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【工藤会】一部無罪も「支障なし」 トップ拘束の狙い崩れず

 特定危険指定暴力団工藤会が関わった一般市民襲撃4事件で福岡高裁は12日、会トップの総裁野村悟被告(77)について一つの殺人事件での共謀を認めず、一審の死刑判決が破棄されたことに「頂上作戦」を展開してきた警察当局からは驚きの声が漏れた。しかし、残る3事件の有罪は維持され無期懲役となり、最大の狙いだったトップの身柄拘束は続く。暴力団捜査への支障はないとの見方が広がった。

2014年9月、工藤会トップを逮捕し、記者会見する福岡県警の樋口真人本部長(当時)=北九州・小倉北署
2014年9月、工藤会トップを逮捕し、記者会見する福岡県警の樋口真人本部長(当時)=北九州・小倉北署
2014年9月に行われた、工藤会トップ・野村悟被告の自宅の家宅捜索=北九州市小倉北区
2014年9月に行われた、工藤会トップ・野村悟被告の自宅の家宅捜索=北九州市小倉北区
工藤会トップの野村悟被告らの控訴審判決を終え、福岡高裁を出る警察車両=12日午後
工藤会トップの野村悟被告らの控訴審判決を終え、福岡高裁を出る警察車両=12日午後
2014年9月、工藤会トップを逮捕し、記者会見する福岡県警の樋口真人本部長(当時)=北九州・小倉北署
2014年9月に行われた、工藤会トップ・野村悟被告の自宅の家宅捜索=北九州市小倉北区
工藤会トップの野村悟被告らの控訴審判決を終え、福岡高裁を出る警察車両=12日午後

 ▽再捜査
 「悔しい。判決が維持されるものと確信していた」。元福岡県警刑事部長の尾上芳信氏は12日、高裁の近くで報道陣の取材に語った。2012~14年、工藤会による市民襲撃が相次ぎ、県警が威信をかけて踏み切った頂上作戦で陣頭指揮を執った。
 14年9月11日。樋口真人県警本部長(当時)自ら記者会見に臨み「トップを逮捕した」と“勝利宣言”。容疑は、今回無罪となった1998年の元漁協組合長殺害だった。
 この事件で県警は02年、指定暴力団系組幹部らを逮捕。実行役ら2人の有罪が確定したが、全容解明には至らなかった。
 頂上作戦に向け、県警は過去の証拠を再捜査。元組合長殺害事件の裁判資料にあった証言などから、野村被告の共謀を立証する筋道を描き、一審では認められたが、高裁は「推認力に乏しい」として退けた。
 ▽組織力
 警察庁によると、14年末時点に約520人いた工藤会構成員は、22年末時点で福岡県外も含め約230人になった。警察当局が総力を挙げて壊滅を目指しても、まだこれだけの組織力を維持しているとみる捜査幹部もいる。
 今回の判決に、警察庁幹部は「親分が死刑を免れ、影響力を恐れて離脱をためらう組員も出てくるだろう」と懸念した。
 死刑判決破棄の衝撃は大きかったが、警察内部では捜査への影響は限定的との見方が強い。この幹部は「捜査手法そのものが否定されたわけではない。他の暴力団捜査に影響はないだろう」とみる。
 頂上作戦に関わった元捜査幹部は「凶悪事件を首謀した元凶を構成員から『隔離』し、影響力をなくすのが頂上作戦の眼目だ」とし、死刑と無期の間で大きな差はないと主張した。
 捜査関係者によると、工藤会は近年、特殊詐欺やクラブ経営を通じて資金獲得を活発化している。交流サイト(SNS)などでつながる「匿名・流動型犯罪グループ」も配下に置いているとみられる。
 県警幹部は「控訴審判決は通過点だ。工藤会壊滅への取り組みは終わっていない」と語る。
 元福岡高裁判事の陶山博生弁護士は「元組合長事件のみ共謀の証拠がないとしたのは疑問の余地がある」と批判。「犯罪組織の特性は多様で、供述頼りの捜査手法自体の変更を求めるような判断ではない」と述べた。

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