オピニオン・コラムの記事一覧
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大自在(4月28日)消滅可能性
30年以上前、記者として初めて担当した自治体が長泉町だった。記者経験は1年に満たず、行政や議会に関する知識も乏しい。行く先々でさまざまなことを一から教えてもらいながら、何とか日々の仕事をこなしたのを覚えている。 当時の町の人口は3万3千人ほどだった。静岡県の推計人口によると、今月1日現在では4万3千人余り。3割も増えたことになる。 生活・交通の利便性が高く、近年は手厚い子育て支援や独自の教育施策を講じている町としての評価が定着。「住みやすさ」に関する民間調査などでも静岡県内上位とされる。こうした状況が人口増の背景にあるのは間違いない。 その長泉町が、人口減少対策を提言する民間組織「人口
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時論(4月28日)おいしい新茶が飲みたい
静岡県内の一番茶の生産と取引が盛期入りした。緑茶飲料にはない季節感とおいしさを茶葉(リーフ)で楽しみたい。 消費拡大に躍起なのは、ペットボトル緑茶も同じのようだ。大手飲料メーカーはこの春、そろってパッケージや味を一新した。 広く静岡茶、各地の川根茶、掛川茶…。緑茶ドリンクと違い、リーフ茶は産地がブランドになっている。コメやイチゴなどは品種にブランド力を持たせているが、茶は「やぶきた」くらいか。 やぶきたは明治末期、竹やぶを開墾した茶園の北側で見いだされた。原樹と記念茶園が県立美術館(静岡市駿河区)近くにある。収量が多く香気に富む優良品種として県内はじめ全国に普及した。
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社説(4月28日)犯罪被害者の支援 対象広げ柔軟に対応を
殺人や性犯罪などの被害者や遺族を事件直後から一貫してサポートするため、「犯罪被害者等支援弁護士制度」を創設する改正総合法律支援法が今国会で成立した。被害届・告訴状の作成や提出、加害者側との示談交渉、損害賠償請求の提起、捜査機関や裁判所への付き添いなど弁護士が一括して担う。2026年までに始まる見通しだ。 犯罪被害者のための施策を推進する犯罪被害者等基本法の制定から今年で20年。支援の充実は図られてきたが、十分とは言えない。政府は昨年6月から支援弁護士制度の創設とともに犯罪被害者給付金の大幅増額も検討している。被害者支援は対象をできる限り広げ、柔軟に対応する姿勢が求められる。 犯罪被害者弁
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大自在(4月27日)ライドシェア
初めての経験に緊張した。1月に出張した米国・サンフランシスコでのこと。空港に降り立って目的地への移動に「ライドシェア」の活用を求められた。日本でスマホにダウンロードしておいたアプリを使って配車を依頼すると、出迎える車のナンバーや車種、到着までの所要時間が画面上に表示された。 運賃決済も入力済みだったクレジットカード。片言の英語しか話せなくても、行き先の入力さえ間違わなければ安心して移動できた。空港にもライドシェアサービス用の乗降場所が確保され、普及している印象を受けた。 ライドシェアは一般のドライバーが自家用車を使って有料で乗客を送迎するサービス。国内でも4月「日本版ライドシェア」が始ま
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記者コラム「清流」 毎日が見頃
長藤の名所である牧之原市の東光寺。「今が一番きれいだよ」と地元保存会のメンバーに声をかけていただき、取材に訪れた。 花はまだ三~五分咲きくらいで、長藤と言うには房の先の開花が足りない。「見頃はまだまだ先だな」と思っていると、保存会の一人が背の高い脚立を持ってきて、乗るように勧めてくれた。いつもは頭上にある藤を初めて上から見下ろす。一面の緑の中に入り交じって引き立つ紫が鮮やかだった。 その後も「次はここから見て」「この角度も意外といいでしょ」と愛車を紹介するような口調で、何カ所もカメラのアングルを教えてくれた。「うちの長藤はね、毎日が見頃なんだよ」-。この大きな愛情が地元の名所を長年支えて
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記者コラム「清流」 魅力の多い東部地域
先日、県外から遊びに来てくれた友人が、帰り際に「1日じゃ足りないなあ」とつぶやいた。手元のスマートフォンには、三島駅前で撮影した観光案内の看板の写真。西伊豆町の堂ケ島などを挙げ、「想像以上に回りたい場所が多かった」と話していた。 沼津に着任して以来、話題の飲食店や温泉を巡ったり、冬にはスノーボードに初挑戦したり、近隣で楽しめるアクティビティが多いと実感する。友人の「静岡に住んでみたい」という言葉に、なぜか誇らしい気持ちになった。 取材先の行政関係者からは「もっと東部地域のことを売り出したい」という声を聞く。地域には知れば知るほど面白い魅力がもっとたくさんあるはず。記者としてまだまだ発信不
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記者コラム「清流」 先端の研究担うのは人
静岡大発の超小型人工衛星の開発を主導する能見公博・同大工学部教授が執筆する本紙「窓辺」が4月から始まった。基本的に月曜掲載で、研究に関する苦労話が読めるほか、普段の取材ではなかなか表れない能見教授の人柄もにじみ出た寄稿文になっている。 2016年に宇宙空間に放出された静大衛星の初号機「はごろも」や後継機では、通信に不具合が生じた。取材した当時、なぜこんなに苦戦するのかいまいち理解できなかった。8日付の能見教授の窓辺でふに落ちた。能見研究室は機械工学が専門。機械の「見える動き」を扱う。無線通信は「見えない動き」だからハードルが高いようだ。 宇宙を舞台にした最先端の研究も担うのは人だ。悪戦苦
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社説(4月27日)機能性表示食品 制度検証し安全確保を
小林製薬(大阪市)が販売した「紅こうじ」サプリメントとの関連が疑われる健康被害が明らかになって1カ月以上になる。機能性表示食品における健康被害は同社サプリが初めてで、制度の信頼性が問われる問題になっている。 サプリ健康被害の原因物質として、青カビ由来の「プベルル酸」のほか、想定外の物質が少なくとも2種類が浮上したとされるが、いまだ特定に至っていない。一方、腎疾患などの健康被害で5人の死亡が判明し、退院も含めて25日現在で入院者が252人に上ることが分かった。静岡県内でも健康被害の疑いのある患者は53人となった。 担当する消費者庁は専門家検討会を設け、制度の改善に向けた議論を始めた。機能性
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コラム窓辺 おせっかいは おせっかいをつなぐ(久保田香里/静岡理工科大法人本部広報部長)
私の祖父のあだ名は「仏の直さん」。公園の花壇を年中お世話し、車にひかれてしまった野良猫を葬る人でした。飲食店と駄菓子屋を営む祖母はまさに肝っ玉母さんで面倒見が良く、そんな夫婦は何組もの仲人を引き受けるため、お正月にあいさつに来る家族連れが年々増えていく家でした。 そんなDNAを引き継いだ私の昔からの持論は「おせっかいは、おせっかいをつなぐ」。よく相談ごとが持ち込まれ、その都度自分の知識とネットワークをフル回転して少しでもお役に立てることを考えるわけですが、逆に「面白い人と知り合ったから今度紹介するよ」と連絡をくださる知人もいます。そしてそこでいただいたご縁を、また次に紹介すべき方へつないだ
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大自在(4月26日)板書とノート
高校の学校評議員を務めていて、授業の様子を時々見させてもらっている。生徒一人一人がタブレットを使った学びの場に立ち会って実感するのは、教科にもよるが、教員の板書と生徒のノートへの書き写しの機会が少ないことだ。 教育現場に浸透するデジタル活用の授業では、当然の傾向だろう。だが、筆者が高校生の時を振り返ると、黒板とチョークの授業は教員の個性がよく表れていて、授業の魅力にもなっていた。ノートを取ることは、それこそ命綱で自分なりに工夫していたように思う。 学校側に感想を伝えると、教員にとっては生徒に背中を向ける板書が減り、反応などがよく分かるようになったとのこと。映像授業は同じ教科の教員がチーム
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記者コラム「清流」 自然資料保管の意味
川根本町の資料館やまびこに「ヒダサンショウウオ」として展示されていた標本が先日、より希少な「アカイシサンショウウオ」だったことが判明した。外見上では判別が難しい両種だが、同館を訪れた専門家が微妙な違和感を抱いたことがきっかけで、半世紀近い“勘違い”が解消された。 違いを見抜いた専門家の鑑識眼はもちろん、長年適切な保管を続けてきた職員の努力にも称賛を送りたい。定期的に保存液を交換するなど、同館に保管されている動植物の標本約1万7000点の劣化を防いできた。 どんな資料であれ、残していくことそのものに意味があることを示す好例だ。希少種だから保管するのではなく、未来の新
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記者コラム「清流」 石のロマン
浜松市天竜区の天竜川で、礫岩(れきがん)が地下深くで変成作用を受けてできた「礫岩片岩」が見つかった。高圧の環境で引き伸ばされたそれぞれの石の形を解析することで、過去にどんな変形を受けたか推測できるため、学術的な価値が極めて高いという。 天竜川流域を含む地質帯「三波川帯」で見つかる変成岩は、海洋プレート上の堆積物が大陸プレートの下に沈み込む過程で陸側に付け加わった岩石が、中生代に沈み込み帯の深部で高い圧力を受け、後に地表に露出したと考えられている。 つまり、今回見つかった礫岩片岩は“恐竜が存在していた時代に、プレート境界付近の圧力を経験した”ことになる。一見すると河
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記者コラム「清流」 活気ある港を再び
西伊豆、松崎両町の港がにわかに活気づいている。駿河湾フェリーの入港トライアル実施や東海汽船の高速ジェット船の運航試験日程が発表されるなど、4月に港関連の話題が相次いだ。新たな交通手段による観光誘客の可能性に期待が高まっている。 西伊豆町の田子漁港では清水港(静岡市)と土肥港(伊豆市)を結ぶフェリーが入港。悪天候時の活用が検討されている。松崎町の松崎新港では6月、東京と同港を結ぶ高速船の直航便を試験運航する。2023年には松崎を出発し、伊豆大島(東京)を訪れるツアーを開催して盛況だった。 伊豆半島は交通の脆弱(ぜいじゃく)性が指摘されている地域で、港の活用は災害時の移動や物資輸送の手段とし
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社説(4月26日)自民規正法改正案 あまりに危機感が薄い
政権を失うかもしれないという危機感が、この期に及んでまだ薄いのだろう。 自民党が派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件を受けてまとめた政治資金規正法改正の独自案を見る限り、そう受け止めざるを得ない。事件によって国民の政治に対する信頼を大きく失墜した責任を自覚し、次期衆院選で下野する可能性があるという認識があるなら、率先して政治改革を断行する姿勢を示そうとするはずだ。 ところが、自民案は国会議員の監督責任や政治資金の透明化を巡る改正に、十分踏み込んでいない。そこからうかがえるのは、小幅な修正にとどめて抜本改正を先送りし、批判をやり過ごそうとする後ろ向きな姿勢だ。これでは、相手が長らく&ld
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大自在(4月25日)春の嵐
さしずめ春の嵐が吹き荒れている―とでも言えようか。新年度の幕開けとともに、県内政界を揺るがす事態が続いている。 先陣を切ったのは、これまでも「コシヒカリ発言」など、自らの言動でたびたび物議を醸してきた川勝平太知事。4月1日、新規採用職員に向けた訓示で「県庁はシンクタンク。野菜を売るのとは違う」などと述べ、職業差別との批判が殺到した。翌日の唐突な辞意表明には「投げ出し」の声も少なくない。 昨年来、国政に影を落とす自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件では、安倍派座長を務めた塩谷立氏(衆院比例東海)が、事実上の同派トップとして党紀委員会から離党勧告を受け、再審査を請求、却下された後に処分に従
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社説(4月25日)バス置き去り公判 根本原因を解明せねば
牧之原市の認定こども園「川崎幼稚園」で2022年9月、園児の河本千奈ちゃん=当時(3)=が送迎バスに置き去りにされ、熱中症で死亡した事件で、業務上過失致死の罪に問われた前園長の増田立義被告(74)、元クラス担任(48)の公判が静岡地裁で始まった。両被告は真摯[しんし]に真実を語らなければならない。社会は公判からさらに教訓を学び、再発防止につなげる必要がある。 初公判で2人は起訴内容を全面的に認めた。検察は冒頭陳述で、21年7月に福岡県で同様に園児が送迎バス内で死亡する事案が発生し、国から安全管理の徹底を促す通達が出ていたにもかかわらず、同園では法律で策定が義務付けられている「学校安全計画」
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コラム窓辺 管理と尊厳(中田健児/静岡少年鑑別所・法務少年支援センター静岡所長)
31年前、法務省に就職することを恩師に報告すると、「そういう現場なら…」と第48回アカデミー賞受賞作品「カッコーの巣の上で」を紹介されました。舞台設定は1963年の米オレゴン州立精神科病院。「どんだけ昔だよ!」と思いますよね。でも、まさしく不朽の名作でした。 作品が提起する「管理と尊厳」の問題は、令和の今日も変わりません。病院に限らず、矯正施設、高齢者施設、障害者施設、学校など、人間の命と暮らしを扱う現場では、不可避の重要課題です。 特に私の働く矯正施設は、犯罪に関わる施設ですから「管理」が最優先です。逃走や自殺の防止はもちろん、被収容者が犯罪を反省し、更生するためには、い
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記者コラム「清流」 つながりは地域の強み
静岡市葵区の藁科川流域で今春、明治時代に創立された清沢小と水見色小が長い歴史に幕を下ろした。「この学校は人に愛され、人を集め、みんなを育ててくれた」。住民主催の閉校式典を取材し、保護者代表の言葉に胸が熱くなった。 少子化の波に襲われ、県内でも中山間地を中心に小中学校がなくなっている。過去10年間に50校が閉校した。地域に根差した学校が消えるのは住民にとって断腸の思いのはずだ。 藁科川流域の場合、閉校は住民が話し合い、子どもを第一に考えて決めたという。式典にはあらゆる世代が一堂に会して“最後の校歌斉唱”を響かせた。その姿を見て、学校がなくなったとしても住民のつながり
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記者コラム「清流」 市民は見ている
この事態を招いたのは一体-。昨年来、沼津市と市議会の一部で起きた二つの「混乱」は、多くのことを考えさせられた。 これまで丁寧に記事化してきたため詳細は省くが、双方に共通していることがある。明らかに今日の状況を引き起こした当事者が、自身の振る舞いは一顧だにせず周囲に責任を転嫁している点だ。 当事者からすると、思っていたことと異なる展開となり、その結果追及にさらされたり、先方が強硬姿勢に出たりと想定外の流れに焦り、「自分は悪くない」との主張になっている。 「混乱」はいっときより落ち着きつつあるが、いまだに読者や取材先との間で話題になる。市民は市職員や議員の振る舞いに関心を寄せている。この点
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記者コラム「清流」 選ぶのは私たち
度重なる不適切発言によって川勝平太知事が突然の辞職を決めた。辞職説明も納得できるものではない。全国放送のテレビ番組で川勝知事の問題が繰り返し取り上げられ、県民の一人として恥ずかしくなった。 一方、自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を巡り、塩谷立衆院議員(東海比例)が離党した。こちらも毎日のように報道されている。塩谷氏の地元・浜松市ではダブルの衝撃で、市民の政治不信がさらに加速しないかと危惧している。同時に、政治をチェックする報道に身を置く立場としても反省するばかりだ。 川勝知事の辞職に伴う知事選は5月9日告示、26日投開票の日程で行われる。現在は2氏が出馬表明し、選挙戦となる見通しだ
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【視標】能登半島地震と病院 災害でも医療を止めない 恵寿総合病院理事長 神野正博氏
筆者が理事長を務める病院は能登半島中部の石川県七尾市にある。人口減少が進み、高齢化率は約4割。その地でベッド数426床、職員802人、うち医師75人を擁する基幹病院として地域医療を担ってきた。 元日に能登半島地震に襲われたが、入院患者と出産、救急への対応を続けた。最初の揺れから約10時間後の1月2日午前2時5分、女児が無事出産。4日には外来診療も通常通りにフル稼働した。七尾市の揺れは最大で震度6強。災害に遭っても医療を止めることなく、「強靱(きょうじん)な病院」と証明できたと自負している。 以前から手は打ってきた。能登半島では2007年3月にも地震があり、それを機に災害時対応策を練り直し
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核心核論(4月25日)米ウクライナ支援 横暴ロシアに屈すまい
米議会は、ロシアの侵攻を受けるウクライナを支援する約608億ドル(約9兆4千億円)の緊急予算案を可決した。バイデン大統領の署名で成立、米国による弾薬や兵器の供与が本格的に再開する。 緊急予算案は昨年10月、バイデン氏が議会に求めたが、共和党保守強硬派の強い反発で審議の停滞が続いていた。本来は当事国同士の交渉や国際社会の圧力によって戦闘の停止とロシア軍のウクライナ撤退を実現するのが理想だ。しかし当面それが達成できる見通しがない以上、ウクライナ国民の祖国防衛への意志を尊重し、支援要請に応じるのが国際社会に残された現実的な選択だろう。ロシアの横暴には屈しないというメッセージを団結して示し続けるべ
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コラム窓辺 ウィーン留学(宮澤敏夫/富士山静岡交響楽団専務理事)
オーストリアのウィーンに2度留学しました。1度目は27歳の時。外国に行くのは初めてで、不安いっぱいで飛行機内の人になりました。もちろん、現地で世話をしてくれる人たちを確保しての生活でした。若いこともあって、ひたすらコントラバスを弾いていました。 2度目は文化庁の海外派遣研修員として。国からの派遣となり、家族にも外国生活を見せたくて、家内と子供3人を連れての留学でした。前回と同じウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の首席奏者が先生で、通う学校も同じだったので、余裕がありました。国からの派遣ということで、私費留学生の手前もあり、よく勉強しました。 現地の演奏者との競争でもありましたが、最初は決
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大自在(4月24日)熱中症特別警戒アラート
きのう発表された気象庁の3カ月予報によれば、5~7月は暖かい空気に覆われやすく全国的に気温は高いという。今年もまた暑くなるのか。覚悟しておいた方がいいだろう。 都道府県内の全ての地点で「暑さ指数」が35以上になると予想されると発表する熱中症特別警戒アラートの運用が、きょうから始まる。33以上で出ていた現行の警戒アラートの上位に新設された。暑さ指数は気温、湿度、放射熱などから算出する指標。28を超えると熱中症発生率が急増するといわれる。 現行のアラートは昨年、全国で延べ1232回。2021年の613回から2年で2倍になるなど、リスクは高まっている。特別警戒アラートは、熱中症に気づくだけでな
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記者コラム「清流」 はしかの恐ろしさ
麻しん(はしか)の感染が3月に相次ぎ、国内の患者は21人と昨年1年の7割を超えた。「まだ全然少ない」との印象は否めないが、国や行政が注意喚起するということが、はしかの怖さを物語っている。 50代以上は幼少期の罹患(りかん)で一定数が免疫を持っているとされ、医師から「記憶がない人は、まず自分の親に確認して、分からない場合は抗体検査を」と聞いた。高齢の親が半世紀近く前のことを覚えているのか疑問だったが「一生忘れられないはず」という。高熱、いったん収まってまた高熱。ぐったりするわが子の体中に「ヒョウのような」発疹が出現―。考えるだけでも恐ろしい。 ワクチンは1歳と「年長」が定期接種のタイミング
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時論(4月24日)「伝わる文章」を書きたい
伝えたいことが伝わっていないことがある。見出し(タイトル)がないためだろうか、1面コラム「大自在」の担当回で指摘されたこともある。 読み方の問題だとスルーせず改めて読み返すと、伝える力不足に気付かされる。そんな時、図書館で「伝わる文章」と表紙にある本に出合えば、思わず手が伸びる。 例えば、向後千春早大教授の「伝わる文章を書く技術」。表紙に「まずは200字から」「型にはめれば、必ず書ける」。半信半疑で開くと、思い当たることばかり。「交流サイトで短いメッセージしか書かないから文章を書く力が落ちる」に同感。「文章を書くと人生が変わる」というのは大げさではないと思う。 この本はコラムやブログの
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社説(4月24日)知床沈没事故2年 再発防止策まだ道半ば
北海道・知床半島沖で乗客乗員20人が死亡、6人が行方不明になっている観光船「KAZU 1(カズワン)」の沈没事故から2年が経過し、地元の斜里町では追悼式が営まれた。楽しい思い出になるはずだった遊覧の最中に命を奪われた犠牲者や遺族らの無念は察するに余りある。 国の運輸安全委員会による事故調査で、安全管理体制が存在していない状態だったとまで指摘された運航会社と経営者の責任を巡っては、海上保安庁が業務上過失致死などの容疑で捜査を続けているものの、結論は出ていない。冷たい海で多くの犠牲者を出した責任の所在を明確にするため、同庁は捜査に全力を挙げなくてはならない。 国土交通省は一昨年、事故を教訓と
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【時評】川勝県政15年と本県茶業界 「協創」で次世代へ道開く(小泊重洋/地紅茶学会顧問)
川勝平太静岡県知事が15年に及ぶ知事職を辞する。本県茶業界との関わりを振り返ってみたい。私事だが、21年ほど本欄を書き続けている。時評ゆえに、その時々の出来事を書いているので、日記代わりになる。 2009年、本県で国民文化祭が開かれた。「日本人にとって茶の湯とは何か」というシンポジウムを企画して、基調講演を当時静岡文化芸術大学長であった川勝さんにお願いした。「茶の文化と文明」という題であった。しかし、急に県知事に就任したため、沙汰やみになった。川勝さんは人も知る茶文化の研究者でもある。 すぐに、静岡に日本の理想郷を作ろうと走り出した。お茶では、茶の都構想を打ち出した。どのようなものができ
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記者コラム「清流」 面食らう議会
小山町議会3月定例会で“大きな矛盾”に遭遇した。採決の様子を見た町民はきっと、議会に対して不信感を抱いたことだろう。 2024年度一般会計予算案に対し、一部予算の削除を求める修正動議が発議された。発議者は6人。同議会は定数13で、結果として議長裁決により否決された。しかし、数分後の同予算案の採決は「賛成多数」。ころりと意見を変え、賛成に回った議員がいた。 以前から常任委員会と本議会で賛成、反対の立場を変える議員も散見される。23年9月定例会では、7議案で同様のケースが見られた。「賛否表明を軽視していないか」「委員会審査の重みが薄れる」「議会の仕組みが分かっていない
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浜松市、放課後児童会委託 地域の需要捉え 整備を【記者コラム 風紋】
小学生が放課後の時間を過ごす放課後児童会について、浜松市は2024年度から、同一仕様による運営委託化に全面移行した。核家族化、共働き世帯の増加に伴って放課後児童会の需要も高まる中、待機児童を減らし、保護者が子どもを預けられる環境の持続性を担保するのが狙い。現役世代が地域に住み続け、働き続けるためにも、育ち盛りの子どもが安心して過ごせる場の確保は重要だ。 放課後児童会の場合、待機児童につながる需要は年度や地域、子どもが習い事を始める夏休み前後でばらつきがある。待機児童数だけでみれば、同市は20年度の495人から23年度に190人まで減少した。ただ、利用者数の予測を立てにくい点は依然として課題
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記者コラム「清流」 まちづくりの主役
磐田市には自治会と別に、各地区のまちづくりを担う「地域づくり協議会」がある。市の交付金を元手に子育て支援や防災・防犯などの活動を展開している。高齢者の移動支援など特徴的な取り組みも多い。 そんな市民自治を加速させようと、学識者や市民団体関係者らでつくる検討委員会が新しい条例を市に提案した。多様な住民が主体的に地域課題の解決に関わるよう促す理念条例案だ。取材でも感じるが、現状では協議会の役員は高齢者が大半を占める。一部の住民に任せきり、負担が集中するのも好ましくない。 ある協議会は今春、40代の女性が会長に就いたという。今までと違った視点が活動を充実させると期待したい。「みんなが主役のまち
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大自在(4月23日)ウオーキング
二俣川、逆川、狩野川、瀬戸川-。ほぼ毎早朝、赴任先の近くを流れる河川の堤防を30年以上、歩いている。近年は「ウオーキング」としゃれた言葉も聞くが、眠気や前夜の酔い覚まし。無理せず歩数も気にせず、ただ歩いてきた。 人類の祖先が初めて二足歩行をしたのは600万年ほど前とされる。それまでは、猿のように木登りや四足歩行などを組み合わせ、移動していたようだ。ただ、四足歩行のチーターは推定で時速110キロとも。二足では四つ足に比べ明らかにスピードでは劣る。 「進化」の過程で、なぜ木から下りたヒトの祖先は、動物界の中でも異端ともいえる二足歩行となったのか。「エネルギーの消費を抑えるため」。諸説あるよう
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コラム窓辺 父への思い(曽根原容子/Woman’sサポート理事長)
先日、久しぶりにお墓の掃除に行ってきました。5年前に亡くなった父は元々肺気腫があり、2カ月に1回、通院していました。ある時、次の病院は一緒に行ってほしいと言われ付いて行くと、病院から肺がんの末期と言われました。 私としてはさまざまな思いがありましたが、そこは気持ちを抑え、今後の治療を父の思う形にしてほしいと病院に伝え、病院も最大限にやってくれ、私も満足しています。 父の葬儀には多くの人が参列し、父の生きてきた結果がここにあると誇りにも思えました。しかし、その後もあれで良かったのか、もっと父に対してできることがあったのではないかとか自問自答をする日が続きました。 父が息を引き取った10分
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記者コラム「清流」 お母さんなら
2年前に元交際相手の女性を殺害した罪などに問われた男の裁判員裁判で、静岡地裁は3月、懲役18年の判決を言い渡した。一貫して無罪を主張していた男の主張を、全面的に退けた。 女性は当時、中学1年の息子と同居していた。息子は朝起きて母親がいないことに驚き、不安になってスマホに何度も電話をかけたが、つながらなかった。裁判長はその時間に女性が生きていたら「着信に気付いて連絡するはず」と指摘。女性から息子に折り返しの連絡がなかった事実が犯行時刻の決め手となり、無罪の主張を打ち破った。 息子は「お母さんに会いたい。死んだら会えるかな」と今も悲しみに暮れる日々という。これほどの絆で結ばれた母親が息子の電
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記者コラム「清流」 静岡のための議論を
川勝平太知事が御殿場市をやゆしたとされる「コシヒカリ発言」が騒動になった当時、同市で市民の声を聞いた。発言への批判は当然聞かれたが、発言に絡んで知事を批判する勢力への苦言も多かった。「政争の具にするな」「あなたたちは御殿場のために何をしてくれたのか」と。 新規採用職員に向けた訓示での職業差別と受け取れる知事の発言に対し、静岡県外からも批判の声が上がる。インターネット上では発言に絡めて静岡県や県の施策への批判も散見される。発言内容への非難はやむを得ないが、騒動に乗じて静岡を陥れ、県が関わる議論を優位に進める姿勢は感心できない。 川勝氏を県政トップの座に押し上げたのは県民だということを肝に銘
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【時評】男性育休時代の同僚・先輩像 将来の社会担い手応援を(高橋恭文/ITサービス事業家)
年度初めの4月。みなさんの身の回りでも、新入社員を迎え入れることがあるかもしれない。今月に育児や介護と仕事との両立を支援する「育児・介護休業法」の改正案が国会で審議され改正の見込みだ。これまで大企業中心に推進されていた男性育休を中小企業に広げる内容で、県内においても、子育てへの男性参画が一気に進むと予測される。今回はこの中で、男性育休取得率公表義務の拡大と看護休暇の適用拡大に着目。県内の労働環境がどう変わるのか、周囲は育休取得者にどう向き合うべきかについて取り上げたい。 まず、男性育休取得率の公表義務の対象企業が、従業員1000人以上の企業から300人以上の企業にまで拡大することについて
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社説(4月23日)ガザで相次ぐ餓死 最悪の人道危機止めよ
イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘で壊滅的な被害を受けたパレスチナ自治区ガザで、子どもの餓死が相次いでいる。国連人道問題調整室(OCHA)は今月上旬、栄養失調や水分不足で28人が死亡したと発表した。このまま戦闘が続けば、大人も含め餓死者が急増する恐れがある。 飢餓が広がったのは、イスラエルが支援物資の陸路搬入をガザ南部の検問所だけに制限してきたためだ。米軍などは3月に物資の空中投下を始め、イスラエルは今月に入ってガザ北部の検問所を一時的に開放する方針を決めたが、事態の改善は見通せない。 複数の国連機関などは5月にもガザ北部が飢饉[ききん]に襲われると警告する。最悪の人道危機を止めるため
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記者コラム「清流」 朝のチャイム問題
これまでの居住地ではほとんど耳にする機会がなかった同報無線が、袋井市に来てから身近になった。 正午に流れる袋井市歌。着任するまでは当然聞いたことがなかったが、今では鼻歌を歌えるほどに。ようやく「袋井市民」になれたようでうれしい。 一方で、朝のチャイムだけは意義を見いだせていなかった。起きたい時間より前に鳴る日はいら立ちすら覚えた。思い切って市危機管理課に聞くと、点検の意味があるという。有事のときに鳴らなくては致命的。容易に廃止にしていいものではないと反省した。 ただ、苦情の声もやはり少なくないそう。他の自治体では時刻の変更や廃止を決めた例もある。働き方や生活様式が多様化する昨今。市民に
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コラム窓辺 宇宙デブリ(能見公博/静岡大工学部教授=宇宙工学)
14日付の窓辺で「浮いて止まれば1時間もかからずに種子島から浜松まで戻れる」と書いたが、自転の方向を考えると戻れずに離れていく。間違いであったため訂正させていただく。 ところで、赤道よりの地上は時速千キロ以上で動いていることは間違いない。さらに地球の公転速度は時速約10万キロ。これらの数字を見ていると、地球を周回する人工衛星は秒速約8キロ、時速3万キロだが、驚く速度ではないと思えてくる。だが、弾丸の速度(一般的に秒速1キロ以下)をはるかに超えていて、衝突は非常に危険、微小なものでも無視できない。 地球周回の10センチ以上の物体は2万個以上あるが、監視されていて衝突する可能性があると警告が
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大自在(4月22日)三遠
男子プロバスケットボールの最高峰B1リーグ中地区で、三遠ネオフェニックスが初優勝を果たした。略称は「三遠」。2016年のリーグ発足後、本拠地戦は愛知県東三河を中心に静岡県遠州でも組まれている。 ただ、「三遠」と聞いてもバスケファン以外では、どこのチームか見当がつかない人が多いのでは。「三遠」を知らなければ、「三遠南信」も分からない。 地元でも「三遠南信」の認知度が高くないのは、19年度に浜松市が、21年度には愛知県豊橋市が実施した市民アンケートの結果が示している。質問の仕方は異なるが、「三遠南信」を知らなかったとの回答が浜松市でほぼ3割。豊橋市では4割を超えた。 三遠南信は東三河、遠州
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社説(4月22日)この夏も猛暑か 早い段階での対策必要
昨夏、日本の平均気温は平年を示す基準値を1・76度上回り、1898年の統計開始から最も高かったと気象庁が発表している。世界も観測史上、2023年は最も暑い夏だった。米国では一部で気温が50度を超え、欧州や中国でも史上最高気温を記録した。 温室効果ガスやエルニーニョ現象などで、大気全体の温度がかなり高まっているとみられ、これらが今夏の気温にも影響を与える可能性は強い。まだ春半ばだが、各個人、行政とも対策を早い段階から進めたい。 今年の夏については、既に研究機関が梅雨明け後の猛暑を予想。太平洋高気圧の張り出しが強まり、暖かい空気に覆われやすいため、全国的に平年より気温が高いとみられている。
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社説(4月21日)ウナギ稚魚新制度 痛み越えて闇の排除を
養殖種苗にするウナギ稚魚(シラスウナギ)は2024年漁期(23年冬~24年春)、漁と流通の透明性向上を図る制度改正により静岡県内の相場が高騰した。 反社会的団体の関与も指摘される“闇”の排除には痛みが伴うが、持続可能なウナギ産業のためには乗り越えなければならない。正直者が損をすることのないよう、当局は密漁や不正流通の取り締まりを徹底してほしい。 変革で養殖業者や飲食店が想定外の影響を被るようなら、行政や経済団体、金融機関の対応を求めたい。消費者もウナギにいま何が起きているか関心を持つ必要がある。 従来は県内産業振興のため、県内で採捕された稚魚は県内で養殖する決ま
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時論(4月21日)持続可能な「国スポ」とは
「廃止も一つの考え方だ」。全国知事会長を務める宮城県の村井嘉浩知事が国民スポーツ大会(国スポ、旧国民体育大会)の在り方について問題提起した。日本のスポーツ振興に大きく貢献してきた国スポだが、開催自治体には財政的、人的負担が重くのしかかる。 存廃についてさまざまな意見が出ている。「抜本的な見直しを」「開催県の負担軽減が必要」「国が予算や人員を確保しなければ、今まで通りは難しい」「3巡目は容認し難い」。これらは自治体のスポーツ協会長も兼務する各県知事の言葉である。村井氏は全国知事会として一定の方向性を示すとしている。 日本スポーツ協会は国スポについて新たな検討部会を立ち上げるという。これまで
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大自在(4月21日)藤
結婚時に夫婦どちらかの姓を選ぶ現行制度を続けると、約500年後には日本人の姓がみんな「佐藤」になる可能性があるという東北大教授の試算結果が公表された。選択的夫婦別姓の実現を目指す団体の活動の一環。 日本で平民に名字の使用が許可されたのは150年ほど前だから、500年とは随分先だ。「伝統」と言われているものが思い込みにすぎないことは少なくない。最近は調査のたびに選択的夫婦別姓に賛成する回答が増えている。 佐藤や伊藤、加藤など「藤」の付く名字は藤原が始まりとされる。佐藤は官職「左衛門尉[さえもんのじょう]」の藤原氏が起源という説がある。放送中の大河ドラマには、道長はじめたくさんの藤原姓が登場
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大自在(4月20日)静岡県セイブ自動車学校
浜名湖畔にユニークな自動車教習所がある。外国人の運転免許取得支援に力を注ぐ「県セイブ自動車学校」(浜松市中央区)。国内の教習所で初めてポルトガル語での講習を始めた。日系ブラジル人を指導員や事務員として積極雇用する。 プロ野球巨人の元投手水野雄仁さんが出演するテレビCMでも知られる。「おじさん」の一言が印象深い。CMはこれまで何度もリニューアルされた。近々「おばさん」編が始まるそうだ。 社長の早川和幸さん(72)は今春、法政大大学院政策創造研究科で博士号を取得した。研究対象は中小企業の日系ブラジル人の就労状況や雇用意識。社長業の合間を縫い、勉学や調査に励んだ。 日本語、英語の査読論文の学
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記者コラム「清流」 路地裏の“サクラ”
触れる者すべてを傷つけそうな鋭い目つきの野良猫が近所にすみ着いている。そのふんを何度踏んだことか。元旦もべっとり。正月は靴の臭いが取れるまで洗い続ける羽目になった。 桜の季節になり、無愛想な猫は太り始めた。餌を手にした女性に尋ねると、その猫は繁殖しないよう手術を施された「さくらねこ」だという。その印としてV字に切れ目を入れた耳がサクラの花びらに似るため、そう呼ばれるそうだ。その上で女性は地域と猫のために、餌をあげたり、ふんを拾ったりしてくれていた。 思えば猫の鋭い目も少し丸くなってきた気がする。「殺処分は切ないから…」と優しく見つめる女性の思いに触れ、その猫への見方も変わっ
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記者コラム「清流」 空き家利活用のあり方
空き家を改修して移り住んだり、店舗として活用したりする人に出会う機会が増えた。浜松市内にある築50年以上の古民家を訪ねると壁紙や床板、水回りが新たになり、旅館のような雰囲気を演出していた。所有者の30代男性は「費用は新築の半分以下。自前で改修を繰り返し、住みやすい空間としたい」と話す。 日本経済が右肩上がりの時代に建てられた家屋や賃貸住宅が時を経て、地域や子孫が悩む要因となっている。空き家増加を抑制するための新法が昨年施行され、管理や相続への関心は高まると予想される。 市内の不動産業者は「古民家として再販できる家屋は一握りに過ぎない。特に中山間地は厳しい」と明かす。空き家の管理が行き届か
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社説(4月20日)四国で震度6弱 巨大地震の備え確認を
南海トラフ地震の想定震源域となる豊後水道で、マグニチュード(M)6・6の地震が発生した。震源に近い愛媛県愛南町と高知県宿毛市で震度6弱を観測。愛媛、高知、大分の3県で負傷者が出た。現在の震度階級になった1996年以来、四国では初めて震度6弱観測となった。 この地震で、多くの住民が南海トラフ地震を想起しただろう。被害とともに気になるのは巨大地震との関係だ。気象庁は関連に否定的な見方を示し、臨時会合を開いた政府の地震調査委員会も、巨大地震発生の可能性が「平常時と比べて相対的に高まったと考えられる特段の変化は観測されていない」と表明した。 とはいえ、南海トラフ震源域でのM6級地震は安易に見過ご
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記者コラム「清流」 ピッチ内外の躍進期待
スポーツの試合会場などで販売される飲食物「スタジアムグルメ(通称スタグル)」。アスルクラロ沼津の試合取材前、いつも「今日こそは」と食べたいものをあれこれ考えているが、時間に追われて結局食べられないことが多い。 おでんや大学芋、サバの竜田揚げにご当地菓子パン-。アスルのスタグルには地域の食の魅力が集まっている。マスコットキャラクター「アスルくん」の出店店舗巡りがSNSでもよく話題に上がり、クラブ側の意識も感じる。 今季は開幕以来、ホームでの好調を維持しているアスル。一方で、来場者は2000人に届かない日も多い。「ピッチ内外」での盛り上げを演出し、さらにファン層を拡大できるか。スタグルと勝利
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コラム窓辺 新茶の季節に思うこと(久保田香里/静岡理工科大法人本部広報部長)
先日、静岡茶市場の新茶初取引の場に行ってきました。市場開設以来、一番早い日とのことで、活気ある雰囲気を拝見できました。 私は子どもの頃から日本茶が大好きです。祖母からは「お米とお茶はいいものを選びなさい。その二つがおいしければおかずは工夫でどうにでもなる」と言われて育ちました。その教えに忠実に、朝はまず家族分のお茶をできるだけおいしく入れることから始まります。 15年ほど前、茶葉の消費低迷に対し、デザイン学生がアイデア提案するプロジェクトに数年間取り組みました。そのとき、とても印象に残ったシーンがあります。茶業関係者の「ペットボトルに押されてしまって」という説明を聞き、学生たちは「ペット
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大自在(4月19日)長谷部誠選手
「整う」は、手でそろえる行動を表す「トト(取々・手々)」と「ナフ(行う)」が合わさった言葉という。即興なぞかけの芸人は「整いました」と決め台詞。「ととのう」はサウナ愛好者が使うなどして2021年「新語・流行語大賞」の候補にもなった。 国語辞典や古語辞典には「ととのう」「ととのえる」の語釈や用例が並ぶ。なじみ深い言葉だが、その状態になるには、時に、額に心に汗もかかなければならないようだ。 「心を整える。」。08年からドイツで活躍し、今季限りでの現役引退を表明したサッカー元日本代表主将で藤枝市出身の長谷部誠選手(40)の著書である。ワールドカップ南アフリカ大会後の11年に刊行され150万部
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記者コラム「清流」 ブームの先に
コロナ禍をきっかけに注目されたアウトドア。キャンプを筆頭に、屋外で密を避けられるとして一躍人気となった。一方で昨年あたりから行動制限の緩和で競合するレジャーに人が流れ、「ブームは曲がり角を迎えた」との声を聞くようになった。 静岡県内でも、首都圏や中京圏からのアクセスの良さを生かしてキャンプ場の新規開設が相次いだ。異業種の企業がアウトドア関連のギア製造に参入する動きも広がった。ブームが去れば、厳しい競争が待っていると身構える事業者もいる。 この数年で多様なニーズに応えるアクティビティーと製品が充実し、アウトドアの裾野自体は大きく拡大したとも感じる。今後も質の高いサービスや他にない個性を磨き
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社説(4月19日)災害用トイレ車両 県内市町に配備促進を
能登半島地震で被災した石川県の奥能登地域で、富士市と西伊豆町が導入した「トイレトレーラー」など、全国の自治体が派遣した災害用トイレ車両が活動している。被災地での悲惨なトイレ事情は詳しく伝えられることはあまりないが、深刻な問題だ。 地震発生から3カ月以上を経ても上下水道が復旧していない被災地が多い。排せつが不自由だと日常生活に支障があるだけでなく、健康にも影響する。災害関連死を防止する意味でも被災者の排せつ支援は極めて重要だ。 災害用トイレ車両にはトラックや商用車を改造した自走式の「トイレカー」もある。大規模災害が頻発して関連死の防止が重視される中、全国でトイレ車両を整備する自治体が増えて
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記者コラム「清流」 若手漁師の活躍に注目
食卓に並ぶなじみの海産物、いつまで安定供給できるか。沼津市静浦地区で長らく漁業を支えてきたベテラン漁師によれば、今の担い手は全盛期の5分の1程度かもしれないという。 自然を相手にする仕事は想像以上に難しい。4月、シラス漁に同行した。朝5時半ごろ多比港を出発、魚群探知機や漁師の感性を頼りに海を駆け回るも、この日は運に見放された。それでも約10年前に始めた養殖ワカメの収穫を実施。当時の青壮年部の「次世代の漁師のため」という思いが着実につながれていた。 今の時代は需要に合わせて漁業を多様化するのが主流。「魚が減っている」と言われる中、同地区の若手漁師は釣船、ワカメ、シラス、ナマコなど多岐にわた
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記者コラム「清流」 忍者の資質
「忍者って陽キャなのか?」。忍者研究の第一人者として知られる三重大の山田雄司教授の講演会を取材した。テーマは「現代に活かす忍術」。現代社会で忍術をどのように活用するのか、興味を引かれた。 山田教授によると、忍者の主な役割は情報収集。姿を変えたり、池を渡ったりするのは忍術の末端に過ぎないといい、抱いていたイメージを覆された。忍術書では真に大事な資質として、コミュニケーション術や状況に応じた対応能力、人との付き合い方などが挙げられているという。 「これ、新聞記者の仕事に似てますよね」。教授の言葉にはっとした。記者として働き始めて9年目。日々の仕事に追われ、素養を磨くことをおろそかにしていた。
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大自在(4月18日)アルバート・アインシュタイン
20世紀を代表する物理学者アルバート・アインシュタイン。相対性理論を発見し、1921年度のノーベル物理学賞を受賞した。多大な業績を残した天才がこの世を去ったのは、55年のきょう4月18日のこと。 1879年ドイツ生まれ。大学を出てスイス特許庁の職員になり、仕事の傍ら物理学の研究に打ち込んで「特殊相対性理論」などの優れた論文を発表した。1909年に退職した後は、各地の大学で教授などを務めた。 積極的に政治的発言をした科学者でもある。米ソの核開発競争が始まると、英国の哲学者バートランド・ラッセルと、当時一流の科学者11人による「ラッセル・アインシュタイン宣言」をまとめて核兵器廃絶と科学技術の
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コラム窓辺 弱さの情報公開(中田健児/静岡少年鑑別所・法務少年支援センター静岡所)
「弱さの情報公開」。何だか気になるフレーズですよね。ましてや、これが「そだねー」「もぐもぐタイム」で人気を博したカーリング女子チーム「ロコ・ソラーレ」の元気印、吉田知那美選手のSNSに掲載された言葉と聞くと、不思議な感じがしませんか? 「弱さの情報公開」は、心理臨床・精神保健福祉領域で働くわれわれには、精神障害者の地域移行に関し、先進的な活動(当事者研究)を続ける北海道「浦河べてるの家」が20年以上前から発信する、知る人ぞ知る名言の一つです。吉田選手は2018年出版「新 安心して絶望できる人生」と23年出版「弱さの情報公開―つなぐ―」という2冊の本で、べてる職員や利用者さんと対談し、べてる
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記者コラム「清流」 作る人、売る人、買う人
静岡市葵区の茶問屋街は不思議なまちだ。市内中心部からほど近い一角に、市場と問屋、茶工場や小売店がひしめき合う。そこでは、茶という農産物をめぐる、濃密な駆け引きが繰り広げられている。 茶況担当として初の新茶期を迎えた。今年は静岡茶市場で過去最も早い初取引が行われたが、各地の生育は平年並みで、県内産一番茶の上場は過去最少。異例の幕開けとなった。 初取引から数日後。思わぬ高値がついた取引があった。仲介した市場職員にその理由を尋ねると、「昨日茶商さんとここの茶園を見に行ってさ」との答えが。はにかむ様子から、生産者への敬意と情が値に反映されたのだと悟った。 茶を作り、売り、買う、それぞれの立場が
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社説(4月18日)衆院3補選始まる 政治改革へ具体策示せ
東京15区と島根1区、長崎3区の衆院3補欠選挙が告示され、いずれも選挙戦に突入した。自民党派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件で、国民の政治不信が深まる中、政治改革が3補選共通の焦点になるのは間違いない。 ところが自民党は二つの選挙区に候補者を立てられなかった。政権与党としてあまりにふがいない。公認候補を立てた島根1区で敗れれば、岸田文雄首相は政権への最終警告と受け止めるべきだ。 9月の党総裁選で再選を目指す首相だが、仮に島根1区を落として「全敗」した場合、党内に「岸田首相では選挙を戦えない」との空気が広がり「岸田おろし」が始まる可能性もある。自民が議席を確保するには、その政治改革に一
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【時評】防災の数値情報の捉え方 細かく読まず大まかに(牛山素行/静岡大防災総合センター教授・副センター長)
数値で表されるさまざまな情報は、それぞれ異なる正確さの度合いを持っている。これが「精度」と呼ばれ、数値のばらつきの幅(誤差と言うこともある)などで表される。ハザードマップなどで用いられる地図も実は数値情報の集合体であり、地図上にさまざまな形で表現されている記号や標高などの情報にもそれぞれ精度がある。 国土交通省が整備している「重ねるハザードマップ」の背景図として使われている地図は国土地理院が整備している「地理院地図」で、さまざまな地点の標高を表示できるが、この標高という数値の精度、すなわち実際の値に対するばらつきの大きさは場所によって異なる。「DEM5A」という高精度のデータが用いられて
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記者コラム「清流」 宿題投げ出した子?
