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【男女平等】アイスランドが14年連続世界一なのはなぜ? ストライキが下支え、政治参加が先行

 世界経済フォーラムが発表する「男女格差(ジェンダー・ギャップ)報告」で、ジェンダー平等達成率が14年連続世界1位のアイスランド。女性大統領や首相を輩出する一方で、格差解消を求める女性のストライキなど地道な市民運動も続けられてきた。平等が進んだ理由や課題を研究者、政治家、起業家、あわせて5人に聞いた。(共同通信編集委員 尾原佐和子)

ストライキの集会に参加した女性たち=2023年10月、アイスランド・レイキャビク
ストライキの集会に参加した女性たち=2023年10月、アイスランド・レイキャビク
アイスランドの男女平等への歩み
アイスランドの男女平等への歩み
大塚陽子・立命館大教授
大塚陽子・立命館大教授
ビャルニ・ベネディクトソン・アイスランド外相
ビャルニ・ベネディクトソン・アイスランド外相
カトリン・オラフスドッティル・アイスランド大非常勤講師
カトリン・オラフスドッティル・アイスランド大非常勤講師
バルゲルドル・パルマドッティル・アイスランド大研究員
バルゲルドル・パルマドッティル・アイスランド大研究員
起業家のマルグレットさん
起業家のマルグレットさん
ストライキに参加した女性たち=2023年10月、アイスランド・レイキャビク
ストライキに参加した女性たち=2023年10月、アイスランド・レイキャビク
ストライキの集会に参加した女性たち=2023年10月、アイスランド・レイキャビク
アイスランドの男女平等への歩み
大塚陽子・立命館大教授
ビャルニ・ベネディクトソン・アイスランド外相
カトリン・オラフスドッティル・アイスランド大非常勤講師
バルゲルドル・パルマドッティル・アイスランド大研究員
起業家のマルグレットさん
ストライキに参加した女性たち=2023年10月、アイスランド・レイキャビク


 ▽背景に女性運動や北欧の福祉
 
 大塚陽子・立命館大教授
 
 アイスランドがジェンダー平等世界一となっている背景には主に三つの要因が挙げられる。一つは伝統的な女性運動の強さ。男女の賃金格差に抗議し、終業時刻を前倒ししてそれ以降働かないという方法でのストライキが何度も行われてきた。
 
 人口38万人の半分の女性がストライキをすれば経済は回らない。女性の存在がいかに重要かを実際に示すことで圧力をかけ続けた。
 北欧の福祉モデルの枠組みに入っていることも大きい。1997年に父親だけが2週間取得できる有給の育休制度を創設。その後拡充され、現在は母親が6カ月、父親が6カ月、6週間は共有できる。男性の取得率は8割を超え、給与補償も8割程度ある。父親のみの育休は、男性の権利、子どもにとって必要な時間となっている。

 過去50年間の約半分は女性が大統領や首相を務めた。企業役員の男女比を定めるクオータ制や罰則を伴う同一労働同一賃金の義務付けも女性首相によって導入された。

 2008年のリーマン・ショックに伴う国の経済危機も契機となった。その中で女性トップの企業は堅実路線を取っていたこともあり、女性の力を見直そうという機運が生まれ、女性大統領に続き女性首相誕生につながったとされる。

 外向きのジェンダー平等は進んだが、家庭内では性別役割分業意識や家父長制が強い。ドメスティックバイオレンス(DV)や性暴力につながっているとの見方もあり、残されている課題だ。
  ×   ×
 おおつか・ようこ 1965年生まれ。日本学術振興会海外特別研究員としてデンマーク国立社会研究所派遣、2003年から現職。専門は福祉政策とジェンダー論。

 ▽女性大統領誕生が契機に 

 ビャルニ・ベネディクトソン・アイスランド外相 

 アイスランドでジェンダー平等が進んだのは、育休制度などを充実させたことに加え、長い間社会的な議論を続けてきたことが大きい。
 
 突破口になったのは1980年の女性大統領の誕生だ。当時国民はこれほど世界的な話題になると思っていなかったし、どんな意味を持つのかよく分かっていなかった。
 
 女性で大丈夫かなど、今考えるとばかげていると思える批判もあった。しかし、彼女の存在がその後の社会のロールモデルとして大きな役割を果たすことになった。

 手本となる人がいて、もともと働く女性が多く、仕事もある。人口が少ないことや経済の発展も女性の活躍の場を広げたのではないか。

 賃金や機会平等のための法整備も進めてきた。50人以上の企業では役員会の男女の割合が、それぞれ4割以上になるよう定めている。外務省の男女の賃金格差はほぼなく、やや女性の方が高いぐらいだ。

 日本がジェンダー平等を進めるには、男性の育休取得に力を入れるのが一つの方法。仕事を休んでいる間のお金をどうするかといった問題はあるが、男性の育休取得は社会の意識や見方が変わる契機になる。女性の労働環境などを整えていくことも重要だ。
  ×   ×
 1970年生まれ。独立党党首。首相、財務・経済相を経て2023年10月から外相。

 ▽統計ではDVは見えない
 
 カトリン・オラフスドッティル・アイスランド大非常勤講師

 アイスランドの男女平等が進んでいるとされるのは、政治分野の影響が大きいからだ。16年間女性が大統領を務め、女性首相も2人いる。これが全体を押し上げる要因になっている。

