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「積極的防衛」で持久戦 ウクライナ、戦略転換 攻勢のロシア、主導権奪う【表層深層】

 ロシアのウクライナ侵攻から24日で2年となる。ロシアは緒戦の失態を挽回して攻勢を強め、戦場の主導権を奪い返した。米国の支援停滞で弾薬不足に陥ったウクライナは現在の防衛線を維持して敵の弱点をピンポイント攻撃する「積極的防衛」戦略への転換を図る。全土奪還の旗印は変えずに反撃の機会をうかがうが、ロシアの防衛線突破は至難の業で、持久戦が長期化する見通しだ。
ウクライナ侵攻2年の経過/数字で見るウクライナ侵攻 互角以上
 「状況は極めて厳しい。ロシアは兵士の数で勝っている。敵の進軍を阻止して陣地を保つためにあらゆることをする」
 8日就任したシルスキー軍総司令官は14日、東部戦線を視察後に強調した。就任前には「われわれは攻勢から防御に転じた。狙いは敵を消耗させて最大限の損失を与えることだ」と発言。東部の前線では鉄条網や「竜の歯」と呼ばれる戦車障害物の設置が進められる。
 ウクライナは2022年の侵攻直後、首都キーウ(キエフ)近郊でロシア軍部隊を撃退した後、同年秋の東部・南部での電撃的な領土奪還や黒海クリミア半島方面の奇襲といった一連の作戦を通じ、総じて互角以上に渡り合った。軍事大国ロシアは受け身を強いられた。

ウクライナ東部ドネツク州の前線で配置に就くウクライナ兵=19日(AP=共同) 次に備え
 だが、初動の混乱から立ち直ったロシアは占領地の全ての境界で、塹壕(ざんごう)と地雷原による防衛拠点を一気呵成(かせい)に築き上げた。23年6月からのウクライナ軍の反転攻勢では、欧米供与の戦車を多数破壊。同年秋からは東部州の激戦地に大兵力を投入し、24年2月の東部要衝アブデーフカ制圧で優勢の流れを引き寄せた。
 欧米では反攻が失速した頃から、ウクライナは占領地奪還より、領土防衛に集中すべきだとの意見が強まっていた。前線を固めた上で、無人機や長射程兵器で後背の陣地や補給路を襲う「積極的防衛」論だ。
 シルスキー氏も24年1月に積極的防衛に言及。ゼレンスキー大統領は2月22日公開の米メディアとの会見で「防衛が第1の任務だ」と強調した。攻勢をしのいで次の反攻に乗り出して「ロシアを驚かせる」と主張した。

分水嶺
 防衛戦で緊急に必要なのは弾薬と防空システムの補充、兵士の追加動員だ。ウメロフ国防相によると、ウクライナの砲弾発射数は1日2千発に届かないが、ロシアはその3倍を使っている。
 アブデーフカで指揮を執った司令官は、その差は10倍だったと証言した。ロシアが北朝鮮とイランから弾道ミサイルや無人機を調達する一方、ウクライナは後ろ盾の米国で約600億ドル(約9兆円)の追加支援が承認されず、「弾切れ」におびえている。
 防空システムも前線の部隊と都市部の民間人を守るために欠かせないが、米当局者は追加支援がなければ現状の防空態勢を3月までしか維持できないとみている。
 米紙ニューヨーク・タイムズによると、ウクライナ軍の死傷者は少なくとも17万人と推計され、疲弊した前線兵士は交代を待ちわびる。軍は50万人規模の動員が必要とするが、政権は国民の不満を高めると慎重だ。政治と軍の間にあつれきが生じている。
 ウクライナ情勢は今、分水嶺(れい)にある。米国の外交専門家マックス・ブート氏は「米国が追加支援に失敗すれば、ウクライナにとって取り返しのつかない大惨事となる。支援なしでは、間違いなく敗北するだろう」と警告する。
 (キーウ共同)

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