熱海市伊豆山の大規模土石流と被災地のことを、川勝平太知事は忘れていたのだろうか。辞職の意向を正式に表明した3日の記者会見。復旧復興や責任追及をはじめ、数多くの課題を抱える熱海土石流について、何一つ言及がなかった。 28人の犠牲者を出した県史に残る大惨事。発生から2年9カ月が経過した今もなお、遺族の心の傷は癒えず、避難生活を送る被災者がいる。知事は辞職届を提出後の会見でも、行政対応の反省点に触れる程度だった。物足りなさを感じた。 リニア問題に区切りが付いたことを辞職理由に挙げたが、こちらも課題山積で議論の最中だ。ましてや任期途中の退陣では、職責の放棄とみなされても仕方がない。学者で博識があ
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記者コラム「清流」 客と店のギャップ
席に着くと、自分のスマートフォンでテーブル上のQRコードを読み取って、サイトからメニューを注文する。そんなモバイルオーダーを使う機会は珍しくなくなってきた。 つながったサイトは安全か。登録作業や、アンケートに答えなければならないのでは―。店側の負担を押しつけられた印象もあり、初めて使った時は懸念や煩わしさもあった。 だが、慣れてしまえば使用感はいい。注文のたびにスタッフを呼ばなくてよいし、注文用タブレットのように場所も取らない。 飲食店にモバイルオーダーのシステムを提供する企業によると、顧客満足度の低下を懸念して導入をためらう店は多いという。客と店側のギャップは興味深い。今はまだ過渡期
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コラム窓辺 朝比奈隆氏と私(宮澤敏夫/富士山静岡交響楽団専務理事)
音楽大学を卒業後、指揮者の朝比奈隆先生率いる大阪フィルハーモニー交響楽団に入団しました。東京の音大卒の私から見て、朝比奈音楽は常に「遅めのテンポ設定」で、東京の音楽界では好まれていませんでした。しかし遅い分、音の大きいオーケストラでした。 朝比奈大阪フィルはドイツの名指揮者フルトヴェングラー風の音楽を演奏する個性の強いオーケストラで、日本中に多くのファンがいました。東京風のスマートな演奏に憧れている私はそれが不満で、しばしば先生のリハーサルをサボる、とてもやんちゃな楽員でした。 私が首席奏者に就任する時。組合が結成され初代委員長になる時。演奏家から楽団事務局長になる時。民間のオーケストラ
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大自在(4月17日)主将と首将
主将と言えば、スポーツでチームの先頭に立って統率する人のこと。いわゆるキャプテン。だが、手元の辞書を引けば「首将[しゅしょう]」ともある。そちらはなじみがなく、原稿入力ソフトでも漢字変換されない。 キャプテンのつづりは「Captain」。ラテン語で頭や首を意味する「Caput」が語源という。なるほど。首将という訳に膝を打った。 スポーツの祭典、100年ぶりとなるパリ五輪の開幕まで100日と迫った。きのうギリシャで採火式が行われ、聖火はフランスの首都に向けて運ばれる。首都は英語で「Capital」。これも「Caput」が語源とされる。 日本オリンピック委員会(JOC)は、パリ五輪日本選手
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記者コラム「清流」 橋がつないだ歴史
川根本町域の大井川本流には現在、約30本の橋がかかる。山間部では、川岸を中心に発展してきた歴史があり、両岸をつなぐ橋が現在まで町にもたらした恩恵は計り知れない。 町民によると、橋がかかる前は、約50メートル離れた両岸でも違う方言を使っていたほど交流は少なかったという。当時の住民にとって、橋は異国への“架け橋”と呼べるほど、革新的だったに違いない。 町の歴史は橋とともにあった。千頭と小長井を結ぶ川根大橋は、当初木製だったが、自動車の登場など時代の変化に合わせ、鉄製の桁橋にかけ替えられた。 何げなく渡っている橋にも歴史がつまっている。島田支局から車で約1時間かかる同
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記者コラム「清流」 葛布と時を刻みたい
掛川市の伝統工芸の葛布(くずふ)。魅力の一つは丈夫で、年月を経て色の変化を楽しめるところだろう。市内の織元で、織られたばかりの新品と35年、100年前のものを見比べる機会があった。いずれも光沢を持ちながらも、新品は白色で徐々にあめ色に変わっていく。家族の歴史を見守ってきた事実が、色の変化で可視化できたようで感慨深かった。 そんな葛布だが、市内の織元は2カ所に減り、手間のかかる葛の繊維をとる農家は高齢化が進む。化学繊維の普及で需要が減少し、今に至っているそうだ。 ただ、消費社会に多くの人が疑問を感じ始めた今、丈夫で持ち主と一緒に時を刻むことができる葛布は、PR次第で再び注目を浴びるのではな
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再開発の沼津アーケード街 世代交代 外部の視点鍵【記者コラム 湧水】
防火建築で全国初のアーケード街として知られ、昭和中期は中心市街地だったアーケード名店街(沼津市町方町)の再開発が今夏、本格的に始動する。ビル解体に伴って多くの店舗が閉業や移転を決め、店主の高齢化も進み、まちづくりの担い手確保が課題になっている。外部の視点を取り入れつつ、新たなビル完成を見据えたまちづくりを次世代が主体的に取り組む必要がある。 名店街は1954年に誕生した。2006年に再開発計画の検討が始まり、23年にエリア南西側の街区の認可が下りた。この間に閉業や移転が加速し、現在名店街全体で営業するのは20店舗以下。毎月1日開催の「ついたち市」も縮小傾向が続く。 一方で近年、賃料の安さ
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記者コラム「清流」 人生の引き際大切に
下田支局に勤務していた数年前、移動知事室は時間が許す限りなるべく多くの場面を取材するように心がけていた。周囲も驚くような発言を川勝平太知事が突然する可能性があり、いろいろな意味で警戒が必要だったためだ。 当時から歯に衣(きぬ)着せぬ物言いが特徴だった川勝知事。その一方で、移動知事室の訪問先では自ら地域住民と気さくにふれあい、選挙で大勝する理由が分かる気がした。だが、近年は当選を重ねるごとに目立った問題発言と、意固地にも映る態度が時に県民の代表としてふさわしくない印象を感じていた。 国政では裏金問題を巡る自民党重鎮のふてぶてしく見える態度に、閉口した気持ちになる。急速に高齢化する日本。社会
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【時評】「機能性表示食品」の問題点 安全守る仕組み再検証を(宮下修一/中央大大学院法務研究科教授)
3月末に、製薬会社が製造・販売していた「機能性表示食品」である紅麹[こうじ]入りサプリメントの摂取によって腎疾患などの健康被害が生じた事例が複数確認されたことが判明した。 同社製造の紅麹を原料として使っていた他社の食品も販売中止に追い込まれるなど、その影響が広がっている。 調査の結果、健康被害の原因は紅麹ではなく製造過程でサプリメントに混入した別の物質である可能性が高まっているが、いまだ不明な点も多く、一刻も早い真相の究明が期待されるところである。 ところで、今回の事件は「機能性表示食品」にスポットライトを当てることになった。このような表示のある食品を手にした消費者は、国がその食品
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社説(4月17日)中東情勢緊迫化 報復の連鎖食い止めよ
イランが敵対するイスラエル本土に対し、300を超える弾道ミサイルや巡航ミサイル、自爆型無人機を撃ち込んだ。イスラエル軍は99%を迎撃したと発表したが、空軍基地で小規模な被害があったほか、少女1人が負傷した。 イランがイスラエルを直接攻撃するのは初めて。1日にシリアのイラン大使館が空爆され、革命防衛隊幹部を殺害されたことへの報復としている。空爆について、イスラエルは肯定も否定もしていないが、イスラエルの行為に間違いないとみられている。 イスラエルを宿敵とみなすイランは、これまでもレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラを使ってイスラエルに「代理戦争」を仕掛けてきた。ところが、イスラエルは大使館攻
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コラム窓辺 紫外線が強くなる季節です(曽根原容子/Woman’sサポート理事長)
紫外線は1年を通して出ていますが、4月から10月までは、とても紫外線が強い期間です。その中でも、6月から8月は1年間で特に強く出ています。なぜ紫外線を防止しなくてはいけないのか簡単に言うと、紫外線を浴び続けると肌がダメージを受けシミ・シワ・たるみなどの原因となり、肌の老化を促進します。 その対策として多くの方は、日焼け止めクリームなどを使われていると思います。日焼け止めクリームには「SPF」と「PA」の表示があります。SPFは数字で表されていて数の大きいほど、効果が持続します。1を20分として計算するので「SPF30」であれば、20分の30倍(10時間)ということです。またPAは「+[プラ
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大自在(4月16日)熊本地震8年
関連死も含めて276人が犠牲になった熊本地震の本震が起きて8年。今年も能登半島地震が発生するなど国内では地震災害が絶えない。改めて地震国に住む危険性を認識したい。 熊本地震は2016年4月14日午後9時26分にマグニチュード(M)6・5の前震が発生。熊本県益城町で震度7を観測した。28時間後となる16日午前1時25分にはM7・3の本震が発生。益城町と西原村で震度7を観測した。M7・3は阪神大震災(1995年)と同規模の地震。 二つの断層帯が連動して起きたとみられる。同じ地点で震度7観測が続いたのは史上初。激震が相次げば住宅へのダメージも大きかったはずだ。本震直後に被災地を訪れると阪神地域
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記者コラム「清流」 防災意識高まったのか
能登半島地震発生直後、静岡県内のホームセンターや生活雑貨店では携帯トイレなどの防災用品の問い合わせが殺到し、防災への関心の高まりがうかがえた。数字にも如実に現れた。県が実施している県民意識調査は、地震の前後で「南海トラフ」への関心が20ポイントも急上昇し、「非常に関心がある」が8割を超えた。 発生から3カ月余りが経過した。店舗では、徐々に防災用品の売り場面積も縮小されつつある。1991年度以降の調査を見ると、大規模災害の度に関心が高まっては、数年で低下していく変化がくっきりと現れている。防災に特効薬はないことを改めて実感した。 1年後の結果はどうか。啓発の継続や実災害を自分事と捉えてもら
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記者コラム「清流」 好きなことを全力で
「将来は自分がつくり上げるもの。一度決めたことには100%の力を出し切ってほしい」。長年にわたって日米のプロレスで活躍したスタン・ハンセンさんが、伊豆市立中伊豆中のキャリア教育で語った言葉だ。 子どもたちが市内にはなかなかいない職業の人から話を聞くために開催された授業で、講師は絵本作家、漫画家、モデルなど多種多様。私が中学生の時に聞いていたら、全く違う職に就きたいと思っていただろう。普段出会うことのない講師陣は輝いて見えた。 講師は挫折体験や大変だったことも正直に伝えていた。ただ共通していたのは好きなことを見つけて全力で頑張るということ。子どもたちが将来どんな形で地元に貢献し、どう盛り上
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記者コラム「清流」 新茶生産を控えて
浜松市天竜区内各地で新茶の生育への関心が高まっている。生産者の高齢化や価格低迷といった課題を抱えるが、地域の主要農産物としての地位を保つ。 静岡茶市場の新茶初取引が史上最速となる12日に行われた。区内の盛期は今月下旬から5月以降となる。ある農家は「収穫時期が後になると、新茶商戦のムードに乗り遅れてしまう」と懸念する。 地域では近年、伝統的な煎茶作りに加え、抹茶原料の碾茶(てんちゃ)や紅茶などの生産に挑む農家の動きがある。春野町の60代農家男性は「時代が変わってもお客さんに必要とされるお茶を作るだけ。旬の時期の新茶が売れないなら、他の販売手段を考えれば良い」と前向きだ。試行錯誤の先に明るい
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社説(4月16日)医師の残業規制 地域医療維持と両立を
働き方改革関連法に基づく時間外・休日労働の上限規制が今月から病院勤務医にも導入された。現在の医療提供体制は、自己犠牲的な医師の献身に大きく依存し、これまで長時間労働解消の機運も乏しかった。実効性ある働き方改革を進め、就業環境を見直す契機にしなければならない。 ただ、残業規制の導入で大きな影響を受けるのが地域医療だ。静岡県は、医師数が都道府県別で下位3分の1の「医師少数県」。全国平均と比べ、特に病院勤務医が少ない。地域医療維持との両立を図るため、医師の確保に知恵を絞る必要がある。 勤務医の長時間労働では、心身共に疲弊し、命を落とす事例も起きている。2022年、神戸市内の病院に勤めていた当時
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D自在(4月15日)湖西市が全国シェア8割、コデマリの物語
もしここに暴君が現れてすべての書物を取り上げ、1冊だけ許すと言ったら、どの本を残すか―。 「二十四の瞳」で知られる小説家壺井栄(1899~1967年)は、こう夫に問われて即座に牧野富太郎博士の「植物図鑑」と答えた。図鑑から得た知識を知識にとどめず、自分の経験と生活の中に溶かし込んで、花の物語を紡いだ(「わたしの花物語」解説)。 花の名をタイトルにした一連の掌編から「こでまり」(55年)を読んでみた。結核療養所を退院するまでに回復した女性がコデマリの花束を持って訪ねて来る。主人公がこの女性を療養所に見舞った時に持って行ったのがコデマリと赤いカーネーションの花束だった。作中の会話に病への不安
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大自在(4月14日)ジャッキー・ロビンソン・デー
成功させるのが難しい野球のホームスチール(本盗)。鮮やかに決まれば、チームには得点だけでなく勇気も与えるだろう。 黒人初の米大リーガー、故ジャッキー・ロビンソンさんはドジャースで本盗を20回決めた。大リーグ公式X(旧ツイッター)で紹介されていた。投稿された動画は、ヤンキースと対戦した1955年のワールドシリーズ第1戦。 その試合は敗れたが、ロビンソンさんの本盗はシリーズの流れに影響したようだ。「チーム全体が見違えるようなファイトを見せ始めた」と自伝につづる。ドジャースは、4勝3敗で初の世界一になった。 47年に大リーグ入りした俊足好打の背番号42。不条理な人種差別を受けるなど白人至上主
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社説(4月14日)子どもの権利条約 命守る対策を加速せよ
日本が子どもの権利条約を批准して今年で30年になる。条約を土台に制定したこども基本法の施行とともに、子ども施策を遂行するために設置したこども家庭庁は1年前にようやく発足した。子どもの人権を守る取り組みは遅れていると言わざるを得ない。 子どもの権利条約は、子どもを大人に従属する存在ではなく、権利の主体として位置づける。生きる権利、育つ権利、守られる権利、参加する権利を定め、子どもの意見の尊重や差別の禁止などを原則に掲げる。1989年に国連で採択され、日本は94年に批准した。 しかし、児童虐待などの暴力が高い割合で報告されている日本の現状に国連子どもの権利委員会が2019年に対策を強化するよ
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時論(4月14日)独善か、信念か、それが問題だ
韓国総選挙で与党が大敗し、尹錫悦[ユンソンニョル]大統領の政権運営が難しくなると見られている。前政権下で冷え切った日韓関係の改善に努めてきたが、野党からはそれも批判されている。日本側の評価が高くても、選挙結果を見る限り韓国国民の目は厳しいようだ。理由は「独善的」政治手法だという。 批判材料の一つに大学医学部の定員増問題がある。医師不足解消のため、全国で定員を2千人増やす方針を打ち出したが、医療界が「選挙目当て」と猛反発。ストで医療現場は大混乱に陥った。ただ地方の医師不足が深刻なのは事実で、賛否は割れている。尹大統領は「政治的有利・不利を考えず改革に取り組む」姿勢を貫いていて、総選挙ではそれ
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コラム窓辺 宇宙での「速度」(能見公博/静岡大工学部教授)
「3、2、1、リフトオフ!」。ロケット打ち上げ時のアナウンスは、多くの人が感動する瞬間だろう。地表を離れると秒速約8キロまで加速し、数分から数十分後には、人工衛星を地球周回軌道に投入する。これでロケットの打ち上げは成功! だが、人工衛星を開発したわれわれは、衛星が動き、地上で電波を捉えるまで安心できない。 日本から打ち上げると、秒速約8キロの衛星は90分で地球を一周し、日本上空に戻る。静岡大学浜松キャンパスに設置したアンテナで、電波を受信できれば第1段階成功となる。 ロケットの打ち上げはぜひ見守りたいが、衛星の成否がかかっている90分後も外せない。種子島宇宙センター(鹿児島県)から浜松ま
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大自在(4月13日)散り際
川勝平太知事は辞職届を提出する直前、報道陣の問い掛けに戦国武将明智光秀の娘である細川ガラシャの辞世の句「散りぬべき 時知りてこそ 世の中の 花も花なれ 人も人なれ」を詠んだ。ガラシャは父が起こした本能寺の変を機に人生が一変し、自ら死を選んだ。 この句は「花も人も散り時を心得てこそ美しい」と解され、これまでも政治家たちが節目で使っている。小泉純一郎さんは首相当時、既に退任表明していた時に開いた「桜を見る会」で、「私も引き際、散り際を大事にして…」とこの句を紹介しながらあいさつした。 「自民党をぶっ壊す」と強烈なメッセージを発信し、エルビス・プレスリーに傾倒。高い支持率を誇った
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記者コラム「清流」 新学期 10代にエール
本紙ひろば欄には多くの投稿が寄せられる。「社会に出ると疲れる」「大人は大変」「仕事は生きていくために仕方ないこと」。秋を過ぎると「10代の思い」宛に寄せられる高校生からの投稿には、就職に対するネガティブな意見が散見される。一通一通目を通し、希望ある未来を提示できなかった大人の一人として申し訳ない気持ちになる。 好きなことを仕事にできたら楽しいと分かっていても、誰もが実現できるわけではない。就職活動を通し、人生で初めて突きつけられた夢と現実の差に苦悩した高校生もいるだろう。 これからの季節は新学年への期待や目標に関する文章が増える。どの投稿も、どこまでもまっすぐで、とてもまぶしい。その情熱
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記者コラム「清流」 水があるってすごい
能登半島地震の被災者が、三島市の源兵衛川で水遊びした後だった。「水があるってすごい」。11歳の女の子のつぶやきが心に突き刺さった。通常なら同市が誇る清流に感動したと受け取るが、この日は違った。ただ単に水を自由に使えるありがたみを実感しているように思えたからだ。 女の子は幼なじみ3人で参加。うち2人は新年度から家族とともに上下水道の復旧めどが立たない石川県珠洲市から避難し、3人は離れ離れになると聞いた。「水さえあれば」。心の奥にあるであろうそんな恨み節を我慢して言わないようにしているようだった。 水が当たり前にある環境で生きてきた。そのインフラの老朽化や災害対策が叫ばれて久しい。大切な人の
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記者コラム「清流」 花の祭典の“ドラマ”
しずおか国際園芸博覧会(浜名湖花博)の20周年記念事業「浜名湖花博2024」を担当記者として取材している。本番に向けて準備が進む会場を訪ね、大会関係者から思いを聞く中で、開幕を待ち遠しく感じるようになっていった。 開幕日はあいにくの雨。スタッフからは嘆きの声も聞かれた。それでも多くの人々が開門前から行列をつくった。県外のツアー客、外国人客も訪れ、雨中の花壇で写真を撮り、室内アトラクションを楽しんだ。 20年前の花博の関係者に話を聞き、実現に至るまでの苦労を知った。今回の花博も当時と同様、たくさんの人たちの努力によって開催されている。浜名湖を舞台に繰り広げられる86日間の花の祭典。地域の盛
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社説(4月13日)日米同盟の深化 国民へ丁寧な説明必要
訪米した岸田文雄首相は米ワシントンのホワイトハウスでバイデン大統領と会談し、在日米軍の連携強化に向けた指揮・統制枠組みの見直しで一致した。部隊の運用性向上を図るため、米軍と自衛隊の一体化が強まることになる。両首脳は、日米同盟が「グローバル・パートナー」として世界的な課題に協力して取り組むとアピールした。 日米同盟は今後も日本外交の基軸であり続ける。とはいえ、従来の同盟関係は、日米安全保障条約に基づいて米軍が「矛」、自衛隊が「盾」とする役割分担が主体だった。一体運用が進むことで日本が矛の一部を務める可能性が強まる。さらにグローバルな課題解決に取り組むとすれば、米軍の世界戦略の一翼を担うことに
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大自在(4月12日)新茶初取引
江戸時代の笑い話である。父親が息子を戒める。「お前は人様の衣服から財布、きせるまで、何にでも値段をつけたがる悪い癖がある。気をつけよ」。息子が両手をついて答える。「ご意見五両、堪忍十両と申しますが、ご忠告は三百両の値打ちがございます」。 モノの値段は需給で決まり、グラフの需要曲線と供給曲線が交差した点が市場価格、均衡数量だと習った。それを目の当たりにする茶の取引が流通規模日本一の静岡市の茶問屋街で始まった。ただ、近年は茶の生産量が減っているのに価格は上向かない。 静岡の茶取引は競りや入札ではなく、相対[あいたい]で行われる。農家側が1キロ当たり希望単価(親値)を提示し、製茶問屋は値下げを
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コラム窓辺 新生活を心地よく始めましょう(久保田香里/静岡理工科大法人本部広報部長)
「いあんばいです」 ランドセルを背負って走り回っていた頃、近所のおばあさんたちに道で出会うと、決まってかけてくれた言葉です。私も慌てて立ち止まり、「いあんばいです」とおうむ返ししながらペコリと頭を下げる、そんな日常でした。耳で覚えたその不思議なあいさつが「いい塩梅[あんばい]」だったと気づいたのは、少し大きくなってからのことです。 「良いお天気だね」「調子はどう?」。そんな意味合いのあいさつでしたが、その響きは優しくて、「あれ? 今日は足が痛そうだな」など、私もおばあさんたちの変化に気づいて声かけしたりと、今思えば互いに認め合い見守りをしていた関係であったことに気づきます。 アメリ
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記者コラム「清流」 飛ばないバット
高校野球で今春のセンバツから反発力を抑えた「飛ばないバット」が完全導入された。投手の受傷事故防止とともに、打高投低を是正し成長期の肩肘を守ることが目的。守備力、機動力がより重要になり、「戦術が変わる」と声が上がる。 ゴルフでもプロとトップアマで「飛ばないボール」に近々規格が変わる。今や飛距離300ヤードは当たり前だが、パワー偏重が過ぎると伝統あるコースが手狭になり、14本のクラブを自在に操る技も生かされない。 ルールは安全性と公平性の確保に加え、競技を面白くするため時代に合わせ変化している。プレーヤー全てが将来にわたり競技を楽しみ、競技自体を発展させるという観点が重要だ。 と言いつつ、
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記者コラム「清流」 AIの力に感嘆と恐怖
議会の会派代表質問は議員にとって最大の仕事の一つ。担当する議員は会派の同僚議員とテーマを協議し、課題や対策、先進事例などの調査を重ね、十数枚にも及ぶ原稿を準備する。 3月の浜松市議会代表質問で、一部の議員が準備に生成AI(人工知能)を用いた。テーマに沿って課題の洗い出しを命じると、多彩な議論の切り口を示した短文がすぐ生成されたという。数日かけていた調査が30分で終わり、質の高さは同僚全員が感嘆するほど。この議員は「もう僕らは不要かも」と苦笑いした。 実際の原稿は議員が思いを込めた自分の言葉で完成させた。政治には言葉の力が必要で、AIが議員の力を補強するために使われるなら歓迎すべきだろう。
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社説(4月12日)韓国総選挙と日本 長期的外交戦略を練れ
韓国総選挙は少数与党の「国民の力」が現有議席を割り込む敗北を喫し、最大野党「共に民主党」が過半数を大幅に上回る議席を獲得した。就任以来、日韓関係の改善に努めてきた尹錫悦[ユンソンニョル]大統領の求心力が低下するのは必至だ。尹政権の外交にも影を落とすだろう。日本政府は2027年に予定される次期大統領選での政権交代の可能性を意識せざるを得ず、日韓外交が膠着[こうちゃく]状態に陥る懸念がある。 安倍晋三政権以降、日本の対韓外交はどこか諦めムードが漂う。上川陽子外相(衆院静岡1区)の顔が見えてこないのは、政府の優先順位が低い証左だろう。根底には、15年の慰安婦問題を巡る合意を文在寅[ムンジェイン]
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時論(4月12日)「成瀬」、故郷に錦を飾る
「朝の読書推進協議会」によると、2023年5月31日現在の本県の小中学校、高校の「朝読書」実施率は89%に上る。これを上回るのは栃木、福井、鳥取、佐賀の4県だけ。静岡の子どもが本に接する機会は多い方だと言えよう。 新中学生の長男も今春、「89%」の仲間入りを果たした。小学校時代にはなかった、午前8時20分から15分間の新習慣。そんな彼が4月9日から読み進めているのが宮島未奈さん(富士市出身)の「成瀬は信じた道をいく」である。春休みに読み終えた「成瀬は天下を取りにいく」の続編。「斜め前の席の女子も同じ本を読んでいる」という。 10代の心も捉えた「成瀬」が栄誉をつかんだ。10日発表の「202
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記者コラム「清流」 選ばれない国
「袋?」。沼津市で開かれた日本語学校の弁論大会。登壇したネパール出身の男性が発した言葉に学生から一斉に笑いが起きた。彼は「スーパーの店員がレジ袋がほしいか、日本人に聞く時は丁寧に聞くのに、外国人にはなぜか『袋?』と一言だけ」と続けた。 文章よりも単語の方が伝わるのでは-。レジ係も悪気はないのだろう。しかし、多くの学生が反応したということは、違和感のある経験として広く記憶されているのだと感じた。 彼は電車で座った際に隣の人に逃げられた経験も語り、こう語りかけた。「社会が変わらなければ、外国からの留学生も、働く人も減る」。人口減社会の日本は、もはや外国人の力なしでは成り立たない。このままでは
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大自在(4月11日)失言騒動
訓示中の発言で批判を受けた川勝平太知事が辞職届を提出した。最初に辞任発言が出た2日の囲み会見で、発言を切り取られたと主張し「ジャーナリズムあるいはメディアの質の低下を感じる」「ここまでこういう風潮が弥漫[びまん]していることに憂いを持っている」とメディアへの不信を隠さなかった。 洋の東西を問わずマスメディアが政治家や著名人の発言を文脈から切り離し、扇動的に報道する傾向はある。発言は一人歩きし、本来の意図とは違う解釈が広まることも少なくない。 歴史的な“失言騒動”の例を一つ。連合国軍総司令部(GHQ)を解任されたマッカーサーが1951年、米上院の公聴会で「日本人は1
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コラム窓辺 少年鑑別所のハマちゃんたち(中田健児/静岡少年鑑別所・法務少年支援センター静岡所長)
桜も開花し、駿河湾ではマダイ釣りのシーズン到来です。今年こそは大型マダイに出合いたい。富士山をバックに大型マダイを抱えて「とったどー」と叫びたい。豊饒[ほうじょう]の駿河湾、釣りバカ万歳な季節です。 お察しの通り、私は映画「釣りバカ日誌」シリーズの大ファンです。西田敏行さん演じる主人公浜崎伝助ことハマちゃんは、釣りを愛し、友を愛し、何より家族を愛する、まさに人生の達人。私の「心の師匠」です。 意外にもハマちゃんは、カウンセラーとしてもすご腕です。ハマちゃんは多くの悩める人と出会いますが、特別なことは何もしません。例のごとく仕事そっちのけで妻子への愛を語り、釣りの楽しさを語り、悩める人と一
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社説(4月11日)ライドシェア 地方も関心高め検討を
一般ドライバーが自家用車を使って有料で客を運ぶライドシェアが部分的に解禁された。4月は東京、横浜、名古屋、京都などの都市部でスタート。今後は札幌、仙台、大阪、福岡などでも始まる。 管理運営主体をタクシー会社に限定し、IT企業が主体の欧米などとは異なるため「日本版ライドシェア」と称されている。 一方、自治体主導で運営す「自治体ライドシェア」も、北陸新幹線延伸開業で旅客需要増を見込んだ石川県小松市で始まるなど活発になってきた。これまで自家用有償旅客運送は過疎地域などが対象だったが昨年末、夜間などバスやタクシーが乏しい時間帯も運行が可能になり、より多くの地域で導入できるようになった。静岡県内の
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記者コラム「清流」 教わった「俯瞰力」支え
「俯瞰(ふかん)力という言葉が好き。一つの物事を広い視野と多角度から見て、考えてほしい」。ある県警幹部が訓示でよく使うと教えてくれた単語の重要性は記者の仕事にも通じ、約10年間支えにしてきた。 私が生まれたその月に警察官になったその人はこの春、退職を迎えた。大勢の後輩らに見送られる姿をシャッターに収めていると、その晴れ晴れとした表情に「自らの言葉などから何一つぶれずに、信念を貫いた警察人生だったんだろう」と確信し、感動を覚えた。 4月で42歳の厄年。いろいろ抱える毎日で、物事や事態、思考を全体的に眺められているか。視野が狭まらないよう、その力を鍛えているとは言い切れない自分がいる。「胸を
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記者コラム「清流」 楽器、再開なるか
楽器は10人中9人が1年以内に挫折してしまう―。ピアノは平均4カ月、エレキギターは1カ月。ローランドが開いた電子楽器の未来を考えるシンポジウムでそんな話題が上がった。 振り返れば、ギターは数カ月、中古で衝動買いしたトランペットは1週間ももたなかった。ただ、続けた長さだけでいえば、ピアノは幼少期から10年以上続いた。練習は好きではなかったが、友人との演奏や合唱の伴奏などは楽しかった。 五線譜すら見なくなって久しい。この間、多機能な電子楽器が登場し、オンライン合奏ができる環境も整ったが、過去の反省から今は楽器に手を出していない。現代に楽器を楽しむ人をうらやましく思いつつ、再び楽器や音楽を始め
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記者コラム「清流」 まずは試してみよう
3月中旬、久しぶりにマクドナルドを利用した。高校生でにぎわう店内で、レジに並んだのは自分だけ。どうやら学生の間では、席からスマートフォンを使って注文する「モバイルオーダー」が主流らしい。一人だけ平成に取り残されたような気分だった。 同月末、沼津市とマクドナルド沼津駅南口店は、市が整備した駅前公共スペースに商品を届けるモバイルオーダーを始めた。スペースの活用を目的とした実証実験だが、利用すると店外で注文して持ってきてもらえるので意外と便利。大人数でベンチに座れるので、学生の居場所としても重宝されそうだった。 モバイルオーダーも公共スペースも、試してみないと利点や欠点はわからない。まずは試し
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コラム窓辺 桜の季節(宮澤敏夫/富士山静岡交響楽団 専務理事)
今年は暖冬でしたね。ソメイヨシノは開花が遅れましたが、河津桜は例年より早く満開になったようです。自宅のお隣に河津桜が1本植わっていて、早い時期に満開になりました。河津町にも一度出かけたいと思うのですが、残念ながらまだ足を運べていません。 私は旅の多い仕事をしています。いろいろな桜を見ました。青森・弘前城の桜は、たまたま満開に立ち会えました。昔のことです。その咲き映えのなんと豪快だったことか。 大阪では「造幣局の通り抜け」の桜です。種類の多さと見物者の多さにびっくりしました。長野では伊那市の高遠城址公園の桜も見事でした。ここの桜は背が低く、少し小粒の赤っぽいピンクの花びらで何とも可憐[かれ
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大自在(4月10日)県知事選挙投票率
一昨日深夜の激しい雨音を聞き、1974年7月の「七夕豪雨」を思い出した。まさに「車軸を流すような雨」が、静岡県内各地で土砂崩れや河川の氾濫をもたらした。全県で44人が亡くなり負傷者241人、床上・床下浸水は8万戸超。住んでいたアパートは、備中高松城の水攻めのようだった。 この日、もう一つ覚えているのは、当日が県知事選の投票日だったこと。事実上の一騎打ちとなったこの選挙では、山本敬三郎氏が大接戦の末、後に衆院議員となった永原稔氏を4千票差で破り、その後は3選を果たしている。 山本氏から数え4代目、4期務めてきた川勝平太知事が、任期途中で辞職願を提出する見通しとなった。これを受けた知事選は来
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静岡消防士殉職事故 会見 謝罪は一歩 検証継続を【記者コラム 黒潮】
「不愉快な思いをさせてしまったことを心から深くおわび申し上げる」。3月21日、急きょ開かれた静岡市消防局の記者会見-。2022年、葵区呉服町の雑居ビルから出火し、駿河特別高度救助隊の山本将光さん=当時(37)=が殉職した事故を巡り、消防局長と警防部長(3月末で退職)が謝罪した。事故から約1年半がたち、会見で山本さんや遺族に謝罪を述べたのは、初めてのことだった。 遺族の要望で開かれた“謝罪会見”は市が消防局の組織的課題を検証した報告書を踏まえて事故当時の現場活動の誤りを初めて認めた。警防部長は事故翌日の会見で「活動に問題はなかった」と説明したが、複数の活動が「規範通り
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記者コラム「清流」 歩く魅力と大切さ
藤枝市田中にある徳川家康ゆかりの史跡田中城下屋敷周辺を巡った。普段の車移動では簡単に見過ごしてしまうような地域に残る貴重な史跡を求め、散策ガイドマップを手に約1時間半じっくり歩き回った。発見した時は、喜びと充実感を味わった。 下屋敷の横を流れる六間川沿いに咲く満開の桜や、住宅街にぽつんと点在する史跡の案内看板をはじめ、穏やかな小川、格安ミカンの無人販売所など徒歩だからこその出合いがたくさんあった。 巡っている途中、入社時に記者の心得として地域を歩いてよく見渡し、少しでも変化に気付きなさいと助言されたことを思い出した。地域の魅力や課題を見つけるには、やはり徒歩が適しているのだろう。歩く魅力
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社説(4月10日)知事選前倒し 県の将来像を競い合え
任期途中での辞職を表明した川勝平太知事は、当初、静岡県議会6月定例会としていた辞職時期を早め、10日にも県議会議長に辞職願を提出する見通しだ。辞職に伴う次の知事選は5月9日告示、26日投開票で実施される公算が大きい。県民はわずかな期間で、後任の知事を選ばなくてはならない。 既に元総務官僚が立候補を表明し、複数の政治家の名前も取り沙汰されて選挙戦の可能性が高まっている。突然の知事交代による混乱を早急に収め、新たな県政を円滑にスタートさせるには、有権者が立候補者の資質と政策の適否を見極め、一票を投じることが欠かせない。そのためには短期決戦といえども、立候補者は自分の描く県の将来像をしっかり語り
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【時評】知事発言 不適切か過剰反応か 多様性の感度欠けていた(野村浩子/ジャーナリスト)
「不適切にもほどがある」。この3月末に終了したTBS系人気ドラマのタイトルだ。新年度を迎え、この番組名が頭に浮かぶ出来事が起きた。川勝平太静岡県知事が、4月1日に新入職員への訓示で次のように述べたところ、「職業差別」との批判を浴び、辞意を表明したのだ。 「県庁とは、別の言葉で言うとシンクタンクです。毎日毎日野菜を売ったり、あるいは牛の世話をしたりとか、あるいはものをつくったりとか、ということと違って、基本的に皆さま方は頭脳・知性の高い方たちです。ですから、それを磨く必要があります」 県民の間では、川勝知事の「不適切」発言は、数々記憶されているだろう。「御殿場には(特産は)コシヒカリしか
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記者コラム「清流」 理不尽に身を置く子
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が長期化している。ウクライナの隣国ルーマニアで、国際的な非政府組織(NGO)の駐在員として働く浜松市出身の清水奈々子さん(31)をリモートで取材し、戦地から逃げてきた子どもの学びに大きな影を落としている現状を知った。 ルーマニアでは避難した子どもを公立学校で受け入れていて、清水さんは放課後学習の支援や心のケアをする人材の手配といった調整業務を担う。教員不足や言語の違いなどから「十分な教育を提供するのは難しい」と課題に直面する。 日本人や静岡県民に訴えたいことを聞くと「理不尽な環境に身を置く子どもの存在を知ってほしい」と返ってきた。一人一人が少しずつ関心を
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記者コラム「清流」 「地図のない旅」
レース時間は約2分。これだけのわずかな時間に、五輪を目指した3年間が凝縮される。競泳パリ五輪代表選考会、男子200メートル個人メドレー決勝。松本周也選手(伊東高出、下田市出身)の戦いが終わった。 大会中、生命線の前半が伸びずに苦心していたが、決勝の前半は日本記録に迫るペースだった。レース後の第一声は「やりたいことはやれました」。自然と浮かんだ晴れやかな表情に、どう質問しようかと思案していた筆者は救われた。 松本選手と比ぶべくもないが、学生時代に同じように短時間で決する競技に打ち込んだ。競技人生最後のレース前の光景は今も鮮明に浮かぶ。松本選手の旅路はまだ続くが、メドレー種目は一区切りのよう
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コラム窓辺 起業するということ(曽根原容子/Woman’sサポート理事長)
ここ数年、起業ブームでさまざまな分野で起業をする人が多いです。特に女性の起業が増えているように感じます。美容、飲食、IT系、占い、投資アドバイザーなど、他にも業種はたくさんあります。 「起業」とは業を起こすと書くように、起こすことは少しの勇気で簡単にできます。しかし大切なことは、続けることです。これは私の感覚ですが、3~5年くらいでクローズする人も多いように感じます。思ったよりも大変だった、稼げなかった、プライベートとのバランスが取れなかったなど、その理由はさまざまです。 ただいつもそのような話を聞いて思うのは、せっかく業を起こしたのだから、それはこの世の中に子供を産んだのと同じことだか
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大自在(4月9日)春の新聞週間
「お茶の間」があった時代、新聞は朝の風景に欠かせないものだった。テーブルと椅子でトーストの朝食をとるようになってからも、新聞は日常にとけ込んでいた。 シンガー・ソングライターさだまさしさんの初期作品に新婚家庭の朝を点描した「朝刊」(1975年)がある。「ねェまた巨人が負けたってさって/高田の背番号も知らないくせに」。 この年ジャイアンツは球団史上初の最下位。後にさださんは巨人を負けさせてしまったことを悔やんだ(「時のほとりで」新潮文庫)。開いた新聞から一日と会話が始まるのも「今は昔」かもしれない。試合結果はスマホで迅速に知ることができ、そもそも、悪いニュースをわざわざ教えてくれなくていい
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記者コラム「清流」 目線を変えて
静岡で記者になって以降、移動手段は専ら車。学生時代は徒歩や自転車での移動が主だったため、立場によって町の見え方がこれほど違うのかと驚く。 交通事故のあった現場に足を運んだ時などはそれが顕著だ。ドライバー、歩行者それぞれの目線から道を眺めると、「歩行者からはよく見えているが車からは姿が見えにくい」「段差があって通行しづらい」「この先の横断歩道まで歩くと結構距離がある」など、現場を取り巻く環境に発見がある。 春の交通安全運動が始まった。進学や就職、転勤で新生活を送っている人も多いだろう。「相手の立場に立ってみる」ことは対人関係だけでなく、交通安全でも大切なはず。歩行者、自転車、車。目線を変え
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【時評】トランプ氏の危機感 支持率僅差も資金力の差(海野素央/明治大教授)
米大統領選挙はバイデン氏対トランプ氏の再対決が確定した。政治サイト、リアル・クリア・ポリティクスの各種世論調査結果の平均支持率(2月21日~3月13日)は、トランプ氏がバイデン氏を1.7ポイントの僅差でリードしている。しかし、その平均値にはトランプ氏に甘い数字を出すいわゆる「トランプ応援団」の世論調査会社の結果が含まれている点に留意すべきだ。 支持率が僅差であっても、資金面ではバイデン氏が圧倒的に優勢である。米第4四半期(2023年10~12月)においてバイデン氏と民主党全国委員会は9700万ドル(約145億円)を集めたのに対して、トランプ氏は1900万ドル(約28億円)。トランプ氏は
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社説(4月9日)静岡茶市場 消費者の認知度向上を
静岡市葵区の茶問屋街に、はしり新茶が出回り始めた。中心的施設の静岡茶市場の新茶初取引式典は開設以来最も早く12日朝、開催される。 入荷数量が見通せず、六曜は前年と同じ赤口で「赤字を連想させる」という声もあるが、シーズン到来を一日でも早く告げようと暦より実を取った。2023年度に10年連続の営業赤字となった危機感の表れとも受け取れる。 茶市場の活路には、茶業者の施設から、お茶好きな消費者も注目するよう、認知度を向上させる必要がある。急須を使って上級茶葉を入れる人を増やし、安い原料茶を使う大手の緑茶ドリンク台頭による茶価下落に歯止めをかけなければならない。 23年度は若手社員のプロジェクト
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記者コラム「清流」 優しいサングラス
紫外線から目を守るためサングラスを使うよう眼科で勧められた。取材時や日常遣いには抵抗があるものの、運転中なら問題ない。強気になる、性格が変わるなどと乱暴な運転の要因ともされる密閉空間の車内だが、目をいたわる優しい習慣として実践している。 富士市の岳南電車(通称・岳鉄)が、希望する運転士向けに偏光サングラスの着用を導入した。「皆さまには何とぞご理解を」の案内に、乗客らの視線を気にする事業者の意識がうかがえる。サングラスでの業務は浸透の途上にある。 疲労軽減に加えて、視認性や安全性向上につながるなどの効果があるそう。かけたまま接客する状況もきっとある。そんな運転士をまさに色眼鏡で見ることのな
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記者コラム「清流」 県外の軽トラ市を訪問
3月下旬、愛知・新城市の県外の軽トラ市を初めて訪ねた。全国三大軽トラ市の一つで、中心の商店街で毎月開催している。新城は道路中央に軽トラを1列に配置するスタイル。スペースを有効活用でき、両脇の店舗の景観を阻害せず、客を送り合うのが良い。 この商店街に、スズキの販売子会社が営業所を移転新築オープンした。軽トラ市開催時間は敷地を無料開放してまちと“一体化”。会場のほぼ真ん中に位置するため、子ども連れや高齢者が立ち寄ってトイレや授乳など一息付ける。軽トラメーカー自ら地域振興に一役買う象徴的な試みだろう。 月イチ開催は浜松など本県会場と比べ高頻度だと思ったが、無理のない自主
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大自在(4月8日)他山の石
近所の桜が満開だ。温暖化で年々開花が早まっている印象だったが、ことしは平年より遅め。各地で行われている入学式とタイミングが合い、新入生や保護者には印象深い光景になっていることだろう。 入学式や入社式には学校長や経営者の式辞がつきもの。自分の入学・入社式の式辞がどんな内容だったか、覚えている人は少数派だろうが、中には人生の糧になる金言に出会えることもある。 述べる側も知恵を絞っているに違いない。相手の心に響く言葉を自分で考え出せればそれに越したことはないが、なかなか難しい。そんな時は故事や著名人の名言を借りて思いを伝えるのも手だ。 語録が式辞やあいさつでよく引用される名経営者に、浜松市名
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社説(4月8日)子ども支援金 「負担増」の議論隠すな
児童手当の拡充などを柱とする少子化対策関連法案が衆院で審議入りした。対策の実行には今後3年間に年最大3兆6千億円の財源が必要となるため、社会保障の歳出削減や創設する「子ども・子育て支援金」などで賄う。支援金は公的医療保険料に上乗せして徴収する。対策の実効を上げる議論を求めたい。 焦点となる支援金の徴収で岸田文雄首相は答弁で「歳出改革による保険料負担の軽減効果の範囲内で行う。国民に新たな負担を求めない」と強調した。従来から歳出改革で社会保険料の伸びを抑え、賃上げの効果を加味すれば「実質的な負担は生じない」と繰り返してきた。 しかし、首相が「負担増」のイメージ隠しに腐心するあまり、少子化に対
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コラム窓辺 衛星を作り打ち上げる(能見公博/静岡大工学部教授=宇宙工学)
人工衛星を作ろう、と思い立ったのは2004年秋のことである。ハワイで行われた日米シンポジウムへ学生を連れて参加した。その1年前に東大、東工大が世界初の超小型人工衛星を学生中心で打ち上げていた。刺激を受け、「宇宙ロボット衛星を作ろう!」ということになった。 まず、つまずいたのは電気電子や無線通信の分野。工学研究室なのでそこでつまずくのは不思議に思われそうだが、機械を専門に「見える動き」を扱うわれわれにはハードルが高く、非常に苦労した。そして材料の分野である。予想外に奥が深い。例えばアルミは10種類以上あり、加工や表面処理の方法もさまざま。熱の影響、電池の化学反応など、多岐にわたる勉強が必要に
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時論(4月7日)図書館がまちを変える
静岡県教委の取材を担当して以来交流があり、県教育長や県立中央図書館長を歴任した鈴木善彦さんから先日、一冊の本を手渡された。 タイトルは「牧之原『いこっと』誕生物語―民と官で開いた図書館の記録―」。牧之原市は私の故郷。そして「いこっと」は3年前、その地の官民複合施設内にオープンした市立図書交流館。本は新図書館開館に向け、市図書館協議会長として民の立場で中心的に関わってきた鈴木さんと、市の図書館司書として行政実務の先頭に立ってきた水野秀信さんの共著だ。 「いこっと」については、鈴木さんから度々話を聞いていた。カフェやボルダリング施設などが出店した民間エリアとの境界が仕切られてない県内唯一の図
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大自在(4月7日)商鞅
中国・戦国時代の政治家、商鞅[しょうおう]は秦の孝公の信を得て取り立てられ、宰相として国政改革に辣腕[らつわん]を振るった人物。旧来の貴族層が持っていた特権を廃して中央集権化を進め、法治主義の政治体制を整えた。 当初は新たな法に民衆からも不満の声が上がったが、貴族でも法に基づいて厳しく罰することで受け入れられ、秦の富国強兵を進めた。前漢の歴史書「戦国策」には商鞅の政治について「罰は強大を諱[い]まず(罰は有力者に対しても遠慮なく行われた)」と記されている。 改革で貴族層の恨みを買った商鞅は、孝公が没すると罪を着せられて車裂[ざ]きの刑に処せられた。しかし、法治が根付いた秦は弱小国から一大
