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【世界の街から】崩れたバランス

 経済危機が長引くアルゼンチンは今年1月、インフレ率が前年同月比で250%を超え、世界で最もインフレが進む国とも言われる。人々の生活がどうなっているのかを取材するため、首都ブエノスアイレスを訪れた。

アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで、タンゴショーを披露する飲食店。非公式レートでの両替も行い、外国からの観光客で混雑していた=2月1日(共同)
アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで、タンゴショーを披露する飲食店。非公式レートでの両替も行い、外国からの観光客で混雑していた=2月1日(共同)
約4万4千円分を両替して受け取ったアルゼンチン通貨ペソ。高額紙幣がないため、分厚い札束になった=1月31日、ブエノスアイレス(共同)
約4万4千円分を両替して受け取ったアルゼンチン通貨ペソ。高額紙幣がないため、分厚い札束になった=1月31日、ブエノスアイレス(共同)
アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで、タンゴショーを披露する飲食店。非公式レートでの両替も行い、外国からの観光客で混雑していた=2月1日(共同)
約4万4千円分を両替して受け取ったアルゼンチン通貨ペソ。高額紙幣がないため、分厚い札束になった=1月31日、ブエノスアイレス(共同)

 通貨ペソは対米ドルで下落の一途をたどっている。安定したドルの需要が高まっており、ペソの両替には公式と非公式レートが存在。給与を受け取ると外貨に替えたり、物を買ったりして、変動が大きなペソを持たないようにする人も多い。
 1月末時点の非公式レートを基準にすると、中心部の喫茶店でサンドイッチと炭酸飲料を頼んで約900円。書店で文庫本サイズの本を買うと約3千円で、日本と同じか、やや高いと感じた。
 しかし、それは国外から来た人の感覚だ。アルゼンチンの平均月給は3万5千円ほどとされ、現地の生活者から見れば非常に高い水準になる。
 一方、地下鉄の運賃は15円、タクシーの初乗り運賃は70円程度と安く、その価格のギャップに驚いた。タクシー運転手の50代男性は「運賃は2カ月おきに20~30%上がってはいるが、運賃も給与もインフレのスピードに全く追い付いていない」と嘆いていた。
 急激なインフレの進行で、価格のバランスが崩れている。地元の経済アナリストは「この高インフレで人々が失ったのは、価値の基準だ。品物に対して自分が払う金額が果たして高いのか、安いのか。誰も分からなくなった」と指摘した。
 価格変動対策のため値札がないワインや日用品が並ぶ商店。物の値段を一つずつ客から聞かれ、ため息交じりに電卓をたたく店員の姿を眺めながら、物の価値とは、通貨とは何だろうと考えさせられた。(ブエノスアイレス共同=高木勝悟)

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