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愚かで美しい人間描く 近松作品、今なお人気 没後300年公演続く

 劇作家・近松門左衛門の没後300年に合わせ、若手歌舞伎俳優による近松作品の公演が続いている。人形浄瑠璃文楽では海外公演も視野に、アニメ映像を背景に用いた作品を初めて制作。専門家は、愚かしくも美しい人間の姿を描き続けたことで、今なお人気の作品群が生まれたと指摘する。

インタビューに答える桐竹勘十郎さん
インタビューに答える桐竹勘十郎さん
2月に大阪松竹座で上演された「曽根崎心中」の一場面((C)大阪文化芸術事業)
2月に大阪松竹座で上演された「曽根崎心中」の一場面((C)大阪文化芸術事業)
インタビューに答える神戸女子大名誉教授の阪口弘之さん
インタビューに答える神戸女子大名誉教授の阪口弘之さん
インタビューに答える桐竹勘十郎さん
2月に大阪松竹座で上演された「曽根崎心中」の一場面((C)大阪文化芸術事業)
インタビューに答える神戸女子大名誉教授の阪口弘之さん

 「覚悟が聞きたい」。お初が語ると徳兵衛は彼女の足を首に当て、死ぬ意思を示す。2月、大阪松竹座(大阪市)での歌舞伎公演。親切心から金を詐取された徳兵衛が、お初と死を選ぶ近松の代表作「曽根崎心中」に、観客らは息をのんだ。
 2人を演じた中村壱太郎さん(33)と尾上右近さん(31)は、京都・南座で24日まで上演中の「三月花形歌舞伎」でも近松作品に挑戦。悲劇に遭う女性たちを演じる壱太郎さんは、役者の解釈が試される感覚があるとし、「僕らの世代の新たな近松になる」と話す。
 近松は庶民が主人公の「世話物」のジャンルを文楽で確立し、妻の思いを受けながらも夫が遊女との死を選ぶ「心中天網島」などを残した。主流だった歴史上の人物を描く「時代物」でも、善が悪を力で負かす慣例と異なり、敵同士でも信頼が生まれ局面が打開されるドラマを創出。平家物語が基の「平家女護島」など、作品群は今も文楽や歌舞伎で人気を集める。
 「近松が書く人物は深く理解したい気持ちになる」と語るのは、文楽の人形遣いで人間国宝の桐竹勘十郎さん(71)。それぞれの演者がより自然に思いを込められ、公演ごとに違う面白みが出る傾向が強いと説明する。
 背景映像を監修したのは、曽根崎心中のクライマックス。通常は舞台のセットを入れ替え場面を転換させるが、アニメ映像で時間の経過などを表す。スタジオジブリ作品の美術監督を務めた男鹿和雄さん(72)が映像を手がけ、人形をより幻想的に見せる。
 3月23~29日に東京・有楽町よみうりホールで初演。大道具が要らず地方や海外でも上演しやすい手法で、勘十郎さんは「近松作品は新しい形になっても世界が損なわれない。広く魅力を知ってほしい」と期待する。
 神戸女子大名誉教授の阪口弘之さん(80)は、近松の世話物は欠点のある人々に光を当てたと説明。悪とみなさず、悲劇に至る流れを丁寧に描き、哀れさを際立たせた。「人間は愚かしいが、こんなにも美しいというところまで描写し、心を打ち続ける」と評価する。
 人の内面を掘り下げ、普遍的な「真情」に迫った近松。阪口さんは、時代や社会で異なる忠義などの価値観に基づく古典と違い、近松作品は境界を超えて共感を生むと語る。「他者をはねつけず、心を通じ合わせることへの主張を感じる。人間理解への思いが非常に深く、作品は滅びない」

いい茶0

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