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社説(4月7日)ガザ戦闘半年 拡大を防ぎ停戦実現を
イスラム組織ハマスによるイスラエル領への越境テロ攻撃で始まった戦闘は7日で半年。パレスチナ自治区ガザ地区で続くハマスとイスラエル軍の戦闘は停止どころか、戦火が中東全域に拡大する懸念すら高まっている。 シリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館領事部の建物が1日、空爆された。イスラエルは公式に関与を認めていないが、イランとシリアは外交施設を標的にした攻撃は国際法違反だと強く非難している。イランがイスラエル領への報復攻撃に出ればイスラエルを支援する米国も巻き込んで戦火が拡大しかねない。 国際社会は双方に自制を求め、戦火の拡大を防がなければならない。ガザ地区での戦闘も即刻停止させなければならない
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大自在(4月6日)スイス
日本がスイスと国交を樹立して今年で160年を迎えた。200年以上前から永世中立国の看板を掲げている友好国に好印象を抱いている人は多いのではないか。アルプスの少女ハイジ、高級時計、数多くの国際機関の拠点-。思い浮かべるものは人それぞれだろう。 国連機関が国民生活の豊かさを示す目安として発表している「人間開発指数」の最新の世界ランキング1位はスイスである。指数は所得や平均余命、就学状況を組み合わせて算出する。国民の満足度は高いに違いない。 スイスは国民皆兵の国であり、武器輸出国でもある。日本との交流は江戸末期に修好通商条約を締結したのが出発点。当時、日本には時計とともに武器も輸出していたとい
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社説(4月6日)保護司の確保 若返り進む制度改革を
罪を犯した人や非行少年の立ち直りを支える保護司の減少を受けて、制度の見直しを議論している法務省の有識者検討会は、新任時の年齢上限の撤廃や公募制の試行などを盛り込んだ中間報告を取りまとめた。ボランティアで活動している保護司に報酬制を導入する適否も検討する。年内に最終報告書をまとめる方針で、政府は来年の保護司法改正を目指す。 保護司は政府が対策に力を注ぐ再犯防止に欠かせない存在だ。しかし、保護司は減り続け、高齢化が進んでいる。担い手の確保は重要な課題で、持続可能な制度にするためには、若返りを図る改革が求められる。 保護司は刑務所や少年院を出た保護観察中の人などと定期的に面会し、生活上の助言や
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記者コラム「清流」 地紅茶と志戸呂焼
ウイスキー用のたる材をチップにし、茶葉を燻(いぶ)した紅茶を島田市金谷地区伝統の「志戸呂焼」の専用ティーカップで味わう。「第1回島田地紅茶フェスティバル」が開かれ、想定を大きく上回る1800人が来場した。 茶価低迷や減産が止まらない中、国産の和紅茶(地紅茶)に対する消費者の関心の高さは大きな可能性を秘めている。若者や家族連れの来場者が多かったことにも注目したい。 主催者に成功の秘訣(ひけつ)を尋ねたところ「紙コップではなく、志戸呂焼で提供したこと」との答えが返ってきた。格段に味わい深くなるという。地元伝統の焼き物の活躍に思わず胸が熱くなった。市内では来年秋に「第23回全国地紅茶サミット」
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記者コラム「清流」 記憶してください
富士宮市議会の当選1期目議員を対象にAED講習が開かれた。アクセサリーは外すべきか、女性を男性が対応して良いか。複数人で積極的に質問する姿は一見、感心に値しそうだが、周囲は目を合わせて肩を落とした。7日前の一般質問で議論された内容そのままだったからだ。 一般質問ではAEDに関する説明が行政当局から20分ほどあり、基本は網羅した内容だった。講習で重複しても丁寧に説明した担当者に、横で勝手ながら申し訳なさを抱いた。 当該議員たちが昨春の街頭演説で地元住民の声をしっかり聞いて市政に届けると声高に訴えていたのを思い出す。果たして、議場の答弁は聞いていたのだろうか。それとも忘れてしまったのか。政治
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記者コラム「清流」 津波避難施設 改善点は
夜間の地震を想定し、磐田市で3月、津波避難訓練が行われた。福田地区の豊浜小では昨年の3倍に上る約100人が参加。能登半島地震を受け、市民の防災感度が高まったようだった。 実際に高さ11メートルの校舎屋上まで避難すると、風をさえぎるものがなく、想像を超える寒さだった。避難した人は第1波から逃れられたとしても、第2波以降や余震に直面し、家族や知人の安否を考えながら過ごすことになるかもしれない。体力の消耗に加え、精神的な負担も大きいだろう。 ただ、市は屋上を一時的に避難する場所とし、毛布や飲料水などの備蓄品を常備していないのが現状だ。地震の発生直後から救助が入るとは限らない。有事の際に人々の生
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コラム窓辺 新しいステージ(久保田香里/静岡理工科大法人本部広報部長)
私は春が大好きです。卒園や卒業では、成長したりりしい姿に感激する幸福感が、入園・入学や入社では、新しい生活が始まるわくわく感が周囲に満ちあふれている特別な季節だからです。新生活準備の買い物中らしきご家族連れや入学式のおめかしのご様子を見かけるとうれしくて、つい「おめでとうございます」と声をかけてしまいたくなります。 そんな私もこの3月で、17年の間、校長を務めさせていただいた静岡デザイン専門学校を卒業し、4月からは学校の母体でありJR静岡駅北口前に新キャンパスをオープンした学校法人静岡理工科大学法人本部にステージを移しました。在任中は、多くの皆さまのご支援ご協力を賜りましたことに心より感謝
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大自在(4月5日)芹沢と大岡 魂の交差
静岡市本通の呉服商の次男として生まれた染色家芹沢銈介は40年前の4月5日、88歳で世を去った。今週火曜から市立芹沢銈介美術館で始まった企画展は、彼の「画家」としての素地を見つめる。草花のスケッチや板絵の数々からは「世界を写し取りたい」という根源的な欲望が伝わる。 同じ4月5日が命日の詩人大岡信(1931~2017年)は三島市出身。芹沢とは親子ほどの年齢の開きがあるが、ともに本県出身の世界的表現者として知られる。フランス政府から芸術文化勲章(オフィシエ)を授かっているのも共通点だ。 盛期の活動の場が離れていた2人の、希少な〝接点〟が芹沢美術館に残る。夭折[ようせつ]した歌人中村三郎の「降る
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記者コラム「清流」 パワハラ撲滅は遠い
長時間の叱責(しっせき)や職員の人格、能力を否定する言葉の暴力―。静岡市が危機管理総室(現危機管理局)幹部の言動をパワハラ行為と認定し、減給の懲戒処分を下した。 該当部分とされる録音データを聞き、被害者を取材したが、内容は聞くに堪えないものばかりだった。言われた方は明らかに萎縮し、長期間に及べば心身を壊しうると誰でも想像できる。報道が出るまで有効な手だてが打たれなかった組織対応にも怒りを覚える。 難波喬司市長は、パワハラ認定後も同室の仕事ぶりを評価する姿勢を変えていない。パワハラと密接に結びついた状態で行われた仕事を評価していいのか。一連の行為がなければ、もっといい仕事ができたと考えるべ
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社説(4月5日)自民党の裏金処分 いまだ真相解明できず
自民党は派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件で、党紀委員会を開き、事件に関係した安倍派と二階派の所属議員39人の処分を決定した。 安倍派元座長の塩谷立元文部科学相(衆院比例東海)と参院の同派トップだった世耕弘成前参院幹事長を、党の規約に定めた8段階の処分のうち2番目に重い離党勧告とし、ほかの議員には3番目に重い党員資格停止や6番目の党役職停止などを科した。 党総裁の岸田文雄首相に、一部議員の反発を買ってでも処分を断行することで国民に政治改革をアピールし、政権や党への逆風を弱めたい思惑があるのは間違いない。だが、多くの国民はこの処分に納得がいかないだろう。処分の前提となるべき事件の真相解
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記者コラム「清流」 荒波越える教育を
3月、西伊豆町の田子小で閉校式が開かれた。児童や地元の住民が慣れ親しんだ校歌を体育館に響かせ、学びやに別れを告げた。田子小にまつわる思い出話も披露され、住民からの感謝や愛に包まれていた。 校章は漁業で栄えた地域らしく船のかじをかたどっているという。大海を旅する船のかじを握る者は、あらゆる困難を乗り越えるために常に勇気と意志と深い知恵が必要―。体育館の壁に刻まれている。 少子高齢化が進む西伊豆の人口構成は、都市地域が今後迎える“将来像”だと聞いた。縮小社会の先進事例となるまちづくりが行政には求められている。 4月から町内の小学校は2校となる。子どもたちが将来、どん
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記者コラム「清流」 “プロ”の心構えで
2月下旬、浜松市浜名区で住宅が全焼する火事があった。冬の乾燥と風で数分のうちに一気に燃え広がる火や出てくる煙を住民が不安そうに見守っていた。視線の先には、消火活動に汗を流す消防隊や周辺道路の交通規制をする警察官など現場のプロの姿があった。 数日後に分かったのはもう2人の“地域のプロ”の存在だ。80代の女性2人が、住人の女性(99)を救出したという。燃え上がる炎に腰を抜かしそうになりながら玄関や裏口を回り、ドアをひたすらたたいた。ようやく聞こえた住人の「はい」の返事に安心し、住人の家族への連絡も試みた。 「2人だったからできたことだね」。互いを見つめ合い、ほほ笑む2
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大自在(4月4日)打吹公園の桜
遅れていた桜の開花情報も、4月に入ってようやく活発になってきた。遅咲きの桜といえば、大相撲の第53代横綱琴桜。度重なるけがを乗り越え、32歳で最高位に上り詰めた。 出身は鳥取県倉吉市。勧誘に来た佐渡ケ嶽部屋の師匠が、同市の打吹[うつぶき]公園の桜に「こんなにきれいなのは見たことがない」と感激したという。しこ名の由来が「横綱」(武田葉月著、講談社)にある。打吹公園は日本さくらの会が選定する「さくら名所100選」。圧巻の4千本は山陰随一と言われる。 園内に相撲広場もあり、琴桜の名を冠した相撲大会「桜ずもう」が毎年行われる。小学生の時、この大会で相撲を始めたのが落合哲也さん。十両の伯桜鵬。伯耆
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コラム窓辺 「推し本」で自己紹介(中田健児/静岡少年鑑別所・法務少年支援センター静岡所長)
「アンジュール ある犬の物語」という絵本をご存じですか。著者はベルギー出身の女性、ガブリエル・バンサン。初版は1986年で私の愛蔵本は2001年第39刷。今も書店で購入可能な超ロングセラーです。この本にはせりふや説明は一切ありません。鉛筆デッサン画のみです。ただ、その画力、筆力が圧倒的で、一度読んだら忘れられない絵本です。 物語は、車の窓から犬が投げ捨てられるシーンで始まります。犬は必死で車を追いかけるのですが、道に迷い、疲れ切り―。ふとしたことから道路に飛び出し、よけようとした車同士がぶつかる交通事故を引き起こしてしまいます。思いがけない展開に混乱し、おびえ、打ちひしがれる犬の姿には、読
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記者コラム「清流」 実家で「宝探し」
「実家に宝の山が眠っているかもしれない」。ホビー商材販売店「駿河屋」本店駿河屋ビル(静岡市葵区)にオープンしたトレーディングカード(トレカ)売り場を歩き、ふと考えた。 世界最大規模という売り場では、約180万種類1000万点超の現物をその場で確認、購入できる。驚かされたのは商材の豊富さだけでなく、数十万~100万円超にもなるレアカードの販売価格だ。少年時代に所有していたカードの名前を駿河屋のウェブページで検索すると、「22万円」と表示された。 運営するエーツー(同市駿河区)に聞けば、同様に販売価格に驚いてカード売却に訪れる来店客が増えているという。 トレカで遊ばなくなってから久しく、今
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記者コラム「清流」 セルフレジの緊張感
浜松市内のホテルに無人決済システムを導入した売店がオープンした。無人店は増え、セルフレジは今や当たり前。有人レジより気楽で、よく使っている。 先日、考え事をしながら操作していたセルフレジで手元の商品をレジにスキャンしたかどうか分からなくなった。履歴で判断できたが、意外にも緊張したことに気付いた。怪しいと思われないか―。振り返れば、無人店を利用する際は防犯カメラへの映り方にも気を使っていたように思う。 ホテルが売店に導入した無人決済は、複数のカメラやセンサーが客の手にした商品を認識。レジ前に立つと購入商品や金額などを客に自動で表示し、「監視の最先端」だと感じた。一方、「しっかり監視されるこ
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記者コラム「清流」 日本の風景
桜の街路や花火大会は、迷惑駐車や騒音の問題がしばしば関係者を悩ませる。一方で周囲を気遣い、場所や順番を譲り合う人もたくさんいて、日本のイベントの良さにあふれている場所とも感じている。 富士市内から富士山を望む撮影スポットとして話題の「富士山夢の大橋」は、山なりの橋から真正面に山体を捉えることができて人が集まる。歩道には絵になる階段も備わっていて、時間を忘れて撮影に没頭する人たちもいるようだ。迷惑駐車を引き起こす事態もあったが、専用駐車場が確保されて少し収まった。 外国人の人だかりを目にする機会は特に多い。多言語の看板で注意喚起が図られる中、地元市民の振る舞いも見せたい。きちんと並ぶ。人に
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社説(4月4日)浜名湖花博 周遊観光定着の弾みに
「浜名湖花博2024」が浜松市中央区のはままつフラワーパークで開幕した。6日には、もう一つの会場である同区の浜名湖ガーデンパークでもスタートする。集客力の高い花と緑の祭典を機に、環浜名湖の魅力を発信し、周辺エリア一帯の観光振興に結びつけたい。 04年の「しずおか国際園芸博覧会(浜名湖花博)」の20周年記念事業として静岡県などでつくる実行委が主催する。「人・自然・テクノロジーの架け橋」をテーマに6月中旬まで、季節の美しい花や庭園、関連したデジタルアートなどの最新技術を披露する。花き産業が盛んな本県産の美しい花や庭、風景を広くアピールしてほしい。 期間中は両会場だけでなく、近隣の湖西市で世界
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大自在(4月3日)あほうかしこ
正月も15日、言われて鏡餅を神棚から下ろした駆け出し落語家が師匠に問うた。「お餅にどうしてカビが生えるんでしょうか」「ばかやろう、早く食わねえからだ」。 餅のカビは見れば気付く。「紅こうじ」サプリメントから青カビ由来の「プベルル酸」が検出されたと発表があった。小林製薬は分かってからも当初は「未知の成分」としか言わなかった。健康被害が相次ぐ腎臓への影響は不明というが、情報開示の不手際はサプリ市場全体に不信が広がりかねない。 冒頭のやり取りの下っ端は林家木久扇さん。師匠は、後に彦六と改名した八代目林家正蔵(1982年没)。「新・彦六伝」をCDで聴いた。 木久扇さんは「笑点」を先の日曜の放送
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コラム窓辺 ここが最後の地?(宮澤敏夫/富士山静岡交響楽団専務理事)
東京、札幌、長野県の伊那、静岡と渡り歩いて30年が過ぎました。静岡交響楽団からオファーがあり、着任したのが75歳。それから5年が過ぎ、この地にもすっかりなじんできました。 その間、大きな仕事として組織をNPO法人から一般財団法人に、そして公益法人にしました。全国のオーケストラと肩を並べるところにまでなり、その間、浜松で頑張ってこられた浜松フィルハーモニー管弦楽団との合体(これを機会に富士山静岡交響楽団と改名)もあり、勢いを持って次の段階に進んでいける体制が出来上がりました。 楽員のレベルは信じられないほど向上しました。「毎回集中」をテーマに定期演奏会で一流の指揮者、一流のソリストと共演し
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記者コラム「清流」 県民生活支える人材
「人手不足」と「人材不足」は字面こそ似ているが、意味は大きく異なる。人手不足は日々の業務を回していく労働力を確保できない状況であり、人材不足は仕事に必要な知識や技術を持っている人が足りていないことを意味する。 公務員の定年退職年齢の段階的な引き上げに伴い、県では3月末時点で60歳の幹部職員108人が役職定年を迎えた。うち7割は4月から班長級として職場に残る。職員に指示する立場だった人が実動部隊に戻ってくるのだから、本人も“元部下”も若干のやりにくさを感じるかもしれない。 だが、幹部職員が蓄積してきた経験や知識は財産だ。県民生活を支える組織が人材不足に陥らないために
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【時評】麻疹対策のワクチン 抗体獲得へ2回接種を(矢野邦夫/浜松医療センター感染症管理特別顧問兼浜松市感染症対策調整監)
麻疹(はしか)が世界的に流行しており、国内でも感染者が報告されている。麻疹は感染力が極めて強く、治療薬がないことから、ワクチンの接種が重要である。 ワクチンは2回の接種が必要である。どうして2回目を接種するのかといえば、麻疹ワクチンを1回接種すると、約95%の人が抗体を獲得し、2回目の接種によって99%が抗体を獲得するからだ。すなわち、1回目の接種では免疫を獲得できない少数の人々に免疫を与えるために2回目を接種するのである。 「1回目の接種の後に抗体検査をしてから、抗体を獲得できない人に2回目を接種すればよいのではないか」と思う人もいるかもしれない。しかし、そのような方法では費用も日数
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社説(4月3日)川勝知事突然辞意 無責任のそしり免れず
静岡県民の負託の重さを理解しているとは、到底思えない引き際だ。2009年の初当選以来、約15年にわたって県政のかじ取りをしてきた川勝平太知事が2日、「6月の議会(県議会6月定例会)をもって職を辞そうと思っている」と突然の辞意表明をした。4期目の任期を約1年残しての辞職となる。 突然の辞意表明は、1日の新規採用職員への訓示で職業差別と受け取れる発言をしたことを巡り報道陣の取材を受ける中でだった。ところが、県政に多大な影響を及ぼす判断であるにもかかわらず、理由を説明せずに取材対応を打ち切った。あり得ない。24年度予算が成立しているとはいえ、新年度を円滑にスタートさせなければならない重要な時期だ
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家庭ごみ有料化 条例改正 自分事で減量推進して【記者コラム 風紋】
家庭ごみの処理を有料化する条例改正案が浜松市議会2月定例会で可決された。ただ、開始する時期は条例改正案には明記されず、すぐに有料化が始まるわけではない。市民のごみ減量の努力次第では先送りされる可能性もある。 有料化の対象は、燃えるごみと燃えないごみ。市が従来の指定袋とは別に新たな袋を用意し、処理手数料を上乗せする形で販売する。料金は1リットル当たり1円と設定し、現在1枚10円程度の45リットル袋は35円程度値上がりする。実施の際には、減量が難しい紙おむつやストマ用装具などについては減免規定も設ける予定だ。 有料化の実施可否は、1年間の家庭ごみ排出量が大きな判断材料になる。市の計画では20
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記者コラム「清流」 雨天の開幕
チューリップやスイセンの花からしたたる雨のしずくがきらきらと輝く。3月下旬、「浜名湖花博2024」が開幕を迎えた。あいにくの雨天となった開幕日、家族連れらが春が到来した花の世界を笑顔で楽しむ姿が見られた。 開幕からしばらく続いた雨。それでも、ランのアーチで彩られた大温室や360度の映像の特設シアター、園内を走るフラワートレインに乗っての散策など、多彩な楽しみ方が用意されていた。準備に汗を流していた職員らの苦労を思い、ファインダー越しに見えた来園者の明るい表情に、少しホッとした。 春の長雨は「催花雨(さいかう)」とも呼ばれ、花々を咲かせる雨という意味を持つという。降り注いだしずくが、会場を
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記者コラム「清流」 読めない試合展開
富士市の公道を自転車で走行する富士山サイクルロードレース。最後の最後まで全く読めない試合展開に圧倒された。 メイン種目「富士クリテリウムチャンピオンシップ」決勝は1.8キロのコース30周で競う。レースに変化が生まれたのは16周目。後方にいたブリヂストンの所属選手が縦一列にトレインを組み、他の選手にプレッシャーをかけながら追い上げを開始する。ラスト数周で先頭集団を吸収して迎えた最終周回。一瞬、隊列が緩んだかと思うとその隙に、これまで体力温存していた別チームの選手が後方から一気に飛び出し、そのまま1位でゴールした。 個人戦でありながら集団戦。体力勝負でありつつ心理戦の要素を含む。沿道にいる観
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大自在(4月2日)国際子どもの本の日
小学生の娘が2歳の頃から、夫婦で就寝前の読み聞かせを続けている。ふだん帰宅の遅い父親ができるのは休日だけだが、娘の好む本が変わっていくことで成長を実感する。 読み聞かせの効果かは分からないが、小学校に入ってからは頻繁に図書室や図書館に通っているようだ。ただ、物語を読んでほしい親の思いと裏腹に、借りて来るのは自然科学系の本ばかり。「子は親の思い通りにならない」ことも思い知らされる。 4月2日は「国際子どもの本の日」。国際児童図書評議会(IBBY)が、子どもの本を通して国際理解を深めようと1967年に制定した。デンマークの童話作家アンデルセンの誕生日にちなむ。 69年から毎年、IBBY加盟
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コラム窓辺 祖母の愛した我入道(曽根原容子/Woman’sサポート理事長)
沼津市我入道で生まれ、10歳の時に我入道を出た私は1人暮らしの祖母と暮らすために、20年前に我入道に戻ってきました。今、祖母は施設に入っていますが、105歳で健在です。 昔は漁師町で祖父も漁師でした。そして文学者の芹沢光治良が生まれ育った歴史のある街で記念館もあり、幼少の頃はそこの公園でよく遊びました。 私は21歳で鍼灸[しんきゅう]師の資格を取得し、その後、美容の業界に入り、36年間この業界にいます。美容の業界は女性が一線で仕事をして、それを評価してもらえる職種であり、私は全国展開をしているエステの会社にいたので、とてもやりがいを感じながら仕事をしていました。 そのような中、25年前
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記者コラム「清流」 代用品を考える
○○が手に入らないときはどうしたらいいか-。先日訪れた市民団体による防災講座では、講師があらゆる事態を想定しながら防災グッズを紹介していた。 例えば携帯トイレの備蓄。黒い袋と凝固剤がセットになった製品が多いが、それらを十分に準備できなかったとき、ビニール袋とペット用シートがあれば代用できるという。ポリ袋調理では、水をたくさん使えない場合を想定して、野菜ジュースでご飯を炊いた。試食したところ、ケチャップライスのような味わいでおいしかった。 近年は用途に合わせた専用商品がすぐに手に入る。便利なのだが、その製品がないときにどうしていいか分からず、代用品も思いつかない。豊かさの弊害だろうか。ある
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記者コラム「清流」 米粒から膨らむ想像
磐田市の社山城跡で1978年に炭化した状態で見つかった米が、室町中期1436~77年の兵糧だった可能性が高いと市教委が発表した。社山城に関する最も古い歴史資料になった。 室町中期と言えば、応仁の乱が起きた。その当事者だった斯波氏は遠江守護職を巡って今川氏と争っていた。社山城も抗争の舞台になった。室町後期に今川方の兵を率いて遠州に侵攻した伊勢宗瑞(後の北条早雲)も社山城を訪れたかもしれない。戦火で焼けたとみられる小さな米粒だけで、はるか昔までイメージが膨らみ、胸が高鳴った。 同市は古代から近現代までの歴史資源がそろう貴重な環境にある。ただ、誘客に生かし切れていないのが残念。市民や訪れた人が
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記者コラム「清流」 すてきな取り組み
長泉町にコインランドリーに併設するクロワッサン専門店がある。いつも車で通る道沿いの店。前々から気になっていた。 「町内でおすすめの取材先ありますか」。何げない商工会職員との会話。紹介されたのがその店だった。LPガス容器をくず化する時に生じる残ガスで焼き上げる珍しい取り組みをしていた。 営業開始から2時間ほどたってから、取材で店内に入った。ふわっとバターのいい香り。こだわりが詰まったクロワッサンは、地域住民に人気で既に完売のものもあった。 コインランドリーも残ガスで稼働し、災害時、電気などのライフラインを住民に無料提供するという。無駄なく残ガスを活用したいという社長の思いと、地域住民にと
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社説(4月2日)静岡市歴史博物館 リピーター獲得目指せ
戦国時代の今川家、徳川家の歴史をはじめとする静岡市の成り立ちに関する資料を収めた静岡市歴史博物館(葵区)の全面開館から、1年余が経過した。2022年7月のプレオープンから数え、これまでに約45万人が入館している。 同館のアンケートによると、県外からの来場が約3割に上った。全面開館した23年は大河ドラマ「どうする家康」の放映と重なり、静岡浅間神社境内に期間限定で開かれた「大河ドラマ館」との回遊も活発だった。大河放送が終了した24年は、観光拠点としてのさらなる知名度向上に加え、資料収集と企画展示、館外の活動を含む教育活動をバランス良く展開してほしい。県内外からリピーターを獲得するための工夫が必
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【時評】大学生による家庭養育支援 地域社会に「斜めの関係」(白井千晶/静岡大人文社会科学部教授)
大学生がファミリーホームを訪問する「斜めの関係プロジェクト」を始めて2年近くになる。ファミリーホームは、事情があって親元などで暮らすことが難しい子どもを社会の責任として育てる「社会的養護」のうち、規模が大きめの家庭養育である。全国に446カ所(2022年3月現在)のホームがあり、里親等が担っている。静岡県内には9カ所ある。 子どもにはさまざまな背景がある。親が養育困難で小さな頃から社会的養護の下で暮らしてきた子ども、暴力やネグレクト(放棄)といった不適切な環境から保護されてきた子ども。中には親元にいたいと思っていたのに、引き剝がされたと感じている子どももいる。また、親の病気などで一時的な
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大自在(4月1日)宝塚歌劇団
東京勤務だった時に、宝塚歌劇団の公演を鑑賞したことがある。同時期に静岡市出身で当時、花組トップスターだった明日海りおさんの記者会見を取材する機会にも恵まれた。 満員の劇場に年配の男性はわずかで居心地が悪かったが、舞台は素晴らしく、なぜ人気があるのか合点がいった。劇中のどの場面を切り取っても絵になる。演出や舞台装置の効果もあろうが、何より、少しの乱れもなく演技やダンスをする出演者の並々ならぬ努力あっての舞台だろう。どれほどの稽古を積むのかと思ったのを覚えている。 歌劇団は1913年、「宝塚唱歌隊」として発足した。初公演は110年前の14年4月1日。プールを改造した劇場での舞台だったとホーム
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社説(4月1日)対北朝鮮交渉 拉致解決へ機会逃すな
北朝鮮の金正恩[キムジョンウン]朝鮮労働党総書記の妹、金与正[キムヨジョン]党副部長が3月、水面下で行われているとみられる日朝の外交交渉の内容を暴露する談話を発表して波紋を広げている。岸田文雄首相が、可能な限り早い時期に金総書記と直接、会談したいとの意向を伝えてきたとした上で、「拉致問題は解決済み」とする立場を強調して日本側もこれを受け入れる「政治的決断」を求めた。 ところが翌日に「日本側といかなる接触も拒否する」と表明。さまざまな臆測を呼んだ。外交の原則に反して暴露したのはなぜか。日本が、最優先課題の拉致問題を無視して交渉などできようはずもない。それを北朝鮮が承知していないこともあり得ま
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核心核論(4月1日)独裁体制のロシア 異論派弾圧とうそ横行
モスクワ郊外で起きた銃乱射テロを巡り、ロシアでは「ウクライナと米英が関与」という主張がまかり通っている。国際社会は、犯行声明を出した過激派組織「イスラム国」(IS)の仕業とみるが、ロシアは異次元の情報空間だ。 プーチン大統領が選挙で「87・28%」という、民主国家では考えにくい高得票率で「圧勝」して以降、体制は「もはや何でもあり」と開き直った感がある。ソ連崩壊後に民主社会を目指したロシアは、権力者による異論派の弾圧と露骨なうそが横行する独裁体制に変貌した。 米情報当局がISによるテロの可能性を警告したにもかかわらず、それを防げなかったのは、プーチン氏が依拠する特務機関「連邦保安局(FSB
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総裁レース後退の河野氏【政流考】
今年9月には自民党総裁選が予定される。3年前の前回に出馬し、決選投票で岸田文雄首相に敗れたのが河野太郎デジタル相だ。首相・総裁への意欲はなお盛んだが、このところ旗色が悪い。 次の総裁に誰がふさわしいかを聞く共同通信の世論調査で、前回総裁選直前に河野氏は岸田氏も抑え1位になった。昨年中は2、3位をキープ。ところが今年3月には、5位にまで後退してしまった。 「つまずき」の原因は明らかだろう。河野氏が閣僚として担当するマイナンバーカードへの国民の根深い不信感。そして、河野氏が強引に進めてきた普及策への反発だ。 政府はトラブルが相次いだマイナンバーの点検結果を公表。約8208万件を精査し、うち
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コラム窓辺 専門は宇宙工学(能見公博/静岡大工学部教授)
初回なので自己紹介をさせていただく。静岡大学工学部機械工学科に所属し、専門は宇宙工学。研究内容は地上と宇宙ステーションをロープで結んで人や物資を運ぶ「宇宙エレベーター」、ひもを使った宇宙ゴミ掃除ロボットなど。研究室では人工衛星を開発し、宇宙航空研究開発機構(JAXA)などのロケットで打ち上げてもらい、宇宙で実験を行っている。 主観を含めた経歴も紹介する。高校時代は宇宙に魅力を感じたが、大学は機械工学科で大学院修士では機械工学を専攻し、宇宙とは直接関係がないエレベーターのロープの振動を研究テーマにした。機械の動きを扱う機械力学分野は面白く、修士卒業後に自動車メーカーに就職した。しかし、宇宙へ
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社説(3月31日)ギャンブル依存症 改めて危険性の周知を
ギャンブル依存症が人生を狂わせ、周囲も巻き込んで深刻な事態を招くことを改めて認識させられた人も多いのではないか。米大リーグ、ドジャース大谷翔平選手の専属通訳を務めていた水原一平氏が違法賭博問題で解雇され、依存症だと告白した。大谷選手だけでなく、水原氏の家族にも計り知れないダメージを与えたのは想像に難くない。 国内のギャンブル依存症の実態や対策の遅れはカジノ合法化に向けた議論の中で社会問題として取り上げられ、対策強化の必要性が指摘された。2018年にはギャンブル等依存症対策基本法も施行された。ただ、昨年4月に大阪府・市が国に申請したカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の整備計画が認定された
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時論(3月31日)森林環境税の徴収開始に思う
小学生の頃からだから、半世紀近い付き合いになる。今や国民病とされる花粉症。20代まで鼻水・鼻づまりがひどく、2月から5月の連休明けまでが憂鬱[ゆううつ]だった。人間ドックで指摘される別の疾患が増えるにつれ症状は軽減したが、素直に喜べない。現在はシーズン序盤の頭痛に悩まされている。 環境省の資料によると、国内の正確な花粉症患者数は不明だが、2019年のある調査で有病率は約42%だった。10年ごとにほぼ10%ずつ上昇しているという。経済損失は1日当たり2千億円以上という民間の推計もあるようだ。 終戦後、住宅建築に使う木材需要への対応や、戦中に荒廃した森林の復旧を目的にスギなどが盛んに植林され
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大自在(3月31日)エンゲル係数
新年度を迎えるが、またも値上げの春になりそうだ。帝国データバンクの主要食品メーカー195社調査によれば、4月の食品値上げは2806品目。人件費や物流費の増加、円安水準の長期化などの要因が拡大したという。オリーブ油やゴマ、カカオ豆など猛暑や干ばつの天候不順で不作だったものが多く、原材料高も再燃の兆しを見せる。 「エンゲル係数」という指標がある。家計の消費支出に占める食費の割合を示すもので、総務省が家計調査で算出している。国民の暮らしの豊かさなど生活水準の目安の一つで、支出割合が高いほど家計にゆとりがない状況とされる。 2023年は27・8%にまで上昇し、1983年以来40年ぶりの高水準とな
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大自在(3月30日)菜の花
今月下旬の天候不順で桜の開花は遅れ気味のようだが、わが家のプランターでは「菜の花」が満開状態だ。鮮やかな黄色の小花が咲きそろい、春の到来を感じさせてくれる。 この菜の花、元は野菜くず。生ごみとして捨てるハクサイの芯を水に浸しておいたら芽を出し葉が出てきた。次々に葉が広がったところでプランターに移植。陽光に当てて水をかけていたら5センチの野菜くずが60センチほどに伸びて花芽が出た。 ハクサイと同様に芯から育てたキャベツも同じような黄色い花を咲かせている。「へた」から育ったダイコンも花芽を出した。こちらは開花すれば白い花を咲かせるらしい。捨てれば生ごみ、育てれば菜の花と、この違いは大きい。
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記者コラム「清流」 過去との決別
1万分の3ミリ―。この目に見えないわずかな誤差を測定し、自社製品に狂いがないかを証明する。浜松市で輸送機器部品の外装ケースを試作する浅沼技研は、「加工精度の保証」を経営の軸に据える。中小企業には決して安くない2億円超を投じ、世界最高峰の測定機を導入した。 日経平均株価が4万円を超え、バブル期以来の「失われた30年」は過去の話に。海外投資家が日本企業に熱視線を向け、金融市場は活況を呈す。国内産業ピラミッドの頂点に君臨する大企業の力だけではない。地道な研さんで技術力を磨く中小があってこそだ。 適切な価格転嫁が中小の経営を支え、巡り巡って日本経済を豊かにする。下請けいじめなどもってのほか。株高
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社説(3月30日)東部3市の再開発 全域活性化へ連携図れ
静岡県東部の主要3市(富士、沼津、三島)の中心市街地で2024年度、複合ビルを建設する再開発事業が本格的に始動する。富士、三島は30年までに完了する予定。新たな貨物ターミナルと車両基地の整備に伴う鉄道高架化を進める沼津では、40年前後の完工を見通す。 東部・伊豆は少子高齢化と人口減、中心市街地の衰退など共通する課題を抱え、基幹産業である観光も先行き不透明だ。そうした中で、図らずも人口10万人を超す主要3市の中心市街地再開発が同時期に本格化する。3市はこれを好機ととらえ、観光振興や定住促進で連携して東部・伊豆全体の活性化に寄与する方策を考え、推進してほしい。 再開発をてこに地元の活性化を第
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記者コラム「清流」 農業の面白さ伝えたい
3月中旬、富士宮市内房の特産「内房たけのこ」の収穫を取材した。少子高齢化で第1次産業を支える若者が減っていると言われるが、タケノコ農家も例外ではなかった。 取材を快く受け入れてくれたのは、同地区で約60年間も農業を続ける70代男性。本人は「豊作の年」と話すも、年齢的に全盛期のようには収穫できないと漏らした。山に入ると、20代でも転げ落ちそうな斜面で作業に取り組んでいる。取材を通していろいろな感情が沸いてきた。 農業のノウハウは長年の経験から生まれる。体力があれば良いわけではない。作物を安定供給するには新たな働き手が必要だ。筆者も援農ボランティアなどに積極的に参加したい。農業の大変さだけで
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記者コラム「清流」 自然で働くこと
山の急斜面で、送電線に枝が引っかかりそうな木があった。枝が送電線に触れないよう、木の折れる方向を決め、現場周辺の安全を確保する。林業の中でも長年の経験が要る作業だ。佐久間森林組合の作業員はチェンソーで溝をつくり、木が斜面の方向へ折れると安心した表情を見せた。 連載企画で林業従事者に取材すると、森林を守る大切さや仕事の難しさが伝わってくる。一人前の従事者になるには長い時間が必要という。森林経営、木の種類、チェンソーの使い方など覚える分野は広い。 取材した女性の一人は「自然の中で働くと体力が付くし、気持ちがいい」と笑顔を見せる。仕事内容は違うが、自然に囲まれた水窪支局で働く私も同じだ。これか
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大自在(3月29日)国語辞典
小説家の井伏鱒二は1966年に文化勲章を受章した際、自宅に来た新聞記者に問われて「晴れがましい」と答えた。すぐに「広辞苑」を引いて「あ、ちょっと違いますね、ぼくのはもっと照れくさいという気持ち」と得心したような顔をしたという。 この記者は、後に産経新聞の朝刊コラム「産経抄」を35年にわたり執筆した石井英夫さん。大作家の所作に「感動した」(「コラムばか一代」)。広く知られるエピソードらしく、朝日新聞の元論説委員も引用していた。 記者に国語辞典は必携だ。言葉の意味と使い方を確かめる。辞書がないと読めないような記事は書くな、辞書にない言葉を使うなと言われ続け、いつしか自分が言う側になった。
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核心核論(3月29日)24年度予算成立 裏金事件が審議妨げた
2024年度予算が参院本会議で自民、公明両党などの賛成多数で可決、成立した。岸田文雄首相は予算に基づき社会保障や安全保障政策などを主導していくが、政治不信を解消できない岸田政権に国民生活を委ねられるのか。後半国会は「政治とカネ」問題に加え、重要政策の審議を通じ、信任に値する政権か見極める期間としたい。 24年度予算は一般会計の歳出総額が112兆5717億円で、23年度当初に次ぐ過去2番目の規模だ。予算はいずれも過去最大の社会保障費37兆7193億円、防衛費7兆9496億円などを計上。能登半島地震からの復旧・復興を進めるため、災害対応の一般予備費を1兆円に積み増した。 予算額にも表れている
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社説(3月29日)サプリ健康被害 周知徹底し回収を急げ
小林製薬(大阪市)が製造販売した「紅こうじ」のサプリメントを摂取した人に、腎疾患などの健康被害が出た問題が拡大している。サプリ摂取後に4人が死亡したことが報告され、入院患者も90人以上となった。 小林製薬は対象となる3製品の自主回収を始め、同社から原料の供給を受けた飲料や食品のメーカーによる自主回収も広がっている。大阪市も対象商品の回収を命じた。 まずはこれ以上の被害を防ぐために対象商品の回収を急がなければならない。漏れのない周知が必要だ。ただし、これまでの流通量の多さから回収終了までには時間がかかるとみられている。 被害報道を受けて小林製薬に対する相談件数は約1万2千件に達し、寄せら
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コラム窓辺 立ち上がれ静岡 顔を上げよう日本(杉原行洋/ハヤテグループ代表)
「約80万人」。昨年の日本の人口減少数です。毎年、浜松市や静岡市に匹敵する街がこの国から消えているとすら言えます。「127万社、650万人」。後継者不足から127万社に廃業の恐れがあり、650万人の雇用が失われると言われています。 いま日本には社会課題が山積みになっています。残念ながら静岡もその例に漏れません。いつ頃から日本を薄暗い閉塞[へいそく]感が覆うようになったのでしょうか。 しかし、各国に良さはあれど、これだけ自然と四季に恵まれ、深い食文化を持ち、清潔で、人の慈愛深く、誇らしい国を、私は寡聞にして他に知りません。そして、静岡はその最たる地の一つであると思います。水平線、高い空、深
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記者コラム「清流」 日常にあるプロ野球
プロ野球2軍ウエスタン・リーグに参入したくふうハヤテベンチャーズ静岡の初シーズンが始まり、新球団が歴史的な一歩を踏み出した。本拠地のちゅ~るスタジアム清水(清水庵原球場)がある地区で小中学校時代に野球に打ち込んだ身としては、想像もしたことがなかった景色にただただ感慨を覚えた。 開幕戦の試合前、球団の杉原行洋代表は「もう1年に1度のプロ野球を待つ必要はありません」とあいさつした。そう、草薙球場や東京ドームでの観戦は野球小僧にとって大イベントだった。2軍戦であれ、プロの試合がこんなに身近で見られる日が来るとは。 球団の最大の魅力は、多様な背景を持った選手が集うそのストーリー性。多くの人がその
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記者コラム「清流」 残したい棚田の風景
日没前の柔らかい光を反射する棚田が、息をのむほど美しかった。キャンプ企画の取材で訪ねた菊川市倉沢の「千框(せんがまち)の棚田」。のどかな山里に身を置いている時間が心地よくて雑談を楽しんでいるうちに日が傾き、棚田は表情を変えていた。 棚田の1枚ずつをキャンプ場の区画サイトに見立てた配置。農閑期だが、保全団体の粋な計らいで一部に水を張っていた。テントで夜を明かしたキャンパーは最高のロケーションを楽しめたことだろう。 通年営業のキャンプ場になれば人気が出るとも思ったが、田んぼとして現役なのが魅力。景観の維持には人手が要る。保全団体は高齢化に直面していて、企画は交流人口の拡大と新規棚田オーナーの
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記者コラム「清流」 若手、女性を意識せよ
1988年に沼津市内の経済団体や各種団体の役員らで設立された「沼津駅の高架化を実現する市民の会」が3月、事業後を視野に入れた「鉄道高架化とまちづくりを推進する会」に衣替えした。今後は要望活動にとどまらず、中心市街地を含めたまち全体の将来像を描き、市民に発信するとの気概を持ってほしい。 役員は21人。会長や理事長といった地域の顔役をそろえた。沼津最大の事業を長期間かけて進める上で、強力な布陣と言える。しかし、顔ぶれは前身の市民の会とほぼ同じ。事業完了までまだ20年近くを要することを考えると、次代を担う若手や、多様性を重視する視点から女性をもっと起用すべきだ。 顔役をそろえても着工まで30年
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コラム窓辺 今川氏研究とピンク・レディー(中村羊一郎/静岡市歴史博物館長)
さくらももこさんの、「静岡市はいいねぇ」は至言です。ところが、戦国時代末期に国ごとの気風を述べた「人国記」という本では、遠州人は決断力にすぐれ、伊豆の人は激情家だというのですが、駿河の人はどうもはっきりしない、リーダーがいないなど、かなりのマイナス評価です。静岡市の方言で、いつまでもぐずぐずしている人を「ねえたらくわず」と言います。煮えたら食べようと言って、物事を決められないのです。「人国記」は、うまく言い当てていますね。 そんな気風は、静岡市の恵まれた自然環境のもとで形成されたのでしょう。三方が山で外敵は侵入しにくいけれど、海に面しているから閉鎖的ではない。しかも山林、金や塩など、豊かな
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大自在(3月28日)円安
外国為替市場で円安が進み、1990年7月以来、約34年ぶりの安値をつけた。日銀はマイナス金利政策の解除を決めたが、植田和男総裁が「当面、緩和的な金融環境が継続する」との見方を示し、急激な金融引き締めへの市場の警戒感が薄らいだようだ。 「歴史的」とされる最近の円安は米国などとの金利差が直接的な要因だが、国内輸出産業の衰退やデジタル技術・サービスの立ち遅れなど国力の低下が根底にあるとも指摘される。円安の恩恵で好業績の企業も多いとはいえ、物価高にあえぐ庶民としては先行きが不安だ。 その「円」の歴史をさかのぼってみる。始まりは明治政府が1871年に制定した新貨条例。当時の表記は「圓」だった。新通
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記者コラム「清流」 やる気引き出す言葉は
「勉強しなさい」や「宿題やった?」は、子どもについ言ってしまう言葉ランキングの上位常連を占める。「宿題や家庭学習にどう取り組ませるか」をテーマに展開した「賛否万論」で、読者やキュレーターから寄せられた投稿には「自発的」「主体的」というキーワードが頻出した。 学びの楽しさは自ら課題を見つけ探求することで養われる。子どもたちの主体的なやる気を引き出すために、教師や保護者がかける言葉は重要な意味を持つ。 どんな声かけが有効か、記者自身も含め悩む保護者は多いのでは。チャットGPTに助けを求めて「『勉強しなさい』の良い言い換えは?」と尋ねると、「楽しみながら成長しよう」との回答。早速娘に言ってみた
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社説(3月28日)静岡県内商業地の地価 上昇基調持続へ政策を
国土交通省が発表した公示地価(1月1日現在)は、新型コロナウイルス感染症5類移行による社会経済活動の正常化などで、全用途の全国平均が前年比2・3%上昇し、バブル崩壊後で最大の上昇率となった。ただ、地方圏(札幌、仙台、広島、福岡の地方四大市を除く)は0・7%上昇と、三大都市圏(3・5%)、地方四大市(7・7%)ほどの勢いはない。 静岡県は0・1%下落と16年連続マイナス。県外のように大手半導体メーカー進出や外国人の別荘需要増、鉄道延伸などの特徴的要因はなかったが、用途別で商業地は4年ぶりに上昇に転じた。商業地上昇率トップは観光客でにぎわい、出店需要が高まる熱海市熱海銀座地区の13・2%。
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記者コラム「清流」 当事者の声
「自治会や自主防災会の役員って、男性ばかりでしょう」。地域防災の講演会の取材中、講師にそう言われて「確かに」とうなずいてしまった。災害時は女性、障害者、外国人など多様な人々が被災する。避難所運営に、そうした当事者の声を反映できているのか、という内容だった。 避難所といえば、学校の体育館などに大勢の地域住民が集まる形が多い。女性の性被害や障害者の避難については、大きな災害が起きるたびに問題になっている。日ごろから女性や障害者も意見を出し合って備えることで、対策を図ることはできないだろうか。 能登半島地震の被災地に、県内から多くの行政職員らが派遣された。その経験を地域に還元し、生かす必要があ
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記者コラム「清流」 金はなぜ金色?
