれわれの主張が取り入れられたと修正案に賛成の意向を示すと、立憲民主党から「同じ穴のムジナに戻った」と皮肉る声も上がった。 立憲民主党も、政治資金パーティーの禁止を求めながら複数の幹部がパーティーを予定していたことが党内外から問題視された。開催を取りやめたのは、「自
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記者コラム「清流」 チャイルドシート必ず
日頃の取材活動で車を運転していると、目を疑う光景によく出合う。それは幼児がチャイルドシートを着けずに乗っていること。最近は運転手の脚の上に乗っている場面も見かけ、「もし事故が起きてしまったら…」とぞっとした。 チャイルドシートは、道路交通法で6歳未満の子どもに着用が義務付けられている。使用していない子どもの親に言い分があったとしても、子どもの命を危険にさらしてよい理由には決してならない。大きな問題だと認識すべきだ。 事故が起きた後のことをよく考えてほしい。後悔しきれない事態になるかもしれない。警察による取り締まりも必要だが、何より親が「子どもの命を守る」という意識を常に持た
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記者コラム「清流」 “2周目”の喜び
こんなにきれいだったかな-。ピンク色の空が眼下に広がる田んぼに映り込む光景。昨年も見たはずの「久留女木の棚田」(浜松市浜名区)が夕焼けに染まりゆく様子は、これまで見たことがないほど美しかった。 カメラマンとして浜松に着任して2年目。単年での異動は少ないので、どの地域でも風物詩などの取材は“2周目”を経験することになる。前年の学びを踏まえて撮影に臨めるのはメリットなのだが、新鮮さは失われる。そんな中、同じ取材でも、あっと驚くような場面に出くわすと大きな喜びを感じる。 「1度見ただけで知った気になるな」。棚田から教えられたように思えた。昨年を上回る光景、出会ったことが
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富士山の登山規制 「一山二制度」解消望む【記者コラム 湧水】
富士山が7月1日、山開きする。静岡県では同10日ごろから約2カ月間の夏山シーズンを迎えるが、今夏は山梨県側と登山規制が大きく異なり、同じ世界遺産の霊峰で二つの制度が併存することになった。山梨県に比べて本県は規制が緩く、関係者の間ではオーバーツーリズムへの懸念が広がる。登山者にとって分かりにくい状況を解消するためにも、「統一ルール」の早期実現が望まれる。 山梨県が新たに1日最大4千人の登山人数制限を設け、通行料2千円を徴収するのに対し、本県は人数制限や通行料を設定しない。山小屋の宿泊予約がない場合、山梨県は「午後4時から午前3時まで通行を禁止する」が、本県は「午後4時以降、登山自粛を要請する
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記者コラム「清流」 「日はまた昇る」
パリ五輪開催へ40日を切った。静岡県関連選手の出場も日に日に決まる中、現地からも開幕に向けたニュースが増えてきた。同時に思い起こされるのはここ数カ月間に、あと一歩でパリ切符を逃してきた選手たちの姿だ。 決勝のレースでの敗退、団体種目で五輪出場に貢献したものの自身は選外-。メンバー入りを逃したある選手は「怒りがこみ上げた」と取材へ正直に吐露した。スポーツに敗者はつきものだが、試合に勝って選考に“負ける”事態に直面すると、心中察するにあまりある。 パリの地で多くの県勢の取材機会に恵まれたとしても、出場権を得られなかった選手たちの無念の表情を忘れることはできないだろう。
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【時評】リニア、富士山巡る静岡県課題 地域住民の生活こそ第一(楊海英/静岡大教授)
静岡県知事選が終わったので、前知事の県政運営を巡る日本国内の世論の変遷を回顧し、今後の課題について考えてみたい。 まず、リニア中央新幹線。JR東海と国が一体となって推進する「国家プロジェクト」を前知事は「個人の意志で阻止」したのであろうか。仕事柄、県外出張も多い筆者は何度も批判の声を聞かされた。いわく、「日本の大事業をあの左翼知事が止めているのに、静岡県民の見識も問われている」という。国家や中央政府を善とし、地方の代表や地域の声を抑圧する前近代的な批判である。そのような事実誤認に基づく自説を展開する人々はおおよそ大井川流域の何十万人もの住民の生活、それも良質な地下伏流水に頼って営んでいる暮
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社説(6月19日)空き家過去最多 活用して地域に寄与を
5年ごとに行われる総務省の住宅・土地統計調査(速報値)によると、2023年10月1日時点で全国の空き家数は900万戸に達した。前回(18年調査)に比べて51万戸増え、過去最多を更新した。 住宅総数に占める空き家の割合(空き家率)も0・2ポイント上昇して過去最高の13・8%となり、約7戸に1戸が空き家ということになる。静岡県の空き家率は0・2ポイントの上昇で16・6%と全国より高い。 管理が行き届かない空き家が増えると、犯罪の温床になる恐れがあるほか、地震や風水害で倒壊すれば隣家に迷惑をかけることになる。荒れ果てれば景観上も問題だ。半面で未利用の不動産が増えることは市場を停滞させ、地域経済
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コラム窓辺 成長し続ける人でありたい(曽根原容子/Woman’sサポート理事長)
私は沼津北ロータリークラブ(RC)という団体に所属しています。この7月1日から幹事というお役をさせていただきますが、良い意味での緊張感と不安が入り交じっています。理由は、沼津北RCとしては初の女性の幹事だからなのです。 11年前に「沼津商工会議所青年部」の会長を拝命した時も、初の女性会長でしたが、その時と同じような気持ちです。このような気持ちになる理由は二つあります。一つは「初」の女性というと、私がそれなりにできなければ「女性だから仕方ない」とか「だから女性ではダメなんだよ」などと思われて、次の世代へつなげることができなくなります。 もう一つの理由は、代々伝わってきた男性目線の運営の仕方
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大自在(6月18日)チョコレート
甘味は控えるようにしているので、コンビニやスーパーのチョコレートの棚は目をそらして通り過ぎている。久々に足を止めて値に驚いた。 何もかも値上がりの中、チョコレートは事情が加わるらしい。原料になるカカオ豆の産地西アフリカで収穫が激減。世界規模の争奪戦になり、取引価格が急騰したという。 チョコレートと言えば、林家木久扇さんが師匠林家彦六(1895~1982年)の数々の逸話を物まねを交え語る「彦六伝」がおかしい。70年代のことであろう、誕生日祝いのアーモンドチョコを口の中で溶かしていて「やい、このチョコレートには種がある!」。 中南米もカカオ豆の産地である。メキシコ中央部にかつて栄えたアステ
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記者コラム「清流」 「受援力」を高めるには
地域の絆が強いほど、外部の人を頼りにせず、結果的に「受援力」が弱くなる-。能登半島地震の被災地支援に関わるNPO職員からそんな話を聞いた。 受援力とは助けを求めたり支援を受けたりする力のこと。災害時においては、被災地側がボランティアなど外部からの支援を円滑に受け入れる環境整備を指す。 災害は全国どこでも起きる可能性がある。他人に迷惑をかけないことが美徳と思う人もいるかもしれないが、誰もが助けられる立場になりうる。 「困ったときはお互いさま」。時には、個人や一つの地域ではどうにもならないことを他者に頼るという選択が必要だ。有事に受援力を発揮できるよう、平時からの地元の体制整備や外部組織と
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記者コラム「清流」 思い出を刻む時計
左腕が軽くなって久しい―。スマートフォンで時間を確認するのが当たり前になってしまった。社会人になって少し背伸びして購入した腕時計は今、自宅の棚にしまってある。 浜松市浜名区のかみや時計店で、昭和のおもしろ時計を地元の子どもたちに紹介する見学会が40年以上も続いている。時計の魅力を伝えたいと店主の神谷政晴さん(78)が始めた。アラームと同時にキャラクターが飛び出したり、たたくと音声で時刻を知らせてくれたりとユニークな仕掛けに子どもたちは大はしゃぎ。キラキラと輝く腕時計の棚にも興味津々だった。 幼少期、父が身につける腕時計が憧れだった。時計に興味を持つ入り口だったと思う。神谷さんが作り出す楽
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記者コラム「清流」 映画で発信 地域の魅力
西伊豆町や観光協会、商工会などでつくる「ロケさぽ西伊豆」が吉本興業と共同製作した映画「お屋敷の神さま」の上映会が6月上旬にあった。西伊豆の夕日や海などの美しい風景が映し出され、住民は見慣れた景色を誇らしいと再認識したのではないか。 ロケさぽ西伊豆は映画などのロケを誘致し、ロケ地を観光に活用している。今回は製作者側に回り、児童の意見を脚本に反映させたり、住民が出演者らに料理を振る舞ったりして地域ぐるみで撮影に携わった。ロケ誘致への地域の理解が深まったように感じる。 進学や就職を機に、西伊豆を離れる人が多いと聞いた。映画やドラマで目にした故郷の風景が、Uターンの決め手になるかもしれない。ロケ
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【時評】改正産業競争力強化法 可決 強い中堅企業の設計図(磯辺剛彦/企業経営研究所理事長)
5月31日、従業員2000人以下の企業を「中堅企業」と新たに区分して重点支援するための改正産業競争力強化法が参院本会議で可決、成立しました。賃上げや国内での設備投資に積極的な企業を「特定中堅企業」と位置づけ、法人税などを優遇することを目的とした法案です。10年前にタニタ社長の谷田千里氏などと「日本の産業力の復興の主役は中堅企業にある」と声を上げ、「中堅企業研究会」を立ち上げた私としては、もっと早く取り組むべきだったと思います。 産業構造に中堅企業を加える理由は、大・中堅・中小企業ではそれぞれの経営課題が異なるからです。中小企業の一番の課題は人材や資金といった経営資源の不足ですが、これが中
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社説(6月18日)再審法と議連 好機逃さず改正実現を
長年、不備が指摘されてきた刑事事件のやり直し裁判(再審)に関する刑事訴訟法の規定(再審法)の改正に向けた機運が過去になく高まっている。再審法改正の早期実現を目指す超党派の国会議員連盟(議連)が発足し、地方議会が国に法改正を求める動きも広がっている。 現在の静岡市清水区で1966年にみそ製造会社専務一家4人が殺害された事件で死刑判決が確定した袴田巌さん(88)の再審は5月に静岡地裁で結審し、9月26日に判決が言い渡される。死刑確定後40年以上も無実を訴えてきた袴田さんや姉のひで子さんの姿を通じて、冤罪[えんざい]被害者の救済につながりにくい現行法の不備が広く認識されるようになり、法改正の鍵を
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核心核論(6月18日)男女格差118位 平等へ不断の努力必要
世界経済フォーラムの2024年版「男女格差(ジェンダー・ギャップ)報告」で、日本は今年も浮上できず、146カ国中118位に沈んだ。社会に深く根を張る差別をなくすのはたやすいことではない。平等の達成には不断の努力が必要だ。 24年版の報告によれば、日本は過去最低の125位だった23年版よりわずかに順位を上げたが、先進7カ国(G7)で最下位。同じアジアの韓国(94位)や中国(106位)にも劣る。 報告は経済、教育、健康、政治の4分野で男女平等の達成度を分析して指数を算出、順位付けする。指数は1に近いほど男女平等に近い。日本は0・663。分野別に見るとどうか。日本は教育と健康は0・9を超えて平
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大自在(6月17日)金メダルの値段
シンガポール初の五輪金メダリストとなった競泳男子のジョセフ・スクーリングさんが4月、自身のSNSで現役引退を表明した。21歳だった2016年、リオデジャネイロ五輪の100メートルバタフライを制した。 「水の怪物」と呼ばれたマイケル・フェルプスさん(米国)の4連覇を阻んだことより話題になったのが、同国五輪評議会などが贈った桁外れの報奨金。米経済誌によれば、73万ドル(当時のレートで約7500万円)だったとされる。 メダルの報奨金は各国・地域の五輪委員会や競技団体などから贈られる。国や競技で金額は違うが、日本オリンピック委員会(JOC)は金500万円、銀200万円、銅100万円という。 国
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コラム窓辺 静大衛星STARS-X(能見公博/静岡大工学部教授=宇宙工学)
静岡大学が開発した超小型衛星STARS―Xは、打ち上げを待っている。これまで重さ1~3キロの衛星を開発してきているが、STARS―Xは約60キロ、一辺の長さ約50センチ、われわれにとっては経験ない大きさだ。テザーと呼ばれるロープを1キロ伸展、そのロープ上を動くロボットの実験、そして自ら放出したデブリ(ごみ)をネットで捕まえるデモを行う。 1キロと言えば高速道路で出口までの距離表示がある、が、まだ出口はよく見えない。そんな距離を、50センチ程度の大きさの衛星でうまく伸ばせるのか?両端が固定されていないロープ、宇宙に浮いた状態でロボットは渡っていけるのか? 浮いた状態で浮いたものをネットで捕獲
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社説(6月17日)経産省の書店PT 経営改善へ具体策示せ
苦境が続く全国の書店の振興を目指す経済産業省の大臣直属プロジェクトチーム(PT)が始動した。書店の危機を国の問題として捉える機運が高まってきた。12日に斎藤健経産相が都内の大手取次会社を訪れ、関係者にヒアリングを行った。4月には書店も視察している。 斎藤経産相はPT設置に当たり、書店を「創造性が育まれる文化創造基盤」と位置付けた。各書店の工夫をまとめて事例共有するとしている。 PTは、書店の経営支援や事業承継に対応する具体的な取り組みを示すべきだ。古い業界慣習や制度の改革に踏み込んだ議論を期待したい。本県を含む地方の書店の経営状況改善は急務だ。 書店は、個人の読書傾向を基に「お薦め」がな
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大自在(6月16日)ジェンダー・ギャップ
パリ五輪に出場するサッカー女子日本代表「なでしこジャパン」の18選手が決まった。東京五輪後に就任した池田太監督は、2021年11月のアイスランドとの親善試合が初陣だった。その試合の日本代表23人からは10人がパリのメンバーに選出された。公式記録を見て驚いたのは、アイスランド代表の名前。23人中22人の末尾が「ドッティル」。 アイスランドでは、名字とされる部分に父称(父の名前)を用いるのが一般的という。女性は父の名前の後に娘を表す「ドッティル」を付ける。男性は「ソン」。息子の意味だ。 男女平等の先進国として知られるアイスランド。世界経済フォーラムが発表する「ジェンダー・ギャップ(男女格差)
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社説(6月16日)富士登山規制強化 検証と分析が欠かせぬ
富士登山が今シーズンから山梨県側で大きく変わり、入山規制が強化される。山梨側の登山道「吉田ルート」には通行予約システムを導入して1日当たり登山者の上限を4千人とする。また、登山者には通行料として1人2千円の支払いを義務付ける。 入山規制強化の目的は、山小屋で休息をせず夜通しで山頂を目指す「弾丸登山」の防止と混雑対策。世界文化遺産としての富士山の環境保全を図るため、ルールやマナーの順守を心がけたい。同時に誰もが安全で快適な登山が楽しめるようにしたい。 山梨県が上限枠や通行料を決めたことは評価したい。上限枠を含めた登山者管理計画は世界遺産の登録当時からの宿題だった。しかし、吉田ルートで4千人
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時論(6月16日)民権運動で切望した国会、今は
「板垣死すとも自由は死せず」で知られる板垣退助(1837~1919年)らが、国会開設を求める民撰[みんせん]議院設立建白書を立法府であった左院に提出し、日本で最初の民主主義運動となった「自由民権運動」が始まったのは1874年。ことし150年の節目を迎えた。先日、板垣の出身地高知市にある自由民権記念館を訪れる機会に恵まれた。民権運動を中心にした土佐の近代史に関する幅広い資料が展示されている。 民権運動は当初、明治政府に不満を持つ士族が主体になったが、次第に農村などにも浸透して全国に広がった。明治政府は厳しく言論弾圧をして押さえ込んだため、抵抗する急進派によるテロや蜂起とその摘発などの激化事件
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大自在(6月15日)G7サミット
イタリアでの先進7カ国首脳会議(G7サミット)は、ロシアの侵攻を受けるウクライナへの新たな支援の枠組み創設で大筋合意した。経済制裁で凍結したロシア資産を活用し、7兆円を超える支援金を譲渡するという。 活用するのは凍結資産の運用益。米国は資産自体の没収を提案したが、日本やEUが国際法違反の懸念があるといさめた。資産没収となれば、核兵器使用などロシアの暴走につながりかねないとの危惧もあるのだろう。G7が足並みをそろえるにはこの辺りが限界のようだ。 侵攻長期化でウクライナの劣勢が伝えられている。国民の支援疲れが顕在化する国も多い中、民主主義諸国が何としても結束を保ち、ウクライナを支え続けること
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記者コラム「清流」 知る「入り口」づくり
静岡市葵区の住宅地にひっそり立つ建穂寺観音堂。入り口には建穂自治会員の携帯番号が書いてある。電話をかけるとすぐに駆けつけて鍵を開け、約60体の仏像を拝観させてもらえる。 こうした取り組みを続けるのは、先祖から連綿と守り継がれた仏像、ひいてはその歴史を気軽に知ってほしいから。自治会員の中山順二さんがそう話す姿に、建穂寺観音堂への愛着や誇りを感じて心を打たれた。 記者になって約2カ月。記事の執筆や時折いただく反響を通して、読者が情報を知る「入り口」をつくっていると度々実感する。住民の郷土への誇りや愛情、そして自分が覚えた感動。余すことなく記事に詰め、読者にとって魅力ある「入り口」をどんどん届
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記者コラム「清流」 うまい話なんてない
普段使っている化粧品が定価の半額以下で販売されているのを大手通販サイトで見つけた。包装デザインが変わるから在庫処理で安いのかもと思い、不安を抱きつつも注文した。 1週間後、公式店舗の購入品と同じ外装の商品が届いた。ところが開封すると容器のふたが閉まらず、プッシュ部分がぽろっと落ちた。しまった、偽造品をつかまされた。返金を求めたが、「当店の商品は正規輸入品」の一点張り。悔しいが、どうしようもない。 SNSの普及とともに増え続ける詐欺事件。ニュースで報じられるたびになぜだまされるのか不思議に思っていたが、欲望につけ込むのが詐欺の手口なのだろう。「うまい話なんてない」と心に刻むしかない。欲に負
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記者コラム「清流」 外国人材、働きやすく
日本企業で海外高度人材の引き合いが強まっている。浜松市内でも6月、県内大学で学ぶ留学生と市内に拠点を置く企業の交流会が開かれた。採用担当者、学生とも真剣な表情で向き合う姿が印象的だった。 企業からは新規事業開発や海外市場の販路開拓などで、外国人材に活躍してほしいとのニーズを聞いた。一方で留学生側はどうか。企業の知名度で選択する割合は高くないと感じるが、自身の能力を生かせる具体的な場面や、既に海外出身の“先輩”社員がいる企業に関心を寄せていた。 円安が進む昨今、日本で働くより、母国や他国に働き先を求める留学生もいると聞く。学びの場として選んだ本県にとどまってもらうた
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社説(6月15日)介護保険料上昇 給付と負担 改革不断に
65歳以上の高齢者が2024~26年度に支払う介護保険料は全国平均で月額6225円になった。静岡県の平均は5810円で、00年度の制度開始当初の2倍を超えた。介護職員の賃上げのためサービスの公定価格「介護報酬」を24年度に増額改定したことも保険料アップに影響した。 25年に団塊の世代が全員75歳以上となり、40年度には高齢者人口がほぼピークに達する。今後も介護需要は増える。何もしないで見過ごしていれば、介護給付費が急増し、保険料はうなぎ上りだろう。上昇を抑制するには「給付と負担」両面の改革を不断に続ける必要がある。 介護保険は市区町村や広域連合が運営する。財源は三つ。①介護サービス費用の
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核心核論(6月15日)国債買い入れ減額 正常化へ整然と進めよ
異次元緩和は役割を終えたと判断したのだから、金融政策の正常化を遅滞なく整然と進めねばならない。日銀が、長期金利抑制のため実施してきた国債買い入れの減額方針を決めたのは当然だ。一方で、大規模金融緩和の終結後も政策金利は極めて低く、円安と物価高の再燃を招いている。悪影響を抑えるため適切に見直すべきだろう。 日銀は3月、「賃金と物価の好循環」で2%物価目標の実現が見通せる状況になったとして、長年続けた大規模緩和を終了。短期金利をマイナス、長期金利は0%程度に低く抑える「長短金利操作」を撤廃した。 その際、急激な金利の変動を避けるため、長期国債の購入をそれまでと同じく「月6兆円程度」で続けると表
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【現論】教育改革 待ったなし 「批判的思考」日本は後れ(中満泉/国連事務次長)
先日国連インターナショナル・スクールの卒業式が国連総会議場で行われ、約130人の卒業生一人一人に卒業証書を手渡した。この学校の理事長は国連事務次長の一人が兼務することになっており、2年前から私が務めている。国際的な教育プログラム「国際バカロレア(IB)」を採用しており、世界共通の卒業試験に合格すれば100カ国以上で大学入学資格を得ることができる。 IBカリキュラムの特徴は、初等教育での基礎的学力習得後には徹底的に思索型・探究型のクリティカル・シンキング(批判的思考)を養うのを目的としていることだ。高校での必修科目には「知識の理論」という知識の本質を考える哲学的な科目が入っている。 また、
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コラム窓辺 悩みの尽きない子育て時代(久保田香里/静岡理工科大法人本部広報部長)
男女雇用機会均等法施行年の初代大卒女子、この肩書と後進への責任を背負って走り始めた20代当時は、こんなに長く働く今の私を想像できませんでした。結婚や出産などで仕事を継続できるかの分かれ道が女性は男性より多いと予想していたからです。 いつまで働くか分からないけれど今、自分のできる最大限でと、まるで短距離選手のように常にダッシュで、しかも“女性はいつもマイナススタート”と感じる時代の中、根気よく長距離を走ってきました。今のように晩産化が進んでいなかった頃、35歳で出産し、43歳から校長職に就き17年務めました。 子育て時代は、娘と一緒に居られる時間が少ないことへの後ろ
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大自在(6月14日)青野照市さん
将棋の現役最年長棋士で焼津市出身の青野照市九段が引退した。1月の敗局で、対局が組まれている残りの棋戦で敗退した時点での引退が決まり、昨夜、その時を迎えた。71歳、プロ棋士人生50年の節目だった。 青野さんは2月には史上最年長で公式戦通算800勝を達成。通算勝率が5割以下では初めてで、現役への強いこだわりを物語る。青野さんは47歳で名人戦順位戦最上位のA級に復帰した際、「中年の星」と話題になったが、800勝の快挙はまさに輝ける「シニアの星」だ。 研究熱心で知られる青野さんは創案した戦法「鷺宮定跡」と「横歩取り青野流」で升田幸三賞を2回受けている。青野さんの戦法はプロ棋士の間でも流行し、藤井
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【時評】離婚後の「共同親権」導入 虐待防止へ体制強化を(笹原恵/静岡大情報学部教授)
5月17日に改正民法が成立し、日本において離婚後の「共同親権」が導入されることになった。1947年に定められた民法では離婚後、未成年の子どもの親権は父母のどちらか一方しかもつことができなかったが(「単独親権」)、今回の改正で離婚後の父母ともに親権をもつことができるようになったのである。 離婚後の共同親権が認められたことに対しては、評価が分かれている。一方では、離婚しても子どもにとって親であることに変わりはないことから、共同親権を認めることは当然という考え方がある。これにより、これまでは親権をもつ同居親の判断で子どもに会うことができなかった他方の親が自分の子どもとの面会交流を実現できることを
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社説(6月14日)「中堅企業」新設 地域経済底上げの柱に
中小企業と大企業の間にある従業員規模が2千人以下の企業を「中堅企業」と位置づけ、重点支援する改正産業競争力強化法が、今国会で成立した。賃上げや国内投資に積極的な企業を「特定中堅企業」と位置づけ、法人税などを優遇する。 中堅企業が全国の各地域で経済の中核としての役割を担っていると捉えた。これまで大企業と同等に扱われ、中小企業向け支援の枠外に置かれていた規模の企業を、切り出して支援する狙い。中堅企業が多く立地する地方都市などで、より持続的な賃上げや投資を促す効果を期待したい。 具体的な区分としては、大企業は従業員2千人超とし、中堅企業については2千人以下の企業の中で、中小企業(従業員が製造業
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記者コラム「清流」 台風被害、復旧進まず
一昨年の台風15号で被災した川根本町文沢地区の避難要請が解除され、住民が約1年半ぶりに帰宅した。 最寄りの飲食店まで車で約30分。生活の便利さだけで見れば、避難先だった町営住宅の方が恵まれていたのかもしれない。周辺の林道は依然崩れたままで、林業にも影響が出ている。それでも、大半の住民は自宅に戻ることを決めた。 「子どものころからずっといた場所。川の音を聞くと、ほっとする」と住民の一人。顔を上げると、日本の原風景とも言えるような山あいと古民家の光景が広がり、初めて訪れた自分にもどこか懐かしく、落ち着ける空気を感じられた。 町内には復旧が進まない林道が11カ所残り、住民は本来の生活環境に戻
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記者コラム「清流」 林業活性へ知恵絞って
若者や家族連れに向けたにぎわいイベントを主催する知人の本業は林業。平日朝にメッセージを送ると、返信は夕方以降。スマートフォンの電波がつながらない地域で作業しているからだ。浜松市林業振興課の担当者は「命に関わる連絡も考えれば、そうした状況は改善されるべきだ」と表情を引き締める。 スマホの電波の問題以外にも、急峻(きゅうしゅん)な地形での作業を強いられて危険で生産性が低いことなど林業を取り巻く環境は課題が山積する。そこで市は、木材生産や加工の現場にコンサルタントを派遣し、課題を抽出、若手林業関係者に解決手法を学んでもらうといった事業を本年度中に始めるという。 知人のイベントはいつも盛況だ。本
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記者コラム「清流」 美辞麗句はいらない
鈴木康友知事が就任早々、選挙期間中に訴えた静岡県東部への医大誘致の構想を軌道修正した。「ばかにしている」。有権者から怒りの声を聞いた。 準備期間は短かったとはいえ、選挙中の訴えがこうも簡単に覆るのは解せない。当選するためだけの美辞麗句だと思われても仕方ないだろう。 知事選の出口調査で、自民党支持者が裏金事件への怒りから「今回は懲らしめたい」と同党の推薦候補でなく、鈴木氏に投票した理由を明かしてくれた。あの1票は政治の信頼回復に期待して投じられたはずだ。 新知事は三島駅の南北自由通路についても「実現したい」と訴えた。長年検討されてきたが、構造上の問題で困難とされている。「やっぱり無理だっ
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大自在(6月13日)北斎と富山 名前の変転
20年ぶりの新紙幣発行が20日後に迫った。新千円札にすり込まれる「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏[かながわおきなみうら]」は、言わずと知れた浮世絵師葛飾北斎の代表作。一説に名を30回改めたという彼が「北斎」だったのは、90年近い生涯の10年ほどに過ぎない。「富嶽-」制作時は「為一[いいつ]」を名乗っていた。 三十六景の一角をなす「駿州江尻」、現在の静岡市清水区で産声を上げたのが彫刻家平野富山[ふざん](1911~89年)だ。精緻を極めた彩色木彫、均整の美を追求した人体彫刻で知られる。回顧展が先週、市美術館(葵区)で始まった。 北斎と同じように、世間で認知される名を使った時間は限られる。本名冨
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社説(6月13日)那須雪崩実刑判決 安全管理の徹底を図れ
栃木県那須町の茶臼岳中腹で2017年3月、登山講習中の高校生ら8人が死亡した雪崩事故で、宇都宮地裁は業務上過失致死傷罪に問われた教諭ら3人に禁錮2年の判決を言い渡した。3人は判決を不服として控訴したため、改めて東京高裁で審理される。 争点となったのは雪崩発生の予見と危険回避の可能性だった。判決は、新雪が少なくとも30センチあったことで「危険性を予見することが十分可能だった」と過失を認定した。さらに危険回避措置も欠いたとして「相当に重い不注意による人災」と指摘した。 部活動中の事故で引率教諭らが実刑判決を受けるのは異例という。しかし、未来ある高校生7人と若い引率教諭1人の命が失われた被害の
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コラム窓辺 少年鑑別所の地域援助(個人の相談編)(中田健児/静岡少年鑑別所・法務少年支援センター静岡所長)
まだまだマイナーかもしれませんが、少年鑑別所は、職員が身に付けた健全育成や非行防止のノウハウを、地域の保護者からの子育て相談や学校での法教育などに活用してもらう「地域援助」を展開しています。予約が必要ですが、無料です。私の肩書にある「法務少年支援センター」は地域援助の際に使う別称です。当初、別称が必要か? という議論もありましたが、「鑑別」ではなく「支援」する仕事であることを忘れぬよう、全国でこの別称が使われています。 地域援助の典型は子育て相談です。金銭持ち出しや万引き、反抗、不登校など、さまざまな問題に悩む保護者が相談に来ています。クラスで問題になっている生徒の指導方法を教師から相談さ
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記者コラム「清流」 野球かサッカーか
