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「紅こうじ」原因究明長期化も 工場閉鎖、プベルル酸の謎【小林製薬の健康被害問題】

 小林製薬(大阪市)の「紅こうじ」サプリメントによる健康被害の原因究明は長期化が予想される。同社は想定しない「未知の成分」混入が原因と推測する。だが問題のサプリ原料を製造した大阪工場(同市)は閉鎖しており、生産工程の実態をつかむのは困難だ。原因物質の候補に挙がる青カビ由来の天然化合物「プベルル酸」も研究例が少なく、謎が多い。

小林製薬の大阪工場=3月、大阪市
小林製薬の大阪工場=3月、大阪市
小林製薬大阪工場の紅こうじ製造工程を巡る主な論点
小林製薬大阪工場の紅こうじ製造工程を巡る主な論点
プベルル酸の特徴
プベルル酸の特徴
小林製薬の大阪工場=3月、大阪市
小林製薬大阪工場の紅こうじ製造工程を巡る主な論点
プベルル酸の特徴

閉鎖
 小林製薬は2016年に下着大手のグンゼから関連事業の譲渡を受け、大阪工場(23年12月に閉鎖)で生産を始めた。こうじ菌を扱うのは初めてで、衛生管理が調査の焦点となる。
 大阪工場は操業開始から80年超で老朽化が懸念されていた。消臭剤「無香空間」など日用品も製造しており、同業者は「高度な衛生管理が必要な菌類を扱う製造拠点として問題はなかったか」と指摘する。
 ただ生産設備は和歌山県の工場に移転しており、当時の現場を検証するのは難しい。プベルル酸は23年4~10月に大阪工場で製造したサプリ用の紅こうじ原料から検出された。仮にプベルル酸を生成する青カビが原因だとしても、どの段階で生成、混入したかは不透明だ。
 紅こうじは長時間発酵と水やりが必要とされる。小林製薬は、サプリ用は最長56日間発酵させていた。あるこうじメーカー経営者は「発酵が長期化すると、青カビなど異物の混入や発生のリスクは大きくなる」と指摘。微生物の専門家によると、青カビの中には赤い色素を出すものや色がないものもあり、見た目で識別するのが難しい場合があるという。
 製造機械や建屋は十分に殺菌されていたか。カビの胞子は空気中に含まれているが、工場内の空気清浄は適切だったか。原料の米に青カビが付着していた可能性も含めて、検証ポイントは多い。
毒性
 プベルル酸を扱った国内外の論文は少ない。専門家の間でもあまり知られていない物質だ。抗生物質の働きがあるとされ、北里大の研究チームは、蚊が媒介する感染症マラリアの治療薬を探す中、候補物質の一つとして論文で報告。一方で、マウスに投与すると死んだとの記載があり、人の細胞に対しても毒性がある。
 北里大のチームは、人体に対する毒性の評価や体内でどのように分解されるかといった実験はしておらず、「安全性に関する知見は持ち合わせていない」との立場を取る。サプリによる健康被害の訴えが多い腎臓に影響が及ぶかどうかは現時点で不明だ。
 厚生労働省の担当者は「プベルル酸が原因か特定するためには相当の時間を要する」と説明。動物実験など長期の調査が必要で、1~3年かかると予想する研究者もいる。プベルル酸以外の物質が原因の可能性もあり、慎重な検証が欠かせない。

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