テーマ : 読み応えあり

【国際女性デー】異議申し立て続けよう 百年前、先駆者苦闘に学ぶ

 3月8日は国際女性デー。1909年に米国で女性らがデモをしたのをきっかけに、国際的に統一行動する日として広がった。国連でも提唱され、77年に総会で議決があった。約100年前のこの日、日本で先駆的に行動を起こした女性の姿を追うと、不当な扱いに対する「異議申し立て」を臆せずに続けることの大切さが伝わってくる。

近藤真柄
近藤真柄

 23年3月8日、東京・神田で記念講演会があり、当時の新聞報道によると約500人が参加。評論家で、戦後に初代の労働省(当時)婦人少年局長を務めた山川菊栄らが講演する予定だった。
 しかし、国家主義的な団体に属する男性参加者らが強烈なやじを浴びせて妨害。混乱の中、開始から30分ほどで警察官が演壇に上がり「解散」と叫んで閉会させられた。女性には選挙権もなかった時代。主張を鮮明にし、行動に移す女性たちへの逆風は強烈だった。
 講演会の中心になったのは山川や、反戦運動などに取り組んだ堺利彦の娘である堺真柄(03~83、後に近藤姓)らだ。
 法政大の大原社会問題研究所(東京)に真柄の手書き原稿など関係文書が収蔵されている。その中に「日本で最初に行われた国際婦人デーは大正十二年(一九二三年)の三月八日です」と青色のペンで記した原稿用紙がある。先駆者としての思い入れが感じられる。
 生涯にわたりさまざまな活動をして警察による拘束や獄中生活も経験した真柄。後に人生を顧みてこう記した。「日本の社会運動史の中では、粟粒ほどのものであるのは当然である。粟粒は粟粒でいいのである。その一粒が他の芽をふく役にたったかなと思いたい」
 か細い湧き水が幾筋も集まり、流れ下ってやがて奔流になる。女性が性被害に抗議の声を上げ、国境を越えて展開した「#MeToo(ミートゥー)」運動も、名もない人たちの発信が出発点だったのだろう。
 分厚い壁があっても、諦めずに声を上げ続けよう―。1世紀前の女性たちの行動はわれわれにそんなメッセージを送っているように思える。
 昨年6月に発表されたスイスのシンクタンク・世界経済フォーラム(WEF)の男女格差(ジェンダーギャップ)報告で、日本は調査対象の146カ国中125位。
 閣僚、国会議員、企業の女性管理職の女性比率が低いことや男女間の収入格差などが響いた。この現状を国民、そして政界や経済界は深刻に受け止めなければならない。
 今月2日、女性の政治参画をテーマに開かれた日弁連主催の会合では、小さい子がいる女性が選挙に出ることの困難さや、有権者が投票や支援をちらつかせ街頭でしつこく手を握るなどの「票ハラスメント(票ハラ)」を巡り率直に語られた。
 道はなお遠い。だが異議申し立てを一つ一つ積み重ねること、社会がそれを真摯に受け止め、現状を変えていくことでしか前進はない。(共同通信編集委員・福島聡)

いい茶0

読み応えありの記事一覧

他の追っかけを読む
地域再生大賞