野球とサッカー。子どもたちが憧れる国内プロスポーツの両雄だ。Jリーグ関係者は「野球より大きく載るならば何でも書いて」と強烈な対抗心を燃やす。ただ近年は双方の良い部分を取り入れて発展しようという姿勢が垣間見られる。 侍ジャパンの井端弘和監督はサッカーJ1川崎―磐田の始球式に登場。小学3年時に静岡のサッカーチームに所属したエピソードを明かし会場を盛り上げた。J2清水の乾貴士選手は阪神ファンを公言し、競技の違いを越えて選手と交流を深めているのは有名だ。 Jリーグ取材を担当する記者は圧倒的にサッカーと接する時間が長い。それだけに休日にテレビや球場で見る野球は新鮮に映る。共通して言えるのは当たり前
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記者コラム「清流」 過疎地と外国人材
浜松市内中山間地の催しを取材中、頭にスカーフをかぶり、長袖のブラウスを身にまとったインドネシア人女性たちに会った。介護施設で働いているという。 最年少の20代女性は数年前まで技能実習生として工場で働いていたが、介護の仕事に興味を持ち、実習修了後に特定技能の在留資格を取得して市内に移住した。「施設の利用者50人以上の名前を覚えるのは大変だけど、とてもやりがいを感じる」と話す。 介護をはじめとする人手不足の職種で外国人材への期待は高まっている。在留資格の新制度「育成就労」の成立が現実味を帯びる中、移民政策の是非を問う意見もある。外国人受け入れに伴う課題の本質は、不自由なく働くための環境整備や
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記者コラム「清流」 ホタルの光跡
気温が上がり雨の日が増えた5月後半、県内でもホタルが飛び始めた。各地の独特な風景を絡めた写真がSNSでも上がっている。 南伊豆町では、川から降りてきたホタルが海岸沿いを飛ぶ。全国的に見ても珍しい光景が写真愛好家を楽しませている。撮影に訪れ、「ホタルも観光資源の一つになってほしい」と光に願いを込めた。ヒメボタルと神社の厳かな雰囲気を楽しめる御殿場市の二岡神社では、関係者らがホタルの環境保全に努めている。富士宮市では富士山とのコラボが人気だ。 近頃は、環境の変化で昔は生息していたホタルがいなくなったという話も聞く。地元住民や環境を守る人らの気持ちになり、一人一人がルールやマナーを守ることが大
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コラム窓辺 伊那文化会館での取り組み(宮澤敏夫/富士山静岡交響楽団 専務理事)
地方文化の啓発に若い時から興味をもっていたので、2015年の長野県伊那文化会館(伊那市)の館長就任に抵抗はありませんでした。伊那盆地は東京都がすっぽり入るほどの面積があり、西に中央アルプス、東に南アルプスがそびえる風光明媚[めいび]なところです。 私の仕事はその地の文化の啓発と推進でした。その昔、高度成長期に建てられた文化会館は「文化の殿堂」として活躍しました。住民へのサービスとして高度な文化・芸術が開催されていました。伊那文化会館はそんなバブル期に建てられた会館でした。 最近のホールの在り方は、「文化の殿堂」から「文化の拠点」と変化しています。この違いは自治体が直接運営するのでなく、小
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大自在(6月12日)原子力のかじ取り
日本初の原子力船「むつ」から撤去した原子炉が青森県むつ市の科学技術館に展示されている。10年ほど前に訪れ、分厚いコンクリートと鉛ガラス越しに見学した。展示といえば聞こえはいいが、原子炉の捨て場がない故の苦肉の策と聞き、放射性廃棄物の処分問題の難しさを改めて実感したことを覚えている。 「むつ」が進水したのは1969年のきょう。造船大国の誇りと原子力の平和利用という期待を一身に背負っての船出だった。ところが74年、航海中に放射線漏れ事故を起こす。 母港だったむつ市の大湊港への寄港に住民が反発し、洋上で50日間も漂流する憂き目をみた。中部電力浜岡原発をはじめ国内各地で原発の建設ラッシュが始まっ
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熱狂感増すベルテックス静岡 地域活性へ次の一手を【記者コラム 黒潮】
バスケットボールBリーグ2部(B2)のベルテックス静岡が今季、B1ライセンスの申請を見送った。施設基準の「5千人規模のアリーナ」をホームタウン(静岡市)で確保できなかったためだ。ただ、クラブはB2昇格1年目でプレーオフに進むなど着実に前進し、Bリーグ自体も空前の盛り上がりを見せる。この流れを地域活性化へつなげるためにも、「新アリーナ」という“大きな一手”が必要な時期にきたと言える。 今季、B1、2の総入場者数は429万人。昨季から124万人も増えた。静岡もホーム戦の平均観客数が昨季から800人増え2千人を突破。売上高も前年度比1・5倍の8億円を超えた。一方、本拠地の
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記者コラム「清流」 模型の裾野拡大
「模型を今まで作った経験はありますか」。静岡県内の小中高生が地場産業の魅力に触れる静岡ホビーショー(静岡模型教材協同組合主催)の招待日。毎回必ず、複数人に尋ねている。 今年は「経験がある」と答えた参加者が多いように感じた。なかでも、自宅で作る年上のきょうだいの存在を契機として挙げる声が目立っていた。 体験型コーナーを新設する企業も増え、組合担当者は「各社とも気合が入っている」と評していた。招待日を初めて設けた2019年以来、コロナ下の開催中止を挟みながらも、裾野は徐々に拡大している。 近年は初心者向けの品も充実する。教育現場で活用したり、観光客の目に留まりやすい土産物店など専門店以外で
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記者コラム「清流」 果樹園にスマート農業
浜松市浜名区三ケ日町のミカン園で、ドローンを活用した農薬の空中散布の実証実験が行われた。使用できる農薬が限定されていることや、機器の導入、運用に伴う費用などを背景に、果樹園では稲作や畑作と比べてドローンの導入が進んでいない課題がある。 同町では5月、農作業中の男性が、自ら操作していた農薬散布機にひかれて亡くなる痛ましい事故が発生した。かんきつ類などの園地は急傾斜地に立地しているケースが多い。平地での作物栽培より作業中の事故のリスクが高く、肉体的な負担も大きいとされる。 農林水産省はドローンで使用可能な農薬の適用拡大を進めている。生産者の高齢化が進む中、作業の省力化、効率化だけでなく安全面
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記者コラム「清流」 遠くから見てみる
5月下旬の週末、定期船に乗って熱海市の初島を久しぶりに訪れた。熱海港から約30分の船旅。目的は取材だったが、行楽客に紛れて潮風を浴びるひとときが気分をリフレッシュしてくれた。 船のデッキに立ち、熱海や自身が暮らす伊東、神奈川方面のそれぞれの街並みを一望した。島が近づくにつれ、出港時は巨大な塊のように見えた熱海の建物群が小さくなり、伊東に目を移せば普段とは違った距離からなじみの山々の景色が映った。 日頃は目にすることができない遠景に見とれ、伊豆半島の地形の雄大さに改めて気づかされた。生活の拠点を遠くから眺めると、新たな視点が生まれる―。あれこれと考えていると、まもなく初島に到着。下船のアナ
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社説(6月12日)エコパーク10年 持続可能な共生目指せ
静岡、山梨、長野3県にまたがる南アルプスが、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の生物圏保存地域(エコパーク)に登録されて今月で10年を迎えた。 同じユネスコが登録する世界自然遺産が手つかずの自然を守ることを原則とするのに対し、生物圏保存地域は自然と人間社会の共生を目指している。本来、英語の頭文字を取ってBRと呼ばれるそうだがなじみがないため、親しみやすいように国内ではエコパークと名付けられた。 南アルプスエコパークは1年早く世界文化遺産となった富士山とともに、世界に誇る静岡県の宝だ。リニア新幹線のトンネル工事への懸念から南アルプスが注目されるようになってはきたが、エコパークとしての県民の認
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【時評】ハンセン病患者 奪われた自由 「生涯隔離」下、絵画の力(木下直之/静岡県立美術館長)
先月、横浜市教育委員会が裁判の傍聴に職員を動員したことが発覚した。目的は傍聴席を独占し、一般の傍聴を妨害するためだった。 少なくとも5年前から続いていた。いずれも被告は性犯罪に問われた教員。動員は文書により、裁判所前では待ち合わせず、お互いに知らないふりをせよ、「挨拶[あいさつ](会釈を含む)」(同文書)もいけない、などと指示が細かい。それは公務で、旅費まで支給されたこともあったというから、あきれ果てた。 横浜市は職員採用試験に憲法を問わないのだろうか。第37条は「公開裁判」をうたう。もちろん、他人のふりをしようが、挨拶をしようが、職員も国民だから憲法に抵触はしない。しかし、その行為が
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コラム窓辺 弾丸神社巡り(曽根原容子/Woman’sサポート理事長)
神社巡りが大好きな私は先日、女4人で奈良の山中にある「天河神社」と「玉置神社」に日帰りで行ってきました。朝4時に家を出て、車を走らせ珍道中のなか、やっとの思いで家に着いたのが夜中の1時過ぎでした。その間、食事らしい食事は朝の8時ごろにサービスエリアでうどんを食べたくらいで、それ以外の時間は参拝とドライブです。 私は高速道路の運転ができないので乗っているだけで、友人の一人がほぼ運転しました。年も私と同じくらいでとても大変だったと思うと同時に、そもそも彼女がいなかったら二つの神社にはたどり着けなかったと思い、感謝してもしきれません。 さてこの二つの神社、とても神秘的で鳥居をくぐった瞬間から、
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大自在(6月11日)メジャー制覇と「平常心」
先日、あるゴルフコンペに参加した。同じ組のどなたとも一緒にラウンドするのは初めて。遊びとはいえ仕事絡みゆえに、失礼があってはいけない。プレーで迷惑をかけてもいけない-。そんな緊張感が影響したのか特に前半のスコアはいただけなかった。平常心でなかなかプレーできないもどかしさを感じた。 この選手のメンタルはどうだったのだろうか。女子ゴルフの全米女子オープン(OP)選手権で、笹生優花選手(22)が2021年大会以来3年ぶり、2度目の優勝を果たした。2度のメジャー制覇は日本勢としては男女を通じて初の快挙だ。 それでも、21年大会以来、ツアー優勝からも遠ざかっていた。父正和さん(66)からは「平常心
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記者コラム「清流」 見通せない復旧
一昨年秋の台風15号で被災した大井川鉄道の運休区間を歩いて見学するツアーに同行取材した。至る所でレールや枕木に土砂が覆いかぶさり、倒木や線路を支える土台がえぐられた箇所もあった。復旧までの道のりの厳しさは間近で見なければ分からない。そう強く感じただけに、地元住民の参加がほとんどなかったことは残念だ。 沿線の川根本町は6月、復旧までの地域のにぎわいづくりを目的に、関係者の意見交換会を初開催した。被災から2年近くが経過した。町は今まで、何をしてきたのか。そもそも復旧にどれだけの時間を要するかが見通せていない。会合自体、「発言しにくくなる」との理由で傍聴を認めなかった点もふに落ちない。広く議論を
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記者コラム「清流」 期待できる県政運営を
JR沼津駅周辺の鉄道高架化は構想から30年以上が経過した。5月の知事選に関連した取材中、中心街のある店主が「お年寄りが『生きているうちは完成しないよ』と諦めたように鼻で笑っていた」とつぶやいた言葉が忘れられない。 昨年の新貨物ターミナルの本体工事開始や駅周辺の再開発には多くの市民が期待を寄せる。一方で「時間がかかりすぎ」「もう期待はしない」など行政への厳しい声も少なくなかった。 近年、沼津市では民間のアイデアでまちづくりが進んでいる。事業について、鈴木康友新知事は「官民連携で市街地整備を進める」としている。言葉の通り、市民の声を聞いて協力して事業を前進させてほしい。期待したくてもできなか
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記者コラム「清流」 本物さながら模擬選挙
磐田市内の小学校で、給食の食べ残しを減らす“政策”を公約にした3人の候補者から「給食大臣」を選ぶ模擬選挙があった。児童が選挙の仕組みを学ぶ授業だったが、本物さながらに“選挙戦”は白熱した。 「みんなが好きな献立を出す」「もったいない精神を広げる」-。静岡産大生が務める大臣候補が立会演説会で主張を繰り広げた。身近な課題ということもあり、児童は真剣に耳を傾けた。合間には「やっぱりこっちの人がいいかも」とのつぶやきも。支持する候補の応援演説も体験した。3候補がわずかな得票差で競る接戦になった。 模擬選挙は知事選の投開票日直前だった。超短期決戦にな
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社説(6月11日)鈴木知事とリニア 信頼築き課題解決図れ
鈴木康友知事が、リニア中央新幹線の建設促進期成同盟会の総会に初めて参加した。終了後には沿線他県の知事たちと共に、岸田文雄首相と面会した。この数日前には斉藤鉄夫国土交通相、JR東海の丹羽俊介社長とも相次いで個別に会い、事業に関して意見を交わした。就任早々の積極的な動きは評価できる。 鈴木知事は岸田首相らに対し、事業の推進と大井川の水資源確保、南アルプスの自然環境保全の両立を目指す方針をはっきり伝えた。実現に向けては事業主体のJR、認可者の国との連携が鍵を握る。互いに信頼を築いた上で、沿線他都府県も巻き込んで課題解決を図らねばならない。 川勝平太前知事は「命の水を守る」と宣言し、リニア問題と
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【D自在】時の記念日と時間、時計
元禄2(1689)年3月27日に「奥の細道」の旅にたった松尾芭蕉は6月3~9日、出羽三山(山形県)を巡礼した。随行した門人の河合曾良(そら)の旅日記に、翌10日、鶴が岡の宿泊先に着いたのは「申(さる)の刻」(午後4時ごろ)とある。 江戸時代の旅の携行品に紙捻(こより)を立てて使う紙の日時計があった。しかし、曾良の日記は雨の日にも時刻を記しているので、芭蕉は日時計ではなく寺の鐘で時を知ったようだ(角山榮「時計の社会史」)。 藤枝市岡部町の国登録有形文化財「大旅籠柏屋(おおはたごかしばや)」の常設展示にも小さな日時計がある。毎年この時期には、天智天皇が671年6月10日(太陽暦)に日本で最初
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社説(6月9日)少子化対策法成立 政策効果 絶えず検証を
岸田文雄首相が掲げる「異次元の少子化対策」の関連法が成立した。危機的な状況にある少子化傾向に歯止めをかけるべく、2028年度までの「加速化プラン」が実行に移る。 だが、長期的な少子高齢化・人口減少を反転させるのは容易ではない。23年の出生数は過去最少の約72万人で、合計特殊出生率も過去最低の1・20まで落ち込んだ。政府は若年人口が急減する30年代に入る前が分岐点とするが、少子化に特効薬はない。息の長い取り組みが求められる。今回成立した法の内容で十分なのか、絶えず効果や課題を検証する必要がある。 少子化対策法は、子育て支援強化として、児童手当の支給対象を高校生年代まで拡大。支給要件の所得制
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時論(6月9日)長い追加時間とVARの功罪
20チームで争うサッカーのイングランド・プレミアリーグは今季、全体で1246得点。現行体制での最多記録を更新した。1試合平均のアディショナルタイム(前後半の追加時間)が、昨季より約3分伸びて10分を超えたことが得点増に影響したとされる。 かつては和製英語のロスタイムと呼ばれたアディショナルタイム。日本サッカー協会の審判部が2011年に表記をアディショナルタイムに統一するよう通達したが、本紙が使用する新聞用字用語集では今もロスタイム。片仮名を嫌って終了間際という言葉を使うことも。だが、10分超ともなれば、それもそぐわない気がする。 それでも、最終盤の攻防が長くなれば、劇的なゴールが生まれる
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コラム窓辺 自動化技術(能見公博/静岡大工学部教授=宇宙工学)
近年、自動運転技術の取り組みが活発で、素晴らしい技術になってきている。すでに実装されている機能もあり、体感できる。安全機能も素晴らしく、ハンドルから手を離すと、握るようにと注意される。が、手放しでも十分走れそうな気がする。 一方で、自動化が進むことによる事故もある気がする。アクセルとブレーキの踏み間違えなどは、マニュアル車で発生する可能性は極めて低いと言える。やはり、技術は人が使いこなしていくことが重要と思う。 今年、年明けに日本は月着陸に成功した。完全な自動運転であった。エンジンは壊れた。目標は100メートル以内のピンポイント着陸、エンジン破損前は数メートルの誤差で、目標をはるかにしの
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大自在(6月9日)日印平和条約
第2次世界大戦後、日本とインドが平和条約に調印したのは1952年6月9日。51年9月に日本と48カ国がサンフランシスコ平和条約に署名してから9カ月後のことだった。 インドはサンフランシスコ講和会議に招かれたが、欠席して署名を拒否。日米安保条約や米国による沖縄などの信託統治を巡り、日本の主権が制限されていることを問題視したためとされる。 「非同盟・中立」の外交方針をとった初代首相ネールには、ソ連や中国を抜きにして米英が主導した条約を受け入れ、米英側についたと見なされることを避ける狙いもあったという。一方でソ連が日本の再軍備に反対していたのに対し、インドは反対しないと表明してバランスを取った
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大自在(6月8日)柔道と療育
スポーツの集中力の高め方は、選手それぞれ違うだろう。トーナメント戦の合間に、スマホから手を離さない。次戦の分析や休養より、気になるのはSNSの投稿に「いいね」がどれだけ付いたか。2021年東京五輪の男子柔道に、こんな選手がいたそうだ。 コーチを務めた鈴木桂治さんが先日、講演で話していた。04年アテネ五輪柔道男子100キロ超級金メダリストの鈴木さんは、パリ五輪の男子日本代表監督である。 注意したい気持ちもあったが、今の時代、上意下達では伝わらないことも理解している。「自分の考えを押しつけてはいけない」。鈴木さんが掛けた言葉は、「バズってる?」。その選手は金メダルを獲得した。 鈴木さんは代
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社説(6月8日)浜名湖花博閉幕へ 地域挙げ「遺産」継承を
浜松市で今春開幕した「浜名湖花博2024」は、浜名湖ガーデンパーク会場の会期が終了し、もう一つの主会場であるはままつフラワーパークも16日に閉幕する。主催者は最後の追い込みをかけて多くの来場者を迎え入れ、今後のにぎわいづくりにつなげてもらいたい。 2004年の「しずおか国際園芸博覧会(浜名湖花博)」の20周年事業として、静岡県などでつくる実行委員会が主催した。14年の周年記念事業に続く10年ぶりの開催となった。 先に終了したガーデンパーク会場は58日間の会期中、約50万人が来場した。86日間のフラワーパーク会場は現在も順調に来場者数を伸ばし、既に両会場を合わせた来場者数は実行委が目標に掲
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記者コラム「清流」 降格規定の必要性
酒席で同僚女性の体を触るなどのセクハラをしたとして5月、県立高校の男性教頭が停職2カ月の懲戒処分を受けた。役職について、なぜ降格の処分がされないのか、疑問が残った。 県教委に確認すると、教頭は停職が明けても「元の場所に戻れない」と話したという。「そのまま教頭として学校に復帰する可能性はほぼない」と担当者は説明した。生徒や教職員に対し、今まで通り教頭としての振る舞いができるとは当然思えない。 ただ、普通であれば管理職から外す処分をすると思うが、県教委の懲戒処分には降格に関する規定がなく、全国的にも少ないという。理由は「懲戒処分の内容だけで、管理職の適格性を全て否定することは難しいため」。部
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記者コラム「清流」 陰で支える人に敬意
今年で10回の節目を迎えた御殿場市の野外フェス「アコチルキャンプ」。バスで会場に着くと、駐車場で顔見知りの姿を見つけた。地元会社役員の男性は主催者に誘われ、ほぼ毎年ボランティアとして関係車両の誘導に当たる。 華やかな会場から離れ、漏れ聞こえる音楽を聴きながら役割を果たす。ステージ前で鑑賞したい気持ちもあるが、「御殿場を代表するイベントの盛り上げに協力したい」と話す。私的な立場で運営に携わる市職員らの姿も見られた。 陰から支える人の存在はイベント運営に限らず町づくりのあらゆる場面で不可欠。その役を買って出る人たちは頼もしい。労を惜しまない対象が自分の町にあって、うらやましい。 おかげで今
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記者コラム「清流」 子どもたちから教わる
もし同じ場面に出くわしたら、この子たちのように行動できるだろうか―。道ばたで倒れて動けなくなった高齢女性を力を合わせて助けた児童4人の話を聞きながら自問自答した。 4人は浜松市の芳川北小に通う6年生。放課後、歩いていた女性が突然つまずいて頭を電柱に打ち付ける場面に遭遇した。一人が毛布を取りに自宅へ走り、救急隊の誘導も担った。4人の活躍もあり女性は大事には至らなかった。 「おばあちゃんを助けたい一心だった。助かって良かった」。少し恥ずかしそうにしながらも堂々と取材に答える姿は、とても頼もしく見えた。突然の出来事の中、即座に行動に移すのは、大人でも難しいことだと思う。自己責任の風潮が強まる中
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大自在(6月7日)無関心
無関心の恐ろしさに、ぞっとさせられた。それは今を生きる私たちの自画像であり、現代社会への強い警告と受け止めた。 公開中のホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)を題材にした映画「関心領域」を見た。描かれるのは、アウシュビッツ強制収容所の所長ルドルフ・ヘス一家の穏やかな日常だ。あまたの数の人間が殺されていく地獄と壁一つ隔てた広大な邸宅で、一家は牧歌的な生活を謳歌[おうか]している。 映画では“壁の向こう”の直接的な残虐表現は一切ない。それを伝えるのは、絶え間なく黒煙を吐き出す煙突と「音」だ。悲鳴らしき声や銃声、収容所自体がうめくような不穏な音が、低く静かに響いている。 だ
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社説(6月7日)規正法案衆院通過 抜本改革とは言えない
自民党派閥の裏金事件を受けた政治資金規正法改正案が衆院本会議で自民党、公明党、日本維新の会などの賛成多数で可決された。改正案は参院に送られ、7日に審議入りする。岸田文雄首相が目指す今国会での成立が実現しそうだ。 規正法の改正は「政治とカネ」に対する国民の不信を解消し、信頼を回復するのが目的だ。それには政治資金の流れを透明化し、抜け道をふさぐ抜本改革が欠かせない。その観点からは、自民が公明や維新の主張を取り込んでまとめた改正案の内容が十分だとはとても言えない。 改正を巡るこれまでの経緯を見る限り、自民は常に抜本改革に後ろ向きだったと言わざるを得ない。既得権を守るために改革を中途半端なものに
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コラム窓辺 就職活動の時期に思うこと(久保田香里/静岡理工科大法人本部広報部長)
大学選びの頃、祖母が倒れ半身不随になってしまい、母と妹は当時父の転勤先に居たため、跡取り長女として育った私は、地元の大学に進学することになりました。 祖父と一緒に祖母の介護が始まりましたが、反動のように、塾講師やカフェ、結婚式場のアルバイトを並行して、あえて忙しい日々にしていた気がします。一番楽しかったのは延べ3年間続いたテレビ局でのアルバイト。制作部では子ども番組内の人形劇を担当したり、社屋外での収録に同行したりしました。 そんな中、東京からいらしていた番組レギュラーのタレントさんや事務所の方々にかわいがっていただき、地方の学生の身分でアニメ業界関係者の飲み会やスタジオでの録音などに同
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記者コラム「清流」 言葉の“切り取り”
前知事の「職業差別」とされる発言に、外務大臣の「うまずして何が女性か」との発言と、静岡県内政治家の言葉が相次いで世間を騒がせた。「切り取り」との批判も起きた。 発言者のこれまでの行動、全体の文脈を踏まえると、いずれも差別的な意図は感じなかった。聞く人によっては不快に感じる言葉選びだったことは否めないが、場や相手などの背景を踏まえない報道が躍ることには違和感を覚えた。 激しく非難された前知事と、擁護の声もあった外相への反応の違いは、素直に非を認め、撤回したかの事後対応も影響しただろう。 SNS全盛の政治家は、たとえ部分的に報じられても問題のない発言が求められる。一方で、記者も発言者の真意
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記者コラム「清流」 選挙後からが取材本番
元浜松市長の鈴木康友氏が新知事に就任した。川勝平太前知事の突然の辞職に伴う知事選は、15年ぶりに新たな静岡県政のかじ取り役を決めるという意味だけでなく、国政と絡めた与野党対決、出身地による地域間対立といった側面を見せたほか、リニア中央新幹線への対応も争点の一つになり、全国から注目された。 歴史的な激戦を、候補者の擁立作業から選挙期間、新知事誕生の瞬間まで一連の取材に携わることができたことは記者冥利(みょうり)に尽きる。川勝前知事の辞職表明から約2カ月、休む間もなかったが、充実した日々だった。 といっても、これで終わりではない。むしろこれからが本番。鈴木知事が選挙で訴えた「幸福度日本一」を
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記者コラム「清流」 商店街の「奥行き」
知事選取材のさなか、数年ぶりにぎっくり腰になった。何度も患い、対処法は心得ているのだが、やはりつらい。とはいえ、全県を股にかける候補者と会える機会は貴重だ。じっと痛みをこらえて足を運んだ。 沼津仲見世商店街での街頭演説。駐車場から会場までの100メートル足らずが遠かった。腰をかばいながら歩いていると、商店街にいくつかベンチが置いてあることに気づいた。普段は何げなく通り過ぎていたが、ありがたく時々座りながら、会場にたどりついた。 近年、長居やホームレス排除のために、突起や傾斜を付けた座りにくい「排除アート」と呼ばれるベンチが増えている。仲見世商店街のベンチは、そのような物ではなかった。腰を
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コラム窓辺 国道沿いで、だいじょうぶ100回(中田健児/静岡少年鑑別所・法務少年支援センター静岡所長)
昨年6月、SNSである動画が炎上しました。とある駅、男の子がホーム下の線路に侵入し、電車を止めています。すると母親でしょうか、女性がホームから線路に飛び降り、男の子を抱き締めます。ところが男の子は見物人や非常ベルの音に興奮したのか、その場から逃げ出し、女性は足場の悪い線路上を必死に追いかけていく―。男の子には何らかの障害があったとみられます。 本稿の表題「国道沿いで、だいじょうぶ100回」は、動画が炎上した翌日ぐらいに、作家の岸田奈美さんがインターネットの投稿サイト「note」で書いたエッセーのタイトルです。内容は自身が幼い頃、じっとしていられないダウン症の弟が国道に急に飛び出し、事故寸前
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大自在(6月6日)規正法改正
1942年6月5日から7日にかけて太平洋のミッドウェー島付近で繰り広げられた海戦。旧日本軍は空母4隻や多数の航空機、3千人以上の兵士を失い、戦争の主導権を米軍に握られた。 さらに8月から半年余り続いたソロモン諸島ガダルカナル島の戦いでは、2万人超の犠牲者を出した末に撤退し、多くの軍艦や輸送船、航空機も失った。この二つの戦いが日本の敗戦に向けた転換点になった。 ガダルカナル島の戦いは、愚策とされる「戦力の逐次投入」をして敗れた典型例に挙げられる。旧日本軍が島に整備した飛行場を米軍が上陸して占拠。旧日本軍は奪還を目指したが、激しい消耗戦に陥り最後は物量に勝る米軍が勝利した。相手兵力を見誤り、
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記者コラム「清流」 丁寧な仕事を
不適切な事務処理や時間外勤務の過大申請…。5月末に静岡市職員の不祥事案件を連続して取材した。たまたま時期が重なったのかもしれないが、いささか多過ぎやしないかと驚いた。 不適切な事務処理があったとして発表された4件はいずれも職員の法令などの解釈の誤認が原因で、3600万円超の支出が生じることとなった。懲戒処分として発表された案件は3件で、時間外勤務時間を過大に申請して手当を受け取るなどしていた。いずれも未然に防げたであろう事案で、なぜここまで相次ぐのか不思議だ。 真面目に仕事をしている職員がほとんどなのは日頃の取材活動でも実感している。市民の税金を預かっているという意識で働く
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記者コラム「清流」 神取さんとの「縁」
女子プロレスラーの神取忍さんが地域貢献活動として、清水町で農業に取り組んでいる。昨年8月から始めた活動を本格化し、名前にちなんだ「神取米」の誕生を目指している。先日、作業を見学した。 神取さんとは、前任地の浜松市でもお会いした。障害者支援に携わるNPO法人の活動に、神取さんは理事として参加していた。まさか異動先で再会するとは思わず、勝手ながら縁を感じずにはいられなかった。 「なんでか、静岡にはつながりがあるんだよね」と神取さん。再会は偶然ではなく、神取さんが県内の地域や団体に魅力を感じ、地方創生に汗を流しているからこそだろう。 神取米ができたら、子ども食堂に寄贈したいという。はつらつと
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記者コラム「清流」 早起きは三文の徳
ことわざ「早起きは三文の徳」は、朝早起きをすれば、何かしら良いことがあるという意味。規則正しい生活習慣の効果が得られるほか、慌ただしい朝に時間と心の余裕が生まれる。 5月中旬から絶滅危惧種アカウミガメの産卵期を迎えた。御前崎市では、市の委嘱を受けた保護監視員が毎朝欠かさず海岸を歩き、産卵状況を確認している。早起きが苦手な記者もアカウミガメを見てみたい好奇心で、活動に同行する。 ウミガメに遭遇した経験はまだないが、朝日に照らされた美しい海や珍しい野生動物を目にした。自然豊かな地域の魅力を再認識するきっかけとなり、早起きの成果を実感している。 朝の時間を有効活用し、趣味や運動、資格勉強に取
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社説(6月6日)自動車認証不正 法令順守の徹底不可欠
