テーマ : ウクライナ侵攻

ウクライナで拘束中の米ブロガーはなぜ死んだのか?ロシア侵攻正当化の疑いで治安当局逮捕 イーロン・マスク氏らも調査要求、米国政府は論評避ける

 ウクライナ在住の米国人ブロガーがロシア侵攻を正当化する虚偽情報を流布したとして、ウクライナ治安機関に逮捕され、拘束中に死亡した事件が波紋を広げている。遺族らは逮捕は不当で、重病にもかかわらず、十分な医療も受けられなかったと批判。米企業家イーロン・マスク氏らも調査を要求したが、ウクライナ当局は逮捕は適法だと退けた。米国務省はコメントを避けている。(共同通信=太田清)

ゴンサロ・リラ氏。同氏のユーチューブ画面から(共同)
ゴンサロ・リラ氏。同氏のユーチューブ画面から(共同)
イーロン・マスク氏=2023年12月15日撮影(ゲッティ=共同)
イーロン・マスク氏=2023年12月15日撮影(ゲッティ=共同)
タッカー・カールソン氏=2023年11月20日撮影(ゲッティ=共同)
タッカー・カールソン氏=2023年11月20日撮影(ゲッティ=共同)
ウクライナのゼレンスキー大統領=1月16日撮影(ゲッティ=共同)
ウクライナのゼレンスキー大統領=1月16日撮影(ゲッティ=共同)
キーウ近郊ブチャに設けられた戦争犠牲者の墓地。2023年10月7日(ゲッティ=共同)
キーウ近郊ブチャに設けられた戦争犠牲者の墓地。2023年10月7日(ゲッティ=共同)
ゴンサロ・リラ氏。同氏のユーチューブ画面から(共同)
イーロン・マスク氏=2023年12月15日撮影(ゲッティ=共同)
タッカー・カールソン氏=2023年11月20日撮影(ゲッティ=共同)
ウクライナのゼレンスキー大統領=1月16日撮影(ゲッティ=共同)
キーウ近郊ブチャに設けられた戦争犠牲者の墓地。2023年10月7日(ゲッティ=共同)

 ▽何の支援もない
 死亡したのは米国とチリの二つの国籍を持つゴンサロ・リラ氏で、昨年5月、東部ハリコフの自宅を捜索され、逮捕された。その後、保釈されて自宅軟禁となったが、ハンガリーに向け国外逃亡を図った(リラ氏は政治亡命のためと主張)ことで再度拘束された。
 昨年12月に予定された初公判で有罪となれば最高8年の禁錮刑が科される可能性があったが、体調を崩し、今年1月上旬、55歳で死亡した。死亡場所についてはハリコフの病院と拘束施設の2説ある。
 死因は明らかでないものの、リラ氏の父親は、生前同氏が残したとされる手紙を公開。そこで、リラ氏は肺炎や気胸など深刻な病状となりながら、拘束施設側から必要な手当てを受けていないと訴えた。父親はリラ氏が拘束施設で拷問を受けたと主張したほか、米国大使館もリラ氏の苦境に対し何の支援もしてくれなかったと強調した。
 ▽言論の自由保障
 リラ氏の逮捕を巡っては、米保守系テレビ、FOXニュースの元司会者でジャーナリストのタッカー・カールソン氏がSNSで「リラ氏はゼレンスキー・ウクライナ大統領を批判したことで、収監され拷問を受けた。バイデン米政権もこれを容認している」と表明。マスク氏も同様に、多額の資金支援をしている米国の市民がゼレンスキー大統領を批判したことで投獄されたとすれば「重大な問題」と懸念を示し、調査を求めた。
 これに対し、ロシアなどのプロパガンダ(政治宣伝)に対抗して正確な情報を提供する目的で設立されたウクライナ政府の戦略コミュニケーション・情報安全保障センター(SPRAVDI)は昨年12月10日、自らのサイトに反論を掲載。
 ロシア侵攻によりウクライナは戒厳令下にあるが、言論の自由は保障され大統領を批判しても罪には問われない。リラ氏訴追の理由は、ゼレンスキー氏批判ではなく、ロシア侵攻後に施行され、侵攻を正当化することなどを禁じた刑法の条項に抵触したからだとの主張を展開した。
 その上で、同氏がウクライナの政権をネオナチと定義しロシア侵攻を正当化したほか、ロシア軍によるウクライナの都市へのミサイル攻撃や、首都キーウ(キエフ)近郊ブチャでの虐殺を否定、さらにウクライナ兵士を撮影して侮辱したとして、リラ氏が違法行為を行ったのは明らかだと指摘した。
 また、リラ氏が拘束され続けているのは、自宅軟禁を破り国外に逃走しようとしたからだとした上で、同氏がウクライナでの戦争を報道している米国人記者らの滞在先を公表し、ロシアのテロ行為による危険にさらしたと逆に批判した。
 逮捕直後、ロシア外務省のザハロワ情報局長は逮捕を違法として非難する声明を発表していた。
 ▽独立調査求める声も
 米誌ニューズウィーク電子版やFOXニュースによると、米国務省はリラ氏の死亡を確認した上で、「遺族に対し心からのお悔やみを申し上げる。あらゆる領事部門の支援を行う用意がある」としながらも「さらなるコメントはない」と、リラ氏の死因や与えられた医療が適切だったかどうかなどについての論評を避けた。
 筆者もリラ氏の死去を受け、SPRAVDIに対し、生前の同氏や遺族が主張する拷問の事実や不十分な医療提供について、メールでコメントを求めたが、原稿執筆時までに回答はなかった。
 タス通信によると、ドイツの右派ポピュリスト政党「ドイツのための選択肢(AfD)」選出のベルンハルト・ジムニオク欧州議会議員は、欧州安保協力機構(OSCE)監督下で「リラ氏の死亡について独立的な調査」を行うべきだと主張した。
 ▽死ぬべきでなかった
 複数の米メディアによると、リラ氏は動画投稿サイトなどで女性蔑視、反フェミニズム的な発言を繰り返していたが、ロシアのウクライナ侵攻後は、ロシアを擁護しウクライナを非難する発言が中心となり、同サイトやSNSなどで多くの視聴者を獲得していた。
 しかし、その主張があまりに親ロシア的であることから「クレムリンのプロパガンダ」に利用されているとの批判も数多くあった。
 リラ氏死去をSNSで初めて伝えた一人である英国人ジャーナリスト、キット・クラレンバーグ氏は、SNSで「私はほぼ全ての点で、彼の主張には同意できないが、彼はウクライナの拘束施設で死ぬべきではなかった」と語った。

いい茶0

ウクライナ侵攻の記事一覧

他の追っかけを読む
地域再生大賞