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【日産が下請けに違法減額】要求絶えず「これは無理」 政府、中小賃上げへ監視

 日産自動車の悪質な「下請けいじめ」が発覚した。業者への支払代金を一方的に減額したという。「これは無理だ」と苦しむ水準まで絶え間なく値下げを要求されたとの声もある。政府は、中小企業が賃上げを実現できるよう、取引先の大企業が適切に値上げを受け入れているかどうか監視を強めている。日本経済のデフレからの完全脱却につなげる構えだ。

公正取引委員会の主な下請け企業対策
公正取引委員会の主な下請け企業対策

 ▽泣き寝入り
 ある部品メーカーの関係者は取材に、受注後も毎年のように値引きを求められたと話した。生産を効率化できなければ、自社で負担して「泣き寝入り」するしかなかったという。「日産と部品メーカーの取引にメスが入り、不公正が是正されるのであれば歓迎だ」
 別の日産の取引先幹部は「具体的には言えない」としながらも、下請けいじめに当たりかねない不当な減額要求を受けたことがあると証言した。
 「日産が激しい国際競争を生き残っていくには、そうした要求も妥当なのかと思っていた時期もある」と振り返る。「一企業として鍛えられた側面もある」とも語った。
 ただ次第に「中小企業を苦しめる違法行為を許すべきではない」との思いを抱くようになった。自身も多くの下請けを抱え「日産の行いを教訓にしたい。気を引き締めて下請けへの対応に当たりたい」と話した。
 最近は電気自動車(EV)の台頭などを背景に変わってきたが、自動車産業は長く大手を頂点とするピラミッド形の構造に例えられてきた。部品メーカーは安定した取引が期待できる半面、大手より弱い立場に置かれることが多い。
 ▽混乱
 日本経済は今、物価高を上回る賃上げが中小企業に広がり、持続的な成長軌道に乗るかどうかの正念場にある。「そのためにできることは何でもやる」(経済産業省幹部)とのムードが政府に強い。下請けいじめ対策も、その一環だ。
 2022年12月には独禁法が禁じる「優越的地位の乱用」に該当する可能性があるとして、佐川急便やデンソーなど13の企業・団体名を公表した。労務費を取引価格に転嫁できるようにするための指針を23年11月に公表。「経営トップが関与すること」「発注者から協議の場を設けること」といった項目を盛り込んだ。公正取引委員会が受け付けている下請法などの相談件数は、18年度の約9千件から22年度は約1万6千件に増えた。
 一方、日産は経営トップを長く務めたカルロス・ゴーン被告の逮捕・起訴など近年混乱が続き、さらなる信用の低下は避けられない。
 1990年代後半の経営危機で出資を仰いだフランス大手ルノーと資本関係を対等にする作業は昨年11月に完了したが、目指すEV市場での復権は遠い。
 ▽他社も調査を
 公取委で勤務した経験がある東京経済大の中里浩教授は「国際的に価格競争が激化する中、企業としてコストダウンを図るのは当然だが、越えてはいけない一線を越えてしまった」と日産を批判する。大企業による下請けいじめは中小で働く労働者の賃金に大きく影響するため、国内経済へのダメージも甚大だと強調した。
 中里氏は、日産は数十年前に始まったとされる減額強要の原因や背景を調査した上で、結果や再発防止策を公表するなど自浄作用を発揮すべきだと指摘。自動車産業は、もともと下請法違反が生じやすい業種とされるため、他の自動車大手も調査すべきだと話した。

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