テーマ : ウクライナ侵攻

【ウクライナの戦時経済】プラス成長も疲労蓄積 外国支援頼み、貧困急増も

 ロシアの侵攻が続くウクライナの今年の経済成長率はプラスに転換する見通しだ。侵攻当初は激しく落ち込んだが、外国の支援で内需が部分的に回復した。インフレ率も減速し表面的に落ち着きを見せているものの、貧困層は急増し、戦時経済の疲労は蓄積している。

米テスラの車を販売するボリス・パシュニコフさん=9月、キーウ(共同)
米テスラの車を販売するボリス・パシュニコフさん=9月、キーウ(共同)
スキニア教会のボランティアが困窮者向けに配っている食事=10月、キーウ(共同)
スキニア教会のボランティアが困窮者向けに配っている食事=10月、キーウ(共同)
困窮者向けに食事を配るスキニア教会のボランティア活動=10月、キーウ(共同)
困窮者向けに食事を配るスキニア教会のボランティア活動=10月、キーウ(共同)
米テスラの車を販売するボリス・パシュニコフさん=9月、キーウ(共同)
スキニア教会のボランティアが困窮者向けに配っている食事=10月、キーウ(共同)
困窮者向けに食事を配るスキニア教会のボランティア活動=10月、キーウ(共同)

 ▽テスラ人気
 「顧客は現金一括か外国の銀行口座で決済して買う」。米電気自動車(EV)大手テスラの中古車や新車を個人で輸入販売するボリス・パシュニコフさん(40)は今年、9月までに50台以上売りさばいた。テスラ車を扱う業者は「侵攻前は数えるほどだったが、今は100社以上」と言う。
 10月の新車販売台数は前年同月比で約83%増えた。現地の会社経営者は「戦争による再建需要や外国からの支援で潤う人もいる」と話す。
 2022年は実質国内総生産(GDP)が前年比約3割減だったが、今年4~6月期の成長率(推計値)は前年同期比で19・5%伸びた。国際通貨基金(IMF)は、当初マイナスを予想していた23年成長率を2%と大幅に引き上げた。侵攻後に26%を超えたインフレ率は10月に5・3%まで低下した。
 ▽ジレンマ
 ただ内実は厳しい。昨年激減した輸出額は今年1~10月、前年同期比16・4%減と一段と沈んだ。ポーランド国境の物流停滞の火種もくすぶる。外国に住む移民からの送金額も減少している。シンクタンク「連合ウクライナ」のエコノミストのオレクシー・クシュク氏は「経済を支える3本柱のうち穀物、鉄鋼の輸出と、外国からの送金は今後も厳しい。残るIT産業だけでは力不足だ」と指摘する。
 ウクライナ国立銀行は資本流出を防ぐため、政策金利をインフレ率より大幅に高い16%に設定。だが高金利は景気を冷やす効果があり、戦争の継続に必要な経済活動の足かせとなるジレンマを抱える。防衛産業関係者は「政府の補助金は少なく、運転資金の確保が難しい」と悩む。
 労働市場のミスマッチも深刻だ。失業率は約18%(推計値)と高水準だが、徴兵の影響で熟練労働者らが抜け、企業は人材不足に直面する。
 ▽貧困増
 しわ寄せは弱者に向かう。世界銀行はウクライナで1日6・85ドル(約千円)以下で暮らす貧困層の割合が21年の5・5%から22年に24・1%に急増したと試算する。
 困窮者に食事を配る支援活動を行うスキニア教会のヤロスラフ・タルビンスキー神父(39)は「列に並ぶ高齢者が増えた」と話す。攻撃が続く南部ヘルソンなどでは壊れた家に住み、食事もままならない人が多い。(キーウ共同=角田隆一)

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