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【日本人の月面着陸】米、探査車開発の貢献重視 中国対抗へ同盟国優遇も

 日米両政府が国際月探査「アルテミス計画」で、2人の日本人飛行士を月面着陸させることで合意した。1人目の実現は2028年以降の見込み。探査車開発や技術提供で貢献する日本に、米国が月への切符で応えた。宇宙開発で猛追する中国への対抗姿勢を強める中、欧州よりもアジアの同盟国を優先させる地政学的な配慮ものぞいた。

月面探査車「ルナクルーザー」のイメージ(JAXA・トヨタ自動車提供)
月面探査車「ルナクルーザー」のイメージ(JAXA・トヨタ自動車提供)
「アルテミス計画」の流れ(画像はNASA提供)
「アルテミス計画」の流れ(画像はNASA提供)
月面探査車「ルナクルーザー」のイメージ(JAXA・トヨタ自動車提供)
「アルテミス計画」の流れ(画像はNASA提供)

 ▽違い
 アルテミス計画は、1969~72年に12人の米国人を月面着陸させたアポロ計画以来、50年以上ぶりに人類を月面に送るのが狙いだ。2026年9月に米国の飛行士を着陸させ、月周回基地や月面の滞在拠点、発電設備などを建設して長期滞在を可能にする。30年代を通じて経験を蓄積し、40年ごろには有人火星探査を成功させる考えだ。
 米国が冷戦期に旧ソ連と先陣を争ったアポロ計画と異なり、多様性と国際協力、民間企業の参加も重視する。女性や非白人も月に送ると表明している。宇宙利用の原則を示す政治宣言「アルテミス合意」を20年に打ち出して仲間を集め、署名国は36カ国に拡大した。
 日本人の月面着陸は当初、トヨタ自動車などが開発する探査車「ルナクルーザー」を投入する30年代と考えられていた。だが車内で宇宙服を脱いで寝泊まりでき、行動範囲が飛躍的に広がる点を米国が重視した。米側の期待は想像以上だったため、日本側は着陸時期の前倒しを交渉。昨年12月には、日本人を念頭に「20年代には外国の飛行士も月面に降り立たせたい」とするハリス副大統領の重要発言に結実した。
 ▽不安
 米中の競争関係も追い風となった。中国は2000年代から無人探査機を月に送り込み、世界初となる月裏側の探査にも成功。30年ごろの有人着陸を目指しており、アルテミス陣営と張り合う構えだ。ロシアやパキスタンなどを巻き込んで月の南極に研究基地を造る構想を進めており、探査予定地も競合しそうだ。
 米国では月面着陸の目標が当初の24年から徐々に遅れ、中国との差は縮んでいる。コストも12~25年に米国分だけで推計930億ドル(約14兆円)と荷が重い。米航空宇宙局(NASA)のネルソン局長は中国に対し「一番乗りは望まない」「透明性を欠く」と、けん制を繰り返す。一方、元局長のグリフィン氏は今年1月の議会で、米国の26年着陸は「全く現実的でない」と私見を述べるなど、先は見通せない。
 米国が日本人の着陸時期を早めたのは「中国の目の前にある同盟国という地位も絡んだ」と交渉関係者は指摘する。「20年代に中国に先んじて日米が一緒に月面に立てれば、軍事的挑発は避けながら象徴的な絵がつくれる。1枚めくれば、そこには安全保障上の戦略が隠れている」(ワシントン共同=井口雄一郎)

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