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【植物工場】人工野菜、効率化し軌道に 「もうからない」から脱皮

 温度や湿度を人工的に制御して野菜を安定生産する「植物工場」の収益が改善し、ビジネスとしての軌道に乗り始めた。光熱費がかさんで「もうからない産業」から脱皮し、生産の効率化で割高だった野菜価格を抑え、追い風に。農業の後継者難や気候変動に対応した食料調達として存在感が高まる。

スプレッドが販売する植物工場産のレタス「ベジタス」
スプレッドが販売する植物工場産のレタス「ベジタス」
森久エンジニアリングがビジネス支援を始めた小型の植物工場=2月、兵庫県赤穂市(一般社団法人With You提供)
森久エンジニアリングがビジネス支援を始めた小型の植物工場=2月、兵庫県赤穂市(一般社団法人With You提供)
植物工場を運営するスプレッドの稲田信二社長=2月、京都市
植物工場を運営するスプレッドの稲田信二社長=2月、京都市
スプレッドが運営する植物工場「テクノファームけいはんな」=2月、京都府木津川市
スプレッドが運営する植物工場「テクノファームけいはんな」=2月、京都府木津川市
植物工場産レタス類の国内市場規模
植物工場産レタス類の国内市場規模
スプレッドが販売する植物工場産のレタス「ベジタス」
森久エンジニアリングがビジネス支援を始めた小型の植物工場=2月、兵庫県赤穂市(一般社団法人With You提供)
植物工場を運営するスプレッドの稲田信二社長=2月、京都市
スプレッドが運営する植物工場「テクノファームけいはんな」=2月、京都府木津川市
植物工場産レタス類の国内市場規模

 ▽役割補完
 発光ダイオード(LED)が照らすレタスの水耕栽培棚の横を、収穫用の機械が流れるように動いていた。京都府木津川市にある植物工場「テクノファームけいはんな」は2018年に稼働し、種まきや苗の移し替えなど全工程の7割を自動化している。運営会社スプレッド(京都市)の稲田信二社長は「天候不順で露地野菜が高騰しても、通年で安定供給できるのが強み」と語る。
 同社は07年に大規模な植物工場を先駆けて設立し、08年にレタス「ベジタス」を売り出した。初めは生育にばらつきも出たが、光の波長や温湿度で試行錯誤を重ね、約6年かけて黒字化。最近は中部電力と共同で大規模工場を立ち上げた。
 販売価格は当初80グラムで税抜き258円前後だったのが、現在は178円に。取り扱いはイオンなど全国約5千店舗に広がった。稲田社長は「農業の担い手が減り、食料安全保障は重要だ。露地栽培はライバルではなく、役割を補完している」と強調する。次の目標は工場産イチゴの販売だ。
 ▽コストに苦戦
 1985年つくば万博の「回転式レタス生産工場」展示を皮切りに、国内で植物工場の第1次ブームが起きた。09年には政府が全国の植物工場数を拡大する目標を打ち出し、補助金で後押し。大手の電機メーカーや石油会社、小売業など異業種の参入が相次いだ。
 課題はコストだ。設備費や電気代がかさんで採算が取れず、多くの企業が苦戦。東芝は14年に参入したが、16年に撤退した。企業の淘汰が進み、日本施設園芸協会の調査では現在、約6割の企業が黒字か収支均衡だ。
 ▽ノウハウ提供
 成功した企業は新規参入を誘発している。30年以上、植物工場に携わる森久エンジニアリング(神戸市)は、昨年12月から小型工場の販売とビジネス支援を始めた。倉庫や休耕地で導入できるよう、6メートル以下の低層構造が特徴だ。初期投資は3千万円からに抑え、レタスやホウレンソウなど葉物野菜の栽培が可能だ。
 障害者の技術習得も後押ししており、森一生社長は「もうからない産業と言われてきたが、販路と商圏を意識すれば、小型でもビジネスとして成り立つ」とノウハウ提供に自信を見せる。
 日本総合研究所の三輪泰史氏は「水循環や栽培管理の技術は国際競争力が高く、工場のフランチャイズ展開が可能になった」と指摘。矢野経済研究所は工場産レタスの市場規模が26年度に21年度比約2倍の450億円に達すると予測する。

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