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【セクシー田中さん】ドラマ増でひずむ制作態勢 原作と溝、生じやすい構造

 日本テレビのドラマ「セクシー田中さん」の原作者である漫画家が死去して2カ月近くたった今も、テレビ局が揺れている。原作者側と制作サイドに大きな溝が生じていた可能性があり、日テレは社内特別調査チームを設置。背景には近年のドラマ増加に伴う制作態勢のひずみなど、構造的な要因があると指摘する声も上がっている。

桜美林大の田淵俊彦教授
桜美林大の田淵俊彦教授
日本テレビ本社=東京都港区
日本テレビ本社=東京都港区
芦原妃名子さんの漫画「セクシー田中さん」
芦原妃名子さんの漫画「セクシー田中さん」
TVer番組再生数ランキング
TVer番組再生数ランキング
桜美林大の田淵俊彦教授
日本テレビ本社=東京都港区
芦原妃名子さんの漫画「セクシー田中さん」
TVer番組再生数ランキング

 「ものすごい勢いでドラマの本数が増えている」。日テレの福田博之専務は、2月の定例記者会見で現状をそう表現した。従来、ドラマはバラエティーなどより制作費が高く、視聴率低迷もあって採算性が低いとされてきた。だがここ数年で環境は一変しつつある。
 元テレビ東京のドラマプロデューサーで、桜美林大の田淵俊彦教授(映像研究)は「ネットフリックスなどの動画配信サービスに販売することで、ドラマは『ドル箱』になった」と解説する。
 2019年には国内の総広告費のうちインターネット広告の割合がテレビを逆転。減少する地上波放送の収入に加え、配信による「マネタイズ(収益化)」が定着し、民放各局ともドラマ枠を次々と増設する「多産化現象」が加速したという。
 そんな中、映像化のイメージが付きやすい漫画が原作として引っ張りだこに。民放公式配信サービス「TVer(ティーバー)」の昨年10~12月の番組再生数ランキングでは、トップ10のうち9本がドラマ。うち「セクシー田中さん」を含む3本は漫画が原作だ。
 だが漫画原作はオリジナル作品と違い、出版元の編集者や多メディア展開を担うライツ部門など映像化に関与する人たちが多い。田淵教授は「原作者側とテレビ局側との意思伝達が複雑で齟齬が生まれやすい」と話す。
 テレビ局側の調整役はドラマプロデューサーだが、制作現場に余裕があるとは言えない。福田専務も今回の問題について「(原作者側との)コミュニケーション不足や人が足りなかったのではという想像はできる。その辺りもしっかり調査されると思う」と言及した。
 トラブル防止策の一つとして、放送までの準備期間の確保が挙げられる。TBSの佐々木卓社長は「話し合いを尽くすことが最重要。時間的な余裕を持ってドラマ制作できるよう進めている」。
 “原作依存”から脱却しようとオリジナルドラマを増やす動きも。作品を海外市場に売り出す際、原作者側の意向を確認する必要がなくなる。
 漫画原作ものからオリジナルまで多くのヒット作がある脚本家の野木亜紀子さんも2月のシンポジウムで、テレビ局全体の課題として、こう指摘した。「オリジナルを作るスキルが失われつつある。プロデューサーの育成など制作方法を根本的に見直す必要がある」

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