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【現在地】初の小説集を刊行した俳優・作家の長井短さん 移ろうもの、ヒリヒリ描く

 俳優・作家として活躍する長井短さんが、中短編計3作を収めた初の小説集「私は元気がありません」(朝日新聞出版)を刊行した。どの作品も“青春”の香りをまといつつキラキラよりギラギラ、もしくはヒリヒリという形容詞が似合う。「人は変わるし、時は止まってくれない。移ろうことに対して、少しでも『まあいいか』という気持ちになってもらえたら」

「普段は台本を読む仕事をしているので、小説のせりふもしゃべりながら書いています」と語る長井短さん
「普段は台本を読む仕事をしているので、小説のせりふもしゃべりながら書いています」と語る長井短さん

 表題作は、高校時代からの友人と会うたびに同じ昔話をしてしまう32歳の女性が主人公。台本のように同じ会話を繰り返すことで「最高の過去」にとどまれると信じ、変化にあらがおうとする心理を切実に描く。
 「自分も『変わりたくない』という気持ちが強かった」と長井さん。「若い頃ならではの『敵なし』みたいなエネルギーが失われてしまうのが嫌で。だから、成長とか向上心とかいうものを異様に憎んでいる時期がありましたね」と笑う。
 「万引きの国」は、バイト先のコンビニで、店長を殴った万引犯に恋をしてしまう女子高生の物語だ。自分はどうやって人を好きになっていたかな、と考えた時に「パンチを見て恋に落ちる」シーンが浮かんだと言う。
 倫理観を吹き飛ばすような主人公の破滅的な言動には軽い衝撃を受けるが、「間違っていることに引かれてしまう時って、誰にでも絶対にある」という長井さんの言葉には素直にうなずける。
 「間違っちゃだめ、という圧が強すぎると感じていて。失敗したからこそ感じられることがあるのに、それを人に奪われたくない」。ある種の真理を、唯一無二の言葉で表現できるのが強みだ。
 今興味があるテーマは「愚かさ」だとか。「人がどう自分の愚かさと折り合いを付けるか。掘り下げていきたいですね」

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