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裸男270人争奪戦に挑戦 蘇民祭、千年の歴史に幕

 殺到する下帯姿の男270人の汗が熱気で湯気となり、酒のにおいが立ちこめる。目指すは御利益がある「蘇民袋」だ。2月17日、岩手県奥州市・黒石寺で開催された蘇民祭。これまで存続の危機に直面するたび、地元関係者が立ち上がったが、今回千年を超える歴史に幕を下ろした。最後の祭りに記者が挑んだ。

最後の開催となった蘇民祭で、かけ声を上げて境内を練り歩く男衆=2月、岩手県奥州市の黒石寺
最後の開催となった蘇民祭で、かけ声を上げて境内を練り歩く男衆=2月、岩手県奥州市の黒石寺
湯気が立ちこめる中、「蘇民袋」を奪い合う男衆=2月、岩手県奥州市の黒石寺
湯気が立ちこめる中、「蘇民袋」を奪い合う男衆=2月、岩手県奥州市の黒石寺
最後の開催となった蘇民祭で、「蘇民袋」を奪い合う男衆=2月、岩手県奥州市の黒石寺
最後の開催となった蘇民祭で、「蘇民袋」を奪い合う男衆=2月、岩手県奥州市の黒石寺
最後の開催となった蘇民祭で、「蘇民袋」を奪い合う男衆=2月、岩手県奥州市の黒石寺
最後の開催となった蘇民祭で、「蘇民袋」を奪い合う男衆=2月、岩手県奥州市の黒石寺
最後の開催となった蘇民祭で、かけ声を上げて境内を練り歩く男衆=2月、岩手県奥州市の黒石寺
湯気が立ちこめる中、「蘇民袋」を奪い合う男衆=2月、岩手県奥州市の黒石寺
最後の開催となった蘇民祭で、「蘇民袋」を奪い合う男衆=2月、岩手県奥州市の黒石寺
最後の開催となった蘇民祭で、「蘇民袋」を奪い合う男衆=2月、岩手県奥州市の黒石寺

 「ジャッソー」「ジョヤサ」。雄たけびに近いかけ声が寒空に響いた。午後6時過ぎ、邪気を正すという意味のかけ声とともに祭りが始まった。氷点下近くまで冷え込む中、境内を流れる川の水を3回全身に浴び身を清めた。水温は3度。足元の感覚は全くなくなり、震えが止まらない。寒さを忘れようとかけ声を連呼した。
 午後10時過ぎ、クライマックスとなる麻袋「蘇民袋」の争奪戦が始まった。終了する時間に袋を握っていた「取主」は、最も御利益を受けるとされる。主戦場となる幅約20メートルの本堂は、興奮した男たちでごった返していた。ひげや肘が当たり、汗ばんだ体で圧迫され息をするのもやっとだ。参加条件として肉や魚など動物由来の食材を1週間食べていないせいか、体に力が入らない。
 群衆をかき分け、やっとの思いで袋近くにたどり着く。汗まみれの右手でつかんだ袋は握力の限界を迎え、するりと遠ざかった。
 無病息災や疫病退散を祈願する蘇民祭は、資金難や参加者を殴った暴力団員が逮捕され、一時は存続の危機に立たされた。2008年には、胸毛にひげ面の男性を扱った告知ポスターが不快感を与えるとして、JR東日本が掲示を拒否。「下品だ」とやゆされ、誹謗中傷も数多く受けた。
 保存協力会青年部の初代部長菊地一志さん=故人=が、警察や市役所、寺に通い詰め、祭りの必要性を訴え続けた。思いを受け継いだ多くのメンバーが祭りを支えた。
 蘇民袋に入れる護符や必要な木の切り出しなどの準備は決まった10軒の檀家しかできないという厳格なしきたりがある。高齢化や少子化で継続は困難になっていた。
 昨年秋、黒石寺の住職藤波大吾さん(41)は檀家らを集め、こう伝えた。「やめるのも選択肢の一つです」。苦渋の決断だったが、みな静かにうなずいた。
 祭りが終わった翌日、初代部長の仏壇前に青年部員たちが集まった。「今年で終わらせて申し訳ありません」。遺影に向かって1人がぽつりとつぶやくと、みなすすり泣いた。
 「しきたりを変えても存続できる在り方を模索したい」。青年部の現部長の菊地敏明さん(49)はまだ諦めていない。「来年はどうすっぺや」

いい茶0

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