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【ウクライナ支援と米大統領選】米の国際関与継続を 同盟75周年へ新組織 NATO前事務総長 アナス・フォー・ラスムセン

 ロシアがウクライナへ侵攻して2月24日で2年。私はゼレンスキー大統領の要請を受け、イエルマーク大統領府長官と共に1月末、欧州諸国の首脳経験者やクリントン元米国務長官らの要人から成る国際ハイレベル作業部会を立ち上げた。

アナス・フォー・ラスムセン・NATO前事務総長
アナス・フォー・ラスムセン・NATO前事務総長

 新組織の仕事は、イエルマーク氏と私が2022年9月に示した「キーウ安全保障盟約」の上に築かれる。北大西洋条約機構(NATO)創設75周年となる今年7月のワシントン首脳会議に向け、ウクライナ加盟の道筋を探るのが目的だ。
 キーウ安保盟約は、加盟が実現するまでの移行期、西側主要国がウクライナを個別に軍事支援し「安全の保証」を与えるよう提言した。昨年の先進7カ国(G7)やNATOの首脳会議に合わせて検討された。
 その議論を踏まえ、2国間の安保協定締結交渉が進んでいる。1月12日にウクライナと英国の交渉がまとまり、フランスとも近い将来、妥結するだろう。米国とはまだ時間がかかりそうだが、ドイツやカナダとの交渉も進展している。
 ただ、われわれが目指すのはあくまでウクライナのNATO加盟である。昨年のNATO首脳会議は「各国が同意し、条件が整えばNATOに招く」ことで合意した。これをさらに進め、具体的な「条件」を詰めていかなければならない。
 とはいえ(北大西洋条約は、特定の加盟国への攻撃を全体への攻撃と見なしているため、ロシアに侵攻されているウクライナをNATO加盟国として受け入れるには)取り除かなければならない障害がある。
 だからこそ、世界の要人から成る作業部会で検討を重ね、ワシントン首脳会議に向けて入念な準備を進めたい。イエルマーク氏も述べているように、ウクライナの安全を確保し、新たな侵略を防ぐにはNATOへ組み入れることが必要である。
 そうした取り組みを成功に導くには、やはり米国の指導力が欠かせない。米国が引きこもると(その隙に乗じ、力の空白を埋めようとする)独裁者が台頭することを歴史は教えている。近年、権威主義陣営に押されているのはそのためだ。
 ロシアのプーチン大統領がウクライナで成功を収めれば、世界の強権指導者に悪いサインを送ることになる。クリミア半島を併合したのに何のおとがめもなければ、台湾を奪取しても許されると、中国の習近平国家主席は判断するだろう。
 ウクライナと台湾は地理的に離れていても、明確なつながりがあるということだ。権威主義の攻勢を押し返し、今の流れを逆転させなければならない。米国には内向きの自国第一に陥らず、国際問題への関与を続けていってほしい。
 1月にワシントンを訪れ、ウクライナ支援に懐疑的な人々を訪ねてきた。保守強硬派の共和党下院議員でつくる「自由議連」のメンバーや、トランプ前大統領の補佐官だった人たちと意見を交わし、支援継続の重要性を説いて回った。
 今年は米大統領選の年でもある。(共和党の指名獲得に向け、トランプ氏が予備選で独走しつつある現状を目の当たりにし)若干の懸念を抱きながら、米国政治の展開を見守っている。(談)
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 ANDERS・FOGH・RASMUSSEN 1953年、デンマーク・ユトランド半島生まれ。首相を経てNATOの第12代事務総長に。2014年に退任後、コンサルティング会社「ラスムセン・グローバル」を創設。

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