テーマ : 読み応えあり

安倍元首相国葬の検証 意見羅列、熱量上がらず 政府、基準作りは不透明

 安倍晋三元首相の国葬を検証する「たたき台」を政府がまとめた。有識者らのヒアリング結果の羅列にとどめ、政府としての見解は方向性すら示していない。検証作業は岸田文雄首相自ら言及したことだが、政権内では「熱量が上がらない」と後ろ向きな声が漏れる。野党が求める法的根拠の明確化や実施基準の策定は不透明なままだ。

日本武道館で行われた安倍元首相の国葬。下は追悼の辞を述べる岸田首相=9月、東京都千代田区
日本武道館で行われた安倍元首相の国葬。下は追悼の辞を述べる岸田首相=9月、東京都千代田区
安倍元首相の国葬=9月、東京都千代田区の日本武道館
安倍元首相の国葬=9月、東京都千代田区の日本武道館
安倍元首相国葬の経過と今後
安倍元首相国葬の経過と今後
日本武道館で行われた安倍元首相の国葬。下は追悼の辞を述べる岸田首相=9月、東京都千代田区
安倍元首相の国葬=9月、東京都千代田区の日本武道館
安倍元首相国葬の経過と今後


判断回避
 「聴取した意見は、法的根拠と憲法との関係、実施の意義、国会との関係、国民の理解、対象者、経費や規模の妥当性と、論点ごとに整理した」
 22日昼。松野博一官房長官は記者会見で、公表した文書について淡々と説明した。
 A4判で200ページ近いボリューム。半分は資料だが、大学教授や新聞・通信社の論説担当者ら21人から対面聴取した内容を、ほぼ100ページを割いて詳細に書き込んだ。
 松野氏が挙げた論点に従い聴取結果を仕分けている。とはいえ「安倍氏の訃報に接した国民の喪失感を埋め合わせた」「成果は不明確で国民の間に対立を残し、負の遺産を生んだ」など各論を併記しただけとも言える。
 内閣府国葬事務局は「幅広い有識者から聞くのが目的だ。意見の多寡で何か判断するのは控える」と踏み込みを避けた。

誘導設問
 9月27日に東京・日本武道館で営まれた国葬。安倍氏死去から6日後の7月14日に首相が実施を表明すると、じわじわと反対・慎重論が広がっていく。法的根拠の曖昧さ、吉田茂元首相以降なかった首相経験者の国葬に安倍氏はふさわしいのか、国民に弔意を強制しないか―。首相は9月8日の国会審議で「今後に役立つよう検証をしっかり行う」と約束した。
 事務局は10月中旬から作業に着手。約50人に打診したが半数以上に断られ、「20~30人」とした目標にかろうじて達した。10月3日召集の臨時国会で議論してもらう算段は狂い、今月10日の会期末に間に合わなかった。
 ヒアリングの進め方に違和感を持った有識者もいる。中央大の宮間純一教授はヒアリングに際し、内閣府の担当者から「法的根拠には問題がないので、議論するものではありません」と異論を封じるかのように説明されたという。
 設問にも、首相経験者の国葬を「時々の内閣がふさわしい判断をしてきたが評価するか」「国葬でどのようなレガシーが残ったか」など正当化へ誘導する印象を受けた。

急がぬ結論
 政府と別に衆院は議院運営委員会で独自に検証を行い、10日に「国会の関与が必要だと大方の意見が一致した」と明記した報告を取りまとめた。
 今後は国葬実施のルール作りが焦点になる。ただ首相が言う「検証」は必ずしも実施基準を指すわけではなさそう。公表文書は、13カ国の海外事例を調べたところ、ルールや基準を定めていない国が大半だと紹介した。首相周辺は「国葬はしばらくない。急ぐ必要ない」と漏らす。国民の批判が薄れるのを待ちたいというのが本音のようだ。
 これに対し宮間氏は「最終的に政治判断は正しかったと結論付けるだけなら、検証と言えるのか」と疑問を呈した。

いい茶0

読み応えありの記事一覧

他の追っかけを読む
地域再生大賞