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【北朝鮮、首脳会談巡り対日発信】岸田政権に大幅譲歩迫る 高いプライド、日本に不満 慶応大教授 礒崎敦仁

 北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記の妹、金与正党副部長が、対日メッセージを相次いで発信している。日朝首脳会談実現への意欲を公言する岸田文雄首相に対して大幅譲歩を迫り、無理であれば外交交渉を拒否するとの強硬姿勢が示された。首相は難しいかじ取りと、迅速な判断が求められている。

礒崎敦仁・慶応大教授
礒崎敦仁・慶応大教授

 金与正氏は金正恩氏の事実上の代弁役として、米韓に対する非難談話を数々発表してきたが、日本は長らくスルーされてきた。しかし、2月15日に初めて日本向けの談話を出し、「(岸田)首相が平壌を訪問する日もあり得る」と述べるとともに、「今後、岸田首相の本心を見極めなくてはならない」として真意を探った。
 拉致問題は解決済み、との北朝鮮の主張に変化はなく、あくまでも譲歩をするのは日本側だとのスタンスであるが、そのまま受け入れることはできない。
 3月25日には日本に「政治的決断」を迫る談話が発表された。そこでは「主権的権利」という言葉が3回も繰り返された。日本が防衛力を強化するなか、北朝鮮が兵器開発を進めることも当然の権利であり、それに口出しするのは内政干渉だ、という立場を示すものである。
 昨年、軍事偵察衛星打ち上げに伴って用いられるようになった用語であり、岸田氏が対話を求めながらも、衛星打ち上げを非難したことに対する不満表明であるが、これも日本にとっては応じづらい要求である。
 3月26日にも談話が出され、「日本とのいかなる接触、交渉も無視し拒否する。朝日首脳会談は、わが方にとって関心事ではない」と結んだ。首脳会談の可能性を閉ざす宣言なのか、岸田政権に大きな譲歩を迫る駆け引きの一環なのか、現段階では判断しづらい。だが、日本に不満を募らせているのは確かだ。
 1月には金正恩氏が能登半島地震への見舞い電報を送り、2月には金与正氏が融和的な談話を出したにもかかわらず、日本側には何ら変化が見られないと判断している。昨春ごろから日朝接触があったとされるが、1年近くたっても何ら具体的変化を見せない岸田氏に対していら立ちを感じているのだろう。
 金正恩政権には、特定の問題にこだわりを持ちながらも、短時間のうちに関心が移っていくという特徴が明確に見られる。日本側が早期に踏み込んだ政策転換を図らない以上、談話末尾に示された通り、20年ぶりの首脳会談の可能性は閉ざされてしまうことになりかねない。
 今年初めの時点では、北朝鮮に、日米韓の離間策や、将来再開されるかもしれない米朝交渉をスムーズに進めるための環境づくりとして、日朝関係を最低限改善しておくといった意図があったように思われる。だが、それが達成できないと考えるや日本を見切っても仕方ないと考える、相変わらずの極端さとプライドの高さが垣間見られる。
 岸田氏が安倍政権に象徴される過去の対北朝鮮政策から距離を置くとともに、拉致問題の進展を金正恩氏に迫れるかどうか、正念場である。
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 いそざき・あつひと 1975年東京都生まれ。慶応大大学院修了。在中国日本大使館専門調査員、米ジョージワシントン大客員研究員などを歴任。専門は北朝鮮政治。近著に「最新版北朝鮮入門」。

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