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【ウクライナ侵攻2年】プーチン政権の呪縛か ロ国民多くが戦争支持

 ロシア国民の多くがプーチン政権の呪縛にとらわれているのではないか。2022年2月からのウクライナ侵攻で増え続ける犠牲者一人一人に、かけがえのない人生があった。遺族の苦しみは抱え切れないほど大きい。ロシアの遺族も同じはずだが、国内の侵攻支持者は多いとされる。
 「銃を向けてきたロシア兵は何かに操られているかのようだった」。ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊ブチャが22年3月に占領された際の記憶をアンドリー神父(51)は、こう振り返る。ブチャでは、解放までの約1カ月間で市民ら400人以上が虐殺された。
 神父の感想が、ロシア兵の心理状態を言い表しているように思えた。人間を銃や刃物で、ためらいなく殺害できるとしたら、何かに操られているからだろう。神父は、ロシア兵は「野犬のような目をしていた」とも表現した。
 この「何か」は、政権の行為を正しいと思い込ませる巧妙なプロパガンダや、異を唱える人々への弾圧だ。戦争の原因や被害の責任をウクライナに押しつける国営テレビの情報、プーチン大統領の言説などがロシア国民を真実から遠ざけている。
 ロシアの独立系機関が2月下旬に実施した世論調査の結果では、76%がウクライナでの「特別軍事作戦」を支持した。100%ではないのが救いだ。一方で、プーチン政権と対立して投獄され、ウクライナ侵攻を批判して獄中で死亡した反政府活動家ナワリヌイ氏のモスクワでの葬儀には、数キロもの列ができ、戦争に反対する市民の存在を裏付けた。
 プーチン氏は、侵攻を始めた日「ロシアと自国民を守るためには、この手段しか残されていない」と語った。自国民を守るためになぜ、市民の虐殺や民家への攻撃が必要なのか。言い分は破綻している。
 ウクライナの遺族の姿が届けばきっと、ロシア国民は頬をたたかれた気持ちになるはずだ。「これがオレクシー、これがミハイロ、これがパブロ…」。ウクライナ東部ハリコフで、幼い子どもたちの写真を、いとおしそうに指でなぞった女性(63)の姿が、まぶたに焼き付いている。ロシア軍のドローン攻撃が招いた大規模火災で孫3人と息子夫婦を亡くし、黒焦げになった家の前で泣き崩れていた。
 「独裁政権下の恐怖の中で生きるうち、ロシア国民の多くが正常に考える気力を失った。自分が何をしようと社会は変わらないと、あきらめてしまっている」。ロシア軍の人権侵害を記録し、22年にノーベル平和賞を受賞したウクライナの人権団体の代表、オレクサンドラ・マトイチュク氏(40)は分析する。
 マトイチュク氏は「ウクライナがロシアを止めることが、ロシア国民の目を覚まさせるきっかけになる」と強調した。そのためにも、国際社会はウクライナで日々起きる悲劇を忘れず、支援を継続しなければならない。(共同通信ロンドン支局 伊藤隆平)

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