自動車の量産に欠かせない「型式指定」の認証申請を巡り、トヨタ自動車、マツダ、ヤマハ発動機、ホンダ、スズキの5社計38車種で不正があったことが分かった。 うち32車種は既に生産を終了。国土交通省は生産中の3社の6車種について、安全性が基準に達しているかの確認ができるまで出荷停止を指示した。人気車種も含まれ、出荷停止が日本経済に与える影響が心配されている。もはや個々の企業の問題ではない。日本を代表する自動車メーカーで不正が横行し、業界そのものの信頼が揺らいでいる。 ところが、不正企業トップからは、不正を謝罪しながらも「安全性に問題がない」という趣旨の発言が相次いだ。リコールの声も聞こえない。
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コラム窓辺 忘れられないマエストロ(宮澤敏夫/富士山静岡交響楽団専務理事)
札幌交響楽団事務局長時代、忘れられない名指揮者と出会いました。チェコのドボルジャーク協会会長のエリシュカ氏です。 彼との出会いは1枚のCDでした。素晴らしい音楽家と感じた私はすぐ札響音楽監督に呼びたい旨、交渉しました。OKを得て来日が決まりましたが、日本では無名の彼、集客がとても心配でした。 初日の定期演奏会は入場者が1200人。やはり無名の彼、集客は難しいようでした。ところが翌日の定期演奏会は2000人満席のお客さま。楽員はじめ関係者がびっくり。前日の素晴らしいコンサートが口コミで広がったようです。 数年前に来日し名古屋にあるオーケストラに客演した時も、楽員は素晴らしい指揮者だから専
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大自在(6月5日)トヨタなど認証不正
長年、日本車を乗り継いできた一人として、かつて小欄で書いた一節を再掲したい。トヨタ自動車「カンバン方式」の生みの親、故・大野耐一氏が提唱した「なぜなぜ5回」の法則だ。不具合などの事象を起こした原因↓なぜ原因を起こしたのかなど「なぜ」を5回繰り返し徹底的に究明し対策を講ずる―と。 国土交通省の調査で国内5社について、自動車の量産に必要な「型式指定」の認証申請に関し不正があったことが分かった。うち3社の計6車種について、国交省は出荷停止を指示した。 トヨタの豊田章男会長は「安全性に問題はない」としつつ、4月末時点で不正は計約170万台に上ると明らかにした。例えば車後方への衝突試験で
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記者コラム「清流」 “日本最年長の車夫”
6年ぶりの再会だった。今春、駿府城公園で観光客向けの人力車を引き続ける五條満さん(88)=静岡市駿河区=から電話をもらった。「私を分かりますか?」。一瞬迷ったものの、生粋の静岡弁にすぐにピンときて会うことになった。 清水港の国際クルーズ船がここ数年急増し、静鉄電車で駿府城公園を訪れる外国人も増えている。写真撮影をねだられることも多く、国際親善にも一役買う。6年前は広い公園にたまに訪れる東京などの観光客が相手だった気がする。ようやく時代が付いてきた。 米寿の五條さんは“日本最年長の車夫”の一人に数えられるかもしれない。健康管理がきっかけだったが、7月で27年目。すっ
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【時評】ロコモ予防とデジタル活用 行動誘発へ 鍵は「好奇心」(高山靖子/静岡文化芸術大デザイン学部教授)
きょう6月5日は「ロコモ予防の日」。身体能力が低下し、移動(ロコモーション)するための能力が衰えた状態を「ロコモティブ・シンドローム(ロコモ)」という。ロコモになるとだんだんと体の力が弱くなり、病気にならないまでも手助けや介護が必要な「フレイル」という段階に進行する。取り組み次第で健常な状態に戻る可能性もあるため、この予防がいま、注目を浴びている。 予防法として「栄養(食・口腔[こうくう]機能)」「身体活動(運動・社会活動等)」「社会参加(就労・余暇活動・ボランティア等)」の三つの柱と、これらを互いにうまくリンクさせることの重要性が示されている。近年、リハビリテーションにゲームの要素を取
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社説(6月5日)増える廃墟ホテル 実態の把握から始めよ
観光地の多い静岡県東部・伊豆の自治体が、倒産や廃業で長年、放置されて廃墟[はいきょ]となったホテルや旅館の扱いに頭を悩ませている。大規模な建物が多く、老朽化による倒壊の危険を除去する立場から、行政は所有者不明などの理由で解体に関与し始めた。ただ、手つかずの建物が多く、県外に居住する所有者の特定もままならないなど実態把握すら難しい状況だ。 長期間放置されると、安全性や景観の問題が生じる上、漏電による火災や不法侵入など治安上の不安も募る。行政はまず、廃墟ホテルの所在や安全性などを把握し、複雑な権利関係と法的問題点、所有者の所在などを調査する必要がある。その内容に基づき、各物件に応じた対処法を模
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記者コラム「清流」 きらめきの西武沼津店
2000年前後に流行した文化のリバイバルが相次いでいる。当時、小学生だった筆者にとって最も懐かしく感じられた復刻が、子供服ブランド「エンジェルブルー」の再販だ。かつて県東部にあった直営店舗は、JR沼津駅南口前の西武沼津店だけだった。 アイドルグループ「ミニモニ。」のメンバーが着用し、女児の間で爆発的に流行した。販売価格帯は1万円前後と高額で、誕生日のお祝いに買ってもらえる憧れの品。かつての同店は「キラキラしたものがそろっている場所」だった。 同店閉店から11年、商業の中心地は郊外へ移った。本館跡地では広場が整備される予定だが、まだ更地のまま。郊外の量販店で大人向けに廉価で売られるエンジェ
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浜松 定時制高と商議所連携 就業支援 正社員雇用も【記者コラム 風紋】
浜松市内の県立高定時制課程で学ぶ生徒と、人材難の地域企業の就業マッチング支援が3年目を迎えた。学校と浜松商工会議所が組み、定時制生徒の日中の就業可能性に着目した事業。在学中のアルバイトを経て、卒業後に正社員登用された即効性ある成果も生まれた。人口減少で人手不足が深刻化する中、若手人材を掘り起こす浜松発の一策として広がりに期待したい。 取り組みは浜松工高定時制の進路課教員が浜松商議所に相談したことがきっかけ。「ものづくりのまち浜松」の産業界への人材輩出を使命とする同校は、在学中の工業技術の学びを、地元製造業の現場で実践的に生かせないか模索していた。働く学生も、企業情報が届かない中で、自宅から
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記者コラム「清流」 突然奪われた命
5月13日の午後、浜松市浜名区の横断歩道で小学4年生の女児(9)がごみ収集車にひかれ、命を奪われた。「悪口を絶対言わない人」「笑顔がすてき」。亡くなった女児の人となりを取材で知り、さらに胸が痛くなった。事故現場の横断歩道のそばには花やお菓子が供えられている。 事故現場は、ここ数年で事故のリスクが高まっている場所だった。信号のない直線で、横断歩道の前にあるひし形の道路標示はかすれていた。地元住民によると天竜区の清掃工場が新設されてから事故現場を通るごみ収集車が増えていた。地元で見守り活動をする70代男性は「このあたりは横断歩道で減速しない人が多い」と怒りの表情を見せた。 なぜ事故が起きてし
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大自在(6月4日)虫歯
かかりつけの歯科医の待合室に入ると、口の中の機能低下を意味する「オーラルフレイル」の文字が目に入る。壁の貼り紙だけでなく、棚のチラシや電光掲示板の画面にも。日本で使われ始めて10年ほどの新しい言葉だ。どれほど一般に浸透しているのかは分からない。 同じ口の中の健康に関する言葉では「8020」の認知度の方が高いであろう。厚生省(現厚生労働省)が80歳になっても20本以上の歯を残そうという運動を提唱したのは、平成が始まった35年前だ。 成果は数字にも表れている。少し古いが、厚労省の2016年調査で、8020達成者は51・2%で、05年調査より11ポイントも上昇した。今はさらに達成率が上がってい
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コラム窓辺 かわいいおばあちゃんを目指して(曽根原容子/Woman’sサポート理事長)
60歳が近づくにつれ、考えるのは老後は若い人たちにかわいがってもらえるような「かわいいおばあちゃん」になりたい、ということです。 どうしても仕事を一線でやっていると、日々自分との闘いで、いつも交感神経が亢進[こうしん]しているようです。それだけでなく、最近は頑固な部分が出てきたり、「こうあるべきだ」という思いが強くなったりする自分がいるのも分かります。そんな自分を日々反省するのですが、歳とともにこの感覚も分からなくなるのかもしれないと心配になりもします。 そんな私でも遊んでくれる方々もいて、さまざまなプライベートの会があります。「グルメ女子会」「美食女子会」「567会」「ウナギの会」「ゆ
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記者コラム「清流」 未来の有権者に届いたか
子ども向け新聞「YOMOっと静岡」を4月、リニューアルした。子ども目線を意識した県内情報を掲載しようと日々奮闘している。 先日は知事選に合わせた特集を展開し、投票の大切さを呼びかけた。投開票日に赴いた投票所には家族連れが何組もいて、投票率は低くないのではと期待していたのだが、結果は前回選を下回った。混乱ばかりの県政に対する県民の諦めが表れているようで残念に思う。 「YOMOっと」では知事の仕事や選挙の意義などを紹介。その中で投票とは「権利」であると伝えた。棄権は自由だが、それは自分が望む「未来を放棄」することだ。「YOMOっと」は小学校高学年から中学生がターゲット。紙面が未来の有権者の心
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記者コラム「清流」 自治体持続のために
人口減少対策を提言する民間組織「人口戦略会議」が発表した報告書で長泉町が県内唯一の「自立持続可能性自治体」に分類された。少子化が進む中、100年、200年先の未来まで自治体が生き残るにはどうすれば良いのだろうか。 報告書は子どもを産む中心世代となる20~30代女性の人口推移を根拠に発表された。子育て支援策に重点を置く町は、将来も若い女性が一定数いるという評価を受けたことになる。 自治体の持続には、生活のしやすさが重要だが、町内には商業施設が乏しい。選ばれた要因の一つに町幹部が「周辺市町の商業施設の存在が大きい」と話していたのが印象的だった。 自治体が生き残るためには、周辺自治体で競い合
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記者コラム「清流」 「報徳」感じた善意
先日、掛川市内での取材を終えて運転していたところ、対向車に道を譲って脇に寄せたら車輪が側溝に落ちてしまった。教習所以来の脱輪にぼうぜんとしていた私に、下校中の高校生2人が声をかけてくれた。その後、犬の散歩中の男性らも足を止めてくれ、計4人で車を押してくれた。 結局、車は動かずロードサービスを呼ぶことになったのだが、知らない人が困っていても反射的に助ける掛川市民の姿に感動した。報徳の教えが根付いているからかもしれない。 高校生に名前を聞いたら「いやいや」と笑って帰ってしまった。奥ゆかしさに面食らいながら、私も市民らしく彼らを見習って生活しようと決めた。地元の役に立つ記事を書きたいとの思いも
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【時評】岡倉天心の遺作 「地球の有限」共生問う(宮城聰/SPAC芸術総監督)
先月、駿府城公園と浜名湖花博で、僕の演出するSPACの新作「白狐伝」の公演がありました。 この戯曲は「茶の本」で知られる岡倉天心の遺作です。西洋文明に人間の傲慢[ごうまん]を感じつつ、同時に近代化に邁進[まいしん]する日本にも絶望した天心が、人間と狐が夫婦になる信田妻[しのだづま]伝説に託して「人間と自然の関係」を見直すようにと後世の人々に伝える、いわば遺言のような作品です。西洋近代文明というのは、つまり「人間が自然を支配し、自然界から際限なく奪い続ける」という前提の上に立ったものだから、その関係を変えなければならない、と天心は考えたんですね。 「白狐伝」では、狐[きつね]の女王が人間
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社説(6月4日)定額減税スタート 政権浮揚の思惑透ける
岸田文雄首相が打ち出した定額減税が始まった。物価高騰に苦しむ家計を支援するため、所得税と住民税を合わせて1人4万円を本来の納税額から差し引く。 ただ、歴史的円安やロシアのウクライナ侵攻など不安定な国際情勢を背景に、食品や光熱費の負担増が国民の暮らしを直撃している。減税分を生活必需品などに充てる家庭が多いと考えられ、3兆3千億円に上る減税規模でありながら、政府が期待するほどの景気刺激の効果があるのか疑問だ。減税の仕組みが複雑で企業や自治体の事務負担が重いことも問題になっている。 岸田政権は自民党派閥の裏金事件で逆風にさらされ、4月の衆院3補選や5月の静岡県知事選では自民の負けが続いた。衆院
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コラム窓辺 宇宙で移動(能見公博/静岡大工学部教授=宇宙工学)
宇宙の移動は不思議な動きをする。地球を周回する衛星は、同じ軌道であれば一定の距離を保って移動する。先行する衛星に追いつこうと加速すると、1周後には遠ざかる。加速すると地球から遠ざかるため、戻るのに時間がかかるためだ。逆に減速すると近づく。高校物理に出てくるケプラーの法則に従った動きである。 先行するターゲットとドッキングする時、目前であれば加速、まだ距離があれば減速して近づく。目前になると高い精度で接近する必要があるので、燃料を使ってでも確実に。まだ遠ければ、地球1周の時間をかけて多少ずれても、大まかに近づければいい。宇宙では限られた燃料で移動する必要があるため、このような常とう手段を使う
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大自在(6月3日)食料安全保障
ことわざ「腹が減っては戦はできぬ」に異議を唱える人はなかろう。「すきっ腹は耳を持たない」(フランス)「水なしでは水車が動かない」(オランダ)「千回の瀕死[ひんし]は耐えられても、一回の飢餓は耐えがたい」(中国)。どれも同じことを言っている。 「農政の憲法」とも言われる食料・農業・農村基本法が四半世紀ぶりに改正された。世界的な食料需給の変動や地球温暖化などを踏まえ、凶作や輸入途絶などに備える食料安全保障を基本理念に位置付けた。 「5月末をもちましてお米の特売を終了させていただきます」。先週、スーパーの米売り場につり下げ広告があった。昨夏の猛暑などで2023年産米の供給が減り、訪日客需要もあ
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社説(6月3日)「売り手市場」加速 内定者フォロー丁寧に
2025年春卒業予定の大学4年生らの就活が進み、政府による日程ルール上では6月、筆記試験や面接など選考が「解禁」になった。とはいえ、経団連指針を継承したこの日程は形骸化が著しく、既に8割近い学生が内定を得ているという調査結果もある。 学生優位の「売り手市場」が加速する中、初任給を大幅に上げた大手もある。地方の中小企業の人材確保は厳しさを増した。地域経済発展の鍵は人材が握っている。静岡県内企業は内定者へのフォローを丁寧にして、この会社で働く動機づけをしてもらいたい。信頼関係を築くには、会社説明会の段階では明かせなかった情報の提供も必要になるかもしれない。 行政や商工会議所などにもできること
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大自在(6月2日)「アフリカで、バッグの会社はじめました」
海外を含め社会全体に関わりをもちたいと就活をし、メガバンクから内定を獲得した。ところが「やばっ! 私、まちがったところに来ちゃった…」。入行式で青ざめたという。 アフリカ・ウガンダに工房を構え、現地のシングルマザーらが製作した鮮やかな色彩、図柄のバッグを日本で販売する「RICCI[リッチー] EVERYDAY[エブリデイ]」最高執行責任者(COO)の仲本千津さんは静岡市出身。挑戦の軌跡を「アフリカで、バッグの会社はじめました」(江口絵理著、さ・え・ら書房)で知ることができる。 中学生の時に「国境なき医師団」に関心をもち、高校時代は国連難民高等弁務官を務めた緒方貞子さんに憧れ
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時論(6月2日)「政治決断」極めて重い
昨秋、沼津市のJR沼津駅周辺鉄道高架化事業が、10年超の歳月を経て始動した。事業は当時「着工間近」とみられていたが、高架化事業に向け最大の焦点である同市原地区の新貨物駅ターミナル整備用地の土地収用に急ブレーキがかかり、大幅に遅れていた。 ブレーキをかけたのは、2009年の知事選で初当選した川勝平太前知事の「住民との対話を重視」するとの「判断」。当時、前知事と市民との対話集会を取材した筆者は、この時の情景が今も脳裏に浮かぶ。 長期となった歳月は「必要だった」とする声も聞かれる。一方で沼津市の発展が「10年遅れた」との指摘もある。県行政のトップである知事の「政治判断」は重い。まして「政治決断
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社説(6月2日)裁判員制度15年 市民感覚さらに尊重を
一般市民が裁判官とともに刑事事件を審理する裁判員制度が始まって15年が過ぎた。成人の中からくじで選ばれる裁判員や補充裁判員の経験者は延べ12万4千人を超える。裁判に市民感覚を反映させる目的で導入したが、選ばれても辞退する人の割合は上昇傾向が続き、制度がスタートした2009年の53・1%から23年は66・9%になった。 辞退率上昇の主な要因として、審理期間の長期化による裁判員の負担増とともに、裁判のために休みを取りにくい職場環境も挙げられる。厚生労働省の調査によると、「裁判員休暇」を導入した企業は約50%にとどまる。市民感覚が裁判に反映されたか、尊重されてきたかどうかも検証する必要がある。
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大自在(6月1日)「サラ川」と定額減税
「サラ川」の全国ベスト10が先日、発表された。第一生命保険が1987年にスタートさせた「サラリーマン川柳」。幅広い層から募集するため2022年に「サラっと一句!わたしの川柳コンクール」へと名称変更したが、毎年、世相を映し出してきたことは変わらない。 昨年9~10月に応募された作品は6万5千超。人気投票の対象になった100句を見ると物価高に関連した句のなんと多いことか。新型コロナウイルス禍からの回復に水を差す、食品などの度重なる値上げ。2位の「物価高 見ざる買わざる 店行かず」に思わず膝を打った。 「サラ川」にはベスト10の他、地域を盛り上げたい自治体などの「地元サラ川」がある。静岡県から
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記者コラム「清流」 「名」より「実」を
異例の短期決戦となった知事選が終わった。選挙期間中、候補者は静岡県内各地で支持獲得に向け熱弁を繰り返していたが、限られた時間でのPRに各陣営が苦労したであろうことは想像に難くない。 「短期決戦で投票の決め手になるのは候補者が発するインパクト。政策や理念はもちろん、顔や雰囲気、知名度は重要な要素になる」。県外の知事経験者は自身の経験から取材時にこう力説した。投票先に迷う有権者にとって、知っている名前や顔は判断材料の一つにはなったかもしれない。 ただ、言うまでもなく「名前」だけでは政治はできない。具体的な政策実行力こそ混迷した県政の立て直しには必要となる。真の「オール静岡」を実現するため、県
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記者コラム「清流」 「故郷愛」続くか
浜松市が行政区再編されて5カ月が過ぎた。現在の同市中央区に親戚がいるのだが、「中央区で事件」と言われても危機感が薄くなってしまった。 以前はそういったニュースを見ると、親戚の家の近くかもしれないと思い確認していた。近頃は「自分には関係ない場所」と軽く流してしまうことも。今後も重大事件や事故が起きても気づかないかもしれない。 民間組織の「人口戦略会議」が4月に発表した報告書では、県東部の複数の市町が「消滅の可能性がある」自治体に該当した。消滅させないために合併を繰り返したとして、いつまで地元の市町を地元だと認識できるだろうか。既に旧町などから複数回住所を変えた人もいる。「故郷愛」をなくさな
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社説(6月1日)GDP2・0%減 賃上げ進め消費回復を
内閣府が発表した2024年1~3月期の実質国内総生産(GDP、速報値)の成長率は、前期比で年率マイナス2・0%となった。このところの物価高による個人消費の低迷が表れた格好だ。マイナスは2四半期ぶり。個人消費とともに景気の柱である企業投資も低迷した。 5月の月例経済報告は生産について「持ち直しの動きが見られる」とし、4~6月期以降はプラス成長に戻るとの見方もあるが、大幅な円安は、なお続いている。輸入原材料や製品の価格は再び上がり始めた。これに伴う物価高が、家計や企業業績を圧迫し続ける可能性がある。先行きは楽観できない。 ことしの春闘で見られた大企業の好調な賃上げ効果を、中小企業まで波及させ
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記者コラム「清流」 情報発信工夫を
近年の地震や豪雨災害を踏まえ、各地の避難所運営訓練の内容に工夫が施されるようになった。車椅子利用者の支援手順を確認したり、災害関連死を防ぐため栄養のある食材や地元の野菜を使った非常食を準備したり。 一方で感じたのは「情報」への課題だ。ある参加者から「今どこで何が進んでいるの」と声をかけられた。運営は拡声器で説明していたがなかなか伝わっていなかった。「視覚的に分かる情報の随時発信を」と訴えたのは、熊本地震でろうあ者相談員として支援に当たった県聴覚障害協会の小倉健太郎事務局長。 避難所生活の安心材料の一つの鍵を握るのは適切な情報の伝達だ。災害時は、誰もが当事者となり、必要な情報を求める。誰が
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コラム窓辺 シビックプライドの醸成(久保田香里/静岡理工科大法人本部広報部長)
私の平日は静岡と清水を結ぶ静岡鉄道での出勤から始まります。国道1号線をまたぐ陸橋からは富士山がよく見えます。遅延も運休もほぼなく、各駅も整備が進み快適です。安全安心を守る業務や利用者サービスについては、十数年間、「静岡鉄道利用者促進協議会」の委員として乗客と異なる目線でも見守ってきました。 その静鉄が今、TVアニメ「僕のヒーローアカデミア」とコラボした7種類のラッピング電車やグッズ、ホテルのコンセプトルームで話題を呼んでいます。静鉄の制服を着たキャラクターたちの等身大パネルと写真を撮ったり、グッズ販売所の行列に並んだりする方々を見るたび、誇らしくなります。普段の通勤電車がアニメファンの目的
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大自在(5月31日)ミズバショウ
福島や群馬など4県にまたがる尾瀬国立公園が山開きを迎えた。湿地で一斉に咲くミズバショウが訪れる人を楽しませているという。 尾瀬とミズバショウといえば、歌曲「夏の思い出」を思わず口ずさみたくなる。子どものころから尾瀬は一度は行ってみたい憧れの地であり、静岡ではほぼ見ることがないミズバショウの群生も眺めたいと思っていた。それほど歌詞の印象が強かった。 その後、訪れた季節は秋だったが尾瀬ケ原の木道を歩くことができた。別の高地で湿地に自生するミズバショウを見ることもできた。ミズバショウはサトイモ科の多年草。夏の季語とする歳時記もある。花びらのように見える白い苞[ほう]と黄色い棒状の花々はとても清
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記者コラム「清流」 4年後への決意
もうパリ五輪には手が届かないと覚悟していたはずだ。それでも、体操男子の三輪哲平選手(セントラルスポーツ、城南静岡中出)は、NHK杯の最後の鉄棒を美しい演技で締めた。その時はまだ分からなかったが、取材後にそれが4年後への決意だったと感じた。 高い潜在能力を秘めながら不遇の体操人生を送ってきた。東京五輪は補欠で、初めて代表入りした昨年の世界選手権は直前のけがで欠場。故障が絶えない競技で4年は長い。目元をわずかに赤らめて取材エリアに来た時は進退も考えているかと身構えたが、違った。 出てきたのは次の五輪開催地を意味する「ロス(ロサンゼルス)」という言葉。そして「輝ける日が来るまで努力する」と続け
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記者コラム「清流」 冬のスポーツ 身近に
フィギュアスケートで活躍する鍵山優真選手が自動車メーカーのスズキとスポンサー契約を結んだ。同社の新型「スイフト」の広報大使となる。運転免許証を取得中という鍵山選手が、スイフトで繰り出す姿が近く見られるかもしれない。 海に面しマリン行事が盛んな本県。自分は冬のスポーツは見る専門だ。浜松市内の県内唯一の屋内スケートリンクも今月惜しまれつつ閉鎖した。身近に触れる機運がさらに遠のく中、地元企業と世界トップ選手のタッグは、競技に憧れる子供にも前向きな話題だ。 浜松いわた信用金庫もスノーボード女子アルペンの三木つばき選手と所属契約を結んでいる。2026年のミラノ・コルティナダンペッツォ冬季五輪で金メ
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記者コラム「清流」 美容と福祉
幼い頃、祖母が持っていた大きな化粧品ケースをのぞくのが大好きだった。化粧水やクリームがところ狭しと詰め込まれていて、ふたを開くと化粧品の独特の香りが広がったのを覚えている。外泊時も持ち歩いていたため、美容に相当気を配っていたのだろう。 沼津市の誠恵高で開かれた「福祉ネイリスト」の授業。高齢者や障害者の爪をケアする仕事だ。講師は「ネイルをすることで、高齢者との話が弾む。コミュニケーションを重視している」と話した。男子と女子がペアでネイル体験をしている姿も印象的だった。 授業の取材中、ケースの中から化粧品を取り出し、楽しそうに効能を語ってくれた祖母の姿を思い出した。美容を通じて、世代や性別を
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社説(5月31日)能登地震の関連死 支援態勢整え命を救え
能登半島地震による石川県内の災害関連死として奥能登地域3市町の計30人が認定された。能登地震で関連死の正式認定は初めて。今までは15人が「関連死疑い」として犠牲者に加えられていた。 避難所での生活や車中泊で心身に負担がかかったケースが多く、新型コロナウイルスやインフルエンザに感染して亡くなった人もいたという。能登地震の犠牲者は建物の倒壊などによる直接死230人を含めて260人になった。 地震や津波から生き延びた命なのに、その後の生活でなぜ失われてしまったのか。亡くなった経緯はそれぞれだろうが、細かく精査して被災者支援の態勢を整え、確実に命を救っていく必要がある。被災地は一部で応急復旧から
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コラム窓辺 事故防止と訓練(中田健児/静岡少年鑑別所・法務少年支援センター静岡所長)
少年鑑別所をはじめとする矯正施設では、逃走、自殺、暴行などの保安事故防止のため、年間計画を立てて、さまざまな訓練や研修を実施しています。特に暴れる人を取り押さえる制圧・手錠使用訓練や心肺蘇生法は、「本番」がないことを願う一方、万が一の際にきちんと体が動くように、職員の性別や年齢に関係なく毎年訓練をします。わが事ながら「常在戦場」、特殊な職業であるとしみじみ思います。 少年鑑別所における保安事故は全国的には少数です。それは現場が早め早めの対処で事故の芽を摘むからです。当所でも所内で暴れる、自殺未遂をするなど、処遇の難しいケースは少数とはいえ毎年一定数は存在し、そりゃもう大変です。事故防止のた
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大自在(5月30日)鈴木新知事
「何者」で直木賞を受賞した作家朝井リョウさんのデビュー作「桐島、部活やめるってよ」は映画化もされた青春群像劇。高校一のスターでバレーボール部主将の桐島が突然、部活を辞めたというニュースが校内を駆け巡り、桐島と遠い人間関係をも揺るがせていく。 「川勝、知事やめるってよ」。先月、川勝平太前知事の辞意表明のニュースが県内外を駆け巡ったとき、思わずそんなタイトルが頭に浮かんだ。桐島と川勝さんは立場も周囲からの見られ方も全く違うのだが、唐突に重責を降りる行動、周りに与える影響は物語と共通していると感じたからだ。 昨日初登庁した鈴木康友新知事は、川勝さんが突如重責を降りた影響を最も大きく受けた人物の
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記者コラム「清流」 デジタル依存
スマホを「ピッ」とかざして支払い完了。QRコード決済の登場により、買い物で現金を使う回数は劇的に減った。小銭を数える煩わしさもなく、入金も簡単にできる。これなら財布は持ち歩かなくても…。そんな油断が思わぬピンチを招いた。 昼食に入った店で、QRコード決済のアプリがなぜか起動しない。慌ててポケットに手を突っ込んだが財布はなく、できるのはスマホをひたすらタップすることだけ。奇跡的に決済コードが表示され事なきを得たが、後で知らされたアクセス障害の発生にデジタル依存の怖さを思い知った。 日常生活でIT技術に触れない日はない。便利さの半面、情報流出やネット詐欺など多くのリスクも潜む。
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記者コラム「清流」 14年ぶりの給食
約14年ぶりに学校給食を味わう機会をいただいた。袋井市の給食を食べたのは初めてだが、懐かしい味がした。ただ一品、手作りのいちごジャムが出ることには驚いた。イチゴならではの酸味がほどよく、風味も豊か。想像以上のおいしさに思わず声が出た。 当日は給食センターに地元農家から完熟のイチゴが持ち込まれ、朝6時ごろから仕込みが始まるという。洗うだけでも1時間半はかかる苦労の一品だが、「地元食材を使った手作り料理を届けたい」という職員の思いが実現している。 「日本一の給食」を目指す同市では、ほかにもギョーザやコロッケも手作り。徹底した安全管理で生野菜の提供も可能にした。そんな健康的な給食を毎昼食べられ
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社説(5月30日)鈴木知事が就任 地域分断の解消を急げ
静岡県の新知事に元浜松市長の鈴木康友氏(66)が就任した。前任の川勝平太氏が不適切発言などにより、1年余りの任期を残して突然辞職したのに伴う15年ぶりの知事交代だ。変則的な形で知事の座を引き継いだが、県政に遅滞が生じないよう早急に課題や実情を把握する必要がある。 新人6人が争った知事選は、立憲民主・国民民主両党の推薦を得た鈴木氏と自民党推薦の元副知事大村慎一氏(60)が事実上の一騎打ちを繰り広げた。鈴木氏が県西部のすべての市町で最多得票だった一方、大村氏は中・東部の全市町でトップを確保した。この結果を見る限り、与野党対決よりも地域対立の影響が色濃い選挙戦だったことは否めない。背景には県内二
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記者コラム「清流」 “効率化”病
効率よくやろう-。社会人6年目を迎え、学友と励まし合っている。業界は違えど、互いに仕事量が増える年次になった。最近は記事に必要な要素が集まったら意識は次の現場に向く。 新人の頃に静岡市で取材した中学生の父親と富士宮市で再会した。スケートボード世界大会で優勝したことを取り上げる際、毎日夜遅くまで滑る姿に心を打たれ、何度も取材に通った。「アツい取材だったね」と会話が盛り上がった。 技の研さんに励む彼の写真はカメラのSDカードに残してある。努力を表すのにふさわしい言葉を選ぶため、悩み抜いた初心を忘れないためだった。久々に見返すと、現場を早々に引き上げて小手先の技術で原稿を取り繕う今の自分が情け
