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ウクライナ軍トップ解任 国民的人気も大統領と確執 国内結束 揺らぐ恐れ【ウクライナ侵攻】

 【キーウ共同】ウクライナのゼレンスキー大統領は8日、ワレリー・ザルジニー軍総司令官(50)を同日付で解任し、後任にオレクサンドル・シルスキー陸軍司令官(58)を任命した。ロシア軍占領地の奪還が進まず、戦況が膠着(こうちゃく)する中、ゼレンスキー氏は軍の「緊急の変革」が必要だと訴え、指揮系統や戦略を見直す考えを表明。確執が伝えられてきた国民に人気の高い軍トップ更迭に踏み切った。

8日、握手するウクライナのゼレンスキー大統領(左)とザルジニー軍総司令官=キーウ(ウクライナ大統領府提供、ロイター=共同)
8日、握手するウクライナのゼレンスキー大統領(左)とザルジニー軍総司令官=キーウ(ウクライナ大統領府提供、ロイター=共同)
ゼレンスキー、ザルジニー両氏の見解の相違
ゼレンスキー、ザルジニー両氏の見解の相違
8日、握手するウクライナのゼレンスキー大統領(左)とザルジニー軍総司令官=キーウ(ウクライナ大統領府提供、ロイター=共同)
ゼレンスキー、ザルジニー両氏の見解の相違


 ロシア軍の侵攻開始時から陣頭指揮を執ってきたザルジニー氏は軍内部の信頼も厚く、解任は軍の士気や国内の結束に影響を与える可能性もある。米欧によるウクライナへの支援疲れが懸念される中、ロシアは東部で攻勢を強めている。24日の侵攻2年を前に、戦争は新たな局面を迎えた。
 米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は8日「誰が軍を指揮しようと、われわれは一緒に働く」と述べ、軍事上の混乱が生じる可能性を否定した。
 ゼレンスキー氏は「昨年は地上戦で目標を達成できなかった。南部戦線の停滞や東部での苦戦が社会の雰囲気に影響した」と指摘。一方、これまでの功績を評価し、ザルジニー氏に要職にとどまるよう求めた。
 両氏はそれぞれの通信アプリに笑顔で握手している写真を投稿した。円満な交代をアピールし、国民の反発や混乱を防ぐ狙いがあるとみられる。
 ロシアのペスコフ大統領報道官は9日、今回の人事について「ウクライナでの軍事作戦の進行を変える要因ではない。目標達成まで継続する」と話した。インタファクス通信が伝えた。
 ザルジニー氏は英誌が昨年11月に報じたインタビューで、戦争が「膠着(こうちゃく)状態」にあると発言したが、ゼレンスキー氏はこれを否定。昨年12月の記者会見で「戦場で起きていることはザルジニー氏と参謀本部に責任がある」と述べていた。
 ザルジニー氏は2014年以降、東部紛争で親ロ派武装勢力との戦闘を指揮し、21年7月にゼレンスキー氏が軍総司令官に任命した。侵攻直後、首都防衛に成功し、東部や南部でロシア軍を退却させる戦果を上げた。
 シルスキー氏は22年秋の東部ハリコフ州奪還作戦の功労者。一方、東部バフムトの攻防で多くの戦死者を出したことへの否定的評価もある。
大黒柱更迭 深まる苦境  ウクライナのゼレンスキー大統領が8日、ロシア軍の侵略を食い止めてきたウクライナ軍の大黒柱で、人望のあるザルジニー総司令官を解任した。前線でロシア軍に徐々に押し込まれ、米国の軍事支援が宙に浮くタイミングでの更迭劇。ゼレンスキー氏に近い後任の司令官には不評がつきまとう。政権と軍の不和はロシアを利し、苦境がさらに深まる恐れがある。
 ゼレンスキー氏は解任発表後、左手でピースサインをしたザルジニー氏と笑顔で握手する写真を通信アプリに投稿した。「(軍を)刷新する時が来た」。あつれきが指摘されていたものの、相手が納得した上での「交代」だと強調し、国民的人気のザルジニー氏の解任で動揺が広がらないよう腐心した。

 ■虐殺者
 後任のシルスキー陸軍司令官は、ゼレンスキー氏の前線視察にたびたび同行し、忠誠心が厚いとされる。ゼレンスキー氏は声明で、2022年秋、東部ハリコフ州からロシアを退却させた電撃作戦の功労者だと持ち上げてみせた。しかし翌23年、ハリコフ州に隣接するドネツク州のバフムトの防衛戦を指揮した際、激戦の末に兵士を多数失って、撤退に追い込まれた。攻防で廃虚と化し、戦略的重要度が落ちたバフムトを守ろうと、不必要な犠牲を強いたため「虐殺者」とも呼ばれた。
 軍事作戦に政治家の介入を許し、下士官や兵士に無理難題を押し付けているとの見方も。ザルジニー氏に比べ軍内部の人気は高くなく、キーウの外交筋によると、支援国の当局者の間ではシルスキー氏の統率能力を疑問視する声もある。

 ■刷新へ
 ウクライナ軍は23年6月に開始した反転攻勢で期待通りの戦果を上げられず、厳しい状況に追い込まれている。ハリコフ州やドネツク州では、投入する兵士や砲弾の数で勝るロシア軍が制圧地をじわりと広げつつある。
 兵員確保に苦慮する軍は45万~50万人規模の動員を要請しているとされるが、ゼレンスキー氏は慎重姿勢を崩さず、動員法案の議会審議は遅れる。ウクライナ軍が前線で使う砲弾は1日2千発以下に減り、ロシア軍の3分の1以下だとの推計もある。後ろ盾の米国の軍事支援も与野党の対立で見通せない。
 ゼレンスキー氏は「今年を決定的な年にしなければならない」と戦局転換の必要性を声高に訴え、ロシアに併合されたクリミア半島を含め全土を奪還する方針を崩していない。一方、米国はロシアのさらなる領土侵食を阻むため防衛に重きを置いた戦略に転換するよう求めているとされる。
 評論家のオレクサンドル・コワレンコ氏は「ザルジニー氏は軍だけでなく、多数の国民に敬愛されてきた。政権への支持も低下するだろう」と分析する。ロシアが更迭劇を利用し、ウクライナ国内の分断を図ろうとするのは必至。ゼレンスキー氏が踏み切った軍の「刷新」が裏目に出る可能性は否定できない。
 (キーウ共同)

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