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【婦人相談員】女性の「とりで」熱意頼み 必要な支援、届かぬ恐れも

 貧困や性被害、ドメスティックバイオレンス(DV)など、困難に直面した女性たちの「とりで」として働く婦人相談員は、多くが非常勤として雇用されている。熱意を持って取り組む一方、低賃金のため「官製ワーキングプア」と言われることも。4月には「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律(女性支援新法)」が施行され、役割はさらに大きくなる。待遇改善を早急に講じなければ、助けが必要な女性に支援が届かない恐れもある。

事故で大破した車=2020年8月、広島県内(ナンバープレートを画像加工しています、藍野美佳さん提供)
事故で大破した車=2020年8月、広島県内(ナンバープレートを画像加工しています、藍野美佳さん提供)
非正規公務員の相談に乗る藍野美佳さん=22日、東京都内(本人提供)
非正規公務員の相談に乗る藍野美佳さん=22日、東京都内(本人提供)
事故で大破した車=2020年8月、広島県内(ナンバープレートを画像加工しています、藍野美佳さん提供)
非正規公務員の相談に乗る藍野美佳さん=22日、東京都内(本人提供)

 ▽理不尽
 「誰かの命を守るエッセンシャルワーカーだと思っていたけど、安く使い倒されたのかな」。広島県内で婦人相談員をしていた藍野美佳さん(55)は振り返る。
 夫の暴力で離婚し、民間団体の支援を受けて生き抜いた経験から、同じような思いをした女性たちを「見捨てられない」と婦人相談員を続けてきたが、非常勤で月収は14万円。3人の子を育てるには到底足りず、飲食店や清掃など四つの仕事を掛け持ちした。
 4年前、疲れた体で運転し、交通事故を起こして入院。車は大破した。思い出すと「死んでたかも」と恐ろしくなる。当時は新型コロナウイルス禍で、DVや性被害などの相談が急増していた。書類の手続きに加え、休日に弁護士事務所に同行することもあった。
 行政に何度も待遇改善を掛け合ったが変わらない。同じ職場で常勤だった男性職員が定年後、年収500万円で再雇用されたと知り、理不尽だと感じて退職を決意した。
 ▽担い手
 婦人保護事業の根拠法の売春防止法は婦人相談員を非常勤と規定したが、2017年に削除された。ただ23年4月時点でも全国の婦人相談員の約8割が非常勤だ。東京大大学院の小川真理子特任准教授ら研究会の調査では、回答した586人のうち、非常勤職員の約3割に更新契約回数の制限があり、実質、雇い止めと言える実態も浮かぶ。
 女性支援新法では、婦人相談員(新法で女性相談支援員に改称)の市町村配置を努力義務とした。国は基本方針で、支援員は困窮や障害など多岐にわたる困難の「支援への入り口の役割を果たす」とし、24年度予算で人件費補助を盛り込む。
 東京都内の60代の婦人相談員は、新法施行後に負担が増えると「辞める人が増えるのでは」と心配する。近年、外国籍でDVを受けた母親や、中絶を繰り返す未受診の妊婦など、対応する相談は複雑化している。20代の相談員は数カ月で退職し、次に入った人も2カ月で去った。他の業務に追われ、相談に応じられなかった妊婦もいた。新生児が遺棄され死亡したニュースを見るたび、妊婦のことが頭をよぎる。
 市民の暮らしに近い市町村すべてに支援員が必要だと思うが、このまま評価もされず待遇も改善されなければ、担い手がいなくなり、支援が必要な女性が取りこぼされてしまわないか。60代婦人相談員は「失われる命があるかもしれない」と警鐘を鳴らした。

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