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コラム窓辺 札幌での奇跡(宮澤敏夫/富士山静岡交響楽団専務理事)
2003年、札幌交響楽団に「スワッ解散か」という危機的なことが起こりました。北海道も札幌市も多額の助成金を出し、応援しているはずなのにどうして? その時音楽アドバイザーをしていた友人で指揮者のO氏からSOSが入りました。「仕事の関係で1年待てるか?」と聞くと「待っている」と言われ、断れなくなりました。とにかく一度札幌にうかがうことになりました。 友人たちは誰も「火中の栗」を拾ってくれなかったようで、困り果てた彼がホテルで携帯の電話帳を繰っていたら、私の名前が出てきたようです。私はそれまで大阪フィルハーモニー交響楽団で事務局長になる時も、大阪フィルを辞める時も、東京に行くことも、札幌に行く
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大自在(5月29日)教育ムラ
誰かが「おかしい」と声を上げることはなかったのだろうか。横浜市教育委員会が教員による複数の性犯罪事件の公判で、多数の職員を動員し一般の人が傍聴できないようにしていた。 市教委が傍聴を命じた延べ人数は、4事件の公判計11回で525人に上る。いずれも業務としてだ。「被害者のプライバシー保護のためで、加害者をかばう意図はなかった」とし、保護者から情報が拡散しないよう多くの職員に傍聴してほしいと要望があったとするが、少なくとも2023、24年度の3事件では被害者や被告を匿名にするなどの措置が取られていた。 裁判の公開は憲法で保障されている原則だ。市教委は「そこまで考えていなかった」と釈明した。だ
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記者コラム「清流」 悩ましい免許返納
地元で1人暮らしをする76歳の父が運転免許の返納を考え始めた。「85歳までは運転したい」と言うものの、燃料代高騰が年金生活には厳しいという。車なしに自分らしく生活できるのか、家族としても悩む。 日本老年学会は4月に公表した「高齢者の自動車運転に関する報告書」で、運転をやめた高齢者が要介護認定を受ける割合は運転を続ける高齢者の1.7倍に上るとの研究結果を紹介した。外出機会の減少が心身の機能低下を招くとして、「準備なく運転をやめると生活に支障を来す」と警告している。 代替交通はあるか。健康や生活の質の維持に何が必要か。これまで事故防止対策の記事も書いてきたが、当事者の切実さを今更ながら実感す
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記者コラム「清流」 率先避難者たれ
昨年6月に県内に猛威を振るい、磐田市と浜松市で2人の死者を出した台風2号による豪雨災害から間もなく1年が経過する。土砂災害が多発した市内では、今なおブルーシートがかけられた斜面が散見され、爪痕は色濃く残っている。 近年の風水害や土砂災害の頻発化、激甚化に伴い、災害からの復旧に要する時間や手間などは増している。しかし、無慈悲にも年月は一定のペースで進む。完全復旧や再整備が追いつかないまま、ことしも出水期を迎えようとしている。 市内の特別支援学校で8日に開かれた県の防災講座では、自ら進んで避難することで他人の行動を促す存在「率先避難者」についての説明があった。ハードの対策に頼らず、命を守るた
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記者コラム「清流」 身近な問題の解決を
26日に投開票された知事選。選挙期間中、複数の候補者の街頭演説を直接聞いたが、大きな争点とされたリニア問題や浜松市の新野球場のあり方は県東部の住民にとって、どこか遠い話題の印象を受けた。 超短期決戦だった影響か、政策論争で県東部の活性化策は具体性が乏しかった感がある。富士山や伊豆半島を核とした観光戦略、環境変化の影響が直撃する農林水産業、少子化に伴う学校再編、公共交通網の維持、ごみ焼却施設の広域化―。移り行く時代の中で、住民にとって身近な問題、課題は山積している。 根底を担うのは各市町かもしれないが、県の役割と責任も大きいはずだ。注目度の高い大型事業だけでなく、地域住民が日常の中で生活改
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【時評】SDGs「海の豊かさ守る」 行政含め、組織的推進を(鈴木款/海洋環境学者)
SDGs(持続可能な開発目標)はテレビや雑誌で日常的に見たり聞いたりする言葉である。SDGsとは「持続可能な開発のための2030アジェンダ」(2015年)とその17の目標により、健全で豊かな地球においてあらゆる人々の権利と福祉を確保するという約束である。それでは現在SDGsは順調に推移しているのか。昨年7月に国連が「SDGsの目標ごとに世界の進捗[しんちょく]状況の特別報告書」を発表した。順調に推移しているのは15%にとどまり、37%の目標は停滞か後退していると指摘している。 この国連の報告の前月に国際的な研究組織「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク」(SDSN)は、23年度におけ
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社説(5月29日)ガザ巡り逮捕請求 攻撃停止へ強い圧力を
国際刑事裁判所(ICC)主任検察官は、イスラエルのネタニヤフ首相と国防相の逮捕状を請求したと発表した。容疑はパレスチナ自治区ガザ情勢を巡る戦争犯罪と人道に対する罪。主任検察官は、ネタニヤフ氏らがガザ攻撃に際し「戦争の方法として飢餓を利用した」と指摘した。 ガザへの水や電力の供給を遮断し、物資の輸送を制限したためだ。さらに国連の国際司法裁判所(ICJ)もイスラエルに、ガザ最南部ラファへの攻撃の即時停止などを求める仮処分を出した。 イスラエルとネタニヤフ氏は、逮捕状請求や仮処分を国際社会の意思として重く受け止める必要がある。ただちに攻撃をやめて停戦交渉に応じるべきだ。人道危機や住民殺害が続く
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来春導入の熱海宿泊税 使途明確化し納得感を【記者コラム 湧水】
熱海市は観光振興に特化した財源の確保に向け、2025年4月から県内で初めて宿泊税の徴収を開始する。厳しい財政状況が見通される中、持続可能な温泉観光地に向けて新たな税制度の創設に踏み切った。 宿泊税は地方自治体が条例を定め、総務相の同意を経て創設する「法定外目的税」の一つ。宿泊業者が宿泊客から特別徴収し、自治体に納付する。熱海市では市内約380の宿泊施設で1人1泊200円を徴収する。12歳未満や学校主催の修学旅行生らは免税とする。市は年間で7億円程度の財源確保を見込む。 宿泊税の導入は加速する人口減と高齢化が背景にある。熱海市の人口は直近30年で3割減の3万5千人に減少した一方、高齢化率は
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コラム窓辺 世代交代について(曽根原容子/Woman’sサポート理事長)
私は沼津商工会議所女性会に所属しています。先日は山梨で「関東商工会議所女性会連合会」(通称・関女連)の総会が開催されました。関東地区全域から、それぞれの地域の商工会議所女性会に属する600人以上の女性経営者が一堂に集まりました。 総会に出席し、周囲を見て思ったのは、このまま世代交代をしないと消滅してしまうのではないかと思うような単会もあれば、世代交代ができていて、とても活気のある単会もあるということです。 世代交代は、作り上げてきた人の思いもあるので、少しずつ良いものは残し、時代に合わないものは今の時代のものに変更するという作業を時間をかけて意識的にやらないと、結果的にできないと思ってい
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大自在(5月28日)新知事と「県庁さん」たち
鈴木康友新知事の就任で県庁は変わるのか。静岡県を「幸福度日本一」にするには、まず県庁が変わることだろう。 20年近く前の映画「県庁の星」は、経済担当で仕事ができ野心的な31歳の県職員が民間との交流人事でスーパーに出向する。店は業績だけでなく消防や保健所関係の課題も山積。織田裕二さんが演じた主人公は名前でなく「県庁さん」と呼ばれる。 映画では大型プロジェクトにからみ知事や県議会、地元企業が重要な役回りをするが、原作の同名小説(桂望実著、2005年)にその設定はなく、民間研修が知事の思いつきであることが明かされたくらい。小説は漫画化もされた。コミックス最終巻で知事が交代する。 小説はベスト
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記者コラム「清流」 即興を楽しむ
前所属では定期的にラジオ番組に出演する機会があった。事前に渡された台本に話す内容を書き込んで臨むものの、パーソナリティーからの不意打ちの質問に泡を食い、ありったけの自己嫌悪を抱えてスタジオを後にしたものだった。 発足15年目で通算公演数が400回を超えた焼津市の高齢者劇団「浪蔵(なみぞう)笑劇団」の記念公演が先日あった。主役を張る90歳の山口浪男代表を筆頭に、70歳オーバーの団員計4人が軽妙な掛け合いで30分間の防犯劇を披露した。 さぞかし作り込んで舞台に立っていると思いきや、あらすじはあっても、せりふはアドリブが多いのだそう。そして、うまくいかなくても「反省なし、後悔なし」で、楽しむこ
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記者コラム「清流」 浸透しない避難計画
浜岡原発の全炉停止から13年が経過した。原子力防災の観点から振り返ると、避難先を明示した県の広域避難計画が策定されてから8年。これだけ長い時間があっても啓発や課題の整理は道半ばで、あまりに歩みが遅いと感じている。 計画の対象になっている11市町の住民で、避難先を知っている人はどれほどいるだろう。例えば、掛川市民は原発単独事故が起こった場合は愛知県内16市町村に、大規模地震との複合災害時は富山県11市町村に避難する。支局がある掛川市西山口地区は愛知県西尾市と富山県魚津市が避難先。原則、自家用車で向かうことになっている。 原発の安全と安心は、事業者による追加対策だけでは成り立たない。行政のソ
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記者コラム「清流」 戦地の青年のゴールは
国際医療活動に取り組む心療内科医師桑山紀彦さんの講座を三島市内で取材した。戦渦に巻き込まれた青少年とのエピソードを聞き、平和の尊さ、ありがたさを改めて実感した。 特に印象に残ったのが、パレスチナ自治区ガザの青年だった。戦闘が続く現地の様子を世界に伝えようと撮影した映像には、衝撃的な空爆や戦闘の様子が映し出されていた。 青年が桑山さんに伝えた言葉が「日本の人々には平和や豊かさを享受してほしい。それが僕の目標だから」だった。外の世界に救いを求めず、故郷の平和に向けて現状と“戦う姿”に心を打たれた。 平和の大切さをかみしめ、戦地にも思いをはせながら日々を過ごしたい。青
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【時評】伊豆東部火山群の避難計画 多様な事態の対応検討を(小山真人/静岡大名誉教授)
伊豆東部火山群は、伊豆半島の東半分とその沖の海底に分布する火山群であり、気象庁の定める111活火山の一つでもある。1978年以降たびたびマグマ上昇とそれに伴う群発地震が発生し、89年7月13日には伊東市街の沖合で海底噴火が生じた。その後ようやく2015年になって住民避難計画が策定されたが、1次避難場所までの徒歩避難が原則とされ、夜間や悪天候時の実効性に課題があった。噴火のたびに新しい火口をつくる伊豆東部火山群では、既存火口の存在が前提となる噴火警戒レベル2と3を発表できず、レベル4に上がった時点で避難開始となる。このため避難準備の余裕がない点も問題であった。さらに18年に噴火の影響範囲が見直
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社説(5月28日)新知事に鈴木氏 混乱収 拾し県政を前へ
川勝平太静岡県知事の辞職に伴う知事選は、元浜松市長で立憲民主・国民民主両党の推薦を受けた鈴木康友氏(66)が、自民党推薦の元副知事大村慎一氏(60)ら5人を退けて初当選した。鈴木、大村両氏による事実上の一騎打ちとなった選挙戦は、知名度で劣る大村氏が出身地の静岡市や県東部で徐々に支持を広げて追い上げたが、市長4期の実績を強調した鈴木氏が地元経済界や連合静岡の支援もあって県西部で圧倒的な強さを見せ、逃げ切った。 学者から転身した知事が、良くも悪くも強烈な個性を発揮した4期15年からの転換点だ。川勝氏は強い発信力や、国レベルから地域密着型までの幅広い文化施策の展開が評価される一方、県議会の自民会
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コラム窓辺 宇宙エレベーター(能見公博/静岡大工学部教授=宇宙工学)
宇宙エレベーターは地球の赤道上から高度3万6千キロのステーションをつなぐ構想だ。静止軌道と呼ばれ地球から見るといつも同じ位置、そことつなげばエレベーターになるということだ。が、地球近傍には大気がある、ロープ自体も重さがあり地球に引っ張られる、などからさらに高い高度からアンカーで引っ張ることが考えられている。 ロープに大きな力がかかり、その強度を持つロープがなく夢物語だったが、新素材カーボンナノチューブの登場で可能性が出てきた。が、強度を維持してロープとすることは、まだまだ技術的な壁がある。一方、現在は新たな問題が浮上、宇宙ごみだ。10センチ以上のものが2万個以上、さらに通信、観測を目的とし
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大自在(5月27日)対立
2020年11月3日に実施され、大接戦になった米大統領選は記憶に新しい。最終的にはバイデン氏が得票率51・3%、獲得選挙人の数では306人と70人以上の差をつけて現職だったトランプ氏に勝利した。 ところが、トランプ氏とその支持者は敗北を認めず、選挙に不正があったと主張。結果の無効を求めて訴訟を連発した挙げ句、年が明けた1月6日に連邦議会に押し入って占拠する暴挙に出た。 事件に関与した支持者らは訴追され、昨年8月にはトランプ氏も起訴された。だが、トランプ氏への支持は依然、底堅く、ことし11月の大統領選で返り咲いた場合は、訴追された支持者を恩赦にする可能性すら指摘されている。 トランプ氏が
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社説(5月27日)カスハラ被害防止 社会全体で認識高めよ
厚生労働省は、顧客(カスタマー)が理不尽な要求をする「カスタマーハラスメント」(カスハラ)から従業員を保護する対策を企業に義務づける労働施策総合推進法の改正に向けて検討を始めた。企業には、対応マニュアルの策定や社内相談体制の整備などを求めるとみられる。改正案は2025年の通常国会にも提出する。 客や取引先といった立場を利用するカスハラは、従業員に対する威圧的な言動や過剰な要求、長時間の居座り、商品やサービスへの不当な言いがかり、ネット上での個人情報の拡散など形態はさまざま。土下座の強要などで警察に摘発されて表面化するのは氷山の一角だろう。立場が変わればカスハラの被害者にも加害者にもなり得る
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社説(5月26日)静岡県内大手が好業績 成長持続へ投資重ねよ
静岡県内に本社や主要拠点を置く上場企業の2024年3月期業績は、順調に推移した。自動車の生産回復や値上げの浸透、大幅な円安などを追い風にした企業が好決算を相次いで発表し、全体を押し上げた。 ただ先行きに目を移せば、各社の収益計画は国内外の景気見通しや為替動向などに不確実性が高いためか、守勢に映る。それでも増えた利潤で成長持続に不可欠な人材と設備両面への投資を重ね、物価と賃金の好循環実現への歩みを止めてはならない。 静岡新聞社が金融機関や国際会計基準(IFRS)採用企業などを除く31社の24年3月期決算を集計した結果、最終的なもうけを示す純利益の合計が前期比21・1%増となった。18社が増
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時論(5月26日)米ほど知らない麦のこと
初夏の季語に「麦秋」「麦の秋」がある。秋とは実りのときの意味。 俳人の夏井いつきさんが、この季語は時空を表すと解説している。〈東京を知らぬ子ばかり麦の秋 鈴木真砂女〉。そして「似て非なる」季語として挙げたのが「麦」。〈麦は穂にくもれど光り失わず 大野林火〉。対象に迫った観察眼と表現力に敬服する、と(「夏井いつきの季語道場」)。 小麦から作られるパンやビスケット、麺類、餃子(皮)などはよく食べ、大麦が原料のビールや焼酎を飲むのに、実は麦のことをよく知らない。スコットランド民謡の「麦畑」は鼻歌で歌えても(ただしドリフターズの替え歌)、緑の野山と黄色の麦畑が油絵にも例えられる風景をこの目で見た
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大自在(5月26日)排日移民法
1890年代から増加した東・南欧やアジアからの移民を制限するため、米国移民法の一部改正法が100年前の1924年5月26日に成立した。特にアジアからの移民は全面的に禁止する条項が設けられた。 既存の米国人が雇用を奪われるとの懸念や、日本出身者は地域に溶け込まず閉鎖的と見られていたことで、排斥機運が高まっていた。日露戦争後の日本の中国進出で、米国資本との衝突が増えたことも背景にあった。 当時は既に中国人移民が禁止されていて、事実上、日本人の門戸を閉ざす法律だったため、日本は「排日移民法」と呼んで反発した。反米感情が高まり、41年の太平洋戦争へと向かう一つの要因になったとされる。 24年は
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大自在(5月25日)誠
「生まれ年別の子どもの名前ランキング」を発表する明治安田生命保険のサイトには、1912年からの順位が残っている。大正元年だった12年は、男の子の1位が「正一」。次の年は「正二」、その次の年は「正三」がトップ。当時は、改元が影響したようだ。 2023年は「碧(あお=主な読み方)」が初の1位。サッカー日本代表の田中碧選手(デュッセルドルフ)の影響とも言われる。スポーツ選手にちなむ名前と言えば高校野球で人気だった荒木大輔さん(元ヤクルトなど)を思い出す方も多かろう。昭和後期の「大輔」ブーム。 「大輔」が頭角を現す前、圧倒的に人気だった名前がある。「誠」。1952~84年の33年間、すべて5位以
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記者コラム「清流」 サステナブルな庭
「サステナブルな(持続可能な)庭」と聞いて、ピンとくるだろうか。初めて耳にした時、植物を植えるのだから庭にはそもそも持続性があるのでは―と思ったが浅見だった。 浜松市の2会場で開催中の浜名湖花博では、サステナブルをテーマにしたり、そうした意識で管理したりしている庭が多く見られる。かつては花のある庭と言えば、花壇に色や高さをそろえて一年草を植え込み、花が終われば全て植え替えるのが主流だったという。確かに昔の学校花壇などはそんなイメージだ。 それが近年は、一度植えれば春ごとに芽吹く宿根草が人気。花の時期が異なる種類を組み合わせ、季節ごとの変化を楽しむ庭づくりが支持されるそう。手をかけ過ぎずに
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記者コラム「清流」 自分が選ぶ
1年前の富士市議選は、新人19人を含む42人の候補者が名前と顔を売った。新鮮味のある主張も目に留まり、誰もが自身との関わりを見つけられると思われたが、結果として投票率は過去最低となった。ぜひ投票所へ、との訴えもたくさん聞かれたのだが。 目下の知事選も地域の現状を候補者が叫び、課題を突いた政策に向けられる関係者の期待は大きい。県東部への思いを語る言葉はひときわ力がこもっているように聞こえ、終盤に来て神にも仏にもすがるような熱を帯びている。 演説会場を訪ねる中、違う候補者の会場にもいた若者と知り合いになった。「いろいろな候補の内容を知りたいと思って」。縁を感じたり頼まれたりする機会が増える中
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記者コラム「清流」 英国人社長の置き土産
電子楽器大手ローランド(浜松市浜名区)のゴードン・レイゾン社長(58)が家庭の事情により、任期途中で退任することになった。英国人のレイゾンさんは同社初の外国籍社長。ジーンズと、同社50周年記念Tシャツにジャケットを羽織るラフなスタイルでいつも気さくに、エネルギッシュに取材対応してくれた。 在任期間は2年3カ月と短かったが、会社のグローバル化の推進などで功績を残した。個人的に印象に残っているのは2022年8月、浜松市立の全97小学校に電子ピアノ「F701」を寄贈したことだ。 「音楽を奏でることで自己を表現し、豊かな音色を楽しんでほしい」と地域の音楽文化の発展に寄与したレイゾンさん。世界的な
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社説(5月25日)一茶「記録的安値」 持続化へ保険の普及を
静岡茶の持続可能性が深刻度を増したと言わざるを得ないようだ。今年の県内産一番茶は「記録的安値」となった。6月からの二番茶相場も懸念されるとして、JA静岡経済連は受注生産に徹し、生産中止も選択肢に加えるよう異例の呼びかけをしている。 県内一茶の生産と取引は4月下旬に本格的に始まる。「八十八夜」新茶商戦の大型連休ごろに盛期を迎え、流通量の増加とともに相場は日を追って下がる。今年は摘採適期の天候不順や先安感の広がりから、相場は二茶の価格帯まで急速に下落。流通日本一の静岡市の茶問屋街では終盤に1キロ当たり500円を割る取引もあった。 肥料や茶工場の光熱費などが高騰する中、一茶が見込んだ価格で売れ
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大自在(5月24日)ストーカー対策
ストーカー規制法を適用しても、凶悪な犯罪を防ぎきれないケースが全国で相次いでいる。東京都新宿区のマンション敷地内で今月、住人の女性(25)が刃物で刺され死亡した。傷は首や腹を中心に数十カ所あり、執拗[しつよう]に襲われたとみられる。 殺人未遂容疑で現行犯逮捕されたのは川崎市の男(51)。以前女性が経営していたガールズバーの客だったという。女性に付きまとったとして2022年5月にストーカー規制法違反容疑で逮捕され、22年6月から1年間、女性の自宅や店舗に近づかないよう同法に基づく禁止命令が出ていた。 恋愛感情のもつれによる待ち伏せや電話、交際要求などを繰り返す行為を禁じるストーカー規制法。
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社説(5月24日)袴田さん裁判結審 長期審理の弊害 反省を
現在の静岡市清水区で1966年6月、みそ製造会社専務の一家4人が殺された事件で、強盗殺人罪などで死刑が確定した袴田巌さん(88)のやり直しの裁判(再審)が結審した。検察側は確定審と同様に死刑を求刑、弁護側は無罪を主張した。判決は9月26日に言い渡される。 事件からまもなく58年。袴田さん側にはあまりにも長い闘いだった。最高裁での死刑確定は80年12月。釈放された10年前まで「死刑囚」として常に死と隣り合わせの日々を送ってきた。緊張下での長期拘留の影響で、袴田さんには「拘禁反応」が残って意思疎通が困難とされ、法廷に立つことができなかった。 なぜこれほどまでに時間がかかったのか。失った時間は
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コラム窓辺 上司との出会いと教え(久保田香里/静岡理工科大法人本部広報部長)
学生時代の就職活動では、数社の内定先企業から随分親切にしていただいたのですが、今の学校法人だけ全く異なる対応だったことを懐かしく思い出します。まだ「静岡県自動車学園」という法人名だった頃、当時の人事課長から初見でいきなり「あなた、何ができる?」と問われました。 当時はインターネットもない時代。軽い見学のつもりで行った私はとにかくびっくり。続けざまに「企画広報はできる?」と質問され、勢いで「何でもやります」と答えてしまいました。すると、ニコッと笑って「今度、“企画広報室”をつくるからやってみない?」と誘われました。それがのちに上司となる杉村嘉久氏との出会いです。 ち
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記者コラム「清流」 答えられなかった問い
「その学びを会社でどう生かすのか」―。就職活動中、そう問われ困った。大学での専攻は純粋な興味だけで選んだ哲学。当時、哲学から得られる仕事に役立つスキルが想像できず、うまく答えられなかった。 県舞台芸術センター(SPAC)が高校生らを対象に開講する「演劇アカデミー」では、生徒は演技指導を受けるほか教養なども学ぶ。4月の入校式で校長の宮城聰芸術総監督は「仕事に結びつく専門的な勉強は大事。でもそれだけではなく、人間とは何か、社会とは何かを広く知った方が良い」と生徒に呼びかけた。 記者として働く現在、哲学が仕事に生き、人生を豊かにしてくれていると実感する。常識に疑問を持ったり、物事をいろんな角度
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記者コラム「清流」 すてきな家族
筋痛性脳脊髄炎(慢性疲労症候群)を患い、闘病の経験や日々の思いをつづった著書100冊を、磐田市の横山小寿々さんと家族が市に寄贈した。診断が難しく「怠けている」と誤解されがちな疾病。同じような立場にいる人を勇気づけたいと長女綾乃さんのアイデアで実現した。 小寿々さんは苦しいそぶりは一切見せず、終始笑顔で取材に応じてくれた。綾乃さんも高校1年とは思えないほど立派に、市長に思いを説明した。それを温かく見守る父の記央さん。大変な闘病生活も明るく過ごす家庭が想像できた。 「次は磐田を舞台にした小説を執筆している」。できることが限られている中でも前向きに生きる小寿々さんと愛情で支える家族。当たり前の
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記者コラム「清流」 「明日の誓い」
「災害当時は小さな集落に報道陣が殺到し、大変だった…」。5月に発生50年を迎えた伊豆半島沖地震。27人が土砂にのみ込まれた南伊豆町の中木地区で、父と愛息を失いながらも消防団活動に従事した萩原作之さん(79)の言葉は、あまりに重い。 今春を最後に、伊豆半島沖地震で最大の被害を受けた中木地区の慰霊祭は幕を閉じた。取材で話を聞いた遺族らは記憶や教訓の継承へ、行政や町教委が果たす役目の重要性を説いた。それは報道側も同様だろう。慰霊祭がなくなっても歴史を紡ぐ必要がある。 昨今、災害報道を巡る風当たりは強い。それでも萩原さんは「当時、報道により全国から支援が得られたのは事実だ。大地震が
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【政流考】首相と菅氏の因縁対決
岸田文雄首相の苦境を見ていると、3年前の政治の風景を思い起こす。2021年8月の終わりから9月初旬にかけて、急増する新型コロナウイルス患者数と反比例するように、当時の菅義偉首相は窮地に陥り退陣を余儀なくされた。岸田首相の行く末があの転落の軌跡に重なっていくように映るからだ。 菅内閣の時に時計の針を巻き戻すと、まず21年4月に実施された衆参三つの選挙で自民党は不戦敗を含めて全敗した。参院広島選挙区再選挙、参院長野選挙区補選、そして衆院北海道2区補選である。このうち、広島と北海道は「政治とカネ」に起因する戦いとなり、北海道では候補の擁立すらできなかった。 この後、8月には菅氏の地元である横浜
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コラム窓辺 依存症自助グループ(中田健児/静岡少年鑑別所・法務少年支援センター静岡所長)
やめられない、とまらない―と言ってもスナック菓子の話ではありません。依存症の話です。犯罪臨床では薬物、アルコール、ギャンブル、セックスなどさまざまな物質、行為への依存症者と出会います。 彼らの多くは、表面上は「◯◯さえしなければ普通の人」に見えます。本人も「◯◯さえやめれば、強い意志さえ持てば、再犯はない」と主張します。 とはいえ、既に彼らは刑務所などに収容されるまでにトラブルを繰り返し、家族や仕事、社会的信用を失っています。出所後、頼れるのはかつての依存症仲間であり、再会すれば「世の中は冷たい。気晴らしに◯◯やろう」と誘われて、短期間で元の木阿弥[もくあみ]です。 そこで再犯予防の切
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大自在(5月23日)富士山と緞帳
華やかなステージが終わり、静かに降りてくる緞帳[どんちょう]。舞台と客席を仕切り、ステージの始まりと終わりを暗黙のうちに伝える。近年は使われないこともあるようだが、劇場やホールの舞台はかつて、さまざまな絵柄の緞帳で彩られていた。モチーフには富士山が多く使われていた覚えがある。 その富士山に、緞帳を降ろしたということか。山梨県富士河口湖町は、富士山がコンビニの屋根にのっているように見える写真が撮影できるスポットに、富士山が見えないよう巨大な黒い幕を張った。 設置はコンビニ前の道路を挟んだ歩道。道路を横切る危険行為や無断駐車、ポイ捨てなどマナー違反が続出し、地元から苦情が相次いでいた。町は警
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記者コラム「清流」 図書館と新聞社
静岡県内10市の公立図書館に電子図書館サービスの実態を取材した。各市町の司書は予算や利用促進の課題を挙げ、そろって大きなため息をついた。紙とデジタルの両立は難しい-。 有識者は「課題解決のため広報のアウトリーチ(館外に向けた活動)が必要」という。館内のポスター掲示では利用促進につながらない。そこにいる市民は紙の本を使いたくて来ている。直接来館できない市民にサービスの存在を伝えるためには、館外に向けた情報発信が必要不可欠だ。 紙と電子の両立にあえぐ姿は新聞社も決してひとごとではない。紙面でのアプリ利用呼びかけは有効なPRになっているだろうか。ネット時代において電子媒体での発信は必須。紙媒体
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記者コラム「清流」 しがらみのない投票を
川勝平太前知事の辞職に伴う知事選は終盤に入った。磐田市内で行われた街頭演説に度々出向くが、立候補者の声に耳を傾ける若者はわずかで、20代の自分は場違い感を味わった。 地域の方々と話しても、同世代とは選挙に関する話題は上がらない。自分も正直、記者という立場でなければ関心を持たなかったかもしれない。一方、地方議員や各種業界団体の一部は情勢を日々意識している様子や、立候補者との今後の付き合いを考慮して支援先を選ぶ姿もみられる。 選挙は自分たちの未来を選ぶための権利だ。若者は「勝ち馬に乗る」ように支援者を選ぶ必要がなく、政治への無関心はむしろ、しがらみのない投票ができる点で取りえだと感じる。同世
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社説(5月23日)規正法審議入り 野党案取り込み改正を
自民党派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件を受け、再発防止に向けた政治資金規正法改正案などの審議が衆院政治改革特別委員会で始まった。自民が単独で提出した改正案と立憲民主・国民民主両党による共同提出法案、さらに日本維新の会の独自案を加えた3案について、各党が趣旨説明を行った。 国民の政治不信は深刻だ。特に長年にわたって派閥による不正が続いていた自民と党総裁である岸田文雄首相に対する憤りは、危機的な内閣支持率の低迷や4月に実施された衆院3補欠選挙での「自民全敗」に表れている。引き続き政権を担いたいなら、政治資金の透明化を図る抜本改革を自らの生き残りをかけて断行するのが、政党として当然の姿だろ