ピカピカときらめき、人を魅了する金はなぜ金色か―。静岡大工学部の小野篤史教授の研究グループが金を使って開発したフィルムの色は青、緑、赤色。鮮やかな色合いのフィルムに、金っぽさは全く感じられなかった。「金は金色」という常識からは外れた現象に興味をかき立てられた。 金は粒子にしてガラス内などに分散させると、通り抜けた光が赤色に見える性質があり、赤色のステンドグラスや江戸切子などにも利用されてきた。フィルムは、金粒子の大きさを変えると色が変わる性質を応用して開発された。 取材では基礎として、金はさまざまな色の光のうち青色以外を反射するため、青色の補色の金色(黄~橙色)に見える原理から学んだ。徐
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コラム窓辺 生かされた意味(高森志文/アサヒユウアス社長)
2019年4月、白血病で妹がこの世を去った。亡くなる1カ月前、これ以上の抗がん剤治療は難しいということで、本人の希望で緩和ケア専門医による在宅医療に変更。寝たきりの状態で退院し、このまま死んじゃうんだろうな、とみんなが思っていた。 しかし自宅に戻って数日後、ベッドから起き上がり、自分の口でご飯を食べ、みるみる元気に。そのうち旦那さんと息子のために朝ごはんを作り、お弁当を作り、昼間はあちこち断捨離。当時、妹が死ぬ前提で話をするから、覚悟して話を聞くものの、次に行くと前回より元気になっていて「こりゃ死ぬ死ぬサギだ!」と大笑い。今となってはキラキラした大切な思い出だ。 亡くなる1週間前、実家に
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大自在(3月27日)相棒の裏切り
「信頼していた方の過ちというのを、悲しくというかショックです」。米大リーグ、ドジャースの大谷翔平選手が、通訳だった水原一平氏の違法賭博問題について初めて語った。 水原氏は通訳としてだけでなく、トレーニングや車の運転など公私でサポートし共に歩んできた。そんな「相棒」の裏切り。「うまく言葉では表せない」。大谷選手はどれほど動揺したか。想像を絶する。 相棒を辞書で引けば「上下の意識なく一緒に仕事をする仲間」(新明解国語辞典)とある。江戸時代までよく使われていた乗り物の「かご」から生まれた言葉だという。箱状の座を棒でつるし、前後で一緒に担ぐ人のこと。 大谷選手は、自身の口座から違法ブックメーカ
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記者コラム「清流」 情報が届くことの価値
高校生の時、知人の家が火災に見舞われた。友人間で情報が錯綜(さくそう)する中、地元紙が安否や当時の状況を伝えてくれた。報道機関のありがたさを実感した瞬間だった。 実際に記者として勤めると、「報道」に対して自問の日々だった。報道することでむしろ被害者やその家族を傷つけないかなど、報道の意義に悩む事件事故の取材も多かった。 そんな時、ある事件の取材で被害者の知人男性に話を聞く機会があった。「びっくりした」「周りもみんな受け止め切れていない」-。率直な思いを聞いた時、心の底から報道の使命を感じた。「知りたい人に知りたい情報が届く」ことの意義を肌で感じた。 これからも悩み続けるだろうが、「情報
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記者コラム「清流」 花博のフラワーパーク
はままつフラワーパーク(浜松市中央区)でたくさんの花に包まれ、さまざまな思い出がよみがえった。 子どものころはよく家族や遠足で訪れた。お気に入りは噴水池の斜面に施された三角花壇。三角の植栽が青空と緑の芝に映えた。意味もなく、池の周囲を走り回ったことも思い出す。家庭を持ったばかりのころはわが子をベビーカーに乗せて園内をゆっくりと歩き、写真を何枚も撮った。 十数年ぶりの園内は当時のままの趣で、なんだか落ち着く。フラワーパークは浜松市出身者の原風景かもしれないとしみじみ思う。 フラワーパークで23日から浜名湖花博2024が開催されている。月日の移り変わりとともに多種多様な花緑を楽しめ、新たに
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三島市役所整備地選定 市民の総意捉え結論を【記者コラム 湧水】
築60年経過して老朽化が進む三島市役所の新庁舎整備建設地を巡る議論が今夏、大詰めを迎える。候補地は現在地の北田町か南二日町広場のどちらか。市は1万人規模の市民アンケートを5月に実施し、8月に結論を下す方針だ。まずは市民の総意がどちらにあるか注目している。 市は昨年11月に候補地を選定する予定だった。しかし、市議会や市民の意見が多様として絞り込みは拙速と判断し、決定を先送りした。アンケート結果を尊重しながら「拮抗(きっこう)した場合は総合的な観点で判断する」としている。 新庁舎を建設する上で重要な論点は①コスト②防災③まちづくりの影響―だろう。 コストは、現在地が庁舎の高層化や立体駐車場
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記者コラム「清流」 伊東の図書館
好きな場所を一つ挙げるとすれば、まず図書館が思いつく。出身の静岡市南部の施設は親に連れられた幼少期以降、数え切れないほど足を運んだ。静かな空間の中で棚に並ぶ本の背表紙を眺めていると、あっという間に時間が過ぎた。 以前の勤務地の図書館も心地よい環境でよく利用したが、現在住む伊東市の施設は足が向かない。そこかしこが古く狭く、居づらい気分になるからだ。現状では通う楽しみが見いだせない。気になった本を手に取り、落ち着いたスペースでひとときを過ごす「ゆとり」がほしいと感じる。 そんな伊東市で、新たな図書館の建設に向けて動きが進む。ただ、入札不調に見舞われ、当初計画からの規模縮小を図る方針だ。多額の
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【時評】台湾と海洋史研究で協力推進 黒潮蛇行の影響 解明へ(浜下武志/静岡県立大グローバル地域センター長)
静岡県立大グローバル地域センターでは海洋史研究の視点から、台湾中央研究院台湾史研究所と台湾近海漁業と静岡焼津港の共同研究を進めており、研究者の相互派遣を含めた取り組みを準備している。 台湾近海では近年、海水温暖化に伴う漁場の北上により、トビウオ卵漁業の後退が著しく、卵の漁獲量が激減している。卵漁業が縮小している主な原因は気候変動であり、トビウオがいなくなったり、産卵に来なくなったりするのは、気候温暖化によって漁場全体が北上しているためだと考えられている。 トビウオは海洋表層に生息する魚種で、水温に大きく影響される。産卵に最も適した水温は26~29度だが、台湾東北海域の水温は近年29度を
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社説(3月27日)大谷選手の会見 疑惑晴らし野球専念を
米大リーグ・ドジャースの大谷翔平選手が、専属通訳だった水原一平氏の違法賭博疑惑について初めて現地で記者会見し、自らの賭けや胴元への送金などすべての関与を否定する声明を発表した。 たとえ通訳の不祥事でも、大谷選手が関与していれば法的責任を問われたり、大リーグ機構から出場停止などの処分を科されたりすることも考えられる。声明が事実なら、その可能性は極めて小さいと見てよかろう。ひとまずはファンを安堵[あんど]させた。 とはいえ、大谷選手が「話せることに限りがある」と前置きしたように、質疑応答はなく会見時間は10分程度。口座への送金方法など未解明の点があり、調査の進展が待たれる。エンゼルスからドジ
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コラム窓辺 持続可能な未来へ(水野裕央/日本銀行静岡支店長)
諸行無常という言葉がありますが、全てのものが移り変わっていくことは、さまざまな歴史に加え、四季や異常気象などの自然も教えてくれます。 現実の経済では、人の欲は無限かつ多様で変化もします。社会課題も次々と発生します。このため、企業は得た利益を研究開発、設備、従業員へ投資し活用することで、需要の変化へ対応し、事業を継続、発展させていきます。企業の諸行無常への挑戦が持続可能な未来への扉を開けると言っても過言ではありません。 また、持続可能な未来の扉を開け続けるためには、中央集権的組織が多い既存企業との対比で分散型自律組織の議論があるように、変化に対してスピード感を持って的確に対応可能な起業や第
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大自在(3月26日)二階俊博元自民党幹事長
1958年9月26日夜に伊豆半島南端をかすめ、日付が変わったころ三浦半島に上陸した狩野川台風。伊豆を中心に死者888人、行方不明者381人、負傷者1138人、家屋の全半壊・流出1万数千棟という甚大な被害を出した。 当時、建設相を務めていたのが裾野市出身の遠藤三郎氏(1904~71年)。中選挙区時代の衆院静岡2区選出で、地元の惨状に心を痛めたことは想像に難くない。復旧に力を尽くし、7年後に完成した狩野川放水路の建設にも大きく貢献したとされる。 その遠藤氏に11年にわたり秘書として仕えたことのある二階俊博元自民党幹事長が、次の衆院選に出馬しないと表明した。自民派閥の政治資金パーティーを巡る裏
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記者コラム「清流」 旅先で考えたこと
休暇を使い九州を旅行した。観光地はもとより交通アクセスの悪い温泉街まで外国人が多くてびっくり。熊本県で台湾積体電路製造(TSMC)の工場が開所し、九州は今、最も熱い地域の一つ。好況を一過性にしまいと、あれこれ施策に知恵を絞る自治体の姿が目に浮かんだ。 翻って本県はどうかも考えた。観光に限らず、産業停滞、少子化、若者流出-。経済のてこ入れに向けて課題が横たわる。「理想郷」「文化の首都」「ポスト東京」と、県が毎年の予算発表のたびに掲げる聞こえのいいフレーズは実を結び、県民は潤っただろうか。 本紙が行った県内企業調査では県政に対する厳しい評価が相次いだ。中には川勝平太知事の政治力や資質を問う記
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記者コラム「清流」 20年前の浜名湖花博
静岡県東部の中学校で、吹奏楽部の先輩に「面白そうだから出てみない?」と誘われたのがきっかけだった気がする。20年前の浜名湖花博、のたねステージ。部内で有志を集めて編成が偏ったアンサンブルを組み、手持ちのスコアを編曲して空き時間に練習した。親に頼んで、車で楽器を運んでもらい、皆で浴衣を着てステージに立った。 SMAPの「世界に一つだけの花」を演奏したことを覚えている。木材をふんだんに使ったステージの前で拍手をくれた人の顔は定かではない。出演後、世界の庭園を巡って母や友人と人生初のトルコアイスを食べた。少しぼやけた青春の記憶だ。 20年後、記念事業が始まり、不思議な気分がする。準備の様子を見
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記者コラム「清流」 人が集まる理由
富士東高新聞部はコンクールの入賞常連校。部員たちは「とにかく楽しい部活」と強調する。 活動日が特に固定されていなくても、放課後は毎日のように部室に人が集まってくる。部員同士の仲が良く、必ずしも紙面作りの話をしているわけではないが、何げない会話が記事につながることもある。 部員は2年生と1年生計10人。毎年コンスタントに入部希望者がいる。昨年入ったある男子生徒は中学まではサッカー部だった。入部理由を聞くと「先輩たちがいきいき活動していた。取材で自分が知らない世界を知ることができる面白さを感じた」という。 さまざまな分野で人手不足が嘆かれている。楽しそうに仕事をすること。信頼できる仲間がい
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【時評】習近平思想の翻訳出版 典型的な遠交近攻の発想(楊海英/静岡大教授)
中国は今、習近平共産党総書記の著作集を世界各国語に翻訳する国家プロジェクトを進めている。その背景と狙いは以下の通りである。 まず、習総書記は万事、建国の父・毛沢東氏を模範として仰いでいる。毛氏は自らの著作内の要点を分かりやすく分類し、「毛沢東語録」として公開した。毛語録の外国語への翻訳と出版は1966年10月から中国政府によって実施された。半年もたたないうちに日本語と英語をはじめ、24カ国語に訳され、50億冊も印刷された。当時の世界人口は30数億人だったので、平均して1人1.5冊保有していたことになり、「聖書」と「コーラン」を凌駕[りょうが]していた。 外国語に訳された毛語録はさまざま
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社説(3月26日)北陸新幹線延伸 被災地復興の後押しに
北陸新幹線の金沢―敦賀間が延伸開業した。東京―福井間の所要時間は最短2時間51分で、開業前より約30分短縮されて首都圏がより近くなった。沿線では観光など地域経済への効果が期待される。 能登半島地震からの復興につなげる観光支援事業「北陸応援割」も始まり、活況を呈しているようだ。地震で落ち込んだ旅行需要の回復が目的で、期間限定で宿泊代金が最大50%引きとなる。JR西日本は延伸開業直後の2日間は昨年の利用実績の1・2倍になったとしている。 一方、石川県の奥能登地域を中心とする能登地震の被災地は依然として復旧途上だ。地震発生から間もなく3カ月となるが、約1万戸が断水したままで、8500人以上が避
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大自在(3月25日)新入幕優勝
総合スーパー「ユニー」は2022年11月、店舗従業員の髪の色を自由化した。実施に当たり「髪色を派手にする場合は店で一番元気なあいさつと好印象な接客を心がける」というルールも設けた。 「一人一人の個性を大切に、働きやすい環境をつくっていく」ためという。1年たって調べると、従業員の7割以上が肯定的に受け止め、51%が黒色以外の髪で働いていた。自由な色の中で「派手髪」は20%。 4月の入社式を前に髪形、髪の色を変えて心機一転という若者もいるだろう。髪形の多様性と対極にあるのが角界か。関取の髷[まげ]はその形から大銀杏[おおいちょう]と呼ばれる。明治政府は1871(明治4)年に旧弊打破の一環とし
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核心核論(3月25日)日韓の少子化問題 背景に硬直的社会規範
日本と韓国に共通する少子化問題で、深刻な数字が公表された。2023年に日本で生まれた赤ちゃんは過去最少の75万8631人で、初めて80万人を割った前年からさらに約5%減少。ここには外国人が含まれており、今後集計される日本人だけでは73万人程度にとどまる見通しという。 韓国はより衝撃的だ。23年の出生数は約23万人で前年比8%近く減少。女性1人が生涯に生む子ども数(合計特殊出生率)は0・72で、世界最低水準だった前年から一段と低下した。ちなみに日本の出生率(22年)は1・26。 専門家は、これまでも両国の少子化の要因を分析してきた。米社会学者メアリー・C・ブリントンは、日本の少子化の背景と
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社説(3月25日)新入幕優勝 若手台頭を躍進の力に
大相撲春場所で新入幕の東前頭17枚目尊[たける]富士が13勝2敗で優勝を果たした。1914年(大正3年)夏場所の両国以来、実に110年ぶりの快挙だ。初土俵から10場所目の優勝は、両国の11場所を抜いて最短記録を更新した。学生相撲出身の24歳。今場所は同じ学生相撲出身で一足早く入幕した23歳の大の里も好成績を収め、優勝争いを繰り広げた。今後のライバル関係を予感させる若手の活躍が、角界に新風を吹き込んだ。 春場所の直前、幕内北青鵬の後輩に対する暴力行為が発覚して引退を余儀なくされ、師匠の宮城野親方(元横綱白鵬)も2階級降格の処分を受けた。場所中には唯一の横綱照ノ富士が腰のけがで休場。大相撲離れ
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コラム窓辺 桜の季節、静岡に思いはせ(白井貴子=しらいたかこ/シンガー・ソングライター)
そろそろ桜の便りが届きそうですね。皆さんは今から約110年前に世界情勢を案じ、私費を投じて桜の苗木を米ワシントンに贈った人をご存じですか? その人は北陸出身の化学者高峰譲吉博士。しかも全国から集めた桜を丈夫な苗木に育てたのが、静岡市清水区の興津地区にあった試験場。全国の木々を研究のために育てていた所です。さすが静岡! 富士山の土壌の豊かさは日本の森を育てる力に直結しているんですね。 私は2011年公開の、譲吉博士の生涯を追った映画「TAKAMINE アメリカに桜を咲かせた男」で、主題歌「SAKURA SAKURA 幸せの架け橋」を担当しました。興津に伺い、プロモーション動画の撮影を行った
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社説(3月24日)基本法改正と農村 持続可能な農業集落に
政府は食料・農業・農村基本法の改正案を閣議決定した。今国会で成立させ、国際紛争の激化や気候変動などに対応する新たな農業政策を展開する考えだ。 農業基本法を継承し1999年の施行から25年。この間、国内外の情勢は大きく変化した。改正の基本理念に打ち出した食料安全保障がクローズアップされているが、法律名の通り食料、農業、農村は不可分である。地球規模で考える食・農と、身近な生産現場である地方の農業集落は車の両輪として持続性を考えなければならない。農業集落が持続可能なコミュニティーであり続け、食料安定供給と農業の多面的機能を切れ目なく発揮できるように支援するのが、地方自治体の役割だ。 有事に対応
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時論(3月24日)後継ゾウ問題は皆で考えたい
江戸中期の享保14(1729)年、8代将軍徳川吉宗に献上されるオスのゾウが長崎から江戸まで歩いた。梅雨時で大井川は増水し、大勢の川越え人足が上流で肩を組んで流れを和らげたという。 ゾウは10年ほど浜御殿で飼育されたが餌代がかさみ、成長して気性も荒くなったため幕府にとってお荷物になった。ゾウのふんを薬として売っていた男に金を付けて引き取らせたが、ゾウは2年もせずに息絶えた。象牙は近くの宝仙寺(東京都中野区)に納められた。 異国に連れて来られ、長い距離を歩かされ、好奇の目にさらされ続けたゾウを思うと胸が痛む。 静岡市立日本平動物園は、高齢ゾウの後継を海外から迎えることを断念すると市議会2月
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大自在(3月24日)浜名湖花博2024開幕
700万年前に登場した人類は猿人、原人、旧人(60万年前~)、新人(20万年前~)と進化したと習った。旧人のネアンデルタール人と私たち現生人類のつながりをDNAから解明したスバンテ・ぺーボ氏は2022年ノーベル生理学・医学賞を受けた。 ネアンデルタール人は毛皮を着用し剥片[はくへん]石器を使うなどした。イラクの洞窟遺跡で骨の周辺の土から花粉が発見され、「死者を弔う心も」と話題になった。花粉は小動物によって持ち込まれたという異説もあるが、それでも宗教的世界観までは否定されないという。 仏壇にも墓参りにも花は欠かせない。野辺の地蔵に手向けられた一輪の花に足を止めることもある。冠婚葬祭、人類は
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大自在(3月23日)殿様枕症候群
「枕を高くして寝る」は心配事がない状況を指す慣用句。不意の敵襲などに備え、音や振動が分かるよう床や地面に耳をつけて寝る必要がないことに由来するとの説がある。 だが、高すぎる枕は医学的には危険もあるようだ。国立循環器病研究センターが脳卒中の原因となる首の動脈の病気に、高く硬い枕の使用が関係していることを突き止め、病気の新概念を「殿様枕症候群」と命名した。英語論文では、その名も「ショーグン・ピロー・シンドローム」だ。 患者らを対象にした研究では、普段使っている枕が高いほど発症率が高く、この関連は枕が硬いと顕著で柔らかい枕では緩和された。首の屈曲と病気の関連が分かったという。 テレビの時代劇
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社説(3月23日)民間ロケット 失敗を糧に前進続けて
和歌山県で打ち上げられた民間の小型ロケット「カイロス」1号機は発射5秒後に爆発し、打ち上げは失敗した。打ち上げた宇宙事業会社スペースワンは、何らかのトラブルが発生し、搭載コンピューターが自ら破壊することを判断したとしている。 失敗の報を聞いた米宇宙開発企業スペースXを率いるイーロン・マスク氏は「ロケットは難しい」と自身のX(旧ツイッター)アカウントで言及した。宇宙船や大型ロケットの開発で躍進著しいスペースXもロケットで打ち上げ失敗を繰り返している。 民間企業が取り組む上で、乗り越えるべきハードルは依然として高いことが改めて示された。一方でロケットによる衛星打ち上げ需要は世界的に拡大し、民
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核心核論(3月23日)岡崎慎司選手 球蹴らぬプレー光った
清水エスパルスなどで活躍したサッカーの岡崎慎司選手が今季限りでの現役引退を表明した。日本代表通算50得点は、釜本邦茂さんと三浦知良選手(静岡市出身)に次ぐ歴代3位。2015~16年には世界最高峰のイングランド・プレミアリーグでほぼ全試合に出場し、昇格したばかりだったレスターが遂げた「奇跡の優勝」に貢献した。 ボールに絡まない「オフ・ザ・ボール」の動きも大事-。これはサッカー通の常識だが、岡崎選手は抜群に優れていた。ゴールにつながるパスを引き出すための動き出しや、相手を引きつけて味方のプレー空間を広げる「おとり」の走り。さらには体を張って相手の動きを止める「つぶれ役」が類いまれだった。 真
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記者コラム「清流」 一瞬、一言に潜む本音
ラグビー・ヤマハ発動機のクラブ創立40周年を記念したOB戦。ヤマハスタジアムのピッチに立った元選手たちは、おそらく現役時代には見せたことのないであろう満面の笑みでプレーを満喫。心からラグビーを楽しんでいるのが表情から見て取れた。 「現役生活で競技が楽しいと思ったことは一度もなかった」。あるスポーツ選手は引退会見でこう語った。プロの厳しい世界で生き抜く苦悩が凝縮されているようで、強く印象に残ったことを覚えている。 普段の取材を通じ、相手の本音を奥底まで掘り起こすのは難しい。でも、選手の一瞬の表情や、こぼれた一言から、その一端を感じ取ることはできる。戦う人の思いや姿を多くの人に届けるために、
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記者コラム「清流」 地方の魅力
季節外れだが、夏の夕方の黒々とした富士山が好きだ。全てのものを阻む壁のようにも、世界中を包み込む影のようにも見える。とても荘厳で神々しく、まさに霊峰。ふとした瞬間に、その光景を見られるのは山麓の住民の特権だと思う。 県内で3分の1強、首都圏で3分の2弱を過ごした。都市の魅力は分かりやすい。豪華で、華やかで、にぎやか。対して地方では、長い時間を過ごし、まちや人に溶け込んでようやく見つかるものが多い。だから心の奥底に染み渡る。 最大の魅力は人。家族と共に御殿場で過ごした6年間で確信した。大組織が会議室で考えたものより、宴席やイベントで意気投合した人たちが始めた活動は輝いていた。家族の拠点は移
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記者コラム「清流」 一瞬、一言に潜む本音
ラグビー・ヤマハ発動機のクラブ創立40周年を記念したOB戦。ヤマハスタジアムのピッチに立った元選手たちは、おそらく現役時代には見せたことのないであろう満面の笑みでプレーを満喫。心からラグビーを楽しんでいるのが表情から見て取れた。 「現役生活で競技が楽しいと思ったことは一度もなかった」。あるスポーツ選手は引退会見でこう語った。プロの厳しい世界で生き抜く苦悩が凝縮されているようで、強く印象に残ったことを覚えている。 普段の取材を通じ、相手の本音を奥底まで掘り起こすのは難しい。でも、選手の一瞬の表情や、こぼれた一言から、その一端を感じ取ることはできる。戦う人の思いや姿を多くの人に届けるために、
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【にっぽん診断】過疎切り捨て 日本滅ぼす(多田朋孔/NPO法人「地域おこし」代表理事)
能登半島地震で被災された皆さまに心からお見舞い申し上げます。一日も早い復興を祈念致しております。 能登半島地震を機に、過疎地の復興を切り捨てる論が出てきているが、この考え方が行き過ぎると長期的に見て大変危険である。これに対して日本全体の都市部と過疎地の傾向を見て警鐘を鳴らしてみたいと思う。 2008~12年の市区町村別の統計データを見てみると、出生率が一覧でわかる。1位の鹿児島県伊仙町の出生率は2.81である。このペースでいけば自然に人口が増えていく可能性がある。しかも興味深いことに同県伊仙町では後期高齢者が減っている。15年には1468人だったが、20年には1323人になっている。45
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コラム窓辺 義を見て為さざるは勇なきなり(杉原行洋/ハヤテグループ代表)
いよいよ皆さまの最大の疑問「なぜ静岡なのか」「なぜプロ野球なのか」にお答えしたいと思います。 前回も述べた通り、新球団は厳しい運命を背負った「雑草球団」です。「そこまでして野球がやりたかったんですね」と言われることがあります。もちろん一同、野球が大好きです。しかし、答えはノーです。 では、なぜこのような困難な球団立ち上げに臨むのか。それは静岡の皆さまに、日本全国に「こんな小さな会社でも、このような挑戦ができるのだ」とのメッセージを届け、皆がそれぞれの人生における「挑戦者」となることで、日本社会の温度を上げてほしいと願っているからです。 「なぜ静岡だったのか」。いつかこの地にプロ野球を、
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大自在(3月22日)放送の日
自社の番組やコンテンツ宣伝のようで恐縮だが、前日のラジオの番組コーナーを翌朝に聴くことが日課になっている。翌日に聴けるのはスマートフォンにダウンロードしたニュースアプリを利用しているからだ。 SBSラジオ「ゴゴボラケ」のコーナー「3時のドリル」には、職場の同僚が日替わりで登場。歩んできた分野に応じて直近のニュース・話題に対する見方や解説が聴ける。昨春の開始だったと記憶しているが、パーソナリティーとのやりとりにも徐々に慣れた感じが出てきて頼もしい。 前日の番組を翌朝に聴くのは生放送時が職務中のため。スマホだけでなくパソコンでも利用できるインターネットラジオ「ラジコ」で、日曜日に音楽番組を楽
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記者コラム「清流」 清水の声
静岡県外出身の自分だが、遠く静岡の地名に、子どもの時から何かと触れてきた。国語の教科書に登場したウミガメの産卵の話で御前崎を知った。浜松を知ったのはずっと読んでいた柔道漫画の舞台だったから。 現在の勤務地である清水を知ったのは、幼いころから親しんできた「ちびまる子ちゃん」の影響だ。サッカーの町であることもまるちゃんのおかげで知った。地元の友人に説明するときは「まるちゃんの町で働いてるよ」と伝えている。 支局から少し歩けば見たことのある地名が並び、おかっぱの少女の存在が必ず頭をよぎる。小さなころからまるちゃんを通じて親しんできた清水で勤務できていることが、いつもささやかな喜びだった。 私
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記者コラム「清流」 「当然」を伝えるには
「なぜ時間を守らなければならないのか」「なぜ整理整頓をするのか」。一般財団法人アフリカ野球・ソフト振興機構の友成晋也代表理事の講演で示された問いに、元球児ながら明確な答えを出せなかった。 同機構が提唱する「ベースボーラーシップ教育」は、日本の野球で当然のように行われてきた指導の教育的意義を言語化。国内の現場で培われた暗黙知を形式知に変え、アフリカで野球を通じた人間力の育成メソッドとして活用している。日本の「当たり前」が浸透し、現地では「成績が上がるスポーツ」として認知されているという。 「常識」や「当たり前」と押しつける指導が通じない時代。指導の背景にある意義を理解させる必要があるのだろ
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記者コラム「清流」 公園下の頼もしい施設
浜松市中心部の住宅街にある「かもえ児童遊園」(通称どんぶらこ公園)の地下に設置されている雨水調整池に入る貴重な経験を得た。市立西小の児童や保護者を対象に同小PTAが企画した防災学習の取材。5456平方メートルの敷地に高さ6メートルの柱が並ぶ鉄筋コンクリート造りの暗闇空間は圧巻で神秘的だった。 船をイメージした複合遊具「ドンブラッコ号」などを備える地上の公園ののどかな雰囲気からは、想像もつかない巨大な地下施設。貯留量2万5000立方メートルにたまった水をポンプでくみ上げて排水路に流す仕組みなど、市河川課職員らによる説明に児童はもちろん、大人も興味津々だった。 防災訓練だけではなく、こうした
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社説(3月22日)障害者工賃アップ 民間の協力拡大不可欠
企業と雇用契約を結んで働くことが困難な障害者が利用する静岡県内の就労継続支援B型事業所で、2022年度に障害者が手にした工賃(月額)の平均は前年度比398円(2・4%)増の1万6866円となった。記録が残る06年度以降で最高額。それでも、県が掲げた23年度に2万円という目標とは大きな開きがある。 就労継続支援B型は障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスの一つ。活動の対価である工賃は、労働の対価として支払われる賃金とは性格が異なるとはいえ、工賃が増えれば利用者の仕事のやりがいが高まる。 事業所が利用者の作業を通じて得る収入が増えれば、経費を差し引いた利益が配分される工賃をアップできる。仕
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コラム窓辺 駿河湾での塩作り(中村羊一郎/静岡市歴史博物館長)
子どもの頃の思い出。初夏になると勝手口から「来たよう」という大きな声が聞こえてきました。相良から馴染[なじ]みのおばさんが海藻のアラメを売りにやってきたのです。その晩のおかずは、季節感たっぷりのタケノコとアラメの煮物でした。これは聞いた話ですが、ずっと昔、山村の農家の囲炉裏[いろり]の上に、いくつも結び目をつけた奇妙な紐[ひも]がぶら下がっていて、それを「しおりどんの帳面」と呼んでいました。海辺からやってくる塩売りの女性たちが、塩をどれくらい置いていったかを示すもので、年末に結び目を数えて清算したのだそうです。 富士川河口部から榛原郡の方まで、かつては広い砂浜が広がっていて、盛んに製塩が行
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大自在(3月21日)○○のダルビッシュ
しなやかなフォームから投げ込む剛速球。高校野球で長身の右投げの好投手がいると、「○○のダルビッシュ」と呼ばれた時代があった。九州、松戸、帯広など地域名が多かったが、中には「公立」「離島」なども。 「本家」のダルビッシュ有投手が日本ハムから米大リーグ、レンジャーズへ移籍した2012年。3月21日に阪神甲子園球場の選抜高校野球大会1回戦で「みちのくのダルビッシュ」と「浪速のダルビッシュ」が対決した。みちのくは岩手・花巻東高の大谷翔平投手、浪速は大阪桐蔭高の藤浪晋太郎投手である。 190センチ超同士の投げ合いは藤浪投手が完投勝利。けがで調整不足だった大谷投手は相手打線に打ち込まれたが、打撃では
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【時評】顧客に絶大人気のスーパー 他店にない「何か」を持つ(磯辺剛彦/企業経営研究所理事長)
最近、流通業界が騒がしくなってきました。先月、携帯大手auを傘下に持つKDDIは、コンビニエンスストアのローソンに対する株式公開買い付けの実施を発表しました。これが実現すれば、親会社の三菱商事と共同経営という形になります。 気の早い経営評論家やインフルエンサーからは、今回のKDDIによるコンビニ業界への進出後には、携帯電話事業の失敗で巨額の赤字が続いている楽天グループを救済合併するのではないかとうわさされています。ローソンの実店舗と楽天グループの仮想店舗、それぞれの企業が持っている会員データを統合することによって巨大な経済圏が生まれる可能性があるというものです。ただし、私は「実店舗と仮想
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社説(3月21日)新設のリニア会議 対策監視厳正に継続を
国土交通省は、県内のリニア中央新幹線トンネル工事に伴ってJR東海が実施する水資源、環境保全対策の実施状況を確認するため、「静岡工区モニタリング会議」を新設し、初会合を開いた。 国交省は大井川の水資源の確保と、南アルプスの環境保全に関する専門家会議を3年8カ月にわたって開催し、2023年12月までにそれぞれのテーマの報告書をまとめた。新設の会議は、JRが報告書を踏まえて実行に移す対策の適切性を継続的にチェックする役割だ。 トンネル掘削工事に着手して以降に、想定していない事態が起きる可能性もあり、JRは影響が確認されるごとに適宜対策を講じる「順応的管理」の手法を採用する。JRが状況に応じて的
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コラム窓辺 真ん丸の尻尾(高森志文/アサヒユウアス社長)
私は最低限の愛嬌[あいきょう]は持ち合わせていると思うが、決して愛嬌力が高い方ではない。また尻尾を振ってこなかったので、ぬいぐるみにあるような真ん丸の尻尾がちょんとついているだけで、尻尾が伸びることがないまま今に至る。 「愛嬌がある」ことと「尻尾を振る」ことは、似て非なるものだ。「愛嬌」とは、誰に対しても分け隔てなくにこやかに接し、警戒心を抱かせない人懐っこさのこと。愛嬌があると仕事がスムーズに運ぶことも多く、身につけて損はない能力だ。一方「尻尾を振る」とは、こびへつらって相手に取り入ること。多くは権力者に対して行われ、社会にいまだ脈々と流れていることを感じることもある。長い尻尾を振りまく
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大自在(3月20日)荒れる春場所
大阪で開催中の大相撲3月場所は、決まり文句のように「荒れる春場所」と言われる。ここ数年は春場所に限らず荒れ模様の土俵が続くが、55年前はまさに「荒れる春場所」だった。 双葉山の不滅の記録69連勝に挑んでいた45連勝中の横綱大鵬が平幕の戸田(後の小結羽黒岩)に敗れる大波乱があった。行司軍配は大鵬に上がるも、物言いが付き、勝負審判の協議で行司差し違えとなった。 ところが、翌日の新聞に戸田の足が先に土俵の外に出ていた写真が載ると、ファンも荒れた。日本相撲協会に抗議の電話が殺到した。「世紀の大誤審」をきっかけに翌場所からビデオ判定が導入された。 史上最多45回の優勝のうち春場所で9回も賜杯を抱
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記者コラム「清流」 新聞記者の誇り
時代の流れとはいえ、さみしさが拭えない春となりそうだ。40年以上も続いた地域紙庵原新聞が3月で廃刊する。ある記者さんは「筆を置いちゃだめだ」と、ペンを贈られたというエピソードを教えてくれた。 「あっちの学校を取り上げるなら、こっちも何かないか意地でも探して平等になるよう常に気を配っていた」という苦労話を聞きこうべを垂れた。廃刊への反応は単なる感謝ではなく、情報の背後にある書き手の思いへの共感だと思う。 新聞記者をしていて気付くのは、行間を読む読者の力と日本語の奥深さだ。昔先輩記者から「自分が分からないことは伝えられない」と言われた。経験を重ね「自分が気付いていないことも実は伝わっている」
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大井川水力発電所慰霊塔 過酷な工事 伝える責務【記者コラム 黒潮】
川根本町民から「大井川水力発電所(同町崎平)へと続く導水管工事で亡くなった方の慰霊塔が山中にある」という話を聞いた。地図上に記載はなく、存在を知る人もほとんどいないという。話をしてくれた町民と共に、慰霊塔を目指して山に入った。 同発電所は、大井川ダムや寸又峡ダムなどから地下にある導水管を通じて集めた水で発電を行う。1936年10月に約2年の工事期間を経て運用を開始し、現在は中部電力が管理する。 慰霊塔は同町千頭から2時間ほど登山道を進んだ山肌にあった。高さ1メートル50センチほどの平たい石で、正面に「慰霊塔」、裏面に「昭和十一年(1936年)十一月建」とだけ記されている。位置を地図上で確
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記者コラム「清流」 子どもも地域の一員
沼津市の第二中学校区内にある小中学校の再編について議論する「学校の未来を考える会」の会合を取材するたび、気になることがある。とにかく、女性が発言しづらい雰囲気なのだ。 自治会、校区内にある小中学校のPTA、未就学児の保護者ら21人で構成する会のうち、女性はわずか4人。2月の会合は持論の正しさを競い合う男性陣のパワーゲームと化した。 女性が意見したのは終了間際。母親の視点で、小規模校に通う子が他校との交流に刺激を受けた様子を紹介した。会合の目的は「子どもにとって望ましい教育環境をつくる」だが、女性が発言しない限り子どもの声は反映されそうもない。 会合後、ある母親が発した。「子どもも地域の
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記者コラム「清流」 十湖さんの息づかい
博物館や資料館などを訪ね、担当の職員から日本の歴史や偉人の功績を取材する時間は毎回、新たな学びがあり楽しい。松尾芭蕉の流れをくむ俳人として活躍した浜松市出身の松島十湖(まつしまじっこ・1849~1926年)もその1人。「はま松は 出世城なり 初松魚(はつがつお)」は代表作の一つだ。 中善地村(現中央区)に生まれ、私財を投じて天竜川の治水や学校整備などに尽力し、政治家としても功績を残した。その功績を後世に伝えるため各地に十湖の句碑が建立され、浜松市を中心に60はあるという。寺や神社の境内などで見ることができる。 地元では「十湖さん」の呼び名で親しまれている。句碑を訪ね歩き、明治大正の激動期
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社説(3月20日)マイナス金利解除 中小への目配り十分に
日銀がマイナス金利政策の解除を決めた。2016年から続いた異例の政策が終焉[しゅうえん]する。併せて、長期金利の上限を1%としていた目標を撤廃し、金利全般を抑制する長短金利操作も終えるとした。これらは国内金融政策を正常化させるための重要な一歩といえよう。ただ、賃金と物価の好循環が今後も回り続けるのか、特に地域経済を支える中小企業は、その不確実性を拭い切れているのか疑問を持たざるを得ない。 超低金利下での暮らしが長過ぎたがゆえに、金利のある経済へ移行していくことに不安感を覚える人も少なくない。政府・日銀には、引き続き地方経済も含めた情勢把握を丁寧に重ね、政策などで十分な目配りを求めたい。
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【時評】「異次元」の少子化対策 性別役割分業 見直しを(笹原恵/静岡大情報学部教授)
厚生労働省が2月27日に発表した人口動態統計(速報値)によれば、2023年の出生数は過去最少の75万8631人だった。国立社会保障・人口問題研究所は出生数が76万人を下回るのは35年と推計していたので、12年も早くこのラインに「到達」したことになる。 出生数と並んで少子化の指標とされるのが、15~49歳の女性が生涯に産む子どもの数を表す合計特殊出生率である。1949年に4.32、73年で2.14、そして2022年は1.26と減少している。戦後のベビーブームの時代には、女性は子どもを4人産んでいたが、現在は1人ないし2人ということになる。 政府は「異次元の少子化対策」として、若者・子育て
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大自在(3月19日)青春という字には
〈青春という字を書いて横線の多いことのみなぜか気になる〉。俵万智さんの歌集「サラダ記念日」(1987年)にあるこの歌に共感したことを覚えている。俵さんは当時、公立高の若手国語教師。生徒と同じ目線の姉のようなまなざしが感じられる。 横線とは、取り消し線か、大人からの横やりか、それとも若い心の奥のよこしまな思いか。下手の横好き、横道に入る…。横には負のイメージもある。青春を一直線という若者ばかりではないだろう。古い流行歌は「道にまよっているばかり」と歌った。 「蛇の道はへび」とはよく言ったものだ。自民党派閥の政治資金パーティーを巡る国会での受け答えに、こんなざれ歌をひねってみた
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コラム窓辺 介護は突然に(水野裕央/日本銀行静岡支店長)
その日は突然やってきた。2010年6月の朝、母のパート先からの連絡を受け、実家へ電話をすると数十回のコールの後つながった。聞こえたのは、カタカタという音だけ。実家へ車を飛ばした。 玄関の扉を開けると、倒れている母の姿。その手は電話のコードをつかんでおり、カタカタという音は、必死で電話をとり、何かを伝えるためにコードをまさぐる音と分かった。 脳梗塞だった。当初右半身まひで先行きが不安だったが、1年程度の懸命なリハビリで運動機能は回復した。ただ、失語症と失行の後遺症が残った。 発語、筆談、計算などができず、母の必死な意思表示の声は、私には分からない。私が言うことも完全に理解できていないよう
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記者コラム「清流」 おでんは誰のもの?
「仕事帰りのサラリーマンが熱々のおでんを楽しみました」。1日、静岡市の繁華街で行われたおでん祭を取材し、週刊「YOMOっと静岡」用に記事を書いた。 「おでんはおじさんの食べ物か」。冒頭の一文に対し、原稿を確認する上司から指摘を受けた。「まさか」。思わず言ったが、確かに屋台のカウンターで楽しそうに酒を飲むスーツ姿の男性陣を、現場の描写にぴったりと思い原稿に盛り込んだ気がする。結局、子どもたちに誤解を与えないようにと、男女の区別がない「会社員」に直した。 現代は多様性の時代だ。しかし配慮のための言葉の制限を窮屈に感じてしまうときがある。言葉が違えば読者が思い浮かべる情景もずいぶん変わるだろう
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記者コラム「清流」 東部地域で産業観光を
菓子メーカーの不二家富士裾野工場の関係者が裾野市長と会談した際、工場見学の話題になった。市長室の片隅で話を聞きながら小学生の頃、パンや清涼飲料の工場を訪れ、お土産としてもらった商品に心を弾ませた記憶がよみがえった。 静岡市や浜松市での勤務時代、工場を訪れる「産業観光」の話題をたびたび取材したが、東部総局に来てからはほとんど機会がない。一方で、地下水が豊富な東部地域には子どもや家族連れの人気を集めそうな飲食物の製造工場が多く、誘客の潜在能力は秘めている気がする。 現地でしか購入できない限定品があれば、魅力はさらに増すのではないか、など想像は膨らむ。企業の協力が前提になるが、交流人口拡大に向
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記者コラム「清流」 出会いが彩る48年
48年間の足跡が凝縮された光景だった。浜松市立高合唱部と、部活の卒業生でつくる合唱団で女声合唱の指導に当たった尾崎亘さん(84)のラストコンサートが同市中央区で開かれた。大勢の教え子が駆け付け、尾崎さんの最後の指揮を目に焼き付けた。 36歳で当時女子校だった同校に赴任し、合唱部の顧問に就いた。定年退職後、一度は合唱指導から離れたが、卒業生からの熱烈な要請を受けて再びタクトをとることを決意した。 ラスト公演では、涙をこらえながら歌う団員の姿があった。締めくくりに同校合唱部で歌い継がれる「落葉松」を披露し、客席にいた教え子もステージに上がって共演した。尾崎さんが自身を振り返って言葉にした「幸
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社説(3月19日)アフガン女性抑圧 教育禁止の即時撤廃を
中学生以上の女子教育を禁じているアフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権は、全34州のうち農村部の約10州で女子学生の公立医大への入学を容認する方針を示した。農村部で深刻化する女性医師不足に対応する例外的な措置とみられる。 アフガンの女性は親族以外の男性と接触を避ける習慣があるため、女性医師の不足は女性の生命や健康に重大で深刻な影響を及ぼす。医療分野に限らず、女子の教育機会を奪うのは、社会に必要な人材の育成を放棄しているのに等しい。国の将来を危うくすることは明白だ。 医大入学の容認は、タリバンの女性抑圧に対する国外の批判を意識したとの見方もある。国際社会は女子教育の禁止を即時に撤
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視座(3月18日)改善進まぬ静岡県の男女格差指数 働く環境の整備急務
都道府県別の男女平等度を政治、行政、教育、経済の4分野で分析した2024年の「都道府県版ジェンダー・ギャップ指数」が公表され、静岡県は政治が全都道府県中16位、行政32位、教育37位、経済は42位だった。前年に比べ、政治、行政、教育はほぼ横ばい。前年に全国最下位だった経済はやや上昇したものの、東京、名古屋の中間に位置し、全国10位の人口を有する県としては深刻に受け止めるべき結果だろう。 特に経済分野の低迷は、本県の主要課題である人口減少に密接に結びついていると考えられる。かねて本県は、就職や進学を契機にした若年女性の県外流出が多いと指摘されている。少子高齢化の進展で人手不足が顕在化する中、
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【D自在】玉露を「しずく茶」でおいしく
もちろん、わが家には急須がある。驚くことに、それは〝少数派〟らしい。静岡県が昨年度首都圏で行った調査に、自宅に急須があると回答した人は34%(男性の26%、女性の42%)に過ぎなかった。50代は男性の41%、女性の60%。20代は男性の18%、女性の26%。想像以上に「お茶っ葉離れ」は進んでいる。 日本茶の王様とも呼ばれる高級茶が玉露だ。自分でいれたことはなかったが、静岡茶市場(静岡市葵区)が先月開いた「茶いちばまつり」で急須を使わない玉露のセルフ試飲を体験した。茶葉は注ぎ口のある小皿に盛られ、湯ざましに入った湯と杯くらいの湯飲みとともに黒い盆に載せられて運ばれてきた。低温の湯を一度湯飲み
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大自在(3月17日)ロシア大統領選
米国の原爆開発を主導した物理学者の半生を題材にした映画「オッペンハイマー」が、7部門で受賞したことしの米アカデミー賞。日本も宮崎駿監督のアニメ「君たちはどう生きるか」と「ゴジラ―1・0(マイナスワン)」のダブル受賞に沸いた。 同賞の歴史をさかのぼると、日本映画初の受賞作品となったのは黒沢明監督の「羅生門」。1952年の名誉賞(現在の国際長編映画賞)だった。日本は同年4月まで連合国軍の占領下にあった。敗戦国の日本でも芸術性の高い作品が作られていることを世界に知らしめた。 この年に生まれた一人の政治家が今、大統領選に臨んでいる。通算5期目を狙うロシアのプーチン氏。15日に始まった投票は3日間
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社説(3月17日)「再出発」前にけじめを きょう自民党大会
自民党は2024年の党大会を17日に東京都内で開く。政治資金パーティーを巡る派閥の裏金事件で国民の強い政治不信を招き、12年に政権復帰して以降、最も厳しい逆風の中での党大会になる。岸田文雄首相が総裁演説で何を語るかが焦点だ。 党大会に先駆けて開いた16日の全国幹事長会議で、岸田首相は「命がけで党再生に努力していきたい」と述べた。だが、今の状況は自民への支持が急落しているというだけでなく、日本の政治そのものへの国民の信頼が失われつつあることを認識すべきだ。党再生を語る前に、事件に対する本当の責任の所在を明確にして相応のけじめをつけなければ、信頼回復の出発点に立つこともできまい。 大会を前に
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時論(3月17日)「着衣泳」で考えるSDGs
スポーツやレジャーを楽しむには、正しい知識を持つことが必要だ。特に水辺など水が関わるものは、常に危険と隣り合わせだ。 警察庁のまとめによれば、2022年の水難事故による死者・行方不明者は727人だった。同年度の水害をまとめた国土交通省の報告書は、1時間雨量が50ミリを上回る短時間強雨の発生件数が、13~22年の10年間の平均回数が1976~85年の約1・5倍に増加したことを示す。今後も「気候変動の影響により、水害のさらなる頻発、激甚化」が懸念される。 水難や水害から身を守る方法として、服を着たままの「着衣泳」がある。服や靴などの浮力を生かし、あおむけに顔と足を浮かせる「背浮き」の姿勢が基
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コラム窓辺 シンプルな生き方(白井貴子/シンガー・ソングライター)
以前、テレビドラマ「北の国から」の脚本を手がけた倉本聰さんから、「実は最初、南伊豆でロケ地を探してたんだよ」と聞いて驚いたことがあります。「『南の国から』になってたの!?」と大騒ぎ。でも南伊豆には実際、ドラマの「五郎さん」のような人がいっぱいです。 私が主催する南伊豆の自然イベントの先生であり、元湊区長で漁師の大野良司さんは、大潮の日となると目が爛々[らんらん]! 潮の満ち引きとともに生き、どんな役職に就こうとも心は縄文人(!?)のよう。移住後、沢で水をもらって自給自足し、子供を育て、自分で家を建てた人もいます。文明の力も利用しながら自然の恩恵をいただき、暮らしを自分たちの手でつくっていく
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大自在(3月16日)さわやか
国民生活の豊かさを示す「人間開発指数」の最新世界ランクで日本は24位となり前回の22位から後退した。国連開発計画が発表した。 15日付本紙によると、報告書は「最貧層が取り残され不平等が拡大するとともに、世界規模で政治の二極化が進み、その結果行き詰まりが生じている」と分析する。特に日本の後退ぶりは深刻だ。1990年頃はランク上位の常連だった。 当時急成長していた静岡県内企業の一つが炭焼きレストランの「さわやか」。12日に亡くなった創業者の富田重之さんが86年、本紙に理念を語っている。「無定見なものまねや無思想の店づくりでは、決して繁盛することはできない」。目指すは「手作り料理でだんらんの場
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社説(3月16日)就活と地方企業 情報開示に積極姿勢を
2025年春卒業予定の大学生に対する会社説明会やエントリー受け付けなどが解禁され、就職活動が本格的に始まった。3月解禁、6月選考開始、10月内定式という日程は形骸化が指摘されて久しく、既に2月までに3割超の学生が内定を得ているという就職情報会社の調査もある。 人手不足で今年も企業側の採用意欲は強く、新採スケジュールはさらに早期化傾向とされる。春闘では製造大手の満額回答が相次いだ。人材獲得へ初任給アップに踏み切る社もあり、就活生の心理や行動にどのような変化をもたらすかも注視される。 引き続き学生優位の「売り手市場」と言われるが、就活生は油断せず、しかし焦らず試練を乗り越えてほしい。確かな情
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記者コラム「清流」 次の一歩を
7年前、高校陸上部の顧問のひと声で愛知県から能登半島へ向かった。輪島市で開催された競歩の全国大会。前年のけがでインターハイの夢を諦めて下を向いていた私の目に映ったのは沿道いっぱいに並んで応援する地元住民の姿だった。海風や日差しも背中を押してくれ、歩け歩けと思ううちにゴールにたどり着いた。過去を嘆いて立ち止まっていた私に、夢に向かって歩き出す大切さを気付かせてくれた瞬間になった。 しかし、能登半島地震の被災地に入った静岡市消防局隊員への取材で聞いた現状は当時の記憶とは全く違った。大会の走路だった輪島市河井町の火災被害にも言葉を失った。今年の大会は中止になったという。7年前、勇気をくれた輪島の
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記者コラム「清流」 敬老祝い品
敬老祝い品の対象年齢を引き上げるべきか―。先日、御前崎市議会の新年度当初予算案の審査でこんな議論があった。市は財政悪化を背景に祝い品贈呈の対象範囲を狭める方針を示したが、市議から異論が出た。 2023年度は77、88、99、100歳に商品券などを贈り、さらに101歳以上も対象に加えてきた。24年度からは対象を88、100歳に限定し、予算約200万円の削減につなげると説明した。これに市議からは「高齢者の生きがいが減ってしまう」と懸念が示された。 確かに、祝い品を受け取る側は対象範囲が狭まることでさみしく思うかもしれない。けれど、これから大事なのは祝い品ではなく、御前崎市を支えてきた高齢者が
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記者コラム「清流」 隠れスポット探し
3月に入り、各地で早咲きの桜が散り、ソメイヨシノの時季が近づいてきた。一言に桜といっても種類や場所によって見どころが変わる。県内に名所はたくさんあるが、今年は隠れスポットも探して写真に収めたい。 2月、早咲きの河津桜にはメジロなど多くの野鳥が飛来し、枝から枝へと飛び交うほほ笑ましい光景があった。伊豆市の観光施設「修善寺虹の郷」には約300本のカンヒザクラが植栽され、下向きに花が咲く控えめな姿がかわいらしい。沼津市井田では、散った桜の花びらが歩道に広がる「桜のじゅうたん」を楽しむことができた。 これからは気温が上がり、ひと味違った光景を見せてくれそうだ。いろいろな場所へ足を運んで春色の景色
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コラム窓辺 新球団の大切にする価値観(杉原行洋/ハヤテグループ代表)
球団の持つ価値観について。これまで述べた通り、新球団は厳しい運命を背負った球団です。セまたはパ・リーグの華やかさはありません。選手は「ドラフトに漏れた」か「戦力構想から外れた」か「埋もれた外国籍」のみであり、厳しい戦いが予想されます。晴れて選手が活躍すれば、彼らは他球団に獲得され、喜ばしいものの当球団の戦力はそがれ、また前述の選手獲得の苦しみに戻ります。 しかし、このような厳しい運命にあるからこそ生み出せる社会価値があると信じています。 例えば、当球団には「ファームの試合でコンディションを調整する」という概念はありません。選手たちはただひたむきに、勝利と自身の成長のために全力でプレーする
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大自在(3月15日)オーバードーズ
2年ほど前、円形脱毛症になり市販の発毛剤をドラッグストアで手に取った。この発毛剤が一般薬として発売された二十数年前、欧米で大ヒットした発毛成分がいよいよ国内でも、と上司や先輩たちがざわめいたことを記憶している。 ミノキシジルというこの成分は、もともと血圧を下げる降圧剤として米国の会社が開発した飲み薬だったが、毛が多く生える副作用が現れ発毛剤に転用された。薬の作用は不思議だ。 薬のルーツをたどれば、草木、鉱物などの有効成分であり、科学の発達とともに時間と費用をかけて新薬が生み出されてきた。日本製薬工業協会によると、現在使われている薬の99%近くは50年ほど前には存在していなかったという。
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記者コラム「清流」 善意に頼らぬ仕組みを
先日、静岡県中学選抜野球大会で島田第一、二中の合同野球部が初優勝を飾った。初めて担当した中高生の野球取材。最も印象的だったのは、剛速球でもホームランでもなく、大会を支える大人の存在だった。 監督やコーチ、保護者はもちろん、審判員や球場整備員など多くの人が朝早くから球場に入り子どもを支えていた。車で数時間かかる遠方から来ている人も多く、苦労がうかがえた。 審判員の男性に話を聞くと、「ずっと野球をやっていたので、その恩返し」と笑う。部活動の多くはこうした住民の善意で成り立っているのが現状だが、男性は同時に「これでは後に続く人は少ない」と憂う。各地で地域スポーツクラブへの移行も進む中、金銭的補
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記者コラム「清流」 散歩道
事業開始から約20年を経て、待望の富士川かりがね橋が開通した。全長は742メートル。歩行者の通行も可能だ。 「新しい散歩道になりそう」。2月のお披露目イベントで、橋を散策した地元の夫婦が期待を膨らめていた。片側には幅4メートルほどの広い歩道・自転車道が整備されている。照明灯や標識は目立たない場所に設置され、開けた視界からは富士川の流れ、岩本山の緑が望める。景観との調和を意識して統一されたベージュ系の配色が現代的だ。 社会学者のジンメルは、橋は岸と岸を結びつける一方で、両岸の間にある距離をかえって人々に意識させると分析した。渋滞解消など、車移動における利便性向上に注目が集まるが、あえて徒歩
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記者コラム「清流」 拠点なくとも関心今も
