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【米アカデミー賞】日本技術の粋集め栄冠 国際化でチャンス広がる

 宮崎駿監督の「最後の長編」を支えたい―。そんな思いから第一線のクリエーターが集結した「君たちはどう生きるか」が、米アカデミー賞長編アニメーション賞に輝いた。一方、特撮に憧れて映画の道へ進んだ山崎貴監督の「ゴジラ-1.0」も視覚効果賞を受賞。日本の技術の粋を集めた作品が評価された背景には、国際色が強まるアカデミー賞の変化も。国境を超えチャンスが広がる。

東京のアトリエで2013年に取材に応じた宮崎駿監督(左上)とオスカー像(右上)、アカデミー賞を受賞した「ゴジラ-1.0」の山崎貴監督ら(下)のコラージュ(写真はAPなど)
東京のアトリエで2013年に取材に応じた宮崎駿監督(左上)とオスカー像(右上)、アカデミー賞を受賞した「ゴジラ-1.0」の山崎貴監督ら(下)のコラージュ(写真はAPなど)

 ▽懇願
 「僕には、もう時間がないんです」。公式資料集によると、宮崎監督は2016年秋、「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」の総作画監督として知られるアニメーターの本田雄さんに新作への参加を懇願した。本田さんは「シン・エヴァンゲリオン劇場版」への参加が決まっていたが取りやめ、「君たちは―」の作画監督に専念すると決めた。
 プロデューサーの鈴木敏夫さんは「徹底的に時間とお金をかけて作るべきだと考えた」。本田さんは、意中のアニメーターが別作品にメインスタッフとして関わっていて通常は依頼を諦めるような場合でも、仕事を引き受けてもらうため待つことができたと振り返る。
 原画には、スタジオジブリ出身の米林宏昌さん(「思い出のマーニー」など監督)、安藤雅司さん(「君の名は。」作画監督)ら著名アニメーターがずらり。「作画協力」には、細田守監督の作品で知られる「スタジオ地図」など12社が名を連ねる。「AKIRA」にも携わった原画の井上俊之さんは「これが長編最後の作品と思わなかったら、僕も関わらなかったかもしれない」。
 ▽低予算
 「ゴジラ―」の山崎監督は、視覚効果(VFX)の技術者から監督になった異色の経歴を持つ。映像制作会社「白組」でキャリアをスタートさせ、伊丹十三監督作品で映像合成などを担当。2000年に「ジュブナイル」で監督デビューした。
 東宝によると、米アカデミー賞視覚効果賞を監督本人が受賞したのは、1969年にスタンリー・キューブリック監督が「2001年宇宙の旅」で受賞して以来2人目。
 山崎監督は製作費について、正確な数字を明かさないものの「日本では多い方。でもハリウッド大作の10分の1とか」。“コストパフォーマンス”の高さの秘密は、円谷英二監督らの時代から脈々と受け継がれる特撮の手法と、最新のデジタル技術の組み合わせだ。
 米映画誌「ハリウッド・リポーター」は昨年12月の「ゴジラ―」の米公開直後、低予算でゴジラが暴れ回るシーンを「見事」と持ち上げ、ハリウッドのスタジオは「すぐに日本に行って学ぶべきだ」とユーモアを交えて称賛していた。
 ▽希望
 米ロサンゼルス在住の映画ジャーナリスト、猿渡由紀さんは「君たちは―」への授賞には、偉大な芸術家として尊敬される宮崎監督が引退を撤回し、集大成的な作品を生み出してくれたことへの感謝が込められていると指摘。「ゴジラ―」には「小規模にもかかわらず、多くの人々を感動させる作品に斬新さを感じたのだと思う」と語る。
 両作の受賞の背景には、人種やジェンダーなど多様性への意識の高まりを受け、アカデミー会員の国際化が進んでいることがあるとみる。「昔より視野が広がり、日本の作り手も得意分野で活躍したらチャンスがある。今回の結果は、そういう希望を与えた」(ロサンゼルス、東京共同)

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