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記者コラム「清流」 気候変動への不安
富士山頂付近の雪解け水が溶岩流の跡を流れ、山肌に数時間「川」が現れる現象「まぼろしの滝」。富士山須走口で見られる初夏の風物だが、山小屋関係者によると、今年は高温により例年より2週間近く早い4月中旬ごろから出現した。 ふと、浜松市の北端に位置する同市天竜区水窪町で勤務していた2018~20年の冬を思い出した。山あいの集落で、冬は窓を開ければ銀世界-と想像していたのだが、実際は2年とも異様な暖冬で市街地では雪すら降らなかった。岩壁を複数の大きなつららが覆う名物の「氷の壁」は一度も見ることができなかった。 避暑地として人気のある御殿場市では近年、夏場の最高気温が30度を超えることも珍しくない。
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コラム窓辺 ヒューマンな指揮者(宮澤敏夫/富士山静岡交響楽団専務理事)
日本初のオーケストラ設立は、110年ほど前になるでしょうか。当時外国でも活躍された指揮者は「赤とんぼ」などで有名な山田耕筰先生、近衛秀麿先生、貴志康一さん(28歳で没)が思い起こされます。 近衛秀麿先生は日本国第34代首相「文麿」の弟さんです。私はコントラバス奏者として、この先生の指揮で2度ほど演奏したことがあります。この先生はトスカニーニと並び称される最高峰の指揮者フルトヴェングラー氏と同じような指揮をされ、世間からは「振ると面食らう」と言われるほど迷指揮者でした。 曲はベートーベン「交響曲第5番」でした。出だしでエイッと気合を入れて振られるはずのところ、タコのように「ふにゃふにゃ」と
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大自在(5月22日)「急須で飲む」
「お湯を沸かす」「ご飯を炊く」。いや「水を」「米を」ではと言いたくても、やめたほうがよさそうだ。へ理屈と思われるのが落ちだろう。 「お茶を入れる」はよく使うが、「急須で飲む」はどうか。言わんとすることは分かる。本紙の過去記事にも少なからずあった。お茶っ葉を浸出する「リーフ茶」と緑茶ドリンクとの違いを言う文脈で使われることが多いようだ。今年の一番茶相場はリーフ茶の消費低迷で「記録的安値」という。 静岡県は長く煎茶主体だったため、リーフ茶は急須で入れて湯飲みで飲むと思いがちなのでは。かなり前だが、尾張地域では来客に抹茶を出すと名古屋の茶専門店主から聞いた。抹茶は急須を使わない。茶殻の後始末も
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焼津市ふるさと納税 100億円突破 制度活用 試みモデルに【記者コラム 黒潮】
焼津市へのふるさと納税の寄付額が2023年度、初めて100億円を突破し、過去最高額を更新した。4年連続で県内自治体トップを記録するフロントランナーは、全国でも屈指の人気の受け入れ先として定着している。ふるさと納税制度は08年の導入からさまざまな内容の見直しが行われ、問題点も指摘されてきた。市には現行のルールに則した事業の推進だけでなく、制度を活用した新たな取り組みのモデルとしての存在感も期待したい。 焼津市が23年度に受け入れたふるさと納税の寄付は106億8693万円。前年度から約31億円増加した。25億5782万円だった19年度から4年続けて数字を伸ばしている。全国トップクラスの約160
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記者コラム「清流」 学びやの行く末
遠く古里の出身小学校が本年度末で閉校することが決まった。記者が在籍した15年ほど前ですでに全校児童は40人を切っていたから覚悟はしていたが、やはり寂しい。 最後の運動会が行われた日、父から送られてきた写真を見て切なさが増した。母校は中学と校庭を共有していたが、一足先に閉校した中学側は一面草に覆われていた。 先日、静岡市清水区の旧清水西河内小の体育館などを活用して「子どもの遊び場」が期間限定で開設された。小さな子どもから小学生の親子まで幅広い年代が楽しめる空間。小学校としての歴史を終えた学びやに再び、はち切れんばかりの笑顔があふれた。 思い出の詰まったわが母校も〝役目〟を終えるのは、まだ
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記者コラム「清流」 ダイダイ産地の可能性
熱海市上多賀で5月中旬に開かれた熱海特産ダイダイの摘花体験会。香料、食品、ホテルの業界関係者が新たな商品やサービスの開発に向け、摘花作業にいそしんでいた。どのような成果が出るか楽しみだ。 「熱海割り」と称したご当地サワー、マーマレードなど、ダイダイの果汁や果皮を用いた事例は見聞きしていたが、花まで使えるとは知らなかった。その白くかれんな花は「ネロリ」と呼ばれ、葉も含めて精油の原料になるそうだ。 ダイダイは江戸時代、熱海の網代港に紀州の船乗りが持ち込み、定着したとされる。熱海では普及しつつある一方で、地元以外の認知度はまだまだ低い。果実も、花も、葉も、余すことなく活用できれば、真の産地へと
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記者コラム「清流」 自然大切にする縄文人
浜松市中央区の蜆塚遺跡を紹介する市のパンフレットが約30年ぶりに刷新されたというので、同遺跡に隣接する市博物館に取材した。A4見開き4ページにまとめられていて読みやすい。縄文時代後期から晩期(約4000~3000年前)の人たちの暮らしぶりに思いをはせることができる。 同遺跡は貝塚を伴う集落跡として1959年に国史跡の指定を受けた。貝塚と聞くと「昔のごみ捨て場」と教わった記憶がよみがえるが、研究者の間では、現代人がごみを捨てる感覚ではなく、自然に帰すという考え方が近いらしい。 鈴木一有館長は「縄文人は自然を大切にしていた。その心の持ちようを想像してほしい」と話す。いにしえの人々が持っていた
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【時評】「知の拠点」大学の機能不全 教養教育見直し 議論を(佐藤洋一郎/ふじのくに地球環境史ミュージアム館長)
人類が知識のうちに失ってしまった知恵はどこか? 人類が情報のうちに失ってしまった知識はどこか? ノーベル文学賞受賞者T・S・エリオットが「岩のコーラス」(1934年)という詩で懸念を示したのは、情報洪水のなかで「知恵」が失われてゆくことであった。エリオットの警鐘は今、インターネットやAIの登場、さらに偽情報の氾濫で、一層現実味を帯びてきている。 本来、情報は総合されて知識となり、その知識がさまざまな実体験を通して知恵となり、人生を豊かにし社会発展に貢献するものだ。そして、その場が「知の拠点」である。 大学もその拠点の一つだが、今の大学はその役割を十分果たしているとはいえない。知識の総合
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社説(5月22日)核ごみ処分場調査 丁寧な議論積み重ねを
「核のごみ」と呼ばれる原発から出る高レベル放射性廃棄物の最終処分場選定について、佐賀県玄海町の脇山伸太郎町長は第1段階の文献調査を受け入れると表明した。 文献調査受け入れを求める請願を町議会が採択したことを受け、脇山町長は「大変重い」と述べて町議会の意向を尊重する姿勢を示した。一方で「お金目的ではない」として、調査に伴う交付金目当てではないことを明らかにし、核のごみ問題の議論を喚起したいとの考えも示した。 玄海町には九州電力玄海原発があり、原発立地自治体としては初めて。全国では調査が進む北海道の2町村に続き3例目となる。核のごみはどこかに安全な形で処分しなければならない。核のごみの最終処
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コラム窓辺 エステの見本市にて(曽根原容子/Woman’sサポート理事長)
先日、東京ビッグサイトでビューティーワールドジャパンが開催されました。エステをメインとして、ネイル・ヘアなど美容全般の見本市です。私はかれこれ25年もの間、毎年通っています。 25年前はエステだけでしたが、年々大きくなり、今では最初の5倍くらいの大きさのイベントになっています。エステティックの業界もゆるく下降線をたどっていると言われていますが、毎年このイベントに行くと、そんなことを感じさせないくらいの活気があり、多くの人が来場しています。 私は、これから流行しそうなエステ機械や、化粧品などのリサーチもかねて毎年、行くのですが、今年は独立する前にお世話になっていたエステティックの会社から頼
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大自在(5月21日)VRゴーグル
今自分は“未来”にいると、高揚感を覚える瞬間があった。1990年代半ば、携帯電話を手にした時だった。かつてアニメやドラマで目にした空想世界の一部が実体化し、大人になった自分の手に握られている―というような。 昭和生まれのアナログ世代には、それ以上の驚きだった。遅ればせながら体験したVR(仮想現実)ゴーグル。スキーやダイビングで用いるゴーグルのハイテク版といった印象の、ずしりと重い機器を顔に付け、両手にコントローラーを握る。指示されるままにスイッチを押すと自分がいる場所とは異なる空間の映像が目の前に現れた。顔の向きを変えれば、ぐるりと周囲の様子が目に入る。自分はどこに
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記者コラム「清流」 変わる?高校野球
高校野球では今春、低反発の新基準バットが導入された。静岡県大会での本塁打は昨春の10本から3本に激減。二、三塁打の数も昨秋の137本から108本に減った。極端な打高投低傾向が是正され、守備力や機動力が以前に増して勝敗を左右する印象を受けた。 県大会で準優勝した静岡高の谷脇健心投手は100球未満での完封を今春の公式戦で2度達成した。「高めやインコースなど思い切った配球ができるようになった」と話すなど、導入の目的である投手の負担軽減につながっている様子。力と力のぶつかり合いだけでなく頭脳戦も楽しめた。 1本4万円ほどと高価な点が問題となっている以外は、現場の受け止めもおおむね好意的。どう守る
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【時評】最終コーナー迎えた知事選 公約実現可能性見極めて(河村和徳/東北大大学院情報科学研究科准教授)
26日投開票の静岡県知事選に向け、各陣営の支持拡大の活動は最終コーナーを迎えている。今回は国政の与野党が対決する図式となっているが、これは野党がそれなりに力を持っているから可能で、全国的にみると、この図式となる知事選は少数派である。 自民も立憲も弱いところの知事選では、第三極と呼ばれる勢力が結果を左右するようになっている。典型が東京や大阪である。無党派層が多く、既存政党とのしがらみを持たずに改革することを求めている有権者が多いのが背景にある。 令和になって目立つのが保守分裂選挙である。自民1強の状態のところで生じるのが基本だが、それにしても近年は多い。ここで注目すべきは対立の構図である
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社説(5月21日)認知症増加抑制 前段階での対策強化を
政府は、認知症の65歳以上の高齢者が2025年の471万人から60年には645万人まで増加するとの推計を公表した。高齢者に占める割合も25年の12・9%から17・7%に上昇する。政府は今回の推計を踏まえて1月に施行された認知症基本法に基づき、施策の基本計画を今秋に決定する。 今回、初めて推計した軽度認知障害(MCI)の高齢者数に注目したい。日常生活に支障はないものの、記憶力の低下がみられる高齢者で、認知症の前段階とされる。25年は564万人で、60年には632万人に達する。 15年に公表した前回の認知症高齢者の推計と比べると、25年、60年とも200万人以上減少した。MCIの高齢者の症状
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記者コラム「清流」 “映える”富士山
出勤時、沼津市内にある自宅の玄関を開けると、そびえる富士山が目に入る。雪の増減を見て季節の移ろいを感じられるのは、沼津市民の特権と思う。 山梨県富士河口湖町のコンビニ店越しに見える富士山が話題だ。SNS(交流サイト)で紹介され、撮影しようとする外国人観光客が殺到し、マナー違反も横行。ついには富士山を見えなくする「目隠し」が設置されることになった。それだけ富士山は外国人観光客にとって「キラーコンテンツ」。海越しの富士山を望む沼津市も、いつ同様の騒動が起きるとも限らない。 富士山の“映えスポット”は沼津にも数多くあるはずだが、話題になっていないのもいささか寂しい気がす
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記者コラム「清流」 浜松っ子の熱量
「浜松に生まれて良かったな」。威勢の良いかけ声やラッパの音色が響き渡る浜松まつりの凧(たこ)揚げ会場で、高校生ほどの若い女性2人の話し声が聞こえてきた。会場に集まった大勢の浜松っ子の気持ちを代弁しているように思えた。 出身地である岐阜県の地元の祭りは規模が大きいとは言えないので、昨年初めて見たときは、その熱量にカルチャーショックを受けた。今年は風が弱い時間が長く、なかなか凧が高く揚がらなかった。それでも諦めずに凧糸を引いて、額に大粒の汗を浮かべながら走り続ける姿に、改めて心を揺さぶられた。 地域内のつながりの希薄化が懸念される昨今、良い意味で“時代錯誤”なこの祭り
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コラム窓辺 失敗は成功のもと(能見公博/静岡大工学部教授=宇宙工学)
自動車会社に勤めていた時期がある。品質管理の仕事に関わった。自動車の一般部品は1年、重要部品は3年の保証があり、無償修理になるためユーザーはディーラーに持ち込む。その情報を集めて品質向上を目指すシステム構築だった。統計的な品質改善、なるほど、と思った。事故につながるような不具合は市場に出してはいけないが。 宇宙機は一品物であり、また壊れたからといって手軽に直せず、税金を使うので国民の期待に応え失敗しないことが望まれ、超高品質とせざるを得ず、それが高コストにつながり悪循環であった。失敗は成功のもとと言われるが、なかなかそれが許されない世界。 大学発の超小型衛星は、このような考え方を変えたと
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大自在(5月20日)ローマ字と相田さん
富士山を英語表記すれば、ヘボン式ローマ字では「Mt.Fuji」。訓令式なら「Mt.Huzi」。どちらが見覚えあるか、一目瞭然だろう。静岡県の「しずおか公共サイン」のルールに「固有名詞はヘボン式で」とある。 国語辞典の巻末付録で見かける「ローマ字のつづり方」は違う。一般に国語を表す場合は訓令式を用いるとし、限定的にヘボン式も認める。こちらは1954年の内閣告示による。 母音と子音を規則的に配置する訓令式(し=si)に対し、ヘボン式(し=shi)は英語の発音やつづりに近い。学習指導要領では内閣告示を踏まえた学習を求めるが、実際は道路標識やパスポートなどヘボン式が浸透している。 盛山正仁文部
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社説(5月20日)経済安保新法 運用の透明化欠かせぬ
機密情報の保全対象を経済安全保障分野にも広げる新法「重要経済安保情報保護・活用法」が成立した。 国が身辺調査をして信頼性を認めた人のみが情報を扱える「セキュリティー・クリアランス(適性評価)」制度が導入されることになり、同様の制度を運用している欧米との間で、当局間の情報共有や民間企業の競争力強化を図ることができるとされる。 一方で、資格審査のために行う身辺調査によるプライバシーの侵害や、国が恣意[しい]的に情報指定をすることで国民の知る権利が制限される恐れがあるという運用面の懸念が残る。この点は国会審議でも曖昧なまま、多くの野党も賛成して新法を成立させた。 民主主義陣営と強権国家陣営の
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社説(5月19日)狂犬病予防接種 集合注射 復活するべき
狂犬病予防法は、4~6月を犬の狂犬病ワクチンの注射月間と定めている。飼い主は1年に1回の義務を確実に果たしてもらいたい。 1990年代半ばまでほぼ100%だった全国の注射率は2000年度に80%を割り込み、22年度は70・9%にまで落ち込んだ。静岡県は登録約19万5千頭に対し注射率は77・8%にとどまる。全国と同じように漸減傾向にある。 狂犬病は犬、人間を含む全ての哺乳類が罹患[りかん]する。ウイルス感染し発症すると確実に死亡するとされ、治療法はない。国内で人が感染・発症した最後の事例は1956年だが、県獣医師会は注射率の低下による感染リスクの高まりに危機感を抱いている。 気がかりなの
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時論(5月19日)国立劇場の空白長引かせるな
文楽のすごさを最初に実感したのは、東京・国立劇場で見た「摂州合邦辻[せっしゅうがっぽうがつじ]」だった。1月に亡くなった豊竹咲太夫さんの、切場[きりば](物語のクライマックス)でのたたみかけるような語りの迫力に圧倒された。 その国立劇場の老朽化に伴う再整備事業は、入札がこれまで2度にわたって不調に終わり、昨年10月にいったん閉場した劇場の再開のめどが立っていない。目標とする2029年度末の再開場の延期は、避けられない状況だ。 1966年に開場した国立劇場は、日本の伝統芸能にとって最大のとりでと言える。歌舞伎や文楽、邦楽や日本舞踊などの公演、担い手の育成などを通じ、その魅力の発信と継承に大
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大自在(5月19日)ベースボール・ファイブ
7月のパリ五輪開幕が迫り、国内外で出場権争いが続く。上海ではきょうまで、国際オリンピック委員会(IOC)が新設した都市型スポーツの五輪予選シリーズが開催されている。 スケートボード、自転車BMX、スポーツクライミング、ブレイキン(ブレイクダンス)を、一つの会場で実施。スポーツと音楽、芸術などを融合させたイベントに、若年層の五輪離れに歯止めをかけたいIOCの思惑が透ける。だが、公式サイトのライブ配信は、十分に楽しめた。これからの五輪の中心になるのかと思いながら、迫力ある映像に見入った。 都市型スポーツの対極にあるのが野球だろう。広大な球場で大人数がプレーし、試合時間も長い。コンパクト指向な
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【現論】衆院3補選から考える 国民は新しい政治を期待(白鳥浩/法政大大学院教授)
4月28日に投開票された衆院東京15区、島根1区、長崎3区の3補欠選挙に関するフィールド調査を、筆者は教え子とともに実施した。その結果「これまで」の岸田政権だけでなく、日本政治の構造自体を問う選挙であったと同時に、「これから」の日本政治の未来図を浮かび上がらせ、政党政治や公共政策の課題を検証するためのものだったと理解した。 個々に特色 三つの補選はそれぞれ特色があった。 島根1区ではまさに、これまでの日本政治の構造が問われた。島根という「保守王国」で与野党による一対一の対決となり、岸田政権への民意を直接映し出す選挙になった。 その意味で、島根1区においては政権の「業績」が争点となっ
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大自在(5月18日)熱血教師
テレビ画面を見つめる顔が、少しこわばっているように見えたのだろう。「お前を怒っているわけではないのに」と母から笑い声が漏れたのは半世紀ほど前。画面にはグラウンドの選手を鬼の形相で叱咤[しった]激励する勝沢要さんが大写しされていたと思う。 清水東高サッカー部を4度全国制覇に導いた名将の訃報が先日届いた。85歳。教え子には「三羽がらす」と称された長谷川健太氏、大榎克己氏、堀池巧氏や武田修宏氏ら後のJリーガーが名を連ねる。 2003年12月の第4回県市町村駅伝競走大会の前夜、勝沢さんを初めて取材した。熱海市教育長を務めていたが、画面越しに見た熱血教師のイメージしかない。対面を前に緊張したのを覚
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社説(5月18日)高齢者の身元保証 安心感得られる支援を
身寄りがない高齢者に入院時の身元保証などのサービスを提供する民間事業者が増える中、契約上のトラブル防止を狙いに政府は事業者が守るべきガイドライン(指針)の案を示した。契約書や重要事項説明書の交付、サービスの時期や内容の記録作成と保存を要請するのが指針の柱で、一般からの意見公募を経て今月中にも決定する。 1人暮らしの高齢者の増加に伴い、入院時や高齢者施設入所時に求められる身元保証、日常生活での金銭管理、死後の火葬手続きといった事業所サービスの需要が高まっている。その一方、事業者に勧められるままにサービスを追加し、高額な契約を結んでしまったなどのトラブルも報告されている。 頼れる親族がいない
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記者コラム「清流」 見れば分かるキャッツ
「ジェリクルキャッツを知っているか」。劇団四季のミュージカル「キャッツ」は40年以上愛されている名作だが、周囲の反応を見るにどんな内容か知る人は少ないようだ。ご存じ「ライオンキング」や「オペラ座の怪人」との違いは何か。原作の知名度の差と言われればそれまでだが。 まずシンバやクリスティーヌ(あるいはファントム)のような主人公がいない。24匹の猫による群像劇で、一本道のストーリーというわけでもない。ざっくり言えば願いをかなえる猫を1匹だけ選ぶ特別な儀式の話だ。こう書くとバトル漫画の匂いがしてきたな。 「キャッツ」名古屋公演が千秋楽を迎えた。後は7月の静岡公演開幕を待つのみ。「どんな話なの?」
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記者コラム「清流」 地域と学校
浜松市の都市部から車で1時間半の天竜区佐久間町の浦川地区。そこからさらに車で30分山に入ると、50年以上前に閉校した旧吉沢小の学校跡がある。天竜区では、こんな学校跡がたくさん残っている。 この地区の浦川小も開校151年目の本年度を最後に閉校する。地元住民が意見を出し合い、最寄りの小学校と統合する苦渋の決断をした。地元住民らは閉校した後の校舎をどのように活用するか模索している。浦川小に限らず、山間部で起きている難しい課題だ。 かつて多くの学校があった地域の歴史を学ぼうと、浦川小は児童が学校跡を巡る取り組みを始めた。旧吉沢小を訪れた児童は「自分たちの浦川小の歴史を学びたい」と話した。子どもが
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記者コラム「清流」 沼津の海の幸に光を
沼津市西浦江梨地区で長らく続く伝統のヒジキ漁が4月、今年も無事に行われた。調理方法も独特で完成までの丁寧な手作業が、しゃきしゃきとした食感とおいしさを実現している。 大潮の干潮に合わせて、江梨漁業女性部の人たちが海に入り、浅瀬の岩場で刈り取る。回収するとすぐに大釜で一気に煮込む。水洗いした後に、潮風に当てながら太陽の下で日干し、全体的に日光が当たるようにひっくり返す。気が遠くなるような作業を施すと、ヒジキは黒く輝き、一般的なものとはひと味違った仕上がりになる。 参加者の高齢化に加え、天候やヒジキの生育状況に左右され、今以上の大量生産は難しいが、地元民は「春の風物詩」として伝統を絶やさない
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【視標】単身高齢者、50年に1000万人超え 社会で支える備え急務 みずほリサーチ&テクノロジーズ主席研究員/藤森克彦氏
国立社会保障・人口問題研究所は、4月に2050年までの世帯数の将来推計を発表した。推計では、身寄りのない単身高齢者の急増が示された。誰もが安心できる高齢期を過ごせるよう、社会としていかに備えていくかが問われている。 注目すべき推計結果がいくつかある。第一に、65歳以上の単身高齢者数が、2020年(738万人)から50年(1084万人)にかけて1・5倍近くになることだ。また、65歳以上人口に占める単身高齢者の比率をみても、20年の21%が50年には28%に高まる。高齢期に1人暮らしになることは、誰の人生にも起こりうることといえよう。 第二に、単身高齢者に占める未婚者の比率の急増である。具体
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大自在(5月17日)瑞浪市
パレオパラドキシアは約1300万年前に絶滅した束柱類に属する哺乳類。北米西岸から日本列島にかけての北太平洋沿岸域で、海岸近くの浅い海にすんで海藻などを食べていたと考えられている。 円柱を束ねたような臼歯とワニのような姿勢が特徴だ。ただ、こうした特徴を持つ哺乳類が現存しないため「古代の矛盾だらけのもの」を意味する名が付いた。先月、貴重な全身骨格の化石が発見されたと、岐阜県の瑞浪[みずなみ]市化石博物館が発表した。保存状態がよく、研究の進展が期待されている。謎に満ちた生態がどこまで解明されるのか、興味は尽きない。 「化石のまち」として知られる同市。「瑞浪」は土岐川(水)の南の意味と、稲穂が実
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社説(5月17日)静岡県内の紙関連産業 地域挙げて需要開拓を
静岡県の基幹産業の一つ製紙・紙関連事業が、デジタル化の加速や世界経済の減速などで低迷している。日本製紙連合会が1月に発表した今年1年間の紙・板紙の需要見通しは厳しく、3年連続の前年割れが確実としている。 同連合会の会員登録企業と関連企業の製造拠点は、県東部をはじめ県内に12あり、全国最多。会員以外も合わせるとさらに多く、連合会の見通し通りだと影響は長期に及ぶ。特に家庭紙や板紙製造を強みとする富士市は、県内の紙関連製造品出荷額の半数超を占めていて、需要低迷による地域経済への打撃は大きい。このため同市では新商品の開発などに向け、製紙会社と異業種のマッチングが始まっている。市はこうした企業同士の
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コラム窓辺 二つの10万時間(久保田香里/静岡理工科大法人本部広報部長)
昨年ひょんなことから挑戦した国家資格キャリアコンサルタントの学びの中で、「二つの10万時間」の話が“目からうろこ”でしたのでご紹介します。 20歳から60歳まで1日10時間の拘束、1年250日間働くとして、40年間で労働に費やす時間は10万時間。次に60歳で引退後、80歳までの自由な時間を1日14時間、年間365日だと10万時間余り。つまり「職業人生40年で費やした労働時間と、定年後20年間に自由になる時間はほぼ同じ」だそうです。そう聞くと、苦労した職業人生が走馬灯のようによみがえって、まだ同じくらいの時間が残されていることに勇気をもらう方も多いのでは? さらに人生
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記者コラム「清流」 少子化は問題ばかりか
30年以上前の他県での話だが、記者が通った中学校は1学年11クラスの編成だった。高校は同12クラス。各教室に約40人ずつ生徒がいたのだから、先生方はさぞかし大変だっただろう。 全国の15歳未満の子どもの数は当時から4割も減った。県内では各地で学校の統廃合が進む。少子化に関する話題は確かに寂しい。 一方で、振り返ってみると、子どもがひしめき合っていた頃の学校で、大人の目が隅々まで行き届いていたかは疑問だ。かつて子どもだった立場から見ると、生活の場や、あるいは受験、就職に際しても、今は子どもたち個人が大事にされているように思える。 人口減につながる少子化は、政治的には負のイメージで語られが
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記者コラム「清流」 茶園で見た月
新茶期を告げる「月夜の茶摘み会」が今年も掛川市五明で開かれた。夜の茶園に音楽が響き、ランタンのやわらかな光に照らされて芽を摘むのはまさに非日常体験。運営のため市内茶業関係者も多く出席した。 ただこの日は月がなかなか姿を見せず、終盤にようやく真ん丸の黄色い光が見えた。雲が切れるとどよめきが起こり、会場はメインの登場を喜び合った。さわやかな夜の体験だった。 このすがすがしさとは裏腹に、業界を取り巻く状況は厳しい。茶価が安定せず農家の経営を圧迫している。現状を打破しようと市は今期から、生産者と茶商が連携して適正価格を形成する「茶業版フェアトレード」を進める。関係者がみな希望を持てるようになり、
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記者コラム「清流」 4月のひな祭り
わが家では今年、4月までひな人形を飾った。「しまい忘れか」と言われてしまいそうだが、そうではない。御殿場市や小山町など全国の一部地域では、旧暦の3月3日に近い4月3日を桃の節句としている。 市内で聞いた話では、高冷地でもち草が3月に摘めないため、4月に祝うようになったという。ひな人形に添えるひし餅は、下から順に白い餅(雪)、草餅(芽吹き)、赤い餅(花)の3色を重ねる。雪の上に葉が出て、花が咲く喜びを表現しているそうだ。 御殿場に転居した昨年3月、まだ歩けなかった娘。4月に2歳になったが、今ではすいすいと階段を上り下りし、成長の早さに驚かされる。ひな人形を見るとつい、「娘が将来幸せな家庭を
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大自在(5月16日)盛岡の地で
米紙ニューヨーク・タイムズが旅行先に薦める「行くべき52カ所」の2023年版に盛岡市が、24年版には山口市が選ばれた。国内地方都市の魅力が海外からの視点で見直されているのは間違いなさそうだ。静岡県にもチャンスがあるかもしれない。 国際的に知られた都市ではなく、どうして盛岡なのか。選出時には少なからず驚きをもって受け止められ、その魅力を探ろうとマスコミ報道が相次いだのを覚えている。恥ずかしながら訪れたことがなく、岩手山とわんこそばのイメージしかなかったので新鮮だった。 となると行ってみたくなる。訪れた大型連休中は好天にも恵まれ、雪渓を残す岩手山は青く大きく見えた。市街地を歩くと、教育者の新
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社説(5月16日)新知事と県議会 緊張感持って“両輪”に【2024選択 知事選】
静岡県知事選は間もなく17日間の選挙期間を折り返し、26日の投開票に向けて各候補者が最終盤の追い込みをかける。4期15年務めた川勝平太前知事の辞職に伴う今回選は、川勝氏が初当選した2009年7月の知事選と同様、与野党がそれぞれ支援する新人が激突する与野党対決の構図になった。ただ、自民党派閥の裏金問題や候補者の出身地の地域性も影響し、有権者の最終判断を党派だけで見通すことはできない。 09年知事選で川勝氏を支援した旧民主党は直後の解散・総選挙で政権交代を実現したが、県議会では自民が多数派を握り続けた。知事選のたびに圧倒的強さを見せつけた川勝氏も、県議会の自民との対立関係は解消できず、衝突を繰
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コラム窓辺 少年鑑別所の図書室(中田健児/静岡少年鑑別所・法務少年支援センター静岡所長)