2023年3月に当社の浜北支局が浜松総局に統合され、自分も6年間にわたって勤めた支局を離れ、総局員として仕事をするようになってから1年たった。浜松市浜北区も行政区再編で24年1月、浜名区になった。ただ、今も自分の元には時々、浜北地域の人たちから取材の相談がある。 23年度中は、郷土に関する資料をまとめたとか、土地の祭りの余興で演じた芝居を区切りにするといった浜北の話題を直接取材した。市政の取材が本来業務ではあるが、浜北地域も浜松市の一部だし、縁を大事にしたい思いがある。 地方新聞社は地域密着。支局での仕事が楽しく、また大切だと先輩記者に教わってきた。拠点としての支局がなくなり、直接の担当
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社説(3月15日)参院で初の政倫審 疑惑の解明には程遠い
「分かりません」「知りません」―。自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受けて開かれた参院の政治倫理審査会で、安倍派(清和政策研究会)の参院会長だった世耕弘成前参院幹事長が繰り返し答えた言葉だ。 参院政倫審での審査は1985年に設置されて以来初。衆院の政倫審と同様、報道機関に全面公開で実施された。世耕氏はやましさなど毛頭ないような態度で語る一方、パーティー券のキックバック(還流)問題への自らの関与を一切否定、疑問となる点は知らぬ存ぜぬで通した。 世耕氏は派閥幹部として重要な会合には出席していたはずだ。主張をそのまま信じられないというのが国民の素直な気持ちではないか。責任逃れのようにも聞
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大自在(3月14日)大阪万博
2025年大阪・関西万博は準備の遅れや経費の膨張が問題視され、計画変更を求める声も上がっているが、アジア初の万博が大阪で開幕したのは1970年のきょう3月14日だった。 15日から一般公開。183日間の開催期間中、入場者は約6422万人を数えた。64年の東京五輪に続く国家プロジェクトとして、経済大国の仲間入りをした日本をアピールした。 展示の目玉になったのは米国のアポロ12号が持ち帰った「月の石」。後に実用化されたワイヤレス電話や動く歩道、電気自動車なども「未来の技術」として注目された。道路整備など関連を含め1兆円近くを投じたが、4兆数千億円の経済効果があったとも言われる。 もっとも、
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社説(3月14日)出生数最少75万人 対策へ本気度を高めよ
2023年に国内で生まれた赤ちゃんの数(出生数)は統計を開始してから過去最少の75万8631人だったことが、厚生労働省発表の人口動態統計の速報値(外国人らを含む)で明らかになった。最少更新は8年連続。22年に80万人を割り、そこからさらに5・1%減少した。 厚労省の国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口では、76万人を割るのは35年と見込まれていた。実際には12年も早いペース。これから発表がある日本人だけの出生数は70万人台前半への落ち込みが確実な情勢となった。 もはや少子化の流れは危機的な状況といえるだろう。政府は若年人口が急減する見込みの30年までが少子化傾向を反転できるラストチ
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核心核論(3月14日)生活保護減額 経済的困窮度が深まる
喫茶店でコーヒーを飲んでいると、隣のテーブル席に男女2人連れが座った。年配の女性が暗い顔で話す。「行政のお世話になって…」。生活苦の相談だった。 耳に入ってしまった「行政のお世話」が心に引っかかった。生活保護を受けているという意味のようだった。もう何年も前のことなのに、その言葉が忘れられない。 「子どもの貧困」問題を取材して数々の生活保護家庭に触れた。生活保護は「最後のとりで」とされるが、受給者には偏見への恐れがつきまとう。喫茶店での会話にもそんな思いが感じられた。 憲法25条は「健康で文化的な最低限度の生活」を保障し、生存権は国民の権利だ。だが、2012年、お笑い芸人の
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コラム窓辺 風流は観客が支える(中村羊一郎/静岡市歴史博物館長)
3月17日の夜、焼津市藤守の大井八幡宮では、数百年も続いている田遊びが行われます。田遊びとは、稲作を中心とする1年間の農作業を模擬的に演じることで、その年の豊作を祈る芸能です。演目の一つ、猿田楽[さるでんがく]では8人の若者が桜の枝の作り物を頭に載せ、大きく揺らしながら踊ります。暗い夜空を背景に浮かび上がる鮮やかな桜花は、ここ大井川河口部に吹く風の冷たさを忘れるほどの美しさです。 この色彩あふれる趣向は、厳格な神事である田遊びに途中から付け加えられたものです。もともと大きな神社の行事であった田遊びが村でも行われるようになり、若者を中心に、都で流行の飾りつけや舞を取り入れ、華やかさを増してい
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記者コラム「清流」 みそ汁の具は
私事だが、わが家の小学生と保育園児が最近、食卓に毎日出しているみそ汁を残すようになった。子どもの食はそもそも気まぐれだが、理由を聞くと「飽きた」と一言。確かに最近の具は大根とキャベツが交互だったかもしれない。 変化が必要かと思い、料理好きの弁護士とその恋人の食卓を描く某人気ドラマに登場し、気になっていたトマトのみそ汁を作った。具は半分に切ったプチトマトと玉ネギのスライス。ほんのり酸味が効いておいしく、器は空になった。 取材先で料理のプロに聞くと、みそ汁の具は「何でもあり」という。お薦めはソーセージやベーコン、ちくわなどのタンパク質と旬野菜の取り合わせで、卵やチーズも合うとか。ごま油やバタ
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記者コラム「清流」 金メダリストの金言
元スピードスケート選手の高木菜那さんを招いた講演会が3月上旬、松崎町で開かれた。つらいことの方が多かったという競技人生の中で、劣等感を原動力に挫折を乗り越えてきた経験などを語った。世界一に輝いた彼女の言葉一つ一つに重みがあった。 特に印象的だったのは、目標に向かって努力する過程が重要だというメッセージ。取材する際、成果や結果に焦点を当てることが多い。ただ、結果にたどり着くまでに苦悩や試行錯誤があったことは忘れてはならない。少しおろそかになっていたと反省した。 「言葉には誰かの人生を動かす力があると思っている。責任を持って伝えたい」。講演後の取材でそう答える高木さんのまっすぐなまなざしに、
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記者コラム「清流」 要配慮者の視点で
「能登の地震では、倒れた建物の前で救助隊が声をかけて安否確認している様子がテレビに映った。耳の聞こえない私たちには応じられない」。聴覚障害への理解促進を図る愛の援聴週間に合わせて浜松市内で開かれたイベントで、参加者の一人が不安を口にした。 呼びかけに反応できないと、救助される機会を逃す恐れがある。近くに人がいるかいないかわからず、力を振り絞って音を立てて体力を消耗してしまうこともあるかもしれない。救えるはずの命が救えなくなる事態になりかねない。 会場では、笛を持ち歩くなどの対策が話題に上ったが、双方向のコミュニケーションが実現しない限り根本的な解決にはならない。災害時の要配慮者への対応や
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大自在(3月13日)給食を支える
学校給食法が1954年に施行されてから今年で70年。設置者の施設経費負担などとともに、この法律が定めているのが給食費の保護者負担だ。 小中学校の給食費を巡っては県内をはじめ全国の自治体で、子育て支援などを掲げて無償化や軽減の動きが広がっている。給食が子どもたちの心身の健康や成長に果たす役割は大きい。義務教育に伴う負担であり、無償化の優先度は高いのではないか。 無償化については、自治体の財政力による格差も懸念され、国主導での実施を求める声は根強い。全国知事会も昨年7月、無償化の実現に向けて国の責任と財源で制度設計するよう提言をまとめた。文部科学省は全国の実態を調べていて、岸田文雄首相は先月
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核心核論(3月13日)オスプレイの飛行 拭えぬ不安 再開は拙速
米軍は昨年11月に鹿児島県・屋久島沖で起きた墜落事故を受けて停止していた輸送機オスプレイの飛行再開を決定、日本に配備している機体の飛行再開に向けた調整を日本側に申し入れた。米軍は事故を受けて全軍で飛行を停止していたが、事故の際に発生した機器の故障を特定し、構造上の欠陥はなかったとして飛行再開を決めた。 米側の決定を踏まえて防衛省も、陸上自衛隊に配備しているオスプレイの飛行再開が可能と判断したと発表した。 ただ、米空軍特殊作戦司令部のこれまでの発表では、機器に故障が起きた原因自体はまだ不明で、分析を継続中だとしている。搭乗員8人が死亡するという日本国内で初めてのオスプレイの死亡事故は、屋久
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社説(3月13日)自転車違反反則金 利用者は意識改めよう
政府は自転車の交通違反に反則金納付を通告できる交通反則切符(青切符)制度を導入する道交法改正案を閣議決定した。対象は16歳以上で、反則金額は原動機付き自転車(原付)並みの5千~1万2千円を想定する。車と同じように反則金を納めずに起訴されて有罪になった場合は刑事罰を科される。改正法案は今国会での提出を目指す。 自転車なら多少の違反は許されるという考えは通用しなくなる。ルール無視の走行が引き起こす重大な事故が相次いでいる。新制度導入を機に、自転車を利用する際は危険な存在になり得ると意識を改める必要がある。 自転車関連事故は大幅に減っているものの、自転車と歩行者の事故は増加傾向にある。警察庁に
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コラム窓辺 カニと寒ブリと災害支援(高森志文/アサヒユウアス社長)
元日に発生した能登半島地震から2カ月が経過した。被災地で亡くなられた方のご冥福をお祈りするとともに、被災された皆さまにはお見舞いを申し上げたい。 実は1月2日に富山県の船でしか行けない「大牧温泉旅館」に予約を入れていた。地震発生後、お電話をしたら「大丈夫ですので、ぜひいらしてください」と。宿に到着してみて、地震の影響で急遽キャンセルしたお客さまが少なからずいたことがよく分かった。被災地の周辺の観光地や温泉地は、間接的な被害を受けていると体感。 そこから、私らしい災害支援は営業している北陸の温泉宿に行くことだと“勝手に北陸応援キャンペーン”をやっている。今年に入って
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【時評】「スマホ以前の事」を展示して 道具から暮らしが見える(木下直之/静岡県立美術館長)
柳田国男に「木綿以前の事」という名著があり、それになぞらえ「スマホ以前の事」という小さな展示を企てた。残念ながら会場は県立美術館ではない。神奈川大日本常民文化研究所のミュージアムゆえ、本紙読者の皆さんには遠出をしていただかなければならない。そこまではちょっと、と二の足を踏む方々のために、その構想をお伝えしよう。 略して「常民研[じょうみんけん]」という本研究所には、すでに100年を超える歴史がある。歴史学と民俗学の拠点だ。実業家渋沢敬三(1896~1963年、祖父の渋沢栄一がもうじき1万円札に登場)が、自宅の屋根裏部屋(アチック)に開設した研究所が出発点。それゆえに「アチック・ミューゼアム
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記者コラム「清流」 ファンサービスとは
冷たい雨に打たれてもずっとJリーガーのサインを待ち続けていたサポーターが練習場にいた。それも1人や2人ではなく何十人も。ルールに基づき傘を差すことはできない。クラブからの事前通告に従い、急きょ悪天候でファンサービスが中止になっても文句一つ言わずに一行は練習場のピッチを静かに後にした。 規範意識の高い日本人の美徳と捉えるか、愛する選手やクラブを思うがゆえの行動なのかは分からない。ただ、その光景を目の前で見ていた一人として複雑な気持ちになった。 コロナ禍を経て復活したファンサ。これは県内の一例だが、急な雨で選手の体調管理を優先したいクラブ側の言い分は分かる。ただこんなに辛抱強いサポーターを心
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記者コラム「清流」 コミュニティ協議会
浜松市が行政区再編に伴って新設した「地区コミュニティ協議会制度」。市内50地区自治会連合会ごとに任意で設立できる、地域課題解決のための組織で、要望を区協議会の地域分科会を通じて市に提出できる。市は条例で、要望への回答義務が課されている。 この制度に沿って中央区和地地区の協議会が初の要望を提出した。地区の体育館の設備更新を求める内容で、市は要望から2カ月ほどで回答すると通知した。協議会役員によると、これまで自治会から市に要望を上げても、大半は無回答。「回答の確約がある点は大きい。地域での議論も活発になる」と、役員は制度の意義を実感している。 協議会は既存の自治会と役割の違いが見えにくく、設
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記者コラム「清流」 杉村選手の勇姿再び
東京パラリンピックのボッチャ個人金メダルの杉村英孝選手(伊豆介護センター)=伊東市=が、開幕まで半年を切ったパリ・パラリンピック代表に内定した。自身の名を冠した得意技「スギムライジング」など、観衆を引きつける正確な投球が今から楽しみだ。 2月下旬、地元市長に内定報告した。杉村選手は3年前の東京大会後の規定改正で、使用していたボールが使えなくなった苦労を明かした。「やっていけるのだろうか」という不安があったという当初から、時間をかけて調整を進めてきた経緯を報道陣に語った。 「多くの人が応援し、期待してくれている。気持ちに応えられるようなパフォーマンスをパリの舞台で発揮できるよう準備する」と
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磐田市のレモン産地化 安定した販路確保が鍵【西部/記者コラム 風紋】
磐田市は2024年度、JA遠州中央と連携し、レモンの産地化に乗り出す。主に茶生産者の新たな収入源として複合経営化を促す。高齢化や後継者不足などの課題が多い中、生産者の所得向上につなげ、地域農業の魅力を高める一手としたい。 市は24年度一般会計当初予算案に、レモン栽培を支援する補助事業費1千万円を計上した。定植に向けた農園の整地・土地改良費に加え、本格的な収穫が始められるまでの未収益期間の負担を減らすため、農薬・肥料散布などの管理費も補助対象にした。産地化は茶生産が盛んな磐田原台地を中心に進める。 茶業を取り巻く環境は厳しさを増している。茶価の低迷だけでなく、農薬や肥料など農業資材の価格高
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コラム窓辺 農業の恵み(水野裕央/日本銀行静岡支店長)
広大な伊豆半島を土肥桜、河津桜、熱海桜が春色に染めたが、わが家の食卓も、静岡のミカン、イチゴと緑茶で彩られている。農業の恵みだ。 農業といえば、子供の頃に母の実家で経験した稲刈りにさかのぼる。伯父の衣服や長靴を借り、頭にタオルを乗せ麦わら帽子を被り、見かけだけは農家の少年。田んぼでは、見よう見まねで稲をつかみ鎌を引くが、視界にカエルが入るやいなや私の巨体はカエル以上に飛びはね、小さな伯母の背中に隠れて服の端を握るありさま。刈り取った稲は束にして、稲架[はさ]にかけ、天日と風で乾燥させるが、その力作業が唯一の活躍場面だった。 山梨では、ワイン用ブドウ栽培を体験した。働き盛りの仲間が集まり、
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大自在(3月12日)TARAKOさん
ハリウッドで開かれたアカデミー賞授賞式で、宮崎駿監督の「君たちはどう生きるか」が長編アニメーション賞に輝いた。宮崎作品としては21年ぶり2度目。 ことしは日本から「君たち―」を含む3作品がノミネートされた。「ゴジラ―1・0(マイナスワン)」も邦画初の視覚効果賞に選ばれ、日本映画界にとって記念すべき日になった。この受賞によって日本の映画・アニメの魅力がさらに多くの人々に伝わるだろう。 一方、アニメでは先週、国内外で高い人気を誇る作品の関係者2人の訃報が相次ぎ、ファンを悲しませた。一人は「Dr.スランプ」「ドラゴンボール」などを生み出した漫画家鳥山明さん、もう一人は「ちびまる子ちゃん」がアニ
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記者コラム「清流」 土への身勝手な思い
土はあくまで作品の土台。色や装飾が施されて完成形と期待してしまう。 「焼かない作品も陶芸と呼べるか。焼かなくてよければ焼きたくない」。陶芸家前田直紀さんの言葉に驚いた。形を作り、釉薬(うわぐすり)をかけて1000度以上の窯で焼成して―という一連の流れがない巨大なオブジェ。ひんやりとした粘土肌の感触が今も残る。 土や木など自然物で制作する野外美術プロジェクト「天地耕作」の1人、村上誠さんは「時間とともに朽ちて失われていく様も含めてアート」と語る。なだらかな土の曲面に、わらが混ざる。生き生きとした浜松の土の明るさは、いつでも思い出せる。 どちらの作品も3月中に見られなくなってしまう。記憶に
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社説(3月12日)アカデミーW受賞 日本の質の高さ示した
映画界で顕著な業績を上げた監督や俳優らを表彰する米アカデミー賞の授賞式がハリウッドで開かれ、長編アニメーション賞と視覚効果賞にそれぞれ日本映画が選ばれた。 ダブル受賞の快挙を喜びたい。日本映画の質の高さを幅広く知ってもらうとともに、底流にある日本文化への理解も広げる機会としたい。 長編アニメーション賞は、宮崎駿監督の「君たちはどう生きるか」が選ばれた。宮崎監督作品の受賞は「千と千尋の神隠し」(2003年)以来で2度目。宮崎監督は14年に名誉賞も受けている。 「君たちは―」は、宮崎監督の幼少期の体験などをベースに描かれた冒険ファンタジー。アカデミー賞の前哨戦とされるゴールデン・グローブ賞
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【時評】「浜名湖花博2024」開幕に向け 花に魅せられ 茶で交わる(高山靖子/静岡文化芸術大デザイン学部教授)
まもなく「浜名湖花博2024」が開幕する。まずは、浜名湖ガーデンパークに先んじて3月23日に始まるはままつフラワーパーク会場(浜松市中央区)の桜とチューリップの競演は見逃さないようにしたい。 チューリップといえばオランダが原産だと思われる方が多いが、実は、現在のトルコ共和国の原産で、16世紀頃にアナトリアを制したオスマン帝国の交易を通じてヨーロッパ各地へと広まったと伝わる。 トルコ語でチューリップを意味するラーレ、イスラム教の神アッラー、オスマン王家の象徴である三日月を意味するヒラールは同じアラビア文字で構成されていて、オスマン帝国とアッラーとの結びつきを想起させることが、その花の美し
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記者コラム「清流」 友好への思い忘れない
「近代日本の国際化において大切な場所だったのだと、市民の記憶から忘れ去られるのが怖い」。ウクライナ侵攻開始から2年、幕末からロシアとゆかりのある下田では友好行事がぷっつり途絶えた。昨秋にロシアと下田の関係性を尋ねた際、在任中に交流に尽力した元市長の石井直樹さんが心情を明かしてくれた。 その石井さんが先日、永眠した。16日には下田港開港周年事業の一環で、ロシア使節プチャーチン提督が率いて来航した軍艦ディアナ号乗組員らの慰霊祭が控える。久しぶりの関連行事となる。 ロシア政府を断罪しつつ「政治と交流の歴史は切り離して考える必要がある」との言葉が思い起こされる。下田だからこそ発信できる平和へのメ
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記者コラム「清流」 五明茶の○○売れ
俳優やアイドルなどが身につけたり紹介したりすると爆発的に商品が売れる「○○(俳優の名前)売れ」の文字を交流サイト(SNS)でよく見る。掛川市の五明茶も人気アイドルが取り上げて、ファンらによる注文が殺到した。 五明茶業組合がエコパアリーナで公演する歌手らに茶を提供してきたことがきっかけとみられる。○○売れは企業が戦略的に行うことも多いが、今回は組合も寝耳に水だった。生産者らが地道に丁寧に、取り組んだお茶づくりが好機を呼び込んだのだろう。SNSを見ると、五明茶の味や香りはファンからも好評だ。 掛川には茶以外にもイチゴやトマトなど特産品がある。ハードルは高いかもしれないが、公演時の提供やロケ弁
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コラム窓辺 介護中に生まれた曲(白井貴子/シンガー・ソングライター)
昨年、母の介護の日々をつづった本を出版すると同時に、楽曲「Mama」とその映像も配信しました。 10年ほど前、「ザ・フォーク・クルセダーズ」の北山修さんより「僕の歌を歌い継いで」とうれしい依頼をいただき、「あの素晴らしい愛をもう一度」などの名曲に加え、光栄なことに北山さんと新曲も共作して、アルバム「涙河」を発表しました。そんな時に、生まれたメロディーがありました。 アルバム制作のためかなり根詰めて作業し、「ちょっと休憩」と1階の両親の部屋へ行った時。母がベッドで「ん~痛い~」とうなっていました。「またリウマチかな。足湯しようか」。「今朝、薬を飲み忘れたかな」と父も心配そう。 「そうだ。
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大自在(3月11日)アカデミー福島
日本サッカー協会の反町康治技術委員長(清水東高出身)が、協会サイトで「サッカーを語ろう」という連載をしている。1月には協会のエリート選手養成機関「JFAアカデミー」に触れていた。 「女子は中学生になると受け皿が減る。セーフティーネットとしてもアカデミーは機能している」と反町さんは、女子育成の成果を挙げる。出身選手が日本の女子サッカー発展に貢献してきたことは間違いないだろう。2月のパリ五輪女子アジア最終予選ではアカデミー福島の高校3年生2人が「なでしこジャパン」に招集された。 2011年の東日本大震災で福島県のJヴィレッジから静岡県に移転したアカデミー福島。震災後に東京電力福島第1原発事故
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社説(3月11日)ミャンマー情勢 内戦終結へ働きかけを
3年前にクーデターで権力を掌握したミャンマーの軍事政権は民主派や少数民族の武装勢力との戦闘が続く中、早ければ4月から徴兵制を実施する。昨年10月、中国との国境に近い北東部シャン州などで少数民族の3武装勢力が蜂起して以降、兵士の投降や脱走が相次ぎ、国軍は強制的に戦力を確保する必要に迫られた。国軍の弱体化を自ら認めたとも言える。 徴兵制の実施は国軍が戦闘を続行する意思と受け取れるが、暴力の即時停止を求めてきた東南アジア諸国連合(ASEAN)との関係正常化を図ろうとする動きも見られる。昨年ASEANとの交流開始50年を迎えたのを機に連携強化を確認した日本も軍事政権に内戦終結を強く働きかけたい。精
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社説(3月10日)東日本大震災13年 津波への備え念入りに
大津波で東北地方の沿岸が壊滅し、2万人以上が犠牲となった東日本大震災から11日で13年。元日に起きた能登半島地震の津波映像を見て、東北の惨状を思い出した人は少なくなかったのではないか。 能登半島地震では、東日本大震災以来となる「大津波警報」が発表された。現地調査をした気象庁の推定で、痕跡高から能登半島北部の石川県能登町で4・7メートル、遡上[そじょう]高から新潟県上越市で5・8メートルの津波の襲来が分かった。 津波高が2メートルを超えると、木造住宅が流失するリスクが高まるといわれる。押し寄せる黒い波には、やはり底知れぬ恐ろしさがある。能登半島地震で改めて津波の威力と怖さを突き付けられた思
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大自在(3月10日)立ち合い
「相撲の勝負の8割が決まる」とも言われる立ち合い。両力士が互いの呼吸をはかり、息を合わせて立つ。大相撲では日本相撲協会の審判規則・行司に「両力士が立ち上がってから(行司は)かけ声をなす」とある。 アマチュアは異なる。競技者規則に「選手双方が同時に両手を土俵に付き静止した後、主審の『ハッケヨイ』のかけ声により立ち合う」と明記される。大相撲は力士が立った後に声をかけるが、アマは声が立ち合いの合図ということか。 合図はあっても、「待った」などの駆け引きで立ち合いが乱れることがあるという。アマを統括する日本相撲連盟は昨秋の大会で、主審が「手をついて待ったなし」から「ハッケヨイ」の間に、新たな試み
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大自在(3月9日)花沢の里
日ごとに強まる陽光に誘われる形で静岡市と焼津市の境にある満観峰(470メートル)に登った。石垣と板張りの建物が見事な歴史的景観を醸す山村集落「花沢の里」を過ぎ、鞍掛峠まで上がれば山頂は遠くない。 途中の登山道で先を急ぐ小学生に抜かれた。老若男女でにぎわう山頂で富士山と静岡市街を眺めた後は鞍掛峠に戻り、高草山(501メートル。 へと登り返す。こちらの山頂からは志太平野が一望できる。 高草山を南へ下ると花沢城跡の看板が見えた。ここまで来ると人影はまばらになる。案内板によると花沢城は戦国時代の山城。武田信玄の駿河侵攻時、今川の城として最後まで抵抗した。武田軍は城を包囲し、信玄は高草山中腹に陣
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社説(3月9日)新興企業の支援 地域活性化の起爆剤に
革新的なデジタル技術や新しい発想で社会課題を解決し、企業として急成長を遂げる。そんなスタートアップと呼ばれる新興企業の支援や育成に取り組む地方自治体が増えている。若い企業の活力を地域経済の発展の起爆剤にしたい。 静岡県は2024年度当初予算案に、県内を舞台に実証実験を行う首都圏スタートアップなどへの助成や、高校生のビジネスアイデアを事業化する費用などを計上した。元気なスタートアップを本県に呼び込むのと同時に、未来の起業家を大切に育てていくことが欠かせない。 浜松市は全国初の取り組みとして、民間金融機関のベンチャー向けローンで調達した資金の同額を交付する「ファンドサポート事業」の予算を盛り
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時論(3月9日)「第九」の精神、今こそ
「全ての人々は兄弟となる」。ベートーベンの交響曲「第九」に込められたメッセージだ。合唱が加わる第4楽章の歌詞に登場する。このメッセージを体現し、第九の普遍性を改めて実感させられる演奏が先月、オーストリア・ウィーンであった。 聴覚や視覚に障害のある子どもたちが参加する日本の合唱団「ホワイトハンドコーラスNIPPON」が、国際会議の場で「第九」を披露した。合唱団は、声を出して歌う「声[こえ]隊」と、白い手袋をして「手歌[しゅか]」を担当する「サイン隊」で構成する。声隊はドイツ語で歌い、サイン隊も手話や表情、体全体で「歓喜の歌」を表現、躍動感あるパフォーマンスに大きな拍手が送られた。 ベートー
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記者コラム「清流」 「投票率向上」は必要か
「商業施設に期日前投票所を」「若者の選挙啓発動画コンテストを開く」―。静岡大生と静岡市選管は本年度から、連携して来春の市議選の投票率向上に向けた対策を考えている。 投票率低下に問題意識を持つ若者が主体となった良い取り組みだと思い、継続的に取材してきた。関係者間では好意的な意見が交わされた一方で、「投票率アップが目的になっていいのか」との意見も聞いた。候補者の資質や政策を理解せずに投票して投票率を上げても、良いまちづくりにはつながらないとの趣旨だ。 いろいろな意見があるだろうが、個人的には、より暮らしやすい社会にするために、やはり投票率が上がることは大切だと思う。行政の課題や政治家の仕事ぶ
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記者コラム「清流」 プリンが好きすぎて
富士宮市に人気遊園地のような行列ができた。人々のお目当てはプリン。特産の鶏卵と牛乳のPR企画として初の祭りが開かれた。市内菓子店の多様なプリンが集合するとあって県内外から客が殺到した。 盛況の裏で課題が浮かんだ。1時間足らずで売り切れが多発し、肩を落として引き返す姿があった。雨予報で客足が読めず、各店は製造量を予定より減らしていた。急きょ再生産して補充した店もあったが、小規模個人店は打つ手がなく、行列を見つめることしかできなかった。 来場者を気温5度以下の寒さにも大雨にも耐えさせたプリンの魅力は想像以上だった。PR戦略の方向は間違っていない。富士宮やきそばに続くご当地グルメに成長したら-
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記者コラム「清流」 地産地消で応援
仕事からの帰り道、店で夕食を済ませるのが習慣だったが、最近は生活改善のため、自炊をするよう意識している。ただ、料理のレパートリーが乏しく、献立のマンネリ化が悩みだ。 磐田市産チンゲンサイを使ったスープなど地元食材を生かした新商品が、県西部のセブン-イレブンで発売された。早速、同市産パプリカのピクルスを購入。冷蔵庫の残り物で作ったしょうが焼きとの相性が抜群に良い。あと一品足りない時に便利なのはもちろん、鮮やかな見た目で食卓がぱっと明るくなった。 そして何より「地元産」との文字に、安心や信頼、親近感が湧いて手を伸ばした。農業を取り巻く環境は価格低迷や後継者不足のあおりなどを受けて厳しさを増し
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コラム窓辺 二律背反、まさに経営(杉原行洋/ハヤテグループ代表)
新球団はドラフト指名による選手獲得ができません。よって①ドラフトに漏れた選手②既存球団にて戦力構想から外れた選手③埋もれた外国籍選手―を獲得してチームを構成します。つまり、なお夢を追いかけたい選手がひたむきに野球と向き合う球団です。華やかさより、ひたむきさ。 悔しいですが、相手はドラフト指名を受けた選手たち。しかし、勝利を諦めるつもりはありません。当球団の選手には、育ち、彼らに競り勝ち、そしてドラフト指名または移籍により卒業してほしいと願っています。 一方で、選手が活躍し巣立つほど、当球団は戦力の維持が難しくなります。常に「育てては獲られる」構造にあるからです。選手獲得のハードル、育成
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大自在(3月8日)領土問題
静岡県出身の日本語講師をモロッコで取材したときのこと。それまでおとなしく講義を聴いていた生徒たちがにわかに騒ぎ始めた。 言葉が分からず何が起きているのか理解できなかったが、後から聞くと、アルジェリアと領有を争う西サハラについての講師の言及の仕方が不満で、抗議していたようだ。20年以上前のことだが、生徒たちがあまりのけんまくだったので、記憶に焼き付いている。 日本の若者が彼らと同じぐらいに領土問題を巡って高い関心を持っているかは疑問だ。1月発表の内閣府の世論調査で、ロシアが北方領土を不法占拠している現状を「知らない」と答えた人は35・0%に上った。特に若年層の認知度の低さが目立った。 政
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記者コラム「清流」 命預かる責任とは
2月の休みに、東日本大震災で被災した宮城県石巻市の震災遺構大川小と女川町の七十七銀行女川支店跡地を訪ねた。いずれもすぐ裏に山があるが、児童も行員もそこに避難せず亡くなった。「なぜ1、2分で行ける山に行けなかったのか」。自分の足で登ってみても答えは分からなかった。 津波は想定を超えた場所や高さまで襲い、教員や支店長の判断の遅れや誤りが悲劇を招いた。同支店員の長男(享年25)を亡くした田村孝行さんは先日、浜松市での講演で「(従業員の)命を預かり管理する者の責務は大きい」と訴えた。 責任者不在時の発災など起こり得る事態を見据え、実効性のある避難計画を作っておくことは、南海トラフ地震に備える静岡
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記者コラム「清流」 熱海は「常春」風土
「真冬を知らざる常春(とこはる)熱海」 熱海ゆかりの文豪、坪内逍遥が作詞した熱海市歌はこの一節から始まる。逍遥の命日に合わせて営まれた記念祭で、市歌を初めて聴いた。「常春熱海」という表現が妙に腹落ちした。 と言うのも、昨夏に熱海に赴任後、初となる冬の生活だが、季節感があまりない。秋口に熱海梅園の早咲き梅が次々と開花し、同じく早咲きの「あたみ桜」は年末から年明けにかけて見事に咲き誇った。秋冬を一気に通り越して、春を迎えた感覚に陥った。 仕事柄、四季の移ろいに敏感に反応しなければならない。だが、熱海は真冬を感じさせない不思議な風土が根付き、いい意味で調子が狂う。常春熱海と書いた逍遥も同じ季
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記者コラム「清流」 撮影の大敵
一瞬の表情を切り取るため、緊張感と集中力が求められるスポーツやイベントの撮影現場。そんな集中をかき乱す大敵が今年もやってきた。目が赤く充血してかすみ、鼻水とくしゃみが止まらない。 祭りやスポーツの撮影では屋外にいる時間が長く、花粉を浴び続ける。その上、マスクを着用してカメラを構えると、呼吸でファインダーが曇ってしまう。今年は桜や梅の開花時期が早い傾向があることに気づいていたのに、花粉が飛散する前に早めの対策ができなかったことを反省した。 ネットでは、花粉症で打率が下がる野球選手の話題を見かけた。撮影も苦労するが、運動選手など被写体の方がつらいのかもしれないと思うと甘えたことは言っていられ
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社説(3月8日)再審法改正議連 世論喚起へ先頭に立て
刑事事件のえん罪被害者の速やかな救済につながる法整備を目指す超党派の国会議員連盟(議連)が近く発足する。立法府の国会を構成する議員が動き出した意義は大きい。しかも議連の呼びかけ人には党首や大物議員が名を連ねる。日本弁護士連合会(日弁連)が求めている刑事訴訟法の裁判のやり直し(再審)に関する規定(再審法)改正に向けた一歩になる。 再審法は戦後一度も改正されていない。日本の再審制度は、再審を開始するかどうかを判断する再審請求審と、有罪か無罪かを決める再審の2段階構造で、再審請求審に何十年もかかるケースが目立つ。日弁連は再審法に通常の裁判のような具体的な規定が乏しいのが原因として、証拠開示のルー
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時論(3月8日)ウェルビーイング 具現した人
字面で分かったつもりになり、分かったふりをして、恥ずかしい思いをすることがある。そんな言葉は、使うのをためらう。例えば「ウェルビーイング」。「幸せ(ハピネス)」より広く深いということは感覚的に分かるのだが。 経済協力開発機構(OECD)が示すウェルビーイングの3要素の一つに「人生における意義と目的意識」とあり、分かったような気がしてきた。これまでの「身体的・精神的・社会的に良い状態」という説明に感じていた物足りなさが解消されそうだ。 そして、この人が頭に浮かんだ。「魂の俳人」村越化石(本名・英彦、1922~2014年)。きょう3月8日が命日、没後10年である。 ハンセン病を患いながらも
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大自在(3月7日)ミツバチ
ミツバチが花を求めて盛んに飛び回る季節。あす3月8日は「ミツバチの日」だ。「3(みつ)」「8(はち)」の語呂合わせで、1985年に全日本はちみつ協同組合と日本養蜂はちみつ協会(当時)が決めた。 女王蜂、雄、すべて雌の働き蜂による分業や、新世代の女王蜂が誕生すると、旧世代の女王蜂が半数の働き蜂を連れて巣を離れる分封など、その生態は驚きに満ちている。特にニホンミツバチが天敵のオオスズメバチを撃退する熱殺蜂球[ねっさつほうきゅう]には驚愕[きょうがく]する。 オオスズメバチにとってミツバチの巣は格好の餌場。群れで襲って成虫を殺し、幼虫などを奪って自分の幼虫の餌にする。しかしニホンミツバチは、そ
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コラム窓辺 牛の頭と雨乞い(中村羊一郎/静岡市歴史博物館長)
静岡市の北にそびえる標高約千メートルの竜爪山。急に日が陰ってきても、「頂上が見えているから降らないよ」と言ったものです。竜爪という山名は、雨が上がったあと、山頂に竜の爪が残っていたことによると伝えられます。 竜は水の象徴です。竜爪山は水を司[つかさど]る聖なる山として信仰を集めてきました。日照りが続いて困ったときには、竜爪山に雨乞いをしました。その方法は、山中に牛の頭を置いてくるという、いささか血なまぐさいものでした。明治20(1887)年生まれのお年寄りから直接聞いた話ですが、子どもの頃、大雨が降り続いたことがありました。「これは誰かが牛の頭を置いていったに違いない、拾ってこなければやま
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記者コラム「清流」 核廃絶の理想と現実
「水平線に浮かぶ太陽とは違う真っ赤な物体」「地響きのような爆音」「降り注ぐ白い粉」。70年前に焼津港所属のマグロ漁船「第五福竜丸」の乗組員が太平洋・ビキニ環礁で遭遇した光景だ。体験談を聞きながら、焼津から遠く離れた洋上での出来事を想像すると、恐怖心で頭がいっぱいになった。 米国がマーシャル諸島で実施した水爆実験。洋上で操業中の乗組員もさることながら、島々に住む多くの人々も健康被害に苦しんだ。 こんな世にも恐ろしい凶器は一刻も早くなくすべきと感じる。でも、核は拡散している。保有国全てが一斉に捨ててしまえば解決に近づくが、残念ながら世界は、とりわけ日本周辺は善意の国ばかりではない。理想を求め
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記者コラム「清流」 新聞記者沼
「個人の情熱から文化が生まれ産業になる」。9、10日に沼津市であるイベント「ぬまりびと博覧会」の主催者の言葉にビビッときた。その心意気、熱すぎる。イベントは「レスラーマスク沼」「鯛(たい)の鯛沼」など、それぞれの関心分野に没頭する(沼にはまった)人が集い、活動内容や成果を披露する。とても興味深い。 時々、なぜ新聞記者になったかと逆質問される。採用面接で使えそうな答えも用意しているが、最大の理由は、情熱を持っている人と話せるから。積極的に取材に応じてくれる人は前向きで明るい。取材しながら元気をもらえる。 個人の情熱がまちを彩り明日を楽しくする。そんな信念を持ち、これからも出会いを楽しみたい
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記者コラム「清流」 更生願うまなざし
「反省の気持ちを忘れないで」「出所後、周囲の目は厳しいが、地道に仕事を続けてほしい」。裁判員裁判では判決宣告後、被告に寄せた裁判員らの意見が披露されることがある。静岡地裁浜松支部でこのほど開かれた強盗致傷罪などに問われた被告の裁判でも、裁判長が更生を期待するメッセージを読み上げた。 実刑判決を受けた20代半ばの男性には多くの逮捕歴があり、少年院にも複数回入っていた。それでも被告人質問では、過去の行動を後悔し、被害者や周囲の人に謝罪する言葉を口にした。時折涙声になる姿からは、「今度こそまともな大人になりたい」という強い決意が感じられた。 判決を聞く被告の様子を裁判員たちがじっと見つめていた
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社説(3月7日)震災で進む人口減 奥能登の支援に全力を
能登半島地震の発生から2カ月が経過し、被災地では防災ボランティアの活動がスタート、応急仮設住宅への入居も一部で始まるなど、生活再建の歩みが動き出した。 一方で石川県内ではいまだに1万人以上が避難生活を送る。電気や通信は復旧したものの1万8千戸以上で断水が続く。上水道はもちろん、下水道も使えない状況では日常生活の維持は難しい。全国の自治体などから応援を受けて作業が進むが、全面復旧までは時間がまだかかりそうだ。 県がまとめた人口推計によると、輪島市や珠洲市など奥能登地域2市2町からの転出者数は今年1月、前年同期の4倍以上になった。高齢化と人口減少が進む被災地で震災が過疎化に拍車をかける実態が
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時論(3月7日)難局でも日ロ交流続けたい
幕末からロシアとの交流の歴史を持つ下田市は今月、ロシアのウクライナ侵攻以降、見送ってきた友好関連行事を復活させる。ロシア使節プチャーチン提督率いる軍艦「ディアナ号」が安政大地震の津波で大破した際に犠牲になったロシア人が眠る玉泉寺で慰霊祭を営む。ロシア側の出席はないが、日ロ交流再開の契機になることを期待したい。 北海道出身の筆者は約40年前の小学生の頃、授業で担任の教師から、北方領土4島の名前を暗記するように言われた。位置や特性などの詳細も覚えた。教師は「関心を持ち続けることで返還への機運が高まる」と暗記の意味を説明し、「みんなが大きくなった頃には必ず戻っている」と強調した。 20年前、北
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コラム窓辺 広島原爆ドームに行くのと同じように(高森志文/アサヒユウアス社長)
2月に仕事の一環で東日本大震災の被災地を訪問する機会を得た。他県での復興の様子を見学させていただいたことはあるが、今回は福島第1原子力発電所に入っての視察のほか、福島県浪江町にある震災遺構の請戸小学校や、双葉町にある原子力災害伝承館、産業振興の象徴である福島ロボットテストフィールドを見学させていただくというツアー。 復興が進むエリアは、一度は津波で住宅街が消滅し更地となった場所とはいえ、新しい施設が建ち、産業が誘致され、新しい街ができつつある様子が伝わってきた。心から応援を送りたいし、新規移住者もいるようで頼もしい限り。 一方で双葉駅周辺では、放射能の除染は終わっているものの13年間放置
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大自在(3月6日)あがた森魚さんと「オスカー」
シンガー・ソングライターのあがた森魚さんが「遠州灘2023」と題したCDを出した。ジャケットには、白波を背に砂浜を歩く本人の姿がある。浜松市で撮った写真という。 作品は同市を起点に各地を巡った23年の旅路が、演奏と歌、独白で表現される。75歳、51枚目のアルバムだ。近年、精力的な活動が際立つ。それは無二の節回しが健在の「歌手」「音楽家」だけにとどまらない。 「俳優・あがた森魚」として出た映画が今週、注目を集める。ビム・ベンダース監督「PERFECT DAYS」。8日の第47回日本アカデミー賞は作品、監督など3部門で優秀賞、10日(現地時間)の第96回米アカデミー賞では国際長編映画賞候補に
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記者コラム「清流」 勝負師は普通の高校生
藤枝市青南町の国内最大級のイチゴ農園「ジャパン・ベリー」が、全日本高校女子サッカー選手権大会で連覇を果たした藤枝順心高の選手に、“ご褒美”としてイチゴ狩りと食べ放題をプレゼントした。 ピッチ上は勝負師の顔を見せる選手だが、「映え」を意識してイチゴを手に写真撮影する姿はごく普通の女子高生。ハウス内に生息するミツバチにおびえる様子もほほ笑ましく感じた。 食べ放題は同校が選手権で優勝するたびに企画されている。選手によると、連覇が決まった直後のロッカールームで「やったー!イチゴが食べられる」と話題に上がったという。重圧を背負いつつも、それだけモチベーションになっていたのだ
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御殿場市火山避難計画 周知促し実効性高めて【記者コラム 湧水】
御殿場市が2月20日、独自の「市富士山火山避難計画」を策定した。「市内は全域が溶岩流に飲み込まれる」という従来の認識を覆し、市内での近距離避難を中心とする画期的な計画といえる。依然として富士山噴火時は広域避難が基本だと理解している市民は多く、今後は住民説明会や避難訓練などを通じた周知により実効性を高めてほしい。 計画の重要な要素が、同市の県道23号御殿場富士公園線沿いに存在する「分水嶺(れい)」だ。市内に源を発し南に流れる黄瀬川と北に流れる鮎沢川の境界となるラインを指す。今回、最新の知見に基づいたシミュレーションにより、想定しうる最大規模の噴火が発生した場合でも、分水嶺の影響で市中心部を含
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記者コラム「清流」 金高騰の裏にある葛藤
金の高騰を受け時価が上がる、土肥金山(伊豆市)の世界最大の金塊。27億円を突破して以降、毎日のように金価格をチェックしてしまう。休日は価格が変動しないため週明けが楽しみで、2月は推移も好調のようだ。 ただ忘れてはならないのは、金相場上昇の裏には円安や社会情勢の不安定などの要素もあるということ。新型コロナウイルス、ロシアによるウクライナ侵攻、中東情勢の地政学的リスクなどが意識された可能性もある。注目しつつも、これでは素直に喜べない。 情勢の安定を望みつつも、大台の30億円が待ち遠しいという葛藤。巨大金塊の時価や注目度は、昨今の世相を示すバロメーターになっている。輝き続ける黄金が世の中の不安
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記者コラム「清流」 映画ゴジラのヒット
米アカデミー賞の視覚効果部門にノミネートされた映画「ゴジラ-1.0(マイナスワン)」。浜名湖や遠州灘でロケをした縁で実現したボートレース浜名湖でのトークショーで、米国での大ヒットへの手応えを問われたプロデューサーの言葉が印象に残っている。 米国の観客の反応について「主人公の敷島に感情移入してくれている」として、戦争を経験した元兵士のPTSDが米国の人々にとっては身近な問題だということに言及した。終戦前後の日本を舞台にした物語が海外で共感されていることに驚くと同時に、自分自身が「戦争は過去のもの」という前提で映画を見ていた感覚にも気付かされた。 当日の記事は浜松ロケの撮影秘話で構成したため
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【時評】清水南高に「演劇専攻」 インプット増やし 世界へ(宮城聰/SPAC芸術総監督)
いよいよ4月、清水南高芸術科の「演劇専攻」がスタートします。 静岡が「演劇におけるウィーン」を目指す上では、世界レベルの演劇団体がここにあるというだけでは十分でなく、優れた演劇教育機関が必要だと僕は考えてきました。その道が始まるわけです。 もちろん、SPACが今日のように世界で知られるようになるまでに25年を要したことから考えても、この演劇専攻が他国から若者を集めるようになるまでには時間がかかるでしょう。しかし、一流の芸術団体が直接指導に関わる高校はめったにありません。清水南高演劇専攻は実技の授業時間が日本一豊富なだけでなく、その多くをSPACの劇場施設で学ぶことができます。 若いク
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社説(3月6日)性犯罪歴照会制度 子どもの被害根絶図れ
政府は子どもと接する仕事に就く人の性犯罪歴を確認する「日本版DBS」の制度案を自民党の部会に示した。与党との調整を経て、今国会に法案を提出する方針だ。子どもの被害根絶につながる実効性の高い制度にしなければならない。 制度案は、国がデータベースを構築し、学校や保育所などに求職者の性犯罪歴照会を義務付ける。学習塾や放課後児童クラブ、スポーツクラブなどは任意の参加による「認定制」とし、国の認定を受けた事業者には照会を求める。 新たに就職を希望する人だけでなく、既に働いている人も対象で、性犯罪歴が確認されれば、子どもと接する業務からの配置転換や第三者の目が届かない状況が生じないようにするなど、雇
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コラム窓辺 卒業シーズン(水野裕央/日本銀行静岡支店長)
カーラジオから卒業ソングが流れてくる季節になった。雪化粧の富士山が日本人の心のよりどころだからか、駿河湾の水平線の向こうに未来を感じるからか、卒業ソングは静岡のドライブに良く似合う。 卒業ソングは、生きてきた時代により異なるだろう。先輩方は、荒井由実さんの「卒業写真」や海援隊さんの「贈る言葉」だろうか。後輩方は、レミオロメンさんの「3月9日」、アンジェラ・アキさんの「手紙~拝啓 十五の君へ~」、川嶋あいさんの「旅立ちの日に…」だろうか。 私は、卒業生にすてきな歌詞のような心に響く言葉は贈れないが、自分が共感したことは伝えられる。米アップルの共同創業者のスティーブ・ジョブズ氏
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大自在(3月5日)土を喰(く)らう
ウグイスのホーホケキョが聞こえた。まだ少し下手だが。メジロは花から花へと飛び回る。寒さが緩んで、鳥もにぎやかになってきたようだ。 「土の中で眠っていた虫たちがはい出し、待ちかねたように鳥がついばむ。自然の恵みを自ら求める鳥の食事は健全」と料理研究家の土井善晴さんがコラムに書いていた。食べ物がいいから、いい卵が生まれる。それが自然の摂理だという。 きょうは二十四節気の啓蟄[けいちつ]。冬ごもりしていた虫が土を啓[ひら]く。草木も芽吹く。スーパーの総菜コーナーにタラの芽の天ぷらが並び始めた。山菜の王様といわれる。独特の香りとほろ苦さに春を感じる人もいるだろう。 作家の水上勉さんの「土を喰[
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記者コラム「清流」 酔わなくても幸せ
ノンアルコールドリンクの印象が覆された。ふじのくに茶の都ミュージアム(島田市)で開かれたセミナーで、ノンアルコール飲料専門商社の社長が紹介した緑茶や紅茶のスパークリングティーを飲み比べた時のことだ。味わいや香りだけでなく、ワインのような品種や産地にまつわる物語にも大きな魅力を感じた。 コロナ禍を経て、飲酒の習慣が大きく変わった人も多いと思う。厚生労働省は飲酒のガイドラインをまとめるなど健康志向はより一層高まっている。一方で、運転や妊娠などの理由で飲みたくても飲めなかった経験がある人も多いはず。 お酒に代わり、料理とのペアリングを楽しみ、次の一口につなげてくれる存在は食事のシーンを豊かにし
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記者コラム「清流」 本気のまくら投げ
かつて修学旅行の隠れた一大イベントだったまくら投げ遊びを競技化した、全日本まくら投げ大会が今年も伊東市で開かれた。一時はコロナ禍で中止され、昨年に再開。今大会には全国各地から40チーム356人が集い、2日間で88試合の熱戦を繰り広げた。 旧伊東高城ケ崎分校(伊豆伊東高)の生徒の考案を基に開催している、ユニークな大会だ。浴衣を着た選手が畳のコートで枕をぶつけ合い、掛け布団を広げて味方を守る。布団に寝た状態で試合が始まり、敵陣の枕を回収できる「先生が来たぞ」のかけ声が響く。 今回は18チームが初参加。本気で競い合い、仲間と一緒に喜び、悔しがる姿が印象的だった。大会は温泉に恵まれた観光地・伊東
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記者コラム「清流」 答え合わせ
「キリンの首は本当に長かった」「ライオンの顔は怖くて、パンダは抱いたら温かかった」。児童が本物そっくりのぬいぐるみをなでながら、そう言った。 浜松市中央区の静岡県立視覚特別支援学校に県内初の“動物園”が開園した。視覚に障害がある児童に多様な動物に触れるきっかけを作ろうと、埼玉県の男性が動物のぬいぐるみ33体を寄贈し、展示した。児童らは開園とともに、駆け出したり、教員の手を引っ張ったりして動物のもとへと向かった。「これはなに。熊か、いや違う」。足につけられた点字シートと体を行ったり来たりして、興奮している様子が印象に残る。 “動物”の体や表情
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社説(3月5日)日経平均4万円超 実感が伴う成長実現を
東京株式市場で日経平均株価(225種)が史上初めて4万円を超えた。ただ静岡県民の暮らしの中に、歴史的株高の恩恵を感じられる材料はほとんど見当たらない。国内外の投資家は日本経済がついに長期低迷から脱すると期待しているだけに、企業部門は賃上げや投資積極化といった前向きな支出行動を継続し、実感が伴う成長実現へとつなげたい。 本県に本社や主要拠点を置く上場企業も、新型コロナウイルス禍収束後の経済活動回復と、外国為替市場の円安ドル高基調を追い風に外需型企業を中心に業績を拡大している。ロシアのウクライナ侵攻後の物価高によるマイナス影響を価格転嫁で吸収する企業も見られる。 2024年の春闘が本格化した
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【時評】ブルーカーボンとCO2 削減貢献へ重要な選択肢(鈴木款/海洋環境学者)
最近新聞やテレビで「ブルーカーボン」という言葉を耳にする。海洋植物などに蓄積される炭素をブルーカーボンと呼んでいる。2009年に国連環境計画(UNEP)の報告書で、新しい二酸化炭素(CO2)吸収源として提唱され一気に注目された。特に最近話題になるのは、パリ協定のCO2削減目標との関係においてだ。政府や企業、市民団体は、脱炭素に向けてブルーカーボンの取り組みを加速させている。 私は昨年11月にブルーカーボンに関係する「アマモ国際会議」に参加する機会を得た。会議ではアマモやマングローブなどによるCO2固定量の促進と売却できるクレジットとして評価する方法を議論した。 海洋植物は光合成により
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大自在(3月4日)就活本格スタート
「男女同一待遇を基本としています」。1980年、求人誌に載ったファミレスの募集広告は、つまり同一待遇が普通でなかったということだ。 86年、男女雇用機会均等法が施行。しかし10年たっても実効は限定的で、求人誌にはこんな文言が登場した。「就職の年だけ、男だったらいいのに。」(98年、人材派遣)。 どちらも「女性と求人情報―女性活躍の時代に向かって」(2018年)から引用した。著者渡辺嘉子さんは、求人広告は時代の女性観や社会の期待を反映し、その移り変わりは「人が活かされていく流れ」と注目した。 就活という言葉の登場は2000年ごろだったか。就活小説「格闘する者に○[マル]」(00年)、「シ
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社説(3月4日)ヤングケアラー 18歳以上も支援に力を
大人に代わって日常的に家事や家族の世話を担うヤングケアラーの支援を初めて法制化する子ども・若者育成支援推進法の改正案が今国会に提出された。法的な定義がなかったヤングケアラーを「家族の介護その他の日常生活上の世話を過度に行っていると認められる子ども・若者」と明記し、国や自治体が支援に努める対象と定める。 ヤングケアラーはこれまで18歳未満と定義されることが多かったが、18歳以上の若者も支援対象に加える。成人になっても家族のケアが終わるわけではない。家族の世話で希望する進学や就職を諦めざるを得ないケースも少なくない。年齢で区切らないサポートは家族介護の経験者や支援団体が求めていた。 18歳未
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コラム窓辺 大切な母との日々(白井貴子/シンガー・ソングライター)
この時期、澄み渡った空に雄大な富士山の雪景色は最高ですね。私はこの景色を見ると、2年前、89歳で他界した母(光子)との日々がよみがえります。 「ママ、今日は富士山すっごくキレイ! 見に行こっ!」 車椅子で、近所の富士山スポットまでよくお散歩しました。 洋裁が得意で、小学校の入学式やピアノ発表会の服はもちろん、1980年代「ロックの女王」と呼ばれるまでのミニスカートの衣装も作ってくれた働き者の母。しかし70歳の頃から手が不自由になり、リウマチに。激痛の症状も増え不憫[ふびん]でなりませんでした。どんな時も嫌な顔一つせず私の願いを叶[かな]えてくれ、何より手仕事が大好きだった母への恩返しの
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大自在(3月3日)ひな人形と結婚式
きれいなものを見て楽しく感じることを「目の保養」「目の薬」と言う。「目の正月」とも表すそうで、この展示はそう呼びたい。静岡市のグランシップできょう最終日の「高松宮妃のおひなさま展」を見てきた。 徳川慶喜公の孫にあたる喜久子さまのご成婚の支度品。幅6メートルの五段飾りは豪華絢爛[けんらん]、内裏びなのわきには稚児が控え人形は19体。輿[こし]入れ道具の精巧なミニチュア600点には、たんすや衣装、夜具、食器、針箱や将棋盤、琴も。 平安時代の姫君たちの「ひいな遊び」と、中国から伝わった厄よけの風習が合わさってひな祭りの原型ができたとされる。江戸時代には人形を飾って女児の無病息災と健やかな成長を
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時論(3月3日)「私は関与していない」
子会社で約928万件の顧客情報が流出する事件が起きたNTT西日本の社長が今月末で引責辞任すると発表した。システムの保守作業担当の元派遣社員が情報を不正に持ち出した。発覚後の社の対応にも問題があった。社長は記者会見で「社会的責任は極めて重大で、責任を取って退任する」と述べた。日本を代表する巨大企業といえども、社会的な影響が大きければ、経営者は末端の不祥事の責任を厳しく問われる。 時期が重なったため、落差を感じずにはいられなかった。自民党派閥の裏金事件を受けて開かれた衆院政治倫理審査会だ。岸田文雄首相と共に、組織的な裏金づくりをしていた安倍派、二階派の幹部5人が出席。裏金づくりの経緯や関与を追
