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【安倍派と報道】政倫審対立、放送法と相似 嫌う公開、メディア不信

 自民党派閥の裏金事件を受けた衆院の政治倫理審査会開催は、与野党が当初、報道公開の是非で対立した。自民が安倍派幹部らの意向を盾に完全非公開を要求したためだ。メディアに不信感を抱き、制約のない報道を嫌う姿勢―。1年前明らかになった、安倍政権下の放送法解釈を巡る経緯と相似した意識がにじむ。

安倍政権当時の放送法の「政治的公平」に関する総務省文書=2023年3月
安倍政権当時の放送法の「政治的公平」に関する総務省文書=2023年3月
安倍政権とメディアを巡る動き
安倍政権とメディアを巡る動き
安倍政権当時の放送法の「政治的公平」に関する総務省文書=2023年3月
安倍政権とメディアを巡る動き

 ▽さらし者
 政倫審は2月28、29両日開催で自民と立憲民主党が一度は大筋合意した。ここから迷走が始まる。自民が求めたのは政倫審委員のみが出席する非公開の開催。野党は猛反発した。自民は、国会議員傍聴のみ容認、記者取材も許可―と段階的に折れたが、テレビ中継は拒み続けた。最後は岸田文雄首相自らが公開出席を申し出て、安倍派幹部らが観念した形となった。
 1日ずれた開催。その後も参院と衆院で開かれ、首相を除けば裏金議員9人が審査に臨んだ。だが野党の要求は自民現職では82人。かけ離れた人数にとどまっている。
 政倫審の立民議員は「自民は、これ以上さらし者を出したくないと逃げ回っている」と憤る。
 ▽「中立・公正」
 放送法のケースは裏金事件のような後ろめたさがなく、政権の強気がうかがえた。昨年3月の国会で立民議員が取り上げた総務省行政文書には、2014~15年に安倍政権が対報道で圧力をかけた経緯が記されている。
 最初に登場する日付は14年11月。当時の礒崎陽輔首相補佐官が総務省に法解釈の検討を要請した。安倍晋三首相が衆院解散を表明した時期だ。
 11月半ば。「おかしいじゃないですか」。安倍氏はTBS「NEWS23」に出演すると、アベノミクスを巡る街角インタビューの編集が偏っていると食ってかかった。2日後、自民は在京テレビ各局に「公平中立、公正な報道姿勢にご留意いただきたい」と異例の通知を送っている。
 総務省文書はこうした背景の下、安倍氏の同意を得た礒崎氏が首相秘書官らを巻き込み、放送法の法解釈を上書きさせた過程を示す。15年5月、当時の高市早苗総務相が「一つの番組でも、極端な場合、政治的公平を確保しているとは認められない」と答弁。放送局の番組全体を通して「政治的公平」を図るという従来解釈を事実上変更し、個々の番組に目を光らせる立場を鮮明にした。
 ▽エスカレート
 メディア不信は当時、干渉としてエスカレートした。自民は15年4月、やらせが指摘されたNHK「クローズアップ現代」と、コメンテーターが首相官邸を批判したテレビ朝日「報道ステーション」を問題視し、両社幹部から事情聴取した。
 16年2月。高市総務相は、政治的公平を欠く放送を繰り返せば放送局に電波停止を命じる可能性に言及する。NEWS23の岸井成格氏、クローズアップ現代の国谷裕子氏、報道ステーションの古舘伊知郎氏という番組の「顔」が翌月降板した。
 政権の動向との関連は不明だ。古舘氏は「最近は報道番組で、開けっぴろげに発言できなくなる空気を感じる」と出演を締めくくった。

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