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【同性婚訴訟】「違憲」続出、遠い法整備 実現性、今後の判断鍵に

 同性婚を巡る訴訟で14日、初めての高裁判断となった札幌高裁判決が、ほぼ全面的な違憲判断を示し、2019年から各地で6件起こされた地裁判決より一層踏み込んだ。近年は、性的少数者らの権利保護を重視する司法判断が目立つ一方、国会による法整備は一向に進んでいない。同性婚を望む当事者の希望が実現するかどうかは今後の判断の推移が鍵を握る。

同性婚を巡る訴訟で初の高裁判断となった札幌高裁判決を受け、高裁前でメッセージを掲げる原告ら=14日午後
同性婚を巡る訴訟で初の高裁判断となった札幌高裁判決を受け、高裁前でメッセージを掲げる原告ら=14日午後
性的少数者を巡る最近の主な裁判と内容
性的少数者を巡る最近の主な裁判と内容
同性婚を巡る訴訟で初の高裁判断となった札幌高裁判決を受け、高裁前でメッセージを掲げる原告ら=14日午後
性的少数者を巡る最近の主な裁判と内容

 ▽不利益
 「私は私のまま、この国で胸を張って生きていいんだ」。涙を浮かべながら高裁判決を聴いた原告の中谷衣里さん(32)は、判決後の記者会見で喜びをかみしめた。
 高裁判決は、同性愛者が受ける社会生活上の不利益の程度は著しいと認定。現行の婚姻制度を利用できずに多くの苦難に直面する同性カップルらに、徹底的に寄り添う姿勢を鮮明にした。
 「両性」や「夫婦」という文言から、国側があくまで男女間の規定と主張した憲法24条1項についても、合憲としてきた地裁段階から踏み込み「同性婚をも保障する」と明言した。
 ▽メッセージ
 地裁段階の判決も札幌、福岡など4地裁の5件が「選んだ相手と法的に家族になる手段を与えていない」などと規定の違憲性に言及した。背景にあるのは多様な家族観を認める意識や、性的少数者らへの権利制約は許されないという認識の広まりだ。昨年5月の共同通信社の世論調査では、同性婚を「認める方がよい」との回答が71%で、「認めない方がよい」の26%を大きく上回る。
 行政レベルでも既に国内の400近い自治体で、同性カップルを公的に認定するパートナーシップ制度の導入が進む。
 性的少数者を巡って注目を集めたのは、最近相次いだ最高裁の判断だ。女性として暮らす性同一性障害の経済産業省職員が省内で女性用トイレの使用を不当に制限されたとして、国に処遇改善を求めた訴訟の昨年7月の判決は、使用制限を認めないと判断。職員の日常的な不利益を指摘した。
 昨年10月には最高裁大法廷が、性同一性障害の人が戸籍上の性別を変更する場合、生殖能力をなくす手術を事実上求める性同一性障害特例法の規定に関し「意思に反して身体への侵襲を受けない自由」への制約は重大だとして、規定を違憲、無効とする決定を出した。
 同性婚訴訟で違憲との判断を唯一示さなかった大阪地裁判決も、同性間の婚姻などの制度導入に関する立法の不作為を「将来的に違憲となる可能性がある」と指摘して国会にくぎを刺しており、原告側弁護団の三浦徹也弁護士は「早急な対応を求めるメッセージなのは明らかだ」と語る。
 ▽無色透明
 だが国会での法整備の動きは、なお鈍い。「全国で多くの同性カップルが日常生活を送っている。制度を改正しないと社会の変化に対応できない」。今年1月の衆院本会議の代表質問で訴えた立憲民主党の泉健太代表に対し、岸田文雄首相は「国民各層の意見、国会の議論の状況、訴訟の状況なども注視していく」と述べるにとどまった。
 国は憲法が同性婚を想定していないとの立場で、現時点では具体的な方向性を検討しておらず「全く無色透明の状態」(法務省幹部)という。
 早稲田大の棚村政行教授(家族法)は札幌高裁判決を「全面的な違憲判断で画期的。社会的意義は極めて大きい」と評価。「国会と政府が重く受け止め、早急に同性婚や性的少数者の法的地位を巡る法制化に向け、前向きな議論を進めなければならない」と強調した。

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