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【国際女性デー2024】今は「男性」のわが子思い いろんな価値観に心寄せる 茨城県唯一の女性市長

 茨城県唯一の女性首長である土浦市の安藤真理子市長(63)には、女性として生まれ、今は男性として人生を歩む子どもがいる。驚きや戸惑いを経て、性的少数者の子どもを「どんな生き方でもいい」と、ありのまま受け入れた。男性多数の政界では自身も少数者の側だ。壁にぶつかることもある。だからこそ、市政運営ではいろんな価値観に心を寄せたい。「私の子どもはどう思うかな」と自問しながら。

取材に応じる茨城県土浦市の安藤真理子市長=土浦市役所
取材に応じる茨城県土浦市の安藤真理子市長=土浦市役所
茨城県土浦市の安藤真理子市長(同市提供)
茨城県土浦市の安藤真理子市長(同市提供)
取材に応じる茨城県土浦市の安藤真理子市長=土浦市役所
茨城県土浦市の安藤真理子市長(同市提供)

 10年以上前、中学校を休みがちな子どもについて、学校側からこう提案された。「性同一性障害のカウンセラーと話してみませんか?」。当時は土浦市議、介護施設経営者として走り回っていた。まさか、生まれ持った性のことで悩んでいるとは思わなかった。「衝撃を受けた」と振り返る。
 約1年後、「性同一性障害」の診断を受けた。「本当に?」。戸惑ったが、子どものうれしそうな顔が印象に残った。自分に合う学校を見つけて楽しそうに通い始め、涙が出るほど安堵した。言葉遣いや服装を気にしたこともない。それでも、いつか女性としての気持ちが芽生えるのではないかとの思いがあった。
 「胸を取る手術をしたい」と打ち明けられたのは、2019年の市長就任からしばらくたったころだった。向かい合う子どもは緊張した面持ち。「将来後悔することはないだろうか」―。数秒の沈黙の後、「わかった」。さらりと答えた。「数秒ですごく葛藤した。この先も親子でいるために、受け止めたかった」
 めったに褒め言葉を口にしない子どもが、ある日「僕は、お母さんがお母さんで良かった」とさりげなく言った。目が熱くなった。
 子どもと向き合った日々は、行政に臨む姿勢にも影響した。「性別も性自認も関係なく、市民に対応したい」と、市の男女共同参画室を昨年、「ダイバーシティ推進室」に改編した。採用試験の性別欄の見直しも検討中だ。「昔なら気にしなかった価値観だが、今は『うちの子ならどう思うか』と考えている」
 自身の経験を基に、妊婦にタクシー券を交付したり、防災備蓄品に生理用品を加えるよう訴えたりと取り組むが、一部の男性に切実さが伝わらず、もどかしい時もある。だが「次世代を担う若者に『女性も市長になれる』と知ってもらうのが私の役目」と前を向く。
 内閣府によると、全国の知事と市区町村長の計1788人のうち、23年7月1日時点で女性は54人。自身は23年10月、再選を果たした。県内で女性の市長が2期以上務めるのは戦後初だ。「もう多様性の時代。『県内初の女性』という枕ことばが早くなくなってほしい」。その先に、多数でも少数でもない、誰もがありのままいられる社会があると思う。

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