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「現在地」VOCA賞の大東忍さん 人の営みの痕跡を絵に残したい

 木炭で描いた人けのない夜の住宅地。柔らかな街灯の光を覆うように広がる漆黒の闇はどこかぬくもりを帯びている。絵画や写真など平面美術の分野で有望な若手美術家に贈られるVOCA賞に選ばれた大東忍さんは「風景の中にある人の営みの痕跡を絵に残したい。私にとっては祈りのようなものです」と話す。

受賞作「風景の拍子」の前に立つ大東忍さん。「私が選び取ったというより、関わってしまった場所を描いているのだと思います」
受賞作「風景の拍子」の前に立つ大東忍さん。「私が選び取ったというより、関わってしまった場所を描いているのだと思います」

 受賞作「風景の拍子」で描いたのは自宅近くの景色。丹念に描かれたモノクロの画面に目を凝らすと、一人の人物が踊っているのが見える。大東さんだ。各地で夜の街路を歩き、踊り、その光景を描いてきた。踊るのは「風景に寄り添うために耳を澄ますように体を澄ます」ためだという。「長い時間踊っていると感覚が鋭くなって、自分の体の中身が入れ替わるように感じるんです」
 絵に描くことを通じて、匿名的な風景に残る記憶の跡に向き合い、それを「引き受ける」。家がある、木があるといった「名詞的に」風景を捉えるのではなく、その奥に潜む「気配や感覚をつかまえたい」。夜を描くのも、木炭を使うのもそのためなのだという。
 今のスタイルに取り組む契機は、自分らしい表現を模索していた大学生時代に、偶然通りかかった小学校で行われていた盆踊りに衝動的に参加したこと。踊りの輪という「共同体」の中にいながら、一人でもいられるのが心地よかったという。「風景の一部になれたような気がした」
 大学院修了後、千葉での会社勤めを経て、秋田を拠点に。秋田公立美術大で助手をしながら、制作を続ける。「美術はゆっくり読むメディア。最初は意味が分からなくても、読み解き、考えていくうちに、気付いたら核心に触れていたという経験ができるのは美術ならではだと思います」

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