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社説(3月3日)「核のごみ」処分場 現行方式で決まるのか
「核のごみ」と呼ばれる原発の高レベル放射性廃棄物の最終処分場をめぐり、候補地選定事業を担当する原子力発電環境整備機構(NUMO)の報告書案がまとまった。それによると、全国で初めて文献調査を実施した北海道寿都[すっつ]町と神恵内[かもえない]村が、次の段階の概要調査に進むことが可能だと判断された。 北海道への最終処分場受け入れに反対してきた鈴木直道知事は、概要調査に「反対の意見を述べる」とするコメントを発表。概要調査に進むには知事や地元首長の同意が不可欠で、実現が見通せない状況になっている。 また、能登半島地震では海底にある活断層評価が十分でなかった。掘削も可能な陸域に比べると、海底には調
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大自在(3月2日)小野田寛郎さん
新千円札の顔に選ばれた北里柴三郎は、現千円札の野口英世にとって細菌学の師に当たる「近代医学の父」である。大正初期に伊東温泉の一角に別荘を構えた伊東市ゆかりの偉人でもある。市内には7月の新札発行を前に顕彰碑が建立された。 北里の別荘はやがて講談社オーナーの野間家の手に移り、戦後、敷地内に野間自由幼稚園が開設された。二十数年前、老朽化した園舎が世界的建築家の安藤忠雄氏の設計で新築されるという記事を別荘の歴史も交えて書いた。取材を通じて別荘に関わる著名人が他にもいると知った。 半世紀前の1974年3月、終戦後30年近くフィリピン・ルバング島に身を潜めていた旧陸軍少尉の小野田寛郎さんが帰還し、4
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記者コラム「清流」 「みらい2」進水楽しみ
清水港に基地誘致の機運がある海洋研究開発機構(JAMSTEC)の北極域研究船の名前が先ごろ決まった。「参考まで」とあっさりしたメールで知らせてきたのは船名の一般公募に応じた地元公務員。オーロラを表す「極光」の命名は幻に終わった。 2026年度の完成に向け建造中の船の名は「みらい2」に決まった。清水にもよく来る原子力船「むつ」を改造した研究船「みらい」から引き継いだ。7075件の応募のうち一定数の応募があったなどとリリース文にある。 みらい2は基地誘致を進める全国の自治体間で引っ張りだこ状態。さまざまな“バランス感覚”も求められたのかも、と勝手に想像する。一方で搭載
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記者コラム「清流」 赤い松
湖西市内で新居弁天地区を中心に深刻な松枯れが進んでいる。主な原因はカミキリ虫が媒介する線虫で、5~6月に幼虫が羽化すると広範囲に被害が拡大するため、市は本年度の補正予算で枯れ松の伐採や予防剤注入の費用を計上して対策に取りかかっている。 マツは防風や砂防の機能と同時に、旧東海道宿場町や湖岸の景観をつくる地域資源にもなっている。赤く枯れた松は伐採する以外ないというが、伐採に1本数十万円の費用がかかる中、私有地では所有者が自ら処分する必要がある。特に枯れ松が多い東京大演習林は市の伐採対象にならず、今後の影響が懸念される。 三保松原では松枯れの改善に何年もの期間がかかった。湖西でも長い戦いが予想
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社説(3月2日)政倫審での弁明 国民の疑念は深まった
国民が知りたかったことは何一つ解明されなかったと言っていい。自民党派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件を受け、衆院の政治倫理審査会が2日間にわたって開かれた。岸田文雄首相と、組織的に裏金づくりをしていた安倍派、二階派の幹部5人が出席して弁明し、質疑に応じたが、違法行為が始まった経緯や裏金の使途について納得いく説明はなかった。これでは政治不信の払拭どころか、疑念を深めただけではないか。 現職首相として初めて政倫審に出席した岸田氏は、事件について陳謝し「党総裁として自ら説明責任を果たす」と意気込んだが、裏金づくりに関する説明は、既に公表した党の聞き取り調査結果の内容にとどまった。政治資金規正
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記者コラム「清流」 ファンと沼津の関係性
沼津市のあわしまマリンパーク閉館が決まった後、印象に残ったのが30代前半の来場者の男性だ。最初は人気アニメ「ラブライブ!サンシャイン!!」ファンとして訪れたが、今回は妻と来たという。 同作と連携してまちづくりを続ける沼津あげつち商店街によると、作品の絵柄入り婚姻届で結婚したカップルは、昨年12月時点で300組近くに達した。 JR沼津駅南口の公式カフェは2月、再開発に伴い閉店した。放送開始から7年。移住したり結婚して再訪したりと、放送開始時に若者だったファンのライフステージは、沼津の風景とともに変化している。同市の観光施策は“脱アニメ”にかじを切りつつあるが、ファン
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コラム窓辺 球春到来(杉原行洋/ハヤテグループ代表)
いよいよ、われらが「くふうハヤテベンチャーズ静岡」のプレーボールです。先週には初の対外試合を開催しました。これを皮切りに球団はオープン戦、公式戦、フェニックス・リーグと年末まで約170試合という過酷な連戦に臨みます。 今回は野球尽くしということで、皆さまからよくいただくご質問にお答えしたいと思います。 「プロ野球なのか」 はい、NPBのファーム・リーグ参戦であり、いわゆるプロ野球です。 「しょせんは2軍球団なのか」 いいえ、静岡新球団に1軍、2軍はありません。あくまでNPBファーム・リーグに参戦するのみです。 「選手は何をモチベーションに戦うのか」 球団の勝利に加えて、自身が
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大自在(3月1日)ビキニ事件70年
浜松市でロケが行われ、昨秋から公開中の怪獣映画「ゴジラ―1・0[マイナスワン]」は、終戦直後に時代設定されている。タイトルの「マイナス」は、敗戦でゼロになった日本がゴジラによってさらにマイナスの状況に追い込まれるという意味だという。 日本で制作された実写版は30作目。第1作は終戦9年後の1954年11月に封切られた。その年3月1日の米国の水爆実験による放射能汚染禍「ビキニ事件」を強く反映。深海で生き延びていた恐竜が水爆実験により放射能を帯びた巨大怪獣になって人類に襲いかかった。 焼津市歴史民俗資料館で始まった「被災70年特別展ヤイヅ1954」に展示されたこの映画のポスターに「水爆大怪獣」
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記者コラム「清流」 一流選手のふるまい
中国を追い詰め、53年ぶりの世界一に迫った卓球の世界選手権で伊藤美誠選手(磐田市出身)のベンチでの姿が注目された。仲間に的確なアドバイスを送る姿は“監督”と話題になった。 高速ラリーの中で戦術を構築する卓球は「チェスをしながら100メートル走をする競技」と称される。過去に伊藤選手から「頭も体もくたくた」という言葉を何度も聞いた。ベンチに座りながらも頭をフル回転させていたのは想像に難くない。 集中力を保つためか、立ち上がって、声を上げる場面は少なかった。だが、その様子が一部ネット上で批判され、本人も交流サイト(SNS)で「私らしい応援の仕方」と胸中を吐露せざるを得な
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記者コラム「清流」 名刺代わりのSNS
先日、名刺交換を申し出ると「紙の名刺は持っていないんです」と言われ、代わりに1枚のカードを示された。言われるがままにスマホを近づけると、五つのSNSや名刺アプリが表示され、目を丸くした。 SNSは情報収集ツールとして使用し、発信はほぼしていない。表示されたSNSにアクセスしてつながりを持ったが、どこの誰か先方は判別がつくのか疑問だった。同時に、稼働していないSNSを交換する恥ずかしさも少し感じた。 SNSを活用している人の情報は豊富だ。所属や肩書、連絡先といった名刺に記載された内容以上に相手を知ることができる。 自身をSNSで発信する方法を真剣に考えないといけない時代に入ったのだろうか
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記者コラム「清流」 少しの勇気
休日のこと。外出先で高齢男性が倒れる場面に遭遇した。幸い大事に至らなかったが、周囲の人が男性に声をかけたり、介抱したりしている中、自分は頭が真っ白になり動けなかった。 話は変わり、新聞記者は警察署で特殊詐欺未然防止の感謝状贈呈式を取材する機会がある。最近取材した中で一番印象に残っているのは、スーパーで詐欺を防いだ2人の女性。たまたまその場に居合わせ、早く振り込まなければと焦る被害者の高齢女性を根気よく説得し続けて被害を食い止めたという。 「勘違いかもとも思ったけど、声をかけて良かった」。当時を振り返る2人の表情は誇らしげに見えた。とっさの場面で動くには思い切りが必要だ。そういう場面に居合
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社説(3月1日)ビキニ事件70年 今こそ核廃絶の決意を
南太平洋マーシャル諸島ビキニ環礁で1954年3月1日未明、米国の水爆実験が行われた。広範囲に放射性物質を含む降下物「死の灰」が降り、現地の島民だけでなく、付近で操業中だった日本の遠洋マグロ漁船も被ばくした。 焼津を出港した「第五福竜丸」の乗組員23人も死の灰を浴び、強い放射線を受けた場合に健康障害が起きる「急性放射線症」と診断された。半年後に無線長の久保山愛吉さん(当時40)が死亡。国内に大きな衝撃を与えた。 この「ビキニ事件」当時、冷戦状態の米国とソ連は核実験を頻繁に行った。ソ連崩壊とともに核戦争は遠のいたように見えたが、ウクライナを侵略したロシアは核兵器使用も示唆して威嚇。再び核の脅
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大自在(2月29日)ドタバタ劇
子どもの頃、毎週土曜夜の楽しみと言えば、テレビでザ・ドリフターズのお笑い番組「8時だョ!全員集合」を見ることだった。ドリフのメンバーや人気タレントが演じるコントに笑い、小学校では番組に登場したギャグがはやった。 1969~85年に放送され、関東地区では最高視聴率50・5%を記録するなど「お化け番組」と呼ばれた。内容が「低俗」だとして教育団体が放送中止を求めたこともあったが、影響はなかったという。 コントは最後に大かがりな舞台セットが崩れ落ちるなどしたため、無秩序なドタバタ喜劇だと思っていたが、実際は細部まで計算し尽くされ、稽古もしっかり行っていたことを後年、メンバーや番組関係者が語ってい
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社説(2月29日)静岡茶の活路 「和紅茶」に注目したい
茶の減産が止まらない。農林水産省作物統計によると、2023年の荒茶生産量は静岡など主産8府県で前年比3%減の6万8千トン(全国は推計7万5200トン)だった。コロナ禍の作業停滞や外出自粛による緑茶飲料の需要見通し減などで摘採見送りが増えた20年をも下回った。高度経済成長前の水準である。 本県の荒茶生産量は2万7200トン。鹿児島県は2万6100トンで、辛うじて首位を守った。ただ、一番茶が前年比13・7%減だったのに二番茶以降を合わせると4・8%減と、需給シフトが瞭然だ。 農家の高齢化や長引く茶価低迷で茶の生産基盤は弱体化に歯止めがかからない。茶業の“黄信号”に早く
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核心核論(2月29日)少子化対策法案 負担増の議論 正面から
2023年に生まれた外国人も含む赤ちゃんの数は過去最少の75万8631人になった。必要な対策が負担増を伴うなら、政府は早急にそう説明し、国民の協力を得なければならない。 政府は公的医療保険料と併せて徴収する「子ども・子育て支援金」の創設を柱とした少子化対策関連法案を国会に提出。児童手当や育児休業給付の拡充といった対策には、今後3年間に年最大3兆6千億円の追加財源が必要になる。ならば岸田文雄首相は、税制も含む負担増の議論に正面から応じるべきだ。 財源確保のため支援金を26年4月に創設し、28年度には1人当たり月平均500円弱、総額1兆円を徴収する。実際の負担額は加入する医療保険や経済的能力
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コラム窓辺 ちゃっきり節は、静岡茶業近代化の歌(中村羊一郎/静岡市歴史博物館長)
静岡県を代表する歌といえば「ちゃっきり節」。昔からの民謡と思われがちですが、じつは昭和2(1927)年に静岡電鉄が開設した遊園地のPRソングです。作詞を依頼された北原白秋は、次郎長や名所、伝説などをたっぷり盛り込み30番もの歌詞を作りました。繰り返される「きゃあるが啼[な]くんて雨づらよ」の「づら」は静岡方言の代名詞になりましたが、私は歌の題になっている「ちゃっきり、ちゃっきり」に、白秋のすごさを感じるのです。 新茶は時期が早いほど値が高いので、大勢で一気に摘み取らねばなりません。山の茶農家は平野部の娘さんたちに泊まり込みで来てもらい、足りない労働力を補いました。ところが、大正時代に入ると
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記者コラム「清流」 懐かしい光景
佐久間ダム(浜松市天竜区佐久間町)建設工事の殉職者96人の霊を慰める「竜神の舞」が、藤枝市で初めて披露された。水窪支局時代に取材したことを思い出す。始まりと同時に鳴り出す爆竹の音、白煙で演出される幻想的な雰囲気、お世話になった地元保存会の方々。どれも懐かしい光景だった。 生き生きと勇壮に舞う“竜神”を見つめていると、頭の中に佐久間ダムの景色が浮かんだ。爆竹の音で幼い子が驚いて泣き出すのもおなじみ。6年ぶりに保存会員と再会して会話し、変わらない顔つき、声、しぐさに自然と心が和んだ。 佐久間町をはじめ、浜松市天竜区は自分に中山間地域の魅力を教えてくれた思い出の土地。だ
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記者コラム「清流」 地方から地方へ
沼津市は先日、人気アニメ「ラブライブ!サンシャイン!!」のファンを対象に絞った移住相談会を“聖地”の淡島ホテルで開いた。驚いたのは、参加者の居住地。栃木県や福島県、遠くは島根県と地方からの希望者が多かったのだ。 県東部への「移住」というと、つい距離の近い東京や神奈川からを想定しがち。だが、よく考えれば、地方から地方への移住は、移住先に愛着さえあれば、むしろ東京からよりも生活様式を大きく変えずに済み、ハードルが低いのかもしれない。車が必要なのは変わらないし、職場の賃金や物価に大きな変化はない。私自身、発想の転換が必要だったと感じた。 相談会は、移住施策と関係ない部署
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記者コラム「清流」 学校がなくなっても
浜松市天竜区佐久間町の浦川小は2024年度末で閉校する。最盛期は約900人の児童が通っていた学校が、創立151年の歴史をもって幕を閉じる。少子高齢化が急速に進む北遠地域にとって、子どもが集まる学校の存在は大きく、取材で何度か訪れた私も寂しく感じる。 浦川小の児童は25年度から同町の佐久間小へ通う。通学バスの計画作成や行事の見直しなど、話し合いが必要な要素は多い。浦川小の学習発表会で披露する「浦川歌舞伎」や地域学習など、伝統文化の継承の在り方も議論が求められる。 両校は児童の合流を見据え、本年度から合同授業に取り組んでいる。子どもたちの仲は良く、授業も休み時間も笑顔を見せていた。学校がなく
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コラム窓辺 ごみの分別もちゃんとできない私が?(高森志文/アサヒユウアス社長)
今回、アサヒユウアスの社長としてご紹介いただいているが、実はもうひとつ、アサヒグループの国内事業におけるサステナビリティ推進部門の長を拝命している。3年前にこの分野への異動を命じられた時には、「ごみの分別もちゃんとできない私が大丈夫か?」と大いに戸惑った。 世間では“サステナビリティ”より“SDGs”の言葉の方が通りが良いかもしれないが、いずれにしろ、自然環境や人間社会が持続可能であるために、また企業としても持続可能であるために、事業活動そのものを環境や人権に配慮したものへ転換していく必要がある。その旗振り役といった役回り。 この分野は、次
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大自在(2月28日)水かけ菜漬け
転勤で各地を巡る楽しみの一つが、その土地ならではの味を知ること。記者の場合、取材する機会もあり、気候風土など背景にあるストーリーに触れるとなおさら親しみが増す。御殿場支局経験者としては、何といっても北駿の「早春の味」、水かけ菜漬けだ。 その水かけ菜漬けが岐路に立たされている。食品衛生法の改正で、漬物製造業が許可制となるためだ。経過措置期間は5月まで。6月以降も製造を続けるためには、専用の製造室を用意し、手洗い用と器具洗浄用に別々の洗い台を設ける必要がある。 水かけ菜は米の裏作で、米農家が農作業小屋の一角などで漬け込み作業をするケースが多い。個人製造業者にとっては、継続のためのコスト負担が
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特殊詐欺被害多い清水区 地域全体 危機感共有を【記者コラム 黒潮】
特殊詐欺被害発生件数で毎年県内ワーストを争っている清水署管内。その様相は今年も変わっていない。2023年まで過去3年間の被害件数は静岡県内ワースト1位、2位、2位と推移しており、今年は2月21日時点の被害件数が4件と県内ワースト2位だ。 県内では近年、特殊詐欺のうち還付金詐欺が増加傾向にある。同署管内でも、昨年速報値で36件あった特殊詐欺被害のうち、還付金詐欺は13件と、前年比4件増加した。今年もすでに2件の被害が発生し、関係機関が警戒を強める。区役所では「『還付金があるからATMに行って』と求めることはない」と強調し、「少しでも不審に感じたら、電話を切って区役所の代表電話にかけ直して」と
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記者コラム「清流」 「失敗」は繰り返される
「行政の失敗」。この言葉が以前から引っかかっていた。熱海市で2021年に起きた盛り土崩落に伴う土石流を巡り、県の対応を十分に検証しなかった第三者委員会が総括した文言だ。総括を受けて記者会見した当時の難波喬司副知事(現静岡市長)は「失敗」を認めたものの、法的な不作為はないと強調した。 第三者委の意図は不明だが、「失敗は成功のもと」とミスを正当化する際にも使われ、再発防止の意味が薄まる言葉の引用に違和感を持った。責任を問われない行政職員に緊張感は生まれず、盛り土災害の「失敗」は繰り返されている。 責任を全面的に認めた心からの謝罪には、遺族や被災者のストレスを和らげる効果もある。法的責任を認め
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社説(2月28日)成年後見制度 利用者本位の改善急げ
認知症や知的障害などで判断能力が十分でない人の権利を代理人が保護する「成年後見制度」の見直しについて、小泉龍司法相が法制審議会に諮問した。制度に対しては高齢化の進行でニーズの増加や多様化が見込まれる一方、一度後見人が決まると終了や交代が難しいなど、使い勝手がよくないとの指摘がある。利用者本位の改善が急務だ。 政府は法制審での議論を踏まえ、後見人の期間制導入など柔軟な運用を可能にするため、2026年度までに民法など関係法令の改正を目指す。制度が00年に始まって以来、初の大幅な改正だ。本人の意向を尊重しながら暮らしを後押しするという制度の趣旨を踏まえた上での利用促進に知恵を絞りたい。 制度は
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【時評】能登で生じた地震隆起 かつて県内も 対策柔軟に(小山真人/静岡大未来社会デザイン機構教授)
ことし元日の能登半島地震に伴って4メートルに達する大地の隆起が生じたため、いくつかの港が使用不能になった。一般に、地震の原因となる地下の震源断層が上下に食い違う時、はね上がった側の広い範囲に隆起が生じることがある。 地震隆起とそれに伴う港の被害は、かつて静岡県内でも生じてきた。有名な例としては、巴川の河口付近にあった当時の清水港が1854年安政東海地震で隆起したため、水深や水路幅が減少する被害を受けたことが絵図や文書に書き残されている。こうした港の被害は清水付近にとどまらず、駿河湾奥から御前崎を経て浜松付近にも及んだ。 これを教訓として県は南海トラフ地震に伴う隆起がもたらす港湾施設や海上
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記者コラム「清流」 同じ悲劇はもう二度と
わが子が理不尽に殺害され、突然、目の前から居なくなる現実を受け入れられるだろうか。普通であれば向き合うことさえ難しい。そんな状況下で、全国各地で150回以上も講演活動を続ける人に出会った。 2001年、大阪教育大付属池田小で起きた無差別殺傷事件の被害者遺族、本郷紀宏さん(59)の講演会を取材した。当時7歳の長女優希さんが教室で犯人に刃物で刺され、助けを求めて廊下を39メートルも歩き、絶命した事実を知った。 講演後、つらく、悲しい過去をなぜ語れるのか本郷さんに尋ねた。「娘が懸命に生きた証しを残したい。同じ思いを誰かにさせたくない」。本郷さんの真っすぐなまなざしと思いに強く共感した。二度と同
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記者コラム「清流」 未来の災害に備えて
「あなたが住んでいる場所は海抜何メートルですか?」。東日本大震災の教訓を伝える「語り部」の男性の問いに、恥ずかしながら答えられなかった。南海トラフ巨大地震が想定される地域に住むのに、「海から遠いから大丈夫」とどこか人ごとだったことを猛省した。 発災当時は中学生。それから13年を前に、初めて被災地を訪れた。宮城県の大川小で見た、天井が剝がれ落ちた教室や支柱ごと倒壊した渡り廊下―。数字で表れる津波の高さ以上の怖さを肌で感じ、失われたものの大きさや命の尊さについて改めて考えさせられた。 3・11の教訓を未来の災害に備える知識に変えて、一人一人に自分事として捉えてもらえるような報道が必要だと感じ
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コラム窓辺 身近にある豊かさ(水野裕央/日本銀行静岡支店長)
先日、7月より静岡で劇団四季のミュージカル「キャッツ」の公演が決定という報道があり、私も劇団四季の公演によく足を運んでいたため目に留まった。 静岡では、静岡県舞台芸術センター(SPAC)の公演を鑑賞させていただいた。静岡に専用の劇場を持ち、国内外で公演を行っている劇団があるのを初めて知った。興味津々で劇場に行ってみると圧巻だった。「ばらの騎士」という喜劇を鑑賞したが、舞台装置と光と音楽が織りなす空間にあっという間にひき込まれた。 焦点が絞られるドラマや映画と異なり、演劇では観客の目の前に制作者の創造空間全体が広がり、俳優のせりふ、表情と動きが光と音を伴って重層的に観客の視覚と聴覚に押し寄
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大自在(2月27日)半導体
このところ、半導体絡みのニュースが飛び交っている。日経平均株価が最高値を更新した背景の一つには人工知能(AI)ブームがあり、その引き金は米半導体エヌビディアの好決算だといわれる。日本でも半導体関連銘柄が相場上昇を主導した。 ノート以外のパソコンは自ら組み立ててきたので、画像処理を担う基幹部品のグラフィックボード(ビデオカード)を通して以前からエヌビディア製品を使ってきた。中核となるGPU(画像処理装置)がエヌビディア製半導体だ。 パソコンの頭脳は幅広い処理を行うCPU(中央演算処理装置)だが、画像処理のように特定の大量データを扱う場合はGPUが優れているという。そこでAIに結びつく。AI
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記者コラム「清流」 現金払いで「負担」実感
よく行く食品スーパーで突然、電子決済ができなくなった。どうもクレジットカードに「エラー」があるらしい。慌ててカード会社の窓口に電話をかけた。 調べてもらうと、要は自分の不手際と分かった。銀行口座の残高不足が原因で、カードが一時的に使えなくなっていたのだった。 しばらくは現金で支払うことにした。すると、財布の中身が見る見る減っていく。電子マネーの便利さに知らぬ間に慣れきって、「お金を使う」感覚が薄れていたと思い知った。 昨年の値上げラッシュに続き、物価高は現在進行形だ。静岡市内の店でも、以前に比べ値札がはっきり変わった商品が少なくない。実入りが増えないまま対抗するには、まずは財布のひもを
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社説(2月27日)力士の暴力根絶 より強い危機感必要だ
大相撲の世界でまた暴力問題が発覚した。幕内の北青鵬が1年以上にわたって後輩力士2人に暴力を振るっていたとして日本相撲協会は師匠の宮城野親方(元横綱白鵬)に監督義務違反などで2階級降格と減俸の処分を言い渡した。北青鵬は引退した。 史上最多の優勝45回を誇る元大横綱の部屋で将来を嘱望されていた大器が起こした不祥事だけに、落胆したファンは少なくない。日本相撲協会が2018年に「いかなる暴力も許さない」と暴力決別宣言し、厳罰化を図った後も、暴力行為は何度も明るみに出ていた。暴力体質は根深いと言わざるを得ない。 相撲部屋の兄弟子が弟弟子へ暴力を働いているケースがほとんど。立場を利用したパワーハラス
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【時評】地域の持続性支えるには 防災に産業保護の視点を(佐藤洋一郎/ふじのくに地球環境史ミュージアム館長)
元日の能登半島地震は、地震そのものの規模も大きかったが、復興の遅れによる人災の色も濃い。半島先端部では、発災から2カ月近くがたとうとしているのに水道は止まったままのところが多い。それなのに、震災関連の報道は次第に減り続け、能登のことはもう過去の出来事であるかのようだ。 暮らしの再建もままならない中、これからは産業、生業[なりわい]の再建が問題になってくる。能登といえば日本でも有数の伝統農業が盛んな地域である。「あえのこと」は能登伝統の食材や暮らしを今に伝える貴重な冬の農耕行事である。日本有数の漁場を持ち、清酒のほか、いしる、いしりなどの魚醬[ぎょしょう]の産地でもある。砂糖以前の甘味であっ
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記者コラム「清流」 ヘルメットに気軽さを
年始の実家で80代の祖母と母が口論になった。自転車で転倒し骨折した過去があり、乗せたくない母と、まだ乗りたい祖母の主張は折り合わなかった。ヘルメットも話題になったが、祖母は拒んだ。理由は「ダサいから」。一理ある。スポーティーな見た目は、ゆっくりと走るママチャリ高齢者に似合わない。 各自治体が購入補助金を始めているが、わが家は価格以上にかぶろうと思える理由と契機がほしい。2月上旬に行われた富士宮駅伝で、警察官チームがヘルメットをかぶって走り、沿道の注目を集めた。着用は努力義務だと堅く広報するよりも、親近感を抱いた観客は多かっただろう。 調べれば、帽子のようなかわいらしい仕様の商品も売ってい
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記者コラム「清流」 新施設 地元発信に期待
サッカーJリーグ開幕を控えた2月中旬、各地で新スタジアムがお披露目された。J1サンフレッチェ広島の本拠地となるエディオンピースウイング広島と、J3ツエーゲン金沢の金沢ゴーゴーカレースタジアムは市街地に近く、鉄道駅からも徒歩圏内。観客席とピッチが近く「いつか行きたい」と思った。 浜松市に目を向ければ、県が遠州灘海浜公園篠原地区(浜松市中央区)に整備する新野球場や、老朽化が進む四ツ池公園運動施設(同区)の同市の再整備について、さまざまな意見が飛び交ったままだ。 利便性や規模感などすべてを満たす施設の建設は限られた予算内では困難だとしても、例えば充実した音響設備や、光技術による最先端設備など、
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コラム窓辺 歌い継ぐ「浮島のうた」(白井貴子/シンガー・ソングライター)
2012年、沼津市立浮島中学校の「浮島のうた」の作曲を担当しました。静岡市出身の歌人田中章義さんによる授業で子どもたちが詠んだ短歌を田中さんが編集した詩に、メロディーを付けました。 湧き水が豊かにあふれる浮島の 空を仰げばツバメ飛び 大地を見れば富士が在り ナヨナヨワスレナグサ咲き サワトラノオの花ひらく 学校周辺は名前の通り水辺の動植物の宝庫で、種の保全のために歌い継ぐことも大きな目的でした。歌が今どうなっているのかと思っていたところ、先日、田中さんより「歌い続けてくれているようです」と連絡をいただきました。なんとうれしいことでしょう! メロディーが生まれるまで何度も学校
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大自在(2月26日)宇宙開発の進展
宇宙航空研究開発機構(JAXA)が、1度は失敗した国産新型ロケット「H3」の打ち上げに成功したと思ったら、今度は米国の民間企業の着陸船が月面に着陸した。民間企業で初だという。 先月には、JAXAの探査機「S[ス]LI[リ]M[ム]」が初めて月面に着陸。どの事業の成功も科学の発展にとって喜ばしいことだが、最近の宇宙開発の進展はなんだかめまぐるしい。 かつては米国と旧ソ連が宇宙開発にしのぎを削った。今は主役が国家から民間へと移りつつあるという。宇宙産業の市場規模は現状でも数十兆円、2040年には100兆円規模、試算によっては数百兆円にも膨らむとされる。民間参入が相次ぐのも無理からぬことだ。
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社説(2月26日)沼津の新観光戦略 人気アニメに依存せず
人気アニメ「ラブライブ!サンシャイン!!」の舞台として知られ、海外からもファンが訪れる沼津市で今月、同アニメに関連した二つの施設が閉業した。ここ数年、沼津の観光はアニメ人気に頼ってきたが、「アニメ一辺倒」の観光は需要の先細りが懸念される。このため市は2024年度、新たな観光客誘致の軸にインバウンド(訪日客)を据える方針だ。観光戦略を練り直し、訪日客に魅力をアピールできる地域資源の掘り起こしが欠かせない。 同市の観光客数は17年度に旧戸田村との合併後最多の462万人に達し、宿泊客数も過去最高の87万人を記録した。アニメファンが多い三の浦観光案内所には8万4千人が訪れてピークとなった。しかし、
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時論(2月25日)茶行政も「イノベーション」を
静岡県議会2月定例会に上程された2024年度予算案の茶関連事業に、物足りなさを禁じ得ない。生産も流通も日本一の「茶の都」の持続化は難題だが、突破に挑む主体性と気概が伝わってこない。 新味がないのである。主要事業として、浜松市が会場になる第78回全国お茶まつり、25年度開催の第9回世界お茶まつりが挙げられた。「情報発信」「消費拡大」の必要性に異論はない。だがいったい、いつから使われてきた言葉か。こう書く側も、大規模イベントのたびに「一過性に終わらせるな」と常とう句を繰り返してきたが。 この30年ほどで県内茶園は半減し、茶農家は4万戸から6千戸に。リーフ茶の価格低迷から製茶出荷額も500億円
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社説(2月25日)「教育に新聞を」 表現力を伸ばす教材に
静岡県NIE(教育に新聞を)推進協議会の2023年度実践報告会が静岡市内で開かれ、小中学校、特別支援学校の実践指定6校が2年間の取り組みを紹介して成果と課題を発表した。 各校の報告では、新聞を「読む」「書く」の教材として用いるだけでなく、児童生徒の「表現する力」を伸ばすためのツールとして活用した事例が相次いだ。学習指導要領が提唱する「主体的・対話的で深い学び」「アクティブラーニング」に資する存在として、NIEが存在感を高めている様子がうかがえた。指定校の先駆的な試みが、他校にも広がってほしい。 静岡市立清水飯田中では、昼の校内放送で当日の新聞記事を紹介し、読者欄への投稿にも取り組んだ。投
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大自在(2月25日)ウクライナ侵攻2年
フィリピンで独裁体制を敷いていたマルコス大統領を、暗殺された野党指導者ベニグノ・アキノ元上院議員の妻コラソン・アキノ氏が選挙で破り、新大統領に就任したのは1986年のきょう2月25日のこと。 マルコス氏は冷戦下で反共産主義を打ち出して米国との関係を深め、経済振興に尽力したが、次第に独裁色を強めた。83年の元上院議員の暗殺が反マルコス運動に火を付け、国民や海外からの批判をかわそうと実施した大統領選での不正で軍の造反を招くなどして、国外脱出に追い込まれた。 当時は不正蓄財や豪勢な生活ぶりが盛んに報じられただけに、2022年にマルコス氏の長男が大統領に就任した際は時の流れを感じずにはいられなか
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大自在(2月24日)あれから34年
日本最初の元号は「大化」。645年の大化改新でなじみがある。大宝律令の「大宝」(701~703年)以降は切れ目なく元号が使われている。 きのうの本紙1面は平成が始まった1989年に関係するニュースを2本報じた。東証株価がこの年の年末に付けた最高値を更新。もう一つは、この年1月に静岡地裁で再審無罪判決を受けた「島田事件」の赤堀政夫さんの訃報。94歳。 明治以後は天皇代替わりで改元されるが、それまでは大地震や飢饉[ききん]といった凶事、吉兆などさまざまな理由で改められた。平成元年は消費税がスタート。リクルート事件で政治不信が高まり竹下内閣総辞職、参院選で与野党議席逆転。海外では天安門事件、ベ
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社説(2月24日)苦境のウクライナ 支援継続へ連帯強化を
ロシアがウクライナへの侵略戦争を開始してから24日で2年となる。戦線は膠着[こうちゃく]気味だとはいえ、兵力と装備で勝るロシア軍が攻勢を続ける。米欧諸国の軍事支援が先細り状態のウクライナ軍はじりじりと押されている印象だ。 ロシアは侵略したウクライナ東部と南部の4州併合を一方的に宣言し、さらに拡大しようとしている。ロシアが領土の強奪を諦めない限り、戦争の終わりは見えない。それまではウクライナを支援する必要がある。野蛮な侵略行為を容認してはならない。 一方で大統領選を控えた米国では野党共和党の反対で支援が滞る。NATO(北大西洋条約機構)加盟国もまだら模様だ。もともとロシアと国境を接する東欧
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コラム窓辺 冒険(ベンチャー)のご褒美(杉原行洋/ハヤテグループ代表)
新しい冒険をしたからこその気付き・学び・出会い。これこそが冒険に対するご褒美だと日々感じます。これは野球に限ったお話ではありません。 静岡を代表する経営者の個室には数千冊の書籍が詰め込まれていました。なお止めぬ学びと歩み。本の虫を自認していた自身の読書量が落ちていることを恥じました。日本舞踊の先生から「ベースボールと野球の違いは」や「野球の中にも野球道はあるか」など、日本人として考えさせられる一言をいただきました。 人生の大先輩からは「言志四録」と「第九」のCDをいただきました。言志四録は西郷隆盛公が生涯の座右の書にしたという金言録です。66年ぶりの無謀な挑戦を掲げる中で、見るに見かねて
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大自在(2月23日)吉田のうどん
かめばかむほど味の出るコシの強い麺。具材はゆでキャベツに馬肉。みそとしょうゆの合わせつゆが引き立てる。これまで食べてきたうどんとの違いに驚いた。山梨県富士吉田市の名物、「吉田のうどん」である。 店を選ぼうと地図を広げた。ふじよしだ観光振興サービスが作成した「吉田のうどんマップ」。同市内49店舗の所在地を示しているが、妙な違和感がある。南が上で、北が下になっていた。見慣れている地図とは逆さまだ。説明書きには「理由は簡単、富士吉田のシンボル、富士山が基準になっているからです」。富士山を下にはできない、ということらしい。 南北をひっくり返した「逆さ地図」に、富山県が発行する環日本海・東アジア諸
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記者コラム「清流」 夜間中学の「学び」
静岡市の元教員が運営する民間の自主夜間中学「しずおか自主夜間教室」に10歳の娘がお世話になっている。子どもからお年寄りまで利用者とスタッフがいて、毎回交流している。 記事は夜間中学を「学び直しの場」と表すことが多いけれど、実際利用者になると活動は多彩。教える、教わるという間柄よりも対等で、まさに「社会教育の場」。娘も帰り道「お姉さんが高校の内申点のことを教えてくれた」「おばさんと百人一首をやる約束をした」などと報告する。何の問題を解いたかより、丁寧に接してもらったことの方が印象に残っているのだ。 勉強する場所は各所にあるけれど、優しいまなざしや尊重する姿勢など人生に欠かせない「学び」を授
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記者コラム「清流」 楽しみな今後の「決断」
取材中に何度か出てきた「決断」という言葉が強く印象に残った。昨季限りの現役引退を表明したサッカー元日本代表FW高原直泰さん(44)が地元の三島市役所に来た時のこと。言葉の裏に、強い覚悟や信念を持ち夢を実現してきた自負があると感じたからだ。 学生時代から第一線で戦い、数々の輝かしい実績を残してきた高原さん。現役時代の思い出を記者団に尋ねられた際「子どもの時から描いてきたことをかなえられたのが一番」と総括した。 自ら創設した沖縄SVの経営や沖縄の地域活性化、コーヒー栽培への思い。今後の取り組みを語る姿は生き生きとしていた。取材の最後に高原さんは「これからの高原も楽しみにしてほしい」と締めた。
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記者コラム「清流」 「迅速な開票」責任感を
森町長選の開票結果発表は町選挙管理委員会の想定より約40分遅れ、開票開始から2時間超を要した。選管事務局は「念入りに確認した結果」と説明した。 正確性は大前提だが、公職選挙法では、「迅速な開票」が求められている。開票当日、最終確認を待つ票の束が目の前で滞る状況で書記長と選挙長が談笑する場面があった。とうに目標時間は過ぎていた。候補者や有権者にできる限り早く結果を伝えようという責任感を持って作業していただろうか。開票現場に居合わせていた者から見れば、緊張感が欠けていたと受け取らざるを得ない。 8年前の町長選は三つどもえの激戦だったが、約1時間20分で開票を終えている。目標時刻を遅らせるなど
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社説(2月23日)政倫審開催へ 公開の場で説明責任を
自民党派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件の実態解明のため、野党が求めた衆院政治倫理審査会が開催される見通しだ。野党は派閥から資金還流を受けた衆院議員51人の出席を求めたが、自民は各議員に判断を任せ、与野党間の駆け引きが続いていた。安倍派座長を務めた塩谷立元文部科学相(衆院比例東海)ら同派幹部4人と二階派事務総長の武田良太元総務相が政倫審の開催を申し出たため、自民、立憲民主両党が28、29日の開催で大筋合意した。 自民は政治資金収支報告書への不記載があった91人に聞き取り調査を行い、結果を公表した。違法な使途はなかったと結論づけたが、回答は匿名の上、使途は項目のみで証拠が示されていないな
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コラム窓辺 島で出会った美しい言葉としぐさ(中村羊一郎/静岡市歴史博物館長)
大学の4年間、ワンダーフォーゲル部に属していました。通称ワンゲルは、渡り鳥になぞらえたドイツの青少年活動が始まりです。そんな、さすらいの旅にあこがれたのです。当時は、知らない土地の知らない家でも「東京から来た学生です」の一言で、土間などに泊めてもらえました。 佐渡島に渡った時です。通りすがりの女の子が、花を見つけて「美しい」と言ったので、びっくりしました。口語ではほとんど聞かれない雅[みやび]な言葉が、子どもの日常会話にでてくるのです。 鹿児島県の与論島。今はリゾート地として人気ですが、あの頃はまだ連絡船が着岸できる港がなくて、夜中に本船からはしけに飛び移って上陸しました。とりあえず真っ
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大自在(2月22日)自動運転車
運転席に人はいないがハンドルは左右に回った。急加速や急ブレーキはなく、危険性は感じない。出張先の米国・サンフランシスコで先月、自動運転タクシーに乗る経験に恵まれた。 米国に駐在する同僚社員の計らいだった。スマートフォンのアプリで配車を予約。市内中心部で待っていると、目の前に無人の車が止まった。ボディー前部左右や屋根にはいくつものセンサーやカメラ。スマホの操作でドアロックを解除して乗り込むと、滑らかに走り出した。 設定した目的地までの所要時間が映し出されたモニターに加え、車両周辺を行き交う歩行者、車両を察知していることを示す画像も確認できた。片側2車線の道路で途中、路線バスが停留所から走り
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記者コラム「清流」 カモシカ保護 思い複雑
15日朝、島田市の市街地でニホンカモシカが出没した。急いで駆けつけると、島田商高のすぐ横にある解体工事現場に人だかりができていた。視線の先には、がれきの上で悠然とたたずむカモシカの姿があった。 なぜ、こんな場所に。島田駅の北東約1.4キロの市中心部。異様さが際立った。キョロキョロと周囲を見渡し、じっとその場を動かずにいたが、突然歩き出して市街地に移動すると、1時間半の逃走劇の末に島田署員らに保護された。 川根本町の猟師殿岡邦吉さんは「カモシカの数が増えていると猟師の間で話題になっている。国の天然記念物で、捕獲できないのが原因」と話す。シカやイノシシと同様に農作物被害も見られるという。今回
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記者コラム「清流」 可能性広げる部活動に
裾野市で中学校の部活動指導を地元のスポーツや文化団体に委ねる「地域移行」の実証が始まった。急速な少子化を受け、既に複数の学校で単独での活動が難しくなっているという。 部活動のあり方は人口減や過疎化に直面する多くの自治体の共通課題だ。小規模校では選択肢が限られ、「希望する部活がない」との声が絶えない。伊豆半島の支局勤務時代、個人種目で大会に出場できる運動部しかないため、一部の生徒は部活動に事実上、参加していない実例も目にした。 運動の苦手な生徒も楽器を吹いたり、絵を描いたりできる環境があれば、将来の可能性が広がるのではないか。地域移行の大きな目的に部活動の選択肢確保がある。すべての要望に沿
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記者コラム「清流」 故郷の味は働く源
スズキがインド人従業員の働く環境を整えるため、浜松市内の飲食企業と組んで社食で本格的なインドベジタリアン(菜食主義者)メニューの提供を始めた。アッサム州出身の20代の男性社員は、従来はメニューによっては肉を取り除いてもらったといい、故郷に近い味に表情を緩めていた。 外国出身社員にとって、自国に準ずる食の充実は心強いだろう。約40年前にインドに進出した高い経験値を持ち、海外出身の人材活用を進めるスズキならではの気づきが込められている。一連の開発メニューは冷凍パックで全国に発送でき、外国人を採用する全国企業への“横展開”を狙う。 IT分野などインドの高度人材は世界的に
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社説(2月22日)ウクライナ復興 日本は息の長い支援を
ロシアによる侵攻開始から間もなく2年。ウクライナでは依然として激しい戦闘が続く中、官民一体で復旧や復興への支援策を話し合う「日ウクライナ経済復興推進会議」が東京都内で開かれた。 力による一方的な現状変更を許容しないという立場で日本は、自由と独立を守るために戦うウクライナを支援してきた。しかし、柱となるのは財政支援などで、日本は米欧諸国のように武器弾薬の供与を行うことはできない。 戦争をしている以上、戦うための武器弾薬は不可欠だ。一方で財政や経済が破綻しても国家を保てない。武器弾薬は供与しなくとも経済社会活動の維持を図る民生支援の必要性がある。岸田文雄首相が会議で表明したように、そこに「日
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コラム窓辺 戦略より戦闘(高森志文/アサヒユウアス社長)
このままでは地球が2個必要になる、と今や小学生でも知っているSDGs(持続可能な開発目標)。環境問題や社会問題は国が解決する、という時代は終わり、地方自治体も企業も学校も住民もみんなで取り組みましょう、どうせ何かするなら商機にして経済成長や地方活性化につなげましょう、というのが時流。 アサヒユウアスは2022年1月にアサヒグループの社内ベンチャー的な会社として発足した。「スーパードライ生ジョッキ缶」を開発した古原徹から、次はSDGsの分野でビジネスをやりたいと相談を受けたのがきっかけだ。ビールのイベントで山のようになったプラスチック製の透明カップのごみを見て、容器開発者として何とかしたいと
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大自在(2月21日)ウオーカブル
日本三大だるま市と称される富士市の毘沙門天[びしゃもんてん]妙法寺の大祭に出かけた。沿道の露店から漂う香ばしい匂いや豆菓子を売る人たちの呼び込みに五感が刺激され、気持ちが浮き立つ。縁日の楽しさは歩いてこそ。 散歩、散策、ウオーキングのブームが続く。健康維持の効果が広まり、歩くことに着目したサービスが増えた。ポイントを集めて活用する「ポイ活」のウオーキング版アプリも登場し、電子マネーと交換できたりする。 「JR静岡駅前を人が中心となるウオーカブルな空間に整備」。静岡市が先日発表した新年度予算案にこんな記述を見つけた。静岡駅北口前の国道1号の地上横断を調査検討、とある。ウオーカブルとは「wa
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記者コラム「清流」 “戦場”での心遣い
「囲み」や「ぶら下がり」と呼ばれるインタビュー取材では、対象を追い、立ち位置を争うカメラマンや記者で戦場と化す。この1年、何かと騒動の多い静岡県庁での取材で先日、久々にすてきな光景を目にした。 リニア中央新幹線問題を巡る国土交通省鉄道局長と知事の面会は、予定より30分余り延び、待機する取材陣の雰囲気は殺伐とした。 取材陣の後方で、大きなおなかを抱えて待つ女性記者に、県職員がさりげなく丸椅子を差し出した。記者は助かったという表情で座って発言に耳を傾け、終了後に職員に頭を下げた。 会見での知事と記者の激しい応酬は時に対立に映る。ただ、県民に情報を届ける共同作業の側面もある。県に懐疑的な思い
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記者コラム「清流」 中学生は立派な市民
中学生たちに謝りたい。記者は中学時代、地域との関わりが薄く、学校という範囲内で小さくまとまっていた。自身の経験から「中学生はまだまだ子ども。社会を動かすには早い」と心のどこかで思っていた。最近、この意識が覆された。 御殿場市などの中学生によるJR御殿場駅前の活性化案の発表会では、商業ビル内に若者が集うカフェを設ける案が披露され、ニーズや客を呼び込む仕組み、もうけ方まで計画が練られていた。「理想と実現性をてんびんにかけた」とのコメントに驚いた。御殿場中の生徒が地元の魅力をまとめた動画を見て、御殿場のPR分野でも十分に活躍できる能力があると感じた。 ある中学校長の「中学生を市政にどう参画させ
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製造業 国内回帰の動き 日本製品 評価再浮上を【西部 記者コラム 風紋】
楽器メーカーのヤマハ(浜松市中央区)が、国内のものづくり基盤を強化する。連結子会社で楽器・音響機器製造のヤマハミュージックマニュファクチュアリング(YMMJ、磐田市)を吸収合併すると、昨年末に発表(効力発生日は4月1日)した。 ヤマハはこれまでの生産戦略として、コストや効率面で有利な海外工場への工程移管を積極的に進めてきた。しかし、技術・技能の分散や継承、市場変化への対応などに課題が出ていたほか、海外労務費の上昇や長引く円安なども重なり、国内回帰に方向転換した。中田卓也社長(4月1日付で取締役会長に就任)は「国内機能の強化につなげたい」と強調し、開発と生産現場の連携が同社の発展につながると
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【時評】被災地における選挙の実施 投票権担保に準備必要(河村和徳/東北大大学院情報科学研究科准教授)
2024年1月1日に令和6年能登半島地震が発生し、続く余震の中、避難所生活を余儀なくされている方は数多くいる。そうした状況がある一方、東京のほうからは、4月の統一補欠選挙の状況次第で岸田文雄首相は解散をするのではないか、という話も聞こえてくる。 能登半島地震の被災者が仮設住宅(みなし住宅を含む)に入居できない状況下で解散総選挙の話をするのは被災者に寄り添う話ではないし、被災地で公正な選挙を実施するにはそれなりの条件が整っている必要がある。 被災地で公正な選挙を行うには、選挙管理委員会が選挙管理できる環境が整っていることと、投票弱者となった被災者に寄り添った投票環境がそろっている必要がある
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社説(2月21日)政治資金と連座制 首相は導入を決断せよ
自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受け、政治団体の会計責任者が政治資金規正法違反で有罪になると議員も連帯責任を負う「連座制」の導入を巡り、国会で議論が交わされている。野党だけでなく与党の公明党も連座制の導入を訴える。自民党内からも賛同する声が上がる。岸田文雄首相は今国会で規正法改正を実現すると明言したものの、連座制導入には慎重な姿勢を崩していない。 自民党の調査によると、2022年までの5年間で政治資金収支報告書に不記載があった国会議員らは91人で、裏金と指摘されるパーティー券売り上げの資金還流を認識していた議員は32人に上る。国民の政治への不信感は過去になく高まっている。 再発防
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記者コラム「清流」 試されている本気度
御前崎市が財政状況悪化に対応するため、4年間で約12億4000万円の財源確保策を示した。不測の事態に備えて積み立てていた財政調整基金残高は、この8年間で急速に減少した。安定した財政運営を取り戻すことが急務になっている。 ただ、財源確保の実行は容易でない。歳出削減案は市民プールの民営化や総合病院の経営改革など大がかりな事業ばかり。歳入増加策の柱には、ふるさと納税額を27年度までに23年度比4倍の2億円に伸ばす目標を据えた。何よりも市民の理解と協力が欠かせない。 ふるさと納税を増やすには、市の発信力強化が必要だ。まずはトップの市長が取り組む姿勢を明示し、日本各地を回って市の特産品をPRすべき
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大自在(2月20日)ニクソン米大統領
米中が第2次大戦後の対立関係から和解へと転じる契機となったのは、1972年2月21日のニクソン米大統領による中国訪問だった。あすで52年になる。 前年7月に米大統領として初の訪中が電撃的に発表された。日本の頭越しに極秘裏の交渉が進められ、日本政府は発表に大きな衝撃を受けたとされる。ちょうど1カ月後に発表された米ドルと金の兌換[だかん]の一時停止とともに「ニクソン・ショック」と呼ばれる。 当時、中国は共産主義運動の路線や国境紛争を巡ってソ連との対立を深めていて、米国側もベトナム戦争の泥沼化で対中政策の見直しを迫られていた。ニクソン氏がウォーターゲート事件で辞任した後も両国の和解方針は維持さ
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社説(2月20日)H3打ち上げ成功 信頼性と経済性 向上を
宇宙航空研究開発機構(JAXA)が種子島宇宙センター(鹿児島県)から打ち上げた国産新型ロケット「H3」2号機は、計画通り飛行して目標軌道に乗り、性能確認用の模擬衛星と小型衛星2機の分離も確認された。 H3は昨年3月、1号機が打ち上げられたが、2段目エンジンに着火できずに失敗した。約1年をかけ、失敗要因とみられる着火装置とその周辺を見直して再挑戦にこぎつけた。まずは初のH3打ち上げ成功を喜びたい。 しかし、2号機はまだ試験機に過ぎない。ようやくスタートラインに立つことができたといえよう。衛星打ち上げを巡る国際競争が激しくなる中、停滞するわけにはいかない。今回の飛行データを詳細に分析し、改善
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核心核論(2月20日)ナワリヌイ氏急死 民主化の闘い諦めるな
ロシアのプーチン大統領の独裁と腐敗・汚職を批判し、でっち上げの長期刑を受け投獄されていた政治犯アレクセイ・ナワリヌイ氏が獄中で急死した。プーチン体制による「政治的殺害」にほかならない。 ロシアの民主勢力にとり大打撃だ。ナワリヌイ氏が目指した「プーチンなき将来の素晴らしいロシア」への道のりは長く遠い。ロシアの人々は民主化の闘いを諦めないでほしい。 ロシアの最高実力者として24年も君臨するプーチン氏にとり、「反プーチン」の象徴だった最大の政敵ナワリヌイ氏の死で、事実上ライバルはいなくなった。プーチン氏は3月の大統領選で“圧勝”を演出し、続投の正統性を強調するだろう。
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コラム窓辺 地域愛と挑戦が生む輪(水野裕央/日本銀行静岡支店長)
山梨県のラジオ局FM FUJIで「しずおか日和」という番組がある。かつて静岡のラジオ局のアナウンサーだった東城佑香さんが、グルメ、イベント、歴史などの静岡県の魅力を毎週紹介している。他県の魅力を発信する懐の深さを感じる番組だ。東城さんの静岡の魅力を伝える時の高揚感のある声から、お世話になった静岡への愛があふれている。 私も日頃、静岡の魅力発信に努めているが、本日は、3年間お世話になった山梨への愛から、過去の経営危機を乗り越え地域に愛されるサッカーJ2ヴァンフォーレ甲府の挑戦の物語をお伝えしたい。今季の選手の移籍では、静岡のチームともゆかりが深い。 彼らは、天皇杯を制し、ホームスタジアムが
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【時評】能登半島地震 自分事に 防災対策 実効性担保を(岩田孝仁/静岡大防災総合センター特任教授)
まさに災害は時を選ばず起きる。元日に発生した能登半島地震では多くの建物が倒壊し、斜面崩落、直後に襲来した津波、延焼火災などで多くの犠牲者を出した。寒さ厳しい中、地域を結ぶ道路網、電気、水道、通信など生活を支えるライフラインも各所で途絶え、情報や交通が遮断された孤立集落が多数発生し、救助活動も困難を極めた。とりわけ高齢化と人口減少が進む地域を襲ったため、その後の避難生活も大変な苦労を伴っていることが日々の報道から伝わってくる。 今回の震災を契機に自治体など多くの機関で防災体制の再チェックの動きがある。その時、ぜひ取り組んでいただきたい重要な要素が二つある。 一つは「性能の表示」である。構造
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記者コラム「清流」 「○○離れ」仲間
「昭和の中頃までは手道具を持ってお客さんの家に行くスタイルだったんです」とある畳職人は言う。 朝から夕方まで家の中で張り替えや修繕をするから、学校から帰ってきた子どもは興味深そうに様子をのぞき込む。ところが機械化が進むと畳を工場に持ち帰って作業をするのが定着し、子どもの目につかなくなった―とのこと。「手仕事が畳屋としての誇り」と話すその方は小学校の社会科見学を積極的に受け入れたり、コンテストに出たりして、職人技の向上と認知度拡大に努めている。 畳離れの背景は生活様式や住宅の変化にあると思っていたが、そうした外的要因に悲観的にならず、自分にできることに前向きに取り組む姿は印象的だった。「○
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記者コラム「清流」 教壇に立って
2月上旬、沼津市内の中学校で職業講話をした。学生のころは講師として教壇に立つことなど考えていなかった。教える側として立ったわけだが、終わってみると、記者の方が得るものが大きかったと思う。 記者の経歴や仕事内容、やりがいをスライドにまとめた。飽きないよう、途中で質問を受け付け、クイズやペア活動を混ぜた。 徳島が故郷の記者は大学進学を機に静岡に来た。教育学部で、教育実習をしていたころは先生になる気満々だった。実際、小学校から高校までの教員免許をそれぞれ取得している。 「なんで記者に?」。多くの生徒から尋ねられた。答えるうちに、大切にしないといけない、芯のようなものを思い出すことができた。「
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記者コラム「清流」 音楽で癒やす病院