 ただ、統計ではドメスティックバイオレンス(DV)や性暴力の問題が見えてこない。正確な実態はわからないが、ここ10年から20年の間の調査では女性の3人に1人が一生のうちになんらかの暴力を受け、4人に1人がDVを受けているとされる。

 セクハラやDVを禁止する法律が整備され、数は減ってきているが、個人の行動を変えるには長い時間がかかる。人々の潜在意識の中には保守的な考え方も根強い。それが良くないことだと気付いていない例もある。性暴力を犯罪と認める割合が低いという指摘もある。

 女性の経済的自立はDVの解決にとても重要だが、一方で女性が男性から去ろうとした時が一番ひどいDVにつながることが多く、危険なタイミングでもある。

 また、女性の地位が上がると男性の地位が相対的に下がり、自身の男性性が侵されたように感じ、緊張感が生まれることがある。それを何とかしようとした結果、DVにつながってしまう。

 男性と女性があらゆる面で平等になったとしても、暴力やDVの問題は残念ながら残るだろう。

 それを解決するために一番大切なのはやはり教育。男性が上、女性が下といった考え方から脱し、平等の観点から新しい価値観を学んでいくしかない。
  ×  ×
 1982年生まれ。研究テーマは女性に対する暴力など。

 ▽ストで意識に変化、課題も残る
 
 バルゲルドル・パルマドッティル・アイスランド大研究員

 1975年の事実上のストライキ「女性の休日」が現在のジェンダー平等世界一に直接つながったかどうかは分からないが、この時一滴たらした水が広がり、社会の意識は変わっていった。翌76年にできた「ジェンダー平等法」は長い準備期間の結果成立した法律だが、ストライキがその時期を早めたかもしれない。
 
 「女性の休日」は大きく報道されたこともあり、世界にも波及した。ポーランドでは中絶を禁止する法律に反対するために2016年に女性のストを実施。スペインやスイスなどでも女性によるストが行われた。女性がどれだけの力を持っているかを実際に示すことは重要で、これにより物事が動いている。

 ただ、政治分野を中心にジェンダー平等が進んだ一方で、隠れている部分は少なくない。例えば育休は整備されてきたが、育休後に保育園に入るための待機期間が発生している。
 保育士が足りないのが主な原因で、低賃金で人が定着しないことが背景にある。親が近くにいる人やベビーシッターを雇える人は仕事を続けられるが、そうでない人もいて階層による差がある。

 また、男性が家事をしたとしても、例えば季節にあわせて子どもの服を用意したり、家族の誕生日に気を配ったりといった名前が付かないような細かい仕事は女性が担うことが多い。夫と同じように働いていても、子どもの世話は自分の役割だと考える女性が多いことが調査からも分かっている。社会的にも女性が世話をするべきだという考え方は今も残っている。
  ×   ×
 1984年生まれ。専門は女性運動などの歴史研究。

 ▽女性が生きやすい社会
 起業家のマルグレットさん

 「アイスランドは女性が生きやすい社会だと思う」。音楽やソフトウエア関連の起業家、マルグレットさん(50)はこう話す。「女性にとってこれ以上いい環境はない。本当の平等まではいっていないが、近づいている分野もある」
 
 「私自身は雇い主という立場もあり、雇用者に比べ、普段はそれほど男女不平等を感じる場面はない」とマルグレットさん。シングルマザーだった時は、子育て支援制度に加え、両親やきょうだいの助けも大きかったという。 

 ただ、「もし私が男だったら、しなくてもいい苦労も多かった」とも。資金調達の際には起業家への投資額で男女では大きな違いがあり、女性はお金を集めにくいのが不満だ。

 「家の中での細かい仕事も女性が担うことが多い。それはその都度パートナーと確認して解消していくことが大事」と話した。

 ▽言葉解説(1)「アイスランドの男女格差」

 世界経済フォーラムが2023年に発表した「男女格差(ジェンダー・ギャップ)報告」によると、アイスランドは男性1に対し、女性は0・912で14年連続世界1位となった。女性の数値が1に近いほど男女平等の状態を意味する。

 報告は政治、経済、教育、健康の4分野について、平等の達成度を指数化。政治、教育、健康は0・9台、経済は0・8に近く、いずれも高い水準を保っている。

 過去50年間に首相や大統領などが女性だった期間は約半分で国会議員も男女ほぼ半数。日本は146カ国中125位と低迷している。

 ▽言葉解説(2)「女性の政治参加と制度」

 アイスランドでは1976年に「ジェンダー平等法」が制定され、1980年には世界で初めて直接選挙で女性のフィンボガドッティル大統領が誕生。その後16年務めた。
 
 リーマン・ショックで国が財政危機にあった2009年には女性のシグルザルドッティル首相が就任。閣僚の半数を女性にしたほか、2010年に企業の取締役会役員へのクオータ制を導入した。
 
 2017年に女性のヤコブスドッティル現首相が就き、2018年には民間企業に罰則を伴う同一労働同一賃金の証明を義務付けた。

 ▽言葉解説(3)「女性の休日」

 アイスランドでは女性が家事や労働などをボイコットする形で、1975年10月24日に初めて行われた。事実上のストライキで、賃金格差などの男女不平等を訴えるのが狙いだった。女性の9割が参加したとされる。アイスランドの男女平等への道を後押しした。その後も1985年、2005年、2010年、2016年、2018年に実施。2023年10月には7回目が行われ、首都レイキャビクの集会には7万~10万人が集まった。

いい茶0

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