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「現在地」作家の村木嵐さん 人物像をひっくり返す面白さ

 国民的作家と呼ばれた司馬遼太郎さんの家で「お手伝いさん」として働いた経験を持つ作家の村木嵐さん。歴史小説の面白さは「悪く言われているような人物のイメージをひっくり返せるところ」と語る。昨年刊行の「まいまいつぶろ」(幻冬舎)は自身初の直木賞候補作となり、受賞は逃したものの「感動的な小説」と高い評価を得た。

執筆の息抜きは「メッシのスーパーゴール集の動画を見ること」と話す村木嵐さん
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 同作は、体に障害のあった徳川家の9代将軍家重と、側近として支えた大岡忠光の唯一無二の関係を描き出した。家重は言葉をほとんど話せず、暗愚な人物として伝えられることが多かったとされる。
 「(8代の)名将吉宗が、そのような人物を跡継ぎに据えるだろうか?」。疑問を持ちながら史料をひもとくと、一揆を平定したり、若き田沼意次を見いだしたり、「実は賢い人だったのでは」と考えるように。史実を尊重しつつ、余白の部分は想像力を羽ばたかせた。
 物語の舞台となった江戸中期は、農業から商業へと経済の中心が変わっていった転換期。「文化が花開いた頃で、田沼や大岡越前のような人物がきら星の如く登場した」時代の空気も取り込んだ。
 子どもの頃から物語に夢中になり、中でも司馬作品は「今でも一番好き」。結末を引っ張らずに、すぱっと終わる潔さに引かれるのだという。
 大学卒業後、会社勤務を経て、長く司馬家で働いた。当時、司馬さんにかけられた「(君は)才能があるから」という言葉は、自身の核になっている。「書けへん時には、先生の言葉を思い出しています。今でも1週間に1回くらい」と笑う。
 デビュー以来書き続ける歴史小説の魅力を改めて尋ねると、「昔の人と対話しながら書くのが楽しい。現代の人より、友達になりやすいんです」。

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