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「現在地」作家の嶋津輝さん 人間や生活を書いていきたい

 初の長編「襷がけの二人」(文芸春秋)が今年の直木賞候補作に選ばれた作家の嶋津輝さん。惜しくも受賞は逃したが、選考会では女性委員を中心に「新しい女性の連帯を描いている」と大きな支持を得た。自らを「ストーリーテラーではない」としながらも、「人間や生活を書いていきたい」と力を込める。

「家にいる猫のことを考えるのが最大の気分転換」と語る嶋津輝さん
「家にいる猫のことを考えるのが最大の気分転換」と語る嶋津輝さん

 同作は、大正から戦後の東京を舞台に、裕福な家に嫁いだ千代と元芸者で女中頭の初衣との絆をつづった物語。執筆に約4年をかけた作品で「いったん書き上げてから大幅に書き換えるという苦労もした」と振り返る。
 戦時下の場面では「庶民から見た戦争」を描くことを意識した。空襲で命の危機にさらされながら、「負けても日常が続くだけなのではないか」と感じる千代に自身の考えを重ね合わせた。
 「明治後期から戦後がなぜか好き」で、幸田文や有吉佐和子の作品を繰り返し読んできた。「知らず知らず血肉になっていると思う」と、「花柳界」や「女中」を扱った今作への影響を語る。
 リーマン・ショックの影響で勤めていた会社の仕事が減った2011年、41歳で小説教室に通い始めた。「頭の中でいつも文章が流れている感じがあって、何か書けるかもと思った。先生が褒めてくれるので、新人賞に応募するようになった」
 16年にはオール読物新人賞を受賞し、19年に短編集を刊行してデビュー。現在は法律事務所で経理を担当しながら、始業前の時間に執筆に励む。
 書くことを始めてから賞の結果に一喜一憂するなど「青春感が半端ない」と笑顔を見せる。実は本作の刊行後、直木賞候補入りする正夢を見た。次は受賞が現実となるか。「しっかり腰を据えてやっていきたい」と執筆への意気込みを語った。

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