少年鑑別所には少年用の図書室があります。少年鑑別所の収容期間はおよそ4週間。その間の娯楽、自主学習のためです。当所の蔵書は約2400冊。性別、年齢、学力、知能、流行、国籍などを考慮し、小中高の学習参考書、資格取得や就労支援に関する実用書、小説や漫画本、外国語図書を整備しています。 ここで大切なことは、少年に興味を持ってもらえる本、少年の知能、学力で読み切れる本をそろえることです。大人の目線で良かれと思って偉人伝や自己啓発本などを配架しても、誰も手に取りません。少年の多くは、家庭や学校で読書を楽しめるような平穏な環境で育ってきていませんし、少年鑑別所で読書するのもまずは暇つぶしです。漢字の読
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【時評】小集落の防災機能確保 都市計画の手法活用を(岩田孝仁/静岡大防災総合センター特任教授)
急速な人口減少と高齢化が進む日本の中でも、地方はその傾向が顕著である。今年の元日に発生した能登半島地震は、まさにそうした地域を襲った。突然の災害で過酷な負荷がかかった時、地方の小集落がどう生き残っていけるかは日本社会の大きな課題である。 日本列島のどこに住んでも地震発生の可能性はある。地震対策には住宅の耐震化が基本であり、全都道府県の平均では耐震化率が87%(2018年現在)とのことであるが、今回の被災地の能登半島では50%前後の自治体が多い。地震対策を進めてきた本県でも、耐震化率60%前後の自治体は決して例外ではない。経済活動の活発な都市域は建て替えや新築需要も多く、結果的に耐震化率は高
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記者コラム「清流」 レジェンド不屈の闘志
ラグビーリーグワン・静岡ブルーレヴズの矢富勇毅選手が今月の最終節を最後に現役を引退した。公式戦通算出場はチーム歴代3位の151試合。レジェンドの姿を1万3000人超の観衆が目に焼き付けた。 けがと戦った現役生活。受けた手術は15回ほど。だが必ず彼はグラウンドに戻ってきた。幾多の困難に打ち勝った不屈の闘志に周囲は勇気づけられた。そんな背景を知った上で見た最終戦。勝手ながら、39歳の姿を自分の人生と重ね合わせていた。 生きることも挫折の連続。それを乗り越えるのが人生だと彼の背中は語っていた気がする。私自身、失敗に打ちひしがれる日が何度もある。でも矢富勇選手のように逆境から立ち上がれる強い人間
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記者コラム「清流」 富士山が見える幸せ
「日本一の山を日常的に見られているのは特別なことだと思わないと」。三島市を拠点に自転車競技の五輪出場を目指す「チームブリヂストンサイクリング」の今村駿介選手が取材中口にした言葉に思わず納得した。 数年おきに県内各地を転居する記者にとっては、日常的に富士山が見えるか否かは勤務地に左右される。三島支局に勤務していた10年前、アパートから毎日見える霊峰が癒やしだった。見えなくなると見たくなるもの。異動後に存在の大きさをかみしめた。 今村選手は昨夏の世界選手権で銅メダルに輝くなど着実に実績を積んできた。東京五輪を逃した悔しさが3年間の意欲の源だったという。後はパリ切符を手中にするのみ。世界の頂に
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記者コラム「清流」 花ある日常 心豊かに
小学生のころ、毎週月曜の早朝に祖父が自宅に花束を持って訪れた。「きれいな花は心を豊かにするんだ」と手渡され、祖父が育てた色とりどりの花を抱えて学校の教室に持っていくのが祖父から託された大事な“仕事”だった。 教室に飾られた花を見て友人や先生が喜ぶ姿を覚えている。自宅では友人と枯れそうなパンジーを使って色水を作ったり、学校の昼休みにはツツジの蜜を吸ってみたり。日常の中にはいつも花があった。 浜名湖花博2024が開幕した。園内で花との記念写真を楽しむ人の姿はもちろん、土産で花を購入する人の姿が印象に残った。小さな男の子が「水いっぱいあげたら大きくなるかな」と優しく両親
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コラム窓辺 楽員と対峙する立場に(宮澤敏夫/富士山静岡交響楽団 専務理事)
オーケストラの事務局長になる前は、20年間コントラバスを演奏していました。弦楽器の中でもひときわ大きく、持ち運びにかなりの労力が必要で、演奏家でなく「音楽労働者」と呼ばれたこともありました。 しかし、この楽器の役割は大きく、音楽を支える根音を常に演奏しています。ウィーンフィルハーモニー管弦楽団の首席奏者だった私の先生、ルートヴィヒ・シュトライヒャーさんからは「われわれこそ一番の音楽家でなければならない」とコントラバス奏者の心得を教え込まれました。その根音を基にハーモニーを作っていくのがオーケストラです。 大きな楽器ゆえに高めの椅子に座って、オーケストラ全体を見渡しています。誰がどれだけし
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大自在(5月15日)「五月病」
最長で10連休だった大型連休が終わった。4月の新年度開始とともに就職や進学などによって新天地で生活をスタートさせている方も多いであろう。 受験や就職など大きな目標を達成し、燃え尽き症候群のようになったり、環境変化にうまく対応できずに大きなストレスを感じるようになったりするのもこの頃だろう。こうした状態は長らく「五月病」と呼ばれてきた。 正式な病名ではない。病名なら適応障害、うつ病、発達障害などが挙げられるようだ。5月ではなかったが十数年前の数年間、うつ病と診断される時期が断続的にあった。 順調だった仕事に、理由も分からず全く自信が持てないようになり、人との接触ができなくなった。早朝に目
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記者コラム「清流」 「眠れる獅子」
静岡の川の上流に、今も静かに「眠れる獅子」が潜んでいる。ダム貯水池内に堆積した土砂のことだ。 本来、土砂は川の営みの一部として、下流の地形を形作り、恵みの源となってきた。しかし、せき止められた土砂が“目覚める”時、その破壊力は想像を絶する。19年前、宮崎県諸塚村の豪雨でダム内からあふれ出した土砂が猛威を振るった。「きれいな静岡の川を守ってやってください。私たちみたいに災害が起きてからでは遅いです」。取材にそう訴えた住民の言葉が重い責任を突きつける。 1960年代以前に造られた県内のダムは土砂の割合が半分以上を占める。川が本来の姿を取り戻す鍵にもなる堆砂の解決。決し
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閉校後の地域課題解決へ 子ども呼び込む対策を【記者コラム 風紋】
愛知県境に近い山間部、浜松市天竜区佐久間町の浦川小が本年度末、151年の歴史に幕を閉じる。全校児童は現在8人。閉校後は佐久間小と統合し、合わせて20人に満たない人数となる。浦川地区の地元住民らは4月末、閉校に向けた準備会を初めて開いた。閉校後の地域の将来像を描けるのか、教育環境をどう保っていくのかなど、地域だけでは解決が難しい課題と向き合っている。 浦川地区は同区佐久間町の西側に位置し、人口は4月現在872人。浜松市の都市部から車で約1時間半かかる、山と川に囲まれた集落だ。準備会には地元住民、市教委、浦川小の教職員ら約30人が集まった。出席した男性は「閉校する状況になることは数年前まで想像
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記者コラム「清流」 市町愛が伝わる広報紙
ある小さな田舎町の広報担当になった新人女性職員が主人公の小説「謎解き広報課」(天祢涼著)を読んだ。都会出身で第1志望の部署とは異なる広報課に配属されたが、広報紙づくりを通して次第に町への愛着を深める物語だ。 当初は無難に仕事をこなそうと考えていた彼女だったが、多くの出会いがきっかけで広報紙は住民に活力を与えることができると気づく。制作予算を巡り存廃問題にも直面。広報紙の価値を見つめ直す一冊だ。主人公が取材先などで遭遇するさまざまな疑問を解決していく展開も面白い。 早速、御前崎市の「広報おまえざき」5月号を見ると、新市政の意気込みや輝く市民を取り上げていた。広報マンの思いと工夫を感じた。読
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記者コラム「清流」 家族動画 幸せ“貯金”に
随分前のことだが、子どもが生まれた時の感動は忘れられない。特に末っ子が誕生した直後の数日間、病院の個室で家族全員で寝泊まりしたのは特別な時間だった。空間は狭く物は満ち足りなくても一緒にいるだけで大きな喜びを感じた。 長泉町の産婦人科医院が、出産前後の赤ちゃんと家族の写真をまとめた動画のプレゼントを始めた。同様のサービスは赤ちゃんが生まれてからの場面が多くなりがちだが、同院は妊娠初期からの写真も積極的に取り入れる。新しい家族を迎えるうれしさを記録するため。院長は「(成長して見返すと)互いに感謝の気持ちが芽生える」と効果を語る。 記者は子どもが思春期に突入し子育ての難しさが一段と増した。クロ
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社説(5月15日)2024選択 知事選 人口減に歯止めを 若い女性の声 直接聞け
経済界有志による民間組織「人口戦略会議」が4月末、2050年までの地方自治体の持続可能性に関する報告書を公表した。本県の9市町を含む全国744自治体を、将来的に「消滅の可能性がある」と指摘した。子どもを産む中心世代の20~30代女性が半数以下になるとの推計が根拠になっている。消滅可能性の分類から外れた自治体であっても、決して楽観視はできないと分析している。 若い女性の減少は進学や就職、結婚を機に地元を離れ、そのまま戻らないことが主な要因とされる。本県は首都圏と中京圏に挟まれて流出しやすい立地にあり、人口移動のデータでも10代後半から20代前半の女性の転出超過が顕著に表れている。 こうした
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【時評】シアスター・ゲイツ「アフロ民藝」 理想と実践 明快に提示(山口裕美/掛川市「現代アート茶会」芸術プロデューサー)
ArtReviewの2023年「アート業界で影響力があるベスト100ランキング」第7位のアーティスト、シアスター・ゲイツに会ったのは、2年前の国際芸術祭あいちの常滑会場(愛知県常滑市)だ。陶芸家、彫刻家、都市計画のキーパーソン-。たくさんの肩書で紹介される彼の表現活動は多岐にわたる。 日本の哲学とブラックアイデンティティーを融合させてきた彼の集大成ともいうべき個展「アフロ民藝」が、東京・六本木の森美術館で開催中だ。今年のベスト3に入るのは確実だと思う。 最初の部屋には、河井寛次郎が所有していた江戸時代後期の僧侶、木喰上人の《玉津嶋大明神》と彼自身の作品、次の部屋には本展のために常滑で制作
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コラム窓辺 剣道を通して(曽根原容子/Woman’sサポート理事長)
40年前の話ですが、私は高校時代に部活動で剣道を習っていました。勉強なんてほとんどしないで、剣道にいそしんでいたわけですが、今の時代では考えられない日々でした。 掛かり稽古の時に、先生にわざと転ばされたり、突きをされて喉のところがアザになったり、試合に負けて防具をかぶったまま、1キロくらい走らされたり。合宿の時には夜中に先輩に起こされて、道場に正座をさせられ、お説教もされました(これは昔からの伝統だと後で知りました)。また、あいさつ・礼儀・言葉遣いも厳しかったです。当時はそれが理不尽だとも思わず、ただ一生懸命でした。 私たちの時代の三島南高校剣道部は、男女ともに東部地区ではとても強かった
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大自在(5月14日)ガザの詩人たち
イスラエルは76年前の今日、建国を宣言した。その翌日、レバノン、エジプトなど5カ国がイスラエルに宣戦布告。第1次中東戦争が勃発した。 第1次世界大戦に端を発する中東の対立が、アラブ諸国が「ナクバ」(大惨事)と呼ぶ事態に発展した。今、パレスチナ自治区ガザで起きている「ジェノサイド」(大量虐殺)とも言うべき現況は、ナクバの忌まわしい到達点にも思える。停戦を祈るばかりだ。 4月下旬に出た雑誌「現代詩手帖」5月号が、各書店で売り切れている。版元は異例の増刷を決めた。特集は「パレスチナ詩アンソロジー」。同地に関わりのある詩人12人の言葉が胸に響く。 ガザを代表する詩人リフアト・アルアライールさん
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記者コラム「清流」 自分たちで選ぶ「未来」
今回の知事選を若者がどう見ているか取材しようと、大学生5人による座談会を静岡市内で開き、記事にした。「知事の辞職表明は衝撃だったが、『次の知事』への関心は低い」「自分の1票で社会が変わると思えない」といった若者らしい率直な声が聞けた。 進行役を務めた私は、15年ぶりに県のトップが交代する今回の選挙は、間接的かもしれないが、県の今後の針路を選ぶ貴重な機会になると話した。次の知事はリニア中央新幹線工事や中部電力浜岡原発の再稼働などの重要課題を判断する立場となり、南海トラフ地震が起きれば災害対応の責任者になる。だからこそ、各候補の公約の違いをしっかりと見極める必要がある。 本紙の投票率向上キャ
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記者コラム「清流」 ようやくお茶派に
静岡県に来たのが約4年前。正直、静岡に住んでからも最近までコーヒー派だった。朝は湯を沸かして市販のドリップコーヒーを入れ、取材の合間にコンビニで買い、原稿執筆の際にも飲むのが当たり前だった。 ただ、袋井支局に着任してから取材先などでお茶が出されることが格段に増えた。徐々にコーヒーを飲む回数は減り、数カ月で完全にお茶派に寝返った。 一番のきっかけは、茶葉をいただいたことだった。ようやく急須を買い、お茶教室の取材で学んだ方法で入れた。思わずうなった。味と香りに癒やされ、何より体に合っている気がした。その日から湯飲みで1日平均10杯近く飲む。 「急須で飲むお茶うますぎ」。最近は連絡を取った友
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記者コラム「清流」 地域守る誇り
「はたらく車」はなぜ子ども心をくすぐるのだろうか。ゴツい見た目と特殊な装備が頼もしさを感じさせるからか。 富士宮市に完成した「宮っ子!消防わんぱーく」に、役目を終えたばかりのポンプ車と救急車が展示された。防火服を着た子どもたちが運転席のボタンを押したり、ホースを握ったりと、消防士になりきって楽しく遊んでいる。 なりたい職業ランキングでは上位の消防士だが、実際には消防士の確保は全国的な課題だ。同市でも年々受験者数が減っている。 職業の選択肢が多様な現在、車両に触れる機会だけでは「きっかけ」として足りないのだろう。現隊員らは炎に立ち向かう勇敢な姿に憧れ、志したという。彼らが地域を守るヒーロ
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社説(5月14日)2024選択 知事選 教育現場の改革 個を尊重し学び充実を
教育は自己実現を支え、社会の基盤をつくる重要な営みだ。時代の縮図ともいえる教育現場は今、多くの課題を抱えている。不登校やいじめの増加、担い手である教員の過重労働などだ。加速する授業のデジタル化にも対応しなければならない。静岡県や県教委は主体的に現場の課題解決に取り組み、子どもそれぞれの個を尊重することで学びを充実させる必要がある。 子どもたちが個性を発揮し、伸び伸びと学ぶための大前提は教員がやりがいを実感し、生き生きと教壇に立つことだ。だが、近年は過重労働や精神疾患による休職の増加などから「ブラック職場」とまで呼ばれる不人気な状況に陥っている。 教員の確保策を検討している中央教育審議会
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D自在(5月13日)静岡ホビーショーで見たガンプラの温故知新
大型連休明けの静岡市の風物詩と言っていい。静岡ホビーショーには、できるだけ足を運ぶようにしている。「プラモデルの見本市」では足りない。「ホビーショー」なのである。これを「場の力」と言うのだろう。新製品とともに、趣向を凝らした展示は目だけでなく心の保養になる。 アニメ「機動戦士ガンダム」シリーズのプラモでバンダイスピリッツ(東京)が静岡市で生産する「ガンプラ」。シリーズ第1作のテレビ放送開始45年、ガンプラ発売から44年になる。初代ガンプラのデザインはそのままに、塗装不要のカラフル成形色にした「リバイバルキット」が今秋発売される。 片仮名が多いガンダムに四字熟語はなじまないとは思うが、懐か
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社説(5月12日)「防災県」の推進 実効性向上と底上げを【2024選択 知事選】
静岡県は「防災先進県」なのか。1976年に東海地震説が提唱されて以来、官民を挙げて全国に先駆けた地震対策を進めてきたのは確かだ。その結果として防災の先進地域という見方が生まれたのかもしれない。県関連のホームページやパンフレットなどでも紹介されている。 ところが、現在でもそう言い切れるかは甚だ疑問だ。2021年7月、人災の側面が強いといわれる熱海市伊豆山の土石流災害を防ぐことができなかった。今年元日に起きた能登半島地震で注目された住宅や水道管の耐震化率は全国平均を上回ってはいるものの、突出して優れているわけでもない。 南海トラフ地震が想定される中、いかに防災対策の実効性を高め、県民の防災意
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コラム窓辺 宇宙デブリとテザー(能見公博/静岡大工学部教授)
宇宙デブリが世界的に問題視されるきっかけは、2009年に米国とロシアの衛星が衝突した事件と思う。われわれが初めて大学衛星を打ち上げた直後のことで、印象深く記憶に残っている。 われわれもこの事件で宇宙デブリ問題の深刻さに気付き、2014年にテザー(ワイヤ)を利用した宇宙デブリ除去実験を行う大学衛星を打ち上げた。当時は有望な方法で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)も協力してくれた。その後、テザーを利用する宇宙デブリ対策の技術実証衛星を開発、打ち上げてきている。 しかし、宇宙デブリは加速度的に増え続け、テザーを伸ばすことは衝突の危険性が格段に上がるため、世界的に規制が厳しくなった。テザーの宇宙
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大自在(5月12日)母の日
きょうは母の日。「母」は昔、ハハとは発音せず、ファファだったという。根拠とされるのが500年ほど前、戦国時代の文献のなぞなぞである。 「母には二度あへど父には一度もあへず」。母と言う時には2度合って、父と言う時は合わないから、答えは唇。母をハハと発音したら唇は合わない(閉じない)ので当時の母の発音は少なくともハハではなかった、というわけだ。 現代のハヒフヘホは、かつてファフィフフェフォだったという。上下の唇が合うというなら、ババもパパもそうだろうということになる。日本語のハ行音は、文字を持たなかった昔は「p」音で発音されたという研究に沿えば「母はかつてパパだったかもしれない」と今野真二清
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大自在(5月11日)ワサビ
大型連休は伊豆の狩野川水系の渓流を、定宿に泊まりながら釣り歩いた。当然、釣りが主目的だったが、伊豆特産のワサビの魅力を五感で味わう旅でもあった。 伊豆の渓流はワサビ田と隣り合わせのことも多い。井伏鱒二の作品集「川釣り」に収められた短編小説「ワサビ盗人[ぬすびと]」は中伊豆の地蔵堂地区が舞台。釣り人が流れてきたワサビからワサビ泥棒を疑い、消防団員と協力して捕まえるまでの顛末[てんまつ]がつづられる。清涼感あふれるワサビの描写がまたいい。 捕まった泥棒は「ちかごろ、ワサビの値が高いから悪いんだ」と言い放つ。随分勝手な言い訳だが、現在もワサビは和食人気に伴う海外での需要の伸びなどもあり、取引相
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記者コラム「清流」 海洋保護盛り上げて
「海洋文化施設であって水族館ではない」。清水港で建設を進める静岡市の担当者からよく真顔で言われたせりふだ。「単なる展示施設ではなく、海洋保護の啓発や教育を行う」というプライドに他ならない。 薄日が差し始めたサクラエビの不漁問題を抱える駿河湾が研究フィールドとなる。期待しているし、計画の遅れは残念だ。気にかかるのは地元住民が遅れの理由が分からず不審がっていること。当初からの高い志に対し「学術とビジネスの相克」と言われても、「なぜ今更そうなる?」と思う人も多いのが実際だ。 1年程度は完成が遅れるハコは別とし、海洋保護のためのさまざまな取り組みを市は先行して進めることができる。水族館ができた時
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記者コラム「清流」 電池1本、火事のもと
昨年火災が発生した湖西市環境センターリサイクルプラザの復旧工事のため、市は約8億5000万円の見積額を市議会に示した。出火原因は不燃ごみに混入したリチウムイオン電池。1本の電池が多額の税金を必要とする被害を生んだ。 スマートフォンやスピーカー、携帯型扇風機など、充電式の機器を日常的に使う時代となった。手持ちの機器を見てみると、電池の場所や分解方法が分からない製品も多い。各自治体は分別の徹底を呼びかけているが、同様の火災は毎年各地で発生している。 復旧工事で市は、火災発生時に延焼を防ぐ設備への変更を予定しているという。4月に変わったごみ出しルールの浸透も欠かせない。同時に、電池を分別しやす
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記者コラム「清流」 連休のメール
ゴールデンウイークだけど、メールならいいか。連休中の旗日に、何件かメールした。確認を急ぐ内容でもなく、そもそも連休を業務の好機と働いている職種も少なくない。送信ボタンを押す時、申し訳なさを封じ込める言い分。 連休後半に家族連れを取材中、パパが慌ててスマホをチェックする場面があった。仕事なのかは不明だが慌てて返信している。ママは気にしない様子だったが、幾分手持ち無沙汰なのが伝わってきた。対応に感謝しつつ「メールなら」の波紋を垣間見た。 そんな大人の姿を子どもはよく見ていると、富士市内での子育て講演会で指摘があった。タイミングを計る、気を使う、人と共有している時間を大切にする。学ぶことも多そ
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社説(5月11日)ものづくり県再興 政策効果検証し加速を【2024選択 静岡県知事選】
「静岡県経済産業ビジョン2022~25」は本年度、後半に入った。ビジョンは11年3月、「地域資源活用と新しい価値創造によるものづくり・ものづかい振興条例」制定とともに策定され、14年、18年、22年に改定された。 11年といえば、リーマン・ショック(08年)を端緒とした経済金融危機に東日本大震災が追い打ちをかけ、経済は混迷度を増していた。川勝平太氏の知事初当選は09年。既に新産業創出を期してファルマバレー(富士山麓、先端健康産業)、フーズ・サイエンスヒルズ(中部、食品・医薬品・化成品、現フーズ・ヘルスケア)、フォトンバレー(浜松中心、光・電子技術関連産業)の集積プロジェクトが動き出していた
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コラム窓辺 雨が降ったら傘を差す(久保田香里/静岡理工科大法人本部広報部長)
亡き父は、松下幸之助氏を神様のように慕う企業戦士のような人でした。遅くに帰宅して朝早く出かけるため、幼い頃の平日はあまり会ったことがありませんでした。 そんな父は休みになると、私や妹をあぐらの中に抱いては晩酌をしました。そしてご機嫌でよく話をしてくれました。「香里、雨が降ったらどうする?」、いつもの質問です。私もいつものように「傘を差せばいいんでしょ?」と答えます。すると「そうだ、傘を差せばいいんだ」と笑いました。子どもの頃は、なんでそんな簡単なクイズを父が何度も出してくるのか不思議でした。 「雨が降ったら傘を差す」。松下幸之助氏の言葉です。どんな状況になっても当たり前のことを当たり前に
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大自在(5月10日)万機公論
水俣病患者らの団体と伊藤信太郎環境相の懇談で、団体側の発言中に一方的にマイクの音が消された。病に苦しんだ妻の最期を訴える発言が冷淡に打ち切られた。担当職員は「持ち時間を経過した」と弁解したが、そもそも悲痛な訴えが3分で足りるはずがない。 伊藤環境相は「マイクを切ったことを認識していなかった」と言い訳したが、動画では異変に気付けたように見える。音を消した職員を制止し、「最後まで聞こう」と促す懐深さがあればどうなっていたか。 この人ならどうしただろう。明治の「五箇条の御誓文」の第1条「広く会議を興し、万機公論に決すべし」を信条とした川勝平太知事が9日、退任した。リニア新幹線工事から大井川の命
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記者コラム「清流」 どうした?静岡県
「静岡県、どうしちゃったの?」。県外の知人から連絡があった。失言、突然の退場劇、政治とカネ、女性問題。政治家の不祥事や身勝手な振る舞いが連日、全国ニュースに取り上げられ、返す言葉もなかった。 インターネット上には心ない言葉が並ぶ。「こんな首長や国会議員を選ぶのは民度が低いから」「県民が責任を取るべきだ」。県全体をおとしめるような書き込みは看過できない。知事選の立候補予定者が「混乱した県政を立て直す」と訴えるのも理解できる。 ただ、本県の投票率低下は大きな課題となっている。昨年4月の統一地方選も低調だった。「投票率が5割に達しなかったら当選しても辞表を提出する」。前知事の過去の発言を思い出
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社説(5月10日)リニア中央新幹線 水と環境、保全は譲れぬ【2024選択 知事選】
リニア中央新幹線工事に伴う南アルプスの環境保全を巡る静岡県とJR東海の協議は、県が県内工区の着工を認めない状態のまま、実に10年余りが経過し、先行きも見通せていない。 長年の問題にどう向き合い、解決への道筋を描くのかが、知事選の大きな争点の一つになる。次の知事には、JRをはじめ、流域の市町や関係団体、国と対話し、県民が納得する形で問題を解決する調整力が問われる。科学的、工学的な観点を踏まえ、大井川の水と南アルプスの自然環境を守るという基本的な姿勢は堅持しなければならない。 JRは3月、工事契約締結から既に6年4カ月が経過した静岡工区の大幅な遅れを理由に、2027年のリニア開業の断念を正式
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記者コラム「清流」 ゼロから始める勇気
「なぜ日本人は時間を守る人が多いの?」「長寿の秘訣(ひけつ)は?」。浜松市外国人学習支援センターで日本語を学ぶ在住外国人のとある疑問だ。半年にわたる学習の総仕上げで日常生活で気になった点を調査し、日本語で発表した。 発表者は初級クラス。南米やアジア、欧州の9カ国12人が四つの班に分かれ、日本人へのインタビューやアンケートをもとに、その理由を考察した。着眼点が面白いのに加え、不慣れな言語でも堂々とスピーチする姿が印象的だった。 発表資料は漢字も交え、全て日本語。半年前は“ゼロ”レベルから学習を始めたというから驚きだ。こちらの質問にも分かる範囲の日本語で答えてもらった
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記者コラム「清流」 本に触れる機会 後生に
生まれ育った函南町の書店に「5月上旬で閉店のお知らせ」という張り紙があった。大学進学を機に地元を離れるまでよく訪れ、社会人になってからもたびたび書籍を買っていた思い出の店だっただけに、一抹のさみしさを感じた。 本屋の閉店ラッシュが止まらない。東部総局に赴任した2年ちょっとの間でも、頻繁に買い物をしていた沼津市内の2店舗が姿を消した。流通形態の大きな変化、電子書籍普及、活字離れなど書店を取り巻く環境は厳しさを増す一方だ。 リアル店舗で実物を手に取り、品定めをする習慣が身についた世代には残念だが、閉店はさらに加速する可能性が高い。人口減少社会に突入し、多くの自治体で財政難が課題になる中、子ど
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コラム窓辺 利き手はどっち?(中田健児/静岡少年鑑別所・法務少年支援センター静岡所長)
夜道でつまずいたら、左右どちらの手で顔をかばいますか? 私の場合はおそらく右手。理由は簡単、右利きだからです。危険な場面ではとっさに利き手が動く。自然なことです。 犯罪を起こす際にも、この「かばい手」のような現象と同様に、短期間で同種再犯に及ぶケースが少なからず存在します。成人で再犯の多い受刑者の調査で実感したのですが、財産犯はいつも財産犯、薬物犯はいつも薬物犯というように魔の堂々巡りから抜け出せないのです。 彼らは刑務所で反省しなかったわけではありません。ただ社会復帰しても短期間で孤立し、困窮した末、行き詰まりを打開するため、とっさにかばい手をするのと同様に手慣れた犯罪を選択してしまう
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大自在(5月9日)「野菜の苦み、政策の苦み」
大型連休中、なじみの種苗店は、夏野菜の苗を求める人で混雑していた。トマトやキュウリなどと、多くが買い物かごに入れていたのはピーマンの苗。夏野菜の代表格ながら秋の寒さにも比較的強い。畑の初心者でも栽培しやすく、晩秋まで長く収穫できることが人気の理由のようだ。 原産地は中南米の熱帯。諸説あるが、日本には明治時代に伝わったとされる。ただ、当初はほとんど普及しなかった。戦後、米軍の食用向けに国内で栽培が盛んになり、日本人が一般に食すようになったのは1960年代以降と。 スーパーなどで売られている多くのピーマンが緑色なのは、未熟なうちに収穫されるから。食卓では緑色のピーマンが苦手な子供も多い。「苦
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記者コラム「清流」 野菜を売る人
「野菜を売ったりする人だよ」。春の褒章を受章した島田市内で青果店を営む元保護司の男性は笑顔で野菜や果物を包んでいた。 家業の傍ら、少年野球団の監督やPTA、町内会の活動などにも長年取り組んできたという。店先での取材の合間も、買い物に訪れたお客さんに「急に暑くなってきたから体に気を付けてね」と声をかけていた。朝早く市場で仕入れ、学校や保育園の給食用の配達は決して休むことはできないという。20年に及ぶ保護司としての活動を主に取材したが、誇りと責任感を持って青果業を営む姿勢が垣間見えた。 野菜や果物を売る仕事は食卓に笑顔を届ける大切な職業だ。現知事が放った職業差別とも捉えられかねない言葉を冗談
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記者コラム「清流」 熱いごみ減量レース
人口10万人以上50万人未満の自治体の中で、ごみ排出量が最も少なかった掛川市が2位に後退した。前年よりさらに排出量を減らしたにもかかわらず、東京都日野市に全国トップを譲った。市民として悔しい。 悔しさを抑えて日野市に電話で問い合わせた。担当課は「ごみゼロ推進課」。プラスチックごみの資源化を進めた第2次ごみ改革の効果が表れたという。第1次改革は戸別収集方式や高額な指定ごみ袋などが特徴的。啓発戦士「ごみゼロマン」もいる。ごみを巡る文化の違いが新鮮だった。 掛川市でも衣装ケースなどの製品プラスチックを回収する実験が始まった。紙おむつや生ごみの資源化に向けた研究も続ける。日野市と競り合いながら、
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記者コラム「清流」 旧態依然の選挙方法
