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【ALS嘱託殺人】「安楽死」容認論に危機感 患者ら生きやすい社会訴え

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の嘱託殺人事件で京都地裁は5日、大久保愉一被告(45)に懲役18年を言い渡した。事件を巡っては、難病の人や障害者の「安楽死」を容認する声が交流サイト(SNS)などの一部で見られた。危機感を抱く患者や識者は、生きやすい社会をどうつくるか考えるべきだと訴える。

介助を受けながら1人暮らしをするALS患者の伊佐和朋さん=2月、京都市
介助を受けながら1人暮らしをするALS患者の伊佐和朋さん=2月、京都市
ALS患者嘱託殺人事件で京都地裁の判決後、記者会見する増田英明さん(中央)ら=5日午後、京都市
ALS患者嘱託殺人事件で京都地裁の判決後、記者会見する増田英明さん(中央)ら=5日午後、京都市
ALS患者嘱託殺人事件で京都地裁の判決後、記者会見する増田英明さん(左から3人目)ら=5日午後、京都市
ALS患者嘱託殺人事件で京都地裁の判決後、記者会見する増田英明さん(左から3人目)ら=5日午後、京都市
横浜地裁が1995年に示した安楽死の4要件
横浜地裁が1995年に示した安楽死の4要件
介助を受けながら1人暮らしをするALS患者の伊佐和朋さん=2月、京都市
ALS患者嘱託殺人事件で京都地裁の判決後、記者会見する増田英明さん(中央)ら=5日午後、京都市
ALS患者嘱託殺人事件で京都地裁の判決後、記者会見する増田英明さん(左から3人目)ら=5日午後、京都市
横浜地裁が1995年に示した安楽死の4要件

 ▽一線を
 「被告に罪があることに目を向けている。しっかり裁いたと感じた」
 5日の判決を受け、メールで感想を寄せたALS患者伊佐和朋さん(45)は評価した。
 約1年半前、故郷の沖縄を離れ京都市に移住。殺害された林優里さん=当時(51)=と同じく介助を24時間受けながら1人暮らしをする。公判の行方が知りたくて、支援を受けながら傍聴を重ねた。「誰もが生きづらさを抱えていることを皆が考えてほしい」と話す。
 日本障害者協議会は2020年の談話で、事件と安楽死の議論は一線を画すべきだと強調。「生きたいという思いに立ちふさがる今日の社会」こそを問うべきだと指摘した。
 傍聴を続け、判決後に記者会見した同市のALS患者増田英明さん(80)は訴える。「誰もが『生きたい』と言わなくても自然に生きられる社会に目を向けてほしい」
 ▽報酬
 SNSで「安楽死」を肯定する持論を展開していたとされる被告は、公判でも「林さんの願いをかなえるために行った」と主張。しかし、5日の判決は130万円の報酬の受け取りを待って実行したことなどを挙げて「真に被害者のためを思って犯行に及んだとは考え難い」と非難した。
 過去に安楽死が問題となった「東海大安楽死事件」。末期がん患者に薬物を注射して死なせた医師に対する1995年の横浜地裁判決は、医師による安楽死が許容される4要件を(1)耐え難い肉体的苦痛がある(2)死期が迫っている(3)苦痛緩和の方法を尽くし、他に手段がない(4)本人の明確な意思表示がある―とした。
 ▽問題視
 こうした事例を踏まえ、安藤泰至鳥取大准教授(生命倫理、死生学)は被告の行為について「医師と患者の関係ではなく、安楽死とかけ離れている」と言い切る。患者の命を絶つ行為を「安らかな死」と肯定的に考えること自体が間違いだと指摘する。
 「死にたい人を生かしておくのは残酷」と決めつける「死なせる側の論理」を問題視。「『死にたい』とは死にたいほどつらいという気持ち」と説明し、その気持ちを受け止められる社会の在り方を皆で議論する必要があると訴えた。

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