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【スーパーチューズデー】進化する米国第一主義 トランプ氏に身構える世界

 米大統領選の共和党候補選びの天王山「スーパーチューズデー」で、トランプ前大統領が圧勝した。11月の本選では民主党のバイデン大統領との再対決が見込まれる。仮に勝利すれば、進化した米国第一主義を振りかざすとみられ、世界は早くも身構える。
 「『トランプ復権』の可能性を見据えた人事」。昨年来、政府高官に面会した複数の関係者は、年末に着任した山田重夫駐米大使について、そんな説明を受けたと異口同音に明かす。
 トランプ氏が勝利した2016年の大統領選で、外交当局は民主党のクリントン元国務長官優位と読み誤った。今回はバイデン政権との公式ルートを保ちつつ「トランプ・シフト」も怠らない。
 動き出しているのは日本だけではない。ロシアのウクライナ侵攻と向き合う欧州の北大西洋条約機構(NATO)諸国も使者を派遣し、トランプ氏に近い元高官や議員と面会を重ねている。
 風向きが変わったのは昨年秋。「トランプVSバイデン」を前提に、トランプ氏が勝つ確率を「40対60」とみていた米政治学者イアン・ブレマー氏も、今年に入って「60対40」に修正した。
 背景には中東情勢の急変がある。バイデン氏はイスラム組織ハマスの奇襲を受けたイスラエルを支持し、報復を容認。多くの民間人が犠牲となり、米国のアラブ系市民や若者の離反を招いた。
 欧米の要人が一堂に会し、2月半ばにドイツで開かれた「ミュンヘン安全保障会議」でも「第2次トランプ政権(トランプ2・0)」の可能性が議論され、会議を貫く影のテーマとなった。
 欧州の懸念は米国のウクライナ支援の行方。米欧軍事同盟であるNATOからの「米脱退」に言及したトランプ氏の過去の発言が暴露された直後だけに、くぎを刺す意見が相次いだ。
 急先鋒はロシアの隣国エストニアのカラス首相。「米国不在」の欧州でナチスが台頭した歴史に触れ「米国が孤立主義に傾けば、代償は(介入するより)高くつく」と警鐘を鳴らした。
 物々しい警備に守られ、首都キーウ(キエフ)から足を運んだウクライナのゼレンスキー大統領も「トランプ氏が来てくれたら前線に連れて行く用意がある。インスタグラムとは違う本物の戦争を見てもらう」と訴えた。
 「トランプ2・0」は東アジアにも影を落とす。韓国国家情報院傘下にある国家安保戦略研究院の韓碩熙院長は、ミュンヘン安保会議の10日ほど後に東京で開かれた日本国際問題研究所主催の会議で不安を口にした。
 「トランプ氏が北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記と再会談し、核開発凍結と引き換えに経済支援を与え、同時に核保有も認める取引を憂慮している。(核放棄の要求を取り下げることを意味し)まさに悪夢だ」
 トランプ氏は次期(第47代)大統領就任をにらんだ新指針「アジェンダ47」を公表。不法移民の生活保護打ち切りなどの“公約”が並ぶ。前政権当局者は「多くの提案が非常に具体的だ。(過去の経験を生かし)念入りに準備しており、16年当時とは随分違う」と取材に語った。(共同通信編集委員 川北省吾)

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