4月下旬に投開票が行われた伊豆市長選は同市誕生以来最低の投票率(42.63%)を記録した。これは市民の市政への関心の低下だけが理由ではないはずだ。 投票所まで出向くのが原則とされているが、ネット投票の普及が進めば誰でも参加しやすくなる。「投票所に行きたくても行けない」という切実な声はもちろん、「行かなければと思うけど、ちょっと面倒」という隠れた声にも応えることができるだろう。 無効票がなくなるメリットもある。人海戦術に支えられている自治体の選挙業務は、投票所や開票所の運営コストや、職員の負担の削減にもつながる。 旧態依然の選挙方法を続ける国。休日や仕事の貴重な「時間」に選挙を組み込ませ
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社説(5月9日)2024選択 知事選 きょう告示 県の未来像示し論戦を
新規採用職員への訓示で職業差別と取れる発言をして辞職する川勝平太氏の後任を決める静岡県知事選が、きょう告示される。4期15年続いた川勝県政は終焉[しゅうえん]を迎え、新たなリーダーの下での県政がスタートする重要な転換点だ。既に新人6人が出馬表明し、26日の投開票に向けた選挙戦に突入する。353万人が暮らす本県をどのような未来に導くのか、候補者の訴えにしっかりと耳を傾けて最もふさわしい人物を選びたい。 川勝氏の突然の辞職により前倒しで行われる知事選だ。有権者は短期間で一票を託す候補者を選ばねばならない。本県には、深刻な人口減少への対策や、構造転換が急務の経済振興策、リニア中央新幹線工事への対
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コラム窓辺 日本のオーケストラ(宮澤敏夫/富士山静岡交響楽団専務理事)
日本のオーケストラの現状をお知らせしましょう。形態は三通りあります。①親方日の丸②自主オーケストラ③地方オーケストラです。 ①はヨーロッパのように行政や公的機関が運営しています。NHK交響楽団もここに入るでしょう。②はドネーションが発達しているアメリカ同様、企業などの寄付金による運営で成り立つ楽団。在京オケの多くがこれに当たります。③は地方自治体からの助成金が投入されています。 富士山静岡交響楽団は③に属すオーケストラです。2022年に公益財団法人化し、活動を応援する寄付を受け入れる態勢はできているのですが、残念ながら自主運営のような形で事業を続けています。地元企業からの寄付金はちょうだ
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大自在(5月8日)ウエディングドレス
「この世で最も美しいのは花嫁姿。毎日ウエディングドレスに囲まれているあなたがうらやましい」。敬愛する世界的デザイナーのピエール・バルマン氏にこう言われ、桂由美さんはブライダルファッションに携われる幸せを実感し天職を確信したという。 1960年代、来日したバルマン氏と車で食事会場に向かう途中、東京・乃木坂の桂さんのブライダル専門店前を過ぎようとした時、バルマン氏が車を止めさせ店に寄った。「自分は年に何回かしかウエディングドレスを手がける機会がない」。それに続いたのが冒頭の言葉で、桂さんは「電気ショックを受けたように身が震えた」。 桂さんが旅立った。94歳。バルマン氏と天国で再会したら、あの
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【時評】破産がもたらす不利益 保証に変化 救われる思い(渥美利之/弁護士)
法人であれ、個人であれ、多額の負債を抱えて支払不能に陥った場合、裁判所の破産手続きを利用して債務整理を図る。日本国内の年間破産件数は、司法統計によると、2003年の約25万件をピークに、以後減少を続け、12年には10万件を切るに至った。直近の過去10年間の破産件数は、7万件から8万件前後で推移している。 法人破産の場合、破産手続きが終了すると、法人は消滅することになるため、まれな例外を除いて、その権利義務も消滅する。これに対して、個人は消滅しないため、裁判所の免責決定を受けることにより支払義務を免れる。 破産は、破産者に対し経済的に出直しの機会を与えてくれる制度である。しかし、破産によっ
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社説(5月8日)「伊豆半島沖」50年 地震の記憶語り継いで
伊豆半島南端を震源域として発生した伊豆半島沖地震から9日で50年。地震の規模はマグニチュード(M)6・9で、南伊豆町石廊崎で震度5を観測した。同町中木地区で大規模な斜面崩壊が起きて集落をのみ込むなど、町内で30人が犠牲となった。 地震国日本では、いつどこで地震災害が起きても不思議はないといわれる。今年の元日にもM7・6、最大震度7を観測する能登半島地震が起きた。三方を海で囲まれて山地が多い地形など、能登半島と伊豆半島の類似点は多い。 能登地震は発生4カ月を経過したが、約4600人が避難所に身を寄せ、3700戸以上が断水したままだ。そして被災地からは人口が流出している。初動対応から応急復旧
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記者コラム「清流」 恵みと営み
まぶしい日差しに照らされた深い青色の海面。焼津市役所の上階から眺める景色に、港町にやって来たことを実感する。 海からの頂き物が焼津の大きな魅力だが、決して自然の恵みだけで栄えてきたわけではない。先人たちの知恵と尽力によって日本有数の漁港に発展した経緯を、3人の水産翁(おう)を顕彰する慰霊祭の取材で知ることができた。 市がシティープロモーションの一環で制作したPR名刺には、地域の自慢として水産物に加え、生産が盛んなミニトマトや市の名前の由来となったとされる日本武尊も描かれていた。個人的には市内で生産されている志太梨も毎年楽しみにしている味覚だ。大地や歴史の恩恵によって育まれる営みにも目を向
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記者コラム「清流」 海と緑のコントラスト
遠州灘沿岸でここ数年、静岡県西部の企業や団体、学校によるクロマツの植樹や保全活動が活発化している。4月上旬には、浜松市と湖西市の12ロータリークラブでつくる国際ロータリー第2620地区静岡第5グループなどの約300人がスコップで穴を掘り、約1000本の苗木を植えた。 遠州灘では江戸時代から植樹が行われ、防風や防砂の役割を果たしてきたという。海岸線の景観も良く、海と緑のコントラストは「浜松」を象徴するような通りになっていた。しかし、約15年前から松くい虫(マツノザイセンチュウ)による被害が広がり、枯れたマツが目立った。 植樹したクロマツが一定の高さに育つまでの時間は数十年。次世代への責任を
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清水町、若者が政策に「意見」 よりよい町政の契機に【記者コラム 湧水】
「子育てのしやすい町にしたい」と清水町出身の若者が昨年、「清水町の教育費を考える会」を結成した。メンバーの3人は、経済的な理由から子どもたちが学習を諦めることがないようにと、教育費の無償化や私費負担軽減を訴えている。昨年4月には町長選と町議選の候補者に教育費に関するアンケートを行うなどした。政治や行政に関心が薄い若者が増えている中、若者が町政に参画する契機となってほしい。 考える会は、町が物価高騰対策生活支援としてマイナンバーカード所有者と新規申請者にクオカードを配布した事業に懐疑的な見方を示す。町は2023年度一般会計補正予算として、昨年の町議会11月定例会で事業費5600万円を計上。国
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記者コラム「清流」 学びの積み重ね
大学で数学を学んだ理系人間だ。医療職を志す御殿場南高生を対象としたフジ虎ノ門整形外科病院の院内ツアーでは、職員の専門的な説明を生徒の誰よりも楽しんで聞いた自信がある。 診療放射線技師と臨床工学技士を目指す生徒の班に同行した。専門的と言ったが、職員は高校生が習う定理や法則、物質の性質などの知識を基に、医療機器や医薬品の仕組み、構造を解説していた。「今学校で学んでいる内容こそが、将来あなたたちを輝かせる土台となるんだよ」-そんなメッセージに聞こえてきた。 大学まで数学を中心に学びを積み重ねたが、記者の仕事に生かせているか。理系取材を心から楽しむことができる記者だからこそ、書ける記事もあるだろ
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コラム窓辺 Woman’sサポートの活動(曽根原容子/Woman’sサポート理事長)
先日、私が理事長を務めるNPO法人Woman’sサポートの総会がありました。いよいよ9年目のスタートです。 8年前、女性のなんとなく新しいことを始めたい…何かで起業したい…というような思いを形にして、夢の実現のお手伝いをしたいという思いで立ち上げました。8人でスタートした法人は、今では33人の仲間がいます。 当時は働く女性のフォローをしてくれる団体やセミナーなどがなかったのですが、この8年でだいぶセミナーなども増え、地域をあげて働く女性を応援するという空気を感じています。 私たちWoman’sサポートも過去7年間、沼津市より女性起業応
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大自在(5月7日)御飯の友
昨年、久しぶりに会った熊本の知人から、お土産を頂いた。「御飯の友」。諸説あるようだが、ふりかけのルーツと言われる熊本伝統の味。 いりこの粉末を主原料に昆布やのりなどの海藻、いりごま、卵。全体的に茶色なので地味だが、しょうゆの香ばしい匂いに食欲がそそられる。白米はもちろんのこと、納豆や冷ややっこにかけるのが筆者の好み。 近所のスーパーで販売されているのを見たことがない。それもそのはず、売り上げの8割は九州が占めるそうだ。頂いたきっかけは、本紙に掲載された静岡新聞など各地方紙の連携による「新聞12社連合企画」。「発祥自慢」をテーマに展開した昨年、熊本日日新聞が紹介していた。知人に知らせたとこ
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【時評】ドーピング対策 経済的側面でも罰則を(杉本龍勇/法政大教授)
パリ五輪まで3カ月を切り、徐々に五輪に向けた雰囲気作りが始まった。こういった際には、関心を高める雰囲気醸成とともにドーピングにまつわる問題も頻繁に噴出する。今回も東京五輪に関わる中国のドーピング問題が発覚し、議論となっている。 議論の背景の一つに、競技に対するフェアプレーの精神がある。今回のスキャンダルは、ドイツの放送局ARDと米紙ニューヨーク・タイムズによって明かされた。特にARDはロシアの国家による組織的なドーピング問題もスクープしている。ドイツは過去に、東ドイツにおける国家による組織的なドーピング問題を経験している。この歴史的背景により、ドーピング問題を大きな社会問題として捉えており
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社説(5月7日)企業倒産3割増 雇用悪化対応の充実を
新型コロナウイルス感染拡大への対応で、政府が企業に対し続けてきた資金繰り支援への返済が本格化する中、中小零細を中心に倒産する企業の数が拡大している。この夏を境に事業継続を断念する企業が、さらに増加するとの懸念も指摘されている。 こうした動きに伴う雇用状況悪化への対応や、事業再生に向けた取り組み支援などが、行政をはじめ関係機関には求められる。 信用調査会社の東京商工リサーチによると、2023年度の企業倒産(負債額1千万円以上)の件数は全国で前年度比31・6%増の9053件と9年ぶりの水準となった。 静岡県内も同社静岡支店が、23年度は企業倒産が210件(6件増)と2年連続で前年度を上回っ
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大自在(5月6日)1万5000年に一人の天才
プロボクシングで世界タイトル13回連続防衛した具志堅用高さんは、所属ジムから「100年に一人の天才」として売り出された。その後、世界王者となった大橋秀行さんは、「150年に一人の天才」がキャッチフレーズだったという。 大橋さんが会長を務めるジムで腕を磨くのが、世界スーパーバンタム級4団体統一王者の井上尚弥選手。大橋さんがかつて「1万5000年に一人の天才」とインタビューで答えていた井上選手がきょう、東京ドームでルイス・ネリ選手(メキシコ)との防衛戦に臨む。 26戦全勝。モンスターの異名をとる井上選手の強さを最も知っているのは、26の戦績に名前のないボクサーかもしれない。2階級で日本王者に
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社説(5月6日)教員給与の増額案 現場の負担減が重要だ
教員の確保策を検討する中央教育審議会の特別部会は、公立学校教員の給与引き上げについて素案をまとめた。残業代の代わりとして支給している月額給与の4%相当の「教職調整額」を、10%以上に引き上げるのが柱で、残業代を支払う制度への転換は見送った。学級担任に手当を加算する必要性などにも言及し、特別部会は今月中にも議論をまとめる。 給与改善は重要だが、学校現場で今、最も必要なのは長時間労働の是正だ。長時間労働は心身の健康をむしばみ、教職人気低迷の一因にも挙がる。負担減という課題に正面から取り組み、処遇改善と働き方改革が一体となった施策を確実に進める必要がある。 教職調整額は1972年施行の教員給与
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コラム窓辺/知識経験と発想力(能見公博/静岡大工学部教授=宇宙工学)
あまり勉強すると斬新な発想ができない、と誰かが言っていた。専門分野の知識を身に付けていくと、ついでに常識も身に付き、斬新な発想が妨げられるということだろうか。大学で研究していると、そこに気付かされることがある。 専門分野の常識を知らない学生は、自由な考えで発想する。基本的に実現不可能なことが多いが、そこからヒントを得ることも多い。特に宇宙は人類未踏領域、だが宇宙開発現場は保守的である。奇想天外な発想が新たな道を開くと感じることは多い。 装置が動かない! 若い時は頭の中で考えて解決していた。が、最近は書き出して整理しないと解決できない。一方、トラブル発生時の原因究明、怪しいところを見つける
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社説(5月5日)子どもを真ん中に 意識徹底し対応充実を
きょうは「こどもの日」。こども基本法に基づいて2023年12月に定められた政府の子ども施策の基本方針「こども大綱」は、「こどもまんなか社会」の実現をうたい、全ての子どもや若者が健やかに成長し、幸せに生活できる社会づくりを目指している。 一方で、子どもを取り巻く環境は厳しいままだと言わざるを得ない。出生数は統計を開始してからの過去最少を更新して少子化が止まらない。「ヤングケアラー」として、親族の介護や世話を強いられる子どもも少なくない。 まさに、子どもに最も良い施策は何かを考えるとともに迅速な実行が求められる。誰もが子どもを社会の真ん中に置く意識を新たにし、対応の徹底を図っていきたい。
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大自在(5月5日)こどもの日
御前崎市出身の俳優加藤剛さん(1938~2018年)はテレビドラマ「大岡越前」や映画「砂の器」で知られるが、舞台でも優れた作品に出演している。その一つが1995年初演の劇団ひまわり「コルチャック先生」。 演じたのは、実在したユダヤ系ポーランド人の小児科医で児童文学者のヤヌシュ・コルチャック(1878~1942年)。ポーランドに開設されたユダヤ人孤児の孤児院で院長を務め、子どもたちのために生涯をささげた。 子どもの人権を尊重し、施設の運営を子どもたちの自治に任せるなど革新的な教育者でもあった。施設で教育を実践する傍ら、「子どもの権利」という概念の先駆者として、関連の著作を精力的に残した。
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大自在(5月4日)首相外遊
大型連休は後半に入り、県内の行楽地はにぎわいを見せている。帰省している人も多かろう。だれしも久しぶりに会う親族や友人の笑顔を見たいもの。最初に手渡す手土産を何にしようか、頭を悩ませた人もいるに違いない。 外交にも手土産は欠かせないようだ。1日から外遊に出かけた岸田文雄首相が、最初の訪問国フランスでマクロン大統領に贈ったのは、漫画「ドラゴンボール」のキャラクターを題材にした江戸切子のグラス。 漫画の作者鳥山明さんが3月に亡くなった際、マクロン氏がSNSに追悼メッセージを投稿したことなどを踏まえた選択らしい。日本の誇るソフトパワーに頼った首相だが、外交交渉に効果はあったのか。 今回の外遊は
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社説(5月4日)森林環境税 持続化へ有効に活用を
管理が行き届かない民有林を所有者に代わり市町村が管理する制度はスタートから5年がたち、本年度からは財源となる森林環境税(国税)が徴収される。 きょうは「みどりの日」。「自然に親しむとともにその恩恵に感謝し、豊かな心を育む」(祝日法)には、一定の負担をしなくてはならなくなった。 森林には水源の維持、地球温暖化の防止、生物多様性の保全など、さまざまな機能がある。近年、激甚化している大雨による土砂災害の防止にも森林整備は欠かせない。 森林環境税は、1人年額千円が住民税と合わせて徴収される。持続可能な森林づくりへ有効活用するよう、自治体には使途公表が義務付けられている。迅速かつ丁寧、詳細な説明
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時論(5月4日)巧みでなくとも分かりやすく
「川勝さん、演説がうまいなあ」 前知事の辞職に伴って実施された2009年の静岡県知事選。出馬した4人の中で担当したのが、静岡文化芸術大学長を務めた川勝平太候補だった。街頭演説を聴いた先輩記者に、開口一番言われたのが冒頭の言葉だ。ただ、素直に同意できず「そうですかね」と返したのを覚えている。 当時の民主党の支援を受けた川勝候補は自民党推薦の元副知事に競り勝ち、初当選を果たした。街頭演説で聴衆を沸かせ、時には「平太、頑張れ!」と自ら連呼して喝采を浴びた。それでも「演説がうまい」と思えなかったのは、自分には中身がよく理解できなかったから。むしろ選挙戦終盤にマイクを握った夫人の応援演説のうまさの
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コラム窓辺 「情熱を傾ける」ことの価値(久保田香里/静岡理工科大法人本部広報部長)
1学年13クラスもあった中学生時代。所属していた生徒会は千数百人の生徒を動かし、運動会の企画から練習、当日の運営まで全てを仕切る熱量に満ちた会でした。生徒会室は校舎と独立していたため、夜遅くまで作業しては、校門を乗り越えて帰ったことも何度かありました。今では許されないことですが、当時の先生方は片目をつぶってゆるく見守ってくださっていたのだと思います。 時期が来て生徒会から引退した私たちは、燃え尽き症候群と呼ばれるほどぼんやりとした毎日を過ごしていました。そこに「科学部をつくらないか?」と声をかけてくださったのが、生徒会を率いていらした理科担当の増田俊彦先生。後に「静岡科学館る・く・る」の館
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大自在(5月3日)憲法記念日
5月3日が「憲法記念日」の国は日本だけではない。ロシアに侵攻されたウクライナの西隣に位置するポーランドも国民の祝日に定めている。ただ、歴史はポーランドがはるかに古い。憲法記念日の起源は、「ピアノの詩人」ショパンが生まれる約20年前の1791年までさかのぼる。 この年の5月3日、欧州では初めて、世界でも米国に続いて2番目の近代的な成文憲法が採択された。三権分立が明記され、農民の個人としての自由も保障した。 だが、この憲法は極めて短命に終わる。というよりも、95年にロシア、プロイセン(現ドイツ)、オーストリアに分割され、国そのものが世界地図から消えた。ポーランドが独立するのは第1次大戦後の1
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社説(5月3日)憲法改正 関心高める議論が必要
今年に入って海外から憲法改正を巡る動きが相次いで伝えられた。フランスの上下両院合同会議で、合法化されている女性の人工妊娠中絶の自由を世界で初めて憲法に明記する改憲案が可決された。アイルランドでは、政府が女性の「家庭での義務」を重視する憲法条項の修正を目指したものの、国民投票で修正案は否決された。 国外で時代や価値観の変化を踏まえた改憲や改憲議論は珍しくない。一方、日本の憲法は一度も改正されていない。衆参両院憲法審査会で審議は続くものの、改憲機運は高まっているとはいえない。改憲の是非はともかく、憲法への国民の関心を喚起するような議論が求められる。 きょうは77年前の憲法施行を祝う「憲法記念
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コラム窓辺 愛の流儀(中田健児/静岡少年鑑別所・法務少年支援センター静岡所長)
朝刊で「愛の流儀」を語る―。こんなことを言うと部下から「殿、ご乱心か?」と心配されそうですが、安心してください。魚の話ですよ。 ゴールデンウイークに沼津港深海水族館を訪れる方、多いのではないでしょうか。今回はそんなお魚ファンに最新刊をご紹介します。タイトルは「海の生き物が魅せる愛の流儀」。著者は第18期燦々[さんさん]ぬまづ大使を務めた水中写真家の阿部秀樹さんです。本の内容は魚たちの恋の駆け引き、子育てに関する生態写真と解説です。 目次には「叩[たた]き合うほど愛してる サビハゼ」「燃え尽きる、生涯一度の恋 ヤリイカ」「浮気男と最後の女 ハオコゼ」「噛[か]み痕を残す男たち クサフグ」な
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大自在(5月2日)不快害虫
気温の上昇とともに屋外で活動する際は熱中症や落雷を注意する季節になった。併せて人間に害を及ぼす衛生害虫や不快害虫なども気になる。中には警戒が必要な感染症を媒介するものもいて侮ることができない。 大型連休が始まってすぐ、浜松市天竜区の山に登った。この時期に花を咲かせるアカヤシオツツジを見るためだ。芽吹く前の稜線[りょうせん]付近を淡いピンク色の花が染める光景を見たかったが既に終盤だった。昔より開花時期が早まっているように感じた。温暖化が影響しているのだろうか。 草地を歩いてふと足元を見ると、靴の上をマダニが動いているのを見つけてぎょっとした。以前かまれたのでその姿を忘れることはない。その際
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時論(5月2日)ふるさと納税、急増したが
2021年度以降、ふるさと納税の寄付額が急増している沼津市。本年度の目標額について、市は前年度比1・2倍の55億円という数字を明らかにした。近年、寄付額は倍々で推移。しかし、その使途は明確になっていない。教育や福祉、産業、子育てなど喫緊の課題にどう活用しているのか。増えて舞い上がっているだけにも見える。 単純に比較すると、55億円という規模は小さな町村の一般会計予算に匹敵する。900億円近い一般会計予算の同市にとっても、貴重な自主財源だ。 本年度は市の若手職員の発案からフェンシング体験や沼津港の競り見学、人気アニメ「ラブライブ!サンシャイン!!」の聖地巡礼ツアーなど地元の強みを取り入れた
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社説(5月2日)あす浜松まつり 監視強めて反社排除を
新型コロナに伴う規制が撤廃され、5年ぶりに「完全開催」となる浜松まつりが3~5日に浜松市内で開かれる。昨年のまつり会場では暴力団関係者が露店を不正出店していたことが明るみに出た。伝統ある市民のまつりを守るため、地域の監視の目を強め、反社会的勢力を徹底排除しなければならない。 ことし1月、露店の出店権を暴力団員らが不正に取得していたとして暴力団関係者や静岡県西部の露天商の組合幹部らが摘発された。露店の取りまとめなどを請け負い、許可申請書類を提出する組合トップが不正を手助けしていた実態が明らかになり、長年にわたり売上金の一部が反社会的勢力に流れていた可能性がある。 浜松まつりには、暴力団やそ
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大自在(5月1日)助詞の使い分け
「伝わる文章を書きたい」「おいしい新茶が飲みたい」。それぞれ「を」と「が」を置き換えても通じるが、ニュアンスが微妙に違う。コラム「時論」をスマホの静岡新聞DIGITAL[デジタル]で読もうとして並んだ見出しに目が止まった。 省略された主語「私は」と述語(「書きたい」「飲みたい」)のどちらを強調するかで「を」「が」を使い分けるのか。「伝わる文章」「おいしい新茶」とシンプルなタイトルだったら考え込むこともなかった。 〈「が」は主語を表すほか、対象語を受ける用法がある。「を」で安易に置き換えないほうがよい〉。新聞社系の著者が指南書で解説していた。日本語文法を意識しないまま、「アイ、マイ、ミー、
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コラム窓辺 心優しい山本直純さん(宮澤敏夫/富士山静岡交響楽団 専務理事)
「大きいことはいいことだ」で一世を風靡[ふうび]し、クラシック音楽界で初めてテレビコマーシャルで稼いだ人が、山本直純さんでした。優秀な作曲家・ピアニストで、過去にはアルバイトで女子体操の床運動の伴奏をしていたようです。彼が伴奏をすると選手の演技がピタっと決まるそうで、大層重宝されたと聞きます。 破天荒な人でした。無類の酒好きで「オーケストラがやってきた」というテレビ番組を持っていました。私とのエピソードはやはりお酒。コンサート終了後は必ず飲みに連れ出され、私は何としても逃げたいのですが、彼のマネジャーが「後はお願いします」といってドロンを決め込む要領のいい人でした。 大阪の北新地(高級飲
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藤枝市長選と市議補選迫る 自覚したい1票の重み【記者コラム 黒潮】
任期満了に伴う藤枝市長選(19日告示、26日投開票)と市議の死去による欠員1の市議補選(同)の告示まで3週間を切ったが、盛り上がりに欠けている。市長選で出馬表明しているのは5選を目指す現職の北村正平氏(77)のみで、4期連続無投票の可能性も高い。一方で、市議補選は新人2人による選挙戦の公算が大きい。市議選の投票率が過去最低だった2022年4月の44・15%を下回る事態は避けたい。市民はどのように受け止めているのだろうか。 市内で実施された直近10年の選挙の投票率は、17年10月の衆院選の58・40%が最高。一方、最も低かったのは19年4月の県議選で43・95%、次いで22年4月の市議選だっ
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社説(5月1日)出生率の低下 社会構造変える施策を
厚生労働省は2018~22年の市区町村別の合計特殊出生率を発表した。女性1人が生涯に産む子どもの推定人数の5年間平均を算出し、静岡県全体は1・39、全国平均は1・33だった。 県として全国をやや上回っているとはいえ、人口維持に必要とされる水準2・07には程遠いばかりか、低下に歯止めがかからず、危機的な状況を脱する見通しは全く立たない。人口動態統計に基づく県の合計特殊出生率は15年にかけてやや上昇したものの、16年以降は下落が進み、最新の22年は1・33まで落ち込んでいる。 少子化の進行は国全体の問題として捉えることが大前提だとしても、県としてどう向き合い、対策を講じるべきかという観点が欠
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【時評】環太平洋での地震に思う 大自然のパワー 発電に(深沢正雪/ブラジル日報編集長)
環太平洋のあちこちで地震が起きている最近のニュースに接していて、思うことがある。静岡県民の多くは家族や友人と神奈川・箱根の大涌谷を訪れ、もくもくと上がる水蒸気や硫黄のにおいに圧倒されながら温泉卵を食べた経験があるだろう。そして、あのマグマのエネルギーを温泉や卵をゆでるのに使うだけでは、もったいないと。 ブラジルの電力構成は元々7割が水力発電だったが、風力や太陽光が急増して今では93%が再生可能発電となった。自然の恵みを最大限に生かした結果だ。日本も自らの自然環境を最大限に生かした形で発電できれば、原子力や火力発電に頼らないでもすむエネルギー自給体制が作れるのではないか。 「不安のタネ」
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コラム窓辺 ココ・シャネルの言葉(曽根原容子/Woman’sサポート理事長)
フランスのデザイナー、ココ・シャネルを好きだと言うと、ブランドが好きなのかと勘違いされますが、そうではなく、私はシャネルの仕事に対しての考え方や思いがとても好きです。 20世紀前半、男性のデザイナーは、女性をきれいに見せる動きにくいドレスを作り、決して行動的に動くことのできない服ばかり。そのような中、シャネルは女性が動きやすいデザインの服を作り、女性のファッションに対しての価値観を変えました。そして、ファッションで女性に自由をもたらしたのです。 年を重ね、一度はデザイナーの世界から離れたけれど、71歳で戻ってきて、フランスで受け入れられなかったファッションがアメリカで受け入れられて、再度
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大自在(4月30日)旗判定
開催自治体の負担から見直しが議論されている国民スポーツ大会(旧国民体育大会)はこれまで、一部競技で“地元びいき”の判定があるとささやかれてきた。過去には開催地の行政関係者が「(審判が判定する)旗振り競技は有利にしてほしい」という発言をしたことも。 審判を信じなければ競技は成り立たない。だが、誤審を防ぐため、サッカー、ラグビーなど多くの競技でビデオ判定が導入されている時代。審判の主観に委ねる「旗判定」が復活すると聞き、少し驚いた。 東京・日本武道館できのう行われた、体重無差別で日本一を争う柔道の全日本選手権。国際大会の主要ルールでもある延長を廃止し、試合時間内で決着
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社説(4月30日)衆院補選自民全敗 政権失う危機自覚せよ
衆院の3選挙区で行われた補欠選挙で、自民党は自前候補を立てられず不戦敗となった2選挙区を含めて「全敗」した。いずれの選挙区も元は自民の議席だった。派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件が直撃し、有権者の厳しい審判が突き付けられた。 長年、党内で組織的な裏金づくりを続けてきただけでなく、発覚後も説明責任を果たさず、政治改革にも後ろ向きで、挽回の機会をことごとく逸した。自業自得と言うほかない。全敗を深刻に受け止め、少なくとも政治資金規正法の抜本改正など思い切った政治改革を断行するほかに信頼回復の道はあるまい。国民が納得する実績を上げられなければ、政権の座にとどまるのは難しいと自覚すべきだ。
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コラム窓辺 専門と幅広い知識(能見公博/静岡大工学部教授=宇宙工学)
ドラマ「不適切にもほどがある」が注目を集めた。最近、昭和と令和を比較するテレビ番組が多い気がする。個人的に違いを感じるのは自動車の進化。昭和の自動車は「機械そのもの」だった。 もちろん電気も必要だが、配線をつなげば動くという考えが通用し、うまくいかなければ取っ払って強制的に動かすことができた。令和の自動車はそうはいかない。コンピューター管理で、一つ動かないと他にも影響する。トラブルがあるとコンピューターの判断で止めてしまうから、強制的に動かすことができない。車が止まった時、昭和はドライバーやスパナがあれば頑張れたが、令和は検査測定装置が必要だ。 そのように考えると、車は機械の知識だけでは
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大自在(4月29日)年寄りに冷や水
