テーマ : ウクライナ侵攻

バレエで「心に栄養を」 ウクライナ首都の名門 侵攻下、新たな芸術模索

 1世紀以上の歴史を持つ名門ウクライナ国立バレエはロシアの侵攻後も、首都キーウ(キエフ)のウクライナ国立歌劇場で公演を重ねてきた。バレエ芸術監督を務める寺田宜弘さん(47)は団員の戦死や先の見えない未来に悩みながらも「空襲におびえる国民の心に栄養を届けたい」と強調。華麗さで観客に戦禍を一時でも忘れさせられる新たな芸術の創造を模索している。

ウクライナ国立歌劇場で観客から拍手を受けるダンサーら=11月、キーウ(共同)
ウクライナ国立歌劇場で観客から拍手を受けるダンサーら=11月、キーウ(共同)
取材に応じる「ウクライナ国立歌劇場」バレエ芸術監督の寺田宜弘さん=10月、キーウ(共同)
取材に応じる「ウクライナ国立歌劇場」バレエ芸術監督の寺田宜弘さん=10月、キーウ(共同)
団員と稽古するカテリナ・ミクルハさん(中央)=10月、キーウ(共同)
団員と稽古するカテリナ・ミクルハさん(中央)=10月、キーウ(共同)
戦死した団員オレクサンドル・シャポワルさんの追悼公演プログラムを手にするテチャナ・リョゾワさん=10月、キーウ(共同)
戦死した団員オレクサンドル・シャポワルさんの追悼公演プログラムを手にするテチャナ・リョゾワさん=10月、キーウ(共同)
ウクライナ・キーウ、ドネツク州
ウクライナ・キーウ、ドネツク州
ウクライナ国立歌劇場で観客から拍手を受けるダンサーら=11月、キーウ(共同)
取材に応じる「ウクライナ国立歌劇場」バレエ芸術監督の寺田宜弘さん=10月、キーウ(共同)
団員と稽古するカテリナ・ミクルハさん(中央)=10月、キーウ(共同)
戦死した団員オレクサンドル・シャポワルさんの追悼公演プログラムを手にするテチャナ・リョゾワさん=10月、キーウ(共同)
ウクライナ・キーウ、ドネツク州

 昨年12月の公演リハーサル。ダンサーの舞が優雅な音楽と調和し、観客の心を震わせる。激戦地からの休暇中に招待された若い兵士は、客席で人目をはばからず涙を流した。
 会場にいたプリマバレリーナは「地獄のような戦場で戦友と死別し、押し殺していた感情があふれたようだ」と振り返る。芸術が喜怒哀楽を取り戻す後押しになるという思いが団員に広がった。
 同劇場は昨年2月の侵攻開始後、一時閉鎖されたものの、数カ月後に再開した。空襲警報があれば公演は中断する。定員は地下へ避難できる3分の1ほどに制限され、団員の給与は3割カット。多くは国外へ避難した。
 仲間も失った。オレクサンドル・シャポワルさん=当時(47)=は演技派で知られた。一線を退きバレエ学校教師として活躍中、侵攻が発生。従軍して半年余りの昨年9月、東部ドネツク州でロシア軍の迫撃砲の犠牲になった。
 共に舞台に立ったテチャナ・リョゾワさん(39)は「踊れる日常が当たり前ではないと痛感している」とため息をついた。稽古場では団員や家族が前線で亡くなったと繰り返し耳にするとし、目元を拭った。バレエ団は今年2月に追悼公演を開催、リョゾワさんも舞に特別な思いを込めた。
 寺田さんは昨年12月、芸術監督に就任した。引き受けるかどうか悩んだが「国民は暮らしで手いっぱい。外国人だから、今を戦時の芸術を生み出す機会に捉えられる」と考えた。11歳で単身キーウへ渡り、同劇場で踊ってきた自身の使命だと感じている。
 理想を担う次世代が活躍しつつある。避難先のオランダのバレエ団と契約していたソリストのカテリナ・ミクルハさん(20)は今年6月、祖国で生きる覚悟を胸にキーウに戻った。「戦時でも喜んで拍手してくれる観客がいる。戦争の恐怖を忘れさせる演技をしたいと思うようになった」と公演の主役を張る。
 1897年から活動するバレエ団は戦争や政変といった苦難を乗り越えてきた。寺田さんは先輩に「苦境の時こそ積極的に動くのが伝統だ」と教えられた。戦時中のウクライナ国内には重苦しい雰囲気が漂う。団員と共に芸術の力を信じ「国民の心を豊かにしたい」と語った。(キーウ共同=松下圭吾)

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