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ロ大統領と国民 反欧米共有 軍事作戦は「破滅的な過ち」 ソ連時代から報道の自由追究するジャーナリスト ベネディクトフ氏

 ウクライナ侵攻から今月24日で2年。ソ連時代末期から独立系ラジオ局「モスクワのこだま」で報道の自由を追究し続けたロシアの著名なジャーナリスト、アレクセイ・ベネディクトフ氏に話を聞いた。

アレクセイ・ベネディクトフ氏
アレクセイ・ベネディクトフ氏

 就任当初に欧米との協力を進め、日本との北方領土問題も解決しようとしたプーチン大統領が明確に方向転換したのは、国際会議で北大西洋条約機構(NATO)拡大を強く批判した2007年だった。
 元々ロシア国民にはリベラルな欧米的価値観、民主主義を尊重する機運はない。2000年の就任以来ほぼ60%以上を保ってきたプーチン氏の支持率は、08年のジョージア(グルジア)軍事衝突や14年のクリミア半島併合、ウクライナでの軍事作戦の際には85~88%になった。帝国主義的な方向性、戦争が25%も支持を高める。国民のこうした反欧米気質がプーチン氏を生んだ。彼は大多数の国民と同じなのだ。
 中国、イスラム過激派のテロ、NATOの三つを脅威と見るプーチン氏の戦略は当初から変わっていない。最初はイスラム過激派が最大の脅威だった。クリミア併合のころから主な脅威はNATO、つまり欧米になった。妥協の余地は探るが拒否されれば戦うしかない、というわけだ。
 ウクライナでの軍事作戦は破滅的な過ちだ。脅威は軽減せず、逆に高まった。破壊の後も放射性物質の悪影響が長期間続く核兵器に似ている。
 作戦開始後、憲法が検閲を禁じているのに民主主義を抑圧する法律が作られ、反対意見は制限された。私も(スパイとほぼ同義の)「外国のエージェント」に指定された。異論派を「人民の敵」と糾弾したスターリン時代と変わらない。ロシアの民主化は死んではいないが、ひどく萎縮した。
 「ロシアの価値観を守れ」と繰り返すプーチン氏は現代人ではない。ソ連的気質の人だ。彼だけでなく大多数のロシア人の考え方が過去の遺物なのだ。多くの国民が、ゴルバチョフ(元ソ連大統領)とエリツィン(初代ロシア大統領)がやった革命的なソ連崩壊で職や社会保障を失い、病院や大学は閉鎖された。ソ連システムの受益者だった国民は、大混乱はもうたくさんだと思っている。
 そういう人々にとって、安定を回復したプーチン氏は神話になった。安定の象徴、二度と革命が起きないための保障だ。
 私の夢は自分の息子が自由で民主的なロシアで暮らすことだが、ロシアには困難な将来が待っている。全てをゼロからやり直さなければならない。私は結果を見ることはできないだろう。
 私たちはゴルバチョフ氏が与えてくれた民主主義を守れなかった。汚職やプーチン氏の愛人問題を追いかけ、近づく軍靴の音や社会の軍事化に気付かなかった。全て人任せにして自分は何もしない国民の態度が今の結果を招いた。ラジオ局は閉鎖されたが、通信アプリやユーチューブで意見を伝えることはできる。国に残って視聴者と困難を共有し、ジャーナリストの仕事を続けるのが私の責任だ。

 アレクセイ・ベネディクトフ氏 1955年12月モスクワ生まれ。教員や新聞記者を経て90年にラジオ局「モスクワのこだま」創設に参加。自由な報道でゴルバチョフ・ソ連大統領(当時)が進めた民主化の象徴となった。98年編集長。局はウクライナ侵攻開始直後の2022年3月、虚偽情報を流したとして当局にサイトを遮断され解散を強いられた。

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