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【アステラス社員拘束1年】不透明な司法、しぼむ投資 スパイ対策、交流も萎縮

 中国当局がスパイ容疑でアステラス製薬の日本人男性社員を拘束してから今月で1年。中国政府は男性を起訴するかどうかの審査を始めたと日本政府に通知したが、拘束理由は依然として明らかにせず、司法の不透明さが際立つ。日本企業の対中投資意欲はしぼみ、過度なスパイ対策で対外交流が萎縮する懸念は中国国内からも出ている。

北京の日本大使館前を警戒する治安当局者=21日(共同)
北京の日本大使館前を警戒する治安当局者=21日(共同)
北京の日本大使館前を警戒する治安当局者=21日(共同)
北京の日本大使館前を警戒する治安当局者=21日(共同)
北京の日本大使館前を警戒する治安当局者=21日(共同)
北京の日本大使館前を警戒する治安当局者=21日(共同)

 ▽特殊な例
 「片っ端から日本人を捕まえるという誤った言論は慎むべきだ」。中国外交筋は、男性の拘束を受けて中国への渡航を控えるべきだとする日本国内の世論の高まりに、危機感をあらわにする。「違法なスパイ行為があった男性の事件は特殊な例だ」と強調した。
 男性はアステラスの現地法人幹部を務め、中国滞在歴が計20年超のベテラン駐在員。中国の国有企業や政府関係者に幅広い人脈を持っていた。
 知人によると、男性は拘束前、新型コロナウイルスの起源やワクチンに関心を持ち、中国側に対しても積極的に発言していたとされる。日本政府内では、コロナ起源を巡り米国との対立を深めていた中国を刺激したとの見方も浮上する。
 ▽困惑
 「改正反スパイ法の実施細則が示されず、困惑を招いている」。北京大国際関係学院の賈慶国教授は今月、中国への外国人留学生が急減している一因として、昨年7月に施行された改正反スパイ法を挙げ、同法の実施細則を明示するよう提案する文書を公表した。
 賈氏によると、10年前のピーク時は約1万5千人だった米国からの留学生が昨年は約350人に激減。西側に留学する中国人は大幅減少しておらず、米中対立といった地政学的要因では中国への留学生急減を説明できないと持論を展開した。
 安全当局への批判とも受け止められかねない賈氏の主張は異例。上海の日本専門研究者は「行き過ぎた当局を、いさめてくれた」と評価した。
 ▽焦り
 スパイ対策強化で、外国企業の投資も大きく落ち込んだ。中国国家外貨管理局によると2023年の外資企業による中国への直接投資は、前年比82%減だった。北京駐在の日本企業関係者は「中国への社員派遣を控える動きが日本企業に広がっている」と指摘する。
 中国国家安全省は、改正反スパイ法が外資企業の経営環境を悪化させているという批判は「誤解だ」などとする反論を、交流サイト(SNS)に繰り返し投稿。「焦りの表れだろう」。日本政府関係者は中国側の心理を見透かしたかのように語った。(北京、東京共同=福田公則、鮎川佳苗)

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