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【ウクライナ大統領訪米】支援停滞、致命傷の恐れ 反攻失速、弾薬も不足

 ウクライナのゼレンスキー大統領はワシントンで軍事支援の継続を切実に訴えた。最大の後ろ盾である米国の支援停滞は「ロシアとの戦争に敗北するリスク」(イエルマーク大統領府長官)に直結する。反転攻勢が失速して弾薬不足が深刻化する厳しい局面で、米国の兵器供給が先細りすれば、ウクライナにとって致命傷となりかねない。

共同記者会見するウクライナのゼレンスキー大統領(左)とバイデン米大統領=12日、ワシントン(ゲッティ=共同)
共同記者会見するウクライナのゼレンスキー大統領(左)とバイデン米大統領=12日、ワシントン(ゲッティ=共同)
ウクライナへの軍事支援表明額
ウクライナへの軍事支援表明額
共同記者会見するウクライナのゼレンスキー大統領(左)とバイデン米大統領=12日、ワシントン(ゲッティ=共同)
ウクライナへの軍事支援表明額

 ▽一変
 「米国という戦略的パートナーの支援を信頼している。これからも同じだ」。12日、バイデン大統領との共同記者会見に臨んだゼレンスキー氏は「米国への信頼」を口にしたが、表情はこわばったままだった。
 ゼレンスキー氏の訪米は昨年2月の侵攻以来、3回目。ちょうど1年前の初訪問では議会で演説し、ウクライナ国旗を下院議長に渡して満場の喝采を浴びた。だが、待遇は一変。議会演説の機会は与えられず、議員への説明会でも歓迎ムードは薄かったとされる。
 ▽拍車
 ウクライナは6月からの反攻で、東部から南部に扇状に広がったロシア占領地を東西に分断する作戦を主軸に据えた。しかし塹壕や地雷原などで固められた幾重もの防衛線を突破できなかった。東部ではロシア軍が大規模に兵力を投入し、歩兵の犠牲をいとわない強攻策でじわじわ前進する。
 航空戦力で上回るロシア軍が制空権を掌握し、戦闘機の支援のないウクライナ部隊の進軍は遅れている。砲弾不足も表面化。北大西洋条約機構(NATO)によると、ウクライナ軍は1日の砲弾発射数は推計4千~7千発にとどまるが、ロシア軍は2万発に上る。
 ドイツのキール世界経済研究所によると、今年10月末までに米国が表明した軍事支援の総額は439億ユーロ(約6兆8900億円)で、2位のドイツの2・6倍に上る。米国が手を引けば埋め合わせをできる国はなく、ウクライナの苦境に拍車がかかるのは間違いない。
 ▽野心
 まず米国からの砲弾供給が減少し、火力の差が一層広がる恐れがある。欧州連合(EU)は来年3月までに砲弾100万発を送ると表明したが、まだ半分以下しか届いていない。
 ロシアが冬季のインフラ攻撃を本格化させたとの見方が出る中、防空態勢の弱体化も懸念される。サリバン米大統領補佐官によるとウクライナで首都キーウ(キエフ)や重要インフラの防衛を担う地対空ミサイルシステム「パトリオット」を追加提供できなくなる。
 都市やインフラの被害が広がると、経済活動が鈍り、戦費調達も困難になる。ウクライナ政府が、救急や警察を含む公務員の給与を支払えなくなる可能性もある。
 ロシアは戦時経済体制を強化して長距離ミサイル、無人機、砲弾を増産し、長期戦に備えている。ゼレンスキー氏は11日の演説で訴えた。「自由世界が(支援を)ためらえば、独裁国家を喜ばせ、その野心を増幅させることになる」(キーウ共同=小玉原一郎)

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