中東遠総合医療センターで開かれたコンサートが素晴らしかった。奏者の真心がまっすぐ伝わる演奏で、心に響いた。500床の基幹病院とは思えない家庭的な雰囲気も良かった。大勢の病院利用者と一緒に耳を傾けて拍手を送り、不思議な一体感を味わった。 出演したのは医師や事務職員、入院中のがん患者ら。希望に満ちた旋律や力強い歌声に目頭を押さえていた聴衆は多く、人を癒やす手段が医療だけではないことを思い知った。病院の存在は地域の誇りだ。 だからこそ、昨夏の医師逮捕の不祥事を残念に思う。ドクターカー導入などの取材で院長に話を聞くたび、強い使命感と将来を直視した改革意欲に感銘を受けてきた。不祥事はさらなる飛躍を
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大自在(2月19日)双頭の鷲
ロシアの紋章である金色の「双頭の鷲」は、王笏[おうしゃく]と宝珠をつかんでいる。王笏とは装飾されたつえで、宝珠は十字架が上についた球体。権威の象徴とされる。 ロシアの反政府活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏は2010年、プーチン政権関連の汚職調査のウェブサイト、「ロスピル」を立ち上げた。名前の由来は、ロシア語の「ラスピル」。「のこぎりで切ること」と訳されるが、国家予算を「切り落とす」という意味で汚職の俗語としても使われるそうだ。 そのサイトのロゴも金色の双頭の鷲。だが、つかんでいるのは二つののこぎりだったという。「体制との闘いはおもしろいと、みんなに見せるつもりだ」。ナワリヌイ氏のユーモアで
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社説(2月19日)外国人「育成就労」 共生社会へ道筋確かに
外国人労働者の受け入れを巡り、政府は技能実習制度に代わる新たな仕組みとして「育成就労制度」を創設する方針を決定した。技能実習で原則認められない本人の意向による職場の「転籍」を、同じ業種であればできるようにするのが大きな柱だ。また熟練技能を要する特定技能制度への移行を促し、長期就労を可能にすると強調する。近く入管難民法などの改正案を国会に提出する。 技能実習が国際貢献と技術の移転をうたったのに対し、育成就労は人手不足を背景に人材確保が目的と明言した。長時間労働などで国内外から人権侵害だと批判された技能実習の反省を生かせるよう、受け入れ企業も地方自治体も頭を切り替える必要がある。 新制度では
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コラム窓辺 花粉症から開ける道【白井貴子/シンガー・ソングライター】
河津桜が咲き、だんだんと春へ。でも花粉症の方には苦しい季節ですね。実は私も20年ほど前はものすごい花粉症で、1日にティッシュ1箱がなくなるくらい涙も鼻水も止まらず、目は赤く腫れ上がりひどい状況でした。 薬もたくさん試しましたが、「どうしてこんなことになるの!?」とその元凶を突き止めたくなり調査開始。戦前戦後、植林したスギやヒノキの間伐がされず、木が活用されていないから花粉の飛散量が増えている―と知りました。「薬を飲むだけじゃ駄目! 森を守り育てる若者を増やさないと」と、森へ思いを傾ける大きなきっかけになりました。 その頃、タイムリーにも神奈川県での「全国植樹祭」の歌を作るお話をいただき、
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大自在(2月18日)クレドカード
「勝利のために自己犠牲ができる選手を起用する」「結果が大事だがプロセスを重要視する」。プロ野球の巨人が、阿部慎之助新監督の指導方針を簡潔にまとめた小冊子を作成した。選手やスタッフ、ジュニアユース、女子チームに配布する。 「クレドカード」と呼ばれるもので、一般的には名刺サイズほどの大きさ。クレドとはラテン語で信条、約束を意味する。行動指針の共有や浸透を図るため導入する企業も多いという。 全従業員が持ち歩くことで有名といえば、外資系高級ホテルのザ・リッツ・カールトンだろう。同社のクレドには「ホテルの使命」「従業員へのホテルからの約束」「従業員の顧客への接し方」が書かれている。 松崎町では2
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社説(2月18日)GDP4位に転落 成長力強化へ改革急げ
日本の2023年の名目国内総生産(GDP)が、ドイツに抜かれて世界第4位に転落した。日本は高度成長期の1968年に、当時の主要指標だった国民総生産(GNP)で統一前の西ドイツを抜いて世界2位の経済大国になった。現在のドイツの人口は日本の7割に満たない。10年前の日独のGDPは人口比と大差なかったが、日本経済の停滞が長引き、最近の円安やドイツの物価高も影響して約半世紀ぶりに順位が逆転した。 日本は2010年、台頭する中国にGDPで抜かれて3位になった。国際通貨基金(IMF)は、26年にインドにも追い越されて5位に後退すると予測する。経済規模を背景にした日本の影響力の低下は必至だ。ただ、重要な
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時論(2月18日)部活は「オン」「オフ」どっちだ
「欧州ではスポーツをするのがオフ(休息)の時間ですよね。でも、日本ではスポーツをしない時間をオフと言っています」。追手門学院大の有山篤利教授(スポーツ社会学)の講義における学生の発言だという。「スポーツを地域のエンジンにする作戦会議」(晃洋書房)から引いた。 スポーツはそもそも、英国で上流階級の娯楽として生まれたとされ、欧州では豊かな休息を過ごす活動として親しまれてきた。 学生の言葉は、学校の運動部など日本の現状を如実に表していると言えよう。選手は大会の結果が要求され、指導者はそれによって資質が評価される。余暇の楽しみを求めるはずが、常に「オン」の緊張状態になってはいないか。 2018
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大自在(2月17日)女性初
令和の時代になっても日本の新聞で「女性初」の見出しを何度も目にしてきた。今年に入ってからも、日本航空、共産党、日本弁護士連合会で女性初のトップ就任がニュースになった。 明治初期に渡米した女性初の留学生で現在の津田塾大を創設した津田梅子が7月に発行される新紙幣の5千円札の顔として登場する。津田塾大前身の津田塾専門学校でも学んだ元文相(現文科相)の赤松良子さんは女性初の日本ユニセフ協会会長。先日、94歳で他界した。 津田塾から東京大に進み、労働省(現厚労省)に入った女性キャリア官僚の草分け的な存在。1986年施行の男女雇用機会均等法の成立に尽力し、「均等法の母」とも呼ばれた。 均等法は女性
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記者コラム「清流」 プロ球団で「再び夢を」
経験者なら一度は憧れたこともあるだろうプロ野球。その世界に挑む球団が静岡に誕生した。くふうハヤテベンチャーズ静岡にはNPBを目指す若者と、復帰を期すNPB経験者が全国から集結した。 アマチュア最高峰の社会人野球はチーム数が少なく、高校や大学を卒業後に本格的に競技を継続する選手は一握り。独立リーグに進む選手も増えたが、志半ばでユニホームを脱ぐ人は少なくないと推測する。 2軍ウエスタン・リーグに参入した新球団は年間約140試合をNPB球団と戦う。上を目指すには、この上ないアピールの場だ。「もう一度夢を追いかけたい」。そんな思いで多くの選手が静岡に来て野球を続けてくれたらと願う。魅力ある集団に
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社説(2月17日)自民裏金聞き取り これで幕引きは許さぬ
自民党が派閥の政治資金パーティー裏金事件を巡る内部調査の結果を明らかにした。政治資金収支報告書に不記載があった議員ら91人に聞き取りを行った結果、パーティー券売り上げの資金還流を認識していた議員らは32人に上り、うち11人は不記載も認識していた。総額は約5億8千万円だった。 肝心の安倍派の裏金づくりの時期や動機の解明は「判然としない」とするにとどまった。調査は匿名で、使途の領収書が不明なケースもあった。客観性を確保するため外部弁護士を介在させたが、真相を明らかにするには程遠く、自前調査の限界を露呈したと言わざるを得ない。 これで幕引きとするのは許されず、自民は第三者の手を借りて調査を継続
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記者コラム「清流」 伊豆も人ごとではない
2月上旬、西伊豆町仁科の浮島地区の住民が自主避難所運営訓練に臨んだ。地震による土砂崩れで地区が孤立した状況を想定した。浮島は海と山に囲まれ、道路が寸断される可能性は十分にある。地区のほぼ全世帯から約50人が参加し、防災意識の高さを感じた。 別の機会に、能登半島地震を受けて石川県穴水町の支援に向かった西伊豆町職員の話を聞いた。能登半島では数少ない主要道が陥没したり、隆起したりして渋滞が発生。現地へのアクセスに時間を要したという。 伊豆半島も主要道が限られ、能登半島と同じような条件だ。訓練で講師を務めた町災害対応アドバイザーの松山文紀さんは能登半島地震支援にも携わり、「伊豆も人ごとではない」
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記者コラム「清流」 「まち」の風景に若者を
「よそ者」「若者」「ばか者」。この三つの「者」はイノベーションを起こし地域活性化を担う人材としてよく使われる。その一つの「若者」が数年後、衰退する浜松市中心街周辺に集うことになった。今から期待せずにはいられない。 学校法人常葉大学が常葉大浜松キャンパス(浜名区)をJR浜松駅南口近接地(中央区)に移転すると発表した。現在の学生数として1640人。同法人や市としても、学生の利便性向上や若者の県外流出抑止、中心市街地の活性化などの効果を見込んでいる。 出身者ならうなずいてくれるかもしれないが、数十年前は中心街を「まち」と表現し、郊外からバスで行くのが楽しみだった。当時のキラキラとした思い出は今
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コラム窓辺 ヒトの意思決定の儚さよ【杉原行洋/ハヤテグループ代表】
いま、皆さんは上司と新年会の席につきました。1杯目から焼酎をやりたいところ、上司から順に「とりあえずビール」「ビール」「ビール」と自分の番がきました。さて、「私は焼酎で。メニューはありますか?」と流れを止める肝の据わった方はおられますか? 「私もビールで」と流される方がほとんどではないでしょうか。 これを同調圧力といいます。例えばこのようなチカラで自身の選択は簡単に変えられてしまいます。 もう一つ。前回は「かんじんなものは目に見えないんだよ」という星の王子様の一言で締めくくりました。今回は「見ようとしなければ見えない」というお話です。 突然ですが即答ください。「この中で最も大きいのはど
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大自在(2024年2月16日・金曜日)記憶にない
「記憶にない」とは便利な言葉だ。嫌な質問に答えなくていい。本人はうそでもないつもりだろう。盛山正仁文科相が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)関連団体との関係を問われて繰り返している。そう言われる限り、議論も報道も深まらずもどかしい。 ロッキード事件を巡る国会の証人喚問で小佐野賢治氏が連発した印象が強いが、国会会議録を検索すると、1947年の第1回国会から「記憶にない」旨の発言がいくつも出てくる。歴史ある言葉だ。ロッキード事件の産物ではない。 ただ、当時のマスコミは発言を面白がって取り上げ、「記憶にございません」を流行語にまで押し上げた。小佐野氏は偽証罪に問われ有罪判決が下ったが、上告中に
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記者コラム「清流」 助け合い精神大切に
以前、休日に家族と出かけて藤枝市内を車で走行中、道路の真ん中で停車していた車を見つけた。追い越そうとした時、高齢女性がどこか不安そうな表情で周辺をうろうろしていた。危ないので声をかけてみると、どうやら車が故障して動かなくなってしまったようだ。 自分の車を安全な場所に止め、妻と一緒に女性のもとに駆け寄った。確かにアクセルを踏んでも、エンジンをかけ直しても動かない。女性は心細かったのか、体が震えていた。 レッカーを手配後、女性は妻との会話で少しずつ落ち着きを取り戻した。高齢者に限らず、不慮の事故や突然の故障に見舞われた当事者はどうしても困惑してしまうだろう。そんな時に少しでも異変を感じ取り、
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記者コラム「清流」 住宅耐震化 周知啓発を
35%の住宅が巨大地震で倒壊の恐れがある―。現行の耐震基準が導入されていない1980年以前に建てられた熱海市内の住宅の割合を知り、正直驚いた。人口1万5000人以上の県内市町のうち、下田市に次いでワースト2だという。 能登半島地震では、住宅の倒壊で多くの命が犠牲になった。家の下敷きになった場合、津波や火事から逃げられない。まずは地震の揺れに耐える住宅を確保することが肝心だ。住宅耐震化は幸いにも、行政の支援制度が用意されている。 ところが、能登半島地震後に行われた熱海市長の定例会見で、住宅耐震化の周知啓発はなかった。今も特段の情報発信はない。熱海土石流を経験し、市民の生命と財産を守ることを
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記者コラム「清流」 月を目指して日進月歩
宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小型探査機「SLIM(スリム)」が月面に着陸した。エンジンを上向きにした逆立ちの状態だったものの、目的地への誤差100メートル以内のピンポイント着陸に成功。着陸挙動の解析などで協力した静岡大工学部の能見公博教授も「日本の最先端技術を実行した」とたたえた。 静大の超小型人工衛星の開発を主導する能見教授はJAXAの前身の研究所で研究員をしていた20年以上前から、月面探査計画に携わる。「大学でもいずれは月面探査を」と夢を語る。 各国が月を目指すのは有人活動に欠かせない水資源の獲得を目指しているからだ。SLIMにより、日本は世界5カ国目の月面着陸成功となった。技
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【時評】真冬の札幌国際芸術祭 過去から未来「旅」体験(山口裕美/掛川市「現代アート茶会」芸術プロデューサー)
札幌市で「札幌国際芸術祭(SIAF)2024」が開催中だ。2020年は新型コロナウイルス感染拡大で中止となったため、6年半ぶりの開催、会期は2月25日までとなっている。 今回の大きな特徴は過去2回と違い、真冬の札幌での開催という点である。気候が大きなハードルとなるが、あえて挑戦している。開催前から地域連携のコラボレーションが行われ、作品の多くが、鑑賞型ではなく体験型の展示となっている点が好ましい。 テーマとして掲げる「LAST SNOW」は、「LAST」に「最後」ではなく「この前の」「続く」といった意味を持たせている。日本語のサブテーマは「はじまりの雪」。 総合ディレクターは、オースト
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社説(2月16日)続く人口流出 「住んでよし」の実感を
総務省が公表した2023年の人口移動報告によると、東京都は転入者が転出者を上回る「転入超過」が6万8285人を数え、22年の80%増になった。新型コロナウイルス感染症が拡大していた21年は超過数が5千人台にまで落ちていたが、東京一極集中が再び加速した。 一方で、東京圏(埼玉、千葉、東京、神奈川)と大阪、福岡などを除く40道府県では転出が転入を上回る「転出超過」となった。静岡県も6154人の転出超過。超過数は22年の3割増で、都道府県で多い方から7番目となる。 政府は長年、少子化対策に取り組んできたが、出生数の減少は止まらない。こうした自然減に加えて地方では進学や就職などで若者が流出する社
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コラム窓辺 金山とけはい坂【中村羊一郎/静岡市歴史博物館長】
金の価格が上昇中。1グラムで1万円を超えました。10年前の倍なのですから、買っておけばよかったなあ、と悔しがっても間に合いません。 今から500年ほど前の今川氏全盛期、安倍川源流部の梅ケ島金山は好景気に沸いていました。狭い坑道内から掘り出した鉱石を石臼で砕き、ネコダと呼ばれる厚手の筵[むしろ]の上を水とともに流すと、重い砂金だけが引っかかるのです。当時の産金量は不明ですが、この文字通りの黄金時代は、元栄[もとさかえ]と言われました。金掘りたちの懐を目当てに集まってきた遊女たちは、彼らが坂道を上がってくるのを見て化粧を直したので、その坂は「けはい(化粧)坂」と呼ばれたそうです。 黄金の仏塔
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大自在(2月15日)郵便料金値上げ
元日の能登半島地震で被災した奥能登で、郵便物の窓口での引き渡しが再開されたのは先月下旬。遅れはあったが、年賀状を手にすることができた住民からは笑みがこぼれた。厳しい日常の中で、紙の上の文面にぬくもりを感じた人も多かったのではないか。 メールのやりとりは手軽だが、より心の深い所まで動かされるのは郵便だと実感する。手書きの言葉ならなおさらだ。郵便が単なる事業の名称でなく、文化と位置付けられるゆえんだろう。 郵便料金が今秋にも値上げされる見通しになった。はがきは現行の63円が85円、封書は84円が110円に改定されるという。上げ幅は3割超だ。封書の値上げは、消費税増税時を除き30年ぶりとなる。
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記者コラム「清流」 道のりは長くても
とある子育てイベントに出演した男性が絵本を開いて「お母さんより、お姉さんのパンツがいいなあ」と一言。ほかの出演者からたしなめられてはいたが、幼い子どもたちが参加する場で、ステージに立つ側からそんな発言が飛び出すことに頭が痛くなった。 それでも社会の変化を感じたのは、男性の発言に保護者からは笑い声が漏れ…なかった点。別で取材した地元団体による絵本の寄贈では、性教育の入り口として人気を集める絵本が贈られた。課題はまだ山積みだが、“性”を巡る社会の変化の波は足元まで届いているのだと希望が持てた。 子どもたちがこれから育てていくまだまっさらな価値観に、大人が
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記者コラム「清流」 未来の横綱に
浜松市中央区の聖隷クリストファー大付属クリストファーこども園で、大相撲伊勢ケ浜部屋の翠富士、聖富士らを招いた交流会が開かれた。園児が力士に本気で勝負を挑む姿に、ほほ笑ましい気持ちになった。 同園は2016年から相撲に関する探究活動に取り組んでいる。力士との交流は4回目。昼食では、21年にオンラインで交流した際に園児が提案し、翠富士が選んだ「トマトミルクちゃんこ」を、年長園児と力士が一緒に食べたという。 昨年は熱海富士が2場所連続で優勝争いを演じたほか、ことしの初場所では浜松市出身の鈴ノ富士が前相撲に臨むなど、郷土力士の活躍が期待されている。園児の相撲熱もさらに高まるだろう。力士と対決した
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【時評】「おもいやり」が社会の基本 子どもの行動に誇らしさ(渥美利之/弁護士)
仕事の帰りに歩道を歩いていたときのこと。事務所近くの小学校に通う1年生と思われる初見の男子児童が、「こんにちはー」と挨拶[あいさつ]をして追い抜いていった。私が、「学校は楽しいかな?」と言葉をかけると、少年は振り向き、笑顔で「楽しいです」と答えてくれた。 別の日のこと。小学校4、5年生と思われる女子児童数人が横断歩道を渡ろうとしたとき、その手前で自動車が止まった。児童たちは、横断歩道を駆けて渡ると、くるっと振り向き、運転手に向かって「ありがとうございました」と礼を言って頭を下げた。それを見た運転手も笑顔で頭を下げた。 このような日常の風景の源はどこにあるのだろうか。禅宗の教えに「一挨一拶
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社説(2月15日)指定管理獣にクマ 人と共存できる環境を
全国で人がクマに襲われる被害が相次いだことを受け、環境省の専門家検討会は、捕獲を国が支援する「指定管理鳥獣」にクマを追加する対策方針案を決めた。決定を受け伊藤信太郎環境相は今年4月にも追加すると表明した。 対象となるのは北海道のヒグマと本州のツキノワグマ。絶滅の恐れが高い四国のツキノワグマは除く。専門家検討会は指定方針を決めた一方、行き過ぎがないように時期や手法を限定して捕獲数を管理するとし、捕獲に偏らない姿勢を強調した。 人の安全を確保することが最優先だが、クマの個体数を管理して保全することも極めて大切だ。人とクマのすみ分けをはっきりさせ、共存できる環境を整えていきたい。 まずは基礎
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記者コラム「清流」 今年の冬景色
今年は厳しい冷え込みが少なく、過ごしやすい冬。撮影記録を見返しても冬の寒さを表現するような写真はあまり見当たらない。 1年で一番厳しく冷え込むとされる二十四節気の大寒の前日に、伊豆市湯ケ島の八丁池を訪れた。池が凍って幻想的な光景を見せる時期と聞いていたが、ほんの一部の凍結のみだった。同行してもらったガイドによると、この時期にしては珍しいとの話だった。冷え込む朝の海に発生するとされる気嵐(けあらし)も、まだ見ることができていない。早咲きの桜が咲き始めたなどと連絡も入り、寒さより一足早い春を感じる日もある。 冬にしては物足りなさを感じる時もあるが、それも自然の面白さ。路面凍結による悲惨な交通
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コラム窓辺 「欲張りお化け」と仲良くする!【高森志文/アサヒユウアス社長】
40代後半、ゴルフに夢中になった。週に1度レッスンに通い、月に1~2回はラウンド。「あー今日も100を切れなかった」が長いこと続いたある日、するっと100が切れた。 毎回90台が出るかと思いきや、そう簡単なものではないことも思い知った。多くのゴルファーが通る道のり。どこにどう打つか(作戦)、作戦通り打てたか(実行)、その作戦は合っていたか(検証)、これらがビシッと決まった時の喜びは最高。この喜びを味わいたくてラウンドを重ねていたら、80台が出る奇跡も、たまに起きた。 「もっといいスコアで回りたい」と思えば思うほど、ある問題にぶち当たるようになった。 パー4の1打目を失敗して山の斜面や林
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大自在(2月14日)義理チョコ
コンプライアンス(法令順守)への意識が低い昭和のおやじが令和にタイムスリップし、不適切な発言を繰り返す。阿部サダヲさん主演、宮藤官九郎さん脚本のドラマ。SBSテレビで放送中の「不適切にもほどがある!」。 先週の第3話。情報番組のシーンで、男性司会者が女性出演者に聞く。「チョコを渡す相手はいるのかな」。すかさずプロデューサーが駄目出し。「暗に恋人の有無を聞こうとしているので、セクハラです」。何でもコンプラに縛られる令和である。ともあれ、きょうはバレンタインデー。 日本生命が先月、2万人近い契約者にバレンタインデーのアンケートを実施。「職場の人や仕事関係者へのプレゼント」、つまり「義理チョコ
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記者コラム「清流」 レッカー高額請求注意
事故や故障で車が突然動かせなくなった経験は多くの人にあるはずだ。そんな時、スマホで慌てて探したレッカー業者に依頼したら現場で数十万円単位の高額を請求された―という被害相談が2022年春ごろから静岡県内で確認され始めた。 「まずはJAFや契約する損害保険会社に電話連絡を」が一般的と思っていたが、最近は違うらしい。スマホ操作に慣れた若年層、免許取りたての人も多く被害に遭っていると知り、「心理につけ込んだ卑劣な手口」との怒りが湧いた。 「業界最安値」「基本出張料0円」「最短5分」。ネット上にこうした文言を表示して誘引する手口は業界を問わずに存在するが、「上位表示なので信用できる」とは限らない。
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記者コラム「清流」 下を向いて歩こう
季節ごとの美しい花々を楽しめる県西部だが、冬に見頃となる植物はあまりない。少しさみしい気持ちになっていると、「地面は今が見頃ですよ」と、浜松市の静岡県立森林公園で開催中の企画展で教えてもらった。 公園内の舗装をしていない坂道や歩道は「鴨江礫(れき)層」という約30万年前の地層だという。木々が茂る道を歩いてみると、冬は植物が少なく、地面の様子は観察しやすい。水の流れで角が取れた丸い石はかつて大きな川が流れていた痕跡で、地層に埋まる石の並ぶ向きから水の流れていた方向まで読み取れる。何げなく散策する足元に別の世界があると知った。 下を向いて地面を見ながら歩くと、雨上がりの土からは植物が芽を出し
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沼津市議会 改革進め市民の利益に【記者コラム 湧水】
昨年の3月、沼津市議会の改革を期待する記事を小欄で書いた。議員の改選を経たこの約1年間、沼津市による現職市議の提訴や、その提訴議案審議中に飛び出した別の市議のいわゆる「タケノコ発言」で、市議会は市内外から注目を集めた。全国に広がった議会のネガティブなイメージを払拭しようと、高橋達也議長を中心に議会がさまざまな改革に乗り出したことは率直に評価したい。 1年前の記事で指摘した一般質問登壇者の明確化は、昨年11月定例会から実行に移された。同定例会の本会議傍聴者は前年の2・5倍に増加。情報公開が市民の関心を高めることにつながった結果といえる。傍聴席を訪れる人はまだ、市議の支持者とみられる市民が大半
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記者コラム「清流」 魚料理に心動く
年間を通じ、さまざまな海産物が水揚げされる伊東の港。普段、利用する機会の多い地元のスーパーには直送をうたう鮮魚の切り身や刺し身が並び、見ているだけでも楽しい。もちろん味は言わずもがな。 先日、伊東市の高校の定時制生徒が地魚のサバをおろして調理する教室を取材した。魚を初めてさばいた参加者の中には、素人とは思えない巧みな包丁さばきを披露する生徒も。教わったばかりの方法を班の仲間に伝え、協力して取り組む姿が印象的だった。 終わりがけに、講師お手製のできたてのつみれ汁をごちそうになった。ふんわりとした、うまみあふれるつみれの食感や味わいに驚いた。自炊ができると自称する筆者だが、魚をおろした経験は
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社説(2月14日)24年度県予算案 「選ばれる県」へ総力を
静岡県が発表した2024年度当初予算案は「能登半島地震を教訓とした地震対応」「イノベーション」「子ども・子育て」「スポーツの総合産業化」を柱に掲げた。本県は少子高齢化と人口流出に歯止めがかからず、地域の活力を将来にわたって維持するのが難しい状況だ。人口減少社会への対応に向け、暮らしの不安を解消すると同時に、戦略的に人を呼び込む「選ばれる県」になるための施策で成果を上げなければならない。予算案は一定の手当てをしたが、その効果を測りつつ、さらなる工夫と拡充が必要だ。 予算案の柱のうち、子ども・子育てには総額922億円を充てた。中小企業で働く男性への育児休業支援金を国に先駆けて実施し、保険適用外
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視座(2月13日)危機感薄く姿勢内向き 政治改革の熱意見えぬ岸田首相
「鈍感力」と言うべきか。自民党派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件で世論の批判を浴びても、岸田文雄首相から政治改革への熱意は伝わってこない。能動的に国民の支持を回復しようとはせず、身をかがめて世論の沈静化を待つといった体だ。それでも政権維持への意欲は衰えていないというから恐れ入る。 国会では2024年度予算案の本格審議が衆院予算委員会で行われ、能登半島地震への対応や裏金事件について論戦が続く。岸田首相は裏金事件を受け、焦点の一つになっている政治資金規正法の改正を「今国会で実現する」と明言した。ところが肝心の中身については踏み込んだ発言を避けている。 与党公明党の議員が、違反した際に議員
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【D自在】「国消国産」進むブロッコリー
「君がため春の野に出でて若菜摘む わが衣手に雪は降りつつ」(光孝天皇)。率直な思いやりの気持ちに好感が持てるという人も多いのでは。若菜は春の七草のことか。7種のうち、ナズナ、スズナ(カブ)、スズシロ(ダイコン)がアブラナ科である。 春に十字花をつけるアブラナ科の野菜はキャベツ、白菜、小松菜、チンゲン菜、ワサビなどがある。多くは花が咲く前に収穫するので「菜の花」とは結びつきにくい。かつて菜の花と言えば菜種油を取るアブラナのことだった。灯火が石油や電力に移行して、蕪村の「菜の花や月は東に日は西に」や唱歌「朧月夜(おぼろづきよ)」の歌い出しの風景は日常から遠いものになった。 近年、存在感が高ま
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大自在(2月12日)圧巻の主人公
雲をつくような巨人ダイダラボッチの昔話は、大男の名が替わるなどするが各地にある。近江[おうみ]の国を掘った跡が琵琶湖になり、その土を捨てた所に富士山ができ、途中転んで手をついた跡が浜名湖になったと聞き覚えている。 日本一高い富士山と日本最大の琵琶湖は、筆者の頭の中でつながっている。その糸が少し太くなった感じだ。話題の青春小説「成瀬は天下を取りにいく」、続編「成瀬は信じた道をいく」の舞台は琵琶湖畔の滋賀県大津市の膳所[ぜぜ]駅周辺。作者の宮島未奈さんは富士市出身で大津市在住。 「天下を」は昨年の静岡書店大賞など10冠。2作品は成瀬あかりの中学2年から京大1回生が描かれる。「かつてなく最高」
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社説(2月12日)介護報酬改定 訪問サービスなぜ減額
2024年度から3年間の介護報酬の改定内容が決まった。介護現場の深刻な人手不足に対応するため、職員の賃金底上げを重点課題とした。 事業者への報酬を増やすと、利用者の自己負担や保険料も上がることになる。しかし職員の離職が続くと、介護サービス提供体制そのものの維持が危うくなりかねない。政府は処遇改善の重要性を丁寧に説明する必要がある。 ただ今回の改定で気がかりなのは、特別養護老人ホームなど施設サービスの基本報酬が軒並み引き上げられるのと対照的に、訪問介護サービスは引き下げられる点だ。 訪問介護は、自宅で暮らす要介護の高齢者の日常生活を支える基本的なサービスである。家族にとっても、訪問介護を
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コラム窓辺 身のまわりに潜む危険(水野裕央/日本銀行静岡支店長)
昨秋から、私のスマホに、金融機関、宅配業者、カード会社などを装った不審なメールが頻繁に送信されてくる。これらは、「不審な取引の検出」、「解約予告」などといった言葉で受信者の不安を巧妙にあおり、IDやパスワードなどを入力させ、重要な個人情報を詐取するフィッシング詐欺という手口だ。 警察庁と金融庁も、昨年の暮れに「フィッシングによるものとみられるインターネットバンキングに係る不正送金被害の急増」を注意喚起している。 対策としては、不審メールに記載のURL(誘導させたいページのインターネット上のアドレス)に安易にアクセスせず、無視することである。少なくとも、金融機関が、IDやパスワードなどをメ
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大自在(2月11日)小澤征爾さん逝く
高校時代に買い求め、手元にずっと置いている一冊の本がある。「ボクの音楽武者修行」。指揮者の小澤征爾さんが神戸から単身、スクーターと共に貨物船で海を渡り、未知の世界に飛び込んだ日々を自らつづった青春記だ。 スクーターを貸してくれたメーカーの条件は「日本国籍を明示すること」「音楽家であることを示すこと」「事故をおこさないこと」。白いヘルメットに日の丸のはちまきを締め、ギターを背負い、スクーターにまたがっての欧州行脚だった。 怖い物知らずの楽天精神と圧倒的な行動力。音楽への熱い思い。ページをめくるたびに興奮した。小澤さんの訃報に接し、表紙が黄ばんだその本を読み返した。変わらぬ新鮮さに心を揺さぶ
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社説(2月11日)足湯で被災地支援 心のケアも欠かせない
能登半島地震の被災者の心身を癒やすため、静岡県ボランティア協会(県ボラ協)は、石川県穴水町に災害ボランティアの活動拠点を開設し、避難所や仮設住宅で足湯を提供する。被災者の言葉にも耳を傾け、困りごとや要望があれば、石川県や穴水町、現地の関係者に伝える。 住み慣れた家屋を失い、生活が一変した被災者の絶望感や悲しみ、不安は計り知れない。ひとときでも緊張を解きほぐし、心のケアにつながる支援は欠かせない。 県ボラ協には経験の蓄積がある。2011年の東日本大震災、16年の熊本地震、18年の西日本豪雨などでも被災地に拠点を設けて足湯サービスを行い、被災者に喜ばれた。 活動拠点を構える穴水町は静岡県の
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時論(2月11日)障害の前に伝えるべきこと
取材で知り合い、お付き合いさせていただいている三島市在住の和太鼓奏者片岡亮太さんは毎月、近況報告を交えたニュースレターをメールで送ってくれる。最新号には「障害アフター運動」と題するコラムが添えられていた。 片岡さんは10歳の時に網膜剝離で視力を失った。マスコミなどでは「全盲の和太鼓奏者」と紹介されることが多い。私もこれまで片岡さんを取り上げる時、特に意識することなくそう書いてきた。 コラムでは、演奏者であることの前に、「全盲の」と障害者であることが真っ先に伝えられることへの違和感がつづられていた。自分が能動的に手にした肩書よりも、付帯的状況が先に語られてしまう。そんな「長年の歯がゆさ」を
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コラム窓辺 生ごみゼロ生活継続中(白井貴子/シンガー・ソングライター)
静岡の皆さんは、生ごみ処理装置「キエーロ」をご存じですか? 2011年の春、エコ仲間から「白井さん、一緒に陸前高田に行きませんか? 生ごみをゼロにする箱を被災地の皆さんと一緒に作るんです」と連絡がありました。「東日本大震災直後に生ごみどころじゃないのでは」と思いましたが、私自身、被災地に対して何もできず悶々[もんもん]としていたので同行。小学校のグラウンドに建てられた仮設住宅にお住まいの皆さんと一緒に、高さ1メートルくらいの木箱を作りました。 この箱の発案者は、神奈川県葉山町に住む元パイロット。なんでも奥さまが、真夏に捨て忘れた生ごみが臭って思わず庭に埋めてしまったそう。数日後、気になっ
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大自在(2月10日)スターの欠場
東京・国立競技場で7日に行われたヴィッセル神戸との親善試合に出場したサッカー・アルゼンチン代表のメッシ選手。所属する米プロリーグMLSのマイアミの遠征だが、3日前の香港では脚の不調で試合に出場せず物議を醸した。 香港でのチケットは880~4880香港ドル(約1万7千~9万3千円)と高額だった。スターの欠場を巡ってファンが返金を求めるなど、約4万人が集まったスタジアムは騒然となった。香港政府も不快感を示したという。 日本では後半途中からピッチへ。最高の技術で沸かせたが、寂しく思うこともあった。入場料は香港に比べ高くはなかったが、観衆は2万8614人。6万7千人超を収容する国立競技場は空席が
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記者コラム「清流」 力引き出す魔法の言葉
2007年の選抜高校野球大会で常葉菊川を優勝に導き、御殿場西でも監督を務めた森下知幸さんが急逝した。教え子はもちろん県内外の野球人に慕われた。 16年夏の静岡大会で優勝した翌日、監督を辞任し、甲子園での指揮をコーチに託すと発表して世間を騒がせたこともあった。御殿場西着任が大会前に決まっていただけに「職業監督だから」「選手を信じてなかったんじゃないか」などと批判されたがそれは当たらない。ただ世間は甲子園出場という名誉を簡単に手放す理由が理解できなかった。 夏の静岡大会、敗色濃厚の展開でベンチの森下監督は叱るでも鼓舞するでもなくこう言ったという。「あしたから夏休みだな」。選手は肩の力がふっと
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記者コラム「清流」 身近にプロスポーツ
磐田市内の中学2年生約1500人が1月下旬、市の招待でラグビーリーグワン1部・静岡ブルーレヴズのホストゲームを一斉観戦した。レヴズは快勝で中学生の声援に応えた。 特に後半は目の前でレヴズがトライを奪う場面が何度もあり、最初は遠慮がちに応援していた生徒たちも盛り上がりを見せた。細かいルールは知らなくても、選手同士の迫力あるぶつかり合い、スピード感あるパス回しや突破を純粋に楽しんでいる様子がうかがえた。生観戦ならではの魅力を実感できただろう。 スポーツは人生を豊かにする「公共財」とされる。身近に複数のプロスポーツチームがある環境は貴重だ。まちづくりに生かさない手はない。スポーツ資源を「住み続
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記者コラム「清流」 とりあえず富士市
JR富士駅前の居酒屋で、アメリカから来たという青年と会話が弾んだ。「日本といえばマウント・フジ。とりあえずフジという名前の街に降りてみた」とのこと。大淵笹場や岩本山公園などのビュースポットを伝えておいた。 後日、彼から「移動手段が見つからず3日間飲み歩いてたよ」とメールがあった。車移動が主流の富士市では富士駅で降りた観光客が周遊につながりにくい。富士山観光交流ビューローはこうした課題解決へ旅行商品を開発している。自動車学校での教習で外国人に右ハンドルに慣れてもらう。その上でレンタカーを貸し出して周辺の景勝地に出かけてもらうという。 「とりあえずフジという名前の街」。地の利ならぬ&ldqu
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社説(2月10日)攻勢強める立民 政権担当能力示せるか
自民党派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件は国民の政治不信を増幅させた。岸田文雄内閣の支持率は危険水域とされる30%を割り込んで低迷し、通常国会で立憲民主党など野党が攻勢を強める。岸田首相を含む自民幹部や事件に関与した派閥関係者の責任を明確にし、思い切った再発防止策を講じない限り、信頼回復は難しいだろう。 岸田首相や自民がこのまま政権を担っていいのか、有権者の間に疑念が生じているのは間違いないが、一方で次の衆院選に向けては、野党側に政権担当能力があるのかも問われている。野党第1党の立民は都内で開いた党大会で「政権交代を成し遂げて政治・経済・社会のありようを抜本的に立て直す」とした2024
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記者コラム「清流」 子の「つぶやきことば」
静岡なかはら幼稚園(静岡市駿河区)は50年もの間、園児が生活の中で発する「つぶやきことば」を保護者と一緒に“採集”している。普段は家庭や園でノートに書き留め、年1回、職員が文集を編集する。 「あぁ もう くたびれちゃった」(3歳11カ月、夕食を食べながら)、「ねるってまほうだね」(4歳9カ月、朝起きたら傷が痛くなくなっていて)―。文集には言葉とその時の状況、年齢が記録され、子ども自身や家族にとって宝物になっているに違いない。 「正直、書き留めるのは結構大変」と保護者の一人は言う。だからこそ「独自にやろうと思っても、きっと続かないので、園に感謝している」そうだ。私自
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記者コラム「清流」 色あせない思い出
実家にある色あせた青色のタオル。子どもの頃から使用していた、なじみのある1枚だ。能登半島地震を受け、ふとその存在を思い出した。年始の帰省時にあらためて手に取ると「奥能登よしが浦 ランプの宿」の文字が確認できた。 石川県珠洲市の一軒宿。能登半島の最北端に位置し、都会の騒がしさとは無縁のゆったりとした時間が流れ、日本海を一望できる創業445年の老舗旅館だ。小学1年までの4年間を金沢市で過ごし、家族で宿泊した記憶が今も色濃く残る。 ただ現在はライフラインの復旧のめどがたたず、休業を余儀なくされている。復興の道のりは平たんではないかもしれないが、再開できる日がくるのを心から願っている。自分にとっ
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社説(2月9日)ライドシェア解禁 利用者の安全最優先に
自家用車を使い、一般のドライバーが有料で客を送迎する「日本版」ライドシェアが4月から部分解禁される。政府がタクシー会社の管理下で地域などを限定して認める方針を示した。安全を最優先に、乗客の利便性向上を探ってもらいたい。 全面解禁については議論を続け、6月までに方針を決める。それまではタクシー会社が一般ドライバーと雇用契約を結ぶなどし、車両整備や運送の責任もタクシー会社が負う形とする。 ライドシェアは米国など海外で人々の足として定着しているのに対し、日本ではなじみがまだ薄い。安全面に不安が残る中で、政府が拙速な全面解禁を見送ったのは妥当と言えよう。全面的な運用には、慎重に制度設計を進める必
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記者コラム「清流」 静岡県からやれること
「ここにいて、何か被災者の役に立てるのだろうか」。能登半島地震の現状を映像で見ると心が痛む。伊豆市地域おこし協力隊で石川県出身の奥勇太朗さんに取材し、どこからでもできる支援方法を知った。 伊豆市が行っている「代理寄付」。寄付金は代理自治体を通じて被災自治体に送られる。現地の職員は災害対応に注力できる利点がある。返礼品がないため、寄付したことを実感できるかもしれない。 支援を呼びかけている奥さん。能登地方は伝統行事を大事にする地域だといい「復旧復興が進み、いつか住民が戻ってきてほしい」と思いを寄せている。 どんな状況下でもほかの人を思いやる行動に、私自身も逆に勇気と元気をいただいた。今も
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コラム窓辺 町おこしと雑草球団と(杉原行洋/ハヤテグループ代表)
町おこしといえば、その土地ならではの魅力を生かすことが想像されます。しかし、他をもって代えがたい絶景や伝統行事などあれば良いのですが、日本全国、自然に恵まれ、古より伝わる行事も豊富です。「桜の名所」「夕日の見える海岸」「お祭り」などのキーワードで探してみると、出るわ出るわ。 それでは唯一無二の資源がなければ町おこしはできないのでしょうか。あるいはせっかくの資源をその土地では当たり前のこととして見落としていることはないのでしょうか。 ニセコはリゾート地として、世界的に有名になりました。パウダースノーのきめ細かさは世界最高峰らしいですね。現地の方は、日常に溶け込んだ当たり前の存在として降雪を
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大自在(2月9日)大雪
太平洋側を先日通過した「南岸低気圧」は、関東甲信に大雪を降らせた。大雪警報も発表され、首都高速道路が通行止めになるなど交通網が混乱した。 大雪の翌日、新東名高速道路で恐る恐る静岡県東部に出かけてみた。北東方向は厚い雲に覆われ、雲間から見えた箱根の山は白かった。サービスエリアは待機中のトラックで「満」状態。その先の首都高に入れないためだろう。物流は経済の血液だ。止まった途端、さまざまな弊害が生じる。 思い起こせば10年前も関東甲信に大雪が降った。高速道路上で立ち往生したトラックが雪に埋もれて、復旧は容易ではなかった。県東部でも大雪で孤立する地区があり、自衛隊に災害出動要請が出た。 この時
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コラム窓辺 浪曲と宣伝戦【中村羊一郎/静岡市歴史博物館長】
浪曲って何? という人が圧倒的に多くなりました。「江戸っ子だってね、すし食いねえ」は、広沢虎造の浪曲「石松三十石船」の一節。このセリフだけは辛うじて生き残っているようですが。私の世代は、ラジオから流れてくる虎造の清水次郎長や子分たちの活躍に心躍らせたものです。 中でも喧嘩[けんか]は強いが子どもにはやさしい、とされる森の石松は遠州秋葉山の麓、森町出身と言われますが、実像はよくわかりません。でも「虎造節と石松のキャラを利用しない手はない」と画期的な宣伝戦を展開したのが森町のお茶屋さんたちでした。人気絶頂の虎造に会いに行き「石松が森町生まれだということを強調した浪曲をぜひともやってほしい」と頼
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大自在(2月8日)手配書
殺人を犯した男が自分の人相書きを目にすると、着物の袖で顔を隠して足早にその場を立ち去る。かつて毎日のようにテレビで放映されていた時代劇には、こんなシーンが度々登場した。実際、姫街道の気賀関所のすぐ近くにも人相書きの高札が掲げられたことがある。 といっても、旅人が行き来した江戸時代でなく平成に入ってからの話。旧細江町(現浜松市浜名区細江町)が地域振興に再建した気賀関所に近接する細江署が1996(平成8)年、オウム真理教が起こした事件で指名手配された容疑者5人の似顔絵と特徴を伝える高札を玄関口に設置した。本紙にも記事が掲載された。 70年代の連続企業爆破事件の一つに関与したとして警察庁に特別
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記者コラム「清流」 「送料無料」の表記
「EC(電子商取引)サイトで送料無料の表示が目立つが、消費者は運送コストの存在に考えを巡らせてほしい」。物流の停滞が懸念される2024年問題が間近に迫る中、県内のある物流企業トップは取材にこう答えた。 「無料」の響きは消費者にとって魅力的だが、モノの移動には当然、輸送費や配送料が発生していて、決してタダではない。無料表記は、物流に対する意識の低下を招くとの指摘もある。消費者庁は昨年末、こうした文言に説明を付けることを通販事業者らに要請した。 県トラック協会の佐野寛会長は、24年問題を「われわれの努力だけでは越えられないハードル」と表現する。物流の危機は全国民に関わる問題。誰もが当事者とし
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記者コラム「清流」 付加価値向上策に注目
経営者らに新年の展望を尋ねる中で「付加価値の向上を目指す」という趣旨の言葉を頻繁に聞いた。人手不足に加え、原材料やエネルギーの高騰といった先が読みにくい環境が背景にあるからこそだと感じた。 マックスバリュ東海の作道政昭社長は、消費者の節約志向が強い中でも選ばれる商品づくりや、地域コミュニティーの場になるような店舗づくりなどを挙げた。浜松ホトニクスの丸野正社長は、高度な技術導入を通じ、今後の拡大を見込む自動運転車のセンサー需要などに備える狙いを語った。経営者は、価値創造を進め、自社を成長させる強い意思を持っている。 個々の企業が躍進すれば新たな取引が増え、新産業創出の下地にもなる。浜松地域
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記者コラム「清流」 なりたい自分
「なりたい自分になる」という式典に自ら足を運ぶ人たちを力強く感じた。LGBTなどの性的少数者が思いを共有する「LGBT成人式」は今年、富士市内の会場に約40人が集まった。成人式といっても年齢は問わず、参加に込めた意味もきっとそれぞれにある。 開催は今年で9年目。新型コロナ禍を経て4年ぶりとなった懇親会は、日頃は袖を通さない晴れ着やスーツの参加者がなりたい自分を体現していた。差別や偏見を排除したひとときに、満足の声は多かった。 社会の変化を聞き出そうと会場を回る中、話ができたのは市外から交流を求めて来場したという数人。そして、会場の外には声を上げていない人がいることも想像した。ただ、あるべ
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社説(2月8日)生活再建支援 被災地で生きる希望に
通常国会で能登半島地震被災地の復旧復興に向けた本格的な議論が始まった。 震源に近く被害が集中した石川県の能登半島北部は、地震発生から5週間を経過しても応急対応で精いっぱいの状況だ。さらに半島北部のように過疎化と高齢化が進んだ地域では震災後の将来像が見通せない。政府と国会には、前例にとらわれず、被災者がこれからも地元で生きようと希望を持てる支援を求めたい。 能登地震では、石川県で関連死も含めて241人が犠牲になり、10人以上の安否が不明のままだ。住宅被害は県全体で5万7千棟以上。半島北部6市町だけでも3万9千棟以上になり、被害程度が明らかでない市町もあるが、全壊は5千棟を超えた。ほかに新潟
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コラム窓辺 八百万の神様との壁打ち【高森志文/アサヒユウアス社長】
温泉のほかに神社も好きで、特に一之宮巡りが好き。三嶋大社、富士山本宮浅間大社、事任八幡宮、小国神社、県内の一之宮には何度も参拝している。お寺ではなく、なぜ神社か。八百万[やおよろず]の神という概念が、日本らしくてゆるい感じで素敵[すてき]だと思っているから。 二礼二拍手一礼、神社で手を合わせると、「健康で過ごせますように、仕事がうまく進みますように、家族・親戚・友人みんなが元気で過ごせますように、温泉にたくさん入れますように、体重があと〇キロ痩せますように…」と私の祈りも八百万(笑)である。 そのうち、神様に対してあまりに他力本願なお願いばかりで、これじゃダメだ、と心の声が
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大自在(2月7日)熱量
日本人が初めてサッカーで外国人チームと試合を行ったのは1904年2月6日だとされている。東京高等師範学校(現筑波大)のア式蹴球部が、横浜のクラブYC&ACと対戦した。日本サッカー協会(JFA)の公式サイトにも記載がある。 勝利への執着心など熱量は相当なものだったと想像するが、何せサッカー黎明[れいめい]期の日本である。0―9の完敗。創部10年に満たない東京高等師範には、仕方ない結果だったといえよう。 あれから120年。日本代表はワールドカップ(W杯)の常連国に成長した。2022年カタール大会ではドイツ、スペインといったW杯優勝経験国を撃破した。 開催中のアジア杯に、日本代表は出場国最上
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ジュビロ磐田ホームタウン拡大 静岡県内クラブ 切磋琢磨を【記者コラム 黒潮】
今季サッカーJリーグ1部(J1)に復帰するジュビロ磐田のホームタウンが、昨年から従来の磐田市に加え、新たに静岡県西部7市町(御前崎、菊川、掛川、袋井、浜松、湖西市、森町)まで拡大した。Jリーグ昇格31年目を迎えるクラブが活動を展開する舞台は大きくなった。それだけに、サッカーを通して以前にも増した密度の濃いスポーツ振興や地域貢献が求められる。 ジュビロ磐田は今年に入り、ホームタウンで生産・製造された緑茶を用いた「遠州お茶ぱん」を商品化した。お茶ぱんは災害時の非常食にも活用でき、地域防災意識の向上と緑茶消費の拡大という地域課題の解決を図るという。ホームタウンの広域化に伴う、とても良い取り組みだ
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記者コラム「清流」 夢を与えた贈り物
米大リーグ・ドジャースの大谷翔平選手が国内の全小学校に贈っているグラブが静岡県内の児童の元にも届いた。「自分も大谷選手のようになりたい」と話し、得意げな表情でキャッチボールを楽しむ子どもたちの目は本当に輝いていた。 サッカー少年だった頃、スポーツ界のスターといえば当時海外リーグで活躍していた中村俊輔さんだった。特に印象深いのは2006年シーズンでイングランドの名門マンチェスター・ユナイテッド相手に決めた伝説のフリーキック。あのプレーに突き動かされ、独特な蹴り方をまねようと何度も練習を重ねたものだ。 大谷選手は寄贈したグラブを「夢を与え、勇気づけるためのシンボル」と表現した。その思いの先に
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記者コラム「清流」 臨機応変
清水町の南中の生徒と、同町と姉妹都市提携を結ぶカナダ・スコーミッシュ市のオンライン交流会を取材した。生徒は複数の班に分かれて端末を使用。コロナ禍でオンラインの体制はかなり整備されたと思っていたが、日本人同士のパソコンがつながってしまうなどのトラブルが発生し、大人数で同時に接続することの難しさを感じた。 現地にうまく音声が伝わらない中、生徒はチャット機能を使って言葉を伝えたり、スムーズに接続ができた班がほかの班と合流したりと、工夫して交流を続け、会話を楽しんでいた。 同校の階段には「臨機応変」と書かれた大きな額縁が飾られていた。その日の生徒の行動を表していたように思う。記者の仕事も、臨機応
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記者コラム「清流」 平和の尊さ 後世に
幼い頃、友達と遊んだ神社の境内に石碑が立っていた。それが何か当時は分からなかったが、祖母からは「大事な場所やから近くで遊んだらあかんで」と注意を受けた覚えがある。その石碑が「忠魂碑」と知るのはずいぶん後のことだ。 郷土の戦死者を祭る忠魂碑を巡り、維持管理の担い手不足などを理由に取り壊す動きがみられる。本県でも近年撤去の事例があり、こうした状況に歯止めをかけようと市民有志や学識経験者らが保存会を立ち上げた。歴史的価値の発信、自治体などへ保存に向けた働き掛けを行うという。 終戦から78年以上がたち、戦争の記憶をどのように継承していくかが課題となっている。忠魂碑は戦争を知る上で貴重な史料とされ
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社説(2月7日)米軍の報復攻撃 中東の緊張感高めるな
ヨルダンの米軍施設で米兵3人が死亡した無人機攻撃への報復措置として、米軍はイラクとシリアの親イラン武装勢力やイラン革命防衛隊で対外工作を担う「コッズ部隊」の拠点を空爆した。 無人機攻撃が親イラン武装勢力の連合体「イラクのイスラム抵抗運動」によるとみられるためだ。しかし、報復が報復を招いて戦闘が激化すれば、中東全域の緊張感を高めて一層不安定化する恐れがある。戦火をこれ以上拡大させないよう、米側とイラン側の双方に自制を求めたい。 米軍は125発以上の精密誘導弾などを使って、七つの施設で85以上の標的を攻撃した。イラク首相府やシリア人権監視団によると、民兵だけでなく民間人も含めて計45人が死亡
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【時評】スポーツ指導者 役割の変化 多様なニーズ 対応能力を(杉本龍勇/法政大教授)
この1月から静岡県スポーツ協会主催の育成年代指導者を対象とした5回にわたる研修がスタートした。私はこの研修のコーディネーターとして関わり、今年で4年目を迎えている。毎年40人前後の参加者が集まり、静岡県内で活躍する指導者が中心ではあるが、他地域からの参加者も増えてきている。コーディネーターとして注意を払っている点は、普遍的な基本コンセプトを維持しつつ、同時に社会変化に伴う対応を促す内容を提供する、つまり、指導者の能力を時代に合わせてポジティブに発展させることである。 日本の現状を鑑みると、指導者の役割は大きく変化している。指導内容はもちろんであるが、実施者のニーズや価値観の変化、社会状況の
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コラム窓辺 受験生への思い【水野裕央/日本銀行静岡支店長】
2月に入り首都圏の私立中学の受験が始まり、1~3月の受験シーズンの中盤を迎えるが、毎年天候だけでも一足早く春が来ないかと切望する。 第1志望に合格された方は、今後、多くの刺激を受け経験を積んで可能性を広げてほしいと思う。一方、残念ながら第1志望と異なる学校に進学される方は、私と同じだ。 当時、地元の公立中学の風紀が乱れていたため、母の懸命な共働きにより私立中学の受験を目指した。2度目の試験でようやく進学塾に入り、小学6年から追い上げたが、地元神奈川の志望校は全滅。失意の中で塾の助言を受け、学校概要も分からないまま東京の私立の中高一貫校を急きょ受験し、何とか合格した。 中学進学後は、悔し
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大自在(2月6日)脱北
自主制作作品の世界最大の国際映画祭として知られるサンダンス映画祭で昨年、1本のドキュメンタリーが観客や映画関係者に大きな衝撃を与えた。北朝鮮脱出の過酷な実態を記録した「ビヨンド・ユートピア 脱北」。同映画祭のUSドキュメンタリー部門観客賞を受賞した話題作は今年に入って国内各地で上映され、県内でも公開が予定されている。 2人の子供や80代の母親を含む5人家族が脱北を余儀なくされ、いくつもの国境や川、険しい山岳地帯を越える総移動距離1万2千キロメートルの危険な旅に出る。50人以上のブローカーが関わり、捕まれば本国で厳しい処罰や処刑が待ち受ける決死の脱出作戦だ。 追っ手におびえたり、絶望に打ち
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記者コラム「清流」 交通事故増加、原因は?
