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【原発事故から13年】気候変動対策になり得ず 大きいコストとリスク 原子力資料情報室事務局長 松久保肇

 政府は昨年、気候変動対策とエネルギー安全保障の名の下、原発利用の推進は「国の責務」とした。昨年の国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)では、日米英など25カ国が2050年までに原発の設備容量を20年の3倍にするという共同宣言を発表した。東京電力福島第1原発事故から13年、原発は新たなブームに至ったかのようだ。

松久保肇・原子力資料情報室事務局長
松久保肇・原子力資料情報室事務局長

 だが現実は全く違う。国際調査によれば、世界の発電電力量に占める原発シェアは1996年の17・5%をピークに、2022年には9・2%まで低下した。これが増加に転じることは期待できない。原発は高くて建設に時間がかかるからだ。
 例えば英国の最新の原発建設コストは1キロワット当たり180万円超、建設期間は14年程度だ。一方、同じ英国の洋上風力発電の建設費は同30万円程度、建設期間は約2年、太陽光発電が同9万円で1年と見積もられている。
 ところでCOP28では30年までに世界の再生可能エネルギーの設備容量を3倍、エネルギー効率改善率を2倍にするという宣言も発表され、約120カ国が賛同した。
 注目したいのは原発3倍宣言との時間軸の違いだ。産業革命以降の地球の気温上昇を1・5度以下に抑えるには、二酸化炭素排出量を19年比で30年に48%、50年には99%削減する必要がある。原発は費用対効果も時間対効果も悪すぎて気候変動対策になり得ない。
 日本には特有の問題もある。日本は四つのプレート(岩盤)が重なる場所にあり、地震活動が極めて活発だ。元日にも能登半島地震が発生し、多くの方が犠牲になった。
 能登半島地震では多くの道路が通行不可能となり、港も場所によっては数メートルも隆起して使えなくなった。そのような状況で原発事故が発生したらどうなっていたか。放射性物質の放出が迫る中、避難もできず、住民が大量被ばくする可能性は十分にある。
 能登半島には、今回の地震で影響を受けた北陸電力志賀原発のほかに、反対運動により白紙撤回された珠洲原発計画があった。予定地は今回の地震の震央から数キロの距離にあり、近くでは数メートルの隆起が確認されている。
 この場所について1977年に資源エネルギー庁は「地盤が相当固く、原発立地には別段の支障がない」との判断を示していた。仮にこの原発が稼働していたらどうなっていたか。反対運動は日本を救ったと言っても過言ではない。
 原発再稼働で電気料金が安くなるという主張がある。確かに再稼働した関西電力や九州電力の料金は比較的安い。だが、同じく再稼働した四国電力は他電力と同程度だ。見込まれている再稼働の値下げ効果は1世帯当たりひと月100~200円程度に過ぎない。
 筆者も参加する政府の委員会では、原子力事業者のリスク軽減のため、建設費や維持費を国民転嫁する方策が必要だとの議論が行われている。これまでも原発に関する多くのリスクやコストが国民負担とされてきたが、ついに原発は安いという旗も維持できなくなったのだ。
 国のエネルギー政策の方向を示すエネルギー基本計画の議論が近く始まる。そこでは、過大評価されてきた原発の実力を白紙で検討するべきだ。
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 まつくぼ・はじめ 1979年兵庫県生まれ。2016年法政大大学院修士課程修了。17年から現職。22年から経済産業省総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会委員。

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