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【春闘集中回答日】物価超す賃上げ実現へ前進 中小の動向が最大の鍵

 2024年春闘は13日、大手企業の集中回答日を迎え、労働組合の賃金引き上げ要求に対する満額回答が相次ぎ、過去最高水準の賃上げの動きが広がった。焦点である物価高を上回る賃金アップの実現に向け前進したと言える。デフレから完全に脱し、適度なインフレを伴った健全な経済に移行するためにも、労使は政府とともに早期実現へ一層努力してほしい。
 基本給を底上げするベースアップ(ベア)に相当する賃金改善について、日本製鉄は組合要求を上回る額を回答。定期昇給分を含めると賃上げ率は14・2%にも達する。トヨタ自動車や日産自動車、日立製作所も満額でそろい、23年の回答を上回る結果となった。
 高額回答を受け、大手企業の賃上げ率は約30年ぶりの高水準となった昨年の3・6%(厚生労働省集計)を超す公算が大きい。自動車や機械といった輸出関連企業の収益が円安で伸びたことなどが要因だ。主要上場企業の純利益は今年3月期に最高に達するとされ、賃上げ余力は増している。
 半面、景気の柱である消費は昨年10~12月期に前期比で3期連続減少した。景気の失速を防ぐには賃上げ加速で消費を刺激しなければならない。
 実際に受け取った給与から物価上昇分を除いた実質賃金は、23年に前年比で2・5%減った。減少は2年連続で、賃上げがインフレに追い付いていない実情を示す。
 実質賃金が24年度中にプラスに浮上するには大手企業で4%程度の賃金上昇が必要とされるが、今春闘で達成可能との見方もでてきた。これが、インフレに打ち勝つ賃上げ実現の機運を醸成している。
 実質賃金のプラス転換とその定着を図る上で最大の鍵を握るのは、雇用の7割を占める中小企業の賃上げ動向である。
 総じて中小企業は大手に比べ体力に乏しく、中小に多い下請け業者は特に物価高のしわ寄せを受けやすい。賃金アップに向け、まずは増えたコストを適正に販売価格へ転嫁することが肝要だ。
 ところが、日産が下請け業者への支払代金を不当に減額していたという悪質な問題が発覚した。下請法違反に当たるとして、公正取引委員会が日産に再発防止を勧告したのは当然である。公取委には同様の事例がないか、監視を強化してもらいたい。
 賃上げを起点に景気を拡大するには、中小を含む企業全体の新陳代謝を通じた生産性と収益力の向上が課題となる。課題を解決しなければ、たとえ今春闘で物価高に負けない賃上げが実現したとしても持続性を欠く。
 人手不足が深刻化する中、脱炭素化をはじめとした成長分野への労働力集約は、賃上げ持続と人的資源の適正配分の両面で不可欠だ。労働力の移動を妨げる制度の刷新が求められる。
 昨年、政府が経済財政運営の指針「骨太方針」に、同じ会社に長く勤めるほど退職金課税が優遇される現行制度の見直しを明記したのは、評価に値しよう。早期に実行に移すべきだ。(共同通信編集委員 金沢秀聡)

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