焼津市では交通事故が増えている。関係者の間では、対策に生かすために原因をあれこれ探っているが、明快な答えが出てこないのが現状だ。 聞くと、発生場所として比較的多いのは、幹線道路や商業施設周辺だという。少しでも早くと目的地に急ぐあまり、スピードを出し過ぎたり、注意散漫になったりしているのだろうか。 ある人は道路の走りやすさを原因に挙げていた。確かに隣接市と比べて、渋滞に遭遇した経験は少ない。自然とアクセルを踏み込みがちとなり、停止線を越えてしまったり、歩行者の存在を見失ってしまったりするのかもしれない。 いずれにしても事故の多さは気がかりだ。一人一人が交通ルールを当たり前のように守ってい
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記者コラム「清流」 高校生の活躍
伊東市内3高校の統合で誕生した、開校初年度の伊豆伊東高。生徒の活躍が目覚ましい。3年生グループの一つが高校生ビジネスプラン・グランプリで全国3位相当の賞を受け、ほかの2グループもベスト100に。本年度は全国から5000件を超えるプランの応募があった。 3位のグループは、家事負担の課題を抱えるヤングケアラーをテーマに解決策を練った。年齢が離れた妹2人の面倒を見るメンバーの実体験に基づいた提案が高い評価を得た。社会人と対話し、協力を得て取り組みを実践し、まとめ上げた努力のたまものだ。 人生の早い時期に社会で仕事をする人と接し、ビジネスの仕組みに触れる経験は将来に役立つ。当時は同世代との関わり
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記者コラム「清流」 他人ごとに聞こえる
「どこか人ごとに聞こえるんだよな」。自民党の政治資金パーティーを巡る事件で、安倍派の塩谷立座長が1月から地元浜松市で支援組織役員への報告を重ねている。非公開の会合後に参加者に話を聞くと、毎回こんな感想が漏れる。 塩谷氏の同市での記者会見を取材し、同じ印象を抱いた。自身にとって収支報告書への不記載は、知らないところで続いていた「慣習」だという。長年見過ごしていたことを反省点に挙げる一方、責任の所在を問われると、「議員それぞれに責任があるんじゃないですか」と淡々と答えた。 地元支援組織の役員らは塩谷氏が口を閉ざしていた間、不満を抱く党員たちの矢面に立ってきた。「自ら有権者の声を受け止めてほし
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【時評】南米統合5ルート建設計画 資源調達へ日本も参画を(深沢正雪/ブラジル日報編集長)
昨年12月、ブラジル政府が「南米統合5ルート建設計画」を発表した。実現すれば、ブラジルから太平洋側のペルーやチリの港町までの鉄道や道路が初めてでき、アジアが近くなる。計画自体は戦前からあったが、資金調達の問題などで前に進まなかった。ルーラ大統領の任期が終了する2026年までに、3ルートを完成させる予定だ。 気になる点は、ブラジル中国国交樹立50周年を4月に控えた今、発表されたというタイミング。左派ルーラ氏が新興5カ国(BRICS)の盟友である中国やロシアと仲が良いのは論をまたない。中国の習近平国家主席がG20首脳会議のために11月にブラジルへ来るといわれ、蜜月状態だ。 南米は世界的な有事
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社説(2月6日)コロナとインフル 同時流行の拡大を防げ
静岡県内で新型コロナウイルスの患者が増加して基準を超えたため、県が「感染拡大警報」を発令した。昨年9月29日に警報を解除して以来、約4カ月ぶりの発令。やっかいなのは、本年度当初からインフルエンザが異例の通年流行の状態にあり、昨年11月末に警報が発令されたままになっているため、新型コロナと「同時流行」になったことだ。両方の警報が同時期に重複したのは今回が初で、県は感染対策を呼びかけている。 新型コロナの感染症法上の位置付けが、昨年5月に2類からインフルと同じ5類に移行し、コロナ禍で課せられていたさまざまな制約が解除された。重症化する患者が少なくなり、感染予防の意識が低下して対策が講じられなく
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コラム窓辺 エネルギーを未来へ【白井貴子/シンガー・ソングライター】
先日、私のライブを見た南伊豆町の仲間から「あれが白井さんの本当の姿だったんですね。驚きました」と感想をもらいました。「そうなの! このロックショーを20代の頃には年間何百本とやったのよ」とお返事しました。ロックショーにはエネルギーが必要。バイク冒険家の風間深志さんからは「白井さんのライブはすごい」とお墨付きをいただきました。エベレスト登頂を果たした方からそんな言葉をいただくとは夢のようです。 その風間さんが昨年開催したイベントで、環境状態を数値化する研究に取り組む石田秀輝東北大名誉教授のお話を聞きました。「今の生活を続けていると、12年後に悲惨な地球への時代に手をかけることになる」とのこと
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大自在(2月5日)プロ野球
プロ野球は11球団がキャンプインし、3月29日のレギュラーシーズン開幕に向けて始動した。残る西武も6日に予定する。今季は静岡市を拠点とするくふうハヤテベンチャーズ静岡の2軍ウエスタン・リーグへの参入もある。例年にも増して開幕を楽しみにしているファンは多いだろう。 日本最初のプロ野球チームは1920年設立の日本運動協会だが、23年の関東大震災の影響で解散。その後、34年の大日本東京野球倶楽部(現巨人)を皮切りに計7チームが相次ぎ設立され、36年2月5日に国内初のプロ野球リーグ、日本職業野球連盟が発足した。2月5日は後に「プロ野球の日」と定められた。 発足当時は六大学野球の人気が絶大で、プロ
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社説(2月5日)落日の最大派閥 まず説明責任を果たせ
自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受けて、安倍、二階、岸田、森山の4派閥が解散を決めた。残る麻生派と茂木派は政策集団として存続する方針。 最大派閥の安倍派(清和政策研究会)が議員総会で活動停止を決めた際、塩谷立座長(衆院比例東海)は「歴史ある清和研を閉じなければならないのは断腸の思い」と述べたが、その責任には言及しなかった。派閥の実力者「5人組」を含めた幹部にしっかり「けじめ」を求める声は党内にあるが、今のところ誰もそのつもりはないらしい。 しかも幹部は肝心なことには口が重いまま。一方で裏金事件に関わった所属議員の説明責任も欠かせないはずだ。事件の全容解明への協力もすべきだ。責任を
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大自在(2月4日)立春
子供の頃には分からなかった食べ物のおいしさに、年を取ってから気づくのはよくあること。筆者にとってフキノトウはその代表格だ。苦みが原因で長い間食わず嫌いだったが、中年になってから天ぷらを食べて見方ががらりと変わった。 交流サイトには、芽吹いたフキノトウの写真がいくつも投稿されている。先日、伊豆の観光施設でロウバイや紅梅が見頃を迎え、河津桜などが咲き始めたとの記事もあった。きょうは立春。暦の上では春の始まりだ。 本格的な春の訪れが近づいているのは間違いないが、一方で静岡県は新型コロナウイルスの感染拡大警報を約4カ月ぶりに発令した。インフルエンザの警報も発令中で、同時期に警報が重複したのは初と
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社説(2月4日)「農政の憲法」改正 自治体の力量問われる
岸田文雄首相は施政方針演説で、食料・農業・農村基本法の本格的改正案を今国会に提出すると明言した。「農政の基本は地方の現場にある」と述べたが、「現場」は気候も水利、土壌、そして担い手も千差万別だ。「農政の憲法」改正で地方自治体は農政の力量を問われることになる。 補助金や交付金がもらえるからやろう、なくなったらやめようという発想は通用しない。その公金が持続可能な食と農に資するか、地域経済成長の呼び水になるかを議論し、必要ならば補助対象や補助金の横出し、上乗せも検討してほしい。県、市町の2024年度予算案審議で、議会にはこの点からも厳しいチェックを求めたい。 昨年末に発表された22年の静岡県の
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時論(2月4日)政治家の適格性欠く麻生発言
驚きはないが、自身の不見識をさらす発言だとの認識がないことにあきれる。自民党の麻生太郎副総裁が福岡県での講演で、上川陽子外相(衆院静岡1区)について「おばさん」「そんなに美しい方とは言わんけど」などと述べ、ルッキズム(外見至上主義)やエイジズム(年齢差別)に基づく発言だと批判を浴びている。首相経験者だけに海外でも報じられた。発言を撤回したものの、過去の言動も改めて注目され、政治家として適格性を問われる事態を招いた。 42歳で衆院議員2期目だった1983年には選挙応援で、67年から3期続いた美濃部亮吉都政に言及。革新都政の誕生は婦人が投票したためだとし、「婦人に参政権を与えたのが最大の失敗だ
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大自在(2月3日)豆まきと恵方巻き
巻きずしにもいろいろな種類と呼び方がある。のりで巻くからのり巻き、キュウリを巻くとかっぱ巻き。 立春前日のきょうは節分。恵方巻きを食べる人も多かろう。この名称は形態ではなく食べ方に由来。言葉の成り立ちが面白くて調べると、「広辞苑」には第6版(2008年)から載った。 恵方巻きという呼称はコンビニチェーンが二十数年前に使いだし、全国に広まった。ただし、節分に恵方を向いて巻きずしを切らずに食べる習俗は大阪の一部地域で昭和初期にはあったとされ、以前は「丸かぶりずし」「招福巻き」などと言っていたという。 新旧問わず辞書にある「恵方参り」の風習は明治時代に初詣と入れ替わって言葉だけになった。千年
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社説(2月3日)裁判記録の保存 「国民の財産」を念頭に
1997年の神戸連続児童殺傷事件など、重大少年事件の裁判記録が事実上の永久保存に当たる「特別保存」とされずに廃棄されていた問題で、最高裁は記録を歴史的、社会的意義を持つ「国民共有の財産」とする理念規定を盛り込んだ新たな規則などを制定、施行した。この理念を常に念頭に置き、厳格な運用で記録の適切な保存に努めなくてはならない。 一連の問題を受け、昨年5月に公表した調査報告書に基づく防止策で、裁判所に対する特別保存の要望は誰でも可能とした。少年事件や民事事件の記録を廃棄する場合のプロセスに関しては各裁判所の所長の関与を明確化し、所長の認可を必ず受ける手続きを踏むよう従来の運用から改めた。特別保存の
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記者コラム「清流」 探究の芽を育てる時間
学校を取材すると最近、「探究」という言葉が頻出する。実生活から問いを見いだし、自ら課題を立て、情報収集と整理分析をし、まとめて表現する―。学習指導要領では、探究をこのように説明している。 授業をのぞいても、児童生徒が議論・発表をしたり、実地訪問や資料探しをしたりする姿を目にする機会が多い。板書の書き写しが主だった二十数年前の小中学生時代の自分と比べ、頭と体を能動的に動かす現代の子どもたちがまぶしい。 学習指導要領の通り、探究には子どもが生活の中で関心を持つ経験が大切だ。主体的な学びには大きなエネルギーを要する。 予測不可能な時代を生き抜いてほしいと、わが子に多くを求めている自身を振り返
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記者コラム「清流」 幕末のイケメン
江戸時代最後の沼津藩主水野忠敬をインターネットで検索すると予測ワードに「水野忠敬 イケメン」と出てきた。写真を見ると、確かに端正な顔立ちに思える。 先日、忠敬のひ孫で経済学博士の忠尚さんの講演を聞いた。先祖の忠友、忠成2代の藩主が江戸幕府後期の幕閣として関わった銀貨改鋳は、米を基軸とした経済から貨幣経済への移行を推し進めたと論じる。 一般的に貨幣を改鋳し、通貨量を増やすことはインフレを引き起こし、否定的にも論じられる。だが、忠尚さんは「経済活性化を促した」と評価する。忠友が仕えたのは相良藩主で老中の田沼意次。田沼は近年、再評価が進み、来年の大河ドラマでは渡辺謙さんが演じる。ドラマに忠友、
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記者コラム「清流」 イエスでも、ノーでも
昨年、心筋炎のため補助人工心臓を装着して臓器移植を待つ女性と出会った。壮絶な闘病を語る口調は明るく、外見の印象からは重い病気を認識しにくいが、ヘルプマークが付いたかばんの中のバッテリーが補助人工心臓を動かし、彼女の命をつないでいた。 1997年の臓器移植法施行以降、国内の臓器提供件数は徐々に増えてきた。医療の進歩で従来より安定した状態で待機できる患者も多いようだが、それでも1年に移植手術を受けられる患者は希望者の2~3%。待機中に容体が悪化し亡くなる方も多いという。 運転免許証など身分証に臓器提供の意思表示欄が付いて久しいが、提供例の大半は、本人の意思が分からず家族の承諾で実現している。
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コラム窓辺 青、蒼、碧、そして勝つ【杉原行洋/ハヤテグループ代表】
静岡県民球団「くふうハヤテベンチャーズ静岡」は初代入団会見・ユニホーム発表を終えました。「ベンチャーズ」なる愛称にはハヤテを貫くベンチャー企業魂と、静岡県がスズキ、ホンダ、ヤマハ、カワイ、ホトニクス、タミヤ、いなば食品、鈴与など日本を代表する企業を育んできた歴史を重ねています。 初代ユニホームは白地に勝色[かついろ]のピンストライプで構成。勝色とは日本古来より伝わる和色の一つで、黒味すら感じるほどの最も深い青色の一つです。熱海や遠州灘に広がる限りなき水平線、伊豆やオクシズの抜けるような空、深淵[しんえん]の駿河湾、命を育む佐鳴湖や浜名湖、そして日本一の富士山。青、蒼、碧。静岡県にはブルーが
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大自在(2月2日)文学の「地産地消」
「もう、読んだ?」が、静岡県内の小説好きのあいさつになっている。宮島未奈さん(富士市生まれ)の「成瀬は信じた道をいく」と永井紗耶子さん(島田市生まれ)の「きらん風月」。昨年、静岡書店大賞、直木賞に選出された県勢作家2人が、同じタイミングで受賞第1作を出した。 先週後半から書店に並ぶ。静岡市内の大規模店では、2冊が競うように平積みされていた。ベストセラー作家の“ホーム”として、売り場の力の入れようが伝わってきた。 文芸や書店の現況は厳しい。出版科学研究所が1月25日に発表した出版指標では、紙の書籍の2023年推定販売金額は前年比4・7%減。全国の書店数は、ここ10年
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記者コラム「清流」 峠道に見る変化
静岡県内の山に登ると、ふいに「○○峠」と書かれた看板が立つ場所に出ることがある。尾根の中では比較的低くなっていて、麓の集落から上ってくる道が交差している地点が多い。傍らには小さな地蔵がまつられていたりと、森の中に人の暮らしの気配がにじむ。 自動車が主要な移動手段となった現代では想像も難しいが、かつては険しい峠道を徒歩で越えて多くの人や物資が行き交っていたという。山間部の集落を縦横に結ぶ各ルートは、さながら幹線道路のような位置付けだったようだ。 一方で、こうした峠道の途中では廃墟となった家屋や荒れた茶畑、水田跡をよく見かけ、過疎化が進む現状もひしひしと感じる。数十年後に同じ場所を再び訪ねた
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記者コラム「清流」 福を呼び込む棒たたき
丸太を囲み、ほころぶ住民の笑顔を見て温かい気持ちになった。年始に掛川市の普門寺で行われた、たたき棒祭り。心の中のあかを落とし鬼を追い払って福を呼ぶとする“奇祭”は、丸太を藤の根の先が裂けるまでたたく。丸太の両脇を埋めた住民が一心不乱にたたく姿は迫力満点だった。 取材後、私も参加させていただくことに。何度も何度も棒を振り下ろすと、なるほど確かになんともいえないすがすがしさだ。招福のゆえんをかみしめ、慢性的な肩こりもほぐれた気がした。しかし私の腕力では根は裂けず、結局地元の方に手伝っていただいた。 年始から心が痛くなる出来事が続く。寒さで行動も鈍くなりがちだ。気分転換
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記者コラム「清流」 道が混む訳
1月下旬、取材で沼津市の内浦に向かった。休日だが混んでいた。名古屋や横浜など他県ナンバーの車もちらほら。1車線のくねくねした道をゆっくり走らせるとその訳が分かった。 淡島行き船乗り場に次々とウインカーを出す車。バス乗り場にできた行列。カメラを持った人、子ども連れの家族、友人と来たであろう若者たち。その道を通ったのは離島にある水族館「あわしまマリンパーク」が2月12日の営業を最後に閉館するという一報が出た後、最初の休日だった。 閉館にものすごい反響があったのは一連の報道やSNSで知っていたが、これほどとは。市を舞台にした人気アニメ「ラブライブ!」の聖地となっていることも影響しているだろう。
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社説(2月2日)ミャンマーと日本 和平へ積極的に関与を
ミャンマーの国軍がクーデターで権力を掌握して1日で3年になった。国軍と抵抗勢力の戦闘によって、多くの市民が犠牲となり、住む場所を追われた。国連によると、昨年10月下旬に始まった国軍と少数民族武装勢力の大規模な衝突で少なくとも市民75人が死亡し、28万人以上が避難を余儀なくされた。 民主派リーダーのアウンサンスーチー氏率いる政党が圧勝した2020年総選挙の結果を無視して権力を力ずくで奪った軍事政権を国際社会は承認していない。東京で昨年12月に開催された日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)の交流開始50年記念特別首脳会談にも加盟国ミャンマーの首脳の姿はなかった。 特別首脳会談は日本とASE
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コラム窓辺 イルカの味噌煮【中村羊一郎/静岡市歴史博物館長】
冬になると清水の魚屋さんの店頭に「骨付きイルカあります」という看板が吊[つ]るされました。清水の人はイルカが大好き。「女衆はフンドシを質に入れても食うもんだ」と言われていました。フンドシといっても、これは腰巻きのことで、女性の冷え性によいという意味です。由比・蒲原では「イルカのすまし」といってスライスした背びれの塩漬けが好まれました。 イルカは水族館の人気者ですが、日本人は縄文時代からイルカを食べてきました。私の家では味噌[みそ]煮が定番です。ところが、学生時代、静岡ではイルカを食べるよと言ったら「おまえ、野蛮だな」と冷やかされ、イルカ食が地域限定の少数派だったことを初めて知りました。
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大自在(2月1日)球春到来
日差しがまぶしい。寒さのピークは越えただろうか。おとといの静岡市のちゅ~るスタジアム清水には観客が50人ほど。サザンオールスターズの曲が流れていた。グラウンドで白球を追う選手のユニホームもまぶしい。 プロ野球のウエスタン・リーグに参戦する新球団、くふうハヤテベンチャーズ静岡が先月25日から春季キャンプを行っている。投手、内野手の守備連係、外野フェンスのクッションボール処理…。キャンプ第2クールとなり、プレーの質も高まっているようだ。 野球協約でポスト・シーズンが定められている日本のプロ野球(NPB)は、10球団がきょう沖縄県や宮崎県でキャンプイン。オリックスはあすから、西武
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記者コラム「清流」 「凶」を前向きに
コロナ禍で帰省をためらっていた時期は遠い昔のことのよう。年末年始は実家でゆっくり過ごせた。元日は恒例の初詣へ。親戚9人で臨んだおみくじでは、なんと7人が「凶」だった。災害や事故で幕開けした今年を象徴するようで、楽観できない未来に気が重い。 だがこの「凶」。悪いことばかりではないらしい。おみくじを引いたその時が“どん底”であって、これから運勢が上昇するという考え方も。良いことが起こる兆候だと思えば決して嘆くことではないのだ。物事の捉え方の大切さを教わった思いだ。 「凶」を連発する観音様に、情けをかけてもらえますように。そう願いながら、おみくじを境内にしっかりと結び、
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記者コラム「清流」 変わる駅前
JR富士駅の北口整備に関する発表が続いた。駅前一帯にかかる施設デザイン公開と、新たに建てられる複合ビルへの専門学校救急救命科の“内定”。市街地のにぎわい創出につながる事業だけに、これらのニュースが当事者の市民に浸透してほしい。 手をつなぐファミリー、ランニングする青年、大型犬を連れた老夫婦―。健全すぎるイメージ図は、富士の魅力を投影させた建物に負けず、行き交う人々の印象が前に出る。幅広い層を集める必要性を訴えているものと受け止めた。 市民の声を聞いて具現化する基本設計では、現状のデザイン案は柔軟に姿を変えていくという。自分が使うなら、と考えれば注文や提案はたくさん
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社説(2月1日)能登地震1カ月 「日常」の回復を早期に
最大震度7を観測した能登半島地震から1日で1カ月。被害が大きかった石川県では死者が238人、安否不明者も19人を数える。停電はおおむね解消したが、4万戸以上で断水が続き、1万4千人以上が避難生活を続ける。 山地が多い半島地形で道路事情がよくないところに、土砂崩れや地盤の隆起・陥没が交通網を寸断した。海岸の隆起や津波によって海上輸送も困難になった。水道や電気、通信が断たれ、テレビも停波した。被害情報の収集が一向に進まず、外部からの救命救助も困難を極めたことは、同様な地形が多い全国にも共通する課題だといえる。 依然として被害の全容が把握できていない。ただ、被災地では仮設住宅の建設が始まった。
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記者コラム「清流」 発展の道決める選挙
今年は世界各国で選挙が行われる。東南アジアの大国インドネシアでは、10年にわたり権力を行使してきた現大統領に代わるリーダーが決まる。 県西部に住む同国出身の40代の男性経営者は「選挙は国の発展に向けた進路を決めるため、若者の関心が高い。指導者には強い国を目指して頑張ってほしい」と期待する。県内に住む同胞たちは都内などで行われる在外投票に向け、候補者の人柄を見極めているという。国全体の有権者は2億人を超え、前回大統領選の投票率は約8割とされる。 投票日は2月14日。同国では、製造業を中心に多くの静岡県の企業が事業展開し、農水産品輸出先としての成長も期待できる。政治のかじ取り役が代わる転機は
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大自在(1月31日)能登地震1カ月
のどかな元日を襲った最大震度7の能登半島地震。石川県まとめできのう現在、死者は238人。奥能登と呼ばれる半島北部を中心に住宅倒壊が相次いだ。犠牲者の多くは倒壊した住宅の下敷きになり、住宅耐震化の重要性を再認識させた。 住宅被害は全壊から一部破損まで同県内で約4万5千棟に上る。東岸には津波が襲来し、大規模火災も起きた。道路が寸断されて救援ルートの確保に難儀して孤立する集落が目立った。改めて山が多い半島地形への救援の難しさを突き付けた。 その地震発生から間もなく1カ月。被災地の停電復旧は「おおむね月内」というが、断水の解消にはまだ時間がかかりそうだ。依然として1万人以上が避難生活を余儀なくさ
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社説(1月31日)首相施政方針演説 信頼回復へ 改革確実に
自民党派閥のパーティー券裏金事件を受け、「政治とカネ」問題が最大のテーマとなるといわれる通常国会が開幕した。まず29日に衆参両院で予算委員会を開いて事件をめぐる集中審議を行い、それに続いてきのう、岸田文雄首相が施政方針演説をするという異例の幕開けとなった。 演説の中で首相は党の政治刷新本部が示した「中間取りまとめ」の改革内容を説明。それを踏まえ「政治の信頼回復に向けて私自身が先頭に立って必ず実行する」と表明した。さらに「政治改革に終わりはなく、さらなる改革努力を継続する」と約束した。 しかし、派閥を事実上容認した中間とりまとめは生ぬるいと指摘され、前日の予算委集中審議でも首相の煮え切らな
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記者コラム「清流」 「裏金問題」に思う
「皆帰ってからご飯を食べるんじゃないの?」。政治資金パーティーに出席した経験者の感想だ。1人数万円の「パーティー」といっても豪華な料理はなし。大皿のつまみに酒も出ないケースもある。券だけ買って出席しない人も多い。 実際は国会議員などの集金目的で、20万円以下なら購入者は非公開。対価性は疑問符ながら、購入側も「交際費」として損金処理でき、税制上も優遇される。地元企業と政治家の関係は常に関心の的だが、アンダーグラウンドのため、利益誘導的な政策があっても有権者は指摘しにくい。 自民党の裏金問題が連日報道される。派閥の解散が相次ぐが、本質は違う点にある。パー券制度そのものの欠陥であり、立法府自ら
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記者コラム「清流」 広がる進路の選択肢
函南中卒業後に東京の専門学校へ進んだ神田悠さんが昨年、難関の税理士試験に17歳では異例の3科目に合格した。取材前の一番の疑問は「高校や大学に進学して税理士を目指しても良かったのではないか」 答えは「普通と違い面白そう」「仕事に役立つ勉強がしたかった」「高校に進むより時間もお金も有効に使える」だった。中学時代の成績は、地元トップ校に進学できるほど優秀で、恩師や親からも心配する声があったという。 無意識に高校、大学と自分が選んできた道を肯定したかったのだろうか。取材中は理解が及ばず、しつこいと思いながら同じような質問を繰り返していた。 時代は変化し、価値観や進路の選択肢は広がっている。頼も
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記者コラム「清流」 定番のままでいいのか
取材で啓発・PR用のクリアファイルをいただくことが多い。捨てるのはもったいないので、職場で保管資料を内容ごとに仕分けするのに再利用している。それでも、使わずに置いているファイルが次々とたまり山になっている。 チラシなどをまとめて配布できるクリアファイルは啓発グッズの定番。ファイル自体にも活動内容がプリントされている。ただ、脱炭素が叫ばれる中、樹脂製のファイルを使い続けていいのか疑問に思った。定番だからと惰性でグッズに採用する時代ではないだろう。一部では紙製のファイルも見るようになった。 二酸化炭素(CO2)の排出実質ゼロを目指す自治体や企業が増えている。いま一度、啓発の効果を検証し、石油
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コラム窓辺 湯に浸かるが故に湯に浸かる(高森志文/アサヒユウアス社長)
実は、何を隠そう、隠してないけど(笑)、人があきれるレベルの温泉オタクである。 2006年から23年末までで746温泉地、1255施設、再訪を入れた累計入湯数は1623湯。北海道から九州まで、全国津々浦々。温泉宿もピンからキリまで、日帰り温泉施設、共同湯、野湯、とバラエティーも豊か。1年で200湯超えの年もあったが、コロナでここ数年は低迷。23年は117湯と久々に健闘、いや泉闘。 あちこち入っているうちに、循環ではなく源泉かけ流し、さらに掘削揚湯よりは自然湧出湯、さらに進んで足元湧出湯が大好物になった。湧きたての湯にはパワーがあり、身体が元気になる(ような気がする)からだ。 「どこの温
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【時評】全国地紅茶サミット 物や人集める「コト」期待(小泊重洋/地紅茶学会顧問)
昨年12月2、3の両日に岐阜市で第21回全国地紅茶サミットが開かれた。全国から大勢の紅茶愛好家や生産農家が集まった。 この会は毎回、開催地の有志が組織を立ち上げて運営する。今回、最初に中心となっていた女性が不幸にして途中で亡くなる事態が生じ、開催が危ぶまれた。しかし、後を受けた女性はSNSを最大限活用して事前の情報発信やオンラインセミナー、会場からのインスタライブなど時代にマッチした運営を行った。さらに長良川、紅葉の金華山、岐阜城を一望するパノラマ茶会を催すなどして大好評のうちに終えることができた。 このように運営がすべて開催地に任される。また、全国の生産者が自慢の紅茶を持ち寄り出店する
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掛川南部にサッカークラブ 地域ぐるみの支援必要【記者コラム風紋】
掛川市教委などは4月、地域の中学校にサッカー部が設置されていなかった市南部の大東・大須賀地区にサッカークラブを創設する。少子化の進展で生徒の文化・スポーツ活動の選択肢が先細る中、あえて空白地帯への新設に踏み切った背景には、地元の子どもたちからの強い要望があった。スポーツ機会の地域間格差解消の動きを歓迎したい。 クラブ新設は、市が掲げる部活動改革の一環。1年前の市総合教育会議で佐藤嘉晃教育長が「最終的に学校と切り離す」と明言し、2026年度までに中学の部活動を全廃して地域クラブに移行させる方針を示した。備品の引き継ぎや調達、保護者の送迎負担など課題は多いが、すでに市内では市教委公認のクラブが
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コラム窓辺 夢中になれる選択肢【水野裕央/日本銀行静岡支店長】
公園では、真新しいぶかぶかのユニホームを着た子供たちがサッカーボールに群れをつくる。ボールさばきのうまさよりも、空振りし転んでしまうかわいさが勝る。静岡ではそんな光景をよく目にする。 子供たちを見て、小学生時代の記憶がよみがえる。当時、主人公の大空翼が静岡から世界へ羽ばたく物語を描いた、高橋陽一先生作のサッカー漫画「キャプテン翼」に子供たちはのめり込んだ。サッカー部の朝練は毎日楽しく、漫画の選手をいろいろまねしたが、ボールを奪取するためのスライディングタックルしかできなかった。砂だらけの体操着と擦り傷がサッカーに夢中の証しだった。 私たちを夢中にさせた「キャプテン翼」は、4月に連載が終了
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大自在(1月30日)イチゴは果物か、野菜か
クイズです。「イチゴは果物か、野菜か」。果物ではクイズにならないから野菜と答えた人、正解です。 園芸学では木の実は果物、草の実は野菜と分類すると農林水産省の月刊広報誌「aff(あふ)」の特集にあった(2019年12月号)。表面にあるツブツブが果実。私たちが果実と思っているのは茎の先端の「花床[かしょう]」が膨らんだもので「偽果[ぎか]」というそうだ。 先週末、静岡市の久能街道沿いに孫たちとイチゴ狩りに行った。斜面のビニールハウスに案内してくれた年配の女性の応対が快活で、健康法をきくと「午前中だけで2万歩歩く日もある」「カレーにも煮干しを入れる」。 続いてこんな話もしてくれた。先日、小さ
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記者コラム「清流」 逆さ地図
「逆さ地図」をご存じだろうか。日本海を中心に南北を逆転させた地図で、中国大陸の上に覆いかぶさるように日本列島が位置している。地政学リスクがよく分かり、東京支社勤務時代、国防族と呼ばれる国会議員の事務所で何度か目にした。 年始を襲った能登半島地震。被災地はインフラ復旧の遅れや避難生活の長期化などさまざまな苦境に直面している。「能登半島をひっくり返すと伊豆半島のようだ」。発災直後にこんな言葉を聞き、はっとした。道路網や医療提供体制、過疎化、住宅耐震化など同様の課題を抱え、本県にとって人ごとではない。 今回の地震はトップの危機管理意識も議論を呼んだ。国防も災害対応も、重要なのは想像力を働かせる
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記者コラム「清流」 無数の命に囲まれて
午後8時過ぎ、暗い山道を運転していた車の前を何かが遮った。目を凝らすと「やっぱり」。2頭の雌ジカが道路に現れ、目の前を横切っていった。減速して衝突を回避したが、山あいでは日常的な場面。「いつかひいてしまうのではないか」と不安を抱えている。 浜松市天竜区でもシカが増えており、行楽客の車やバイクとの衝突事故が懸念されている。野生動物との事故は「ロードキル」と呼ばれ、全国でも度々問題になっている。衝突の仕方によっては運転手が大けがを負う場合もある。 もちろん、事故によって動物の命を奪ってしまうことにもわだかまりがある。山は動物にとって大切な居場所。山道に現れた彼らを責めることは難しい。山道では
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社説(1月30日)春闘スタート 中小も先見て賃上げを
春闘交渉がスタートした。物価上昇を乗り越え、長年の賃金停滞から本格的に転換する分かれ道になる。経営者は、日本経済を再浮揚させる覚悟を示さねばならない。 ただ、首都圏の大企業の賃上げが目立ちすぎると若い人材が流出し地方経済が痛手を被る懸念がある。地方中小も人材確保など先を見通して賃上げに踏み切ってほしい。 経団連は今年の春闘の指針で、「社会性の視座」に立脚した判断を各企業に求めた。企業業績や株主への利益配分を優先してきた姿勢を改め、持続的な賃上げに転換する時期を迎えている。 連合によると、昨年の春闘の賃上げ率は3・58%と高水準だったが物価上昇には追い付かず、実質賃金は低迷。暮らしを好転
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【時評】人口減少時代の「こどもDX」 生活者の利便向上進めて(高橋恭文/ITサービス事業家)
異次元の少子化対策が叫ばれ1年。政府のデジタル行財政改革会議でも「子育て」のテーマで議論され、方向性が示された。これらは「こどもDX(デジタルトランスフォーメーション)」関連政策などと呼ばれる。 なぜ、子育てが行財政改革のテーマとして扱われるのか。自治体の視点では、人口減少時代において職員数が減少しても手厚い住民サービスを提供するため、デジタル活用による効率化・省力化が必要だからだ。他方、生活者である私たちから見た「こどもDX」のメリットとは何か。 県内でも約半数の自治体で導入されている母子健康手帳のデジタル化を例に考えてみたい。妊娠後、妊娠届を自治体に提出すると発行される母子健康手帳。
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記者コラム「清流」 若者の意見に学ぶ
先日、静岡大で過疎地をテーマに講義する機会があり、人口減少が進む賀茂地域の現状を述べた。出生児数の少なさや高齢化率の高さ、これらに伴う課題を説明した。講義後の若者の率直な意見を紹介する。 地域の魅力を伝えるには「ユーチューブやインフルエンサーを利用するのが有効ではないか」という考え。若者向けに発信するにはネットや交流サイト(SNS)で発信する重要性を感じた。実際、観光地にもかかわらずネット上に観光情報がないことも多い。 「人手不足がこんなに深刻だとは思わなかった」という声も。記者が現地で暮らし、現状を発信する必要性を感じた。賀茂地域は人口の流出に歯止めがかからない状況が続く。若者が住みた
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コラム窓辺 茅葺き文化を守る【白井貴子/シンガー・ソングライター】
たくさんの応援をいただき大成功に終わった先日のコンサートでは、会場で「SDGs(持続可能な開発目標)カーニバル」を開催しました。 そこに南伊豆町からは、町内のわが森のお世話をしてくれている樹木医の森広志さんや、長年仲良くしていただいている長田建設工業の長田芳郎社長らが駆けつけてくれました。長田社長には、私の自然に親しむイベント「南伊豆PEACE MAN CAMP」で参加者のヘルメットや飲料水を提供していただくなどお世話になってきました。 一番うれしかったのは、私がSBC信越放送の番組で、長野県小谷村の茅葺[かやぶ]き職人のドキュメンタリー「とうちゃんは茅葺師」のナレーションを担当した時の
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大自在(1月29日)3年後の大相撲
大相撲の元小結で解説者の舞の海秀平さんが、アプリスタイル社発行の雑誌「大相撲ジャーナル1月号」で3年後の2027年の番付を予想している。横綱に霧島、琴ノ若、大の里を挙げた。 初場所は、舞の海さんが期待する力士の活躍で盛り上がった。優勝決定戦で敗れたが、大関昇進を確実にした関脇琴ノ若。新入幕で11勝し、能登半島地震の被災地を勇気づけた石川県出身の大の里も見事だった。 一方で、角界は少子化の影響もあって新弟子不足が深刻だという。昨年の新弟子検査合格者は53人。年6場所制となってから最少だった。力士全体でも初場所の番付表に載ったのが599人で45年ぶりに600人を下回った。若乃花、貴乃花の「若
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社説(1月29日)共産委員長が交代 党勢後退 問われる手腕
共産党の第29回党大会が熱海市内で開かれ、歴代最長の23年にわたって委員長を務めた志位和夫氏が退任し、後任に田村智子氏が就く人事を決めた。女性の委員長就任は初。世代交代と女性の活躍を印象付ける人事と言えよう。党員の減少や高齢化、党財政を支える機関誌「しんぶん赤旗」の購読者減など党勢の後退が指摘されている。この難局を打開することができるのか、新委員長の手腕が問われる。 派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件で、自民党が国民の批判にさらされ、最近の世論調査では岸田文雄内閣も自民も支持率を著しく下げている。ところが、自民には「政権を失うかもしれない」との危機感が薄い。「自民が鈍感だから」とばかり