【ウクライナ】苦境のゼレンスキー大統領 米欧支援見直し、和平論も 対ロ反攻作戦の失敗で
ウクライナが6月に開始したロシアに対する反転攻勢は大きな成果を出せずに失敗、戦場は進軍が困難となる雨期を迎えた。米欧諸国では失望感からウクライナ支援を見直す動きが強まり、パレスチナ情勢緊迫化も受け、ロシアとの和平を求める声が台頭してきた。ゼレンスキー大統領は、米欧の支援が止まれば「ウクライナは敗北する」と警鐘を鳴らす。2024年3月に任期が満了するゼレンスキー氏の「正統性」を問う声も浮上。同氏は苦境に立たされている。
▽新たな戦略を
ウクライナ軍は東部ドンバス地域の領土奪還と、南部ザポロジエ州でアゾフ海近くのメリトポリを制圧してクリミア半島への補給路分断を目指したが、実現できなかった。
ロシアから奪還した面積は約300平方キロ。ロシアが占領するウクライナ領土約2割のうち、0・5%にも満たない。
ウクライナ軍を指揮するザルジニー総司令官は11月初め英誌エコノミストに対し、戦線が「膠着(こうちゃく)状態」に陥り、ウクライナ軍の「突破口は恐らくない」と述べ、反攻作戦の失敗を認めた。膠着状態が長引けば、武器や兵員で勝るロシアに有利となると危機感を示した。
バイデン米政権は、ウクライナ支援の議会承認に手を焼いており、サリバン大統領補佐官は「(支援の)窓が閉まりつつある」と懸念を表明。
こうした中、米NBCテレビは、米欧とウクライナの当局者が10月にロシアとの和平交渉の可能性を協議したと報じた。
米メディアでは、ウクライナへの「際限なき支援」を見直し、停戦も含め「新たな戦略」を模索せよとの論調が強まっている。
▽戦勝ムード
ゼレンスキー大統領は9月に米国を訪問し支援継続を訴えたが、米議会は慎重だった。米欧の支援が止まれば、ウクライナの軍事作戦は行き詰まり、財政も破綻する恐れが強い。ゼレンスキー氏は米欧の関心が中東に移ったと懸念、支援獲得に全力を挙げる構えだ。
ウクライナ国防省によると、ロシア軍は900基以上のミサイルを確保し、今後約3カ月の厳しい冬の期間、ウクライナ各地の発電施設などを攻撃するとみられる。
一方、ゼレンスキー大統領、ザルジニー総司令官は米欧からの武器供与が「不十分で遅い」と不満を募らせている。ウクライナ軍は弾薬も不足している状況で、2024年は進撃できず、防衛専念を迫られるとの厳しい見方を示す軍事専門家もいる。
ロシア軍はウクライナ軍の大幅な進撃は阻んだものの、具体的な戦果はない。しかし、ウクライナの苦境を横目にロシアで“戦勝ムード”が漂ってきた。
ペスコフ大統領報道官は11月半ば「ロシアに戦争で勝つなど不可能と悟るべきだ」と豪語。「ウクライナがこれを理解すれば展望が開ける」と述べ、和平交渉の可能性を示唆した。
ただ、ロシアの言う和平は、占領地域のロシア併合をのむ事実上の降伏で、ウクライナは受け入れ難い。
ロシアの強気の裏に、2024年11月の米大統領選でウクライナ支援に否定的なトランプ前大統領が勝利するとの期待があるのは間違いない。
▽政権の正統性
2024年3月末のゼレンスキー大統領の任期満了が近づく中、「政権の正統性」を保つため、戦時であっても大統領選を実施すべきだとの声が内外から浮上。ゼレンスキー氏は揺れたが、結局「今は選挙に適切な時期でない」と延期を表明した。
ロシア国営メディアは「独裁者ゼレンスキーは永遠に権力にしがみつくつもりだ」と攻撃。2024年3月のロシア大統領選で当選が確実視されるプーチン大統領との「正統性の違い」を強調した。
追い打ちとなったのは、ウクライナ大統領府長官顧問だったアレストビッチ氏の次期大統領選への出馬表明だ。ユーチューブを通じ大きな影響力を持つ同氏は、ロシアとの停戦、北大西洋条約機構(NATO)加盟を優先し、占領地域の返還は「プーチン後のロシア」と交渉すると主張。戦争で疲弊した国民の支持獲得に自身を示す。
現在、ウクライナ国民の76%はゼレンスキー大統領を信頼しており、80%は「全占領地を奪還するまで戦う」との大統領の立場を支持している。「領土を放棄してでも早期停戦を求める」声は14%だけだ。
今後も米欧から軍事、財政支援を取り付け、ロシアへの抵抗を陣頭指揮していけるのか―。ゼレンスキー氏は正念場に立たされている。