小学生か中学生の頃だったか、「運動中に水を飲むな」と言われた記憶がある。諸説あるが、駅伝競走の命名者でもあるスポーツ指導者の武田千代三郎氏が1904年、「理論実験競技運動」で「水抜き油抜き」の鍛錬法を紹介したのが最初だとされる。水と脂肪を体から排除し筋肉を増加させようとした。 今では考えられない「水を飲むな」。スポーツに限らず脱水症状や熱中症による重大な事故は後を絶たない。中高年の脳卒中や心筋梗塞なども水分摂取量不足がリスク要因の一つとされる。 水を飲んで人命を守る運動を浸透させようと、2007年に厚生労働省後援の「健康のため水を飲もう」推進委員会が発足。「水を飲むな」という誤った常識を
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社説(4月29日)落雷事故防止 情報確認し早期避難を
日差しが強まり気温の上昇とともに、雷に注意する季節になった。今月初めには宮崎市内で行われた高校サッカー部の交流試合に参加した男子生徒が落雷に遭い、18人が救急搬送された。発生当時は雷注意報が発表されていたが、小雨が降る程度で雷鳴は聞こえなかったという。 これから旅行や観光、遊びや部活で野外活動をする機会が増える。気象庁サイトによると、太平洋側の落雷害は8月をピークに4~10月が多くなる。太平洋側はこれから十分な注意が必要だ。昨年の静岡県内の「雷日数」は48日。最多の8月は19日、7月と9月が7日で続いた。 グラウンドなど開けた場所で運動をしたり、山や海などに出かけたりする時には、天気情報
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大自在(4月28日)消滅可能性
30年以上前、記者として初めて担当した自治体が長泉町だった。記者経験は1年に満たず、行政や議会に関する知識も乏しい。行く先々でさまざまなことを一から教えてもらいながら、何とか日々の仕事をこなしたのを覚えている。 当時の町の人口は3万3千人ほどだった。静岡県の推計人口によると、今月1日現在では4万3千人余り。3割も増えたことになる。 生活・交通の利便性が高く、近年は手厚い子育て支援や独自の教育施策を講じている町としての評価が定着。「住みやすさ」に関する民間調査などでも静岡県内上位とされる。こうした状況が人口増の背景にあるのは間違いない。 その長泉町が、人口減少対策を提言する民間組織「人口
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時論(4月28日)おいしい新茶が飲みたい
静岡県内の一番茶の生産と取引が盛期入りした。緑茶飲料にはない季節感とおいしさを茶葉(リーフ)で楽しみたい。 消費拡大に躍起なのは、ペットボトル緑茶も同じのようだ。大手飲料メーカーはこの春、そろってパッケージや味を一新した。 広く静岡茶、各地の川根茶、掛川茶…。緑茶ドリンクと違い、リーフ茶は産地がブランドになっている。コメやイチゴなどは品種にブランド力を持たせているが、茶は「やぶきた」くらいか。 やぶきたは明治末期、竹やぶを開墾した茶園の北側で見いだされた。原樹と記念茶園が県立美術館(静岡市駿河区)近くにある。収量が多く香気に富む優良品種として県内はじめ全国に普及した。
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社説(4月28日)犯罪被害者の支援 対象広げ柔軟に対応を
殺人や性犯罪などの被害者や遺族を事件直後から一貫してサポートするため、「犯罪被害者等支援弁護士制度」を創設する改正総合法律支援法が今国会で成立した。被害届・告訴状の作成や提出、加害者側との示談交渉、損害賠償請求の提起、捜査機関や裁判所への付き添いなど弁護士が一括して担う。2026年までに始まる見通しだ。 犯罪被害者のための施策を推進する犯罪被害者等基本法の制定から今年で20年。支援の充実は図られてきたが、十分とは言えない。政府は昨年6月から支援弁護士制度の創設とともに犯罪被害者給付金の大幅増額も検討している。被害者支援は対象をできる限り広げ、柔軟に対応する姿勢が求められる。 犯罪被害者弁
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大自在(4月27日)ライドシェア
初めての経験に緊張した。1月に出張した米国・サンフランシスコでのこと。空港に降り立って目的地への移動に「ライドシェア」の活用を求められた。日本でスマホにダウンロードしておいたアプリを使って配車を依頼すると、出迎える車のナンバーや車種、到着までの所要時間が画面上に表示された。 運賃決済も入力済みだったクレジットカード。片言の英語しか話せなくても、行き先の入力さえ間違わなければ安心して移動できた。空港にもライドシェアサービス用の乗降場所が確保され、普及している印象を受けた。 ライドシェアは一般のドライバーが自家用車を使って有料で乗客を送迎するサービス。国内でも4月「日本版ライドシェア」が始ま
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記者コラム「清流」 毎日が見頃
長藤の名所である牧之原市の東光寺。「今が一番きれいだよ」と地元保存会のメンバーに声をかけていただき、取材に訪れた。 花はまだ三~五分咲きくらいで、長藤と言うには房の先の開花が足りない。「見頃はまだまだ先だな」と思っていると、保存会の一人が背の高い脚立を持ってきて、乗るように勧めてくれた。いつもは頭上にある藤を初めて上から見下ろす。一面の緑の中に入り交じって引き立つ紫が鮮やかだった。 その後も「次はここから見て」「この角度も意外といいでしょ」と愛車を紹介するような口調で、何カ所もカメラのアングルを教えてくれた。「うちの長藤はね、毎日が見頃なんだよ」-。この大きな愛情が地元の名所を長年支えて
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記者コラム「清流」 魅力の多い東部地域
先日、県外から遊びに来てくれた友人が、帰り際に「1日じゃ足りないなあ」とつぶやいた。手元のスマートフォンには、三島駅前で撮影した観光案内の看板の写真。西伊豆町の堂ケ島などを挙げ、「想像以上に回りたい場所が多かった」と話していた。 沼津に着任して以来、話題の飲食店や温泉を巡ったり、冬にはスノーボードに初挑戦したり、近隣で楽しめるアクティビティが多いと実感する。友人の「静岡に住んでみたい」という言葉に、なぜか誇らしい気持ちになった。 取材先の行政関係者からは「もっと東部地域のことを売り出したい」という声を聞く。地域には知れば知るほど面白い魅力がもっとたくさんあるはず。記者としてまだまだ発信不
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記者コラム「清流」 先端の研究担うのは人
静岡大発の超小型人工衛星の開発を主導する能見公博・同大工学部教授が執筆する本紙「窓辺」が4月から始まった。基本的に月曜掲載で、研究に関する苦労話が読めるほか、普段の取材ではなかなか表れない能見教授の人柄もにじみ出た寄稿文になっている。 2016年に宇宙空間に放出された静大衛星の初号機「はごろも」や後継機では、通信に不具合が生じた。取材した当時、なぜこんなに苦戦するのかいまいち理解できなかった。8日付の能見教授の窓辺でふに落ちた。能見研究室は機械工学が専門。機械の「見える動き」を扱う。無線通信は「見えない動き」だからハードルが高いようだ。 宇宙を舞台にした最先端の研究も担うのは人だ。悪戦苦
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社説(4月27日)機能性表示食品 制度検証し安全確保を
小林製薬(大阪市)が販売した「紅こうじ」サプリメントとの関連が疑われる健康被害が明らかになって1カ月以上になる。機能性表示食品における健康被害は同社サプリが初めてで、制度の信頼性が問われる問題になっている。 サプリ健康被害の原因物質として、青カビ由来の「プベルル酸」のほか、想定外の物質が少なくとも2種類が浮上したとされるが、いまだ特定に至っていない。一方、腎疾患などの健康被害で5人の死亡が判明し、退院も含めて25日現在で入院者が252人に上ることが分かった。静岡県内でも健康被害の疑いのある患者は53人となった。 担当する消費者庁は専門家検討会を設け、制度の改善に向けた議論を始めた。機能性
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コラム窓辺 おせっかいは おせっかいをつなぐ(久保田香里/静岡理工科大法人本部広報部長)
私の祖父のあだ名は「仏の直さん」。公園の花壇を年中お世話し、車にひかれてしまった野良猫を葬る人でした。飲食店と駄菓子屋を営む祖母はまさに肝っ玉母さんで面倒見が良く、そんな夫婦は何組もの仲人を引き受けるため、お正月にあいさつに来る家族連れが年々増えていく家でした。 そんなDNAを引き継いだ私の昔からの持論は「おせっかいは、おせっかいをつなぐ」。よく相談ごとが持ち込まれ、その都度自分の知識とネットワークをフル回転して少しでもお役に立てることを考えるわけですが、逆に「面白い人と知り合ったから今度紹介するよ」と連絡をくださる知人もいます。そしてそこでいただいたご縁を、また次に紹介すべき方へつないだ
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大自在(4月26日)板書とノート
高校の学校評議員を務めていて、授業の様子を時々見させてもらっている。生徒一人一人がタブレットを使った学びの場に立ち会って実感するのは、教科にもよるが、教員の板書と生徒のノートへの書き写しの機会が少ないことだ。 教育現場に浸透するデジタル活用の授業では、当然の傾向だろう。だが、筆者が高校生の時を振り返ると、黒板とチョークの授業は教員の個性がよく表れていて、授業の魅力にもなっていた。ノートを取ることは、それこそ命綱で自分なりに工夫していたように思う。 学校側に感想を伝えると、教員にとっては生徒に背中を向ける板書が減り、反応などがよく分かるようになったとのこと。映像授業は同じ教科の教員がチーム
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記者コラム「清流」 自然資料保管の意味
川根本町の資料館やまびこに「ヒダサンショウウオ」として展示されていた標本が先日、より希少な「アカイシサンショウウオ」だったことが判明した。外見上では判別が難しい両種だが、同館を訪れた専門家が微妙な違和感を抱いたことがきっかけで、半世紀近い“勘違い”が解消された。 違いを見抜いた専門家の鑑識眼はもちろん、長年適切な保管を続けてきた職員の努力にも称賛を送りたい。定期的に保存液を交換するなど、同館に保管されている動植物の標本約1万7000点の劣化を防いできた。 どんな資料であれ、残していくことそのものに意味があることを示す好例だ。希少種だから保管するのではなく、未来の新
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記者コラム「清流」 石のロマン
浜松市天竜区の天竜川で、礫岩(れきがん)が地下深くで変成作用を受けてできた「礫岩片岩」が見つかった。高圧の環境で引き伸ばされたそれぞれの石の形を解析することで、過去にどんな変形を受けたか推測できるため、学術的な価値が極めて高いという。 天竜川流域を含む地質帯「三波川帯」で見つかる変成岩は、海洋プレート上の堆積物が大陸プレートの下に沈み込む過程で陸側に付け加わった岩石が、中生代に沈み込み帯の深部で高い圧力を受け、後に地表に露出したと考えられている。 つまり、今回見つかった礫岩片岩は“恐竜が存在していた時代に、プレート境界付近の圧力を経験した”ことになる。一見すると河
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記者コラム「清流」 活気ある港を再び
西伊豆、松崎両町の港がにわかに活気づいている。駿河湾フェリーの入港トライアル実施や東海汽船の高速ジェット船の運航試験日程が発表されるなど、4月に港関連の話題が相次いだ。新たな交通手段による観光誘客の可能性に期待が高まっている。 西伊豆町の田子漁港では清水港(静岡市)と土肥港(伊豆市)を結ぶフェリーが入港。悪天候時の活用が検討されている。松崎町の松崎新港では6月、東京と同港を結ぶ高速船の直航便を試験運航する。2023年には松崎を出発し、伊豆大島(東京)を訪れるツアーを開催して盛況だった。 伊豆半島は交通の脆弱(ぜいじゃく)性が指摘されている地域で、港の活用は災害時の移動や物資輸送の手段とし
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社説(4月26日)自民規正法改正案 あまりに危機感が薄い
政権を失うかもしれないという危機感が、この期に及んでまだ薄いのだろう。 自民党が派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件を受けてまとめた政治資金規正法改正の独自案を見る限り、そう受け止めざるを得ない。事件によって国民の政治に対する信頼を大きく失墜した責任を自覚し、次期衆院選で下野する可能性があるという認識があるなら、率先して政治改革を断行する姿勢を示そうとするはずだ。 ところが、自民案は国会議員の監督責任や政治資金の透明化を巡る改正に、十分踏み込んでいない。そこからうかがえるのは、小幅な修正にとどめて抜本改正を先送りし、批判をやり過ごそうとする後ろ向きな姿勢だ。これでは、相手が長らく&ld
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大自在(4月25日)春の嵐
さしずめ春の嵐が吹き荒れている―とでも言えようか。新年度の幕開けとともに、県内政界を揺るがす事態が続いている。 先陣を切ったのは、これまでも「コシヒカリ発言」など、自らの言動でたびたび物議を醸してきた川勝平太知事。4月1日、新規採用職員に向けた訓示で「県庁はシンクタンク。野菜を売るのとは違う」などと述べ、職業差別との批判が殺到した。翌日の唐突な辞意表明には「投げ出し」の声も少なくない。 昨年来、国政に影を落とす自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件では、安倍派座長を務めた塩谷立氏(衆院比例東海)が、事実上の同派トップとして党紀委員会から離党勧告を受け、再審査を請求、却下された後に処分に従
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社説(4月25日)バス置き去り公判 根本原因を解明せねば
牧之原市の認定こども園「川崎幼稚園」で2022年9月、園児の河本千奈ちゃん=当時(3)=が送迎バスに置き去りにされ、熱中症で死亡した事件で、業務上過失致死の罪に問われた前園長の増田立義被告(74)、元クラス担任(48)の公判が静岡地裁で始まった。両被告は真摯[しんし]に真実を語らなければならない。社会は公判からさらに教訓を学び、再発防止につなげる必要がある。 初公判で2人は起訴内容を全面的に認めた。検察は冒頭陳述で、21年7月に福岡県で同様に園児が送迎バス内で死亡する事案が発生し、国から安全管理の徹底を促す通達が出ていたにもかかわらず、同園では法律で策定が義務付けられている「学校安全計画」
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コラム窓辺 管理と尊厳(中田健児/静岡少年鑑別所・法務少年支援センター静岡所長)
31年前、法務省に就職することを恩師に報告すると、「そういう現場なら…」と第48回アカデミー賞受賞作品「カッコーの巣の上で」を紹介されました。舞台設定は1963年の米オレゴン州立精神科病院。「どんだけ昔だよ!」と思いますよね。でも、まさしく不朽の名作でした。 作品が提起する「管理と尊厳」の問題は、令和の今日も変わりません。病院に限らず、矯正施設、高齢者施設、障害者施設、学校など、人間の命と暮らしを扱う現場では、不可避の重要課題です。 特に私の働く矯正施設は、犯罪に関わる施設ですから「管理」が最優先です。逃走や自殺の防止はもちろん、被収容者が犯罪を反省し、更生するためには、い
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記者コラム「清流」 つながりは地域の強み
静岡市葵区の藁科川流域で今春、明治時代に創立された清沢小と水見色小が長い歴史に幕を下ろした。「この学校は人に愛され、人を集め、みんなを育ててくれた」。住民主催の閉校式典を取材し、保護者代表の言葉に胸が熱くなった。 少子化の波に襲われ、県内でも中山間地を中心に小中学校がなくなっている。過去10年間に50校が閉校した。地域に根差した学校が消えるのは住民にとって断腸の思いのはずだ。 藁科川流域の場合、閉校は住民が話し合い、子どもを第一に考えて決めたという。式典にはあらゆる世代が一堂に会して“最後の校歌斉唱”を響かせた。その姿を見て、学校がなくなったとしても住民のつながり
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記者コラム「清流」 市民は見ている
この事態を招いたのは一体-。昨年来、沼津市と市議会の一部で起きた二つの「混乱」は、多くのことを考えさせられた。 これまで丁寧に記事化してきたため詳細は省くが、双方に共通していることがある。明らかに今日の状況を引き起こした当事者が、自身の振る舞いは一顧だにせず周囲に責任を転嫁している点だ。 当事者からすると、思っていたことと異なる展開となり、その結果追及にさらされたり、先方が強硬姿勢に出たりと想定外の流れに焦り、「自分は悪くない」との主張になっている。 「混乱」はいっときより落ち着きつつあるが、いまだに読者や取材先との間で話題になる。市民は市職員や議員の振る舞いに関心を寄せている。この点
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記者コラム「清流」 選ぶのは私たち
度重なる不適切発言によって川勝平太知事が突然の辞職を決めた。辞職説明も納得できるものではない。全国放送のテレビ番組で川勝知事の問題が繰り返し取り上げられ、県民の一人として恥ずかしくなった。 一方、自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を巡り、塩谷立衆院議員(東海比例)が離党した。こちらも毎日のように報道されている。塩谷氏の地元・浜松市ではダブルの衝撃で、市民の政治不信がさらに加速しないかと危惧している。同時に、政治をチェックする報道に身を置く立場としても反省するばかりだ。 川勝知事の辞職に伴う知事選は5月9日告示、26日投開票の日程で行われる。現在は2氏が出馬表明し、選挙戦となる見通しだ
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【視標】能登半島地震と病院 災害でも医療を止めない 恵寿総合病院理事長 神野正博氏
筆者が理事長を務める病院は能登半島中部の石川県七尾市にある。人口減少が進み、高齢化率は約4割。その地でベッド数426床、職員802人、うち医師75人を擁する基幹病院として地域医療を担ってきた。 元日に能登半島地震に襲われたが、入院患者と出産、救急への対応を続けた。最初の揺れから約10時間後の1月2日午前2時5分、女児が無事出産。4日には外来診療も通常通りにフル稼働した。七尾市の揺れは最大で震度6強。災害に遭っても医療を止めることなく、「強靱(きょうじん)な病院」と証明できたと自負している。 以前から手は打ってきた。能登半島では2007年3月にも地震があり、それを機に災害時対応策を練り直し
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核心核論(4月25日)米ウクライナ支援 横暴ロシアに屈すまい
米議会は、ロシアの侵攻を受けるウクライナを支援する約608億ドル(約9兆4千億円)の緊急予算案を可決した。バイデン大統領の署名で成立、米国による弾薬や兵器の供与が本格的に再開する。 緊急予算案は昨年10月、バイデン氏が議会に求めたが、共和党保守強硬派の強い反発で審議の停滞が続いていた。本来は当事国同士の交渉や国際社会の圧力によって戦闘の停止とロシア軍のウクライナ撤退を実現するのが理想だ。しかし当面それが達成できる見通しがない以上、ウクライナ国民の祖国防衛への意志を尊重し、支援要請に応じるのが国際社会に残された現実的な選択だろう。ロシアの横暴には屈しないというメッセージを団結して示し続けるべ
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コラム窓辺 ウィーン留学(宮澤敏夫/富士山静岡交響楽団専務理事)
オーストリアのウィーンに2度留学しました。1度目は27歳の時。外国に行くのは初めてで、不安いっぱいで飛行機内の人になりました。もちろん、現地で世話をしてくれる人たちを確保しての生活でした。若いこともあって、ひたすらコントラバスを弾いていました。 2度目は文化庁の海外派遣研修員として。国からの派遣となり、家族にも外国生活を見せたくて、家内と子供3人を連れての留学でした。前回と同じウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の首席奏者が先生で、通う学校も同じだったので、余裕がありました。国からの派遣ということで、私費留学生の手前もあり、よく勉強しました。 現地の演奏者との競争でもありましたが、最初は決
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大自在(4月24日)熱中症特別警戒アラート
きのう発表された気象庁の3カ月予報によれば、5~7月は暖かい空気に覆われやすく全国的に気温は高いという。今年もまた暑くなるのか。覚悟しておいた方がいいだろう。 都道府県内の全ての地点で「暑さ指数」が35以上になると予想されると発表する熱中症特別警戒アラートの運用が、きょうから始まる。33以上で出ていた現行の警戒アラートの上位に新設された。暑さ指数は気温、湿度、放射熱などから算出する指標。28を超えると熱中症発生率が急増するといわれる。 現行のアラートは昨年、全国で延べ1232回。2021年の613回から2年で2倍になるなど、リスクは高まっている。特別警戒アラートは、熱中症に気づくだけでな
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記者コラム「清流」 はしかの恐ろしさ
麻しん(はしか)の感染が3月に相次ぎ、国内の患者は21人と昨年1年の7割を超えた。「まだ全然少ない」との印象は否めないが、国や行政が注意喚起するということが、はしかの怖さを物語っている。 50代以上は幼少期の罹患(りかん)で一定数が免疫を持っているとされ、医師から「記憶がない人は、まず自分の親に確認して、分からない場合は抗体検査を」と聞いた。高齢の親が半世紀近く前のことを覚えているのか疑問だったが「一生忘れられないはず」という。高熱、いったん収まってまた高熱。ぐったりするわが子の体中に「ヒョウのような」発疹が出現―。考えるだけでも恐ろしい。 ワクチンは1歳と「年長」が定期接種のタイミング
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時論(4月24日)「伝わる文章」を書きたい
伝えたいことが伝わっていないことがある。見出し(タイトル)がないためだろうか、1面コラム「大自在」の担当回で指摘されたこともある。 読み方の問題だとスルーせず改めて読み返すと、伝える力不足に気付かされる。そんな時、図書館で「伝わる文章」と表紙にある本に出合えば、思わず手が伸びる。 例えば、向後千春早大教授の「伝わる文章を書く技術」。表紙に「まずは200字から」「型にはめれば、必ず書ける」。半信半疑で開くと、思い当たることばかり。「交流サイトで短いメッセージしか書かないから文章を書く力が落ちる」に同感。「文章を書くと人生が変わる」というのは大げさではないと思う。 この本はコラムやブログの
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社説(4月24日)知床沈没事故2年 再発防止策まだ道半ば
北海道・知床半島沖で乗客乗員20人が死亡、6人が行方不明になっている観光船「KAZU 1(カズワン)」の沈没事故から2年が経過し、地元の斜里町では追悼式が営まれた。楽しい思い出になるはずだった遊覧の最中に命を奪われた犠牲者や遺族らの無念は察するに余りある。 国の運輸安全委員会による事故調査で、安全管理体制が存在していない状態だったとまで指摘された運航会社と経営者の責任を巡っては、海上保安庁が業務上過失致死などの容疑で捜査を続けているものの、結論は出ていない。冷たい海で多くの犠牲者を出した責任の所在を明確にするため、同庁は捜査に全力を挙げなくてはならない。 国土交通省は一昨年、事故を教訓と
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【時評】川勝県政15年と本県茶業界 「協創」で次世代へ道開く(小泊重洋/地紅茶学会顧問)
川勝平太静岡県知事が15年に及ぶ知事職を辞する。本県茶業界との関わりを振り返ってみたい。私事だが、21年ほど本欄を書き続けている。時評ゆえに、その時々の出来事を書いているので、日記代わりになる。 2009年、本県で国民文化祭が開かれた。「日本人にとって茶の湯とは何か」というシンポジウムを企画して、基調講演を当時静岡文化芸術大学長であった川勝さんにお願いした。「茶の文化と文明」という題であった。しかし、急に県知事に就任したため、沙汰やみになった。川勝さんは人も知る茶文化の研究者でもある。 すぐに、静岡に日本の理想郷を作ろうと走り出した。お茶では、茶の都構想を打ち出した。どのようなものができ
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記者コラム「清流」 面食らう議会
小山町議会3月定例会で“大きな矛盾”に遭遇した。採決の様子を見た町民はきっと、議会に対して不信感を抱いたことだろう。 2024年度一般会計予算案に対し、一部予算の削除を求める修正動議が発議された。発議者は6人。同議会は定数13で、結果として議長裁決により否決された。しかし、数分後の同予算案の採決は「賛成多数」。ころりと意見を変え、賛成に回った議員がいた。 以前から常任委員会と本議会で賛成、反対の立場を変える議員も散見される。23年9月定例会では、7議案で同様のケースが見られた。「賛否表明を軽視していないか」「委員会審査の重みが薄れる」「議会の仕組みが分かっていない
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浜松市、放課後児童会委託 地域の需要捉え 整備を【記者コラム 風紋】
小学生が放課後の時間を過ごす放課後児童会について、浜松市は2024年度から、同一仕様による運営委託化に全面移行した。核家族化、共働き世帯の増加に伴って放課後児童会の需要も高まる中、待機児童を減らし、保護者が子どもを預けられる環境の持続性を担保するのが狙い。現役世代が地域に住み続け、働き続けるためにも、育ち盛りの子どもが安心して過ごせる場の確保は重要だ。 放課後児童会の場合、待機児童につながる需要は年度や地域、子どもが習い事を始める夏休み前後でばらつきがある。待機児童数だけでみれば、同市は20年度の495人から23年度に190人まで減少した。ただ、利用者数の予測を立てにくい点は依然として課題
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記者コラム「清流」 まちづくりの主役
磐田市には自治会と別に、各地区のまちづくりを担う「地域づくり協議会」がある。市の交付金を元手に子育て支援や防災・防犯などの活動を展開している。高齢者の移動支援など特徴的な取り組みも多い。 そんな市民自治を加速させようと、学識者や市民団体関係者らでつくる検討委員会が新しい条例を市に提案した。多様な住民が主体的に地域課題の解決に関わるよう促す理念条例案だ。取材でも感じるが、現状では協議会の役員は高齢者が大半を占める。一部の住民に任せきり、負担が集中するのも好ましくない。 ある協議会は今春、40代の女性が会長に就いたという。今までと違った視点が活動を充実させると期待したい。「みんなが主役のまち
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大自在(4月23日)ウオーキング
二俣川、逆川、狩野川、瀬戸川-。ほぼ毎早朝、赴任先の近くを流れる河川の堤防を30年以上、歩いている。近年は「ウオーキング」としゃれた言葉も聞くが、眠気や前夜の酔い覚まし。無理せず歩数も気にせず、ただ歩いてきた。 人類の祖先が初めて二足歩行をしたのは600万年ほど前とされる。それまでは、猿のように木登りや四足歩行などを組み合わせ、移動していたようだ。ただ、四足歩行のチーターは推定で時速110キロとも。二足では四つ足に比べ明らかにスピードでは劣る。 「進化」の過程で、なぜ木から下りたヒトの祖先は、動物界の中でも異端ともいえる二足歩行となったのか。「エネルギーの消費を抑えるため」。諸説あるよう
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コラム窓辺 父への思い(曽根原容子/Woman’sサポート理事長)
先日、久しぶりにお墓の掃除に行ってきました。5年前に亡くなった父は元々肺気腫があり、2カ月に1回、通院していました。ある時、次の病院は一緒に行ってほしいと言われ付いて行くと、病院から肺がんの末期と言われました。 私としてはさまざまな思いがありましたが、そこは気持ちを抑え、今後の治療を父の思う形にしてほしいと病院に伝え、病院も最大限にやってくれ、私も満足しています。 父の葬儀には多くの人が参列し、父の生きてきた結果がここにあると誇りにも思えました。しかし、その後もあれで良かったのか、もっと父に対してできることがあったのではないかとか自問自答をする日が続きました。 父が息を引き取った10分
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記者コラム「清流」 お母さんなら
2年前に元交際相手の女性を殺害した罪などに問われた男の裁判員裁判で、静岡地裁は3月、懲役18年の判決を言い渡した。一貫して無罪を主張していた男の主張を、全面的に退けた。 女性は当時、中学1年の息子と同居していた。息子は朝起きて母親がいないことに驚き、不安になってスマホに何度も電話をかけたが、つながらなかった。裁判長はその時間に女性が生きていたら「着信に気付いて連絡するはず」と指摘。女性から息子に折り返しの連絡がなかった事実が犯行時刻の決め手となり、無罪の主張を打ち破った。 息子は「お母さんに会いたい。死んだら会えるかな」と今も悲しみに暮れる日々という。これほどの絆で結ばれた母親が息子の電
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記者コラム「清流」 静岡のための議論を
川勝平太知事が御殿場市をやゆしたとされる「コシヒカリ発言」が騒動になった当時、同市で市民の声を聞いた。発言への批判は当然聞かれたが、発言に絡んで知事を批判する勢力への苦言も多かった。「政争の具にするな」「あなたたちは御殿場のために何をしてくれたのか」と。 新規採用職員に向けた訓示での職業差別と受け取れる知事の発言に対し、静岡県外からも批判の声が上がる。インターネット上では発言に絡めて静岡県や県の施策への批判も散見される。発言内容への非難はやむを得ないが、騒動に乗じて静岡を陥れ、県が関わる議論を優位に進める姿勢は感心できない。 川勝氏を県政トップの座に押し上げたのは県民だということを肝に銘
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【時評】男性育休時代の同僚・先輩像 将来の社会担い手応援を(高橋恭文/ITサービス事業家)
年度初めの4月。みなさんの身の回りでも、新入社員を迎え入れることがあるかもしれない。今月に育児や介護と仕事との両立を支援する「育児・介護休業法」の改正案が国会で審議され改正の見込みだ。これまで大企業中心に推進されていた男性育休を中小企業に広げる内容で、県内においても、子育てへの男性参画が一気に進むと予測される。今回はこの中で、男性育休取得率公表義務の拡大と看護休暇の適用拡大に着目。県内の労働環境がどう変わるのか、周囲は育休取得者にどう向き合うべきかについて取り上げたい。 まず、男性育休取得率の公表義務の対象企業が、従業員1000人以上の企業から300人以上の企業にまで拡大することについて